説明

湿式媒体撹拌粉砕分散機

【課題】被処理物を損壊しない低周速運転においても優れた粉砕・分散効果と高い処理効率を奏すると共に特段のコストの上昇を伴わない湿式媒体撹拌粉砕分散機を提供すること。
【解決手段】粉砕容器内に取り付けられた撹拌部材の回転によってビーズとスラリーを流動させスラリー内の被処理物を粉砕し分散する湿式媒体撹拌粉砕分散機において、該撹拌部材に流動するビーズとスラリーの流路を急激に狭めてオリフィス収縮流を生じさせる貫通した小孔を設け、該オリフィス収縮流によって流動するビーズのベクトルを乱しビーズ間の速度差ΔVを効果的に増大させることで、低周速運転の下においても所望の粉砕・分散効果と処理効率を確保し向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式媒体撹拌粉砕分散機、さらに詳しくは、被処理物を損壊する恐れのない撹拌部材の低周速運転においても被処理物を容易に極微粒子化する優れた粉砕・分散効果を示し高い処理効率を確保ないし向上させると共にコストの上昇も抑制もしくは回避することができる湿式媒体撹拌粉砕分散機に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式媒体撹拌粉砕分散機は、原料物質を微細に粉砕し良好に分散させることが求められる極めて多様な用途に用いられており、代表的な例だけに徴しても、鉱物、顔料、染料、化学薬品、磁性材料、セラミックスなどを微細な粒径に粉砕し分散して製品もしくは中間製品を得ている塗料、印刷インク、顔料、コーティング材、ゴム、接着剤、化粧品、或いは医薬などを挙げることができる。
【0003】
従来、用いられてきたこの種の湿式媒体撹拌粉砕分散機としては、基台に取り付けられて密閉される筒状の粉砕容器と、粉砕容器内に挿通して配置された回転駆動軸と、回転駆動軸に取り付けられて回転する円盤状のディスクや筒状のローターなどの撹拌部材を備え、粉砕容器の排出部分にスリット、スクリーン、遠心分離機など、媒体であるビーズとスラリーの分離機構を設けたものが一般的である。
【0004】
これらの湿式媒体撹拌粉砕分散機では、粉砕容器内にジルコニア、シリカ、ガラス、樹脂などからなる粉砕分散媒体としてのビーズを充填収容した上で、粉砕容器の供給口から被処理物である原料物質と処理液とからなるスラリーを粉砕容器内に注入し、撹拌部材の回転によってビーズとスラリーを流動させることでビーズの間にスラリー内の被処理物を捕捉させて所望の粒径に粉砕または解砕して分散し、粉砕容器内の排出部分に設けた分離機構によってビーズと分離したスラリーを粉砕容器の外に排出して製品を得ている。
【0005】
この種の湿式媒体撹拌粉砕分散機に対しては、常に3つの要請が課され続けてきた。それは、被処理物に対する所望粒径への粉砕や良好な分散と、粉砕や分散の高い処理効率と、処理コストの抑制さらには低減であり、この要請に応えるため、かつては撹拌部材を高周速で回転させビーズに大きなエネルギーを与えることで被処理物を捕捉したビーズの仕事量を増大させ、所望粒径への粉砕や良好な分散を確保して処理効率も向上させる努力が払われた。
【0006】
しかしながら、その試みを進めた結果、ビーズと被処理物の共回りによる粉砕・分散効率の低下、被処理物の再凝集、粉砕容器排出部分へのビーズの集中による異常摩耗や異常発熱などを招き、ビーズに与えるエネルギーをただ大きくするだけでは要請に応えられないことが明らかとなり、粉砕容器内に充填され撹拌部材の回転で流動するビーズを粉砕室内に均一に分布するよう流路を誘導してどの周速域でも偏りなく活発に運動させ、ビーズに与えたエネルギーを有効に活用させることで粉砕・分散と処理効率を確保し向上させる提案が重ねられた。
【0007】
これらの試みや提案の主要な成果が、粉砕容器内で流動するビーズやスラリーを好適な流路に流動することで良好に循環させ、粉砕容器内に均一に分布させることで粉砕・分散効果や処理効率の確保ないし向上を企図した流路誘導手段や流路誘導部材で、その基本的で周知な例が排出部で分離したビーズを粉砕容器内に良好に循環流動させ得る形状や構造を備えた各種の分離部材(特開2002−306940号公報に記載の遠心分離装置の羽根車や回転筒など)であるが、その他にも、撹拌部材である撹拌ディスクや撹拌ローターに設けられた流路誘導手段としての開口(特開2004−8993号公報や特開2005−169340号公報に記載の撹拌ディスクに設けられた長孔や、特開2006−7128号公報に記載の撹拌ローター周壁部の分離ビーズ循環用開口)、回転駆動軸に取り付けられた複数の撹拌部材の中間位置に介設した流路誘導用の羽根車(特開2004−8993号公報)などを挙げることができる。
【0008】
