説明

溶接方法、および段差部の検出装置

【課題】簡単な構成で、溶接作業線を規定するための段差部を容易に短時間で精度良く検出することができる方法および装置を提供する。
【解決手段】ワーク1、2を重ねてその段差部Dを検出することによりこの段差部Dを溶接するための溶接作業線Wを規定し、この規定された溶接作業線Wに従って段差部Dを溶接する方法であって、段差部Dを横切る複数の線状光Lnを段差部D上から所定の角度αで照射して、段差部Dにより切断される各光切断線ln、ln’を段差部D上から撮像し、この撮像された各光切断線ln、ln’を画像処理して段差部Dにおける座標(Xn,Yn)あるいは(Xn’,Yn’)を抽出し、抽出された光切断線ln、ln’の端部の各座標(Xn,Yn)、(Xn’,Yn’)に基づいて段差部Dを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法、および段差部の検出装置に関し、特に、ワークを重ねることにより一方のワークの端面と他方のワークの表面との間に生じる段差部を検出して、該段差部を溶接するための溶接作業線を規定し、該規定された溶接作業線に従って前記段差部を溶接する方法、および、ワークを重ねることにより一方のワークの端面と他方のワークの表面との間に生じ、規定された溶接作業線に従って溶接する段差部を検出するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば板状のワークを重ねて接合する重ね継手においては、図6に参照されるように、一方のワークの端面と他方の板状ワークの表面との間に生じる段差部をアーク溶接などにより肉盛溶接している。そして、このような段差部を溶接するために、位置決めした状態の一方のワークの端面と他方の板状ワークの表面の位置(つまり、段差部の位置)を設定して、一方のワークの端面と他方の板状ワークの表面とからそれぞれ所定の距離だけ離間させた溶接作業線を段差部に沿って規定し、この溶接作業線に従ってロボットのアームに保持された溶接トーチの移動を教示(ティーチング)して、ロボットを制御し自動的に溶接することが一般に行われている。
【0003】
ここで、両ワークのそれぞれの板厚の誤差や、一方のワークの端面の成形精度あるいは位置決め、変形などにより両ワークが互いに離れた状態となるなどにより、段差部を構成する一方のワークの端面と他方の板状ワークの表面との位置が溶接するワークによって異なることがある。そのため、ワーク毎に段差部を検出して、上述したように規定された溶接作業線に従って移動される溶接トーチの移動軌跡を補正することが従来から行われている(特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1には、溶接線部に対して所定の線幅のスリット光を照射する投光部と、前記投光部からの照射光に対し一定の角度をなす角度から前記スリット光を撮像する撮像部と、前記投光部の光量を調節する光量調節部と、前記撮像部からの画像信号をディジタル量に変換するA/D変換器と、前記撮像部からの画像信号から分離した同期信号を基に画像データ制御用の同期信号を発生する同期信号発生部と、前記A/D変換器からのディジタル画像信号を前記同期信号発生部からの同期信号を基に画像データとして記憶する画像データ記憶部と、前記光量調節部や前記同期信号発生部や前記画像データ記憶部などを統合制御したり前記画像データを基に2値化および細線化などの画像処理を実行して溶接線位置を算出する全体制御部と、前記全体制御部で算出した溶接線検出データをロボット制御装置などに送出するための外部通信インターフェース部と、前記A/D変換器からのディジタル画像信号と前記同期信号発生部からの同期信号を基に水平方向ならびに垂直方向の濃淡投影値を算出するための水平方向加算器および水平方向投影値記憶部ならびに垂直方向加算器および垂直方向投影値記憶部を有する濃淡投影値処理部とを備えた溶接線検出装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献1には、上記の溶接線検出装置を用い、その濃淡投影値処理部での処理結果より得られる水平方向濃淡投影値の変曲点と垂直方向濃淡投影値の変曲点とを算出することにより溶接線を検出する第1の手法と、画像データ記憶部の画像データを2値化し細線化した上でその線上の屈曲点を算出し溶接線を検出する第2の手法とを、濃淡投影値の大きさや濃淡投影値の形状に応じて、前記第1の手法と前記第2の手法とを全体制御部にて選択的に切換える溶接線検出方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献1に開示されているように溶接作業線を検出しながらロボットによるトーチの移動をフィードバック制御して、ロボットの教示を補正する手法も一般に行われている。