説明

溶接用電源装置

【課題】 従来よりも低消費電力の溶接用電源装置を提供する。
【解決手段】 この発明に係る溶接用電源装置10によれば、負荷としての電極34および母材36が互いに離れており、これら両者の間にアークが発生していない、いわゆる無負荷状態にあるとき、厳密には出力電流Ioが所定の閾値Ib以下であるとき、インバータ20は、間欠的に駆動される。これによって、無負荷状態にあるときにインバータ20が駆動することによる電力の損失、および当該インバータ20の出力側に設けられた変圧器24に励磁電流が流れることによる電力の損失、を含む無負荷電力損失が、抑制される。そして、アークスタートのために電極34および母材36が互いに接触され、出力電流Ioが閾値Ibを超えると、インバータ20は連続駆動となる。これによって、アークスタートが確実に実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶接用電源装置に関し、特に例えば電極と母材とを互いに接触させたあと引き離すことによってこれら電極と母材との間にアークを発生させるいわゆる接触点弧式(タッチスタート式)の溶接電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の溶接用電源装置として、従来、例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来技術によれば、交流電圧を直流電圧に変換する入力側直交変換器と、この入力側直交変換器からの直流電圧を高周波電圧に変換するインバータと、このインバータからの高周波電圧を変圧する変圧器と、この変圧器からの高周波電圧を直流電圧に変換して電極と母材とに供給する出力側直交変換器と、を具備する。そして、電極と母材とを短絡させた状態で、当該電極を母材から引き離すと、これら電極と母材との間にアーク(パイロットアーク)が発生する。ここで、インバータは、インバータ制御部によって制御され、具体的には、電極と母材とが短絡している状態にあるときの高周波電圧の周波数がアーク発生時の周波数よりも高くなるように制御される。これによって、電極と母材とが短絡している状態にあるときにこれら電極と母材とに流れる電流の山点と谷点との差が小さくなり、たとえ谷点で電極と母材との引き離しが開始されたとしても、両者の間に良好にアークを発生させることができ、つまりアークスタート時におけるアーク切れを防止することができる、とされている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−61636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の従来技術において、電極と母材とに供給される電圧、言わば出力電圧Voと、これら電極と母材とに流れる電流、言わば出力電流Ioと、の推移を図示すると、例えば図5のようになる。即ち、この図5における或る時点t10において、電極と母材とが互いに離れており、これら両者の間にアークが発生していない、いわゆる無負荷状態にある、とする。この無負荷状態は、言い換えればアークスタートに備えるための待機状態でもあるので、かかる無負荷状態にある時点t10においては、出力電圧Voは、図5(a)に示すように、当該アークスタートを実現するのに必要な或る一定の電圧値Va、例えばVa=数十[V]、に維持される。一方、出力電流Ioは、図5(b)に示すように、ゼロ(Io=0[A])であり、つまり流れない。
【0005】
そして、時点t10よりもあとの時点t11において、電極と母材とが互いに接触(短絡)されると、当然ながら、出力電流Ioが急激に増大する。一方、出力電圧Voは、急激に低下し、略ゼロ(Vo≒0[V])になる。さらに、時点t11よりもあとの時点t12において、電極と母材とが互いに引き離されると、これら両者の間にアークが発生する。そして、このアークは、電極と母材との間の距離が適当に保たれることで維持される。また、このとき、当該アークを安定化させるべく、出力電流Ioが一定の電流値Iaとなるようにインバータが制御され、いわゆる定電流制御される。そして、この定電流制御に伴って、出力電圧Voも或る一定の電圧値Vbに落ち着く。なお、このようにアークが安定化されているときの出力電圧Voの電圧値Vbは、出力電流Ioの電流値Iaによって変わるが、大抵はアークスタートに必要な(つまり無負荷状態にあるときの)電圧値Vaよりも低い。
