説明

湿気硬化性樹脂組成物

【課題】経時で硬化遅延が起こりにくいという特徴を有する、アルコール脱離型シリコーン樹脂に基づく湿気硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】アルコール脱離型シリコーン樹脂、ジオクチル錫化合物と珪酸化合物を混合した触媒、シラザンを含有することを特徴とする湿気硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経時で硬化遅延が起こりにくいという特徴を有する、アルコール脱離型シリコーン樹脂に基づく湿気硬化性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂はポリシロキサン構造を有する化合物であり、耐熱性、耐寒性、耐水性、耐候性、電気絶縁性、撥水性、消泡性、離型性に優れるなど、他の有機化合物にはない特徴を有している。このため、オイル、ゴム、電気絶縁材料、シーリング、コーティング、撥水剤、消泡剤、離型剤など、幅広い分野で用いられている。その中でも湿気硬化型シリコーン樹脂は、通常状態では液状で流動性を有するが、空気中の水分(湿気)と反応することによりシラノール基を生成し、これを介して架橋反応が進行してゴム弾性体となるため、シーリング用途などに好適に用いられている。
【0003】
湿気硬化型シリコーン樹脂は、水と反応してシラノール基を生成する際に脱離、副生する化合物によって分類することができ、アルコール脱離型、オキシム脱離型、酢酸脱離型、アミド脱離型、アセトン脱離型などが存在する。用途によっては、これらの脱離化合物が好ましくない作用をする場合がある。例えば、オキシムは銅系金属と錯体を形成するため、電気電子用途に使用する際は変色や腐食に注意が必要である。また、酢酸は腐食性や刺激臭を有するため、注意が必要である。一方、アルコールはこのような制約を受けにくいため、アルコール脱離型シリコーン樹脂は汎用的な湿気硬化型シリコーン樹脂として用いられている。
【0004】
アルコール脱離型シリコーン樹脂は水分と反応することによって、アルコールを脱離してシラノール基を生成するが、そのままでは活性が低いため、触媒が用いられている。脱アルコール触媒としては、アルキルチタン酸塩やオクチル酸錫などのカルボン酸の金属塩、ジメチルアミンアセテートなどのアミン塩、酢酸テトラアミンアンモニウムなどのカルボン酸四級アンモニウム塩、テトラメチルペンタミンなどのアミン類、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミン系シランカップリング剤、p−トルエンスルホン酸などの酸類、アルミニウムアルコキシドなどのアルミニウム化合物、水酸化カリウムなどのアルカリ触媒、テトライソプロポキシチタネート等のチタン化合物が知られており、シーリングやコーティング用として求められる硬化性能を満たすには十分なものであった。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開平3−252414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アルコール脱離型シリコーン樹脂を接着剤として使用しようと試みた場合、前記触媒では硬化が遅かったり、混合直後の硬化性は良好であっても経時で硬化性の低下が著しい等の問題があり、接着剤としての硬化性能を満足できるものではなかった。なお、オキシアルキレン重合体の末端にアルコキシシリル基を有する変成シリコーン樹脂は湿気硬化型接着剤として使用されているが、硬化触媒として前記錫化合物などが用いられているにもかかわらず、接着剤として十分な硬化性を有している。脱アルコール反応する部位の化学構造は両者で共通しているため、なぜアルコール脱離型シリコーン樹脂においては、前記触媒で十分な活性が得られないかは定かではないが、現状、アルコール脱離型シリコーン樹脂に対して十分な活性を有する硬化触媒は見出されていない。
【0006】
本発明の課題は、経時で硬化遅延が起こりにくいという特徴を有する、アルコール脱離型シリコーン樹脂に基づく湿気硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、錫系触媒の中でもジオクチル錫化合物と珪酸化合物を混合した触媒を用い、さらにシラザンを用いることで、アルコール脱離型シリコーン樹脂の硬化性が接着剤としても満足できる程度に向上することを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、アルコール脱離型シリコーン樹脂、ジオクチル錫化合物と珪酸化合物を混合した触媒、シラザンを含有することを特徴とする湿気硬化性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明からなる湿気硬化性樹脂組成物は、従来のアルコール脱離型シリコーン樹脂と比較して硬化が速く、経時で硬化遅延が起こりにくいという特徴を有する。したがって、シーリングやコーティング用としてはもちろん、従来のアルコール脱離型シリコーン樹脂では適さなかった接着剤として用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に使用するアルコール脱離型シリコーン樹脂は主鎖にポリシロキサン構造を有するとともに、末端に空気中の水分と反応することによってアルコールを副生しながらシラノール基を生成するアルコキシシリル基を有し、シラノール基の架橋反応により硬化してゴム弾性体となるものである。一般式としては、下記化1で表される。
【化1】