この手法はリアルタイムトラッキングと呼ばれている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−29436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の技術のうち、特許文献1にあっては、投光部からの照射光に対し一定の角度をなす角度からスリット光を撮像するものであるため、前記投光部の光量を調節する光量調節部と、前記撮像部からの画像信号をディジタル量に変換するA/D変換器と、前記撮像部からの画像信号から分離した同期信号を基に画像データ制御用の同期信号を発生する同期信号発生部と、前記A/D変換器からのディジタル画像信号を前記同期信号発生部からの同期信号を基に画像データとして記憶する画像データ記憶部と、前記光量調節部や前記同期信号発生部や前記画像データ記憶部などを統合制御したり前記画像データを基に2値化および細線化などの画像処理を実行して溶接線位置を算出する全体制御部と、前記全体制御部で算出した溶接線検出データをロボット制御装置などに送出するための外部通信インターフェース部と、前記A/D変換器からのディジタル画像信号と前記同期信号発生部からの同期信号を基に水平方向ならびに垂直方向の濃淡投影値を算出するための水平方向加算器および水平方向投影値記憶部ならびに垂直方向加算器および垂直方向投影値記憶部を有する濃淡投影値処理部とを備える必要があり、構造が複雑となり、溶接作業線を検出するための処理内容が煩雑であるという問題があった。そして、特許文献1にあっては、撮像投光部の光量を調節した上でスリット光を撮像して、水平方向ならびに垂直方向の濃淡投影値を算出するものであるため、撮像投光部の光量を適切に調節することは困難であり、調節した光量によっては溶接作業線を精度良く検出することができないなど、溶接作業線の検出精度を向上させることが容易でないという問題があった。
【0009】
また、一般に照射するスリット光のピッチを細かく設定することにより溶接作業線の検出精度を向上させることができるが、上記特許文献1にあっては、上述したように溶接作業線を検出するための処理内容が煩雑であることから、照射するスリット光のピッチを細かく設定すると、溶接作業線の検出に時間がかかることとなる。そのため、特許文献1では、溶接作業に要する時間を短縮してコストを低減させることが困難であるという問題があった。
【0010】
そして、上記特許文献1にあっては、「濃淡投影値データより水平方向および垂直方向の屈曲点を全体制御部にて算出し、この屈曲点を元に溶接線位置を算出」するなどと記載されていることから(0012)、重ねられた2枚の板の寸法誤差により板厚が変化したり変形誤差により隙間が生じた場合に、適切な溶接作業線を検出することができないという問題があった。
【0011】
一方、上記従来の技術で述べたようなリアルタイムトラッキングにあっては、たとえばアーク溶接などのように溶接の際にスパッタが発生すると、溶接作業線を検出するための装置(以下、センサという)がスパッタを被ってダメージを受け、溶接作業線を精度良く長期にわたって検出することが困難となり、また、センサの寿命が短くなるなどの問題が生じることとなるという問題や、溶接作業線を検出するためのセンサを適用できる範囲が限定されるなどの問題があった。さらに、リアルタイムトラッキングにあっては、上述したように溶接作業線の検出精度を向上させるために照射するスリット光のピッチを細かく設定すると、検出回数が増加することとなることから、溶接作業線の検出と並行して行われる溶接速度が低下するため、溶接速度調整の自由度が小さいという問題もあった。
【0012】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたもので、簡単な構成で、溶接作業線を規定するための段差部を容易に短時間で精度良く検出することができる方法および装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、上述した問題に鑑みてなされたもので、溶接作業線を規定するための段差部を三次元的に検出することができる方法および装置を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、溶接速度調整の自由度を大きくすることが可能な溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の溶接方法は、上記の課題を解決するために、ワークを重ねてその段差部を検出することにより該段差部を溶接するための溶接作業線を規定し、該規定された溶接作業線に従って前記段差部を溶接する方法であって、
前記段差部を横切る複数の線状光を段差部上から所定の角度で照射して、前記段差部により切断される各光切断線を前記段差部上から撮像し、
該撮像された各光切断線を画像処理することにより前記段差部を検出することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の段差部の検出装置は、上記の課題を解決するために、ワークを重ねることにより生じ、溶接作業線を規定するための段差部を検出する装置であって、前記段差部を横切るように複数の線状光を段差部上から所定の角度で照射する投光手段と、前記段差部により切断される各光切断線を前記段差部上から撮像する撮像手段と、該撮像された各光切断線を画像処理することにより前記段差部を演算する演算処理手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の溶接方法によれば、段差部を横切る複数の線状光を段差部上から所定の角度で照射して、段差部により切断される各光切断線を段差部上から撮像し、この撮像された各光切断線を画像処理することにより段差部を検出するという簡単な構成で、溶接作業線を規定するための段差部を容易に精度良く検出することができる。
【0016】
