説明

溶媒の存在下での過酸化水素によるオレフィン性化合物のエポキシ化方法

【課題】高い反応速度で、およびそれがメタノールの溶媒としての使用を必要としない、過酸化水素でオレフィン性不飽和化合物をエポキシ化するための活性で特異的な触媒を提供する。
【解決手段】溶媒の存在下、50°〜140°の範囲の温度での過酸化水素によるオレフィン性化合物の炭素−炭素二重結合の液相における液相エポキシ化方法。無定形キャリア上に支持された酸化チタン触媒を使用し、その触媒が、比表面積50〜900m2/gの範囲のシリカを、C〜Cアルコールである溶媒中でチタンアルコキシドの溶液で含浸し、過剰の溶液および溶媒を分離して、50を超えるエポキシド特異性を得る。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
エチレンオキシド、プロピレンオキシド、グリシドール等のエポキシドは、広範囲の生成物の製造における中間生成物である。例えば、エポキシドを加水分解することにより、凍結防止剤流体の配合において、またはポリエステル等の縮合重合体の製造においてモノマーとして用いられるグリコールを得ることができる。エポキシド環の開裂重合によって生成されるポリオールは、ポリウレタンフォーム、シーラントエラストマー、ライニング等の製造において、広く用いられている。そのアルコールとの反応により、多数の用途において極性溶媒として用いられるグリコールエーテルが得られる。
【0002】
オレフィン性不飽和化合物のエポキシ化は、広範囲の反応剤により行うことができる。有機ヒドロペルオキシドによるオレフィンの液相でのエポキシ化は特に興味深いものであり、用いられたヒドロペルオキシドから誘導されたアルコールを共生成物として与えるこれらの反応にもかかわらず、そのプロセスは産業的に用いられている。他方、過酸化水素による触媒的なエポキシ化は、経済的な要素のため、および効率的な触媒の欠如のため、成功したものとなってはいなかった。しかしながら、80年代にイタリアのグループは、チタン原子が結晶格子の構造中の場所を占めるMFI型の構造を有する微孔性の固体で、チタンシリカライト(silicalyte)と呼ばれる触媒を開発した(米国特許第4410501号、第4666692号、第4701428号、第4824976号、および第4833260号)。これらのチタンおよびシリカの化合物は、TS−1として知られており、溶媒の存在下または非存在下で、過酸化水素によるオレフィン性化合物のエポキシ化のための効果的な触媒である。エポキシ化がアルコールまたは水等のプロトン性の媒体中で行われる時、たとえエポキシドに対する特異性が高いとしても、動力学的および特異性の両方の理由のために、溶媒としてのメタノールの重要な量の使用が非常に重要である。このアルコールは、助触媒と考えられる(M.G. Clericiら、J. Catal.129、159(1991);M.G. Clericiら、Green Chemistry、ACS Pub. Services、1996、第58頁中)。この溶媒の使用は、それがプロピレンおよびメタノール間の最も近い沸点によって、生成物に対する以降の精製段階を妨害するという事実のために、ポリプロピレンのエポキシ化において問題点を有する(ヨーロッパ特許出願第673935 A2)。
【0003】
たとえエポキシドに対する特異性が相対的に高いとしても、エポキシ化反応の間に、オキシラン環の非選択的な切断が起こる。エポキシドに対する特異性を増大させるために、これらの望ましくない副生物形成の原因となる触媒の表面酸性サイトに対する中和化試薬で、その触媒を処理してもよい(米国特許第4824296号、ヨーロッパ特許第230949号)。その後、ヨーロッパ特許出願第712852 A1は、塩化リチウム、硝酸ナトリウム等の小量の非塩基性塩の存在下でエポキシ化が行われるとき、この同様の効果を達成できることを示している。
【0004】