ここでR2とR3は各々が独立して、置換されているかまたは置換されていないC1〜15の一価の炭化水素基であり、R1はアルキル基、アルキルエーテル基、アルキルエステル基、アルキルケトン基、アルキルシアノ基の中から選択されるC1〜8の脂肪族有機基、またはC1〜15ののアラルキル基であり、nは約50から約2500までの範囲の整数であり、aは0か1の整数である。
【0010】
本発明の湿気硬化性樹脂組成物は、硬化触媒としてジオクチル錫化合物と珪酸化合物を混合した触媒を用いることを特徴とする。
【0011】
また、前記ジオクチル錫化合物と珪酸化合物を混合した触媒とともに、ヘキサメチルジシラザンなどのシラザンを用いることが必要である。両者が揃ってアルコール脱離型シリコーン樹脂に用いられることにより、経時で硬化遅延が起こりにくいという本発明特有の効果を奏する。
【0012】
ジオクチル錫化合物と珪酸化合物を混合した触媒及びシラザンの配合量は、アルコール脱離型シリコーン樹脂100重量部に対してそれぞれ0.01〜30重量部が適当である。0.01重量部未満では硬化不足及び硬化遅延が生じ、30重量部を超えると反応が早くなりすぎて増粘が顕著になるため好ましくない。
【0013】
本発明の湿気硬化性樹脂組成物には、前記必須成分の他に各種添加剤を用いることができる。ビニル基やアミノ基などの官能基とアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤を添加することにより、保存安定性の改良、硬化促進、基材への密着性向上等の効果が得られる。
【0014】
充填材は粘度調整、粘性調整、固形分調整などの目的で用途に応じて配合され、具体例として炭酸カルシウム、硅砂、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、カオリンなどの無機充填材、硬化樹脂の補強のためにガラス繊維などの補強材、軽量化及び粘度調整などのためにシラスバルーン、ガラスバルーンなどの中空体などが挙げられる。なかでも、重質炭酸カルシウム、コロイド質炭酸カルシウム、表面処理炭酸カルシウムなど炭酸カルシウム系充填材が樹脂との混和性、混和された樹脂の安定性、コストなどの面から好ましい。アルコール脱離型シリコーン樹脂100重量部に対し、充填材を500重量部以内で配合することができる。
【0015】
希釈剤の配合によって樹脂組成物に柔軟性、流動性などを付与することができる。その具体例としてフタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)などフタル酸エステル系の希釈剤、ジメチルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコンーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイルなどのシリコーンオイル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アゼライン酸ジアルキル、セバシン酸ジブチル、エポキシ化大豆油、ポリプロピレングリコール、アクリルポリマーなどが挙げられる。アクリルポリマーの具体例としては、ARUFON UP−1000、UH−2000、UHE−2012、UC−3000、UG−4000、UF−5022(全て東亞合成株式会社製、商品名)などが挙げられる。なお、希釈剤と樹脂組成物の相溶性が悪い場合には、相溶化剤を用いてもよい。
【0016】
その他、酸化防止剤、粘性調整剤、顔料、防腐剤等を適宜使用することができる。また、二液型とする場合は硬化促進剤を使用することができる。硬化促進剤としては、分子内に活性水素基を持つ物質、例えば、水やヒドロキシル基あるいはアミノ基などの活性水素基を含有する官能基を有する物質や、ヒドロキシル基を有する物質として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、フェノール、メチルアルコール、エチルアルコールなどが挙げられる。
【0017】
次に、本発明について実施例、比較例により説明する。なお、本発明は実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0018】
各種触媒の活性を見るため、表1の配合で硬化性樹脂組成物を調製した。アルコール脱離型シリコーン樹脂(粘度12Pa・s)100重量部、U−780(ジオクチル錫化合物と正珪酸化合物を混合した触媒、日東化成株式会社製、製品名)1重量部、A−171(ビニルトリメトキシシラン、OSiスペシャリティーズ社製、製品名)0.5重量部を混合し、硬化性樹脂組成物Aを得た。また、表1記載の配合のように、U−370[ジブチル錫オキシドとフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)の反応生成物、日東化成株式会社製、製品名]、U−303(トリエトキシシリケート、日東化成株式会社製、製品名)、T−100(ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、日東化成株式会社製、製品名)を用いた他は前記方法に従い、硬化性樹脂組成物B〜Dを得た。
【0019】
それぞれの硬化性樹脂組成物について、製造1日後及び製造10日後に、金属板上に厚さ2mmとなるように塗布し、23℃、50%RH環境下にて接着剤が指に付着しなくなるまでの時間を測定し、皮張り時間とした。
【0020】
【表1】

