説明

溶接鋼管の超音波探傷方法

【課題】溶接鋼管の溶接部を溶接鋼管の全長にわたって精度よく超音波探傷することのできる溶接鋼管の超音波探傷方法を提供する。
【解決手段】溶接鋼管1を水平に支持する鋼管支持台4と、鋼管支持台の上方に配置された超音波プローブ5と、超音波プローブを上下方向に昇降駆動するプローブ昇降機構6と、プローブ昇降機構と一体に超音波プローブを溶接鋼管の軸方向に移送するプローブ移送機構7と、超音波プローブのプローブ位置を検出するプローブ位置検出装置8と、プローブ位置検出装置により検出されたプローブ位置から溶接鋼管の両端部までの距離を演算する演算装置9と、演算装置により算出された距離を比較して溶接鋼管の両端部のうち超音波プローブまでの距離が近いほうの鋼管端部に向かう方向を初期探傷方向として設定する初期探傷方向設定装置10とを備えた超音波探傷装置3を用いて溶接鋼管を超音波探傷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫鋼管などの溶接鋼管を超音波探傷する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電縫鋼管は、通常、鋼板を円筒状に曲げ成形した後、鋼板の両側端部を溶接接合して製造される。このため、電縫鋼管などの溶接鋼管を製品として出荷する際には、溶接鋼管の溶接部に溶接欠陥が存在していないことを確認するため、超音波探傷検査が行われている。
電縫鋼管などの溶接鋼管を超音波探傷する方法としては、溶接鋼管の表面に複数の超音波プローブを全数着管させた後、プローブ固定装置によって超音波プローブの自由度を無くし、この状態で溶接鋼管の軸方向に溶接鋼管を移動させて溶接鋼管を超音波探傷する方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−58909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した方法によると、溶接鋼管の溶接部を溶接鋼管の全長にわたって超音波探傷することが可能であるが、溶接鋼管の移動によって溶接部の位置が溶接鋼管の周方向にずれてしまうことがあるため、溶接鋼管の溶接部を精度よく超音波探傷することができないという問題があった。
また、溶接欠陥の発生位置を特定するためには、円環状に形成された2つのメジャリングロールを超音波プローブの前後に配置し、メジャリングロールの内周面に溶接鋼管の表面を接触させる必要があるため、溶接鋼管の移動によって溶接鋼管の表面がメジャリングロールの内周面から離れた場合には、溶接欠陥の発生位置を精度よく特定することができないという問題もあった。
【0005】
さらに、溶接部形状の悪い箇所が存在する場合は超音波プローブが溶接鋼管の表面から離れてしまうという問題もあった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、溶接鋼管の溶接部を溶接鋼管の全長にわたって精度よく超音波探傷することのできる溶接鋼管の超音波探傷方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、円筒状に曲げ成形された鋼板の両側端部を溶接接合してなる溶接鋼管を超音波探傷する方法であって、前記溶接鋼管を超音波探傷する装置として、前記溶接鋼管を水平に支持する鋼管支持台と、該鋼管支持台の上方に配置された超音波プローブと、該超音波プローブを上下方向に昇降駆動するプローブ昇降機構と、該プローブ昇降機構と一体に前記超音波プローブを前記溶接鋼管の軸方向に移送するプローブ移送機構と、該プローブ移送機構により溶接鋼管の軸方向に移送される前記超音波プローブのプローブ位置を検出するプローブ位置検出装置と、該プローブ位置検出装置により検出されたプローブ位置から前記溶接鋼管の両端部までの距離を演算する演算装置と、該演算装置により算出された距離を比較して前記溶接鋼管の両端部のうち前記超音波プローブまでの距離が近いほうの鋼管端部に向かう方向を初期探傷方向として設定する初期探傷方向設定装置とを備えた超音波探傷装置を用い、前記超音波プローブを下降して前記溶接鋼管に接触させた後、前記プローブ移送機構を作動させて前記超音波プローブを前記初期探傷方向設定装置により設定された初期探傷方向へ移動させ、前記超音波プローブが溶接鋼管の端部より外側まで移動した後、前記超音波プローブを上昇させて前記プローブ移送機構によって前記超音波プローブを初期探傷方向とは反対方向に移送し、前記超音波プローブが初期位置に来たところで前記超音波プローブを下降して前記溶接鋼管に接触させ、次いで前記超音波プローブの移動量が前記溶接鋼管の全長に達するまで前記超音波プローブを前記プローブ移送機構により前記溶接鋼管の軸方向に移動させて前記溶接鋼管を超音波探傷することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶接鋼管を移動させなくても溶接鋼管の溶接部を溶接鋼管の全長にわたって超音波探傷することが可能となり、溶接鋼管の移動によって溶接部の位置が溶接鋼管の周方向にずれてしまうことがないので、溶接鋼管の溶接部を溶接鋼管の全長にわたって精度よく超音波探傷することができる。
