説明

湿式画像形成装置および湿式画像形成方法

【課題】長期間にわたって、リブレット現象(Rivulets)の発生を防止し、優れた画像特性が安定的に得られる湿式画像形成装置および湿式画像形成方法を提供する。
【解決手段】感光体と、当該感光体を所定電位に帯電させるための帯電装置と、感光体に対して、絶縁性液体中にトナーを分散させた液体現像剤を供給する現像ローラーと、を備えた湿式画像形成装置およびそれを用いた湿式画像形成方法であって、現像ローラーの表面におけるヤング率を8〜50MPaの範囲内の値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式画像形成装置および湿式画像形成方法に関し、特に、リブレット現象(Rivulets)の発生が少ない湿式画像形成装置および湿式画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式画像形成装置においては、現像装置として、液体現像装置が搭載されており、感光体上に形成された静電潜像を、この液体現像装置から供給される液体現像剤によって現像する。
この際、感光体の表面全体が、現像剤に含まれる非水溶性溶剤で、部分的に覆われているため、連続的に現像を行った場合、現像ローラーと、感光体との間で、液体現像剤の液切れが悪くなって、図7(a)〜(c)に示すように、液体現像剤によるスジ状の不均一な層(ムラ)であるリブレット現象の発生が大きな問題となる。
すなわち、リブレット現象が原因となって、画像特性が著しく低下しやすくなるとともに、カブリが発生しやすくなるという問題が見られた。
【0003】
ここで、かかるリブレット現象を抑制すべく、液体現像方式の現像ローラーにおいて、現像前の現像ローラー上のトナー層に当接すると共に、バイアス電圧が印加される可撓性シートにより構成される電極構成を備えることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
より具体的には、図8に示すように、かかる可撓性シート362により構成される電極構成によれば、バイアス電圧に基づく電界の印加によるトナー層内部の電気泳動を利用して、トナー層を、トナーリッチ層と、キャリアリッチ層と、に略分離する。
そして、可撓性シート362と、現像液担持体としての現像ローラー312と、の間にある液体現像液の表面張力あるいは濡れ性を利用して、可撓性シート362を、現像ローラー312の表面に引きつけることにより、接触させることが提案されている。
【0004】
また、液体現像電子写真装置に用いられる現像ローラーにおいて、キャリアによる体積変化を抑制すべく、軸体の外周に、所定の弾性体層を備えることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
より具体的には、トナーがキャリアに分散されてなる液体現像剤が用いられる液体現像電子写真装置に備えられ、軸体の外周に、弾性体層が周設されている液体現像電子写真装置用ローラーであって、かかる弾性体層は、二官能イソシアネートと、キャリアのsp値よりも2以上大きなsp値のポリエステルポリオールと、を反応させてなるポリウレタンから形成されていることを特徴とする液体現像電子写真装置用ローラーである。
【特許文献1】特開2003−186308号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2008−8982号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された液体現像方式の現像器では、バイアス電圧が印加される可撓性シートにより構成される特定の電極構成を備えなければならず、現像ローラーの構成が複雑化しやすいという問題が見られた。
また、バイアス電圧を印加したとしても、トナーリッチ層と、キャリアリッチ層と、の分離が不十分になって、リブレット現象の抑制が不十分になりやすいという問題も見られた。
一方、特許文献2に記載された液体現像方式の現像ローラーは、その表面におけるヤング率について何ら考慮していないために、キャリアによる体積変化を抑制できても、リブレット現象の抑制については、何ら防止できないという問題が見られた。
【0006】
そこで、本発明者らは鋭意研究した結果、現像ローラーの少なくとも表面におけるヤング率を所定範囲内の値とすることによって、長期間にわたってリブレット現象の発生を防止できることを見出した。