しかしながら、被処理物の粒径についてナノメートル領域にまで及ぶ極微粒子化が要請され、さらには、被処理物に対する損壊の抑制と回避が強く求められることで、流路誘導手段や流路誘導部材では対応できない事態に立ち至った。なぜなら、流路誘導手段や流路誘導部材が撹拌部材の十分な周速運転によってビーズに必要なエネルギーを与えることを当然の前提にしていたのに対して、被処理物に対する極微粒子化の要請と、損壊の抑制・回避の要請は、撹拌部材を低周速で回転させることを求めるものに他ならず、求められた撹拌部材の低周速運転では遠心力が低下してビーズに与えるエネルギーが小さくなり過ぎ、ビーズの流路を誘導し均一な分布を図っても粉砕分散効率が著しく低下することを避けられないからである。
【0009】
撹拌部材の低周速運転における粉砕・分散効果と処理効率の確保さらには向上という新たな要請に応える可能性を示したのは、撹拌部材に突起体を設け或いは粉砕容器内に邪魔板設けるという、高周速運転機の時代から既に提案提供されていた従来技術であった(特開平06−142481号、特開2002−306940号、特開2004−89993号、特開2005−169340号、特開2006−346667号)。これら突起体や邪魔板がもたらす効果の根拠自体は必ずしも明確ではなく、経験知の所産と呼ぶべき側面を否定できなかったが、この新たな要請に応える道を示したことは事実である。
【0010】
しかし、これら突起体や邪魔板は、激しい摩耗のために保守・交換に伴うランニングコストの上昇を避けることができず、コストの抑制ないし低減という強い要請に背かざるを得ない。粉砕・分散能力と処理効率を確保してもコストを上昇させてしまう湿式媒体撹拌粉砕分散機ではコスト上昇に耐え得る極めて限られた用途や目的にしか用いることができず、その市場性は大きく制約されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平06−142481号公報
【特許文献1】特開2002−306940号公報
【特許文献1】特開2004−8993号公報
【特許文献1】特開2005−169340号公報
【特許文献1】特開2006−7128号公報
【特許文献1】特開2006−346667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、被処理物を損壊しない低周速運転の下においても被処理物の極微粒子化を可能とする粉砕・分散効果と処理効率を確保する一方、ランニングコストの上昇という新たな大きな問題を招いてしまった従来技術に鑑み、低周速運転においても優れた粉砕・分散効果を示し高い処理効率を確保しさらには向上させることができるばかりでなく、従来技術の突起体や邪魔板の摩耗が招いたようなコストの上昇を伴わない新たな湿式媒体撹拌粉砕分散機の提供、即ち、従来技術が見出した突起体や邪魔板を用いることなく或いは減少させても粉砕・分散効果や処理効率を低下させるところのない新たな湿式媒体撹拌粉砕分散機を実現し提供するところにある。
【0013】
本発明者は、本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の開発に当たって、従来例において撹拌部材に設けられた突起体や邪魔板が低周速運転の下でも所望の粉砕・分散効果と処理効率を確保できた理由の解明を行い、それが粉砕容器内におけるビーズやスラリーの流動を乱流化したところにあることを突き止めた。
【0014】
即ち、図6に模式的に示すように、粉砕容器の内部に充填され撹拌部材の回転によって流動しながら被処理物Rを捕捉するビーズBの粉砕力や分散力は、個々のビーズBが持つエネルギーの大きさによってではなく、被処理物Rを捕捉したビーズB−B間の速度差ΔV[V2−V1]によって規定される関係にある。撹拌部材を低周速で運転する場合、撹拌部材の回転によって個々のビーズに与えられるエネルギー自体は大きなものとなり得ないが、撹拌部材に設けられた突起体や邪魔板がビーズやスラリーの流動に乱流を起こし個々のビーズBのベクトルを乱した結果、ビーズB−B間の速度差ΔVが大きくなって捕捉した被処理物Rの粉砕効果や粉砕された被処理物Pの分散効果を高め、要求された水準での処理効率の確保が可能となっていたのである。
【0015】
逆に、撹拌部材の周速を高くして個々のビーズに与えるエネルギー量を大きくしても、被処理物を捕捉するビーズ間の速度差ΔVを大きくできなければ、個々のビーズが持つエネルギーを有効に活用できず、ビーズと被処理物が共回り現象を呈するなど、却って粉砕・分散効果や処理効率を低下させてしまうことになるのである。
【0016】