【0006】
そしてさらに、時点t12よりもあとの時点t13において、電極と母材とが完全に(大きく)引き離されると、アークが消滅する。これによって、時点t10のときと同じ無負荷状態になり、つまり出力電圧Voがアークスタートに必要な一定の電圧値Vaに戻ると共に、出力電流Ioがゼロになる。
【0007】
これ以降、例えば或る時点t14において、電極と母材とが互いに接触されると、時点t11のときと同様に、出力電流Ioが急激に増大し、出力電圧Voが略ゼロになる。そして、時点t14よりもあとの時点t15において、電極と母材とが引き離されると、時点t12のときと同様に、これら電極と母材との間にアークが発生する。そして、このアークは、電極と母材との間の距離が適当に保たれることで維持され、インバータが定電流制御されることで安定化される。さらに、時点t15よりもあとの時点t16において、電極と母材とが完全に引き離されると、時点t13のときと同様に、アークが消滅する。
【0008】
このように従来技術では、無負荷状態にあるときに、出力電圧Voがアークスタートに必要な一定の電圧値Vaに維持されるので、当該アークスタートが確実に実現される。しかし、その一方で、出力電圧Voを一定の電圧値Vaに維持するべく、無負荷状態にあるときにもインバータが駆動するので、このインバータが駆動することによる電力の損失が発生する。これと同時に、変圧器に一定の励磁電流が流れるので、この励磁電流が流れることによる電力の損失も発生する。つまり、図5(a)に斜線模様100,100,…で示すような一定の無負荷電力損失が発生する。そして、この無負荷電力損失という言わば無駄な電力損失の発生によって、溶接用電源装置全体の消費電力が増大する、という問題がある。
【0009】
そこで、この発明は、従来よりも低消費電力の溶接用電源装置を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、この発明は、電極および母材を互いに接触させたあと引き離すことによってこれら電極および母材間にアークを発生させる、つまりアークスタートさせる、接触点弧式の溶接用電源装置において、入力端子を介して直接または間接的に入力される直流電圧を高周波電圧に変換するインバータと、このインバータによって変換された高周波電圧を変圧する変圧器と、この変圧器による変圧後電圧を所定形態に整形した上で電極および母材が接続される出力端子から出力させる出力手段と、を具備する。さらに、アークスタートが要求されたか否かを判定する判定手段と、この判定手段による判定結果に基づいてインバータを制御するインバータ制御手段と、をも具備する。ここで、インバータ制御手段は、アークスタートが要求されたという判定結果が得られたとき、出力端子から出力される出力電圧が当該アークスタートを実現するのに必要な第1態様となるように、インバータを制御する。一方、アークスタートが未だ要求されていないという判定結果が得られたときは、出力電圧が第1態様よりも程度の小さい第2態様となるように、インバータを制御する、という点に特徴を有するものである。
【0011】
即ち、この発明では、入力端子を介して直接または間接的に直流電圧がインバータに入力される。なお、ここで言う直接とは、例えば入力端子とインバータの入力部とが直結されている場合に対応し、間接的とは、当該入力端子とインバータの入力部とが直流−直流コンバータまたは交流−直流コンバータといった何らかの変換手段を介して接続されている場合に対応する。インバータは、入力された直流電圧を高周波電圧に変換する。そして、変換された高周波電圧は、変圧器によって変圧される。さらに、この変圧器による変圧後の高周波電圧、言わば変圧後電圧は、出力手段によって所定形態、例えば直流または低周波交流、に整形された上で、出力端子から出力され、ひいては負荷である電極および母材に供給される。
【0012】