また、初期探傷方向設定装置により設定された初期探傷方向へ超音波プローブを移動させることによって超音波プローブを速やかにセッティングすることが可能となり、従って、比較的短時間で溶接鋼管の溶接部を溶接鋼管の全長にわたって超音波探傷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る溶接鋼管の超音波探傷方法に用いられる超音波探傷装置の一例を示す正面図である。
【図2】図1に示す超音波探傷装置の側面図である。
【図3】図1に示す超音波探傷装置の平面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る溶接鋼管の超音波探傷方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明に係る溶接鋼管の超音波探傷方法について説明する。
まず、本発明に係る溶接鋼管の超音波探傷方法に用いられる超音波探傷装置の一例を図1、図2及び図3に示す。図1〜図3において符号1は溶接鋼管、2は溶接鋼管1の溶接部、3は超音波探傷装置を示し、この超音波探傷装置3は鋼管支持台4、超音波プローブ5、プローブ昇降機構6、プローブ移送機構7、プローブ位置検出装置8、演算装置9及び初期探傷方向設定装置10を備えている。
【0010】
鋼管支持台4は溶接鋼管1を水平に支持するものであり、この鋼管支持台4は溶接鋼管1を回転可能に支持する複数のターニングローラ11を有している。また、鋼管支持台4は図示しないコンベアにより図中矢印方向に移動可能となっている。
超音波プローブ5は溶接鋼管1の溶接部2を超音波探傷するものであり、この超音波プローブ5は鋼管支持台4の上方に配置されている。
【0011】
プローブ昇降機構6は超音波プローブ5を上下方向に昇降駆動するものであり、このプローブ昇降機構6は例えば図示しないボールねじと、このボールねじを駆動する駆動モータ(図示せず)等から構成されている。
プローブ移送機構7はプローブ昇降機構6と一体に超音波プローブ5を溶接鋼管1の軸方向に移送するものであり、このプローブ移送機構7は例えば駆動モータ12と、この駆動モータ12により回転駆動されるボールねじ軸13と、このボールねじ軸13の回転に伴って水平方向に移動するボールねじナット14等から構成されている。
【0012】
プローブ位置検出装置8はプローブ移送機構7により溶接鋼管1の軸方向に移送される超音波プローブ5のプローブ位置を検出するものであり、このプローブ位置検出装置8は例えばプローブ移送機構7の駆動モータ12に付設されたパルスジェネレータ15からのパルス信号を計数して超音波プローブ5のプローブ位置を検出するように構成されている。
演算装置9は超音波プローブ5のプローブ位置から溶接鋼管1の両端部までの距離X1、X2を演算するものであり、この演算装置9はプローブ位置検出装置8により検出された初期のプローブ位置から距離X1、X2を演算するように演算するように構成されている。
【0013】
初期探傷方向設定装置10は溶接鋼管1の両端部のうち超音波プローブ5までの距離が近いほうの鋼管端部に向かう方向を初期探傷方向として設定するものであり、この初期探傷方向設定装置10は演算装置9により算出された距離X1、X2を比較して超音波プローブ5までの距離が近いほうの鋼管端部に向かう方向を初期探傷方向として設定するように構成されている。また、初期探傷方向設定装置10により設定された初期探傷方向は、プローブ移送機構7等を制御する制御装置(図示せず)に探傷を開始する際にプローブを移送する方向の情報として供給されている。
【0014】
図4は本発明の一実施形態に係る溶接鋼管の超音波探傷方法を説明するための図であり、上述した超音波探傷装置3を用いて溶接鋼管1の溶接部2を超音波探傷する場合は、まず、溶接鋼管1の溶接部2が真上に位置するまでターニングローラ11を図示しないローラ駆動機構により回転させる。このとき、超音波プローブ5は、溶接鋼管1の全長範囲であって、いずれかの管端に近い位置で、鋼管上端面より上方に離隔して待機している。この位置を超音波プローブ5の初期位置とする。なお、この初期位置は、前回行った鋼管の探傷が終わった位置に近い位置とするのがよい。これはプローブの移送距離を短くし、探傷作業に要する時間を短縮するのに有利だからである。
この位置において、前述の如く、超音波プローブ5と両管端との距離X1とX2を計測し、そのうちいずれか距離の短い方の管端に向かう方向を初期探傷方向として初期探傷方向設定装置10にセットする。そして、プローブ昇降機構6を作動させて図4(a)に示すようにプローブ5と溶接鋼管1を接触させる。
【0015】
次に、プローブ移送機構7を作動させ、図4(b)に示すように、超音波プローブ5を初期探傷方向設定装置10により設定された初期探傷方向に向けて移動させつつ探傷を行う。
超音波プローブ5が管端の外側まで移動したならば、プローブ移送機構7の作動を一旦停止する。次に、この状態でプローブ昇降機構6を作動させ、図4(b)に示すように、超音波プローブ5を上昇させて溶接鋼管1の表面から離隔する。
【0016】