したがって、撹拌部材に設けた突起体や邪魔板以外の手段・方法によって粉砕容器内部で流動するビーズのベクトルを効果的に乱してビーズ間の速度差ΔVを増大させることができるならば、突起体や邪魔板の摩耗がもたらしたようなコストの上昇を伴うことなく、低周速運転の下においても、所望の粉砕・分散効果と処理効率を確保しさらには向上させた湿式媒体撹拌粉砕分散機が可能となるのであり、本発明者は研究と実験の末、流動体の流路にオリフィスを設けて流路を急に狭めるとオリフィスの直前位置で収縮流が生じて流速(換言すれば、流動体を構成する要素の受ける力)が急激に変化することに着目し、このオリフィス収縮流を利用することによって粉砕容器内で流動するビーズのベクトルを乱し速度差ΔVを大きく増大することができ、本発明の課題を解決することが可能であることを見出した。
【0017】
即ち、ビーズとスラリーが流動する粉砕容器の内部に流路を急激に狭めるオリフィスを設けた場合、オリフィスの直前位置でオリフィスに流入しようとするビーズとスラリーに大きな収縮流が生じて流速が急激に加速し、個々のビーズのベクトルが乱されて被処理物を捕捉したビーズ間の速度差ΔVが大きく増大する。このとき、凝集体の各部位を構成する個々の被処理物の粒子がビーズと処理液から受ける力に急激な差が生じるから、被処理物を損壊する恐れがない反面ビーズに十分に大きなエネルギーを与えることができない低周速運転の下においても、優れた粉砕・分散効果を呈し高い処理効率を示す湿式媒体撹拌粉砕分散機の実現が可能になるのである。
【0018】
また、ビーズとスラリーの流路にオリフィスを設け収縮流を利用して被処理物の粉砕と分散を促進する場合、収縮流が剪断流より大きいために、オリフィスに流入し通過する被処理物がオリフィス内部で損壊されることもないから、被処理物に対する損壊の抑制と回避を強く求める現今の要請にも十分に応えることができる。
【0019】
さらに、粉砕と分散に資するオリフィスは、粉砕容器の内部でビーズとスラリーを流動させる撹拌部材(例えば、撹拌ディスクや撹拌ローター)に設けることが可能であると共に合理的でもあり、粉砕容器の内部に特段のオリフィス用部材を設けることを必要としない。したがって、従来例において撹拌部材に設けられた突起体や邪魔板が摩耗に伴うランニングコストの上昇を招いたのと異なり、コストを上昇させる要因ともなり得ない。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1の発明は、基台に取り付けられて密閉される粉砕容器と該粉砕容器内に挿通して配置された回転駆動軸と該回転駆動軸に取り付けられて回転する撹拌部材とを有すると共に前記粉砕容器の排出部分に分離機構を備えた湿式媒体撹拌粉砕分散機であって、前記撹拌部材の適宜位置に流入する流動体の流路を急激に狭めてオリフィス収縮流を生じさせる1つ以上の貫通した小孔が設けられてなること、を特徴とする湿式媒体撹拌粉砕分散機である。
【0021】
請求項2の発明は、前記撹拌部材が円盤状の撹拌ディスクであること、を特徴とする請求項1に記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機である。
【0022】
請求項3の発明は、前記撹拌ディスクの2枚がその盤面を相互に対向させた配設状態で前記回転駆動軸に取り付けられてなること、を特徴とする請求項2に記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機である。
【0023】
請求項4の発明は、前記対向させた配設状態で前記回転駆動軸に取り付けられた前記2枚の撹拌ディスクの内の少なくとも1枚の対向する盤面端部位置に1つ以上のブレードもしくは羽根車が設けられてなること、を特徴とする請求項3に記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機である。
【0024】
請求項5の発明は、前記撹拌部材に適宜形状の突起体が植設されてなること、を特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機である。
【0025】
請求項6の発明は、前記回転駆動軸に流路誘導部材が取り付けられてなること、を特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機である。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機では、粉砕容器内でビーズやスラリーを流動させる撹拌部材に、ビーズやスラリーの流路を急激に狭めて効果的な収縮流を引き起こしビーズのベクトルを乱してビーズ間の速度差ΔVを増大させる有効なオリフィスとして機能する貫通した小孔が設けられている。したがって、本発明によれば、被処理物を損壊する恐れのない撹拌部材の低周速運転の下においても、優れた粉砕・分散効果と高い処理効率を確保しさらには向上させることができるだけでなく、従来技術の突起体や邪魔板の摩耗が招いたようなコストの上昇も抑制ないし回避することのできる湿式媒体撹拌粉砕分散機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の一例を示す断面図である。(実施例1)