ここで、今、電極および母材が互いに離れており、これら両者の間にアークが発生していない、いわゆる無負荷状態にある、とする。この無負荷状態は、アークスタートに備えるための待機状態でもあり、かかる無負荷状態にあるときに、当該アークスタートが要求されたか否か、例えば電極および母材が互いに接触されたか否か、が判定手段によって判定される。そして、この判定手段による判定結果に基づいて、インバータ制御手段が、インバータを制御する。具体的には、アークスタートが要求されたという判定結果が得られたとき、インバータ制御手段は、出力端子から出力される出力電圧が当該アークスタートを実現するのに必要な第1態様、例えば十分に電圧値の大きい態様、となるように、インバータを制御する。これによって、アークスタートが確実に実現される。一方、アークスタートが要求されていないという判定結果が得られたとき、つまり未だ無負荷状態にあるときは、出力電圧が第1態様よりも程度の小さい、例えば全体的(または平均的)に低電圧の、第2態様となるように、インバータを制御する。従って、無負荷状態にあるときは、アークスタートが要求されたときに比べて、変圧器に流れる励磁電流が全体的に小さく、よって当該励磁電流が流れることによる電力損失も小さい。
【0013】
なお、インバータ制御手段は、例えばインバータを連続的に駆動させることによって第1態様を形成し、当該インバータを間欠的(断続的)に駆動させることによって第2態様を形成するものとしてもよい。即ち、アークスタートが要求されたときは、インバータが連続的に駆動することによって、出力電圧が、当該アークスタートを実現するのに必要な第1態様となる。一方、アークスタートが要求されていない無負荷状態にあるときには、インバータが間欠的に駆動することによって、出力電圧が、或る一定の電圧値、例えばアークスタートを実現するのに必要な電圧値、を示す言わば高電圧期間と、ゼロを示す言わば低電圧期間と、を交互に繰り返すパルス状となる。そして、このパルス状の態様が、第2態様とされる。このように出力電圧がパルス状の第2態様とされることで、変圧器に励磁電流が流れる期間とそうでない期間とが交互に繰り返され、これによって当該励磁電流が流れることによる電力の損失が全体的に低減される。併せて、インバータの駆動が間欠的に停止されるので、当該インバータが駆動することによる電力の損失も低減される。
【0014】
そして、このようにインバータが間欠的に駆動することによって第2態様が形成される場合には、当該インバータの駆動期間は非駆動期間(駆動停止期間)よりも短いのが、望ましい。つまり、インバータの駆動期間が短いほど、変圧器に励磁電流が流れる期間が短くなるので、その分、当該励磁電流が流れることによる電力損失がさらに低減される。また、インバータが駆動することによる電力損失もさらに低減される。
【0015】
そしてさらに、判定手段は、出力端子を介して流れる出力電流に基づいて、アークスタートが要求されたか否かを判定するものとしてもよい。即ち、アークスタートのために電極および母材が互いに接触されると、出力電流が急激に増大する。そこで、判定手段は、この出力電流が急激に増大したか否か、例えば所定の閾値を超えたか否か、に基づいて、電極および母材が互いに接触されたか否か、つまりアークスタートが要求されたか否か、を判定するものとしてもよい。
【0016】
ただし、上述の如くインバータが間欠的に駆動することによって第2態様が形成される場合であって、当該インバータの非駆動期間中に電極および母材が互いに接触された場合には、出力電流は直ぐには増大せず、次にインバータが駆動される機会に増大する。従って、このような状況下で、判定手段が当該出力電流に基づいてアークスタートの要求が成されたか否かを判定するとすると、電極および母材が互いに接触されてからこれを当該判定手段が認識するまでの間、つまりアークスタートが要求されてから実際に当該アークスタートが可能となるまでの間、に時間遅れ(タイムラグ)が生じる。
【0017】
