説明

溶接座屈変形の少ない鋼板およびその製法

【課題】 鋼材の成分組成や強度特性、殊に母材強度と溶接熱影響を受けた後の強度とのバランスを制御することによって、特に船殻構造体を溶接建造する際に、溶接現場で“やせ馬変形”と呼ばれる面外座屈変形を可及的に抑えることのできる鋼板を提供すること。
【解決手段】 鋼板の降伏応力を(YP0)、当該鋼板に、溶接時の熱影響を模擬して本文に記載の熱履歴を付与した後の降伏応力を(YP1)としたときに、YP0が400MPa以上で且つYP0/YP1が1以上である、溶接座屈変形の少ない鋼板を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に船殻構造体などに使用される鋼板であって、比較的薄肉であるにもかかわらず溶接時の座屈変形が少なくて溶接建造後の矯正などを必要とせず、高い構築施工性を得ることのできる鋼板とその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船殻構造体の上方部を構成する外殻部を構築する際には、構造強度を高めるため鋼板に補強リブを溶接固定するのが一般的である。その際、溶接接合部および溶接熱影響部は溶接時の熱によって溶融もしくは組織変態(α→γへの逆変態)するので、その後で常温にまで降温(冷却)して固化する際に熱収縮を起こす。しかし、四周囲が補強リブによって拘束されている場合は自由に収縮できないため、当該溶接部の降伏応力に相当する引張残留応力が発生する。その際、上記残留応力に起因して溶接構築物が面外座屈変形を起こすことがあり、この変形は溶接作業現場の一部で“やせ馬変形”と呼ばれ問題となっている。
【0003】
ところで船殻構造体の外殻部などにこの様な座屈変形が起こると外観が劣化するので、従来はこうした面外座屈変形(やせ馬変形)を矯正するため、プレス矯正やスポット加熱矯正などが行われている。しかしその矯正作業は煩雑で手数を要するばかりでなく、工期を延長させる大きな原因になるので、こうした溶接による面外座屈変形を極力起こさないような鋼板の開発が求められる。
【0004】
ところで、たとえば特許文献1には、海洋構造物や建築物、橋梁などに用いる構造用鋼板を対象として、比較的厚肉(10mm程度以上)の鋼板を低入熱溶接したときに問題となる溶接角変形の低減を目的とする改良技術が開示されている。この発明は、溶接熱影響を受けた鋼板の降伏応力を高めることによって溶接変形を阻止しようとするもので、具体的には、溶接熱影響を受けた鋼板の降伏応力を高めるための手法として鋼材の成分組成を特定すると共に、鋼材断面のミクロ組織の少なくとも30面積%以上を、微細なカーバイドが分散したベイナイト組織とし、降伏強度を360MPa以上に高めることで、溶接変形を生じ易い400℃以上の中温域の降伏強度を高め、上述した様な鉄鋼構造物を構築する際に一般的に採用される隅肉溶接時の所謂角変形を1/2レベル以下に低減しようとするものである。
【0005】
また特許文献2にも、同様に海洋構造物や建築物、橋梁などに用いる構造用鋼板を対象として、比較的厚肉(10mm程度以上)の鋼板を隅肉溶接したときに問題となる溶接角変形の低減を目的とする改良技術が開示されている。この発明も、溶接熱影響を受けた鋼材の降伏応力を高めることによって溶接変形の防止を図っている。具体的には、溶接熱影響を受ける鋼板の降伏応力を高めるための手法として、鋼材の成分組成を特定すると共に、ミクロ組織を平均粒径の小さいベイナイト及び/又はマルテンサイトとフェライト及び/又はパーライトとし、且つ微細な炭窒化物を多量存在させることで、溶接変形が生じる中温域の降伏強度を高め、隅肉溶接による角変形を抑えている。
【0006】
しかしこれらの発明は、上記の様に比較的厚肉の鋼板を対象とし、且つ溶接熱影響部の降伏応力を高めることにより角変形の抑制を図るもので、追って詳述する如く溶接部の強度上昇を抑えることで“やせ馬現象”を防止する本発明とは技術思想が本質的に異なる。
【特許文献1】特開平6−172921号公報
【特許文献2】特開2003−268484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明でその改善を意図する面外座屈変形(いわゆる“やせ馬変形”)とは、比較的薄肉(通常は10mm程度未満)の鋼板に補強リブを溶接して強化したときに見られる歪変形であり、例えば図2に示す如く鋼板1の片面側に同程度の厚さの補強リブ2を溶接して構造強度を与えたときに生じる、溶接熱による継手部の溶融とその後の冷却時の凝固収縮、更にはその際に母材や溶接熱影響部に生じる残留応力などが複雑に影響を及ぼし、溶接構造体の平板部が図2の特にA−A線断面図に示す如く“やせ馬の背中”状に座屈変形を起こす現象である。
【0008】
こうした座屈変形の発生原因については後で説明するが、本発明では鋼板の成分組成や強度特性、殊に母材強度と熱影響を受けた後の強度とのバランスを制御することによって、こうしたやせ馬変形を可及的に抑えることのできる鋼板を提供し、且つその様な鋼板を確実に得ることのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明に係る溶接座屈変形の少ない鋼板とは、鋼板の降伏応力を(YP0)、引張強度を(TS0)、当該鋼板に、溶接時の熱影響を模擬して下記の熱履歴を付与した後の降伏応力を(YP1)としたときに、YP0(母材強度)が250MPa以上、TS0が400MPa以上、YP1が400MPa以下であり、且つYP0/YP1が1以上であるところに特徴を有している。