すなわち、本発明によれば、簡易な構成によって、現像ローラーと、感光体との間で、液体現像剤の液切れが良好になるようにせん断力を発生させることにより、長期間にわたってリブレット現象の発生を防止し、優れた画像特性が安定的に得られる湿式画像形成装置および画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
感光体と、当該感光体を所定電位に帯電させるための帯電装置と、感光体に対して、絶縁性液体中にトナーを分散させた液体現像剤を供給する現像ローラーと、を備えた湿式画像形成装置であって、
現像ローラーの少なくとも表面におけるヤング率を8〜50MPaの範囲内の値とすることを特徴とする湿式画像形成装置である。
すなわち、本発明によれば、現像ローラーと、感光体との間で、液体現像剤の液切れが良好になるようにせん断力を発生させることにより、長期間にわたってリブレット現象の発生を防止し、優れた画像特性を安定的に得ることができる。
【0008】
また、本発明を構成するにあたり、現像ローラーが、被覆層と、基材と、を含んで構成されており、当該被覆層におけるヤング率を8〜50MPaの範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成すると、被覆層と、基材の構成の組み合わせによって、現像ローラーの表面におけるヤング率をきめ細かく調整することができる。
なお、被覆層は、表面層と称する場合があるが、その上に、さらに導電性樹脂層や表面処理層が形成される場合がある。したがって、そのような場合には、導電性樹脂層や表面処理層が最表面層となって、被覆層は、最表面層とはならないことになる。
【0009】
また、本発明を構成するにあたり、現像ローラーの被覆層が、ウレタン樹脂を主構成材料として含んでおり、かつ、基材が、ウレタン樹脂以外のゴム材料を主構成材料として含んでいることが好ましい。
このように構成すると、現像ローラーの被覆層および基材の構成樹脂の組み合わせによって、現像ローラーの表面におけるヤング率をきめ細かく調整することができ、さらには、所定の耐久性を得ることができる。
【0010】
また、本発明を構成するにあたり、現像ローラーの被覆層の硬度(JIS−A硬度)を50〜100°の範囲内の値とするとともに、基材の硬度(JIS−A硬度)を30〜100°の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成すると、所定硬度を有する被覆層および基材の組み合わせによって、現像ローラーの表面におけるヤング率をきめ細かく調整することができ、さらには、所定の耐リブレット性や耐久性を得ることができる。
なお、JIS−A硬度とは、JIS K6253に準じて測定されるタイプAデュロメータ硬さを意味している。
【0011】
また、本発明を構成するにあたり、絶縁性液体の粘度を15〜300mPa・sec(測定温度:25℃)の範囲内の値とすることが好ましい。
このように構成すると、現像ローラーと、感光体との間で発生した相当のせん断力によって、液切れが良好になり、さらに長期間にわたってリブレット現象の発生を防止し、優れた画像特性を安定的に得ることができる。
【0012】
また、本発明の別な態様は、感光体と、当該感光体を所定電位に帯電させるための帯電装置と、感光体に対して、絶縁性液体中にトナーを分散させた液体現像剤を供給する現像ローラーを用いた湿式画像形成方法であって、
少なくとも表面のヤング率が8〜50MPaの範囲内の値である現像ローラーを用いることを特徴とする。
すなわち、本発明によれば、現像ローラーと、感光体との間で、液体現像剤の液切れが良好になるようにせん断力を発生させることにより、長期間にわたってリブレット現象の発生を防止し、優れた画像特性を安定的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態は、図1に例示するように、
感光体と、
当該感光体を所定電位に帯電させるための帯電装置と、
感光体に対して、絶縁性液体中にトナーを分散させた液体現像剤を供給する現像ローラーと、を備えた湿式画像形成装置であって、
現像ローラーの少なくとも表面におけるヤング率を8〜50MPaの範囲内の値とすることを特徴とする湿式画像形成装置である。
【0014】
すなわち、図2(a)に、せん断力の発生モデルと、液切れの様子を示すように、ヤング率が比較的大きい現像ローラーと、感光体との間では、発生するせん断力が小さく、液切れ特性が低下するとともに、広がり幅(l1)が小さくなる。したがって、リブレット現象が発生しやすくなって、画像特性も劣化しやすくなる。
