説明

溶接用電源装置

【課題】制御に用いる電極先端電圧を適切に検出し、溶接性能の更なる向上に寄与することができる溶接用電源装置を提供する。
【解決手段】測定モードにおいて、電源装置の出力側の合計抵抗値及び合計インダクタンス値が算出され、これら抵抗値、インダクタンス値とともに、短絡中の所定期間Ta,Tbに主電路上に介挿される抵抗の抵抗値rが制御装置内に保持される。制御装置は、溶接動作時において、短絡中の所定期間Ta,Tb以外の期間では、検出する出力電圧の電圧値に対して合計抵抗値及び合計インダクタンス値にかかる電圧変化分の補正を行って先端電圧の算出を行い、抵抗介挿期間である短絡中の所定期間Ta,Tbでは、検出する出力電圧の電圧値に対して合計抵抗値及び合計インダクタンス値に加え、同期間Ta,Tbに介挿される抵抗の抵抗値rを含む電圧変化分の補正を行って先端電圧の算出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極先端電圧の検出に基づいてフィードバック制御を実施する溶接用電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接機等に用いる溶接用電源装置には、例えば特許文献1に開示のようなものがある。溶接用電源装置は、商用電源からの交流入力電力を整流した直流電力をインバータ回路にて高周波交流電力に変換し、溶接トランスにて電圧調整された高周波交流電力を整流回路と直流リアクトルとでアーク溶接に適した直流出力電力に変換している。電源装置にて生成された出力電力はトーチにて支持される電極に供給され、これにより電極先端と溶接対象との間にアークが生じて、溶接対象の溶接が行われるようになっている。
【0003】
また、このような溶接用電源装置は、出力電流及び出力電圧の検出を行っており、制御装置は、その時々で検出された出力電流及び出力電圧をインバータ回路のPWM制御にフィードバックし、その時々の出力電力を適正値とする制御を実施することで、溶接性能の向上が図られている。
【0004】
また、消耗電極式のアーク溶接機においては、電極先端と溶接対象との間で短絡とアークとが交互に繰り返される。出力電流(溶接電流)は、その短絡期間初期や後期で出力電流の減少が速やかでないと、短絡発生時やアーク発生時の電流値は大きく、スパッタが発生してしまう。
【0005】
それを踏まえ、特許文献1に開示された技術では、短絡期間初期と後期に主電路上に抵抗を介挿させるように構成し、短絡期間中の出力電流の減少を急峻とすることで、スパッタの発生の低減が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−206159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、好適なアークを生じさせるためには、電源装置内で検出する出力電圧をインバータ回路の制御値に反映させるのみならず、正にそのアークが生じている電極の先端電圧を検出し、検出した電極先端電圧を制御値に反映させるのが好ましい。
【0008】
と言うのは、実際には溶接を行うトーチ(電極)と電源装置との間は離間していることが多く、両者間がパワーケーブルを介して接続されているのが一般的な使用形態である。従って、パワーケーブルのケーブル長が使用者毎に異なるため、ケーブル自体の抵抗値が異なるばかりか、ケーブルの敷設状態、例えば余長分を何周も周回させて敷設すると、直線的に敷設した場合や周回数の違いによってインダクタンス値も異なってくる。そのため、更なる溶接性能の向上を図るためには、パワーケーブルを含む電源装置外部の電極までの間での抵抗及びインダクタンスの電圧変動分が無視できないためである。
【0009】
従って、電源装置内で検出する出力電圧をインバータ回路の制御値に反映させる態様では、真の電極先端電圧とは乖離した電圧値がインバータ回路の制御値に反映されることになり、このことが好適なアークの発生の妨げとなって、更なる溶接性能の向上の妨げとなることが懸念されるものである。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、制御に用いる電極先端電圧を精度良く検出し、溶接性能の更なる向上に寄与することができる溶接用電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、直流電力を高周波交流電力に変換するインバータ回路と、変換した交流電力の電圧調整を行う溶接トランスと、該溶接トランスの二次側交流電力から溶接に適した直流出力電力を生成する直流変換手段とを備え、生成した前記出力電力の電極への供給に基づいて溶接対象との間に溶接のためのアークを生じさせるものであり、出力電流を急峻に減少させるべく主電路上に抵抗を介挿するように切り替える切替手段と、装置内の検出手段にて検出した出力電流と出力電圧とに基づいて前記電極の先端電圧を算出し、算出した先端電圧に基づいて前記インバータ回路を制御する制御手段とを更に備えた溶接用電源装置であって、前記電極を短絡状態として行われ、前記インバータ回路の動作にて生じる前記出力電流を所定電流