そこで、かかる時間遅れを解消するべく、第2態様を形成しているときのインバータの非駆動期間中に、判定手段による判定を可能とするための判定用電圧を出力端子から出力させる判定用電圧供給手段を、さらに設けてもよい。このようにインバータの非駆動期間中に出力端子から判定用電圧を出力させることで、たとえ当該非駆動期間中に電極および母材が互いに接触されたとしても、直ぐに出力電流を増大させることができ、ひいてはアークスタートが要求されたことを直ぐに判定手段に認識させることができる。この結果、上述の時間遅れが解消される。なお、判定用電圧は、少なくとも判定手段による判定を可能とするのに必要な態様であることが前提とされるが、併せて、インバータの駆動期間中(つまり高電圧期間中)の出力電圧の電圧値よりも小さいことが望ましい。
【0018】
さらに、インバータ制御手段は、上述の如くインバータを間欠的に駆動させるのではなく、当該インバータを連続的に駆動させることによって、第2態様を形成するものとしてもよい。つまり、無負荷状態にあるときの出力電圧が、上述したパルス状ではなく、例えば一定の電圧値を示すようにしてもよい。より具体的には、判定手段が、上述の如く出力電流に基づいて判定を行えるようにするために、当該無負荷状態にあるときの出力電圧が、上述の判定用電圧と同様の態様となるようにするのが、望ましい。
【発明の効果】
【0019】
このように、この発明によれば、無負荷状態にあるときの出力電圧が、アークスタートが要求されたときの出力電圧よりも小さい。従って、無負荷状態にあるときの出力電圧Voがアークスタートに必要な電圧値Vaに維持されるという上述した従来技術に比べて、変圧器に流れる励磁電流を低減することができ、ひいては当該励磁電流が流れることによる電力損失を低減することができる。ゆえに、従来よりも低消費電力の溶接用電源装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明の一実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
【0021】
図1に示すように、この実施形態に係る溶接用電源装置10は、3相の商用交流電圧が入力される入力端子12を備えている。この入力端子12に入力された商用交流電圧は、変換手段としての入力側整流平滑回路14に入力され、ここで直流電圧に変換される。なお、入力側整流平滑回路14は、入力端子12を介して入力された商用交流電圧を整流する入力側整流手段、例えば3相ブリッジ整流回路16と、この3相ブリッジ整流回路16による整流後電圧を平滑する入力側平滑手段、例えば平滑用コンデンサ18と、によって構成されている。
【0022】
入力側整流平滑回路14によって変換された直流電圧は、インバータ20に入力され、ここで例えば周波数が10[kHz]〜100[kHz]の高周波電圧に変換される。なお、図には詳しく示さないが、インバータ20は、複数の半導体スイッチング素子、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、バイポーラトランジスタまたはFET(Field Effect Transistor)を備えており、後述するドライブ回路22から与えられるドライブ信号に従ってこれらの半導体スイッチング素子がスイッチング(オン/オフ)動作することで、入力側整流平滑回路14からの直流電圧を高周波電圧に変換する。
【0023】
このインバータ20によって変換された高周波電圧は、変圧器24に入力され、具体的には当該変圧器24の1次側巻線24aに入力される。変圧器24は、1次側巻線24aに入力された高周波電圧を、当該1次側巻線24aと2次側巻線24bとの巻数比に応じた比率で変圧する。そして、変圧された高周波電圧、言わば変圧後電圧は、2次側巻線24bから出力され、出力手段としての出力側整流平滑回路26に入力される。
【0024】
出力側整流平滑回路26は、変圧器24からの変圧後電圧を直流電圧に整形するためのものであり、当該変圧後電圧を整流する出力側整流手段、例えば2つのダイオード28aおよび28bを組み合わせた両波整流回路28と、この両波整流回路28による整流後電圧を平滑する出力側平滑手段、例えば平滑用リアクトル30と、によって構成されている。そして、この出力側整流平滑回路26によって整形された直流電圧は、出力電圧Voとして出力端子32から出力され、ひいては当該出力端子32に接続されている負荷としての電極34および母材36に供給される。なお、この実施形態においては、出力端子32のマイナス端子32aに電極34が接続されており、当該出力端子32のプラス端子32bに母材36が接続されており、つまり負荷極性がいわゆる棒マイナスとされている。
