説明

溶接構造体

【課題】Arバックガスシールを実施せずに溶接施工しても、溶接隙間部に腐食が生じにくい溶接構造体を提供する。
【解決手段】隙間構造を有する溶接構造体において、胴板と鏡板を溶接接合する場合に胴板を溶接ボンドから5mm以上出すとともに溶接部の隙間間隔を20μm以下として溶接隙間部を形成し、この溶接隙間部のスケール組成がCr>20atm%以上であることを特徴とする、溶接構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TIG溶接などにより施工される溶接構造体において、Arバックガスシールの使用有無によらずに溶接隙間部の耐食性を有する溶接構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
CO冷媒ヒートポンプ給湯器や電気温水器に用いられる貯湯槽などは胴板と鏡板と呼ばれる加工板をTIG溶接により接合される溶接構造体である。それらの溶接構造体を上水の温水環境で使用すると、溶接隙間部で腐食が生じやすい。これらの温水用溶接構造体用の材料としてフェライト系鋼のSUS444(低C、低N、18〜19Cr−2Mo−Nb、Ti系鋼)が広く用いられてきた。SUS444は温水環境での耐食性向上を主目的に開発された鋼種である。しかし、溶接接合部で隙間腐食を起こすと、板厚を貫通して漏水に至ることもある。
【0003】
このため、温水容器では腐食しやすい隙間構造の形成をできるだけ避ける構造とすることが望ましい。しかし、鏡と胴の溶接接合部など、施工上、隙間の形成を回避することが難しい部位もある。耐食性の観点から、隙間腐食を防止するため隙間構造を避けた突き合わせ溶接が好ましいが、溶接が難しく、強度も得られにくい。
【0004】
近年におけるCO冷媒ヒートポンプ給湯器や電気温水器などの貯湯容器には使用水圧の上昇により、耐圧性が要求されており、溶接構造体としての強度を得るためには重ね溶接により溶着部をしっかり確保する必要がある。その場合に胴板と鏡板で溶接隙間ができる。温水容器をTIG溶接により製造する際には、溶接部の耐食性低下を小さくするため、一般にArバックガスシールを行って裏ビード側の酸化を抑制する対策が採られている。ところが、電気温水器では追い焚き機能のニーズが高まり、蛇管を内部に装入した構造の缶体が増えてきた。この場合、溶接時にArバックガスシールを行うためのノズルを缶体内部に挿入することが難しくなり、バックガスシールなしのTIG溶接を採用せざるを得ないケースが増え、耐食性低下に対する不安要因となっている。CO2冷媒ヒートポンプ給湯器ではヒーター加熱を行わないので、ヒーター挿入のためのフランジは本来不要であるが、TIG溶接時のバックガスシール用ノズルを挿入するためにはフランジが省略できないなど、コストアップに繋がる問題が生じる。
【0005】
特許文献1には鏡への胴の挿入深さを20mmまでとし、隙間腐食の発生を避けた構造の温水器用ステンレス鋼製缶体が記載されている。鋼種としてはSUS444相当鋼が採用されている。しかし、発明者らの調査によれば溶接で耐食性が低下する熱影響部は溶接ビードから概ね10mm程度の範囲であり、上記構造では安定した耐食性向上効果が十分に得られない場合がある。また、このSUS444相当鋼をArバックガスシールを行わないTIG溶接に供すると、裏ビード部での酸化スケールの生成部分では著しい耐食性低下が生じることが予想される。
【0006】
特許文献2にはTiとAlを複合添加することにより溶接時のCr酸化ロスを抑制し、溶接部での耐食性低下を改善したフェライト系ステンレス鋼が記載されている。この鋼を使用することにより温水容器の耐食性レベルを大きく向上させることが可能になった。しかし、この鋼の場合も、Arバックガスシールを行わないTIG溶接ではCrの酸化ロスを十分に抑制することはできず、溶接隙間部の耐食性の大幅な低下は避けられない。
【0007】
特許文献3には、バックガスシールを行わないTIG溶接により形成された裏ビード側溶接部の耐食性向上として21質量%を超えるCr含有量を確保し、Ni,Cuの添加でTIG溶接裏面熱影響部の耐食性を大きく改善する鋼を提案されている。この鋼を使用することにより温水容器の耐食性レベルを大きく向上させることが可能になった。しかし、隙間構造やCu量によっては十分なTIG溶接隙間部の耐食性改善効果が得られないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭54−72711号公報