【0010】
(熱履歴付与条件)
熱履歴パターン:図1の通り、
熱履歴付与装置;富士電波工機社製の50キロワット熱サイクル再現装置を使用。
【0011】
本発明に係る上記鋼材のより好ましい第1の実施態様は、該鋼材が下記イ)またはロ)として示す化学成分と焼入れ性指数(DI値)を満たすものである。
【0012】
イ)化学成分;
C :0.005〜0.12%、
Si:0.05〜0.5%、
Mn:0.05〜1.2%を含み、
残部:Feおよび不可避不純物、
DI=1.16×[√(C/10)]×(0.7×Si+1)×(3.33×Mn+1)×(0.35×Cu+1)×(0.36×Ni+1)×(2.16×Cr+1)×(3.0×Mo+1)×(1.75×V+1)×(200×B+1)≦0.38
[式中の記号は、各元素の含有率(質量%)を表わす]、
【0013】
ロ)化学成分;
C :0.005〜0.12%、
Si:0.05〜0.5%、
Mn:0.05〜1.2%、
N:0.002〜0.007%を満たす他、
Nb:0.005〜0.03%、V:0.005〜0.075%、Ti:0.005〜0.03%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
残部:Feおよび不可避不純物。
DI=1.16×[√(C/10)]×(0.7×Si+1)×(3.33×Mn+1)×(0.35×Cu+1)×(0.36×Ni+1)×(2.16×Cr+1)×(3.0×Mo+1)×(1.75×V+1)×(200×B+1)≦0.38
[式中の記号は、各元素の含有率(質量%)を表わす]。
【0014】
また、より好ましい第2の実施態様は、該鋼材が下記化学成分と上記DI値を満たすものである。
【0015】
化学成分;
C :0.005〜0.12%、
Si:0.05〜0.5%、
Mn:0.05〜1.2%、
N :0.002〜0.007%を満たす他、
Nb:0.005〜0.03%、V:0.005〜0.075%、Ti:0.005〜0.03%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有すると共に、下記式(I)の関係を満たし、
Nb/6.63N+V/3.64N+Ti/3.41N>1……(I)
残部:Feおよび不可避不純物。
【0016】
上記本発明の鋼材には、更に他の元素として、Ca:0.0005〜0.003%、Zr:0.0005〜0.004%、REM:0.0005〜0.005%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものであってもよく、或いは更に他の元素として、Ni:0.2%以下、Cu:0.2%以下、Cr:0.2%以下、Mo:0.1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであってもよい。
【0017】
また本発明に係る溶接座屈変形の少ない鋼板の製造方法とは、前記第1の実施態様として記載された要件を満たす鋼片を使用する場合に適用される方法で、950℃以上に加熱した後、目標板厚にまで圧延する際に、下記式によって算出されるAr3変態点以下の温度域での累積圧下率が30%以上となるように圧延することによって前記特性を与え、
Ar3(℃)=910−310×C−80×Mn−20×Cu−15×Cr−55×Ni−80×Mo
[式中の化学記号は、各元素の(質量%)を表わす]、
また前記第2の実施態様として記載された要件を満たす鋼片を使用する場合は、950℃以上に加熱した後、目標板厚にまで圧延する際に、板厚方向に平均温度850〜950℃の温度域での累積圧下率を50%以上とし、目標板厚迄圧延して圧延を終了することにより前記特性を与えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、例えば船殻構造体用の鋼板などとして十分な構造強度を維持しつつ、溶接性に優れると共に溶接に伴う面外座屈変形(いわゆる“やせ馬現象”)を可及的に抑えることができる。その結果、溶接後の矯正処理を実質的に不要とすることができ、作業効率を大幅に高めると共に、工期を著しく短縮することができる。また本発明の製造方法によれば、高価な合金元素などの配合量を最小限に抑えた鋼材を使用することにより、目標特性を備えた鋼板を安価に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明者らは前述した様な状況の下で、溶接施工時に生じる“やせ馬現象”と呼ばれる面外座屈変形に注目し、その効率的な防止法を開発すべく“やせ馬現象”の発生メカニズムについて検討したところ、次のことが確認された。
【0020】
(1)溶接建造において、溶接時に溶融した部分とその近傍(以下、溶接線近傍部と いうことがある)は、常温まで降温する際に熱収縮を起こす。
【0021】
(2)上記熱収縮の際、溶接線近傍部は四周囲が補強リブで拘束されているため自由 収縮ができないことから、収縮によって生じる変形量不足を塑性変形によって補お うとする。その結果、当該領域にはその温度での降伏応力に相当する引張残留応力 が発生する。そして、該鋼板の溶接線近傍部が常温まで降温した状態では、溶接線 近傍部の常温での降伏応力に相当する引張残留応力が発生する。
【0022】
(3)そうした現象に加えて溶接線から離れた部分では、溶接線近傍部に生じた引張 残留応力とバランスする様に圧縮残留応力が生じる。
