説明

溝型誘導加熱装置における電源損傷防止方法

【課題】溝型の流路を有する溝型誘導加熱装置を用いて溶銑を加熱するに当たり、溶銑中に巻き込まれた炉内スラグや炉内で生成した酸化物などの異物が流路に付着して流路が閉塞しても、電流の変動を緩和するようにして電源の損傷を防止することのできる溝型誘導加熱装置における電源損傷防止方法を提供する。
【解決手段】流路23を形成する耐火物19にあらかじめ鉄を含浸させておき、異物22などによる流路の閉塞時には前記鉄含浸領域24に電流を逃がすことにより、電流が完全には遮断されないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉から出銑された溶銑を転炉で精錬する前に一旦貯蔵するための貯銑炉に設置される、溝型の流路を有する溝型誘導加熱装置における電源損傷防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉から出銑された溶銑は、トーピードカーや溶銑鍋などの溶銑搬送容器で受銑され、必要に応じて脱硫処理、脱燐処理などの予備処理が施された後に転炉へ輸送され、転炉で脱炭精錬が行われている。このとき、高炉からの出銑タイミングや転炉における処理量の変動などによって生ずる溶銑の過不足を調整するために、転炉で脱炭精錬する前に溶銑を一旦貯銑炉に貯蔵する場合がある。貯銑炉内の溶銑は、出銑口などの開口部からの放熱及び耐火物からの抜熱によって温度低下を招くため、溶銑の加熱が必要になっている。
この溶銑の加熱には、貯銑炉に設けた、溝型の流路を有する誘導加熱装置(以下、溝型誘導加熱装置ともいう)が用いられている。
【0003】
図5は、誘導加熱装置の加熱原理を説明する図である。鉄心80の誘導コイル81を一次回路とし、流路内を満たす溶銑により形成される1ターンの溶銑電路82を二次回路とする変圧器回路83により説明できる。
【0004】
つまり、誘導コイル81に電源装置84から通電することにより、鉄心80に磁束Fが発生し、この磁束Fが溶銑電路82と鎖交することにより誘導電流Iが発生し、溶銑がこの誘導電流Iによるジュール発熱によって加熱される。
【0005】
一般に、流路内の溶銑中に生ずる誘導電流により、流路内の溶銑には流路の断面を収縮させる方向のローレンツ力(電磁気力)が作用する。このローレンツ力は、一般にピンチ力と称され、このピンチ力によって流路内の溶銑が収縮し、ピンチ力が大きい場合には流路内の溶銑が切断される状態にまで至る。ピンチ作用によって流路内の溶銑が収縮し、更に収縮によって流路内の溶銑が切断される現象を、ピンチ現象と称している。
【0006】
このようなピンチ現象が発生すると、鉄心に巻いた誘導コイルに流れる電流の変動が激しくなり、溶銑の加熱に必要な電力を安定して供給することができなくなるとともに、電源の負荷が増大し電気回路が損傷するトラブルに至ることもある。
【0007】
また、溶銑中に巻き込まれた炉内のスラグや炉内で生成した酸化物が異物として流路の内壁に付着することから、流路の縮小や時には流路の閉塞が発生する。これにより、流路の断面積が狭くなるため、断面積当たりの溶銑に流れる誘導電流が増加し、上述のピンチ現象がより一層発生しやすくなるという問題が生ずる。
【0008】
この対策として、例えば特許文献1には、鉄心に巻いた誘導コイルに、高出力の通電と低出力の通電とを交互に供給し、これによって異物による流路の閉塞を抑制する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2004−218038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されている方法には、以下の問題点がある。即ち、特許文献1の方法は、液体である溶銑の流速の強度を変更して異物を洗い流すという方法であるため、比較的付着力の弱い異物しか洗い流すことはできず、流路の閉塞を十分には抑制することができずにピンチ現象が発生して電源を損傷してしまう場合があるという問題点がある。
【0010】
本発明は、このような問題を鑑みなされたものであり、溝型の流路を有する溝型誘導加熱装置を用いて溶銑を加熱するに当たり、溶銑中に巻き込まれた炉内スラグや炉内で生成した酸化物などの異物が流路に付着して流路が閉塞しても、電流の変動を緩和するようにして電源の損傷を防止することのできる溝型誘導加熱装置における電源損傷防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係る発明は、溝型の流路を有する誘導加熱装置を用いて貯銑炉に貯えられた溶銑を誘導加熱するにあたって、前記流路を形成する耐火物にあらかじめ鉄を含浸させておき、流路の閉塞時には前記鉄含浸領域に電流を逃がすことにより、電流が完全には遮断されないようにすることを特徴とする溝型誘導加熱装置の電源損傷防止方法である。
【0012】