【特許文献2】特開平5−70899号公報
【特許文献3】特願2007−088124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、昨今の温水容器においては、TIG溶接で製造する際にArバックガスシールを実施しにくい構造のものが増えている。一方で、製造コスト低減等の要請から溶接部に隙間を形成しないような構造の温水容器を設計することも難しい状況にある。
本発明は、このような現状に鑑み、Arバックガスシールを行わないTIG溶接により隙間構造をもった温水容器を構築する際の溶接隙間部の状態を特定することにより、温水環境において優れた耐食性を確保した。
(本発明では隙間構造を特定しているので、これは削除したほうがよいと考えます。)
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは上記目的を達成すべく詳細な研究を行った結果、以下のようなことを見出した。
(i)溶接構造体としては溶接ボンドから1mmほど離れ、隙間間隔が20μm以下の部分が最も隙間腐食を起こしやすいが、それ以下に胴板を制御することは困難である。したがって、溶接しやすくかつ強度を得るために、胴板を5mm以上出すように溶接隙間部を形成する必要がある。
(ii)最も溶接隙間腐食の起こりやすい溶接ボンドから1mmほど離れ、隙間間隔が20μm程以下の部分の表面に生成する酸化スケールを制御することによりArバックガスシールを行わないTIG溶接においても耐隙間腐食性を維持することができる。
(iii)22質量%を超えるCr含有量を確保して基本的耐食性レベルを向上させることにより、溶接スケール直下での溶接構造体の腐食の成長を抑える。
本発明はこのような思想に基づいて溶接構造体としての構造ならびにそれを構成するフェライト系ステンレス鋼を提供するものである。
【0011】
すなわち、本発明を以下のように構成する。
請求項1に記載の発明は、
隙間構造を有する溶接構造体において、胴板と鏡板を溶接接合する場合に胴板を溶接ボンドから5mm以上出すとともに溶接部の隙間間隔を20μm以下として溶接隙間部を形成し、この溶接隙間部のスケール組成がCr>20atm%以上であることを特徴とする、溶接構造体である。
請求項2に記載の発明は、
溶接構造体を構成する材料が、質量%でC:0.02%以下、Si:0.01〜0.3%、Mn:1%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:0.2〜2%、Cr:20〜25%、Mo:1.2%以下、Nb:0.05〜0.6%、Ti:0.05〜0.4%、N:0.025%以下、Al:0.02〜0.3%であり残部Feおよび他の不可避的不純物からなることを特徴とする、請求項1に記載の溶接構造体である。
【0012】
上述の溶接構造体材料を用いることにより、その鋼板をそれぞれ胴板、鏡板に用い、胴板を5mm以上出してTIG溶接を行った場合に、Arバックガスシールの有無にかかわらず、溶接ボンドから1mmほど離れ、隙間間隔が20μm以下の部分における溶接隙間部の酸化スケールのスケール組成がCr>20atm%以上とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溶接構造体を使用すると、溶接作業性が容易となり、作業性も向上するとともに温水環境における溶接部の耐食性が顕著に改善される。特に、バックガスシールなしのTIG溶接によって形成された溶接隙間部において長期間優れた耐食性が維持される。すなわち温水容器をTIG溶接により製造する際に、Arバックガスシールを省略しても高い信頼性が得られる。したがって本発明によれば、高耐食性が要求される上水環境での温水容器において設計自由度の拡大が可能になる。また、CO冷媒ヒートポンプ給湯器の温水缶体ではバックガスシールのためのフランジが不要になり、コスト低減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】溶接サンプルの断面の模式図である。
【図2】腐食試験に用いた溶接サンプルの概観である。
【図3】隙間構造と隙間腐食深さの関係である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の溶接構造体を構成する成分元素について説明する。
C:0.02質量%以下、N:0.025質量%以下