一方、図2(b)に示すように、ヤング率が比較的小さい現像ローラーと、感光体との間では、比較的大きなせん断力が発生することにより、液切れ特性が向上するとともに、広がり幅(l2)が大きくなる。それにより、長期間にわたってリブレット現象の発生を防止し、優れた画像特性を安定的に得ることができる。
以下、図3に示すように、カラー画像形成用のタンデム型の湿式画像形成装置(カラープリンタ)150の場合を例にとって、図1に例示する湿式画像形成装置10を具体的に説明する。
【0015】
1.基本構成
図3に示すカラープリンタ150は、画像形成のための様々なユニットや部品が収納される上側本体部150Aと、この上側本体部150Aの下部に配置され、各色用の液体現像剤循環装置LY、LM、LC、LB(混合液体供給システム)が収納される下側本体部150Bと、から構成されている。
【0016】
そして、上側本体部150Aには、画像データに基づいてトナー画像を形成するタンデム式の画像形成部2と、用紙を収容する用紙収納部3と、画像形成部2で形成されたトナー画像を用紙上に転写する二次転写部4と、転写されたトナー画像を用紙上に定着させる定着部5と、定着の完了した用紙を排紙する排出部6と、用紙収納部3から排出部6まで用紙を搬送する用紙搬送部7と、が含まれている。
【0017】
ここで、画像形成部2は、中間転写ベルト21と、この中間転写ベルト21のクリーニング部22と、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の各色にそれぞれ対応した画像形成ユニットFY、FM、FC、及びFBとを備える。
また、中間転写ベルト21は、導電性を有する使用可能な用紙搬送方向に直角な方向の長さが最大の用紙より幅広であって、無端状、すなわちループ状部材であり、図中、時計回りに循環駆動される。
なお、中間転写ベルト21の循環駆動において外側を向く面を以下、表面と称し、他方の面を裏面と称する。
【0018】
また、画像形成ユニットFY、FM、FC、及びFBは、中間転写ベルト21の近傍に4つ並べて中間転写ベルト21のクリーニング部22と、二次転写部4との間に配置される。
なお、各画像形成ユニットFY、FM、FC、FBの配置の順番はこの限りではないが、各色の混色による完成画像への影響を配慮すると、この配置が好ましい。
【0019】
また、画像形成ユニットFY、FM、FC、及びFBは、感光体ドラム51と、帯電装置53と、LED露光装置54と、現像装置18と、一次転写ローラー20と、クリーニング装置58と、除電装置52と、を備えている。
そして、各画像形成ユニットFY、FM、FC、FBに対応して、それぞれ液体現像剤循環装置LY、LM、LC、LBが、下側本体部150Bに設けられ、各色の液体現像剤の供給、並びに回収が行われるようになっている。
【0020】
2.感光体
湿式現像画像形成装置に装着する感光体としては、単層型と積層型とがあるが、いずれも適用可能である。
ただし、特に正負いずれの帯電性にも使用できること、構造が簡単で製造が容易であること、感光体層を形成する際の被膜欠陥を抑制できること、層間の界面が少なく、光学的特性を向上できること等の理由から、単層型に適用することがより好ましい。
【0021】
また、耐久性に優れていることから、アモルファスシリコン感光体を用いることが好ましい。
以下、図4に示すアモルファスシリコン感光体51を例にとって、感光体の詳細について説明する。
【0022】
(1)導電性基板
図4に、アモルファスシリコン感光体51の部分的断面図を示すが、アモルファスシリコン感光体51は、通常、コアとして導電性基板51aを含んでおり、アルミニウム合金などの導電部材でもって構成するか、もしくは樹脂やガラスの表面に導電性膜を蒸着などから構成してもよい。
【0023】
ここで、導電性基板を構成する材料としては、アルミニウム(Al)、SUS(ステンレススチール)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、錫(Sn)、金(Au)、銀(Ag)などの金属材料やそれらの合金材料などが挙げられる。
【0024】
また、樹脂やガラス、セラミックスなどの絶縁性材料の表面を、上述した金属やITO、SnO2 などの透明導電性材料で導電処理したものなども挙げられる。
中でも、アルミニウム合金材料を用いると、低コストで感光体の軽量化が可能なばかりか、a−Si系光導電層あるいはキャリア注入阻止層との密着性が高く、それにより感光体の信頼性も向上するといった点で好適である。
【0025】
(2)キャリア注入阻止層
