説明

溶融スラグの冷却処理方法およびスラグ製品の製造方法

【課題】比較的塩基度が高く粘性のある溶融スラグを効率的に冷却処理する。
【解決手段】塩基度2以上の溶融スラグを冷却処理するに際し、水平方向で間隙gを有して並列し、対向する外周部分が下向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ロール1の上部外周面間に溶融スラグを供給してスラグ液溜まりAを形成し、このスラグ液溜まりA内の溶融スラグまたは/およびスラグ液溜まりAに流入途中の溶融スラグを冷却手段2で冷却するとともに、スラグ液溜まりAから間隙g内に流入する溶融スラグを1対の冷却ロール1で冷却しつつ圧延し、少なくとも表層が凝固したスラグを間隙gから下方に抜き出す。粘性のある溶融スラグを高い冷却効率で冷却することができ、高い生産性でスラグ凝固体を得ることができる。また、溶融スラグの冷却速度も大きくなるので、特に塩基度が高いスラグについても粉化しにくいスラグ凝固体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉脱炭精錬スラグなどのような塩基度が比較的高い溶融スラグを冷却処理するための方法と、この冷却処理方法を用いたスラグ製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造プロセスで発生する溶融スラグ(例えば、製鋼スラグ)の多くは、冷却ヤードにおいて放冷した後、散水して冷却される。また、一部では、パン冷却方式と呼ばれる鉄製の容器に流し込んで散水冷却する方法も採られることがある。
一方、高炉スラグやごみ焼却灰溶融スラグなどの溶融スラグを冷却処理するための装置として、双ドラム方式のスラグ冷却処理装置が知られている(例えば、特許文献1など)。このスラグ冷却処理装置は、水平方向で並列し、対向する外周部分が上向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ドラムを備えており、この1対の冷却ドラムの上部外周面間に上方から溶融スラグが供給され、スラグ液溜まりが形成される。このスラグ液溜まりから、回転する冷却ドラムの表面に付着することで溶融スラグが持ち出され、この溶融スラグは冷却ドラム面に付着した状態で適度な凝固状態(例えば、半凝固状態または表層のみ凝固した状態)まで冷却された後、所定のドラム回転位置において自重により冷却ドラム面から剥離し、回収手段に回収される。
【0003】
このような冷却処理装置で溶融スラグを冷却処理することにより、(i)従来のような広大な冷却ヤードが必要ない、(ii)厚みの小さいスラグ凝固体が得られるため、所望の粒度の土木材料や粗骨材などへの加工が容易であるとともに、破砕処理して粒状スラグを製造する際の粉や細粒品の発生量が少ないため、製品歩留まりが向上する、(iii)冷却のための散水が不要であるか若しくは散水量が少なくて済むため、水分を含まない若しくは水分量が少ないスラグが得られ、セメント原料などに供する場合に乾燥処理を必要としない、などの利点がある。
【特許文献1】特許第3613106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、転炉脱炭精錬スラグなどのように塩基度[質量比:%CaO/%SiO](以下、単に「塩基度」という)が比較的高い溶融スラグは粘性が高く、このような粘性の高い溶融スラグを上記のような従来のスラグ冷却処理装置で冷却処理する場合、高粘性のために溶融スラグが冷却ドラム面に均一に付着しにくく、ドラム面全体を有効に使用した冷却処理を行うことができない。このため溶融スラグの冷却効率が低く、高い生産性が得られないことが判った。また、塩基度が高いスラグ(特に、塩基度≧3)は粉化しやすく、このようなスラグは溶融状態から急冷することにより、粉化しにくくすることができるが、従来のスラグ冷却処理装置で冷却処理した場合、高粘性のために厚みを薄くすることができず、十分な冷却速度が得られないため、冷却後の粉化を適切に抑制できないことが判った。