C,Nは鋼中に不可避的に含まれる元素である。C、Nの含有量を低減すると鋼は軟質になり加工性が向上するとともに炭化物、窒化物の生成が少なくなり、溶接性および溶接部の耐食性が向上する。このため本発明ではC、Nとも含有量は少ない方が良く、Cは0.02質量%まで、Nは0.025質量%まで含有が許容される。
【0016】
Si:0.01〜0.3質量%
SiはArガスシールを行ってTIG溶接する場合、溶接部の耐食性改善に有効に作用する。しかしながら発明者らの詳細な検討によれば、ガスシールなしでTIG溶接する場合、Siは逆に溶接部の耐食性を阻害する要因になることがわかった。このため、耐食性の点ではSi含有量は低い方が好ましく、本発明では0.3質量%以下に規定する。ただし、Siはフェライト系鋼の硬質化に寄与するので、例えば水道に直結して使用する高圧タイプの温水容器をはじめとして継手の強度が要求されるような用途などでは、Siの添加は有利となる。種々検討の結果、Siによる強度向上作用を十分に享受するには、0.01質量%以上の含有量を確保することが望まれる。したがって本発明ではSi含有量を0.01〜0.3質量%に範囲にコントロールする。
【0017】
Mn:1質量%以下
Mnはステンレス鋼の脱酸剤として使用される。しかしMnは不動態皮膜中のCr濃度を低下させ、耐食性低下を招く要因となるので、Mn含有量は低い方が好ましく、1質量%以下の含有量に規定される。スクラップを原料とするステンレス鋼ではある程度のMn混入は避けられないので、過剰に含有されないよう管理が必要である。
【0018】
P:0.04質量%以下
Pは母材および溶接部の靭性を損なうので低い方が望ましい。ただし、含Cr鋼の溶製において精錬による脱りんは困難であることから、P含有量を極低化するには原料の厳選などに過剰なコスト増を伴う。したがって本発明では一般的なフェライト系ステンレス鋼と同様に、0.04質量%までのP含有を許容する。
【0019】
S:0.03質量%以下
Sは孔食の起点となりやすいMnSを形成して耐食性を阻害することが知られているが、本発明では適量のTiを必須添加するので、Sを特に厳しく規制する必要はない。すなわち、TiはSとの親和力が強く、化学的に安定な硫化物を形成するので、耐食性低下の原因になるMnSの生成が十分に抑止される。一方、あまり多量にSが含まれると溶接部の高温割れが生じやすくなるので、S含有量は0.03質量%以下に規定される。
【0020】
Cr;20〜25質量%
Crは不動態皮膜の主要構成元素であり、耐孔食性や耐隙間腐食性などの局部腐食性の向上をもたらす。バックガスシールなしでTIG溶接した溶接部の耐食性はCr含有量に大きく依存することから、Crは本発明において特に重要な元素である。発明者らの検討の結果、バックガスシールなしで溶接した溶接部に温水環境で要求される耐食性を付与するには20質量%以上のCr含有量を確保すべきであることがわかった。耐食性向上効果はCr含有量が多くなるに伴って向上する。しかし、Cr含有量が多くなるとC、Nの低減が難しくなり、機械的性質や靭性を損ねかつコストを増大させる要因となる。本発明では、Cr含有量が20質量%以上の鋼ではNiの溶接隙間部の耐食性改善効果が大きくなることにより厳しい環境への適用においてもCr含有量のさらなる増加に頼ることなく、上述の問題を最小限に抑え、十分な耐食性を得ることができる。したがって本発明ではCr含有量を20〜25質量%とする。
【0021】
Mo:1.0質量%以下
MoはCrとともに耐食性レベルを向上させるための有効な元素であり、その耐食性向上作用は高Crになるほど大きくなることが知られている。ところが、発明者らの詳細な検討によれば、バックガスシールなしでTIG溶接した溶接隙間部や裏ビード側の溶接部については、Moによってもたらされる耐食性向上作用はあまり大きくないことがわかった。本発明の主な用途である上水の温水環境に対しては0.2質量%以上のMoを含有させることが効果的であるが、1.0質量%を超えて増量しても耐隙間腐食性の改善効果は小さく、徒にコスト上昇を招くのみで得策ではない。したがってMo含有量は1.0質量%以下とする。
【0022】
Nb:0.05〜0.6質量%
NbはTiと同様にC、Nとの親和力が強く、フェライト系ステンレス鋼で問題となる粒界腐食を防止するのに有効な元素である。その効果を十分発揮させるには0.05質量%以上のNb含有量を確保することが望ましい。しかし、過剰に添加すると溶接高温割れが生じるようになり、溶接部靭性も低下するので、Nb含有量の上限は0.6質量%とする。