他方、チタンシリカライト(5.6×5.3Å)の小さい孔サイズの結果として、嵩高い(voluminous)オレフィンがその活性サイトに到達することができないため、これらの触媒でエポキシ化することができない広範囲のオレフィンが存在する。これらの制限を避けるために、何人かの著者は、例えばベータゼオライト構造(Tiβ)等の格子中でのチタンによる、より大きい孔サイズのゼオライトの合成まで進んだ(スペイン特許出願第9101798号、Camblor ら、J. Chem. Soc. Chem. Commun.,第589頁(1992)中、および米国特許第5412122号)が、オキシラン環の切断を有利にする格子中の酸性サイト(アルミニウム)の存在により、エポキシドに対しては非常に低い特異性しか得られない。これらの問題により、何人かの著者は、格子内にアルミニウムが存在しないTiβ化合物の合成を主張している(米国特許第5374747号および第5621122号、およびヨーロッパ特許第659685号、およびCamblor ら、Chem. Commun.,第1339頁(1996)中)が、それにもかかわらず、それは未だにエポキシドに対して非常に低い特異性しか示さない。
【0005】
市販の水溶液における過酸化水素の比較的高い価格、および濃縮溶液の輸送における困難性は、エポキシドおよび過酸化水素を得るための合同のプロセスにおいてこれらの触媒を使用するという提案を生み出した。このように、例えば、ヨーロッパ特許第526947号は、それにより、アルキルヒドロアントラキノンからなるレドックス系を用いて酸素または空気の反応により過酸化水素が「その場で」製造され、且つ、一または数種の芳香族炭化水素、1以上の高沸点の極性の有機化合物、および低分子量アルコール(メタノール)を含む特定の溶媒の混合物およびチタンシリカライト触媒の存在下で、オレフィンと反応するエポキシドの製造方法を記載している。上記刊行物には、複合溶媒混合物を使用する明確な理由は示されていないが、アルキルアントラキノンおよびアルキルヒドロアントラキノンが、共通の溶媒中で低い溶解性を示し、決められた反応器の容積中で生成できる過酸化水素の最大量を制限することは知られている。また、ヨーロッパ特許第549013号は、アルキルヒドロアントラキノン・レドックス系の酸化プロセスから生じているH22 を抽出するために、水−アルコール溶媒の混合物を用いる、チタンシリカライトの存在下で過酸化水素を用いるオレフィンのためのエポキシ化プロセスを記述している。上記で示されたように、用いられたアルキルヒドロアントラキノンは溶媒中で低い溶解性を有し、それは、そのプロセスの商業的な有用性をかなり制限する。米国特許第5463090号は、過酸化水素を含む複合反応混合物を与えるために、スルホン酸置換基を有するアルキルヒドロアントラキノンの塩の酸化に基づくエポキシド製造のための統合プロセスを記述している。酸化反応の生成物は、触媒としてのチタンシリカライトの存在下で、オレフィンのエポキシ化において用いられる。このように、異なる溶媒におけるアルキルヒドロアントラキノン塩の溶解性が、その反応器のサイズを実質的に減少させると主張された。米国特許第5214168号および第5384418号、およびヨーロッパ特許第568336号および第732327号は、酸素または空気による第二級アルコールの酸化により、過酸化水素および対応するケトンを得るオレフィンのエポキシ化のためのプロセスを記述している。得られる(またはその後の処理された)H22 溶液は、触媒としてのチタンシリカライト、および溶媒としてのメタノールを用いるオレフィンのエポキシ化において用いられる。これら全てのエポキシ化方法は、そのエポキシ化段階で格子中にチタンを有するモレキュラーシーブ型触媒を用いるが、それらの合成における困難性のために、その触媒は非常に高い価格を有する。これらの触媒は反応媒体中で速く不活性化されるため、産業におけるそれらの使用、およびその再利用の容易化(ヨーロッパ特許第200260号)、またはその製造方法の改良(ヨーロッパ特許第638362号)のために、不活性バインダーの使用が必要となり、これは用いられた触媒における活性な段階を減少させる。
【0006】