値とした時の前記出力電圧の電圧値に基づいて前記電極先端までの経路上の合計抵抗値を算出する抵抗値算出手段と、前記電極を短絡状態として行われ、前記インバータ回路の動作にて生じる前記出力電流を所定電流値とした時からの電流減衰量に基づいて前記電極先端までの経路上の合計インダクタンス値を算出するインダクタンス値算出手段とを備え、前記電極の先端電圧を算出する先端電圧算出手段は、前記抵抗介挿期間以外の期間では、検出する前記出力電圧の電圧値に対して前記電極先端までの経路上の前記合計抵抗値及び前記合計インダクタンス値にかかる電圧変化分を補正して前記先端電圧を算出し、前記抵抗介挿期間では、検出する前記出力電圧の電圧値に対して前記電極先端までの経路上の前記合計抵抗値及び前記合計インダクタンス値に加え、同期間に介挿される前記抵抗の抵抗値を含む電圧変化分を補正して前記先端電圧を算出することをその要旨とする。
【0012】
この発明では、抵抗値算出手段では、電極を短絡状態として行われ、インバータ回路の動作にて生じる出力電流を所定電流値とした時の出力電圧の電圧値に基づいて電極先端までの経路上の合計抵抗値(装置内部及び外部の抵抗値)が算出される。インダクタンス値算出手段では、同じく電極を短絡状態として行われ、インバータ回路の動作にて生じる出力電流を所定電流値とした時からの電流減衰量に基づいて電極先端までの経路上の合計インダクタンス値(装置内部及び外部のインダクタンス値)が算出される。そして、先端電圧算出手段では、抵抗介挿期間以外の期間では、検出する出力電圧の電圧値に対して電極先端までの経路上の合計抵抗値及び合計インダクタンス値にかかる電圧変化分が補正されて先端電圧が算出され、抵抗介挿期間では、検出する出力電圧の電圧値に対して電極先端までの経路上の合計抵抗値及び合計インダクタンス値に加え、同期間に介挿される抵抗の抵抗値を含む電圧変化分が補正されて先端電圧が算出される。ここで用いる抵抗の抵抗値は合計抵抗値から見れば十分に大きいことから、抵抗介挿期間という限定された期間であっても、先端電圧の算出に用いる意義は大きい。従って、抵抗の介挿・非介挿が切り替えられても、全期間で適切なアーク溶接のための出力電力の生成が可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の溶接用電源装置において、前記先端電圧算出手段は、前記切替手段の動作に連動させて前記先端電圧の算出態様を切り替えることをその要旨とする。
【0014】
この発明では、先端電圧算出手段では、切替手段の動作に連動、即ち抵抗の介挿・非介挿の切り替えに連動させて先端電圧の算出態様が切り替えられるため、算出態様の切り替えを容易且つ適切に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、制御に用いる電極先端電圧を適切に検出し、溶接性能の更なる向上に寄与することができる溶接用電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態における溶接用電源装置の構成を示す構成図である。
【図2】溶接用電源装置の動作を説明するための説明図である。
【図3】抵抗値及びインダクタンス値の算出手法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、消耗電極式のアーク溶接機10を示す。アーク溶接機10では、溶接用電源装置11のプラス側出力端子にトーチTHにて支持されるワイヤ電極12が接続され、該電源装置11のマイナス側出力端子に溶接対象Mが接続され、該電源装置11にて生成された直流出力電力がワイヤ電極12に印加されることでアーク溶接が行われる。このとき、ワイヤ電極12は溶接時に消耗するため、ワイヤ供給装置13にて消耗に応じて送給がなされる。ワイヤ電極12及び溶接対象Mには、電源装置11の出力端子に接続されるパワーケーブル14を介して出力電力が供給されるようになっている。
【0018】
溶接用電源装置11は、商用電源から供給される三相の交流入力電力をアーク溶接に適した直流出力電力に変換するものである。交流入力電力は、ダイオードブリッジ及び平滑コンデンサよりなる整流平滑回路21にて直流電力に変換され、変換された直流電力はインバータ回路22で高周波交流電力に変換される。インバータ回路22は、IGBT等のスイッチング素子TRを4個用いたブリッジ回路にて構成され、制御装置31によるPWM制御が実施される。
【0019】
インバータ回路22にて生成された高周波交流電力は、溶接トランス23にて所定電圧値に調整された二次側交流電力に変換される。溶接トランス23の二次側交流電力は、ダイオードを用いた整流回路24と直流リアクトル25とで、アーク溶接に適した直流出力電力に変換される。
【0020】
また、整流回路24と直流リアクトル25との間には、互いを直接接続状態とする第1経路か、抵抗27を介した接続状態とする第2経路かを切り替える切替スイッチ(切替SW)26が備えられる。切替スイッチ26は、図2に示す短絡期間初期及び後期の所定期間Ta,Tbにオンからオフに、即ち該期間Ta,Tbにおいて直接接続から抵抗27を介した接続状態に切り替えられ、短絡期間初期及び後期に生じる出力電流Iを急峻に減少させるべく動作する。切替スイッチ26の切り替えは、制御装置31にて行われる。