【0023】
Ti:0.4質量%以下
TiはArバックガスシールを行う従来のTIG溶接において溶接部の耐食性向上に寄与する元素であるが、バックガスシールなしのTIG溶接においても隙間部やその裏ビード側溶接部の耐食性を顕著に改善する作用を有することがわかった。そのメカニズムについては必ずしも明確ではないが、Arバックガスシールを行うTIG溶接の場合は、Alとの複合添加により溶接時に鋼表面にAl主体の酸化皮膜が優先的に形成され、結果的にCrの酸化ロスが抑制されるものと考えられる。他方、バックガスシールなしのTIG溶接の場合は、その溶接部においてTiは腐食発生後の再不動態化を促進する作用を発揮し、それによって耐食性が向上するものと推察される。このようなTiの作用を十分に享受するには0.05質量%以上のTi含有量を確保することが望ましい。しかし、Ti含有量が多くなると素材の表面品質が低下したり、溶接ビードに酸化物が生成して溶接性が低下したりしやすいので、Ti含有量の上限は0.4質量%とする。
【0024】
Al:0.02質量%
AlはTiとの複合添加によって溶接による耐食性低下を抑制する。その作用を十分に得るためには0.02質量%以上のAl含有量を確保することが望ましい。一方、過剰のAl含有は素材の表面品質の低下や、溶接性の低下を招くので、Al含有量は0.3質量%以下とする。
【0025】
Ni:0.2〜2質量%
NiはArバックガスシールなしのTIG溶接において溶接スケール中のCr濃度を高め、化学的に安定なCrの生成量を増加しスケールの耐食性を向上させるのに重要な元素である。溶接スケール部においてはCr,Fe,Ti,Al系酸化物が形成される。Niの添加によりCrの活量を上げて、4/3Cr+O2→2/3 Cr23の反応を促進させるために、耐食性に弊害があるFe23が減少され、Cr>20atm%以上の組成を維持できる効果があることを見出した。その効果を出すためにはNiが0.2%以上必要である。ただし多量のNi含有は鋼を硬質にして、加工性を阻害するので、2質量%以下の範囲で行う。
【0026】
本発明にかかる鋼材の冷延焼鈍酸洗板を溶接部より5mm以上出して、重ねTIG溶接を行った場合に、Arバックガスシールの有無にかかわらず、溶接ボンドから1mmほど離れ、隙間間隔が20μm以下の部分における溶接隙間部の酸化スケールのスケール組成がCr>20atm%以上の組成となる。
(溶接条件)
溶接法:溶接芯線なしの突合せ溶接
溶接電流:60A 溶接速度:300mm/min
トーチシール側のArガス流量:12L/min
電極径:φ1.6mm
【実施例】
【0027】
実施例により本発明の具体的な効果を示す。
表1に示す化学組成を有するステンレス鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3mmの熱延板を作製した。その後、冷間圧延にて板厚1.0mmとし、仕上焼鈍を1000〜1070℃で行い、酸洗を施すことによって供試材とした。
【0028】
【表1】

【0029】
各供試材について、図1に示す方法にてTIG溶接隙間を形成し、腐食試験を実施した。溶接条件は[0026]記載のものであり、Arバックガスシールの有り、無しでそれぞれ行った。2枚の鋼板を重ねてTIG溶接する際、隙間開口部を作るため、一方の鋼板を溶接部から5mm以上出るように重ね、かつ10°の角度で曲げを施した後、隙間となる面を大気に曝した状態で溶接を行った。溶接条件は、溶け込み(溶接金属部)が裏面まで到達し、裏面に約4mm幅の裏ビードが形成される。この条件の場合、溶接熱影響部(HAZ)は板厚中央部でビード中心からの距離が約10mmの範囲となる。隙間深さを溶接ビード中心から曲げ位置までの距離(mm)と定義し、2枚の鋼板の隙間間隔が20mm以下になるように作製した。溶接で生じた酸化スケールを除去していない試料から15×40mmの試験片を切り出し、塩素イオンを含む温水中での浸漬試験に供した。
【0030】
図2に溶接隙間試験片の外観を模式的に示す。溶接ビードが試験片長手方向中央位置を横切るように試験片を採取した。この浸漬試験片には溶接ビード部、熱影響部および母材部が含まれる。母材部の端にリード線をスポット溶接にて接続し、リード線およびその接続部分のみを樹脂被覆した。浸漬試験は80℃の1000ppmCl-水溶液に試験片と同一の表面積を有するPt板を電気的に接続し、電位差を持たせた状態で30日間浸漬した。
【0031】