【0025】
さらに、出力側整流平滑回路26の出力側と出力端子32との間、詳しくは両波整流回路28の出力側とプラス端子32bとの間には、これら両者を通して流れる電流、言わば出力電流Io、を検出するための電流検出回路38が設けられている。この電流検出手段38は、検出した出力電流Ioの大きさを表す電流検出信号を生成する。そして、生成された電流検出信号は、PWM(Pulse
Width Modulation)制御回路40および判定回路42のそれぞれに入力される。なお、電流検出回路38は、平滑用リアクトル30の出力側とマイナス端子32aとの間に設けることもできる。
【0026】
PWM制御回路40は、電流検出回路38からの電流検出信号に基づいて、つまり出力電流Ioの大きさに基づいて、インバータ20をPWM方式で制御するためのPWM制御信号を生成する。そして、生成されたPWM制御信号は、切換回路44に入力される。
【0027】
一方、判定回路42は、電流検出回路38からの電流検出信号に基づいて、出力電流Ioが流れているか否か、具体的には当該出力電流Ioがゼロよりも大きい所定の閾値Ibを越えているか否か、を判定し、その判定結果を表す判定信号を生成する。そして、この判定信号もまた、切換回路44に入力される。
【0028】
切換回路44は、判定回路42からの判定信号に基づいて、つまり出力電流Ioが閾値Ibを超えているか否かに基づいて、次の第1状態および第2状態のいずれかの状態に切り換わる。即ち、出力電流Ioが閾値Ibを超えているときは、PWM制御回路40からのPWM制御信号を連続的に出力するという第1状態になる。これに対して、出力電流Ioが閾値Ib以下のときは、当該PWM制御信号を間欠的に出力するという第2状態になる。
【0029】
このように切換回路44が第1状態または第2状態となることによって当該切換回路44から連続的または間欠的に出力されたPWM制御信号は、上述したドライブ回路22に入力される。ドライブ回路22は、入力されたPWM制御信号を電流増幅する。そして、この電流増幅されたPWM制御信号が、ドライブ信号としてインバータ20(半導体スイッチング素子)に与えられる。
【0030】
このように構成された溶接用電源装置10によれば、出力電圧Voおよび出力電流Ioは、図2に示すように推移する。
【0031】
即ち、図2における或る時点t0において、電極34と母材36とが互いに離れており、これら両者の間にアークが発生していない、いわゆる無負荷状態にある、とする。そして、この無負荷状態が、時点t0よりもあとの時点t1まで維持される、とする。この無負荷状態にあるときは、図2(b)に示すように、出力電流Ioは流れず、つまり上述した閾値Ib以下となる。これにより、切換回路44は、PWM制御信号を間欠的に出力するという第2状態となり、この間欠的なPWM制御信号に基づくドライブ信号に従って、インバータ20が間欠的に駆動する。この結果、出力電圧Voは、図2(a)に示すように、或る一定の電圧値Vaを示す高電圧期間Taと、ゼロとなる低電圧期間Tbと、を交互に繰り返すパルス状となる。
【0032】
なお、高電圧期間Taは、インバータ20の駆動期間に相当し、低電圧期間Tbは、当該インバータ20の非駆動期間に相当する。そして、高電圧期間Taは、低電圧期間Tbよりも短く、例えば1[ms]とされている。一方、低電圧期間Tbは、例えば9[ms]とされている。つまり、これら高電圧期間Taと低電圧期間Tbとを足し合わせたパルスの繰り返し周期Tcは、10[ms]とされており、当該繰り返し周期Tcに対する高電圧期間Taの比率、いわゆるデューティ比(Ta/Tc)は、0.1とされている。
【0033】