例えば、米国特許第3642833号、第3923843号、第4021454号および第4367342号に言及されているように、シリカで支持されたチタン触媒は、有機ヒドロペルオキシドによるオレフィンのエポキシ化において効果的なことが知られている。一般に、これらの触媒は、過酸化水素によるオレフィンのエポキシ化に効果的でないと信じられている。しかしながら、特許WO94/23834号は、シリカおよびチタンをベースとする触媒、および広範囲の化学的酸化反応、特に、過酸化水素または有機ヒドロペルオキシドによるオレフィンのエポキシ化におけるそれらの使用を記述している。これらの触媒は、例えば、エポキシドに対して72%を越えない(特許WO94/23834号中の例26を参照)という中位の特異性を示すにもかかわらず、ある実験的条件の下で無定形のシリカをチタン弗化物で含浸する(impregnating)ことによって合成される。
【0007】
このように、現在の技術では、より経済的で、製造が容易で、再生させるのが容易で、比較的高い温度で働くことができ、高い反応速度で、およびそれがメタノールの溶媒としての使用を必要としない、過酸化水素でオレフィン性不飽和化合物をエポキシ化するための新しい活性で特異的な触媒を利用可能とすることのニーズが感じられている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
我々は自身で、完全に予想外の方法で、本発明にしたがって製造されたシリカ支持されたチタン触媒を用いることによって、先行技術におけるこれらの問題を避けることができ、および/または最小化できることを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の主題は、比表面積50〜900m2/gのシリカを有機溶媒中のチタンアルコキシド(alkoxyde)またはチタノセン(titanocene)の溶液で含浸し、次いで公知の手段、例えば濾過、デカンテーション、遠心分離、または蒸発により過剰な溶液を分離することによって製造された、シリカで支持されたチタン触媒の存在下で、オレフィン性の不飽和化合物のための過酸化水素によるエポキシ化方法である。このように単離された固体の触媒は、本発明に従うエポキシ化方法において用いられる前に、所望により、乾燥方法、および好ましくは活性化前処理に供してもよい。正確な前処理方法は、用いられるチタンアルコキシド、チタノセン、および溶媒の性質に依存するが、一般的には、前処理は、窒素、アルゴンまたは二酸化炭素等の不活性ガスの存在下で、または酸素を含むガス、例えば空気等の存在下で、最初に製造された触媒の加熱における、不活性および酸化的な雰囲気中での連続的な処理から成る。その前処理の機能は、含浸中で用いられた有機チタン化合物の、対応するオキサイドへの変換である。したがって、例えばチタンイソプロポキシドまたはチタンブトキシド等の触媒の初期成分は、その酸化的または不活性雰囲気中で酸化チタン(titanium oxide)になる。前処理温度は、臨界的ではなく、200〜1000℃の間で、および1〜48時間の間で変化してもよい。
【0010】
本発明は、例えば、以下の態様を含む。
【0011】
[1] 溶媒(solvents)の存在下、約50°〜140℃の範囲の温度での過酸化水素によるオレフィン性化合物の炭素−炭素二重結合の液相における液相エポキシ化方法であって、シリカで支持されたチタン触媒を使用し、その触媒が、比表面積50〜900m2 /gの範囲のシリカを、酸素化された有機溶媒中でチタンアルコキシドおよび/又はチタノセンの溶液で含浸し、次いで過剰の溶液および溶媒を分離することによって製造されることを特徴とする方法。
【0012】
[2] 前記酸素化された有機溶媒が、C1 〜C8 アルコールであることを特徴とする[1]に従う方法。
[3] 含浸によって、約0.01〜0.1質量%(重量%)(100gの触媒当たりのアルカリまたはアルカリ土類金属の重さ)の範囲の量のアルカリまたはアルカリ土類金属塩が、前記触媒に加えられることを特徴とする[1]又は[2]に従う方法。
[4] 有機溶媒中の約1〜15質量%(重量%)の範囲の濃度で過酸化水素溶液を用いることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに従う方法。
【0013】
[5] 第二級アルコールを分子状酸素または空気で酸化することによって得られる過酸化水素溶液を用いることを特徴とする[4]に従う方法。