【0023】
(4)そして上記圧縮残留応力が当該鋼板の座屈臨界強度を超えると、面外座屈変形 、すなわち“やせ馬現象”を生じることになる。
【0024】
上記メカニズムのうち(2)は、「溶接線近傍部に発生する残留応力は溶接熱影響を受けた部分の降伏応力レベルに依存する」ことを意味しているから、面外座屈変形を抑えるには下記の点に考慮を払うのが有効と考えられる。
【0025】
即ち、「溶接時の熱影響により当該鋼板のAr3変態点以上に加熱された領域が常温にまで降温(冷却)した時点で、当該領域部分の降伏応力が極力低いこと」が重要であり、その場合は、溶接線から離れた部位に生じる圧縮残留応力も低減し、それに伴って面外座屈変形を起こし難くなると考えられる。
【0026】
ところで鋼材においては、添加合金元素量が多い場合、溶接熱によりAr3変態点以上に加熱された領域は、その後の冷却過程でベイナイトやマルテンサイトなどの硬質組織が形成され易くなり、溶接熱影響部の降伏応力は母材のそれよりも高くなることが多い。この場合、上記メカニズム(2)からすると、当該鋼板の溶接線から離れた部位に生じる圧縮残留応力レベルが高くなるため、面外座屈変形の低減は実現不能となる。そのため、上記メカニズム(2)を考慮して溶接熱影響部の降伏応力の上昇を抑えるには、焼入れ硬化作用を有する添加合金元素を極力低減することが必要となる。
【0027】
また前述した如く面外座屈変形は、溶接熱影響部の熱収縮に起因して発生した圧縮残留応力によって生じるが、当該座屈変形には、そのときの残留応力だけでなく、当該鋼板(母材)の降伏応力も関係することが確認された。すなわち、同レベルの残留応力が存在する場合は、母材自体の降伏応力が小さいほど座屈変形を起こし易くなるのである。この点について検討を進めた結果、鋼板(母材)の降伏応力を、当該鋼板の熱影響部の降伏応力よりも高くしてやれば、やせ馬現象を可及的に抑止できることが確認されたのである。
【0028】
更に溶接熱影響部の強度は、Ac3変態点(α→γ逆変態が完了した温度)以上に加熱された領域が周囲の鋼板への伝熱および鋼板表面から空気中への放熱によって常温まで冷却され、再びγ→α変態を生じたときに形成される組織変態によって決定され、ほぼ化学成分のみで決定される。一方、母材強度は、化学成分以外に圧延条件の変化に伴って変動することから、化学成分と圧延条件を制御することで母材強度と溶接熱影響部の強度を制御できることが確認された。
【0029】
こうした知見の下で本発明においては、第1の必須要件として、鋼板の降伏応力と、当該鋼板を溶接したときの熱影響部の降伏応力の関係を、両者の比、すなわち(鋼板の降伏応力)/(当該鋼板を溶接したときの熱影響部の降伏応力)で1以上、言い換えると(鋼板の降伏応力)を(当該鋼板を溶接したときの熱影響部の降伏応力)よりも大きくしてやれば、やせ馬現象を可及的に防止できることを突き止めたのである。
【0030】
そこで本発明では、鋼板(母材)の降伏応力を(YP0)とし、また溶接時の熱影響を模擬した熱履歴を受けたときの降伏応力を標準化するため、当該鋼板に前述した熱履歴を付与した後の降伏応力を(YP1)と定め、これら(YP0/YP1)が1以上であることを第1の必須要件と定めた。より好ましい(YP0/YP1)の値は1.2以上である。
【0031】
但し、鋼板母材の降伏応力が低過ぎる場合は、船殻構造体などの構造用鋼板として強度不足になり必要な構造強度を確保できなくなることから、鋼板母材としての降伏応力並びに引張応力の下限値を夫々「250MP以上」、「400MPa以上」と定めた。
【0032】
なお図3は、後述する実施例を含めた多くの実験データの中から、(鋼板母材の降伏応力:YP0)/(溶接熱影響部の降伏応力:YP1)の比率が面外座屈変形量に与える影響を整理して示したグラフであり、該(YP0/YP1)比が1.0を境にして、それ未満では面外座屈変形量が4.0を超えるのに対し、該比が1.0以上になると面外座屈変形量は4.0以下の低い値になっている。
【0033】
また図4は、同様に多くの実験データの中から溶接熱影響部の降伏応力と面外座屈変形量の関係を整理して示したグラフであり、このグラフからは、溶接熱影響部の降伏応力が400MPa以下では面外座屈変形量が許容範囲の4.0mm以下に抑えられるのに対し、400MPaを超えると、面外座屈変形量は明らかに4.0mmを超えている。このことからも、溶接熱影響部の降伏応力は400MPa以下に抑えることが、やせ馬現象を抑止する上で有効となる。
【0034】
次に、上記特性を得るための好ましい要件を見出すべく、鋼板母材や溶接熱影響部の降伏応力に少なからぬ影響を及ぼす含有元素と、それら元素の総合的な指標となる焼入れ性指数(DI値)について検討を重ねた。
【0035】
その結果、上記特性を得るための好ましい第1の要件として、使用する鋼材の化学成分に応じて前記式によって計算されるDI値が0.38(単位;インチ)以下となる様に構成元素の含有率を調整することが極めて重要であることを突き止めた。
【0036】
これらDI値の上限を定めたのは、鋼材自体の焼入れ硬化性を低減し、溶接部およびその熱影響部が高温に加熱されたのち常温付近にまで降温する際に、焼入れ硬化によって強度上昇を起こすのを阻止し、やせ馬現象を起こす最大の原因となる溶接部および熱影響部の溶接後の降伏応力を可及的に低く抑えるためである。
【0037】
