説明

溝加工装置および溝加工方法

【課題】研磨布に溝を形成したときの切粉が集塵ボックス外に漏出して研磨布に付着したり、溝加工装置の周囲に飛散したりするのを抑制する溝加工装置および溝加工方法を提供する。
【解決手段】研磨布に溝を形成する溝加工装置であって、集塵ボックス7の下面部は、研磨布に溝を形成する際にこの研磨布を押える、または研磨布の表面に対向させる押え面20を備え、この押え面20に、加工工具5が設けられたピッチ間隔と略同等の間隔をあけて複数の貫通孔が形成され、複数の加工工具はそれぞれ、これらの貫通孔を通して各別に押え面20から定盤の面に向けて刃部が突出するように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体等の表面を研磨する研磨布に溝を形成する溝加工装置および溝加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の溝加工装置として、従来から、例えば下記特許文献1に示されるような、研磨布を固定する定盤と、この定盤の面に沿った方向および直交する方向それぞれに移動可能に設けられた加工工具とを備え、前記加工工具は、前記研磨布に溝を形成する刃部を備えるとともに、集塵手段と連通された集塵ボックス内に、前記定盤の面に沿った方向における一方向に所定のピッチ間隔をあけて複数設けられた構成が知られている。
そして、前記集塵ボックスの下面部は、加工工具が前記研磨布に溝を形成する際にこの研磨布を押える、または研磨布の表面に対向させる押え面を備え、この押え面において加工工具と対向する位置にその全域にわたって貫通孔が形成され、この貫通孔を通して押え面から前記複数の加工工具の刃部を突出させることによって、前記押え面で研磨布を押えつつ加工工具によりこの研磨布に溝を形成するようになっている。
【特許文献1】特開2004−291200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来例においては、押え面において加工工具と対向する位置にその全域にわたって貫通孔が形成されていたので、研磨布に溝を形成したときの切粉が貫通孔を介して集塵ボックス外に漏出して研磨布に付着したり、溝加工装置の周囲に飛散したりするという問題があった。
【0004】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、研磨布に溝を形成したときの切粉が集塵ボックス外に漏出して研磨布に付着したり、溝加工装置の周囲に飛散したりするのを抑制することができる溝加工装置および溝加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の溝加工装置は、研磨布を固定する定盤と、この定盤の面に沿った方向および直交する方向それぞれに移動可能に設けられた加工工具とを備え、前記加工工具は、前記研磨布に溝を形成する刃部を備えるとともに、集塵手段と連通された集塵ボックス内に、前記定盤の面に沿った方向における一方向に所定のピッチ間隔をあけて複数設けられた溝加工装置であって、前記集塵ボックスの下面部は、前記研磨布に溝を形成する際にこの研磨布を押える、または研磨布の表面に対向させる押え面を備え、この押え面に、前記加工工具が設けられた前記ピッチ間隔と略同等の間隔をあけて複数の貫通孔が形成され、前記複数の加工工具はそれぞれ、前記研磨布に溝を形成する際にこれらの貫通孔を通して各別に前記押え面から前記定盤の面に向けて刃部が突出するように設けられていることを特徴とする。
この発明によれば、前記押え面に、前記加工工具が設けられた前記ピッチ間隔と略同等の間隔をあけて複数の貫通孔が形成され、前記複数の加工工具はそれぞれ、前記研磨布に溝を形成する際にこれらの貫通孔を通して各別に前記押え面から前記定盤の面に向けて刃部が突出するように設けられているので、押え面における前記貫通孔の開口面積を最小限に抑えて集塵ボックス内の密封性を向上させることが可能になり、研磨布に溝を形成したときの切粉が集塵ボックス外へ漏出して研磨布に付着したり、溝加工装置の周囲に飛散したりするのを抑制することができる。
【0006】
ここで、前記集塵ボックス内の前記加工工具に向けてエアを噴射するエア噴射手段を備えてもよい。