【0005】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、比較的塩基度が高く、粘性のある溶融スラグを効率的に冷却処理することができ、また、特に塩基度が高いスラグであっても粉化しにくいスラグ凝固体を得ることができる溶融スラグの冷却処理方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、そのような冷却処理方法を用いたスラグ製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、上記課題を解決することができる冷却処理方法について検討した結果、対向する外周部分が下向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ロールを用い、この1対の冷却ロールの上部外周面間に溶融スラグを供給してスラグ液溜まりを形成し、このスラグ液溜まり内の溶融スラグまたはスラグ液溜まりに流入途中の溶融スラグを冷却手段で冷却するとともに、スラグ液溜まりの溶融スラグを1対の冷却ロールで冷却しつつ圧延し、冷却ロール間の下方に抜き出すことにより、塩基度が高い高粘性の溶融スラグを高い冷却効率で冷却することができ、また、溶融スラグを高い冷却速度で冷却できるので、特に塩基度が高いスラグについても粉化しにくいスラグ凝固体が得られることが判った。なお、特開昭60−264349号公報には、対向する外周部分が下向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ロールを用いた溶融スラグの冷却方法が示されているが、この特許文献には、特に塩基度が高い高粘性の溶融スラグを冷却処理することに関する開示はなく、また、本発明者らが検討した結果では、同特許文献が示す処理方法では、溶融スラグを適切に冷却・凝固させることができないことが判った。
【0007】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]スラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO]が2以上の溶融スラグを冷却処理する際に、
水平方向で間隙(g)を有して並列し、対向する外周部分が下向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ロール(1)を備えた冷却処理装置を用い、1対の冷却ロール(1)の上部外周面間に溶融スラグを供給してスラグ液溜まり(A)を形成し、該スラグ液溜まり(A)内の溶融スラグまたは/およびスラグ液溜まり(A)に流入途中の溶融スラグを冷却手段(2)で冷却するとともに、スラグ液溜まり(A)から間隙(g)内に流入する溶融スラグを1対の冷却ロール(1)で冷却しつつ圧延し、少なくとも表層が凝固したスラグを間隙(g)から下方に抜き出すことを特徴とする溶融スラグの冷却処理方法。
【0008】
[2]上記[1]の冷却処理方法において、冷却手段(2)が、溶融スラグに流体または/および粉体を供給する手段であることを特徴とする溶融スラグの冷却処理方法。
[3]上記[2]の冷却処理方法において、冷却手段(2)が、スラグ液溜まり(A)の液面のうち、少なくとも冷却ロール(1)と接する液面に流体を吹き付ける流体吹付手段であることを特徴とする溶融スラグの冷却処理方法。
[4]上記[2]の冷却処理方法において、冷却手段(2)が、スラグ液溜まり(A)に進入する前の冷却ロール面に粉体を供給する粉体供給手段であることを特徴とする溶融スラグの冷却処理方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの冷却処理方法で冷却され、凝固したスラグを破砕処理または/および磨砕処理して粒状のスラグ製品を得ることを特徴とするスラグ製品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明による溶融スラグの冷却処理方法によれば、塩基度が高く高粘性の溶融スラグを高い冷却効率で冷却することができ、高い生産性でスラグ凝固体を得ることができる。また、溶融スラグを大きな冷却速度で冷却できるので、特に塩基度が高いスラグについても粉化しにくいスラグ凝固体を得ることができる。
また、本発明によるスラグ製品の製造方法によれば、上記のような冷却処理方法を用いることにより、所望の粒度を有し、且つ粉化しにくいスラグ製品を低コストに安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において冷却処理の対象となるスラグは、スラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO](以下、単に「塩基度」という)が2以上の溶融スラグであり、一般にこのような塩基度の溶融スラグは粘性が高い。スラグは塩基度≧2であればよく、種類に制限はないが、例えば、普通鋼およびステンレス鋼の転炉脱炭精錬スラグ、脱燐スラグ、電気炉スラグなどの製鋼スラグ、鉄鉱石やクロム鉱石などの鉱石溶融還元スラグ、廃棄物ガス化溶融スラグ、ごみ焼却灰溶融スラグなどが挙げられる。