[6] 前記オレフィン性化合物がアルケンまたはシクロアルケンであることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに従う方法。
[7] 前記アルケンがプロピレンであることを特徴とする[6]に従う方法。
【0014】
[8] 前記シクロアルケンがシクロヘキセンであることを特徴とする[6]に従う方法。
[9] 前記オレフィン性化合物がアリルアルコールであることを特徴とする[6]に従う方法。
[10] 前記オレフィン性化合物がフマル酸またはマレイン酸、またはそのエステル、無水物または混合物の一つであることを特徴とする[6]に従う方法。
【0015】
[11] C6 〜C9 芳香族アルコールまたはC1 〜C6 脂肪族アルコールをエポキシ化反応において溶媒として用いることを特徴とする[1]〜[10]のいずれかに従う方法。
[12] 前記有機溶媒が、2−メチル−2−プロパノール、または2−メチル−2プロパノールを含む有機溶媒の混合物であることを特徴とする[11]に従う方法。
【0016】
ノーマルな条件で液体であり、それらの分子中に1〜8個の炭素原子を含む、分子中に少なくとも1 個の酸素原子を含む化合物は、本発明に従うシリカの含浸において有機溶媒として使用することが好ましい。例えば、適切な溶媒は、アルコールおよびグリコール、ケトン、エーテルおよびエステルである。エチレングリコール、およびプロピレングリコール等のグリコール;ジメチルケトンおよびメチルエチルケトン等のケトン;ジイソプロピルエーテル、メチルtert- ブチルエーテル、およびテトラヒドロフラン等のエーテル;酢酸メチルおよび酢酸ブチル等のエステルを用いることができる。特に好ましいものは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、シクロヘキサノール、およびメチルおよびジメチルヘキサノール等の、1〜8個の炭素原子のアルコールである。
【0017】
本発明によれば、含浸する溶液は、C1 〜C8 アルコール中0.05〜10モル/リットルの範囲のチタン濃度での、チタンアルコキシド溶液(1〜8個の炭素原子を含むアルコキシド基で)、またはチタノセン溶液(5〜10個の炭素原子のシクロペンタジエニルまたは置換シクロペンタジエニルで)を好ましくは含むべきである。その溶液のチタン濃度およびその量は、最終的な触媒におけるチタン濃度が約0.1〜10質量%(重量%)の間に入るように選択されなければならない。含浸は、1回のみ、またはいくつかの段階で行うことができるが、この後者の場合、所望により、公知の方法で中間の乾燥および焼成(calcination )を伴ってもよい。
【0018】
不飽和オレフィン性化合物のエポキシ化において、触媒に対して、促進剤として、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウム等の少量のアルカリまたはアルカリ土類金属塩を組み込むことは好ましい。そうするために、シリカは、水中または有機溶媒中の促進剤溶液で以前に含浸され、次いで、そのシリカをチタン溶液で含浸するか、または、酸素化された有機溶媒中で、促進剤およびチタン化合物の溶液でのシリカの含浸を一段階で行ってもよい。用いられる促進剤の量は少量であり、一般に、0.01質量%(重量%)〜1質量%(重量%)の間(個々の触媒100gあたりの促進剤の質量)において変化する。促進剤の機能は、望ましくない生成物を生じる可能性があり、および通常は触媒上の表面酸サイトにより触媒されるオキシラン環の切断を防ぎ、且つ、エポキシドの形成に関するこの物質における特異性を改善することである。
【0019】
本発明に従って製造される触媒は、過酸化水素との反応によってオレフィン性化合物の炭素−炭素二重結合の液相におけるエポキシ化に、特に適切である。
【0020】
本発明に従ってエポキシ化できるオレフィン性化合物の炭素−炭素二重結合は、下記式によって記述することができる。