また、図4に示すように、キャリア注入阻止層51bは、アモルファスシリコン系材料(a−Si系材料)を母材にして、それに水素(H)やフッ素(F)を含有させ、さらに周期律表第III 族、第IV族、第V族のうち少なくとも1種の元素を含有させて構成することが好ましい。
また、C、N、Oなどの元素を、キャリア注入阻止層の構成材料として、さらに含有させることも好ましい。
【0026】
(3)光導電層
また、図4に示すように、アモルファスシリコン系材料からなる光導電層51cとしては、アモルファス状態を略してa−と表示した場合、例えば、a−SiC、a−SiCN、a−SiNO、a−SiCO、a−SiN、a−Si、a−C、a−CN、a−SiO等から構成してあることが好ましい。
また、水素(H)やフッ素(F)などの元素を、アモルファスシリコン系材料の一部として、さらに含有させることも好ましい。
【0027】
(4)被覆層
また、図4に示すように、被覆層51dは、アモルファス状態の珪素(Si)および/または炭素(C)の原子から構成するとともに、酸素(O)または窒素(N)のうち少なくとも1種の原子と、水素(H)またはフッ素(F)のうち少なくとも1種の原子とを含有することが好ましい。
例えば、そのSi原子とC原子との比率をSi1-x x で表示した場合には、xを0.4≦x≦1.0の範囲にすると、モース硬度が8〜11になることが確認されている。
なお、かかる被覆層の膜厚を0.1〜10μmの範囲内の値とすることが好ましく、0.3〜5μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0028】
(5)直径
また、感光体の直径(Dpc)を30〜300mmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、感光体の直径(Dpc)が30mm未満となると、現像ローラーとの間で発生するせん断力が小さくなって、長期間にわたってリブレット現象の発生を防止することが困難となる場合があるためである。
一方、感光体の直径(Dpc)が300mmを超えると、湿式画像形成装置が大型化したり、感光体との間で発生するせん断力が過度に大きくなって、それにより、トナーの離型性が悪くなり、画像濃度が低下する場合があるためである。
したがって、感光体の直径(Dpc)を35〜200mmの範囲内の値とすることがより好ましく、40〜100mmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0029】
4.帯電装置
また、帯電装置としては、公知の態様とすることができるが、例えば、スコロトロン型帯電装置とすることが好ましい。
【0030】
5.液体現像装置
(1)基本的構成
また、液体現像装置18は、図1に示すように、トナーを含有する液体現像剤11を貯溜する液体現像剤タンク45を、その外部に備えている。
また、かかる液体現像装置18の内部には、現像ローラー12と、アニロックスローラー13と、汲み上げローラー14と、ドクターブレード15と、クリーニングブレード33と、帯電装置17と、クリーニング手段32等が設けられており、現像ローラー12、アニロックスローラー13、および汲み上げローラー14は、それぞれ歯車列等からなる駆動手段により回転駆動される。
そして、アニロックスローラー13と、汲み上げローラー14と、の当接部近傍であって、汲み上げローラー14上に、供給装置18cによって、所定のトナー濃度を有する液体現像剤11が供給されている。
【0031】
また、汲み上げローラー14の上方に、アニロックスローラー13が設けられている。そして、かかるアニロックスローラー13の上方には、現像ローラー12がさらに設けられている。
そして、汲み上げローラー14とアニロックスローラー13、及びアニロックスローラー13と現像ローラー12は、それぞれ当接している。
【0032】
また、ドクターブレード15は、アニロックスローラー13の上部、かつ現像ローラー12に対して、アニロックスローラー13の回転方向の上流側に、アニロックスローラー13の軸線方向について、その一端が当接しており、アニロックスローラー13のローラー面に供給された液体現像剤11が表面に彫られた溝(凹部)に保持され、かかる液体現像剤11の量を規制している。
そして、感光体ドラム51は、液体現像装置18の外側にあって、現像ローラー12に当接している。
【0033】
(2)液体現像剤
また、液体現像装置18に外部に設けてある液体現像剤貯溜槽(液体現像剤タンク)45には、トナー粒子と絶縁性液体であるキャリアからなる液体現像剤11が貯溜されている。