また、本発明の段差部の検出装置によれば、段差部を横切るように複数の線状光を段差部上から所定の角度で照射する投光手段と、前記段差部により切断される各光切断線を前記段差部上から撮像する撮像手段と、該撮像された各光切断線を画像処理することにより前記段差部を演算する演算処理手段と、を備えたという簡単な構成で、ワークを重ねることにより一方のワークの端面と他方のワークの表面との間に生じる段差部を容易に精度良く検出することができ、もって、かかる段差部を溶接するための溶接作業線を容易に精度良く規定することができる。
【0017】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(7)項が請求項2に相当する。
【0018】
(1) ワークを重ねてその段差部を検出することにより該段差部を溶接するための溶接作業線を規定し、該規定された溶接作業線に従って前記段差部を溶接する方法であって、
前記段差部を横切る複数の線状光を段差部上から所定の角度で照射して、前記段差部により切断される各光切断線を前記段差部上から撮像し、
該撮像された各光切断線を画像処理することにより前記段差部を検出することを特徴とする溶接方法。
【0019】
(1)項の発明では、段差部を横切る複数の線状光を段差部上から所定の角度で、両ワークの表面の位置が異なる段差部に対して複数照射することにより、各線状光を段差部上から撮像した画像は、段差部を境界として切断された光切断線となる。この撮像された各光切断線を画像処理することにより、その処理結果に基づいて段差部を短時間で容易に精度良く検出することができる。
ここで、本発明でいう「段差部を横切る複数の線状光を段差部上から所定の角度で照射」するとは、段差部を構成する一方のワークの端面と他方のワークの表面とが交差する位置において、他方のワークの表面とほぼ鉛直な平面上であって、一方のワークの端面に沿った方向へ所定の角度で傾斜させた状態で、段差部に沿った方向の異なる位置に対して、段差部を横切る方向に所定の長さを有するとともに段差部に沿った方向に所定の幅を有するスリット光を照射したり、所定の径を有するスポット状の光を、段差部を横切る方向に所定の長さだけ走査させる場合などが含まれる。
また、本発明でいう「段差部により切断される各光切断線を前記段差部上から撮像」するとは、線状光を段差部上から所定の角度で照射することにより段差部で途切れる線状光を、段差部を構成する一方のワークの端面と他方のワークの表面とが交差する位置において、他方のワークの表面とほぼ鉛直な位置から撮像することをいう。上記のスポット状の光を走査させる場合には、その走査させたスポット状の光の軌跡を記憶することにより、線状光として扱うことができる。
【0020】
(2) 前記画像処理により撮像された各光切断線の端部の座標を抽出し、該抽出された光切断線の端部の座標に基づいて前記段差部を検出することを特徴とする(1)項に記載の溶接方法。
【0021】
(2)項の発明では、(1)項に記載の発明において、撮像された各光切断線を画像処理してその段差部で切断された各光切断線の端部の座標を抽出することにより、この抽出された光切断線の端部の座標に基づいて段差部を容易に精度良く検出することができる。
【0022】
(3) 前記光切断線の抽出された端部の各座標を関数として近似させることにより、前記段差部のワークの表面に沿った位置を検出することを特徴とする(2)項に記載の溶接方法。
【0023】
(3)項の発明では、(2)項に記載の発明において、光切断線の抽出された端部の、ワークの表面と平行な平面上に位置する各座標をたとえばX、Yとし、この座標X、Yの関数として近似させることにより、一方のワークの端面の位置、すなわち、段差部のワークの表面に沿った位置を容易に精度良く検出することができる。
【0024】
(4) 前記各線状光における光切断線の抽出された端部の、前記段差部に沿った方向の各座標間の差を関数として近似させることにより、前記段差部の高さを検出することを特徴とする(2)または(3)項に記載の溶接方法。
【0025】
(4)項の発明では、(2)または(3)項に記載の発明において、各線状光における光切断線の抽出された端部の段差部に沿った方向の座標の差、たとえば一の光切断線の抽出された一方のワークにおける端部の座標Xnと他方のワークの端部の座標Xn’との差ΔXn−Xn’や、異なる光切断線の抽出された一方のワークにおける端部の座標Xn-1とXnの差ΔXn-1−Xn、または他方のワークにおける端部の座標Xn-1’とXn’の差ΔXn-1’−Xn’をそれぞれ関数として近似させることにより、一方のワークの表面や他方のワークの表面の高さH方向の相対的な変移や、それぞれの高さH方向の変移を三次元的に容易に精度良く検出することができる。
【0026】
(5) 前記複数の線状光を同時に照射することを特徴とする(1)〜(4)項のいずれかに記載の溶接方法。
【0027】
(5)項に記載の発明では、(1)〜(4)項のいずれかに記載の発明において、複数のスリット光を同時に照射したり、複数のスポット状の光を同時に走査させることにより、段差部の検出を短時間で行うことができる。
【0028】
(6) 検出された段差部により規定される溶接作業線を、トーチを保持したロボットの制御パラメータとして入力し、その後、前記制御パラメータに従ってロボットを制御して重ねられたワークの段差部をトーチにより溶接することを特徴とする(1)〜(5)項のいずれかに記載の溶接方法。