さらに、高電圧期間Taにおける出力電圧Voの電圧値Vaは、アークスタートを実現するのに十分な電圧値、例えばVa=数十[V]、詳しくはVa=約60[V]、とされている。換言すれば、このような電圧値Vaとなるように、インバータ20が制御される。なお、この高電圧期間Taにおける出力電圧Voの電圧値Vaは、負荷である電極34および母材36の状況(規模や種類等)によって変わる。
【0034】
ここで、上述の時点t1において、電極34と母材36とが互いに接触される、とする。併せて、この時点t1は、出力電圧Voの高電圧期間Ta中である、とする。すると、図2(b)に示すように、出力電流Ioが急激に増大し、閾値Ibを超える。これによって、切換回路44は、PWM制御信号を連続的に出力するという第1状態となる。そして、この連続的なPWM制御信号に基づくドライブ信号に従って、インバータ20が連続的に駆動し、例えば出力電圧Voが電圧値Vaを維持するように駆動する。ただし、実際には、当該出力電圧Voは、図2(a)に示すように、略ゼロとなる。
【0035】
そして、時点t1よりもあとの時点t2において、電極34と母材36とが互いに引き離されると、これら両者の間にアークが発生する。このアークは、電極34と母材36との間の距離が適当に保たれることで維持される。また、このとき、当該アークを安定化させるべく、図2(b)に示すように、出力電流Ioが一定の電流値Iaとなるようにインバータが制御され、いわゆる定電流制御される。そして、この定電流制御に伴って、図2(a)に示すように、出力電圧Voも一定の電圧値Vbに落ち着く。なお、アークが安定化されているときの出力電流(いわゆる溶接電流)Ioの電流値Iaは、電極34および母材36の状況によって変わるが、概ねIa=200[A]〜600[A]程度である。一方、出力電圧(いわゆる溶接電圧)Voの電圧値Vbは、出力電流Ioの電流値Iaによって変わり、概ねVb=20[V]〜30[V]程度となる。
【0036】
さらに、時点t2よりもあとの時点t3において、電極34と母材36とが完全に引き離されると、アークが消滅し、改めて無負荷状態になる。これにより、図2(b)に示すように、出力電流Ioが流れなくなり、つまり閾値Ib以下となる。そして、このように出力電流Ioが閾値Ib以下となることで、切換回路22が上述した第2状態に切り換わり、ひいてはインバータ20が間欠駆動に切り換わる。この結果、出力電圧Voが、図2(a)に示すように、改めてパルス状となる。
【0037】
続いて、時点t3よりもあとの時点t4において、電極34と母材36とが互いに接触される、とする。併せて、この時点t4は、出力電圧Voの低電圧期間Tb中である、とする。この場合、出力電流Ioは直ぐには増大(流通)せず、次の出力電圧Voの高電圧期間Taが到来した時点t4’で増大する。そして、この出力電流Ioが増大することで、厳密には当該出力電流Ioが閾値Ibを超えることで、インバータ20が連続駆動に切り換わり、アークスタートが可能となる。つまり、出力電圧Voの低電圧期間Tb中にアークスタートのために電極34と母材36とが互いに接触された場合には、その時点t4から当該アークスタートが可能となる時点t4’までの間に、時間遅れTdが生じる。しかしながら、この時間遅れTdは、少なくとも定電圧期間Tbよりも短く、つまりTd<9[ms]であるので、特に手動溶接においては、実用上、何ら問題にはならない。
【0038】
これ以降、例えば或る時点t5において、電極34と母材36とが引き離されると、時点t2のときと同様に、これら電極34と母材36との間にアークが発生する。そして、このアークは、電極34と母材36との間の距離が適当に保たれることで維持され、インバータが定電流制御されることで安定化される。さらに、時点t5よりもあとの時点t6において、電極34と母材36とが完全に引き離されると、時点t3のときと同様に、アークが消滅し、無負荷状態になる。
【0039】