【0011】
図1は、本発明による溶融スラグの冷却処理方法の一実施形態を模式的に示す正面図である。
本発明法で使用する溶融スラグの冷却処理装置は、水平方向で間隙gを有して並列し、対向する外周部分が下向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ロール1a,1bを備えている。この1対の冷却ロール1a,1bの上部外周面間にはスラグ液溜まりAが形成される。冷却ロール1a,1bは、駆動装置(図示せず)により上記の回転方向に回転駆動する。なお、冷却ロール1a,1bは、操業条件に応じて回転数を制御できるようにすることが好ましい。
【0012】
前記冷却ロール1a,1bの内部には、冷媒を通すための流路を有する内部冷却機構(図示せず)が設けられ、この内部冷却機構に対する冷媒供給部と冷媒排出部がドラム軸の各端部に各々設けられている。なお、冷媒には一般に水(冷却水)が用いられるが、他の流体(液体または気体)を用いてもよい。
なお、本実施形態の冷却ロール1a,1bは表面が平滑な円筒体であるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、溝などの凹凸を有していてもよい。ロール面に凹凸があると溶融スラグとの接触面積が増大し、スラグの冷却を促進できる。また、凝固したスラグの破砕・磨砕が容易になる利点もある。さらに、冷媒を通じた熱回収についても、比表面積が大きいので熱交換効率が高くなる。
また、冷却ロール1a,1bのロール面間で孔型が形成され、スラグがこの孔型形状に圧延されるようにしてもよい。したがって、冷却ロール1a,1bの間隙gから抜き出されるスラグSxは板状の他に、線状や柱状であってもよい。
【0013】
また、冷却ロール幅方向の両端側には、冷却ロール1a,1bの上部外周面間に形成される断面V溝状の凹部(スラグ液溜まりAが形成される凹部)の両端を塞ぐための堰板8が、冷却ロール1a,1bの端面に接するようにして設けられている。この堰板8は、適当な支持部材を介して装置本体(基体)に支持される。なお、特開2001−208483号公報に示されるように、一方の冷却ロール(例えば、冷却ロール1a)の幅方向両端にフランジを形成するとともに、このフランジが他方の冷却ロール(例えば、冷却ロール1b)の端面に接するようにし、このフランジによって堰板8が形成されるような構造としてもよい。
また、溶融スラグの粘性や供給量・供給形態などからして、溶融スラグが冷却ロール1a,1b間の幅方向両端から流出するおそれがない場合には、上記堰板8は設けなくてもよい。
【0014】
前記冷却ロール1a,1bの上方には、冷却ロール1a,1bの上部外周面間(断面V溝状の凹部)に溶融スラグSを供給するためのスラグ樋3が配置される。このスラグ樋3には、スラグ鍋4から溶融スラグSが供給される。
1対の冷却ロール1a,1bの下方には、冷却ロール1a,1bに冷却されつつ圧延されて間隙gから抜き出されたスラグSxを受け取り、搬送するための搬送コンベア5が配置されている。
冷却ロール1a,1bの上側には、スラグ液溜まりA内の溶融スラグSまたは/およびスラグ液溜まりAに流入途中の溶融スラグSを冷却するための冷却手段2が設けられている。この冷却手段2は、例えば、溶融スラグSに流体または/および粉体を供給する手段で構成することができる。
【0015】
また、必要に応じて、冷却ロール1a,1bと搬送コンベア5との間に、冷却ロール1a,1bの間隙gから抜き出されたスラグSxを冷却するための冷却装置6を設けることができる。この冷却装置6は、例えば、スラグSxに水や空気などの冷却用流体を吹き付けるノズルなどにより構成できる。
搬送コンベア5の搬送先には、スラグSxを受け入れ、このスラグSxを冷媒で冷却することにより熱回収を行うためのスラグバケット7が設けられている。なお、搬送コンベア5を設けることなく、冷却ロール1a,1bとスラグバケット7間にシュートを設け、冷却ロール1a,1b間から抜き出されたスラグSxを、このシュートを介してスラグバケット7に装入するようにしてもよい。
【0016】