【0029】
(6)項に記載の発明では、(1)〜(5)項のいずれかに記載の発明において、段差部の検出を行って溶接作業線を規定して、ロボットに保持されたトーチの移動軌跡の制御パラメータとして溶接作業線を入力し、線状光を照射するための投光手段や、光切断線を撮像するための手段を退避させた後に、段差部の溶接を開始することができるため、線状光を照射するための投光手段や、光切断線を撮像するための手段が溶接時に発生するスパッタなどによるダメージを受けることがなく、したがって、溶接作業線を精度良く長期にわたって検出することができるとともに、線状光を照射するための投光手段や、光切断線を撮像するための手段の寿命を長くすることができる。
【0030】
(7) ワークを重ねることにより生じ、溶接作業線を規定するための段差部を検出する装置であって、
前記段差部を横切るように複数の線状光を段差部上から所定の角度で照射する投光手段と、
前記段差部により切断される各光切断線を前記段差部上から撮像する撮像手段と、
該撮像された各光切断線を画像処理することにより前記段差部を演算する演算処理手段と、
を備えたことを特徴とする段差部の検出装置。
【0031】
(7)項に記載の発明では、投光手段により段差部を横切る複数の線状光を段差部上から所定の角度で、両ワークの表面の位置が異なる段差部に対して複数照射すると、段差部を境界として切断された光切断線となる。この光切断線を撮像手段により段差部上から撮像して、演算処理手段により撮像された各光切断線を画像処理することにより、その画像処理結果に基づいて段差部を求めるための演算を短時間で容易に行って精度良く検出することができる。
なお、本発明でいう「段差部を横切るように複数の線状光を段差部上から所定の角度で照射する」とは、段差部を構成する一方のワークの端面と他方のワークの表面とが交差する位置において、他方のワークの表面とほぼ鉛直な平面上であって、一方のワークの端面に沿った方向へ所定の角度で傾斜させた状態で、段差部に沿った方向の異なる位置に対して、段差部を横切る方向に所定の長さを有するとともに段差部に沿った方向に所定の幅を有するスリット光を照射したり、所定の径を有するスポット状の光を、段差部を横切る方向に所定の長さだけ走査させることなどが含まれる。
また、本発明でいう「段差部により切断される各光切断線を前記段差部上から撮像する」とは、線状光を段差部上から所定の角度で照射することにより段差部で途切れる線状光を、段差部を構成する一方のワークの端面と他方のワークの表面とが交差する位置において、他方のワークの表面とほぼ鉛直な位置から撮像することをいう。上記のスポット状の光を走査させる場合には、演算処理手段が走査させたスポット状の光の画像の軌跡を記憶することにより、線状光として扱うことができる。
【0032】
(8) 前記演算処理手段は、撮像された各光切断線を画像処理することにより、その端部の座標を抽出し、該抽出された光切断線の端部の座標に基づいて前記段差部を検出するものであることを特徴とする(7)項に記載の段差部の検出装置。
【0033】
(8)項に記載の発明では、(7)項に記載の発明において、演算処理手段が画像処理して撮像された各光切断線の端部の座標を抽出することにより、抽出された光切断線の端部の座標を容易に短時間で演算して、段差部を精度良く検出することができる。
【0034】
(9) 前記演算処理手段は、撮像された各光切断線を画像処理することにより、その端部の座標を抽出し、該抽出された光切断線の端部の座標を関数として近似させることにより、前記段差部のワークの表面に沿った位置を検出するものであることを特徴とする(8)項に記載の段差部の検出装置。
【0035】
(9)項に記載の発明では、(8)項に記載の発明において、演算処理手段は、画像処理により抽出された光切断線の端部の、ワークの表面と平行な平面上に位置する各座標をたとえばx、yとし、この座標x、yの関数として近似させる。これにより、一方のワークの端面の位置、すなわち、段差部のワークの表面に沿った位置を容易に精度良く検出することができる。
【0036】
(10) 前記演算処理手段は、撮像された光切断線群を画像処理することにより、その端部の各座標を抽出し、
前記各線状光における光切断線の抽出された端部の、前記段差部に沿った方向の各座標間の差を関数として近似させることにより、前記段差部の高さを検出するものであることを特徴とする(8)または(9)項に記載の段差部の検出装置。
【0037】
(10)項に記載の発明では、(8)または(9)項に記載の発明において、演算処理手段は、各線状光における光切断線の抽出された端部の段差部に沿った方向の座標の差、たとえば一の光切断線の抽出された一方のワークにおける端部の座標Xnと他方のワークの端部の座標Xn’との差ΔXn−Xn’や、異なる光切断線の抽出された一方のワークにおける端部の座標Xn-1とXnの差ΔXn-1−Xn、または他方のワークにおける端部の座標Xn-1’とXn’の差ΔXn-1’−Xn’をそれぞれ関数として近似させることにより、一方のワークの表面や他方のワークの表面の高さH方向の相対的な変移や、それぞれの高さH方向の変移を三次元的に容易に精度良く検出することができる。
【0038】
(11) 前記投光手段は、複数の線状光を同時に照射するものであることを特徴とする(7)〜(10)項のいずれかに記載の段差部の検出装置。