以上のように、この実施形態によれば、無負荷状態にあるときに、出力電圧Voが、アークスタートに必要な電圧値Vaを示す高電圧期間Taと、ゼロとなる低電圧期間Tbと、を交互に繰り返すパルス状とされる。そして、出力電圧Voの高電圧期間Taにのみ、インバータ20が駆動されると共に、変圧器24に電流が流れ、つまり励磁電流が流れる。言い換えれば、出力電圧Voの低電圧期間Tbには、インバータ20は駆動されず、変圧器24に励磁電流は流れない。従って、無負荷状態にあるときに出力電圧Voがアークスタートに必要な電圧値Vaに維持されるという上述した従来技術に比べて、当該無負荷状態にあるときにインバータ20が駆動することによる電力の損失、および変圧器24に励磁電流が流れることによる電力の損失、が小さい。即ち、従来技術では、図5(a)に斜線模様100,100,…で示したような一定の無負荷電力損失が発生するのに対して、この実施形態によれば、図2(a)に斜線模様50,50,…で示すように、当該無負荷電力損失の発生を高電圧期間Taという一部の期間にのみ抑えることができる。ゆえに、従来よりも、溶接用電源装置10全体の低消費電力化を図ることができる。
【0040】
なお、この実施形態においては、出力電圧Voの高電圧期間TaをTa=1[ms]としたが、これに限らない。即ち、この高電圧期間Taは任意であり、例えばTa=1[ms]〜10[ms]の範囲で適宜設定することができる。
【0041】
また、低電圧期間Tbについても、任意であり、例えばTb=数[ms]〜数十[ms]の範囲で適宜設定することができる。ただし、上述した時間遅れTdを考慮すると、当該定位電圧期間Tbは、この実施形態で説明したTb=10[ms]程度が適当である。
【0042】
さらに、この実施形態においては、インバータ20を定電流制御することとしたが、これに限らない。例えば、アークが発生しているときの出力電圧Voが一定となるように低電圧制御してもよいし、当該出力電圧Voと出力電流Ioとの積である出力電力が一定となるように定電力制御してもよい。
【0043】
また、インバータ20を制御する方式として、PWM方式を用いたが、PAM(Pulse Amplitude
Modulation)方式等の他の制御方式を用いてもよい。
【0044】
そしてさらに、出力電流Ioが閾値Ibを越えたか否かに基づいて、電極34と母材36とが互いに接触されたか否か、つまりアークスタートが要求されたか否か、を判定することとしたが、これに限らない。例えば、アークスタートを要求するときに手動で操作されるボタン等の何らかの操作手段を設け、この操作手段の操作状況に基づいて、当該アークスタートが要求されたか否かを判定するようにしてもよい。
【0045】
また、この実施形態では、負荷極性が棒マイナスとなるように構成したが、棒プラスとしてもよい。即ち、出力端子32のプラス端子32bに電極34を接続し、当該出力端子32のマイナス端子32aに母材36を接続してもよい。
【0046】
そして、この実施形態においては、直流の出力電圧Voおよび出力電流Ioを出力するいわゆる直流型の溶接用電源装置10に、この発明を適用する場合について説明したが、これに限らない。即ち、周波数が数十[Hz]程度の交流の出力電圧および出力電流を出力する交流型の溶接用電源装置にも、この発明を適用することができる。
【0047】
さらに、上述の時間遅れTdを解消するために、例えば図3に示す如く、出力電圧Voの低電圧期間Tb中に、判定用電圧としての所定の電圧値Vcを付与してもよい。なお、この所定の電圧値Vcは、当該低電圧期間Tb中に電極34と母材36とが互いに接触されたときに出力電流Ioが閾値Ibを超える程度とされ、例えばVc=十数[V]、詳しくはVc=15[V]程度、とされる。かかる電圧値Vcを付与することで、図3における時点t4のように、たとえ出力電圧Voの低電圧期間Tb中に電極34と母材36とが互いに接触されたとしても、直ぐに出力電流Ioを増大させることができ、ひいては上述の時間遅れTdを解消することができる。
【0048】
なお、このように出力電圧Voの低電圧期間Tb中に判定用電圧としての電圧値Vcを付与するには、例えば、図1の構成に対して図示しない別の要素、つまり判定用電圧供給手段、を設ければよい。より詳しくは、上述した切換回路44の動作と連動(同期)して、当該低電圧期間Tb中に、電圧値Vcを出力端子32(詳しくはプラス端子32bおよびマイナス端子32a間)に供給する別途の回路を、判定用電圧供給手段として設ければよい。
【0049】