かかる液体現像剤11は、シリコンオイル等の非極性、すなわち、電気的に中性の溶媒であるキャリア液中にトナー粒子が高濃度で分散するように調整されている。
また、トナー粒子は、エポキシ等の樹脂(バインダー)、トナーに所定の電荷を与える荷電制御剤、着色顔料等から構成されている。
そして、この液体現像剤11を、現像剤担持体としての現像ローラー12から、感光体ドラム51のLED露光装置54によって光が照射された部分の静電潜像に、供給することにより、感光体ドラム51にトナー像を現像することができる。
【0034】
また、絶縁性液体の粘度を15〜300mPa・sec(測定温度:25℃)の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、絶縁性液体の粘度をこのような範囲に制限することにより、トナー粒子の泳動速度が早くなるとともに、レベリング性が良好となり、リブレット解消に寄与するためである。
すなわち、泳動時間が遅いと、トナー粒子の残ったキャリア液がせん断プロセス(感光体と現像ローラーのニップ離れ際)に移行してしまうことになる。したがって、トナー粒子が残ったままの液体は、粘度が高くなって、リブレットになりやすくなる。
また、レベリング性は、波打った液面が平滑になる時間によって表されるが、レベリング性が良好というのは、波打った液面が平滑になるのにかかる時間が短い事を示している。つまり短い時間でリブレットが解消されることになる。
【0035】
(3)現像ローラー
上述したように、現像ローラーの表面におけるヤング率を8〜50MPaの範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる現像ローラーの表面におけるヤング率が、8MPa未満の値となると、所定のせん断力は発生するものの、今度は、機械的強度や耐久性が低下し、さらには、現像ローラーの駆動初期状態において、現像量が一定しない場合があるためである。
一方、かかる現像ローラーの表面におけるヤング率が、50MPaを越えた値になると、現像ローラーと、感光体との間で、所定のせん断力が発生せず、液体現像剤の液切が悪くなって、リブレット現象が発生しやすくなるためである。
したがって、現像ローラーの表面におけるヤング率を15〜40MPaの範囲内の値とすることが好ましく、15〜35MPaの範囲内の値とすることがより好ましく、15〜30MPaの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0036】
また、図5(a)に示すように、現像ローラー12が、被覆層12aと、基材12bと、を含んで構成されており、当該被覆層12aにおけるヤング率を8〜50MPaの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、被覆層と、基材と、を含んで現像ローラーが構成されているから、被覆層の選定のみによって、現像ローラーの表面におけるヤング率をきめ細かく調整することができるためである。
なお、かかる基材の構成材料の種類としては特に制限されるものでなく、例えば、樹脂材料、ゴム材料、金属材料、セラミック材料、ガラス材料等の一つ単独または二種以上の組み合わせを例示することができる。
【0037】
また、現像ローラーの被覆層が、ウレタン樹脂を主構成材料として含んでおり、かつ、基材が、ウレタン樹脂以外のゴム材料を主構成材料として含んでいることが好ましい。
この理由は、このように構成すると、現像ローラーの被覆層および基材の構成樹脂の組み合わせによって、現像ローラーの表面におけるヤング率をきめ細かく調整することができ、さらには、所定の耐久性を得ることができるためである。
すなわち、現像ローラーの被覆層において、ウレタン樹脂原材料としてのアルコール化合物(ジオール化合物等)や、イソシアネート化合物(ジイソシアネート化合物等)の種類や添加割合を変えるだけで、所望のヤング率の値を得やすい一方、ウレタン樹脂であれば、現像ローラーとして、優れた耐久性を得ることができるためである。
また、基材を構成するウレタン樹脂以外のゴム材料としては、例えば、天然ゴム材料、ブチルゴム材料、シリコーンゴム材料、アクリルゴム材料、クロロプレンゴム材料、フッ素ゴム材料、熱可塑性エラストマー等一種単独または二種以上の組み合わせから構成することが好ましい。
【0038】