【図2】本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機に設けられた回転部材の一例を示す分解斜視図である。(実施例1)
【図3】本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の撹拌部材に設けられた小孔直前位置で生じるオリフィス収縮流を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の撹拌部材に設けられた小孔付近における流動体の挙動を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の粉砕容器の内部における流動体の挙動を模式的に示す断面図である。(実施例1)
【図6】本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の粉砕容器内におけるビーズの働きを模式的に示す正面図である。
【図7】本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の他の例を示す断面図である。(実施例2)
【図8】本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の他の例を示す断面図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0028】
被処理物を損壊しない低周速運転において所望の粉砕・分散効果と処理効率を確保するという目的を、最小の部材点数で、特段のコスト上昇を伴わずに実現した。

【実施例1】
【0029】
図1は本発明を竪型の湿式媒体撹拌粉砕分散機に実施した一例を示すものであり、図2はこの湿式媒体撹拌粉砕分散機に設けられた回転部材の一例を示すもので、従来のこの種の湿式媒体撹拌粉砕分散機と同様に、一端側を閉止し開放された他端側を基台(図示せず)に取り付けて密閉される筒状の粉砕容器1と、粉砕容器1内に略垂直方向に挿通して配置された回転駆動軸2と、回転駆動軸2に取り付けられて回転する撹拌部材3である円盤状の2枚の撹拌ディスク31,32とを備えると共に、粉砕容器1の排出部に遠心分離機を設けてなるものであるが、従来のこの種の湿式媒体撹拌粉砕分散機とは異なり、回転駆動軸2の開放終端側から盤面が相互に対向する並列状に連設配置された第1撹拌ディスク31並びに第2撹拌ディスク32の盤面に表面から裏面に亘って貫通した複数の小孔33が同心円状に設けられている。
【0030】
また、上記の第2撹拌ディスク32には、第1撹拌ディスク31と対向する盤面の端部位置に適宜数のブレード34が設けられており、第1撹拌ディスク31と第2撹拌ディスク32とはこのブレード34が介する間隙を保持して隣設するように配置されている。
【0031】
さらに、排出部となる回転駆動軸2の始端側に取り付けられた遠心分離機は、一端側が閉止され周壁に開口43、44が設けられた大小2つのローター41,42を相互に開放端側で対向させて入れ子状に配設された回転体であるが、その周縁部を効果的に張り出させた固有な形状により、分離されたビーズを排出部から粉砕容器1内へ良好に循環流動させる流路誘導部材4をなしている。
【0032】
本実施例に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機は以上の構成を有してなるものであり、撹拌部材3をなす第1撹拌ディスク31と第2撹拌ディスク32の盤面に、粉砕容器1内の流動体(ビーズとスラリー)に対してその流路を急激に狭めるオリフィスとして機能する貫通した小孔33が設けられている。このため、粉砕容器1の内部にビーズを充填収容すると共に被処理物である原料物質と処理液とからなるスラリーを注入して第1撹拌ディスク31と第2撹拌ディスク32を回転させると、小孔33内に流入しようとするビーズとスラリーには小孔33の直前位置に収縮流Sが生じて流動体を構成する個々のビーズや被処理物のベクトルを急激且つ大きく乱すことになるから(図3)、被処理物を捕捉したビーズ間の速度差ΔVが大きなものとなってビーズの仕事量を増大させ被処理物に対する粉砕が高められると共に、粉砕された被処理物の分散も向上するのである(図6)。