また本発明の請求項2に係る発明は、貯銑炉に貯えられた溶銑を誘導加熱する、溝型の流路を有する溝型誘導加熱装置であって、前記流路を形成する耐火物は、あらかじめ鉄を含浸するものであることを特徴とする溝型誘導加熱装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、流路の閉塞時に鉄含浸領域に電流を逃がすことにより、電流が完全には遮断されないようにしたので、電源の負荷が異常に増大するのを防止し電源設備のトラブルを回避することが可能となる。その結果、溶銑の加熱効率が向上するなど安定した昇熱操業が達成され、工業上有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を具体的に説明してゆく。図3は、本発明に係る溝型誘導加熱装置を備えた加熱式貯銑炉の概略断面を示す図である。図4は、図3のB−B矢視による概略断面を示す図である。図中、10は貯銑炉、11は鉄皮、12は溝型誘導加熱装置、14は受銑口、15は出銑口、18は溶銑、および19は耐火物をそれぞれ表す。
【0015】
図3及び図4に示すように、円筒状の貯銑炉10は、外殻を鉄皮11とし、この鉄皮11の内側に耐火物19が施工されていて、溶銑鍋やトーピードカーなどの溶銑搬送容器(図示せず)から溶銑18を受銑するための受銑口14、及び、貯蔵した溶銑18を装入鍋などの溶銑保持容器(図示せず)に排出するための出銑口15が、貯銑炉10の側壁に設置されている。
【0016】
また、貯銑炉10の側壁下部には、4基の溝型誘導加熱装置12が配置されている。高炉から出銑された溶銑18は、必要に応じて脱硫処理、脱燐処理などの溶銑予備処理を施した後、受銑口14から貯銑炉10に装入され、溝型誘導加熱装置12で加熱しながら貯蔵される。そして、貯銑炉10からの出銑時は貯銑炉10を傾動し、出銑口15から溶銑18を出銑する。
【0017】
図1は、本発明に係る溝型誘導加熱装置の概略断面を示す図である。図2は、図1のA−A矢視による概略断面を示す図である。図中、20は誘導コイル、21は鉄心、22は異物、23は流路、および24は鉄含浸領域をそれぞれ表す。なお、その他の符号は、図1および2と同様である。
【0018】
溝型誘導加熱装置12は、図1及び図2に示すように、溶銑18が通るための径路となる流路23を形成する耐火物製の箱体に、誘導コイル20の巻かれた鉄心21を配置した構成であり、流路23は貯銑炉10の内部と連通している。誘導コイル20に交流電流を流すことによって、ループ状の流路23と鎖交する交流磁束を生じさせ、ループ状の流路23の内部の溶銑18に誘導電流を発生させ、この誘導電流により発生するジュール熱によって溶銑18を加熱する。
【0019】
また、この誘導電流と、誘導コイル20による交流磁束とによって流路23の内部の溶銑18にはローレンツ力が働き、溶銑18は流路23の内部を移動し、それにより流路23の流入口から流出口に向かう流れが形成される。つまり、加熱された溶銑18は流出口から排出され、代わって貯銑炉10の内部の溶銑18が流入口から溝型誘導加熱装置12に流入して、溶銑18は順次加熱される。なお、図1における流路内の矢印は、溶銑18の流れの方向を示している。
【0020】
溝型誘導加熱装置12によって溶銑18を加熱する際には、溶銑18に巻き込まれたスラグや貯銑炉10の内部で生成した酸化物などが流路23の内壁に付着堆積して、異物22を形成する。この形成・成長した異物22によって、流路23が縮小・閉塞するピンチ現象が生ずることにより起こる誘導電流の急激な変動または遮断により電源装置が破損する。
【0021】
本発明では、図1に示すように、流路を形成する耐火物19の一部または全部に鉄を含浸させた鉄含浸領域24を設けることを特徴としている。流路23が縮小・閉塞に至る場合には、鉄含浸領域24に電流が流れることで誘導電流の変動が緩和し、完全遮断に至ることがない。この間に電源装置を停止する(電源装置を停止する時間的余裕が生まれる)ことにより、電源装置が損傷することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る溝型誘導加熱装置の概略断面を示す図である。
【図2】図1のA−A矢視による概略断面を示す図である。
【図3】本発明に係る溝型誘導加熱装置を備えた加熱式貯銑炉の概略断面を示す図である。
【図4】図3のB−B矢視による概略断面を示す図である。
【図5】誘導加熱装置の加熱原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0023】
10 貯銑炉
11 鉄皮
12 溝型誘導加熱装置
14 受銑口
15 出銑口
18 溶銑
19 耐火物
20 誘導コイル
21 鉄心
22 異物
23 流路
24 鉄含浸領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝型の流路を有する誘導加熱装置を用いて貯銑炉に貯えられた溶銑を誘導加熱するにあたって、
前記流路を形成する耐火物にあらかじめ鉄を含浸させておき、流路の閉塞時には前記鉄含浸領域に電流を逃がすことにより、電流が完全には遮断されないようにすることを特徴とする溝型誘導加熱装置の電源損傷防止方法。
【請求項2】
貯銑炉に貯えられた溶銑を誘導加熱する、溝型の流路を有する溝型誘導加熱装置であって、
前記流路を形成する耐火物は、あらかじめ鉄を含浸するものであることを特徴とする溝型誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−24941(P2009−24941A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188904(P2007−188904)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】