【0021】
制御装置31は、インバータ回路22のスイッチング素子TRに対しPWM制御を実施し、直流出力電力をその時々で適正値とする制御を行っている。このとき、制御装置31は、その時々の出力電流I及び出力電圧Vの検出を行い、検出した出力電流I及び出力電圧Vに基づくPWM制御へのフィードバックを行っている。
【0022】
即ち、電源装置11内のマイナス側出力端子の電源線上に電流センサ33が備えられており、制御装置31は、処理部(CPU)32においてその電流センサ33を介して電源装置11の出力電流Iを検出している。また、整流回路24の直後の電源線間に電圧センサ34が備えられており、制御装置31は、処理部32においてその電圧センサ34を介して電源装置11の出力電圧Vを検出している。制御装置31は、処理部32にてその時々に検出した出力電流I及び出力電圧Vに基づいてPWM制御のデューティの算出を行い、インバータ回路22に出力するPWM制御信号を生成する。
【0023】
ここで、PWM制御には、制御に用いる出力電圧Vとして、正にアークが生じるワイヤ電極12の先端電圧Vaを用いるのが好ましいが、先端電圧Vaの直接的な検出は困難である。そこで、制御装置31は、電圧センサ34から電極12までの間の電圧変化分を記憶装置(図示略)に予め保持しておき、その時々に検出した出力電圧Vにその電圧変化分の補正を行って先端電圧Vaを得るようにし、算出した先端電圧Vaを用いたPWM制御を実施する。
【0024】
ところで、電圧センサ34から電極12までの間の電圧変化分には、電源装置11内部の電圧変化分(整流回路24から出力端子までの抵抗値R1とインダクタンス値L1による電圧変化分)と、外部の電圧変化分(出力端子からパワーケーブル14を介しての電極12先端までの抵抗値R2とインダクタンス値L2による電圧変化分)とがある。電源装置11の内部電圧変化分は、使用状態の影響を受けないために予め補正項として先端電圧Vaの算出に組み込むことが可能であるが、外部電圧変化分は、パワーケーブル14のケーブル長や敷設状態(直線敷設や周回敷設、その周回数)等、使用者毎に条件が相違するため、抵抗値R2、特にインダクタンス値L2の変化の影響を大きく受ける。
【0025】
そのため、使用者がアーク溶接機10を現場に設置し、パワーケーブル14の敷設も含めて正に使用状態としたところで、内部の抵抗値R1及びインダクタンス値L1と、外部の抵抗値R2及びインダクタンス値L2とを合計した抵抗値R及びインダクタンス値Lが測定される。測定した合計抵抗値R及び合計インダクタンス値Lは、制御装置31内に保持される。
【0026】
また、制御装置31は、短絡期間とアーク期間との検出を出力電圧Vの変化等から行っており、図2に示す短絡期間初期(短絡発生直後)、及び短絡期間後期(アーク発生直前)の所定期間Ta,Tbを把握できるようになっている。制御装置31は、短絡中の所定期間Ta,Tb以外では切替スイッチ26をオンさせて整流回路24と直流リアクトル25とを直接接続状態とし、該期間Ta,Tbでは切替スイッチ26をオフさせて整流回路24と直流リアクトル25との間に抵抗27を介挿させるように制御する。つまり、短絡期間において出力電流Iが減少する際、制御装置31はその出力電流Iの減少を急峻として短絡発生時やアーク発生時の電流値を抑制し、スパッタの発生の低減を図っている。
【0027】
因みに、抵抗27は、その抵抗値rが合計抵抗値Rの十数倍程度のものが使用されている。例えば、合計抵抗値Rが0.03[Ω]に対して、抵抗27の抵抗値rは0.3[Ω]である。そして、制御装置31は、抵抗27の抵抗値rも制御装置31内に保持しており、その時々に検出した出力電圧Vに対して抵抗値rにかかる電圧変化分も加味して補正を行い、先端電圧Vaを得るようにしている。これは、抵抗27の抵抗値rが所定期間Ta,Tbにのみ関与するものであってもその抵抗の大きさが合計抵抗値Rよりも十分に大きいため、先端電圧Vaの算出には考慮する必要があるためである。
【0028】
本実施形態の電源装置11には、前記合計抵抗値R及び合計インダクタンス値Lを測定する測定モードが備えられており、スイッチ等の選択に基づいて制御装置31が測定モードに移行できるようになっている。測定モードでの測定時においては、ワイヤ電極12の先端が溶接対象Mと短絡状態として行う。因みに、電極12の短絡は、溶接対象Mと直接的な短絡を行わず、電極12を支持するトーチTHの先端部分(ワイヤを除く給電部分)を溶接対象Mと短絡させて行う。この場合、短絡用の特殊治具を作製して対応してもよい。また、ワイヤ電極12の代用としてコンタクト用電極を用いて短絡させてもよい。
【0029】
以降は、制御装置31の測定モードを中心に説明する。
図3に示すように、先ずインバータ回路22を動作させて、出力電流Iが電流値Ipまで増大され、電流値Ipで保持した区間での平均電圧値Veが測定される。これにより、先ず合計抵抗値Rが次式(a)にて算出される。
【0030】