また、現像ローラーの被覆層の硬度(JIS−A硬度)を50〜100°の範囲内の値とするとともに、基材の硬度(JIS−A硬度)を20〜70°の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このように構成すると、現像ローラーの被覆層および基材の硬度の組み合わせによって、現像ローラーの表面におけるヤング率をきめ細かく調整することができ、さらには、所定の耐久性を得ることができるためである。
すなわち、現像ローラーの被覆層の硬度が50°未満の値となると、被覆層の構成材料に関して、選択の余地が過度に制限される場合があるためである。
また、現像ローラーの被覆層の硬度が100°を越えた値となると、ニップでせん断力が働きにくくなり、リブレットが発生する場合があるためである。
また、現像ローラーの基材の硬度が20°未満の値となると、機械強度が下がり破損しやすくなる場合があるためである。
また、現像ローラーの基材の硬度が70°を越えた値となると、液の通過がしにくくなり、液溜りができ、画像不具合の元となる場合があるためである。
したがって、現像ローラーの被覆層の硬度を50〜100°の範囲内の値とするとともに、基材の硬度を20〜70°の範囲内の値とすることがより好ましく、現像ローラーの被覆層の硬度を60〜100°の範囲内の値とするとともに、基材の硬度を25〜60°の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0039】
また、被覆層の厚さを0.01〜50mmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、被覆層の厚さが0.01mm未満の値となると、現像ローラーと、感光体とのニップ部における、広がり幅が小さくなり、十分なせん断力が得られなくなる場合があるためである。
一方、かかる被覆層の厚さが50mmを超えた値になると、被覆層を均一に形成することが困難となる場合があるためである。
したがって、被覆層の厚さを1〜20mmの範囲内の値とすることが好ましく、2〜10mmの範囲内の値とすることがより好ましい。
【0040】
また、図5(b)に示すように、現像ローラー12´の表面に、導電性樹脂層12cが形成してあることが好ましい。すなわち、図5(b)に示す現像ローラー12´の場合、被覆層12aと、基材12bと、を含んで構成されており、さらに、被覆層12aの上に、導電性樹脂層12cが形成してある構成である。
この理由は、このように構成すると、電気的に、現像ローラーと、感光体との間における液体現像剤の液切れがさらに良好になって、長期間にわたってリブレット現象の発生を防止し、優れた画像特性を安定的に得ることができるためである。
【0041】
また、導電性樹脂層を設ける場合、その厚さを5〜50μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、導電性樹脂層の厚さが、5μm未満の値となると、機械的強度が下がる場合があるためである。
一方、かかる導電性樹脂層の厚さが、50μmを越えた値になると、コート層が不均一になる場合があるためである。
したがって、現像ローラーの被覆層に設ける導電性樹脂層の厚さを5〜50μmの範囲内の値とすることが好ましく、10〜30μmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0042】
また、導電性樹脂層を設ける場合、その構成材料として、フッ素樹脂、ウレタンゴム等の樹脂を基材として、それに、所定量の導電性材料を混合することが好ましい。
この理由は、このような構成材料であれば、硬度、ヤング率、反発弾性率、濡れ性等の物性をコントロールすることができるためである。
【0043】
また、液体現像装置の一部を構成する現像ローラーの直径(Ddr)は特に制限されるものではないが、通常、10〜280mmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、現像ローラーの直径(Ddr)が10mm未満となると、感光体との間で発生するせん断力が大きくなって、それに起因して、トナーの離型性が悪くなり、画像濃度が低下する場合があるためである。
一方、現像ローラーの直径(Ddr)が280mmを超えると、感光体との間で発生するせん断力が過度に小さくなって、長期間にわたってリブレット現象の発生を防止することが困難となる場合があるためである。
したがって、現像ローラーの直径(Ddr)を15〜180mmの範囲内の値とすることがより好ましく、20〜50mmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0044】
