説明

湿式吹付け施工用ノズル

【課題】
モルタルなどの湿式吹付け材の吹付け圧力を高く維持しながら、吹付け対象物への吹付けを遮る物が存在する場合でも吹付け材の充填性を高くすることが可能な湿式吹付け施工用ノズルを提供すること。
【解決手段】
中心部に圧送される湿式吹付け材に対して加圧空気を供給する複数のエアー孔3が外周に形成された円筒状の基部1と、該基部から吐出口まで延びるノズル先端部とを有する湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該ノズル先端部の吐出口には、吐出口から排出される湿式吹付け材が円周方向に広がるのを防止するため、湿式吹付け材の内側に負圧を発生する負圧発生手段4を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式吹付け施工用ノズルに関し、特に、加圧空気を用いて湿式吹付け材を吹付けるための湿式吹付け施工用ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の補修・補強工事等において、モルタルなどの湿式吹付け材を補修部等に吹付ける作業が行われている。これらの作業には、図1に示す形状のノズルが一般に使用されている。このノズルは、円筒状の基部1へ練り上げられたモルタルをポンプ(不図示)により基部中心部へ圧送し、圧縮空気などの加圧した空気を利用して湿式吹付け材をノズル先端から吐出させ、コンクリート構造物等へ吹付けるものである。
【0003】
圧縮空気は、圧縮空気導入管2により基部1の外周部に導かれ、さらに外周部に形成されたエアー孔3を介して基部1の内部に導入される。エアー孔3から噴出した圧縮空気は、基部内部にモルタルをノズル先端方向に押し出し、ノズル先端部の吐出口よりモルタルを吐出させる。
【0004】
このような吹付け施工用ノズルは、モルタル材料と硬化剤とを一緒に使用することが多く、吹付け材料と硬化液との混合性、高い施工圧力を得るために、ノズル先端部を図1のようにテーパ形状とするもの(特許文献1参照)や、基部の外周部に形成されるエアー孔の設置数や開口面積を工夫することにより、混合性を向上させたノズル(特許文献2参照)などが提案されている。
【特許文献1】特許第3737626号公報
【特許文献2】特開2001−208482号公報
【0005】
このように、従来のノズルでは、高い施工圧力、高い密度のモルタル、均一性の高いモルタルを得るために、ノズル内での圧力変動を抑えたり、ノズル内部でのモルタルの良好な混合や分散性が求められていた。
【0006】
他方、コンクリート構造物等の補修・補強工事などにおいては、劣化した箇所を補修する際に、鉄筋が完全に露出するまでコンクリートをはつり取ることが多い。そして、このような補修箇所にモルタル材料を吹付けると、露出した鉄筋にモルタルが付着し、鉄筋の裏面へのモルタルが不足することとなり、補修箇所、特に鉄筋裏面へのモルタルの充填性に問題を生ずることとなる。
【0007】
これを解消するため、従来では吹付け時に、圧縮空気のエアー量を低減させ、ノズルを吹付け対象物に近づけて施工を行っていた。しかしながら、この施工方法では、鉄筋裏面へのモルタルの吹付け施工圧力が低くなり、結果として十分なモルタルの付着強度が得られなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、上述の問題を解消するため、モルタルなどの湿式吹付け材の吹付け圧力を高く維持しながら、吹付け対象物への吹付けを遮る物が存在する場合でも吹付け材の充填性を高くすることが可能な湿式吹付け施工用ノズルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、中心部に圧送される湿式吹付け材に対して加圧空気を供給する複数のエアー孔が外周に形成された円筒状の基部と、該基部から吐出口まで延びるノズル先端部とを有する湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該ノズル先端部の吐出口には、吐出口から排出される湿式吹付け材が円周方向に広がるのを防止するため、湿式吹付け材の内側に負圧を発生する負圧発生手段を有していることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該負圧発生手段は、吐出口の中心を含む部分に配置された金物であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該金物は、ノズル先端部の内部方向に延びる延伸部分を有することを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該エアー孔から該吐出口までの長さが40〜200mmであることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該エアー孔内の中心軸と該円筒状の基部の中心軸とが形成する角度は20〜30°であることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該湿式吹付け材は、モルタルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明により、中心部に圧送される湿式吹付け材に対して加圧空気を供給する複数のエアー孔が外周に形成された円筒状の基部と、該基部から吐出口まで延びるノズル先端部とを有する湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該ノズル先端部の吐出口には、湿式吹付け材の内側に負圧を発生する負圧発生手段を有しているため、吐出口から排出される湿式吹付け材が円周方向に広がるのを抑制し、ノズルから吐出する吹付け材の直進性を高めることが可能となる。このため、鉄筋などの吹付け対象物への吹付けを遮るものがある場合でも、鉄筋の裏面の広い範囲に渡り吹付け材が付着しないという不具合を解消でき、湿式吹付け材の吹付け圧力も高く維持することができる。