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、R1 、R2 、R3 およびR4 は、水素またはハロゲン原子、アルキル、アリール(aryl)、シクロアルキル、アリールアルキル基、またはカルボキシル、エステル、アンヒドロ、スルホニック、ニトリルまたはエーテル基であることができる。そのアルキル、シクロアルキル、アリールアリル(arylallyl )およびアリール基は、カルボキシル、エステル、スルホン酸、ニトリル、ハロゲン、ヒドロキシルおよびケトン基をも含むことができる)。我々の発明は、広範囲のオレフィン性化合物に適用できることが理解できる。一般に、非芳香性の二重結合を含む全てのオレフィン性化合物を、過酸化水素でエポキシ化することが可能である。
【0023】
本発明に従って過酸化水素によるエポキシ化が可能なオレフィン性基の大きいグループは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘキサデセン等の2〜18個の炭素原子を含むアルケンである。しかしながら、実際には、プロピレンおよびC4 −オレフィンが好ましい。
【0024】
シクロアルケンおよび置換シクロアルケンは、本発明に従ってエポキシ化することが可能なオレフィン化合物の他の類を構成する。適切なシクロアルケンは、例えば、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、およびシクロドデセンである。ジシクロペンタジエン、シクロオクタジエン、およびビニルシクロヘキセン等のそれらの分子中に1個を越える二重結合を有する環状オレフィン性化合物を用いてもよい。例えばスチレン、ジビニルベンゼン等の、アリール性の置換基を有するアルケンを用いてもよい。更に、それらの大きい体積のために、他の微孔性の触媒ではエポキシ化されることができない、オレフィン性化合物(例えばノルボルネン等)も包含される。
【0025】
本発明に従って用いることができるオレフィン性化合物は、炭素−炭素二重結合に直接にリンクされた、またはリンクしていない他の官能基を含むことができる。例えば、アリルアルコールおよびそのエステル、臭化塩化アリル、アクリルおよびメタアクリル酸およびそれらのエステル、フマル酸およびマイレン酸およびそれらのエステル等である。
【0026】
市販の約30質量%(重量%)の水溶液の過酸化水素は、市場に出ている標準品であるが、それには比較的高い価格という欠点がある。しかしながら、本発明のプロセス主題は、有機溶媒中の過酸化水素希釈化溶液を使用するという利点を有する。好ましい過酸化水素の濃度は、1〜15%の範囲内である。有機溶媒中のこれらの希釈された過酸化水素溶液は、例えば、イソプロピル(isopropylic )アルコール、1−フェニルエタノール、アルキルヒドロアントラキノン等の第二級アルコールの分子酸素による公知の方法に従う酸化によって、低い価格で得ることができるが、好ましくは、スペイン特許第9603201号に記述されるように、過酸化水素の事前の精製または抽出なしに、オレフィン性化合物のエポキシ化において直接に用いる。
【0027】
エポキシ化のための反応温度は、好ましくは30〜140℃の間(より好ましくは60〜100℃の間)であり、それは、非選択的な過酸化水素の分解を最小限としつつ、短い反応時間でオレフィンをエポキシドへ選択的に変換させるのに充分である。一般に、エポキシドの単離および精製段階において、反応器の出口での生成物中の過酸化水素の存在に関連したリスクを避けるために、過酸化水素の変換は出来る限り完全に、好ましくは90質量%(重量%)を越え(above )、より好ましくは95質量%(重量%)を越えて変換を行うことが有利である。最適の反応温度は、要素の中でも、とりわけ、触媒の濃度、オレフィン性化合物の反応性およびその濃度によって、および溶媒のタイプによって決定される。一般に、上記の変量に依存して、10〜300分の間の滞留時間が適切である。反応は、反応混合物の成分を液相で維持するために、大気圧で、または高圧(典型的には0.1〜10Mpaの間で)で行うことが好ましい。例えば、大気圧でエポキシ化反応温度より低い沸点を有するオレフィン(例えばプロピレン)をエポキシ化するとき、プロピレンを液相で維持するために充分な圧力で操作することが必要である。
【0028】