【0039】
(11)項に記載の発明では、(7)〜(10)項のいずれかに記載の発明において、投光手段が、複数のスリット光を同時に照射したり、複数のスポット状の光を同時に走査させるものであることにより、段差部の検出を短時間で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
最初に、本発明による段差部の検出装置について、図1に基づいて詳細に説明する。同一符号は、同様または相当する部分を示すものとする。
本発明の段差の検出装置は、概略、ワーク1、2を重ね溶接するための溶接作業線Wを規定する段差部Dを検出するもので、段差部Dを横切るように複数の線状光Lnを照射する投光手段3と、段差部Dにより各線状光Lnが切断された光切断線ln、ln’を撮像する撮像手段4と、撮像された各光切断線ln、ln’を画像処理して段差部Dを演算する演算処理手段5とを備えており、投光手段3は、段差部D上から段差部Dに沿って所定の角度αで線状光Lnを照射するよう配設されており、撮像手段4は、段差部D上にワーク1、2の表面に対して鉛直な方向に向けて配設されており、演算処理手段5は、撮像された各光切断線ln、ln’の端部の座標(Xn,Yn)あるいは(Xn’,Yn’)を抽出して、各座標(Xn,Yn)、(Xn’,Yn’)に基づいて段差部Dを検出するものである。
【0041】
この実施の形態において重ね溶接されるワーク1、2は、それぞれ板状に形成されており、所定の板厚(図における垂直方向Hの高さ)を有している。ワーク1の端面1bとワーク2の表面2aとによって構成される段差部Dがアーク溶接される。ここで、本発明でいう溶接作業線Wとは、溶接トーチに保持された溶接棒の先端を移動させるための軌跡をいい、図6に参照されるように、段差部Dを構成するワーク1の端面1bとワーク2の表面2aとからそれぞれ所定の距離SY、SHを離して設定された座標が初期教示座標として、段差部Dに沿って規定されている。溶接トーチはロボットのアームに支持されており、ロボットは溶接棒の先端が溶接作業線W上を移動するよう制御されて溶接トーチを移動させる。
【0042】
投光手段3は、この実施の形態の場合、レーザ発振器3aと、レーザ発振器3aによりスリット光として照射するレーザビームLnの強度や所定のピッチPで照射するためのタイミング、および後述するように移動する軌跡などを制御する投光部制御部3bとを含んでいる。レーザ発振器3aは、図1に示したように、線状光として段差部Dを横切る所定長さ(Y方向)および所定幅(X方向)のスリット光Lnを照射するよう調整されている。そして、レーザ発振器3aは、溶接トーチが設けられたロボットまたはこれとは別のロボットに支持されて、段差部Dを構成するワーク1の端面1bとワーク2の表面2aとが交差する位置において、ワーク2の表面2aに対してほぼ鉛直な平面上に配置されている。そして、レーザ発振器3aは、ワーク1の端面1bに沿った方向に一定の角度α、たとえばワーク1、2の表面1a、2aに対して45度の角度で傾斜させた状態で(α=45度)、段差部Dを跨いでワーク1、2の表面1a、2aに所定のピッチP(図3を参照)で複数の位置にスリット光Lnを縞状のパターンに照射し得るように移動される。各スリット光Lnは、上述したように所定の角度αで傾斜していることにより、段差部Dを境界にして切断されて、ワーク1と2の表面1a、2aに対して図1のX方向にずれて照射された光切断線ln、ln’となる。
【0043】
撮像手段4は、レーザ発信器3aから段差部Dを跨いでワーク1、2の表面1a、2aに所定の角度αで照射されたスリット光Lnを撮影するカメラ4aと、カメラ4aの感度や絞り、および後述するように移動する軌跡などを制御する撮像部制御部4bとを含んでいる。カメラ4aは、レーザ発振器3aと同様に、溶接トーチが設けられたロボットまたはこれとは別のロボットに支持されている。そして、カメラ4aは、段差部Dを構成するワーク1の端面1bとワーク2の表面2aとが交差する位置において、各スリット光Lnが照射されたワーク1および2の表面1a、2aに対する鉛直線上に位置して、照射されたスリット光Lnの画像をそれぞれ撮影するよう移動される。
【0044】
演算処理手段5は、カメラ4aによる各スリット光Lnの撮像位置などを記録する撮像記録部5aと、カメラ4aから出力された画像データを記録する画像データ記録部5bと、後述するように画像データを演算処理するデータ処理部5cとを含んでいる。画像データは、スリット光Lnが段差部Dに対して複数の位置に所定のピッチPで照射されることにより、図1の画像データ記録部5bから下方に矢印で示したように、縞状パターンとして画像データ記録部5bに記録されることとなる。なお、データ処理部5cが行う処理内容については、後述する本発明の溶接方法において、段差部Dを検出することにより溶接作業線Wを規定する工程で併せて説明することとする。