ちなみに、上記DI値、すなわち鋼材の焼入れ性指数が0.38を超えると鋼素材の焼入れ硬化性が高まり、それに伴って、溶接後の冷却過程で当該溶接部や熱影響部が焼入れ硬化を起こし当該部位の降伏応力が上昇する。それにつれて、前掲のメカニズム(2)で説明した如く溶接線近傍部の引張残留応力が高まり、それに伴って該引張残留応力とバランスする様に該溶接線から離れた部分に発生する圧縮残留応力も増大し、やせ馬現象を促す原因となる。よってこうした現象を抑えるには、その根源となるDI値を0.38以下に抑えることが必須となるのである。これらの焼入れ性指数のより好ましい値は0.37以下、更に好ましくは0.36以下であるが、鋼材の焼入れ性指数が低くなり過ぎると、溶接熱影響部の強度が不十分となり、構造用鋼としての必要強度を確保し難くなることから、その下限を0.22程度以上、より好ましくは0.24程度以上にすべきである。
【0038】
尚、鋼材が析出硬化元素として適量のNb,V,Tiを含有する場合は、それらの元素の炭化物や炭窒化物の析出硬化により母材強度が高まるので、当該鋼材のDI値は0.09程度であっても構わないが、好ましいのは0.16程度以上である。
【0039】
また鋼材の炭素当量が低くなり過ぎると、後述する製法で説明する如く母材強度向上の為の処理にも拘らず母材強度が不十分となり、構造用鋼としての必要強度を確保し難くなることから、その下限は0.15程度以上、より好ましくは0.16程度以上にすべきである。
【0040】
次に本発明で使用する鋼材の好ましい化学成分について説明する。本発明に係る鋼板は、以下説明する如く2種の鋼材1と鋼材2に分類される。
【0041】
本発明で用いる鋼材1の好ましい化学成分は、C:0.005〜0.12%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.05〜1.2%で、残部がFeおよび不可避不純物であり、或いは更に、これらの元素に加えてN:0.002〜0.007%を含み、且つ、Nb:0.005〜0.03%、V:0.005〜0.075%、Ti:0.005〜0.03%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する鋼材であり、これら各成分の含有率を規定した理由は下記の通りである。
【0042】
C:0.005〜0.12%
Cは、鋼板母材として必要な構造強度を確保するうえで最も有効であり且つ安価であることから、添加が不可欠の元素であり、0.005%未満では強度不足となるのでそれ以上の含有を必須とする。より好ましいC含量は0.01%以上であり、更に好ましくは0.03%以上である。一方、本発明では、前述した如く溶接熱影響部の焼入れ硬化特性を抑えることでやせ馬現象を低減するため、鋼材のDI値を抑えることを必要としており、該DI値にはCの影響が大きいことから、C含量は多くとも0.12%以下、好ましくは0.11%以下、更に好ましくは0.10%以下に抑えるのがよい。
【0043】
Si:0.05〜0.5%
Siは溶鋼の脱酸材としての役割を持つと共に、DI値を上昇させて母材強度の向上に寄与する元素であるため、少なくとも0.05%程度以上含有させることが望ましい。好ましくは0.10%以上である。しかし、過度の添加は溶接熱影響部の焼入れ硬化性を上昇させて当該領域に発生する残留応力を大きくすると共に、当該領域の低温靭性を劣化させるので、0.5%を上限とする。好ましくは0.4%以下、更に好ましくは0.3%以下に抑えるのがよい。
【0044】
Mn:0.05〜1.2%
Mnは母材強度を高める役割を果たすと共にDI値を上昇させて母材強度の向上に寄与するので、少なくとも0.05%以上含有させることが望ましい。好ましくは0.10%以上、更に好ましくは0.20%以上である。しかし、過度の添加は溶接熱影響部の焼入れ硬化性を上昇させて当該領域に発生する残留応力を大きくすると共に、当該領域の低温靭性を劣化させるので、多くとも1.2%以下を上限とする。好ましくは1.0%以下、更に好ましくは0.8%以下に抑えるのがよい。
【0045】
上記元素に加えてNと、Nb,V,Tiの1種以上を含有する場合は、
N:0.002〜0.007%で、且つ、Nb:0.005〜0.03%、V:0.005〜0.075%、Ti:0.005〜0.03%の1種以上;
本発明においてNは、Nb,V,Tiと結合して窒化物の生成源となり、それら窒化物は、溶接熱影響部のオーステナイト組織の粗大化抑制に有効に作用することで溶接熱影響部の靭性向上に寄与する。こうした作用を有効に発揮させるには、NおよびNb,V,Tiを上記範囲にすることが好ましい。
【0046】
本発明で用いる鋼材の残部成分は実質的に鉄と、不可避的に混入してくる不純物であり、その中には、Al、P、Sなども包含される。即ちAlは、脱酸剤として利用される元素であって、鋼中の固溶酸素量を十分に低減して母材の靭性劣化を抑えるには、0.02%以上含有させることが望ましい。しかし、過度の含有は非金属系介在物の形成源となって母材靭性や溶接熱影響部の靭性を劣化させる原因になるので、0.05%以下、より好ましくは0.04%以下に抑えるのがよい。
【0047】
また、P,Sはいずれも鋼中に不可避的に混入してくる元素であり、且つ介在物源となって鋼板の母材靭性および溶接熱影響部の靭性に悪影響を及ぼすので、Pは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下、更に好ましくは0.02%以下に抑えるのがよく、またSは0.02%以下、より好ましくは0.01%以下、更に好ましくは0.005%以下に抑えるのがよい。