本発明に従うエポキシ化反応は、例えば、触媒固定床、触媒粒子サスペンションを有する攪拌タンク型の反応器等の適切な種類の反応器を用いて、不連続的に(discontinuously )、半連続的に、または連続的に行うことができる。金属の触媒を用いて、過酸化水素でのエポキシ化を行うために、一般に公知の方法を用いることができる。したがって、反応剤を、組み合わせ、または逐次的な方法で、反応器に加えることができる。例えば、過酸化水素および/又はオレフィンは、増加的に(increasingly)反応器に加えることができる。
【0029】
エポキシ化は、反応剤を溶解または分散させることができ、且つ反応温度の制御を容易にすることができる適切な溶媒の存在下で、行われるべきである。好ましい溶媒は、1−フェニルエタノール、2−フェニルエタノール等のC6 〜C8 芳香族アルコール、またはメタノール、エタノール、n−ブタノール、ヘキサノール等のC1 〜C6 脂肪族アルコールであり、好ましくは2−メチル−2−プロパノールである。
【0030】
一旦エポキシ化反応が所望の変換の程度に進行した際には、もし触媒が反応媒体中で懸濁されて用いられているのであれば、濾過等の公知の異なる方法によって、それ以降の再利用のため触媒を反応混合物から分離することができる。反応を連続的に行うとき、最適の活性および特異性レベルを維持するために、用いられた触媒の全部または一部を定期的または連続的に再生させることが好ましい。適切な再生技術は周知であり、それは焼成および溶媒による処理を含む。エポキシドは、例えば、分別蒸留、抽出蒸留、液−液抽出等の公知の方法によって、触媒の分離によって生じた反応混合物から分離することができる。
【0031】
上記の記述によって、如何なる専門家も、本発明の本質的な特徴を確認し、その精神および目的から逸脱することなく、それを異なる条件下でのオレフィンのエポキシ化に適合させるために、変化および修正を導入することができる。
【実施例】
【0032】
例1
以下の方法により、チタン触媒をシリカ上に製造した。
【0033】
1.43gのイソプロピル オルトチタノエートを300mlの1−ヘキサノールに加え、攪拌下に置き、その混合物を150℃に加熱し、次いで9gのGrace シリカ(210m2/gの比表面積、および1.43cm3/gの細孔体積)を加え、その振盪および温度を2時間維持した。それを冷却させ、その製造において用いた溶媒で固体を洗浄することによって、それを濾過した。最後に、それを500℃で5時間焼成した。
【0034】
例2
1−ヘキサノールに代えて溶媒として1−フェニルエタノールを用いた以外は、例1と同様に進めて触媒を製造した。
【0035】
例3
1−ヘキサノールに代えて溶媒としてシクロヘキサノールを用いた以外は、例1と同様に進めて触媒を製造した。この触媒をTi/SiO2 と名付けた。
【0036】
比較例1
1−ヘキサノールに代えて溶媒として、非酸素化された溶媒たるトルエンを用いた以外は、例1と同様に進めて触媒を製造した。
【0037】
比較例lb
特許WO 94/23834号の例1に記述された方法に従ってTiF4 をチタン前駆体として用いて、シリカ上にチタン触媒を製造した。その固体のチタン含有量は、1.2質量%(重量%)であった。この触媒をTiF4/SiO2 と名づけた。
【0038】
比較例1c
米国特許第3923843号の例1に記述された方法に従ってTiCl4 をチタン前駆体として用いて、シリカ上にチタン触媒を製造した。この触媒をTiCl/SiO2 と名付けた。その固体のチタン含有量は、1.2質量%(重量%)であった。この触媒をTiF4/SiO2 と名づけた。
【0039】
例4〜7
例1〜3および比較例1の触媒を、過酸化水素による1−オクテンのエポキシ化反応においてテストした。0.2モルのオレフィン、11gの1−フェニルエタノール、および1gの触媒を反応器に導入した。その混合物を80℃に加熱し、1−フェニルエタノール中の6質量%(重量%)のH22 溶液4gを、一滴づつ30分間で加えた。過酸化水素の添加の開始から1時間の反応の後に得られた結果を、表1に示すが、これから、触媒の合成における酸素化した有機溶媒を用いることの必要性を推論することができる。
【0040】
表1