若しくは、出力電圧Voの低電圧期間Tb中にもインバータ20を駆動させることによって、当該出力電圧Voが所定の電圧値Vcとなるようにしてもよい。そして、もし、このように低電圧期間Tb中にもインバータ20を駆動させるのであれば、高電圧期間Taを設けなくてもよい。即ち、図4に示すように、無負荷状態にあるとき(厳密には出力電流Ioが閾値Ib以下のとき)の出力電圧Voが当該電圧値Vcとなるように、インバータを駆動させてもよい。このようにすることによっても、図4に斜線模様52,52,…で示すように、図5に斜線模様100,100,…で示した従来技術の場合よりも、無負荷電力損失を抑制することができる。
【0050】
以上、この実施形態で説明した内容は、飽くまでこの発明を実現するための一例であって、この発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の一実施形態に係る溶接用電源装置の概略構成を示す図である。
【図2】同実施形態における出力電圧と出力電流との推移を示す図解図である。
【図3】図2とは別の例を示す図解図である。
【図4】図3とはさらに別の例を示す図解図である。
【図5】従来技術における出力電圧と出力電流との推移を示す図解図である。
【符号の説明】
【0052】
10 溶接用電源装置
12 入力端子
14 入力側整流平滑回路
20 インバータ
24 変圧器
26 出力側整流平滑回路
32 出力端子
38 電流検出回路
40 PWM制御回路
52 判定回路
44 切換回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極および母材を互いに接触させたあと引き離すことによって該電極および該母材間にアークを発生させる接触点弧式の溶接用電源装置において、
入力端子を介して直接または間接的に入力される直流電圧を高周波電圧に変換するインバータと、
上記インバータによって変換された上記高周波電圧を変圧する変圧器と、
上記変圧器による変圧後電圧を所定形態に整形した上で上記電極および上記母材が接続される出力端子から出力させる出力手段と、
上記アークの発生が要求されたか否かを判定する判定手段と、
上記判定手段による判定結果に基づいて上記インバータを制御するインバータ制御手段と、
を具備し、
上記インバータ制御手段は、上記アークの発生が要求されたという上記判定結果が得られたとき、上記出力端子から出力される出力電圧が該アークを発生させるのに必要な第1態様となるように上記インバータを制御し、該アークの発生が未要求であるという該判定結果が得られたとき、該出力電圧が該第1態様よりも程度の小さい第2態様となるように該インバータを制御すること、
を特徴とする、溶接用電源装置。
【請求項2】
上記第1態様は上記インバータが連続的に駆動することによって形成され、上記第2態様は該インバータが間欠的に駆動することによって形成される、請求項1に記載の溶接用電源装置。
【請求項3】
上記第2態様を形成しているときの上記インバータの駆動期間は非駆動期間よりも短い、請求項2に記載の溶接用電源装置。
【請求項4】
上記判定手段は上記出力端子を介して流れる出力電流に基づいて判定を行う、請求項2または3に記載の溶接用電源装置。
【請求項5】
上記第2態様を形成しているときの上記インバータの非駆動期間中に上記判定手段による判定を可能とするための判定用電圧を上記出力端子から出力させる判定用電圧供給手段をさらに備える、請求項4に記載の溶接用電源装置。
【請求項6】
上記判定手段は上記出力端子を介して流れる出力電流に基づいて判定を行い、
上記第2態様は上記判定手段による判定を可能とするのに必要な態様を含む、
請求項1に記載の溶接用電源装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−23586(P2008−23586A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202001(P2006−202001)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)
【Fターム(参考)】