R=Ve/Ip ・・・ (a)

次いで、インバータ回路22の動作を停止させて、この時の時刻T0から計時が開始される。同時に、時刻T0を起点に刻々と変化する出力電流Iのサンプリングが行われ、時定数に該当する電流減衰量となる電流値ΔIp(Ip×36.8%)に到達した時刻をT1とし、その時刻T1−T0間の時間(時定数)τが求められる。これにより、合計インダクタンス値Lが次式(b)にて算出される。
【0031】

L=R・τ(=Ve・τ/Ip) ・・・ (b)

このように算出された合計インダクタンス値Lと、先に求めた合計抵抗値Rとが制御装置31内に保持される。以上で、測定モードが終了する。
【0032】
因みに、具体的数値で示すと、インバータ回路22のオンに基づいて出力電流Iの電流値Ip=400[A]を10[ms]間出力させ、その後、インバータ回路22をオフさせる。この間の平均電圧値Veが4[V]であると、上記式(a)から、

R=Ve/Ip=4/400=0.01[Ω]

と合計抵抗値Rが算出される。
【0033】
次いで、電流値Ipが時定数τに相当する電流減衰量となる電流値ΔIpは、

ΔIp=400×0.368=147[A]

であり、インバータ回路22をオフしてから出力電流Iが400[A]からその147[A]に達するその時定数τが3[ms]であれば、上記式(b)から、

L=R・τ=0.01×3=0.03[mH]