1−オクテンのエポキシ化反応(1時間)での挙動に対する、触媒の合成において用いられた溶媒の効果(反応条件は、本文中)
【0041】
【表1】

【0042】
例8
例3において製造した触媒を、TS−l上ではエポキシ化することができない嵩高いオレフィンたるノルボルネンのエポキシ化において用いた。0.2モルのオレフィン、10.4gのジグライム、および1gの触媒を反応器に導入した。その混合物を80℃に加熱し、水中のH22 の70質量%(重量%)溶液の0.36gと、4gのジグライム(diglyme )とから得られる、過酸化水素溶液4.36gを30分間で一滴づつ加えた。過酸化水素の添加の開始から1時間の反応の後に、93質量%(重量%)の過酸化水素変換、および98質量%(重量%)のエポキシドに対する特異性が得られた。
【0043】
例9
例3における触媒(Ti/SiO2 )を、過酸化水素によるシクロヘキセンのエポキシ化反応においてテストした。0.2モルのオレフィン、10.4gのジグライム、および1gの触媒を反応器に導入した。その混合物を80℃に加熱し、水中のH22 の70質量%(重量%)溶液の0.36gと、4gのジグライムとから得られる、過酸化水素溶液4.36gを30分間で一滴づつ加えた。過酸化水素の添加の開始から1時間の反応の後に、90質量%(重量%)の過酸化水素変換、および77質量%(重量%)のエポキシドに対する特異性が得られた。表2。
【0044】
比較例9
比較例1において製造した触媒を用いた以外は、例9と同様に我々は進めた。ここで得られ、表2において示した結果は、先行技術において用いられたそれらに比べて、本発明の触媒がより活性で、且つエポキシドに対して特異的であることを示す。
【0045】
表2
80℃でのシクロヘキセンのエポキシ化(l時間の反応)
例9の反応条件
【0046】
【表2】

【0047】
その他=3−シクロヘキセン−1−オール
【0048】
例10
触媒Ti/SiO2 (例3に従って製造)を、過酸化水素による1−オクテンのエポキシ化においてテストした。0.2モルのオレフィン、11gの2−メチル−2−プロパノール、および1gの触媒を反応器に導入した。その混合物を80℃に加熱し、1−フェニルエタノール中のH22 の6質量%(重量%)溶液の4gを30分間で一滴づつ加えた。過酸化水素の添加の開始から1時間の反応の後に、97質量%(重量%)の過酸化水素変換、および95質量%(重量%)のエポキシドに対する特異性が得られた。表3。
【0049】
比較例10
比較例lbにおける触媒を用いた以外は、例10と全く同じ方法で1−オクテンのエポキシ化を行った。l時間の反応の後に得られた結果を、表3に示す。先行技術(WO 94/23834)において用いられたそれらに比べて、本発明の触媒は、より活性且つエポキシドに対して特異的である。
【0050】
比較例10b
比較例lcにおける触媒を用いた以外は、例10と全く同じ方法で、1−オクテンのエポキシ化を行った。l時間の反応の後に得られた結果を、表3に示す。先行技術において用いられたそれらに比べて、本発明の触媒は、より活性且つエポキシドに対して特異的である。
【0051】
表3
1−オクテンのエポキシ化(1時間の反応)
例11の反応条件。
【0052】
【表3】

【0053】
その他=オキシラン環の切断からの化合物(グリコールおよびエーテルグリコール)
ACP=アセトフェノン
【0054】
例11
スペイン特許第9603201号の例11に記述されたように、1−フェニル(phenil)エタノールの酸化によって、過酸化水素溶液を製造した。4.24質量%(重量%)のH22 含有量を有するこの溶液を、如何なる種類の前精製もなしで、1−オクテンのエポキシ化において用いた。0.2モルのオレフィン、11gの2−メチル−2−プロパノール、および例3に従って製造したlgの触媒を、反応器に導入した。その混合物を80℃に加熱し、H22 溶液6gを30分間で一滴づつ加えた。過酸化水素の添加の開始からの1時間の反応で得られたH22 の変換は95質量%(重量%)、エポキシドに対する特異性は97質量%(重量%)であった。
【0055】
例12