【0033】
このように、撹拌部材3にオリフィスとして機能する小孔33を設けた本実施例の湿式媒体撹拌粉砕分散機によれば、低周速運転の下でも所望の粉砕・分散効果を確保することができる上に、小孔33の部分では収縮流Sが剪断流Cより大きく、小孔33の通過時に被処理物が損壊されることもないため、被処理物に対する損壊の抑制ないし回避を強く求める現今の要請にも十分に応えることができる。
【0034】
さらに、この小孔は、特段の部材の付設を要することなく撹拌部材に容易に形成することができ、従来から用いられてきた突起体や邪魔板のような激しい摩耗と頻繁な保守交換を招かないから、製造工程においても稼働運用時にもコストの上昇を伴うことがない。
【0035】
なお、オリフィスとして機能させる小孔の直径は使用するビーズの粒径、撹拌部材の面積、所望の被処理物粒径などを勘案し、効果的なオリフィス収縮流を得られる大きさを求めれば良く特段の限定はないが、本実施形態では直径5mmの小孔33を設けており、本発明者の実験によれば、ビーズ粒径の2倍から200倍範囲、直径7mm程度までで比較的良好な結果が得られた。また、小孔の設置数と設置位置は、撹拌部材の加工面の面積と相互依存の関係にあるから任意であるが、本実施形態では第1撹拌ディスク31、第2撹拌ディスク32ともに部材強度を考慮して36個の小孔33を盤面に同心円状に配設しており、これも本発明者の実験では、小孔の数は面積比で撹拌部材加工面面積の30%程度まで、5%から15%程度の範囲が比較的良好であった。
【0036】
次に、本実施例においては、第1撹拌ディスクと第2攪拌ディスク32をそれぞれの盤面が対向位置する並列状態で連設配置している。この結果、図4に示す如く、各撹拌ディスク31,32の小孔33から流入したビーズとスラリーが遠心力によって対向する両撹拌ディスク31,32の盤面の間に保持されると共に開放端側へ吐出されることとなり、この挙動がビーズ並びにスラリーの小孔33への流入と小孔33直前位置における良好なオリフィス収縮流の生起を促し粉砕・分散効果をより高いものにしている。但し、オリフィスとして機能させる小孔を設けた撹拌部材の数や配設方法は、本実施例に限定されるものではなく、ビーズ並びに被処理物の種類や粒径、粉砕の所望粒径、粉砕分散処理の用途や目的に従って任意に選択し設定することができる。
【0037】
併せて、本実施例では、第1撹拌ディスク31と並列状に配設された第2撹拌ディスク32の対向する盤面の端部位置にブレード34を設け、ブレード34が介する間隙を保って第1撹拌ディスク31と第2撹拌ディスクが隣設するように連設配置している。これは、小孔33から流入し両撹拌ディスク31、32の盤面の間に保持された後に吐出されるビーズとスラリーの挙動をさらに効果的なものとし、良好なオリフィス収縮流を生じさせて粉砕・分散効果を高めようとするもので、ブレード34に代えて羽根車などを用いることも可能であるが、これら部材の選択と採用それ自体は全くの任意であって、本発明を限定するものではない。
【0038】
さらに、本実施例にかかる湿式媒体撹拌粉砕分散機では、この種湿式媒体撹拌粉砕分散機の排出部に一般的に設けられている遠心分離機に固有な形状と構造を与えることで、分離されたビーズを分離排出部から粉砕容器1内へ円滑に循環させる流路誘導部材4として用いているが、本発明の実施に際して利用できる分離部材や流路誘導部材を限定するものではなく、従来から提案され提供されてきた各種分離部材や回転体或いは羽根車などの流路誘導部材を任意に選択して利用できる。(これは、本発明が従来型の湿式媒体撹拌粉砕分散機に広く容易に実施できることを意味するものである。)
【0039】
図5は、本実施例に係る流路誘導部材4を備えた湿式媒体撹拌粉砕分散機におけるビーズとスラリーの挙動を模式的に示すもので、流路誘導部材4によって排出部から誘導されたビーズとスラリーの良好な循環(白抜き矢印)は、粉砕容器1内のビーズの分布状態を均一なものとし、撹拌部材3に設けられた小孔33から撹拌部材3の盤面間に流入し保持され開放端側へ吐出されることで小孔33直前位置に効果的なオリフィス収縮流を生むビーズとスラリーの挙動(黒矢印)を促し助ける関係にあることを指し示している。
【0040】
以上に記載した本実施形態に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機によって粉砕分散処理を実施し、処理効率を従来機と比較したところ、ビーズ充填率60%の条件設定において94%にも及ぶ高い処理効率の向上を確認することができた(本願人の製造に係る同容量従来機におけるビーズ充填率80%との比較による)。
・試験機:連続式ビーズミル
・ビーズ粒径:0.7mm