【0048】
そして、上記成分要件を満足する鋼材1のDI値は、前記式によって計算される値で0.38以下であることが必要となる。
【0049】
次に、本発明で用いる鋼材2の好ましい化学成分は、上記鋼材1で規定するC,Si,Mnの含有率範囲に加えて、N含量、更にはNb,V,Tiから選択される少なくとも1種の含有量を満足することに加えて、N含量とNb,V,Tiの含量の関係が「Nb/6.63N+V/3.64N+Ti/3.41N>1」を満たし、残部がFeおよび不可避不純物からなるものである。
【0050】
即ちNは、前述した如くNb,V,Tiと窒化物を形成して溶接熱影響部の靭性向上に寄与するが、本発明の第2の態様にかかる鋼材2では、Nb,V,Tiを炭化物(あるいは炭窒化物)として析出させることで、析出硬化により強度アップを図ること意図しており、Nb,V,Tiの質量比との関係において、それらが窒化物を形成したとしてもなお、炭化物としての生成量も確保されて析出硬化効果を発揮するための要件として「Nb/6.63N+V/3.64N+Ti/3.41N>1」を満たすことが必要となる。
【0051】
そして、上記の様にNb,V,Tiの炭化物としての析出硬化作用を有効に活用することで、追って詳述する如く鋼板を製造する際の熱間圧延時における温度と圧下率を適正に制御することで、溶接熱影響部の降伏応力は高めることなく、圧延時におけるそれら元素の炭化物(あるいは炭窒化物)の析出硬化作用で鋼板母材の降伏応力および引張応力を効果的に高めることができる。
【0052】
こうしたNb,V,Tiの作用は、Nb:0.005%以上(より好ましくは0.008%以上)、V:0.005%以上(より好ましくは0.010%以上)、またはTi:0.005%以上(より好ましくは0.008%以上)含有させ、且つ「Nb/6.63N+V/3.64N+Ti/3.41N>1」を満たす場合に有効に発揮される。しかし、これらの元素は高価であり素材コストを高める原因になる他、それらの含量が多過ぎると、析出する炭化物(あるいは炭窒化物)の数や体積分率が過大となって、母材の低温靭性や引張延性などを低下させる他、溶接熱により溶解した析出物が再析出し易くなって溶接熱影響部の降伏応力が高くなり、その結果、やせ馬変形量も大きくなるといった問題が生じてくるので、Nbは0.03%以下(より好ましくは0.025%以下、更に好ましくは0.020%以下)、Vは0.075%以下(より好ましくは0.060%以下、更に好ましくは0.050%以下)、Tiは0.030%以下(より好ましくは0.025%以下、更に好ましくは0.020%以下)に抑えるべきである。
【0053】
そして上記成分要件を満足する鋼材2の好ましいDI値は、前記式によって計算される値で0.38以下であることが必要となる。
【0054】
尚、鋼材が析出硬化元素として適量のNb,V,Tiを含有する場合は、それらの元素の炭化物や炭窒化物の析出硬化により母材強度が高まるので、当該鋼材のDI値の下限は0.09程度であってもよい。しかし、好ましいのは0.16程度以上である。
【0055】
本発明で好ましく使用される上記鋼材1,2の必須構成元素は上記の通りであり、残部はFeと不可避不純物であるが、場合によっては更に他の元素として、Ca:0.0005〜0.003%、Zr:0.0005〜0.004%、REM:0.0005〜0.005%よりなる群から選ばれる少なくとも1種、あるいは更に、Ni:0.2%以下、Cu:0.2%以下、Cr:0.2%以下、Mo:0.1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであってもよい。
【0056】
上記Ca,Zr,REMは、MnSなどのA系介在物(圧延時に圧延方向に伸び易い介在物)を球状化することで内部割れや溶接熱影響部からの亀裂発生を抑制する効果を有する点で同効元素であり、それらの効果は各々の単独添加もしくは2種以上の複合添加によって有効に発揮される。そうした効果を有効に発揮させるには、Caは0.0003%以上(より好ましくは0.0007%以上)、Zrは0.0005%以上(より好ましくは0.0010%以上)、REMは0.0005%以上(より好ましくは0.0010%以上)含有させるのがよい。しかしそれらの含有量が多過ぎると、各元素の酸化物(CaOなど)が多量生成し、母材靭性や引張延性が劣化するといった弊害が生じてくるので、Caは0.003%以下(より好ましくは0.0025%以下)、Zrは0.004%以下(より好ましくは0.004%以下)、REMは0.005%以下(より好ましくは0.0035%以下)にそれぞれ抑えるのがよい。
【0057】
またNi,Cu,Cr,Moは、いずれも焼入れ性を高め、母材強度を高める作用を有する点で同効元素であり、それらの効果は各々の単独添加もしくは2種以上の複合添加によって有効に発揮される。しかしこれらの元素が多過ぎると、焼入れ性が高まり過ぎて溶接熱影響部の降伏応力が高くなり、その結果、やせ馬変形量も大きくなることに加えて、さらに原料費が高騰し製造コストが高くなるといった問題が生じてくるので、Niは0.2%以下(より好ましくは0.1%以下)、Cuは0.2%以下(より好ましくは0.1%以下)、Crは0.2%以下(より好ましくは0.1%以下)、Moは0.1%以下(より好ましくは0.05%以下)に抑えるのがよい。