Grace シリカ(Grace SP9.10214、比表面積301m2/g)から、30gの触媒を製造した。5.85gのイソプロピルオルトチタネートを900mlのシクロヘキサノールに加え、それらを攪拌下に置き、混合物を150℃に加熱し、次いで30gのシリカを加えた。その振盪および温度を2時間維持した。それを冷却させ、その製造において用いた溶媒で固体を洗浄することによって、それを濾過し、最後に、それを500℃で5時間焼成した。この触媒を、過酸化水素によるプロピレンのエポキシ化(epoxilation )反応においてテストした。そうするために、バスケットを有する攪拌タンク不連続反応器を固体の触媒とともに作動させるために用いて、12gをそのバスケットに導入し、および後者の容積の残りをガラスビーズで満たした。次いで、192gの2−メチル−2−プロパノールと147.2gのプロピレンとの混合物を、攪拌下で、反応温度(70℃)に到達するように加熱した。その時点で、プロピレンが液相にあることを確実にするために、34Mpaの圧力に到達するまで窒素を導入した。反応性の混合物に、MBAおよび2−メチル−2−プロパノール中の3.2質量%(重量%)の過酸化水素の溶液104gを30分間で加えた。過酸化水素の添加の開始から1時間の反応の後、96.5質量%(重量%)のH22 の変換、および92質量%(重量%)のエポキシドに対する特異性が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒(solvents)の存在下、50°〜140°の範囲の温度での過酸化水素によるオレフィン性化合物の炭素−炭素二重結合の液相における液相エポキシ化方法であって、無定形(amorphous)キャリア上に支持された酸化チタン触媒を使用し、その触媒が、比表面積50〜900m2/gの範囲のシリカを、C〜Cアルコールである溶媒中でチタンアルコキシドの溶液で含浸し、次いで過剰の溶液および溶媒を分離することによって、50を超えるエポキシド特異性(selectivity higher than)を得ることを特徴とする方法。
【請求項2】
含浸によって、0.01〜0.1質量%(重量%)(100gの触媒当たりのアルカリまたはアルカリ土類金属の重さ)の範囲の量のアルカリまたはアルカリ土類金属塩が、前記触媒に加えられることを特徴とする請求項1に従う方法。
【請求項3】
エポキシ化工程において、有機溶媒中の1〜15質量%(重量%)の範囲の濃度で過酸化水素溶液を用いることを特徴とする請求項1または2に従う方法。
【請求項4】
前記オレフィン性化合物がアルケンまたはシクロアルケンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに従う方法。
【請求項5】
前記アルケンがプロピレンであることを特徴とする請求項4に従う方法。
【請求項6】
前記シクロアルケンがシクロヘキセンであることを特徴とする請求項4に従う方法。
【請求項7】
前記オレフィン性化合物がアリルアルコールであることを特徴とする請求項4に従う方法。
【請求項8】
前記オレフィン性化合物がフマル酸またはマレイン酸、またはそのエステル、無水物または混合物の一つであることを特徴とする請求項4に従う方法。
【請求項9】
6 〜C9 芳香族アルコールまたはC1 〜C6 脂肪族アルコールをエポキシ化反応において溶媒として用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに従う方法。
【請求項10】
前記有機溶媒が、2−メチル−2−プロパノール、または2−メチル−2プロパノールを含む有機溶媒の混合物であることを特徴とする請求項9に従う方法。

【公開番号】特開2007−31449(P2007−31449A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285483(P2006−285483)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【分割の表示】特願平11−547798の分割
【原出願日】平成10年3月26日(1998.3.26)
【出願人】(500479061)レプソル キミカ,ソシエダ アノニマ (1)
【Fターム(参考)】