【0045】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、投光手段3として上述したスリット光Lnを照射するものに替えて、所定の径を有するレーザビームなどのスポット状の光を、段差部Dを横切る方向に所定の長さだけ走査させ、カメラ4aにより撮像されたスポット状の光の軌跡を撮像記録部5aに記録させることにより線状光とすることもできる。また、本発明は単一の線状光Lnを照射するものであることに限定されることなく、たとえばレーザ発振器3aに回折格子と必要に応じてレンズとを設けて、図5に示すように複数の線状光Lnを同時に複数箇所へ照射するよう構成することもできる。この場合には、各線状光Lnがワーク1、2の表面1a、2aに対して所定のピッチPで、同じ傾斜角度αで照射されるよう構成することが望ましい。しかしながら、各線状光Lnのワーク1、2の表面1a、2aに対する傾斜角度αの差が無視できる程に小さい場合には、そのまま撮像した画像に基づいて段差部Dを検出するための画像処理を行うこともできる。また、かかる傾斜角度αの差を無視できない場合であっても、各線状光Lnのワーク1、2の表面1a、2aに対する傾斜角度を求めて、各傾斜角度に応じて抽出された座標を補正するよう構成することもできる。
【0046】
次に、本発明の溶接方法を、上述したように構成された段差部の検出装置が含まれる溶接装置を使用する場合により、主に図1〜図4に基づいて詳細に説明する。
本発明の溶接方法は、概略、ワーク1、2を重ねてその段差部Dを検出することによりこの段差部Dを溶接するための溶接作業線Wを規定し、この規定された溶接作業線Wに従って段差部Dを溶接する方法であって、段差部Dを横切る複数の線状光Lnを段差部D上から所定の角度αで照射して、段差部Dにより切断される各光切断線ln、ln’を段差部D上から撮像し、この撮像された各光切断線ln、ln’を画像処理して段差部Dにおける座標(Xn,Yn)あるいは(Xn’,Yn’)を抽出し、抽出された光切断線ln、ln’の端部の各座標(Xn,Yn)、(Xn’,Yn’)に基づいて段差部Dを検出するものである。
【0047】
ワーク1、2を重ね溶接するに際して、ロボットに支持された溶接トーチの溶接棒の先端が設定された段差部Dに対する溶接作業線Wに従って移動するように、ロボットの軌跡が予め教示(ティーチング)され、その初期教示座標としてロボット制御部またはデータ処理部5cに記憶されている。溶接作業線Wを規定するための段差部Dを検出するためには、データ処理部5cにより、画像データ記録部5bに記録された各光切断線ln、ln’の縞状パターンの画像データから、各光切断線ln、ln’の段差部Dにおける端部の水平方向の不連続な座標、すなわち図2に平面図で示すように、ワーク1の表面1aと端面1bとの角部において段差部Dに沿った方向の座標Xn、と、段差部Dと交差する方向の座標Ynとをそれぞれ抽出し(図1のS1)、これらの座標点群(Xn,Yn)を関数近似させる(図1および図2のS2)。なお、ワーク2の表面2aとワーク1の端面1bとの角部における段差部Dに沿った方向の座標Xn’、と、段差部Dと交差する方向の座標Yn’とをそれぞれ抽出して、これらの座標点群(Xn’,Yn’)を関数近似させることもできる。
【0048】
また、データ処理部5cにより、画像データ記録部5bに記録された各光切断線ln、ln’の縞状パターンの画像データから、各光切断線ln、ln’の段差部Dにおける端部の垂直方向の不連続な座標を抽出する。すなわち図3に示すように、両ワーク1、2の表面1a、2aに対して照射された各スリット光Lnにおける段差部Dに沿った方向の座標XnとXn’との差(距離ということもできる)ΔXnをそれぞれ求める。また、この差ΔXnとスリット光Lの傾斜角度αとから算出することができる両ワーク1、2の表面1a、2a間の高さ方向Hの差ΔHnをそれぞれ求める。そして、この実施の形態の場合、溶接作業線Wの高さH方向の位置を中間の高さΔHn/2に設定するために、ΔXn/2と、ΔXn/2およびスリット光の傾斜角度αとから算出することができるΔHn/2をそれぞれ求め(図1のS3を参照)、これらの不連続な座標点群(ΔXn/2,ΔHn/2)を関数近似させる(図1および図3のS4)。なお、溶接作業線Wの高さH方向の位置は、表面1a、2aの中間に限定されることはなく、任意に規定することができ、ΔXnとΔHnを除算する数値を変更することにより、容易に規定することができる。また、演算を省略するために、溶接作業線Wを中間の高さΔHn/2に規定するこの実施の形態の場合、ΔHを求めることなく、ΔXn/2とスリット光の傾斜角度αとからΔHn/2を直接算出することができる(図1のS3)。
【0049】
ここで、図4に基づいて、ワーク1の肉厚が設定よりも厚いなどの理由によりスリット光Ln-1を照射される表面1aが設定よりも高い位置にある場合Aと、ワークの肉厚が設定よりも薄いなどの理由によりスリット光Ln-1を照射される表面1aが設定よりも低い位置にある場合Bとを説明する。ワーク1が設定された肉厚を有する場合(図4の実線)における抽出される座標をXn-1とし、ワーク2に傾斜角度αが一定で照射されるスリット光の座標をXn-1’とする。そして、ワーク1が設定された肉厚よりも厚い場合(図4の一点鎖線)Aに抽出される座標をXAn-1とし、また、ワーク1が設定された肉厚よりも薄い場合(図4の二点鎖線)Bに抽出される座標をXBn-1とする。ワーク1が設定された肉厚よりも厚い場合Aには、XAn-1とXn-1’との距離ΔXAn-1は、設定された肉厚の場合の距離ΔXn-1よりも長くなり、また、ワーク1が設定された肉厚よりも薄い場合には、XBn-1とXn-1’との距離ΔXBn-1は、設定された肉厚の場合の距離ΔXn-1よりも短くなる。上述したようにスリット光Ln-1が傾斜角度α=一定で照射されているため、距離ΔXn-1、XAn-1、XBn-1からそれぞれの板厚ΔHn-1、ΔHAn-1、ΔHBn-1を容易に短時間の演算より算出することができる。そして、上述したようにスリット光Ln-1の傾斜角度αを45度とした場合には、距離ΔXn-1からΔXAn-1あるいはΔXBn-1にそれぞれ変化した差、換言すれば、設定され抽出されるはずの座標Xn-1に対する実際に抽出された座標XAn-1あるいはXBn-1までの距離を求めることにより、その求められた値を高さΔHn-1からΔHAn-1あるいはΔHBn-1にそれぞれ変化した量とすることができる。