【0058】
次に、上記化学成分の特定された鋼材1,2は、いずれも炭素当量が低く且つ強化元素含量も少ないため、通常の鋼板の製造条件をそのまま適用したのでは、鋼板母材として十分な強度を確保することができず、構造用鋼として強度不足となる。従ってこれを実用化するには、船殻構造用鋼板として必要な強度を確保しつつ、当該鋼板を用いた溶接線近傍部は低降伏応力を示すという特性を両立させるための工夫が必要となる。そこで、そのための製造条件について検討を加えた。
【0059】
本発明で意図するような低炭素・低合金鋼の熱延組織は通常フェライト相が主体となり、この様なフェライト主体組織の鋼板の強度を高める手段としては、
1)フェライト結晶粒の微細化による強化、
2)Ar3変態点以下の温度域での圧延によるフェライト相の加工硬化を活用した強化、
3)合金元素の添加による固溶強化、
4)金属炭化物などの析出強化を活用した強化、
等が挙げられる。これらのうち、合金元素を添加することなく強化できる方法は上記1),2)であるが、1)を実施するには非常に大きな1パス圧下率で圧延しなければならず、非常に大きな圧延機の能力を必要とするか、或いは圧延サイズ(圧延幅が狭く、圧延厚も薄い)などの条件が揃った場合にしか実現できないなど、現状では安定的に実現することが困難である。また3)の強化法では、高々30〜50MPa程度の強化しか期待できない。これらに対し2)の強化法は、圧延温度を厳密に管理することで実現可能な技術であり、また上記4)の方法は、析出強化元素であるNb,V,Tiを含み「Nb/6.63N+V/3.64N+Ti/3.41N≧1」を満たす鋼材2に対しては適用可能である。
【0060】
そこで本発明では、前記鋼材1の成分要件を満たす鋼片を使用する場合は、所定の母材強度(YP0)を確保しつつ、溶接熱影響部の降伏応力(YP1)と母材の降伏応力(YP0)の比(YP0/YP1)で1以上を確保するため、該鋼片を950℃以上に加熱した後、目標板厚まで圧延する際に、下記式によって算出されるAr3変態点以下の温度域での累積圧下率が30%以上となる様に圧延を行なう。
Ar3(℃)=910−310×C−80×Mn−20×Cu−15×Cr−55×Ni−80×Mo
[式中の化学記号は、各元素の含有率(質量%)を表わす]
【0061】
このとき、Ar3変態点以下の温度域での圧下率を高めるにつれて加工フェライト組織が増大し、それに伴って母材の降伏強度は高くなる。特に、降伏強度は引張強度と比較して大きく上昇する。一方、溶接熱影響部がAr3変態点以上に加熱されるとフェライト(α)からオーステナイト(γ)に変態するので、加熱前に存在していた加工フェライト組織はリセットされ、その後の冷却過程で生成したフェライト組織に応じた降伏応力を示す様になる。その降伏応力は、第二相(主としてパーライト)分率と固溶強化されたフェライト組織の割合によりほぼ決まってくるので、添加合金元素量に応じて降伏応力は決定される。従って、鋼板を製造する際の圧延時におけるA3変態点以下の温度域での圧下率を高くすると、加工硬化によって鋼板母材の降伏応力および引張応力、特に降伏応力を大きく高めることができる。
【0062】
こうした観点から実験を重ねた結果、該Ar3変態点以下の温度域での圧下率を30%以上にしてやれば、鋼板の降伏応力(YP0)で250MPa以上、引張強度で400MPa以上を確保しつつ、該鋼板の降伏応力(YP0)と溶接熱影響部の降伏応力(YP1)の比(YP0/YP1)で1以上を確保できることが分かった。この様なことから、鋼材1の成分要件を満たす鋼片を使用する場合は、該鋼片を950℃以上に加熱してから目標板厚に圧延する際に、Ar3変態点以下の温度域までの累積圧下率を30%以上とすることが必要であり、より好ましくは40%以上とするのがよい。
【0063】
ちなみに図5は、炭化物形成元素無添加の鋼材(前記鋼材1)を用いた種々の実験データの中から、Ar3変態点以下の圧下率が母材の引張強度(TS0)に与える影響を整理して示したグラフであり、400MPaレベル以上の引張強度を確保するには、Ar3変態点以下の圧下率で30%以上を確保すべきであることが分かる。
【0064】
次に前記鋼材2の成分要件を満たす鋼片を使用する場合は、所定の母材強度(YP0)を確保しつつ、溶接熱影響部の降伏応力(YP1)と母材の降伏応力(YP0)の比(YP0/YP1)で1以上を確保するため、該鋼片を、950℃以上に加熱したのち目標板厚まで圧延する際に、850〜950℃の温度域での累積圧下率を50%以上で圧延を終了することで、析出強化元素であるNb,V,Tiの作用を有効に発揮させることが必要となる。
【0065】
ちなみに、Nb,V,Tiの炭化物(あるいは炭窒化物)の析出温度域は約900℃以下であるが、圧延することなく放置した場合は完全には析出せず、析出強化を有効に活用するには圧延後に焼戻し処理を施す必要がある。一方、それら炭化物等の析出温度域の直上で圧延を行なった場合、圧延によって導入された転位などの欠陥部が析出物形成元素(Nb,V,Ti)の集積サイトあるいは炭化物の生成サイトとなり、或いは転位拡散[通常の拡散(体拡散という)の約10倍以上の速度で拡散]により析出物形成元素の集積を促進することで炭化物の析出が促進され、圧延後に焼戻し処理をせずとも、焼戻し処理を実施した場合の70〜80%の強化が可能になることが分った。
【0066】