【0041】
なお、本発明の実施に当たって、従来技術を任意に選択し利用できることは既に説明したが、突起体や邪魔板の利用もその例外ではないので、この点について言及しておく。即ち、本発明はランニングコストを上昇させる突起体や邪魔板に依存することなく、撹拌部材に設けた小孔が生起する収縮流を利用することで低周速運転において要求される粉砕・分散効果と処理効率を確保した。しかしながら、これら突起体や邪魔板が粉砕・分散効果や処理効率の向上に資することは認められるところで、本発明を実施する湿式媒体撹拌粉砕分散機に突起体や邪魔板を設けることで粉砕分散効果や処理効率が相殺もしくは減殺されるところもなく、摩耗が招くランニングコストの上昇は突起体や邪魔板の数を減らすことで効果とコストの臨界点を求めることができるから、粉砕分散処理の目的や用途によって任意に選択し利用することを妨げない。
【実施例2】
【0042】
図7は本発明を横型の湿式媒体撹拌粉砕分散機に実施した他の例を示すものであって、その基本的な構成は上記の実施例1について記したところとほぼ共通しており、一端側が閉止され開放された他端側を基台(図示せず)に取り付けて密閉される筒状の粉砕容器1と、粉砕容器1内に略水平方向に挿通して配置された回転駆動軸2と、回転駆動軸2に取り付けられて回転する2枚の撹拌ディスク31,32とを有すると共に、粉砕容器1の排出部に流路誘導部材4として機能させる遠心分離機を備えてなり、前期撹拌ディスク31,32の盤面に表面から裏面に亘って貫通した複数の小孔33が同心円状に設けられてなるものであるから、ビーズとスラリーの流入によって小孔33の直前位置に生じるオリフィス収縮流が被処理物の粉砕と分散を効果的に向上させ、低周速運転の下でも所望の粉砕分散効果と処理効率の確保を実現させる。
【0043】
この点は本明細書のこれまでの記載と実施例1において既に説明したところであるが、さらに詳言するならば、流動体(ビーズとスラリー)の流路を急に狭める小孔33はその直前位置でオリフィス収縮流を生じさせ、この収縮流が流動体構成要素のベクトルを急激に変化させるが、これは流動体を構成する個々のビーズや被処理物が受ける力とその方向が急激且つ大きく変化することに他ならず、この結果、被処理物を補足したビーズ間の速度差ΔVが大きなものとなって速度差ΔVに規定されるビーズの仕事量を増大させ、ビーズに大きなエネルギーを付与できない対収束運転の下でも被処理物に対する粉砕効果が高まるのであり、同様に、個々の被処理物がビーズと処理液から受ける力と方向が急激且つ大きく変化することで分散効果も向上するのである。
【0044】
また、実施例1と同様に、回転駆動軸2に取り付ける2枚の撹拌ディスク31,32を相互に盤面が対向する並列状に連設配置すると共に、一方の撹拌ディスクの対向する盤面端部位置にブレード34を設けており、撹拌ディスク31,32盤面の小孔33から流入したビーズとスラリーを両撹拌ディスク31,32の盤面の間に保持すると共に開放端側へ吐出することができ、ビーズ並びにスラリーの小孔33への円滑な流入と小孔33直前位置における良好なオリフィス収縮流の生起を容易にし、粉砕・分散効果をより高めることを可能にしている。
【0045】
さらに、本実施例に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の回転駆動軸2に分離部材からなる流路誘導部材4が取り付けられている点も、実施例1と変わるところはない。従来からこの種の湿式媒体撹拌粉砕分散機においては、回転駆動軸2に設けられた排出口(図示せず)の形成位置に粉砕分散処理を経たスラリーとビーズを分離してスラリーだけを排出口へ回収するための各種分離部材が取り付けられているが、分離されたビーズが排出口の近傍位置に滞留して偏在することを防ぎ、ビーズを良好に循環移動させることによって粉砕容器内に均一に分布させて粉砕分散効果を高めるために、分離部材に特定の形状や構造を与えてビーズの流動と循環を促し誘導する流路誘導部材として機能させることが一般的に重ねられており、本実施例における流路誘導部材4もこれに倣ったものである。
【0046】
即ち、本実施例における流路誘導部材4は、遠心作用によって比重の大きいビーズを粉砕容器1内の外周方向へ付勢し比重の小さいスラリーを排出口へ吸引することで両者を分離する遠心分離機であるが、一端を開放し外周部などに切り欠き開口を設けた大小2枚の中空のローター41,42を開放端側で入れ子状に組み合わせることで、開口を備えた外周部が粉砕容器1内に張り出す固有な形状を与えている。このように、本実施例では、遠心分離機の回転部に従来にない固有な形状を与えた流路誘導部材4を用いることで、遠心作用でビーズを外方に付勢するに止まらず、分離されたビーズを粉砕容器1内の粉砕分散領域へ速やかに循環流動させ均一に分布させることを容易にしている。