【0050】
なお、ワーク2の肉厚が設定よりも厚いなどの理由によりスリット光Ln-1を照射される表面2aが設定よりも高い位置にある場合や、ワーク2の肉厚が設定よりも薄い厚いなどの理由によりスリット光Ln-1を照射される表面2aが設定よりも低い位置にある場合も、上述した説明と同様の考え方で、抽出される座標Xn-1’の変化に基づいて容易に短時間の演算より算出することができる。このように、各スリット光Lnの段差部Dにおいて抽出された座標XnおよびXn’の差ΔXnとスリット光Lの傾斜角度αとから、両ワーク1、2の表面1a、2a間の高さ方向Hの差ΔHnを求めることができる。
【0051】
さらに、図4に基づいて、ワーク1の表面上で互いに隣接するスリット光Ln-1、Lnの抽出される座標Xn-1、Xnの差により、ワーク1の肉厚が厚く変化した場合(図4の一点鎖線)と、ワーク1の肉厚が薄く変化した場合(図4の二点鎖線)を検出する方法について説明する。ワーク1の座標Xn-1、Xn間が設定された肉厚で変化しない場合(図4の実線)に、ワーク1に傾斜角度αが一定で照射されるスリット光Ln-1の光切断線ln-1の端部の座標をXn-1とし、これに隣接して傾斜角度αが一定で照射されるスリット光Lnの光切断線lnの端部の座標をXnとする。そして、ワーク1の肉厚が厚く変化した場合にスリット光Lnの抽出される座標をXAnとし、また、ワーク1の肉厚が薄く変化した場合にスリット光Lnの抽出される座標をXBnとする。ワーク1の肉厚が厚く変化した場合には、座標Xn-1と座標XAnとの距離ΔXn-1−XAnは、変化しない場合の距離ΔXn-1−Xnと比較して短くなり、また、ワーク1の肉厚が薄く変化した場合には、座標Xn-1および座標XBnの距離ΔXn-1−XBnは、変化しない場合の距離ΔXn-1−Xnと比較して長くなる。上述したようにスリット光Ln-1、Lnがともに傾斜角度α一定で照射されているため、距離ΔXn-1−Xn、ΔXn-1−XAn、ΔXn-1−XBnに基づいて、座標Xn-1を基準とした板厚の増減変化を容易に短時間の演算より算出することができる。そして、スリット光Ln-1、Lnの傾斜角度αを45度とした場合には、距離ΔXn-1−XnからΔXn-1−XAnあるいはΔXn-1−XBnにそれぞれ変化した差の値、換言すれば、設定され抽出されるはずの座標Xnに対する実際に抽出された座標XAnあるいはXBnまでの距離を求めることにより、その求められた値をワーク1の表面の座標Xn-1から隣接する座標位置Xnでの高さH方向に変化した量とすることができる。このように、隣接するスリット光Ln-1、Lnの傾斜角度αと、段差部Dにおいて抽出された座標Xn-1およびXnの距離ΔXn-1−Xnの変化とから、ワーク1の段差部Dにおける表面1aの高さ方向Hの変動を求めることができる。
【0052】
これと同様に、ワーク2の表面上で互いに隣接するスリット光Ln-1、Lnの抽出される座標Xn-1’、Xn’の差により、ワーク2の肉厚が厚く変化した場合(図4の一点鎖線)と、ワーク2の肉厚が薄く変化した場合(図4の二点鎖線)を検出する方法について説明する。ワーク2の座標Xn-1’、Xn’間が設定された肉厚で変化しない場合(図4の実線)に、ワーク2に傾斜角度αが一定で照射されるスリット光Ln-1の光切断線ln-1の端部座標をXn-1’とし、これに隣接して傾斜角度αが一定で照射されるスリット光Lnの光切断線lnの端部の座標をXn’とする。そして、ワーク2の肉厚が厚く変化した場合にスリット光Lnの抽出される座標をXAn’とし、また、ワーク2の肉厚が薄く変化した場合にスリット光Lnの抽出される座標をXBn’とする。ワーク2の肉厚が厚く変化した場合には、座標Xn-1’および座標XAn’の距離ΔXn-1’−XA n’は、変化しない場合の距離ΔXn-1’−X n’と比較して短くなり、また、ワークの肉厚が薄く変化した場合には、座標Xn-1’および座標XBn’の距離ΔXn-1’−XB n’は、変化しない場合の距離ΔXn-1’−X n’と比較して長くなる。上述したようにスリット光Ln-1、Lnがともに傾斜角度α一定で照射されているため、距離ΔXn-1’−X n’、ΔXn-1’−XA n’、ΔXn-1’−XB n’に基づいて、座標Xn-1’を基準とした板厚の変化を容易に短時間の演算より算出することができる。そして、スリット光Ln-1、Lnの傾斜角度αを45度とした場合には、距離ΔXn-1’−X n’からΔXn-1’−XA n’あるいはΔXn-1’−XB n’にそれぞれ変化した差の値、換言すれば、抽出されるはずの座標Xnに対する実際に抽出された座標XAn’あるいはXBn’までの距離を求めることにより、その求められた値をワーク2の表面の座標Xn-1’から隣接する座標位置Xn’での高さH方向に変化した量とすることができる。このように、隣接するスリット光Ln-1、Lnの傾斜角度αと、段差部Dにおいて抽出された座標Xn-1’およびXn’の距離ΔXn-1’−Xn ’の変化とから、ワーク2の段差部Dにおける表面2aの高さ方向Hの変動を求めることができる。