但し、単に析出温度域の直上で圧延すればよいわけではなく、本発明で意図する上記母材強度(降伏応力;YP0で250MPa以上、引張強度;TS0で400MPa以上)を確保しつつ、(YP0/YP1)を1以上とするには、素材鋼片を950℃以上に加熱した後、目標板厚にまで圧延する際に、850〜950℃の温度域での累積圧下率を50%以上とすべきであることが分った。
【0067】
ちなみに、上記炭化物などの析出温度域の直上での圧下率が増加するにつれて、圧延終了後の冷却時に析出する炭化物などの量は増大し、それに伴って鋼板母材の降伏強度および引張強度は上昇する。一方、溶接熱影響部がAr3変態点以上に加熱されるとα(フェライト)からγ(オーステナイト)への変態が生じ、また圧延後の冷却時に析出した炭化物等は固溶してしまうので、加熱前に存在していた析出強化されたフェライト組織はリセットされる。そのため、その後の冷却過程で析出するための生成サイトが不足することになって十分な強化ができなくなる。
【0068】
従って、溶接熱影響を受けた部分の降伏応力および引張応力は、冷却後に生成したフェライト組織に応じた強度に若干(焼戻し処理時の40〜50%程度)の析出強化を加えた強度を示す様になる。他方、炭化物等の析出温度域直上での圧下率を高くすると、鋼板母材の強度、とりわけ降伏応力を効率よく高めることができる。その結果として、溶接熱影響部の降伏応力は最小限に抑えつつ、鋼板母材の降伏応力のみを高めることが可能となる。
【0069】
こうした観点から実験を重ねた結果、950℃以上に加熱した後、目標板厚にまで圧延する際に、850〜950℃の温度域での累積圧下率を50%以上、より好ましくは55%以上として圧延を終了するのがよいことが分った。
【0070】
ちなみに図6は、炭化物形成元素を添加した鋼材(前記鋼材2)を用いた種々の実験データの中から、850〜950℃の温度域での累積圧下率が母材の引張強度(TS0)に与える影響を整理して示したグラフであり、400MPaレベル以上の引張強度を確保するには、850〜950℃の温度域での累積圧下率で50%以上を確保すべきであることが分かる。
【0071】
更に図7は、後述する実施例を含めた実験データの中から、DI値と溶接熱影響部の降伏応力の関係を纏めて示したグラフであり、この図からは、DI値(インチ)を0.38以下に抑えることで、溶接熱影響部の降伏応力を400MPa以下の低い値に抑制できることが分かる。
【0072】
なお本発明に係る鋼板の板厚は特に制限されず、様々の厚さの鋼板に適用できるが、本発明の効果がより有効に発揮されるのは、厚さが4.5mm程度以上の厚鋼板である。板厚の上限は特に制限されないが、通常は10mm程度以下である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。 なお下記実験例で採用した試験法は下記の通りである。
【0074】
[降伏応力(YP0),(YP1)の測定]
試験片形状;図8参照、
熱履歴付与装置;富士電波工機社製の50キロワット熱サイクル再現装置を使用。
【0075】
[面外座屈変形両量(やせ馬減少量)の測定]
各供試鋼板(肉厚は6mm)の片面側に、図2示す如く同じ鋼板から切り出したリブ材を下記の条件で溶接した後、図2のA−A線端図の様に表れる面外座屈変形量(a)を、各区画(1)〜(12)について各々測定し、その平均値を求める。
【0076】
(溶接条件)
溶接電流;280A、
溶接電圧;32V、
溶接速度;58〜62cm/min、
溶接入熱;約9kJ/cm、
脚長;5mm、
溶材;(株)神戸製鋼所製「MG−50」(直径1.2mm)。
【0077】
実験例1
表1に示す化学成分の鋼を溶製し鋳造して得た鋼片を、表2,3に示す条件で制御圧延し、得られた鋼板から所定寸法の試験板(日本海事協会;U1号試験片)を切り出して引張試験を行った。また、同じ供試板について、溶接熱影響を模擬した前記加熱処理を施してから引張試験を行い、結果を表2,3に併記した。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
表1〜3から次の様に解析できる。
【0082】
表1において、鋼種A〜Gは本発明で規定する成分組成とDI値が全て本発明の規定要件を満たす鋼材であり、鋼種H〜Nは、本発明で規定する成分組成とDI値の何れかが規定要件を各比較材である。
【0083】
そして表2は、成分組成、DI値、製造条件の全てが本発明の規定要件を満たす実施例であり、やせ馬変形量はいずれも4.0mm以下の小さな値を示している。
【0084】
これらに対し表3は、成分組成、DI値、製造条件の何れかが本発明の規定要件を欠く比較例であり、やせ馬変形量が許容範囲である4.0mmを超えているか、或いは母材の引張強度が400MPaレベルに達しておらず、本発明の目的に合致していない。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】溶接時の熱影響を模擬した供試鋼板に与える熱履歴のヒートパターンを示す図である。
【図2】鋼板を溶接建造する際に見られる“やせ馬現象”の説明図である。
【図3】鋼板母材の降伏応力(YP0)/溶接熱影響部の降伏応力(YP1)比が、“やせ馬現象”による面外座屈変形量に与える影響を示すグラフである。
【図4】溶接熱影響部の降伏応力と“やせ馬現象”による面外座屈変形量との関係を示すグラフである。
【図5】炭化物形成元素無添加の鋼材(前記鋼材1)を用いた種々の実験データの中から、Ar3変態点以下の圧下率が母材の引張強度(TS0)に与える影響を整理して示したグラフである。