本実施形態の溶融スラグの冷却処理方法では、対向する外周部分が下向きに回転する冷却ロール1a,1bの上部外周面間(断面V溝状の凹部)に、スラグ樋3から塩基度≧2の溶融スラグSが供給され、スラグ液溜まりAが形成される。このスラグ液溜まりA内の溶融スラグSまたは/およびスラグ液溜まりAに流入途中の溶融スラグSが冷却手段2で冷却されるとともに、スラグ液溜まりAから間隙g内に流入する溶融スラグSが1対の冷却ロール1a,1bで冷却されつつ圧延される。この圧延により、粘性のある溶融スラグSが冷却ロール幅方向で展伸され、効率的な冷却を行うことができる。
前記冷却手段2は、通常、溶融スラグSに冷却用の流体または/および粉体を供給する供給手段(例えば、吹付ノズル、吹込ノズル、吹込ランス、供給シュートなど)で構成される。流体または/および粉体は、スラグ液溜まりA内の溶融スラグSに供給してもよいし、スラグ樋3からスラグ液溜まりAに流入途中の溶融スラグSに供給してもよいし、それらの両方に供給してもよい。
【0017】
流体としては、例えば、空気、窒素ガス、炭酸ガス、水蒸気、天然ガス、都市ガス、プロパンガス、コークス炉ガスなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。このような流体は、(i)吹付ノズルなどから溶融スラグSに吹き付ける、(ii)吹込ノズルや吹込ランスなどにより溶融スラグS中に吹き込む、などの方法で溶融スラグSに供給される。
粉体としては、例えば、スラグ粉、珪砂、フライアッシュ、レンガ屑、酸化鉄粉(ダスト、スラッジ)、鉄鉱石粉などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。このような粉体は、(i)吹込ノズルや吹込ランスなどにより溶融スラグS中に吹き込む、(ii)供給シュートなどから冷却ロール面に供給し、冷却ドラム1a,1bの回転により溶融スラグS中に送り込む、などの方法で溶融スラグSに供給される。
流体や粉体を溶融スラグS中に吹き込む場合、例えば、堰板8に吹込ノズルを設け、この吹込ノズルから溶融スラグ中に吹き込んでもよい。
【0018】
以上のような冷却手段2で冷却され、さらに冷却ロール1a,1bにより冷却された溶融スラグSは、少なくとも表層が凝固した板状のスラグSxとして間隙gから下方に抜き出される。このスラグSxは、必要に応じて冷却装置6でさらに冷却された後、搬送コンベア5に受け取られ、この搬送コンベア5で搬送されスラグバケット7に装入される。なお、搬送コンベア5の搬送速度は、冷却ロール1a,1bの周速とほぼ一致している。
スラグSxを搬送コンベア6からスラグバケット7などに払い出す際には、必要に応じて、スラグSxを適当な手段で粗破砕してもよい。
以上のように、溶融スラグSが冷却手段2で冷却され、さらに1対の冷却ロール1a,1bで圧延され、冷却ロール幅方向で展伸されつつ冷却されて、少なくとも表層が凝固した板状のスラグとして間隙gから下方に抜き出されるので、溶融スラグSの冷却効率が高まり、生産性が向上するとともに、溶融スラグSの冷却速度も大きくなるため、粉化しにくいスラグ凝固体を得ることができる。
【0019】
スラグバケット7内には冷媒が供給され、スラグSxの冷却が行われる。なお、冷却ロール1a,1bから抜き出されたスラグSxの冷却は、他の手段や場所で行ってもよい。冷却されたスラグSxはスラグ製品とするための破砕処理または/および磨砕処理のための工程に送られ、さらに必要に応じて、篩い分けなどによる整粒が施される。
通常、冷却ロール1a,1bによる冷却が完了した直後のスラグSxは、未だ可塑性を有しているので、冷却ロール1a,1bから抜き出され、搬送コンベア5に受け取られるスラグSxは板状の連続体である。ただし、スラグSxの厚さや凝固の程度によっては、1対の冷却ロール1a,1bから抜き出されて搬送コンベア5に受け取られる間に板状スラグの連続体が千切れることもあるが、特に問題はない。
【0020】
図2および図3は、それぞれ本発明法の特に好ましい実施形態を示すもので、冷却ロール1a,1bと冷却手段2を部分的に示す正面図である。
図2は、冷却手段2を、スラグ液溜まりAの液面のうち、少なくとも各冷却ロール1a,1bと接する液面pに流体を吹き付ける吹付ノズル20(流体吹付手段)で構成したものである。通常、この吹付ノズル20から吹き付けられる流体としては、空気や窒素ガスなどが用いられる。
図3は、冷却手段2を、スラグ液溜まりAに進入する前の冷却ロール面に粉体を供給する供給シュート21(粉体供給手段)で構成したものである。この供給シュート21により冷却ロール面に供給された粉体は、冷却ドラム1a,1bの回転により、スラグ液溜まりAの冷却ロール1a,1bと接する部分に送り込まれる。
【0021】