【0053】
図1に再び戻ると、データ処理部5cでは、上述したように検出された段差部Dに基づいて、溶接作業線Wの三次元座標を算出する(S5)。すなわち、各光切断線ln、ln’の端部の水平方向の不連続な座標点群(Xn,Yn)を関数近似させることにより検出された段差部Dを構成するワーク1の端面1bから図6に示したように水平方向Yに距離WYだけ移動させるとともに、上述したように求められた高さ方向HにWH(=ΔHn/2)だけ移動させた溶接作業線Wの三次元座標を容易に短時間で算出し、予め記憶された溶接トーチの移動軌跡の初期教示座標を補正してこれを制御パラメータとしてロボットの制御部へ出力する。
【0054】
本発明では、段差部Dを横切る複数の線状光Lnを段差部D上から所定の角度αで照射して、段差部Dにより切断される各線状光Lnの光切断線ln、ln’を段差部D上から撮像し、この撮像された各光切断線ln、ln’を画像処理して、その端部の座標(Xn,Yn)あるいは(Xn’,Yn’)を抽出することにより、容易に精度良く短時間で段差部を検出することができ、したがって、重ね溶接するワーク1、2の形状などの状態に応じて正確な溶接作業線Wを規定することができる。
また、図5に示したように、複数の線状光Lnを同時に照射する場合には、さらに短時間で段差部Dを検出することができる。
【0055】
その後、レーザ発信器3aとカメラ4aを段差部D上から退避させて、溶接作業線Wの予め設定された各初期教示座標を補正した溶接作業線Wに従って、溶接トーチの溶接棒の先端が移動するように、溶接トーチを支持しているロボットを制御する。溶接作業線Wを補正してレーザ発信器3aとカメラ4aを段差部D上から退避させた後に溶接を開始するため、溶接時に発生するスパッタを被ることによるダメージをレーザ発信器3aとカメラ4aが受けないことから、長期にわたって安定して精度良く段差部Dを検出して溶接作業線Wを規定することができる。また、溶接と並行して段差部Dを検出するリアルタイムトラッキングとは異なるので、ロボットによる溶接速度調整の自由度が大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の段差部の検出装置を説明するために示した概念図である。
【図2】本発明の水平方向の座標を抽出した状態を説明するために示した平面図である。
【図3】本発明の垂直方向の座標を抽出する状態を説明するために示した正面図である。
【図4】本発明の段差部の検出方法において、段差部に沿った方向の各座標間の差を関数として近似させることにより、段差部の高さを検出することを説明するために概念的に示した部分拡大正面図である。
【図5】複数の線状光を同時に照射するように構成した場合を説明するために示した斜視図である。
【図6】ワークを重ね溶接するための段差部に対する溶接作業線を示した側面図である。
【符号の説明】
【0057】
1:一方のワーク、 2:他方のワーク、 3:投光手段、 4:撮像手段、 5:データ処理部(演算処理手段)、 W:溶接作業線、 D段差部、 1a:一方のワークの表面、1b:一方のワークの端面、 2a:他方のワークの表面、 Ln:スリット光(線状光)、 ln:光切断線、 ln’:光切断線、 α:線状光の傾斜角度、 P:線状光のピッチ、 Xn:段差部の、一方のワークの表面における端面に沿った方向の座標、 Xn’:段差部の他方の表面における端面に沿った方向の座標、Yn:段差部の、他方のワークの表面における端面と直交する方向の座標、 Yn’:段差部の、他方のワークの表面における端面と直交する方向の座標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを重ねてその段差部を検出することにより該段差部を溶接するための溶接作業線を規定し、該規定された溶接作業線に従って前記段差部を溶接する方法であって、
前記段差部を横切る複数の線状光を段差部上から所定の角度で照射して、前記段差部により切断される各光切断線を前記段差部上から撮像し、
該撮像された各光切断線を画像処理することにより前記段差部を検出することを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
ワークを重ねることにより生じ、溶接作業線を規定するための段差部を検出する装置であって、
前記段差部を横切るように複数の線状光を段差部上から所定の角度で照射する投光手段と、
前記段差部により切断される各光切断線を前記段差部上から撮像する撮像手段と、
該撮像された各光切断線を画像処理することにより前記段差部を演算する演算処理手段と、
を備えたことを特徴とする段差部の検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−260043(P2008−260043A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104936(P2007−104936)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】