【0021】
触媒としてU−370を用いたBは、1日後、10日後ともに硬化性は良好であった。U−303を用いたCでは、10日後の硬化性は1日後よりも大幅に低下しており、触媒が失活していることが示唆された。T−100を用いたDは、10日後の硬化性は1日後と変化はないが、そもそも1日後の硬化性がそれほど良いわけではなかった。U−780を用いたAは、1日後の硬化性はそれほど良くなく、10日後にはさらに若干の硬化性の低下が確認された。
【0022】
実施例1
アルコール脱離型シリコーン樹脂(粘度12Pa・s)100重量部、炭酸カルシウム200重量部、シランカップリング剤としてA−171を4重量部、A−1120(N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、OSiスペシャリティーズ社製、製品名)を4重量部、ヘキサメチルジシラザン(クラリアントジャパン株式会社製)3重量部、U−780を0.5〜4重量部混合し、実施例1〜3の湿気硬化性樹脂組成物を得た。
【0023】
比較例1〜3
表2記載の配合のように、実施例2においてU−780をU−370、U−303、T−100(さらに8部へ増量)に置き換えた他は実施例2と同様に行い、比較例1〜3の湿気硬化性樹脂組成物を得た。
【0024】
比較例4
実施例2において、ヘキサメチルジシラザンを配合しなかった他は実施例2と同様に行い、比較例4の湿気硬化性樹脂組成物を得た。
【0025】
実施例、比較例の各湿気硬化性樹脂組成物について、前記方法により、2日後、10日後、17日後、24日後における皮張り時間を測定し、表2に記載した。
【0026】
【表2】

【0027】
実施例1〜3の硬化性組成物は2日後の硬化性が良好で、24日後も顕著な硬化性の低下はなく良好であった。比較例1、2、4の硬化性組成物は2日後の硬化性は良好であったが、経時で顕著に硬化性が低下し、24日後の皮張り時間はいずれも40分以上となっていた。比較例3の硬化性樹脂組成物は、経時での硬化性の低下はなかったが、添加量が多いにもかかわらず硬化性はそれほど良くなかった。
【0028】
したがって、表1記載のような基本配合においては、ジオクチル錫化合物と珪酸化合物を混合した触媒と他の触媒との活性の差は見出せなかったが、表2記載のような充填材を含む実用的な配合においては、ジオクチル錫化合物と珪酸化合物を混合した触媒及びシラザンの組み合わせが他の触媒と比較して有意に活性が優れていることが分かる。その理由として、シラザンは加水分解によりアミンを生成するが、このアミンが何らかの作用をしているものと推察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール脱離型シリコーン樹脂、ジオクチル錫化合物と珪酸化合物を混合した触媒、シラザンを含有することを特徴とする湿気硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−239665(P2008−239665A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78480(P2007−78480)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】