【0016】
請求項2に係る発明により、負圧発生手段は、吐出口の中心を含む部分に配置された金物であるため、負圧発生手段の機械的強度を高く設定でき、モルタルなどの湿式吹付け材を高圧で噴射させた際にも、負圧発生手段の機械的変形が無い。また、ノズル先端部を構成する材料が金属である場合には、溶接や機械的係合等により容易に負圧発生手段を取り付けることが可能となる。
【0017】
請求項3に係る発明により、金物は、ノズル先端部の内部方向に延びる延伸部分を有するため、吹付け材の流れを妨げず、吐出口から吹付け材が吐出した際には、吹付け材の内側に負圧を効果的に発生させることが可能となる。
【0018】
請求項4に係る発明により、エアー孔から吐出口までの長さが40〜200mmであるため、吹付け材の流れを妨げず、かつ吐出する吹付け材の直進性を高めることが可能となり、吹付け圧力や吹付け材の充填性をより高くすることが可能となる。
【0019】
請求項5に係る発明により、エアー孔内の中心軸と円筒状の基部の中心軸とが形成する角度は20〜30°であるため、吹付け材を基部の中心軸方向に沿った方向に押し出すことが可能となり、吐出口から吐出した際にも吹付け材が円周方向に広がることを抑制することができる。
【0020】
請求項6に係る発明により、湿式吹付け材は、モルタルであるため、コンクリート構造物の補修作業時のモルタルの吹付けに、本発明の湿式吹付け施工用ノズルを好適に使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の湿式吹付け施工用ノズルについて、以下に詳細に説明する。
図2は、本発明の湿式吹付け施工用ノズルの断面概略図であり、同図中の左側の図は、ノズルの吐出口の正面図である。
本発明の湿式吹付け施工用ノズルは、中心部に圧送されるモルタルなどの湿式吹付け材に対して、加圧空気として圧縮空気を供給する複数のエアー孔3が外周に形成された円筒状の基部1と、該基部1から吐出口まで延びるノズル先端部とを有する湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該ノズル先端部の吐出口には、湿式吹付け材の内側に負圧を発生する負圧発生手段4を有していることを特徴とする。
【0022】
本発明者らは鋭意研究を行なった結果、コンクリート構造物の補修箇所などにおいて、吹付け対象物の前面に鉄筋等の遮蔽物がある場合に、モルタルなどの吹付け材の充填性が低下する原因は、ノズルから噴出されるモルタルが、噴出方向に垂直な方向(ノズルから排出される吹付け材の円周方向)に広がることが大きな原因であることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0023】
したがって、本発明のように、負圧発生手段を吐出口に設けることにより、吐出口から排出される湿式吹付け材が円周方向に広がるのを抑制し、ノズルから吐出する吹付け材の直進性を高めることが可能となる。このため、鉄筋などの吹付け対象物への吹付けを遮るものがある場合でも、鉄筋の裏面の広い範囲に渡り吹付け材が付着しないという不具合を解消でき、湿式吹付け材の吹付け圧力も高く維持することができる。
【0024】
ノズルを構成する材質は、特に限定されるものではないが、アルミ、硬質プラスティック、ゴム等モルタルとの反応を起こす恐れの少ない軽量のものが好ましい。また、負圧発生手段4は、ノズル本体と同質の材料で構成することが可能であるが、モルタルなどを吹付けする際には、機械的強度の高い金物で形成することが望ましい。さらに、ノズル先端部を構成する材料が金属である場合には、溶接等により容易に負圧発生手段を取り付けることが可能となる。
【0025】
負圧発生手段4の形状は、図2に示したように断面円形で、ノズルの吐出口の中心に位置されることが好ましいが、これに限られるものではなく、例えば、断面形状を多角形としたり、吐出口の中心から意図的に偏心した位置に配置したり、あるいは負圧発生手段をノズル本体に対して相対的位置を調整可能とし、使用時の状況に応じて負圧発生手段の位置を最適化するよう構成することも可能である。
【0026】
また、負圧発生手段4は、図2の断面概略図に示すように、ノズル先端部の内部方向に延びる延伸部分を設けることが可能である。このような延伸部分がない場合には、負圧発生手段により吹付け材の流れが急に変化し、吐出口から排出される吹付け材の直進性が阻害されることとなる。さらに、延伸部分の形状は、ノズルの内部方向に向かってテーパ形状とすることにより、吹付け材の流れを妨げず、吐出口から吹付け材が吐出した際には、吹付け材の直進性を維持しながら、吹付け材の内側に負圧を効果的に発生させることが可能となる。
【0027】
負圧発生手段のノズル先端部内への取付け方法は、負圧発生手段4から放射状に延びる支持部材(不図示)を設け、該支持部材をノズル先端部の内面やノズルの吐出口に溶接又は機械的に係合させることにより、固定することが可能である。
【0028】
ノズルから吐出する吹付け材の直進性を高めるためには、ノズルの形状として、エアー孔から吐出口までの長さを、40〜200mmの範囲に設定することが好ましい。特に、湿式吹付け材としてモルタルを用いる場合には、40〜200mmの範囲が好適である。