(4)関係式
また、感光体の直径をDpcとし、現像ローラーの直径をDdrとしたときに、(Dpc−Ddr)>0の関係式を満足することが好ましい。
この理由は、感光体の直径(Dpc)と、現像ローラーの直径(Ddr)を考慮することにより、現像ローラーと、感光体との間で、液体現像剤の液切れが良好になるようにせん断力を発生させるためである。
すなわち、高いせん断力により、長期間にわたってリブレット現象の発生を防止し、優れた画像特性を安定的に得ることができるためである。
【0045】
但し、より有効にリブレット現象の発生を防止すべく、関係式(Dpc−Ddr)>10mmを満足することがより好ましく、関係式(Dpc−Ddr)>20mmを満足することがさらに好ましい。
一方、湿式画像形成装置の大きさが過度に大きくならないことを考慮すると、関係式(Dpc−Ddr)<100mmを満足することが好ましく、関係式(Dpc−Ddr)<80mmを満足することがより好ましく、関係式(Dpc−Ddr)<50mmを満足することがさらに好ましい。
【実施例】
【0046】
[実施例1]
1.湿式画像形成装置の準備
(1)感光体の準備
直径が40mmのアモルファスシリコン感光体を準備した。
なお、アモルファスシリコン感光体の形態は、図4に示す構成に準拠した。
【0047】
(2)現像ローラーの準備
次いで、ウレタンゴム材料からなり、基材硬度が30°である基材の周囲に、ジオール化合物およびジイソシアネート化合物から、ヤング率が25.6MPaであって、直径が20mmとなるように、厚さ2mmのウレタン樹脂被覆層を、金型を用いて積層したものを、実施例1における現像ローラーとした。
なお、被覆層のヤング率の微調整のため、ウレタン樹脂中に、フッ素化合物(PFA)を所定量添加したり、ウレタン樹脂の表面に、所定の被覆剤を塗布した。
【0048】
(3)湿式画像形成装置の準備
準備したアモルファスシリコン感光体および現像ローラーを、京セラミタ製の湿式画像形成装置の実験器に搭載し、実施例1の湿式画像形成装置とした。
【0049】
2.湿式画像形成装置の評価
得られた湿式画像形成装置を用いて、印刷実験(50%面積率ドット図、A4紙、300、000枚連続印刷)を行った。
次いで、図6に測定方法の流れを示すように、得られた画像における濃度ピークと、濃度平均値の差を測定し、得られた値を基にリブレット評価を実施した。なお、10mm角の50%面積率のパッチ画像をA4サイズ用紙(横通紙)に3箇所形成した。
すなわち、得られた各パッチ画像100倍で撮影し、パッチ内の任意の5箇所(一箇所は250×50Pixelの範囲)を、画像解析ソフト(Image J、フリーソフト)を用いて平均値とピーク値を求め、各パッチ画像について5箇所のピーク値と平均値をそれぞれ求め、さらにパッチ画像3箇所のピーク値と平均値の平均を求めて、リブレット値を算出した。
○:濃度差が20未満である。
△:濃度差が20〜25未満である。
×:濃度差が25以上である。
【0050】
[実施例2]
実施例2では、ウレタンゴム材料からなり、基材硬度が50°である基材を用いて、その周囲に、ウレタンからなるヤング率が25.6MPaである被覆層を備えた現像ローラーを用いたほかは、実施例1と同様に、湿式画像形成装置を作成し、評価した。
【0051】
[実施例3]
実施例3では、被覆層のヤング率が31.9MPaである現像ローラーを使用したほかは、実施例1と同様に、湿式画像形成装置を作成し、評価した。
【0052】
[実施例4]
実施例4では、被覆層のヤング率が19.6MPaである現像ローラーを使用したほかは、実施例1と同様に、湿式画像形成装置を作成し、評価した。
【0053】
[比較例1]
比較例1では、被覆層のヤング率が56.1MPaである現像ローラーを使用したほかは、実施例1と同様に、湿式画像形成装置を作成し、評価した。
【0054】
[比較例2]
比較例2では、シリコーンゴム材料からなり、基材硬度が25°である基材を用いて、その周囲に、フッ素系樹脂からなるヤング率が300MPaである被覆層を備えた現像ローラーを用いたほかは、実施例1と同様に、湿式画像形成装置を作成し、評価した。
【0055】
[比較例3]
比較例3では、シリコーンゴム材料からなり、基材硬度が50°である基材を用いて、その周囲に、フッ素系樹脂からなるヤング率が300MPaである被覆層を備えた現像ローラーを用いたほかは、実施例1と同様に、湿式画像形成装置を作成し、評価した。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の湿式画像形成装置および湿式画像形成方法によれば、現像ローラーの表面におけるヤング率を所定範囲に制限することによって、現像ローラーと、感光体との間で、液体現像剤の液切れが良好になるべく、所定のせん断力を発生させることができるようになった。
