説明

溶湯容器

【課題】高温の溶湯に対する耐久性及び耐食性が良好な溶湯容器を提供する。
【解決手段】アルミナ−シリカ系材料からなる容器本体2と、前記容器本体の内面に形成された窒化珪素−アルミナ系材料からなる保護層3とを備える溶湯容器であって、前記容器本体の材料は、アルミナ及びシリカの合計100重量部に対するアルミナの含有量x重量部が、72〜95の範囲に調整されており、前記保護層の材料は、窒化珪素及びアルミナの合計100重量部に対する窒化珪素の含有量y重量部が、x重量部と所定の関係を満たすように調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種金属溶湯を貯留する溶湯容器に関する。
【背景技術】
【0002】
溶解炉や保持炉などのように溶湯を生成、保持する溶湯容器においては、容器本体の損傷を防止するために、容器本体の内面に内張材を形成して保護することが従来から行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、マグネシア質材及びアルミナ質材を含む誘導炉の内張用耐火物が開示されており、スピネル化により体積収縮の改善や異物の浸透抑制が図られている。
【特許文献1】特開平10−148475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記のような従来の溶湯容器においては、耐熱性、耐食性、浸透防止性などの観点から内張材の材料自体については種々の検討がなされているものの、内張材が容器本体から剥離するという問題が十分解消されていないのが現状である。特に、近年においては、溶湯品質を向上させることのニーズが高まっており、溶湯添加物だけでなく過酷な温度条件にも曝されやすいことから、内張材の剥離がより顕著になっており、耐久性の低下が問題となっていた。
【0005】
そこで、本発明は、高温の溶湯に対する耐久性及び耐食性が良好な溶湯容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記目的は、アルミナ−シリカ系材料からなる容器本体と、前記容器本体の内面に形成された窒化珪素−アルミナ系材料からなる保護層とを備える溶湯容器であって、前記容器本体の材料は、アルミナ及びシリカの合計100重量部に対するアルミナの含有量x重量部が、72〜95の範囲に調整されており、前記保護層の材料は、窒化珪素及びアルミナの合計100重量部に対する窒化珪素の含有量y重量部が、下式(1)及び(2)を満たすように調整されている溶湯容器により達成される。
【0007】
y < −1.1x+ 128 ・・・ (1)
y > −0.5x+ 62.5 ・・・ (2)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温の溶湯に対する耐久性及び耐食性が良好な溶湯容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る溶湯容器の一例として示す誘導炉の縦断面図である。この誘導炉1は、鉄、銅合金、アルミニウム、特殊鋼、各種用途の金属シリコン等の溶解に広く用いることができる。
【0010】
図1に示すように、誘導炉1は、坩堝状の容器本体2の内周面に保護層3が形成されており、容器本体2の外側には誘導コイル4が配置されている。容器本体2と誘導コイル4との間には、珪砂などのバックサンド(不定形材)5が介在されており、誘導コイル4の内周面には断熱材6が配置されている。容器本体2は、円筒状や角筒状など任意の形状とすることができる。
【0011】
容器本体2は、アルミナ(Al)−シリカ(SiO)系の材料からなり、アルミナ及びシリカの合計100重量部に対して、アルミナの含有量がムライト組成を含む72〜95重量部の範囲に調整されている。アルミナの含有量が72重量部より少ない(すなわち、シリカの含有量が多い)と、十分な耐熱性を得にくくなる一方、アルミナの含有量が95重量部より多い(すなわち、シリカの含有量が少ない)と、耐熱衝撃性の低下や溶湯の浸透が生じやすくなる。容器本体2は、アルミナ及びシリカの粉体を所定の混合比で混合し、若干のバインダーを加えて静水圧成形機で成形した後、約1500℃で焼成して製造することができる。
【0012】
アルミナ及びシリカの合計重量は、容器本体2の強度及び熱的安定性を確保するため、バインダーなどを含む容器本体2の全体重量の90%以上であることが好ましい。アルミナ及びシリカの合計重量がこの範囲に含まれている限り、アルミナの一部は、SiC、MgO、ZrOなど他の耐火材成分により置換可能であり、更に、FeOやNaOなどの不可避成分を含んでいてもよい。
【0013】
また、保護層3は、窒化珪素−アルミナ系の材料からなる。窒化珪素及びアルミナの合計重量は、容器本体2に対する密着性及び耐食性を確保するため、バインダーなどを含む保護層3の全体重量の90%以上であることが好ましい。窒化珪素の含有量が少ない(すなわち、アルミナの含有量が多い)と、溶湯に含まれる添加剤のアルカリ成分に対して十分な耐食性が得にくくなる一方、窒化珪素の含有量が多い(すなわち、アルミナの含有量が少ない)と、十分な強度が得にくくなり、溶湯撹拌による損耗が大きくなる。保護層3は、窒化珪素及びアルミナの粉体を所定の混合比で混合し、水ガラス等のバインダーを加えて作成したスラリーを、容器本体2の内面にスプレーや刷毛などで塗布した後、約120℃で20時間以上熱処理を施して、形成することができる。保護層の厚みは、薄すぎると耐食性が低下する一方、厚すぎると密着性が低下する傾向にあるため、0.2〜1.0cmが好ましく、0.3〜0.6cmがより好ましい。
【0014】
本発明においては、容器本体2及び保護層3の材質面での最適化に加え、容器本体2及び保護層3の熱膨張が整合するようにそれぞれの組成が調整されており、これによって保護層3が容器本体2から剥離するのを効果的に防止している。
【0015】
具体的には、貯留される溶湯温度を、実用的に最も過酷な条件と考えられる1600℃と仮定し、容器本体2及び保護層3の厚みを、一般的な値である45mm、6mmにそれぞれ設定して、各素材の熱伝導率から容器本体2及び保護層3の平均温度を算出すると、容器本体2が約1391℃、保護層3が約1558℃となる。したがって、容器本体2及び保護層3の熱膨張量がほぼ等しくなるためには、容器本体2の熱膨張係数をαr、保護層3の熱膨張係数をαcとすると、1391×αr=1558×αcとなるから、
αc=0.89×αr ・・・(3)
となる。
【0016】
また、容器本体2の熱膨張量は、主成分となるアルミナ及びシリカの重量比によって変動する。アルミナ及びシリカの重量比を横軸、熱膨張係数を縦軸としたときの測定結果を、図2に示す。また、保護層3の熱膨張量も、主成分となる窒化珪素及びアルミナの重量比によって変動することから、窒化珪素及びアルミナの重量比を横軸、熱膨張係数を縦軸としたときの測定結果を、図3に示す。図2及び図3のグラフと上記数式(3)を用いることにより、容器本体2または保護層3の一方の組成が定まれば、熱膨張量がほぼ等しくなるような他方の組成も自ずと定まることになる。
【0017】
図4は、容器本体2におけるアルミナ及びシリカの合計100重量部に対するアルミナの含有量を横軸にとり、保護層3における窒化珪素及びアルミナの合計100重量部に対する窒化珪素の含有量を縦軸にとったときの、両者の好ましい関係を示している。図4から明らかなように、両者の関係は直線的となる。
【0018】
実際の誘導炉1においては、容器本体2と保護層3との間に若干の熱膨張量の差が存在しても、剥離防止の効果は得られることから、図4の結果を基に、容器本体2及び保護層3の各組成をパラメータとして、実際の誘導炉1により約900kgの鋼(S45C)について1600℃で5時間の溶解処理を行い、保護層3のクラックの有無を観察した。この結果を表1に示す。溶湯には炭酸ナトリウムを1kg添加して、耐食性の確認も併せて行った。
【0019】
【表1】