【0047】
このように、本実施例に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機では、遠心分離機に固有な形状を与え流路誘導部材4として効果的に機能させることによって、高い分離機能と循環機能を確保しているが、ビーズが回転駆動軸2に沿って水平方向に流動し易い横型の湿式媒体撹拌粉砕分散機である結果、遠心分離機の非稼働時など遠心作用が働かず若しくは弱い際に分離されたビーズが排出口へと逆流することを免れ難い。このため、本実施例では流路誘導部材4を構成する中空円筒体42の開口部分にスクリーン45を付設して排出口へのビーズの逆流に備えている。
【0048】
なお、スクリーン45の付設位置は、流路誘導部材として用いる分離部材に合わせて、分離されたビーズの排出口への逆流を防ぎ易い位置を選べばよく、特段の制約はない。また、上記に説明した流路誘導部材4の固有な形状は、ビーズの良好な分離並びに循環を促す上で高い効果を奏するが、本発明の実施がこの特定の流路誘導部材4に限定されることはなく、本発明の実施に当たって、従来から提案され提供されてきた各種の分離部材や流路誘導部材を任意に選択して適宜利用できることは言うまでもない。
【実施例3】
【0049】
図8は本発明を竪型の湿式媒体撹拌粉砕分散機に実施した他の例を示すものであり、実施例1における湿式媒体撹拌粉砕分散機と同様に、一端側が閉止され開放された他端側を基台(図示せず)に取り付けて密閉される筒状の粉砕容器1と、該粉砕容器1内に略垂直方向に挿通して配置された回転駆動軸2とを備えると共に、回転駆動軸2に設けられた排出口(図示せず)の開口位置には外周面に開口47を有する中空のローター46からなる遠心分離機を取り付けて流路誘導部材4としてなるものであるが、本実施例における撹拌部材3は、中空で外周面と上下端面をいずれも閉止した筒状の回転体を用いており、回転駆動軸2に取り付けられた遠心分離器である流路誘導部材4の設置位置において、該流路誘導部材4を中空部内に収容して覆い囲む状態で取り付けられていることを特徴とし、撹拌部材3の閉止された下端面に表面から裏面に渡って貫通した複数の小孔33が同心円状に設けられてなると共に、外周面には循環用の開口35が設けられている。
【0050】
本実施例に係る竪型の湿式媒体撹拌粉砕分散機は以上に記載の構成を有してなるものであるから、粉砕容器1の内部にビーズを充填収容し被処理物と処理液とからなるスラリーを注入して撹拌部材3を回転させると、ビーズとスラリーは撹拌部材3の下端面に設けられた小孔33を介して撹拌部材3の中空部内へ流入し、粉砕分散処理を経た上で排出部において流路誘導部材4によってビーズとスラリーに分離されると共に、分離されたビーズが撹拌部材3の開口35から中空部外の粉砕容器1内へ循環され、粉砕容器1内のビーズとスラリーの撹拌部材3中空部への流入が反復される。
【0051】
ここで、撹拌部材3の下端面に設けられた小孔33の直前位置に生じるオリフィス収縮流によって、小孔33へ流入する個々のビーズや被処理物粒子の受ける力と方向が急激且つ大きく変化し、低周速運転の下でもコストの上昇を伴うことなく必要とされる被処理物の高い粉砕効果と分散効果を確保することができる上に、排出部に取り付けられた遠心分離機に固有な形状と構造を与えることで得られた流路誘導部材4が分離されたビーズの円滑な循環流動と均一な分布を容易にして粉砕分散処理全体の効率を高めていることは、既に他の実施例で説明したところと同様であるが、さらに、粉砕分散効果と処理効率の向上を実現させる上で有効な次の点を挙げることができる。
【0052】
即ち、本実施例では、中空筒状の回転体である撹拌部材3が分離手段であり流路誘導部材4である遠心分離機をその中空部内に覆い囲んで収容する状態で配設されているため、従来の湿式媒体撹拌粉砕分散機と比較する時、構造が簡素で小型化が容易であり、製造段階においても運用稼働段階においても大きな利便を提供することが明らかである。
【0053】
また、実施例1並びに従来のこの種の湿式媒体撹拌粉砕分散機においては、撹拌部材と分離部材(流路誘導部材)が回転駆動軸の異なる位置に取り付けられているため、粉砕容器内の分散領域と分離領域が異なる場を占めて別個に形成されていたのに対して、本実施例における分散領域と分離領域は撹拌部材3の中空部が構成し提供する共通の空間に形成されることになる。これは、撹拌部材3の中空部内に流入したビーズとスラリーが共通位置する分散領域と分離領域でより自由に流動でき且つ容易に誘導できることを意味するものであるから、分散領域におけるビーズや被処理物の分散、分離領域におけるビーズと被処理物の分離、分離されたビーズの分散領域への循環と均一な分布のいずれもが、より円滑で容易なものとなっている。