供試鋼の評価に先立ち、表1に記載の比較鋼No.6を用いて、隙間構造、特に隙間深さと隙間腐食による侵食深さの関係を調べた。図3に隙間構造と腐食試験後の隙間腐食深さを示す。溶接ビード中心から5mm以下の範囲で隙間腐食は生じることがわかる。前述したように溶接構造上、TIG溶接で重ね溶接する場合には重ね合う溶接深さを5mm以下とすることは困難であり、短くするとむしろ1mm付近で最大侵食深さが認められるため、溶接深さが5mm以上を前提とした溶接構造材の評価が必要となる。
【0032】
表1に示した供試材の腐食断面組織10箇所の観察で母材侵食の有無の結果を表2に示す。また、浸漬試験後の最大侵食位置であったボンド端部から1mm位置での酸化皮膜分析を微小部X線発光電子分析法(μ−XPS)で行った。ビーム径は50μmである。これにより酸化スケールの最表層から深さ5、10、15、20nmの位置における各金属元素量を求め、Cr比率をCr量/Σ(全金属元素量)で算出した。そして、各測定位置におけるCr比率の平均値を平均Cr率とした。
【0033】
【表2】

【0034】
本明例のものは、溶接時のArガスシールの有無によらず、いずれも腐食試験後の最大隙間腐食深さは0.2mm未満であり、溶接スケール中の最大Cr濃度は20atm%以上であった。一方、比較例においてはNi、Cr、Tiなどの不足により、Mo添加量が多くても最大隙間腐食深さは0.2mm以上であり、溶接スケール中の最大Cr濃度は20atm%未満であった。したがって、本発明の溶接構造体の組成を有する鋼板を強度、作業性の低下なく溶接して、胴板と鏡板の溶接部で隙間腐食が起き易い構造になっても、温水缶体などの貯湯環境で優れた耐隙間腐食性を有することが期待できる。
【0035】
本発明例の鋼No.1ならびに比較例として鋼No.5を用いて突き合せ溶接と[0031]記載の重ね溶接によって重ね幅を3mmならびに5mmにした試験片の溶接強度ならびに溶接部の耐食性を比較した。Arバックガスシールは実施しなかった。溶接強度は溶接部を試験片の中心として13B号試験片を作製し、引張り試験を実施した。母材同等以上の強度を○、母材より低い強度を×で評価した。あわせて腐食部近傍の溶接スケール部のCr組成分析も実施した。表3に溶接構造の異なる試験片の溶接強度ならびに耐食性、皮膜解析結果を示す。
【0036】
【表3】

【0037】
本発明のものは5mm以上の重ね溶接があることにより、母材同等以上の強度が得られており、かつ耐食性も良好である。突き合せ溶接においては、隙間が形成されないため隙間腐食は生じずに腐食深さは浅いが、母材相当の強度が得られておらず、溶接構造体としての強度は不十分である。重ね幅が3mmの場合も耐隙間腐食性は得られているが、引張強度が得られておらず、かつ溶接作業性に難があった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
この材料は エコキュート、電気温水器、定置型燃料電池、エコウィルなどに使用される温水器缶体のみでなく、溶接隙間構造を有する給油管や燃料タンクの給油系部材や燃料噴射レールならびに熱交換機部などの溶接構造体にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隙間構造を有する溶接構造体において、胴板と鏡板を溶接接合する場合に胴板を溶接ボンドから5mm以上出すとともに溶接部の隙間間隔を20μm以下として溶接隙間部を形成し、この溶接隙間部のスケール組成がCr>20atm%以上であることを特徴とする、溶接構造体。
【請求項2】
溶接構造体を構成する材料が、質量%でC:0.02%以下、Si:0.01〜0.3%、Mn:1%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:0.2〜2%、Cr:20〜25%、Mo:1.2%以下、Nb:0.05〜0.6%、Ti:0.05〜0.4%、N:0.025%以下、Al:0.02〜0.3%であり残部Feおよび他の不可避的不純物からなることを特徴とする、請求項1に記載の溶接構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−200927(P2011−200927A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72620(P2010−72620)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】