直流リアクトル25を含む合計インダクタンス値Lが算出される。
【0034】
そして、制御装置31は、溶接動作時において、保持した合計インダクタンス値Lと合計抵抗値R、及び予め把握している抵抗27の抵抗値rを用い、その時々の出力電流I及び出力電圧Vから次式(c)(d)にて先端電圧Vaを算出している(図2参照)。
【0035】

Va=V−L・dI/dt−RI ・・・ (c)
Va=V−L・dI/dt−(R+r)I ・・・ (d)

上記式(c)は、短絡中の所定期間Ta,Tb以外の期間で用いる先端電圧Vaの算出のための式であり、上記式(d)は、該期間Ta,Tbで用いる先端電圧Vaの算出のための式である。尚、制御装置31は、上記式(d)のみを用い、短絡中の所定期間Ta,Tb以外の期間では、r=0としてもよい。
【0036】
このように本実施形態の溶接用電源装置11では、抵抗27を主電路上に介挿しない短絡中の所定期間Ta,Tb以外の期間ではr項のない式(c)を用い、また抵抗27を主電路上に介挿する同期間Ta,Tbではr項のある式(d)を用いて先端電圧Vaが適切に算出されるため、この先端電圧Vaに基づいてインバータ回路22が好適に制御される。従って、抵抗27の介挿・非介挿が切り替えられても、全期間で適切なアーク溶接用の直流出力電力の生成ができるものとなっている。
【0037】
次に、本実施形態の特徴的な作用効果を記載する。
(1)制御装置31の測定モードにおいて、合計抵抗値R(内部抵抗値R1+外部抵抗値R2)及び合計インダクタンス値L(内部インダクタンス値L1+外部インダクタンス値L2)を測定する際には、ワイヤ電極12(代用する電極も含む)が上記の手法で短絡状態として行われる。合計抵抗値Rは、インバータ回路22の動作にて生じる出力電流Iを所定電流値Ipとした時の出力電圧Vの電圧値(平均電圧Ve)に基づいて算出される。合計インダクタンス値Lは、インバータ回路22の動作にて生じる出力電流Iを所定電流値Ipとした時からの電流減衰量に基づいて算出される。このようにして得られた合計抵抗値R及び合計インダクタンス値Lに加え、抵抗27の抵抗値rは制御装置31内に保持される。そして、制御装置31は、溶接動作時において、短絡中の所定期間Ta,Tb以外の期間では、検出する出力電圧Vの電圧値に対して合計抵抗値R及び合計インダクタンス値Lにかかる電圧変化分の補正を行い、先端電圧Vaを算出する。また、抵抗27を介挿する短絡中の所定期間Ta,Tbでは、制御装置31は、検出する出力電圧Vの電圧値に対して合計抵抗値R及び合計インダクタンス値Lに加え、同期間Ta,Tbに介挿される抵抗27の抵抗値rを含む電圧変化分の補正を行い、先端電圧Vaを算出する。ここで用いる抵抗27の抵抗値rは合計抵抗値Rから見れば十分に大きいことから、抵抗27を介挿する短絡中の所定期間Ta,Tbという限定された期間であっても、先端電圧Vaの算出に用いる意義は大きい。従って、抵抗27の介挿・非介挿が切り替えられても、全期間で適切なアーク溶接のための出力電力を生成でき、溶接性能の更なる向上に寄与することができる。
【0038】
(2)先端電圧Vaの算出時における抵抗27の抵抗値rを含む補正が、その抵抗27を介挿させる短絡中の所定期間Ta,Tbの両期間で行われる本実施形態は、全期間でより適切な出力電力を生成できる好ましい態様である。
【0039】
(3)制御装置31は、切替スイッチ26の動作に連動、即ち抵抗27の介挿・非介挿の切り替えに連動させて先端電圧Vaの算出態様を切り替えている。そのため、先端電圧Vaの算出態様の切り替えを容易且つ適切に行うことができる。
【0040】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、先端電圧Vaの算出時において、抵抗27の抵抗値rを含む補正を短絡中の所定期間Ta,Tbの両期間で行うようにしたが、抵抗値rを含む補正を期間Ta,Tbのいずれか一方としてもよい。このようにしても、一定の効果を得ることが可能である。また、短絡中の所定期間Ta,Tb以外で抵抗27を介挿する期間を設定した場合、その新たに設定した期間に抵抗値rを含む補正を行うようにしてもよい。
【0041】