この場合、エア噴出手段が備えられているので、加工工具に付着した切粉をこの加工工具から除去することが可能になるとともに、集塵ボックス内のエアを流動させることが可能になり、溝加工時に発生した切粉の集塵効率をさらに向上させることができる。
また、本発明の溝加工方法は、研磨布に溝を形成する溝加工方法であって、本発明の溝加工装置を用いて前記研磨布に溝を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る溝加工装置および溝加工方法によれば、研磨布に溝を形成したときの切粉が集塵ボックス外に漏出して研磨布に付着したり、溝加工装置の周囲に飛散したりするのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。本実施形態の溝加工装置1は、研磨布30を固定する定盤2と、この定盤2の面に沿った方向および直交する方向それぞれに移動可能に設けられた加工工具5とを備えている。定盤2は、基台6の上部中央部に鉛直軸周り方向Aに回転可能に取り付けられており、その上面に図示しない吸引機構によって研磨布30が固定される。研磨布30は、例えば線状の構成材料を重ね合わせた不織布、あるいは発泡ウレタン材等からなる円板状体とされている。
【0009】
加工工具5は、研磨布30が固定される定盤2の面に対して昇降可能に設けられた刃物台4に取り付けられている。さらに、この刃物台4は、前記定盤2の面に沿った方向において一方向およびこの一方向に直交する方向それぞれに移動可能に設けられた移動体3に取り付けられている。
具体的には、移動体3はテーブル7に搭載されており、テーブル7は、基台6の上部両側にそれぞれ設けられた一対のガイドレール8上に配置されるとともに、基台6の片側側部に設けられたスクリュー軸9と係合している。これにより、移動体3は、スクリュー軸9がX軸モータ10に駆動されることによりガイドレール8に沿ってテーブル7とともにX方向に移動するようになっている。
さらに、テーブル7上には、移動体3が配置されたガイドレール11、および移動体3と係合したスクリュー軸12が設けられ、移動体3は、スクリュー軸12がY軸モータ13に駆動されることにより、テーブル7上でガイドレール11に沿ってX方向と直交するY方向に移動するようになっている。
また、刃物台4は、図4に示すように、移動体3に対しZ軸モータ14の駆動によって昇降、つまり定盤2の面と直交するZ方向に移動可能に取り付けられている。
以上より、加工工具5は、前記定盤2の面に沿った方向(X方向およびY方向)および直交する方向(Z方向)それぞれに移動できるようになっている。
【0010】
加工工具5は、研磨布30に溝を形成する刃部を備えるとともに、図示されない集塵手段に連通された集塵ボックス17内に、前記定盤2の面に沿った方向における一方向(図示の例ではY方向)に所定のピッチ間隔をあけて複数設けられている。本実施形態では、 加工工具5は、図5に示すように、回転自在に支承されたシャフト15にその回転軸線方向に所定のピッチ間隔で複数取り付けられ、モータ16の駆動によってシャフト15とともに回転することで、研磨布30に溝を形成するようになっている。また、加工工具5は、円板状体とされ、研磨布30に形成する溝の間隔に応じたピッチ間隔で複数設けられるとともに、形成する溝の幅に応じた厚みのものが選定されている。さらに、この加工工具5の刃部は、円板状体の外周部にその全周にわたって形成されている。
なお、モータ16の出力軸とシャフト15との間には、プーリ27、28およびベルト29からなる動力伝達部が設けられている。
【0011】
集塵ボックス17は刃物台4に取り付けられ、集塵ボックス17において前記定盤2の面に対向して位置する下面部は、研磨布30に溝を形成する際にこの研磨布30を押える押え面20を備え、この押え面20において加工工具5と対向する位置に、図6に示すように、この加工工具5が設けられたピッチ間隔と略同等の間隔をあけて複数の貫通孔20aが形成され、複数の加工工具5はそれぞれ、研磨布30に溝を形成する際にこれらの貫通孔20aを通して各別に押え面20から前記定盤2の面に向けて刃部が突出するように設けられている。
【0012】