【図6】炭化物形成元素を添加した鋼材(前記鋼材2)を用いた種々の実験データの中から、850〜950℃の温度域での累積圧下率が母材の引張強度(TS0)に与える影響を整理して示したグラフである。
【図7】DI値と溶接熱影響部の降伏応力の関係を纏めて示したグラフである。
【図8】実験で使用した供試鋼板の引張試験片の寸法・サイズを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の降伏応力を(YP0)、引張強度を(TS0)、当該鋼板に、溶接時の熱影響を模擬して下記の熱履歴を付与した後の降伏応力を(YP1)としたときに、YP0が250MPa以上、TS0が400MPa以上、YP1が400MPa以下であり、且つYP0/YP1が1以上であることを特徴とする溶接座屈変形の少ない鋼板。
(熱履歴付与条件)
熱履歴パターン:図1の通り。
【請求項2】
鋼材が下記化学成分を有し、且つ下記焼入れ性指数(DI値)を満たすものである請求項1に記載の鋼板。
(化学成分)
C :0.005〜0.12%(質量%の意味、以下同じ)、
Si:0.05〜0.5%、
Mn:0.05〜1.2%、
残部:Feおよび不可避不純物、
DI=1.16×[√(C/10)]×(0.7×Si+1)×(3.33×Mn+1)×(0.35×Cu+1)×(0.36×Ni+1)×(2.16×Cr+1)×(3.0×Mo+1)×(1.75×V+1)×(200×B+1)≦0.38
[式中の記号は、各元素の含有率(質量%)を表わす]。
【請求項3】
鋼材が下記化学成分を有し、且つ下記焼入れ性指数(DI値)を満たすものである請求項1に記載の鋼板。
(化学成分)
C :0.005〜0.12%、
Si:0.05〜0.5%、
Mn:0.05〜1.2%、
N :0.002〜0.007%を満たす他、
Nb:0.005〜0.03%、V:0.005〜0.075%、Ti:0.005〜0.03%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
残部:Feおよび不可避不純物、
DI=1.16×[√(C/10)]×(0.7×Si+1)×(3.33×Mn+1)×(0.35×Cu+1)×(0.36×Ni+1)×(2.16×Cr+1)×(3.0×Mo+1)×(1.75×V+1)×(200×B+1)≦0.38
[式中の記号は、各元素の含有率(質量%)を表わす]。
【請求項4】
鋼材が下記化学成分を有し、且つ下記焼入れ性指数(DI値)を満たすものである請求項1に記載の鋼板。
(化学成分)
C :0.005〜0.12%、
Si:0.05〜0.5%、
Mn:0.05〜1.2%、
N :0.002〜0.007%を満たす他、
Nb:0.005〜0.03%、V:0.005〜0.075%、Ti:0.005〜0.03%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有すると共に、下記式(I)の関係を満たし、
Nb/6.63N+V/3.64N+Ti/3.41N>1……(I)
残部:Feおよび不可避不純物、
DI=1.16×[√(C/10)]×(0.7×Si+1)×(3.33×Mn+1)×(0.35×Cu+1)×(0.36×Ni+1)×(2.16×Cr+1)×(3.0×Mo+1)×(1.75×V+1)×(200×B+1)≦0.38
[式中の記号は、各元素の含有率(質量%)を表わす]。
【請求項5】
前記鋼材が、更に他の元素として、
Ca:0.0005〜0.003%、Zr:0.0005〜0.004%、REM:0.0005〜0.005%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものである請求項2〜4のいずれかに記載の鋼板。
【請求項6】
鋼材が、更に他の元素として、Ni:0.2%以下、Cu:0.2%以下、Cr:0.2%以下、Mo:0.1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである請求項2〜5のいずれかに記載の鋼板。
【請求項7】
前記請求項2〜6のいずれかに記載された成分要件を満たす鋼片を950℃以上に加熱した後、目標板厚にまで圧延する際に、下記式によって算出されるAr3変態点以下の温度域での累積圧下率が30%以上となる様に圧延することにより、前記請求項1に記載の特性を与えることを特徴とする溶接座屈変形の少ない鋼板の製法。
Ar3(℃)=910−310×C−80×Mn−20×Cu−15×Cr−55×Ni−80×Mo
[式中の化学記号は、各元素の含有率(質量%)を表わす]。
【請求項8】
前記請求項4〜6のいずれかに記載された成分要件を満たす鋼片を950℃以上に加熱した後、目標板厚にまで圧延する際に、板厚方向平均温度850〜900℃の温度域での累積圧下率を50%以上とし、目標板厚まで圧延して圧延を終了することにより、前記請求項1に記載の特性を与えることを特徴とする溶接座屈変形の少ない鋼板の製法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−131937(P2006−131937A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320715(P2004−320715)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】