・上記実施形態では、インダクタンス値が固定の直流リアクトル25を用いたが、例えば低電流領域において電流値の減少に伴ってインダクタンス値が次第に大きくなる過飽和特性を有するリアクトルを用いてもよい。この場合、複数の電流値に対するインダクタンス値を複数点検出し、これらからインダクタンス値の関数を求め、インダクタンス値の関数を先端電圧Vaの算出に用いる。
【0042】
・上記実施形態では、合計抵抗値Rの算出において、インダクタンス値Lを検出すべく出力電流Iを電流値Ipに設定した際に、その時の出力電圧Vの電圧値(平均電圧値Ve)からその算出を行ったが、合計抵抗値Rの算出のために出力電流Iの電流値を別途設定してもよい。
【0043】
・上記実施形態では、図1の如くインバータ回路22、溶接トランス23、直流変換手段(整流回路24、直流リアクトル25)等にて電源装置11を構成したが、これら各回路構成を適宜変更してもよい。また、抵抗27と切替スイッチ26との接続態様を適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0044】
11 溶接用電源装置
12 ワイヤ電極(電極)
22 インバータ回路
23 溶接トランス
24 整流回路(直流変換手段)
25 直流リアクトル(直流変換手段)
26 切替スイッチ(切替手段)
27 抵抗
31 制御装置(制御手段、先端電圧算出手段、抵抗値算出手段、インダクタンス値算出手段)
33 電流センサ(検出手段)
34 電圧センサ(検出手段)
M 溶接対象
I 出力電流
Ip 電流値
V 出力電圧
Va 先端電圧
R 合計抵抗値
r 抵抗値
L 合計インダクタンス値
Ta 短絡期間初期(抵抗介挿期間)
Tb 短絡期間後期(抵抗介挿期間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を高周波交流電力に変換するインバータ回路と、変換した交流電力の電圧調整を行う溶接トランスと、該溶接トランスの二次側交流電力から溶接に適した直流出力電力を生成する直流変換手段とを備え、生成した前記出力電力の電極への供給に基づいて溶接対象との間に溶接のためのアークを生じさせるものであり、出力電流を急峻に減少させるべく主電路上に抵抗を介挿するように切り替える切替手段と、装置内の検出手段にて検出した出力電流と出力電圧とに基づいて前記電極の先端電圧を算出し、算出した先端電圧に基づいて前記インバータ回路を制御する制御手段とを更に備えた溶接用電源装置であって、
前記電極を短絡状態として行われ、前記インバータ回路の動作にて生じる前記出力電流を所定電流値とした時の前記出力電圧の電圧値に基づいて前記電極先端までの経路上の合計抵抗値を算出する抵抗値算出手段と、
前記電極を短絡状態として行われ、前記インバータ回路の動作にて生じる前記出力電流を所定電流値とした時からの電流減衰量に基づいて前記電極先端までの経路上の合計インダクタンス値を算出するインダクタンス値算出手段とを備え、
前記電極の先端電圧を算出する先端電圧算出手段は、前記抵抗介挿期間以外の期間では、検出する前記出力電圧の電圧値に対して前記電極先端までの経路上の前記合計抵抗値及び前記合計インダクタンス値にかかる電圧変化分を補正して前記先端電圧を算出し、前記抵抗介挿期間では、検出する前記出力電圧の電圧値に対して前記電極先端までの経路上の前記合計抵抗値及び前記合計インダクタンス値に加え、同期間に介挿される前記抵抗の抵抗値を含む電圧変化分を補正して前記先端電圧を算出することを特徴とする溶接用電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接用電源装置において、
前記先端電圧算出手段は、前記切替手段の動作に連動させて前記先端電圧の算出態様を切り替えることを特徴とする溶接用電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−101231(P2012−101231A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249797(P2010−249797)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】