図示の例では、集塵ボックス17のうち、前記下面部は、図4および図5に示すように別部材とされ、ばね材を有する支持部22を介して刃物台4に取り付けられている。そして、溝加工時に押え面20が研磨布30を押えてばね材が縮小することによって、集塵ボックス17内が、前記集塵手段との連結部分24および前記貫通孔20aを除いて外部に対して密閉させられるとともに、研磨布30に対して支持部22のばね力で適宜の押え力を発生させるようになっている。また、集塵ボックス17の前記下面部は、複数の加工工具5と対向する位置の全域にわたって配置された板状体とされている。さらに、押え面20において溝加工時における加工工具5の進行方向の前端部20bは、この進行方向の前方における斜め上方に向けて傾斜している。また、集塵ボックス17の前記下面部は、押え面20で研磨布30を押えたときに、その研磨布30に帯電している静電気を除去できるような導電材によって形成されている。
【0013】
なお、刃物台4には、図4に示すように除電部材23が設けられている。除電部材23は、導電性の部材本体23aとブラシ23bとからなっており、溝加工時、研磨布30と接触することで、研磨布30に帯電している静電気を除去するとともに、溝加工時の切粉(切屑)を取り除くものである。
【0014】
さらに、本実施形態では、集塵ボックス17内の加工工具5に向けてエアを噴射するエア噴射手段18が備えられている。エア噴射手段18は、集塵ボックス17内において加工工具5の斜め上方に、この加工工具5が取り付けられたシャフト15の回転軸線方向に沿って延設されている。そして、このエア噴出手段18に、エア噴射手段18が延在する方向に沿って、加工工具5が設けられたピッチ間隔と略同等の間隔をあけて複数のノズル孔18aが形成され、これらのノズル孔18aがそれぞれ、各加工工具5に向けて開口している。なお、加工工具5とエア噴出手段18との間においてノズル孔18aの近傍には、静電気除電装置19がエア噴出手段18に沿って延設されている。
【0015】
次に、以上のように構成された溝加工装置1により研磨布30に溝を形成する方法について説明する。
まず予め、加工工具5をシャフト15に装着する一方、前記定盤2の面に研磨布30を載置して図示しない吸引手段により吸引固定する。次に、X軸モータ10の駆動でテーブル7をX方向に移動することと、Y軸モータ13の駆動でテーブル7上の移動体3をY方向に移動することと、Z軸モータ14の駆動で刃物台4をZ方向へ下降することとを選択的に行ったりそれらを適宜組み合わせたりすることで、研磨布30に対して加工工具5を位置決めする。その後、モータ16を駆動して加工工具5を回転することにより加工工具5で研磨布30を切削して溝を形成する。
この際、集塵ボックス17内において、エア噴出手段18のノズル孔18aからエアを噴射して加工工具5に付着した切粉を除去するとともに、この集塵ボックス17内のエアを流動させつつ、前記集塵手段を駆動し前記連結部分24を介して切粉を回収する。なお、溝加工時に、押え面20において、加工工具5が前記定盤2の面に向けて突出した部分同士の間に位置する部分、つまり貫通孔20a同士の間に位置する部分は、研磨布30を押えて集塵ボックス17内を閉塞している。
【0016】
以上説明したように、本実施形態に係る溝加工装置1によれば、押え面20において加工工具5と対向する位置に、複数の加工工具5がシャフト15に設けられているピッチ間隔と略同等の間隔をあけて複数の貫通孔20aが形成され、複数の加工工具5はそれぞれ、研磨布30に溝を形成する際にこれらの貫通孔20aを通して各別に押え面20から刃部が突出するように設けられているので、押え面20における貫通孔20aの開口面積を最小限に抑えて集塵ボックス17内の密封性を向上させることが可能になり、研磨布30に溝を形成したときの切粉が集塵ボックス17外に漏出して研磨布30に付着したり、溝加工装置1の周囲に飛散したりするのを抑制することができる。
【0017】
また、本実施形態では、集塵ボックス17内の加工工具5に向けてエアを噴射するエア噴射手段18が備えられているので、加工工具5に付着した切粉をこの加工工具5から除去することが可能になるとともに、集塵ボックス17内のエアを流動させることが可能になり、溝加工時に発生した切粉の集塵効率をさらに向上させることができる。
【0018】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
研磨布30に形成する溝の形態は特に限定されるものではなく、例えば直線状の溝が所定の間隔をあけて複数形成されたもの、あるいは放射状、螺旋状若しくは波形形状のような曲線状の溝、またはこれらの曲線状の溝を互いに交差させるようにしてもよく、さらには格子状に形成することもできる。