ノズルの先端部の長さが40mm以下の場合には、適正な直進性が得られず、200mm以上の場合には、ノズル内を通過する吹付け材の押し出し圧力が増加する原因となり、圧縮空気の圧力の増加が必要となる上、圧縮空気の圧力増加に伴う吹付け材の流れが乱れることとなる。また、吹付け材がモルタルの場合には、200mm以上になるとノズル内でモルタル詰まりの発生増加の可能性が増大する。また、ノズルの操作性において、長すぎるものは用いられない。
なお、湿式吹付けのノズルの内径は、吹付け材の吐出速度を考慮して、10〜20mmの範囲が好適である。
【0029】
また、ノズルのエアー孔内の中心軸と円筒状の基部の中心軸とが形成する角度は、20〜30°の範囲とすることが好ましい。当該角度を20°より小さくすることは、ノズル基部を構成する外周部の厚みの関係から実質的に困難であるだけでなく、角度が小さ過ぎる場合には、ノズル内の吹付け材全体に対する押圧力が低下することとなる。他方、30°より大きくなると、ノズル基部の中心軸方向に垂直な方向へ押圧力が高くなり、吹付け材の流れを乱す要因となり、吐出口から排出される吹付け材の直進性が阻害されることとなる。
【0030】
本発明の湿式吹付け施工用ノズルは、上述しているように、湿式吹付け材がモルタルの場合には好適に利用可能であり、特に、コンクリート構造物の補修作業で鉄筋などが剥き出しの場合には、モルタルの充填性や付着強度をより高めることが可能となる。
【実施例】
【0031】
図3に示す形状のノズルを用意し試験を行った。ただし、表1に示すように、負圧発生手段4の有無又は負圧発生手段のノズル内への延伸の有無、さらには、エアー孔の角度、ノズル先端部の長さを各種調整した。
【0032】
【表1】

【0033】
試験方法は、図4に示すように、ノズル10を壁面20から1m離して配置し、モルタルの吐出量を6kg/min、エアー量を200m/hに調整し、モルタルを20秒間、壁面20に吹付けを実施した。そして、壁面に吹付けられたモルタル21の形状を測定した。測定結果を図5のグラフに示す。
また、図5のグラフから、最大高さの半分の値(「半価」という)、半価におけるモルタルの幅、半価におけるノズルからの広がり角度を測定し、その結果を表1に示す。
【0034】
図5のグラフ又は表1の結果より、[a,b,c]と[d,e,f]とを比較すると、負圧発生手段がある場合は吹付け材の直進性が高く、[a]と[c]とを比較すると、ノズル内部への延伸がある方がより直進性が高くなっている。
【0035】
また、[a]と[b]とを比較すると、エアーの導入角が小さい場合ほど、吹付け材の直進性が高くなっている。
さらに、[e]と[f]とを比較すると、ノズルの先端部が長いほど、吹付け材の直進性が高くなることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、モルタルなどの湿式吹付け材の吹付け圧力を高く維持しながら、吹付け対象物への吹付けを遮る物が存在する場合でも吹付け材の充填性を高くすることが可能な湿式吹付け施工用ノズルを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】従来の吹付け施工用ノズルの概略図である。
【図2】本発明の湿式吹付け施工用ノズルの概略図である。
【図3】試験に用いたノズルの概略図である。
【図4】試験方法を説明する図である。
【図5】壁面に吹付けられたモルタルの形状を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1 ノズル本体(基部)
2 圧縮空気導入管
3 エアー孔
4 負圧発生手段
10 ノズル
20 壁面
21 モルタル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に圧送される湿式吹付け材に対して加圧空気を供給する複数のエアー孔が外周に形成された円筒状の基部と、該基部から吐出口まで延びるノズル先端部とを有する湿式吹付け施工用ノズルにおいて、
該ノズル先端部の吐出口には、吐出口から排出される湿式吹付け材が円周方向に広がるのを防止するため、湿式吹付け材の内側に負圧を発生する負圧発生手段を有していることを特徴とする湿式吹付け施工用ノズル。
【請求項2】
請求項1に記載の湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該負圧発生手段は、吐出口の中心を含む部分に配置された金物であることを特徴とする湿式吹付け施工用ノズル。
【請求項3】
請求項2に記載の湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該金物は、ノズル先端部の内部方向に延びる延伸部分を有することを特徴とする湿式吹付け施工用ノズル。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該エアー孔から該吐出口までの長さが40〜200mmであることを特徴とする湿式吹付け施工用ノズル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該エアー孔内の中心軸と該円筒状の基部の中心軸とが形成する角度は20〜30°であることを特徴とする湿式吹付け施工用ノズル。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の湿式吹付け施工用ノズルにおいて、該湿式吹付け材は、モルタルであることを特徴とする湿式吹付け施工用ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−238008(P2008−238008A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80232(P2007−80232)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】