図4は、1対の冷却ロール1a,1bのみ用いた溶融スラグの冷却方法(比較例)を示しているが、このように溶融スラグを双ロールの下方に抜き出す冷却方式は、冷却ロール1a,1bと溶融スラグSとの接触時間(長さ)が短いため、冷却不足になって適切な凝固状態が得られにくい。これに対して本発明法では、スラグ液溜まりA内の溶融スラグSまたは/およびスラグ液溜まりAに流入途中の溶融スラグSを冷却手段2で冷却することにより、溶融スラグの凝固を効果的に促進させることができる。特に、図2および図3に示す実施形態では、スラグ液溜まりAの溶融スラグSの凝固は冷却ロール1a,1bとの接触面から開始することから、その開始点に流体を吹き付け或いは粉体を送り込むことで、その部分を積極的に冷却することができ、このため溶融スラグの凝固を特に効果的に促進させることができる。
【0022】
以下、本発明の他の実施形態について説明する。
冷却ロール1a,1bを冷却するために、冷却ロール内にさきに述べたような内部冷却機構を設ける代わりに、或いはそのような内部冷却機構に加えて、冷却ロール1a,1bの外周面に冷却用流体を吹き付けるロール冷却手段を設けてもよい。この冷却手段は、例えば、冷却ロール1a,1bの外周面に水や空気などの冷却用流体を吹き付けるノズルなどにより構成できる。
本発明法では、溶融スラグの冷却を目的として行う溶融スラグSへの流体の供給を、他の目的、例えば、(a)スラグの改質、(b)溶融スラグの顕熱回収、などの目的を兼ねて行ってもよい。
【0023】
上記(a)のスラグの改質では、例えば、スラグ中のf-CaO量の低減を目的とする場合には、空気などの酸素含有ガスを溶融スラグに供給するとスラグ中のFeOが酸化され、これがf-CaOと結びついて2CaO・Feを形成するので、スラグ中のf-CaO量が低下し、得られたスラグ凝固体を路盤材などに使用した場合の水和膨張が抑制できる。
【0024】
上記(b)の溶融スラグの顕熱回収では、供給された空気、窒素ガス、水蒸気などの流体を、後述するように回収し、この流体から熱回収を行う。
また、水蒸気(水)と天然ガスなどの炭化水素系成分含有ガスをスラグ液溜まりA内に同時に供給することにより、水蒸気改質反応が生じ、この改質反応の吸熱にスラグの顕熱が供給されるため溶融スラグの冷却を促進できるとともに、反応により生成するガスを可燃性ガスとして回収ないし熱回収することができる。炭化水素系成分含有ガスとして、例えばメタンガスを用いた場合、CH+HO→CO+3Hの反応が生じる。
【0025】
同様に、本発明法では、溶融スラグの冷却を目的として行う溶融スラグSへの粉体の供給を、他の目的、例えば、(a)スラグの改質、(b)スラグの破砕または磨砕処理で生じたスラグ粉の再利用による製品歩留まり向上、などの目的を兼ねて行ってもよい。
上記(a)のスラグの改質では、例えば、珪砂やフライアッシュなどのSiO源、アルミナレンガ屑などのAl源、酸化鉄粉や鉄鉱石粉などの酸化鉄源を溶融スラグに添加することによりスラグ中のf-CaO量が低下し、得られたスラグ凝固体を路盤材などに使用した場合の水和膨張が抑制できる。
上記(b)については、本発明法で冷却されたスラグを破砕処理または/および磨砕処理した際に生じたスラグ粉を添加すれば、製品歩留まりを向上させることができる。
【0026】
本発明法を実施するに当たって、溶融スラグの顕熱を効率的に熱回収することは、省エネルギーや排出COの削減の観点から特に好ましい。この溶融スラグの顕熱回収としては、下記(i)〜(iii)のうちの少なくとも1つ、好ましくは2つ以上、特に好ましくは全部の熱回収を行うことが望ましい。
(i)冷却ロール1a,1b内を通過する冷媒から熱回収を行う。
(ii)冷却ロール1a,1bで冷却したスラグSxを、さらに冷媒(例えば、蒸気、水、空気など)と接触させて冷却し、この冷媒を回収することで熱回収を行う。この方法では、基本的に閉鎖空間でスラグに冷媒を接触させた後、スラグと熱交換した冷媒を回収する。例えば、(a)冷却ロール1a,1bで冷却されたスラグSxを搬送手段で搬送しつつ冷媒と接触させ、この冷媒から熱回収を行う方法、(b)冷却ロール1a,1bで冷却されたスラグSxを、冷媒が供給される冷却用容器に収容して冷却し、前記冷媒から熱回収を行う方法、など種々の方法を採ることができる。
(iii)スラグ液溜まりA内の溶融スラグSまたは/およびスラグ液溜まりAに流入途中の溶融スラグSに流体を供給する場合、供給された流体を回収し、この流体から熱回収を行う。
【0027】
前記(i)の形態では、冷却ロール1a,1bの内部冷却機構を通過した冷媒から熱回収を行う。