【0054】
さらに、図8からも明らかなように、本実施例に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機にあっては、形成される空間を共通にする分散領域と分離領域において、配設された撹拌部材3と分離部材からなる流路誘導部材4が対照構造をなしており、ビーズや被処理物に加わるエネルギーが均一であるから、均一なエネルギー場による均一な分散が得られることとなり、上述のところと併せて、粉砕分散効果と処理効率のさらなる向上を可能なものにする。
【0055】
なお、本発明においては、撹拌部材にオリフィス収縮流を生じさせる小孔を設けることを必須の構成要件とするが、撹拌部材と共に撹拌部材以外の部材に同様の小孔を設けることを否定し排除するものではない。例えば、撹拌部材がその中空部に流路誘導部材である遠心分離機を収容する状態で配設され、分散領域と分離領域が共通する空間に形成される実施例3の湿式媒体撹拌粉砕分散機にあっては、分散機能を果たす部材部分と分離機能を果たす部材部分の間に融合部が形成されるので、この融合部に小孔を設けた場合にも分散の向上に資することが明らかであり、また、ビーズとスラリーが回転駆動軸に沿って水平方向へ流動し易い実施例2の湿式媒体撹拌粉砕分散機にあっても、流路誘導部材である分離部材の回転部に設けた小孔がオリフィス収縮流による分散機能を果たすと考えられるからである。さらに言えば、撹拌部材以外の部材に同様の小孔を設けることによって、撹拌部材に設けた小孔で得られる本発明固有の効果が当然に損ねられ若しくは失われる関係にある訳ではないからでもある。
【符号の説明】
【0056】
1 粉砕容器
2 回転駆動軸
3 撹拌部材
4 流路誘導部材
31 第1撹拌ディスク
32 第2撹拌ディスク
33 小孔
34 ブレード
35 開口
41,42,46 ローター
43,44,47 開口
45 スクリーン
B ビーズ
L 処理液
P 被処理物(粉砕後)
R 被処理物(粉砕前)
V1、V2 ビーズの速度
ΔV ビーズ間の速度差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台に取り付けられて密閉される粉砕容器と該粉砕容器内に挿通して配置された回転駆動軸と該回転駆動軸に取り付けられて回転する撹拌部材とを有すると共に前記粉砕容器の排出部分に分離機構を備えた湿式媒体撹拌粉砕分散機であって、前記撹拌部材の適宜位置に流入する流動体の流路を急激に狭めてオリフィス収縮流を生じさせる1つ以上の貫通した小孔が設けられてなること、を特徴とする湿式媒体撹拌粉砕分散機。
【請求項2】
前記撹拌部材が円盤状の撹拌ディスクであること、を特徴とする請求項1に記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機。
【請求項3】
前記撹拌ディスクの2枚がその盤面を相互に対向させた配設状態で前記回転駆動軸に取り付けられてなること、を特徴とする請求項2に記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機。
【請求項4】
前記対向させた配設状態で前記回転駆動軸に取り付けられた前記2枚の撹拌ディスクの内の少なくとも1枚の対向する盤面端部位置に1つ以上のブレードもしくは羽根車が設けられてなること、を特徴とする請求項3に記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機。
【請求項5】
前記撹拌部材に適宜形状の突起体が植設されてなること、を特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機。
【請求項6】
前記回転駆動軸に流路誘導部材が取り付けられてなること、を特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機。

【図3】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−179297(P2010−179297A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230075(P2009−230075)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000166557)アイメックス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】