表1に示すように、容器本体2の組成によって、クラックが発生しない保護層3の組成範囲は変化している。図5は、表1の結果に基づきクラックが発生しない領域(適正領域)を示すグラフであり、太線で囲まれた領域が適正領域に相当する。図4に示す計算値も、この領域内に存在している。
【0020】
容器本体2におけるアルミナ及びシリカの合計100重量部に対するアルミナの含有量をx重量部とし、保護層3における窒化珪素及びアルミナの合計100重量部に対する窒化珪素の含有量をy重量部とすると、72≦x≦95の範囲において、下記の数式(1)及び(2)が成立する範囲が、図5の適正領域に相当する。
【0021】
y < −1.1x+ 128 ・・・ (1)
y > −0.5x+ 62.5 ・・・ (2)

また、クラックの発生しなかったこの適正領域の各ポイントについて、引き続き上記条件での溶解処理を毎日1回行ったところ、20日経過後では、溶湯の浸透も含めて、表2のような結果であった。
【0022】
【表2】


表2に示すように、窒化珪素の割合が多くなると、時間の経過により髪の毛状の小さなクラック(ヘアークラック)が発生し、溶湯が浸透し易くなって、耐久性が低下する傾向にある。表2の結果から、72≦x≦95の範囲において、下記の数式(2)及び(3)が成立する範囲が、耐久性及び耐食性のより優れる領域であり(図5の斜線部)、この斜線部の領域は、72≦x≦85の範囲において、更に耐久性及び耐食性が優れるものとなる。
【0023】
y > −0.5x+ 62.5 ・・・ (2)
y < −0.9x+ 103 ・・・ (3)
このように、本実施形態の誘導炉1は、容器本体2が機械的特性、耐熱性、熱的安定性に優れたアルミナ−シリカ系材料からなり、溶湯中に含まれる添加剤等による化学的損傷や、溶湯の撹拌流動に伴う物理的損傷を、窒化珪素−アルミナ系材料からなる保護層3により有効に防止することができる。更に、容器本体2及び保護層3の組成比を、熱膨張量がほぼ等しくなるように調整しているので、高温の溶湯を貯留した場合でも保護層3の剥離を効果的に抑制することができる。これらの結果、誘導炉1の耐久性及び耐食性を良好に維持することができ、誘導炉1の寿命を大幅に改善することができる。
【0024】
本発明の溶湯容器は、上記のような誘導炉以外に、例えば、抵抗炉など他の電気炉や、燃焼炉であっても良く、溶湯を貯留可能な容器であれば特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る溶湯容器の縦断面図である。
【図2】容器本体の組成と熱膨張係数との関係を示す図である。
【図3】保護層の組成と熱膨張係数との関係を示す図である。
【図4】容器本体の組成と保護層の組成との好ましい関係を計算により求めた結果を示す図である。
【図5】容器本体の組成と保護層の組成との好ましい関係を実験により求めた結果を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 誘導炉
2 容器本体
3 保護層
4 誘導コイル
5 バックサンド
6 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ−シリカ系材料からなる容器本体と、前記容器本体の内面に形成された窒化珪素−アルミナ系材料からなる保護層とを備える溶湯容器であって、
前記容器本体の材料は、アルミナ及びシリカの合計100重量部に対するアルミナの含有量x重量部が、72〜95の範囲に調整されており、
前記保護層の材料は、窒化珪素及びアルミナの合計100重量部に対する窒化珪素の含有量y重量部が、下式(1)及び(2)を満たすように調整されている溶湯容器。
y < −1.1x+ 128 ・・・ (1)
y > −0.5x+ 62.5 ・・・ (2)







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−228919(P2009−228919A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71683(P2008−71683)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(592134871)日本坩堝株式会社 (31)
【Fターム(参考)】