【0019】
また、前記実施形態では、加工工具5が回転することで研磨布30に溝を形成する構成を示したが、加工工具5としては、例えばバイト等のように進退移動することで溝加工を行うもの、あるいはドリル等のように回転して孔空け加工を行うものであってもよく、その形態は限定されるものではない。なお、このような加工の種類に応じて刃物台を適宜選択することで前記と同様の作用効果が奏効されることになる。
さらに、前記実施形態では、集塵ボックス17のうち前記下面部を別部材とし、溝加工時に押え面20が研磨布30を押えて支持部22のばね材が縮小することによって、集塵ボックス17内を、前記集塵手段との連結部分24および前記貫通孔20aを除いて外部に対して密閉する構成を示したが、これに代えて、例えば前記下面部を含めて集塵ボックス17全体を一体的に形成して、溝加工時か否かにかかわらず、集塵ボックス17内を、前記集塵手段との連結部分24および貫通孔20aを除いて外部に対して密閉するようにしてもよい。
また、前記実施形態では、定盤2として、鉛直軸周り方向Aに回転可能に設けられた構成を示したが、これに限らず、例えば上面視正方形若しくは矩形等とされて固定された状態で使用される構成を採用してもよい。
さらに、前記実施形態では、研磨布30に溝を形成する際に、押え面20で研磨布30を押えたが、研磨布の種類によっては、溝を形成する際に、押え面20を、研磨布30に接触させずこの研磨布30の表面に対向させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
研磨布に溝を形成したときの切粉が集塵ボックス外に漏出して研磨布に付着したり、溝加工装置の周囲に飛散したりするのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態として示した溝加工装置を示す平面図である。
【図2】図1に示す溝加工装置の正面図である。
【図3】図1に示す溝加工装置の側面図である。
【図4】図2および図3に示す刃物台の拡大図である。
【図5】図4に示す刃物台の正面図である。
【図6】図4および図5に示す集塵ボックスの下面部の全体斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 溝加工装置
2 定盤
5 加工工具
17 集塵ボックス
18 エア噴射手段
20 押え面
20a 貫通孔
30 研磨布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨布を固定する定盤と、この定盤の面に沿った方向および直交する方向それぞれに移動可能に設けられた加工工具とを備え、
前記加工工具は、前記研磨布に溝を形成する刃部を備えるとともに、集塵手段と連通された集塵ボックス内に、前記定盤の面に沿った方向における一方向に所定のピッチ間隔をあけて複数設けられた溝加工装置であって、
前記集塵ボックスの下面部は、前記研磨布に溝を形成する際にこの研磨布を押える、または研磨布の表面に対向させる押え面を備え、この押え面に、前記加工工具が設けられた前記ピッチ間隔と略同等の間隔をあけて複数の貫通孔が形成され、前記複数の加工工具はそれぞれ、前記研磨布に溝を形成する際にこれらの貫通孔を通して各別に前記押え面から前記定盤の面に向けて刃部が突出するように設けられていることを特徴とする溝加工装置。
【請求項2】
請求項1記載の溝加工装置において、
前記集塵ボックス内の前記加工工具に向けてエアを噴射するエア噴射手段を備えることを特徴とする溝加工装置。
【請求項3】
研磨布に溝を形成する溝加工方法であって、
請求項1または2に記載の溝加工装置を用いて前記研磨布に溝を形成することを特徴とする溝加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−87133(P2008−87133A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272956(P2006−272956)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(390004879)三菱マテリアルテクノ株式会社 (201)
【Fターム(参考)】