したがって、長期間にわたってリブレット現象やカブリの発生を防止し、優れた画像特性が安定的に得られるようになった。
よって、本発明の湿式画像形成装置を、各種プリンタ、ファクシミリ、コピー機等として、好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る湿式画像形成装置を説明にするために供する図である。
【図2】(a)〜(b)は、感光体と、現像ローラーとの間で、せん断力が発生する機構および液切れ性を説明にするために供する図である。
【図3】液体現像装置を搭載したタンデム型湿式カラー画像形成装置を説明にするために供する図である。
【図4】アモルファスシリコン感光体を説明にするために供する部分断面図である。
【図5】(a)〜(b)は、現像ローラーの変形例を説明にするために供する図である。
【図6】(a)〜(d)は、リブレット現象の評価手順を説明にするために供する図である。
【図7】(a)〜(c)は、リブレット現象を説明にするために供する図である。
【図8】(a)〜(b)は、従来の液体現像装置の構成を説明にするために供する図である。
【符号の説明】
【0059】
2:画像形成部
3:用紙収納部
4:二次転写部
5:定着部
6:排出部
7:用紙搬送部
10:湿式画像形成装置
11:液体現像剤
12:現像ローラー(現像剤担持体)
12a:被覆層(表面層)
12b:基材
12c:導電性樹脂層
13:アニロックスローラー
14:汲み上げローラー
15:ドクターブレード
17:帯電装置
18:液体現像装置
18a:回収液溜め
18b:廃棄液溜め
18c:供給装置
20:一次転写ローラー
21:中間転写ベルト
22:クリーニング部
32:クリーニングローラー
33:クリーニングブレード
45:液体現像剤タンク
51:感光体ドラム
52:除電装置
53:帯電装置
54:LED露光装置
57:クリーニングブレード
58:研磨装置
150:カラープリンタ(湿式画像形成装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光体と、
当該感光体を所定電位に帯電させるための帯電装置と、
前記感光体に対して、絶縁性液体中にトナーを分散させた液体現像剤を供給する現像ローラーと、
を備えた湿式画像形成装置であって、
前記現像ローラーの表面におけるヤング率を8〜50MPaの範囲内の値とすることを特徴とする湿式画像形成装置。
【請求項2】
前記現像ローラーが、被覆層と、基材と、を含んで構成されており、当該被覆層におけるヤング率を8〜50MPaの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載の湿式画像形成装置。
【請求項3】
前記現像ローラーの被覆層が、ウレタン樹脂を主構成材料として含んでおり、かつ、前記基材が、ウレタン樹脂以外のゴム材料を主構成材料として含んでいることを特徴とする請求項2に記載の湿式画像形成装置。
【請求項4】
前記現像ローラーの被覆層の硬度(JIS−A硬度)を50〜100°の範囲内の値とするとともに、前記基材の硬度(JIS−A硬度)を30〜100°の範囲内の値とすることを特徴とする請求項2または3に記載の湿式画像形成装置。
【請求項5】
前記絶縁性液体の粘度を15〜300mPa・sec(測定温度:25℃)の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の湿式画像形成装置。
【請求項6】
感光体と、
当該感光体を所定電位に帯電させるための帯電装置と、
前記感光体に対して、絶縁性液体中にトナーを分散させた液体現像剤を供給する現像ローラーと、
を用いた湿式画像形成方法であって、
少なくとも表面のヤング率が8〜50MPaの範囲内の値である現像ローラーを用いることを特徴とする湿式画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−79004(P2010−79004A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248121(P2008−248121)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】