次いで、図4(c)に示すように、プローブ移送機構7を作動させて、初期探傷方向とは逆の方向に超音波プローブ5を移動させ、超音波プローブ5が初期位置に達したら超音波プローブ5を再度下降させる。
超音波プローブ5が溶接鋼管1の表面と接触する位置まで下降したならば、プローブ昇降機構6の作動を停止する。次に、プローブ移送機構7を再び作動させ、図4(c)に示すように、超音波プローブ5をプローブセット位置から溶接鋼管1の軸方向に移動させる。そして、超音波プローブ5の移動量が溶接鋼管1の全長に達するまでプローブ移送機構7を作動させて溶接鋼管1の超音波探傷を行う。
なお、次の溶接鋼管1を超音波探傷する場合は、超音波探傷装置3の下方位置に溶接鋼管1を移動させた後、図4(c)に点線で示す位置から超音波プローブ5を溶接鋼管1の軸方向に移動させて溶接鋼管1の超音波探傷を行う。
【0017】
上述のように、超音波探傷装置3のプローブ移送機構7を作動させて超音波プローブ5を初期探傷方向設定装置10により設定された初期探傷方向に向けて移動させ、超音波プローブ5が溶接鋼管1の端部より外側まで移動した後、超音波プローブ5を上昇させてプローブ移送機構7によって超音波プローブ5を初期探傷方向とは反対方向に移送し、超音波プローブ5が初期位置に来たところで超音波プローブ5を下降して溶接鋼管1に接触させ、次いで超音波プローブ5の移動量が溶接鋼管1の全長に達するまで超音波プローブ5をプローブ移送機構7により溶接鋼管1の軸方向に移動させることで、溶接鋼管1を移動させなくても溶接鋼管1の溶接部2を溶接鋼管1の全長にわたって超音波探傷することができる。従って、前述した従来例のように、溶接鋼管1の移動によって溶接部2の位置が溶接鋼管1の周方向にずれてしまうことがないので、溶接鋼管1の溶接部2を溶接鋼管1の全長にわたって精度よく超音波探傷することができる。
【0018】
また、初期探傷方向設定装置10により設定された初期探傷方向へ超音波プローブ5を移動させることによって超音波プローブ5を速やかにセッティングすることが可能となり、従って、比較的短時間で溶接鋼管1の溶接部2を溶接鋼管1の全長にわたって超音波探傷することができる。
また、溶接欠陥の発生位置を特定するために、超音波プローブの前後にメジャリングロールを配置する必要もない。
上述した本発明の一実施形態では、溶接鋼管1を水平に支持する鋼管支持台4として、溶接鋼管1を回転可能に支持する複数のターニングローラ11を有するものを例示したが、これに限られるものではなく、ターニングローラを持たない鋼管支持台により溶接鋼管を水平に支持するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0019】
1…溶接鋼管
2…溶接部
3…超音波探傷装置
4…鋼管支持台
5…超音波プローブ
6…プローブ昇降機構
7…プローブ移送機構
8…プローブ位置検出装置
9…演算装置
10…初期探傷方向設定装置
11…ターニングローラ
12…駆動モータ
13…ボールねじ軸
14…ボールねじナット
15…パルスジェネレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に曲げ成形された鋼板の両側端部を溶接接合してなる溶接鋼管を超音波探傷する方法であって、
前記溶接鋼管を超音波探傷する装置として、前記溶接鋼管を水平に支持する鋼管支持台と、該鋼管支持台の上方に配置された超音波プローブと、該超音波プローブを上下方向に昇降駆動するプローブ昇降機構と、該プローブ昇降機構と一体に前記超音波プローブを前記溶接鋼管の軸方向に移送するプローブ移送機構と、該プローブ移送機構により溶接鋼管の軸方向に移送される前記超音波プローブのプローブ位置を検出するプローブ位置検出装置と、該プローブ位置検出装置により検出されたプローブ位置から前記溶接鋼管の両端部までの距離を演算する演算装置と、該演算装置により算出された距離を比較して前記溶接鋼管の両端部のうち前記超音波プローブまでの距離が近いほうの鋼管端部に向かう方向を初期探傷方向として設定する初期探傷方向設定装置とを備えた超音波探傷装置を用い、
前記超音波プローブを下降して前記溶接鋼管に接触させた後、前記プローブ移送機構を作動させて前記超音波プローブを前記初期探傷方向設定装置により設定された初期探傷方向へ移動させ、前記超音波プローブが溶接鋼管の端部より外側まで移動した後、前記超音波プローブを上昇させて前記プローブ移送機構によって前記超音波プローブを初期探傷方向とは反対方向に移送し、前記超音波プローブが初期位置に来たところで前記超音波プローブを下降して前記溶接鋼管に接触させ、次いで前記超音波プローブの移動量が前記溶接鋼管の全長に達するまで前記超音波プローブを前記プローブ移送機構により前記溶接鋼管の軸方向に移動させて前記溶接鋼管を超音波探傷することを特徴とする溶接鋼管の超音波探傷方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−242160(P2012−242160A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110344(P2011−110344)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】