前記(ii)の(a)の形態では、例えば、搬送コンベア5をトンネルで覆い、このトンネル内部に冷媒を流すことでスラグを冷却し、その冷媒から熱回収を行う。
前記(ii)の(b)の形態では、例えば、スラグバケット7を通過する冷媒から熱回収を行う。
前記(iii)の形態では、例えば、冷却ロール1a,1bの上方に流体回収用のフードなどを設けて、溶融スラグSに供給された流体を回収し、この流体から熱回収を行う。
前記(i)〜(iii)のいずれの場合も、熱回収設備(図示せず)において冷媒や気体から熱回収を行う。
【0028】
溶融スラグを大量処理(例えば、スラグ処理量:1t/min以上)する大型の冷却処理装置に対してスラグ鍋から注湯するような場合、注湯される溶融スラグの荷重によって冷却ロールが損耗するのを避けるため、冷却ロールの上方にタンディッシュを設け、スラグ鍋の溶融スラグを一旦タンディッシュに移し、このタンディッシュから冷却ロール(スラグ液溜まりA)に注湯を行うことが好ましい。図5は、その一実施形態を示すものであり、4がスラグ鍋、9がタンディッシュであり、溶融スラグSはこのタンディッシュ9から真下の冷却ロール1a,1b(スラグ液溜まりA)に注湯される。
【0029】
本発明の冷却処理装置では、冷却ロール1a,1bから抜き出されたスラグSxは未だ相当の高温であり(スラグSxによっては、内部が未だ溶融または部分溶融状態にある)、このため冷却ロール1a,1bから抜き出されたスラグSxは、通常、散水冷却によりさらに冷却される。散水冷却は、シャワー状散水による冷却、スプレー冷却、ミスト冷却のいずれでもよいが、そのなかでもミスト冷却は、(a)スプレー冷却に較べて冷却水量の制御範囲が広く、スラグ量やスラグ温度に応じて、スラグを適切に冷却でき且つ廃水を生じない最適な冷却水量を供給できる、(b)水滴サイズがかなり小さいので、熱伝導率が非常に小さいスラグを短時間で効率的に冷却することができる、(c)微小水滴が加圧空気により加速されて大きな衝突速度でスラグに衝突するため、高い冷却効果が得られる、などの理由から特に好ましい。
【0030】
図5の実施形態では、冷却ロール1a,1bから抜き出されたスラグSx(搬送コンベア5で搬送中のスラグSx)に対して、冷媒供給手段10からミスト(水+圧縮空気)などの冷媒cを供給(噴射)し、それらを冷却している。冷媒cとしては、ミストの他にスプレー水などを用いることもできる。
なお、この冷媒cを回収することにより、スラグ顕熱を回収することも可能であり、その場合には、例えば、冷却処理装置Xと冷媒供給手段10などの装置出側の設備をカバーで覆い、冷媒cとスラグとの接触により発生した蒸気および加熱された気体を、排気管を通じてカバーから回収し、熱交換器で他の熱媒と熱交換することにより、スラグ顕熱が回収できる。
図5のその他の装置構成と冷却処理形態は、図1の実施形態と同様であるので、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0031】
本発明のスラグ製品の製造方法では、本発明の冷却処理方法で冷却され、凝固したスラグを破砕処理または/および磨砕処理し、必要に応じて、篩い分けなどにより整粒することにより、粒状のスラグ製品を得ることができる。このスラグ製品の種類に制限はないが、通常は、土木材料や建築材料となるスラグ製品である。例えば、路盤材、粗骨材、細骨材、海洋土木材料などが挙げられる。
【0032】
本発明で得られるスラグ製品は、急冷することにより製造されるため粉化が抑制され、このため微粉部分が少なくなり、海洋土木材として利用する際に海水が白濁することがない。また、目的の粒度に近い層状に急冷凝固させるため、破砕工程が簡略化でき、微粒分の少ない粗骨材、細骨材とすることができる。また、緻密質なものとなるため吸水率は低く、アスコン用にも利用できる硬質なものとなる。また、スラグ改質を行うことでフリーCaOが低減できるので、エージングも容易であり、蒸気エージングを適用しなくても、大気エージングで膨張が抑制できるので、路盤材としても利用できる。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
図2に示す冷却処理方法により、転炉脱炭精錬(転炉出鋼温度:1650℃、スラグ排出量:約15t)で転炉から排出された塩基度3.8の溶融スラグ(転炉脱炭精錬スラグ)を冷却処理した。冷却処理装置の仕様および運転条件は以下のとおりである。
・冷却ロール1a,1b:外径1.6m×長さ(ロール幅方向での長さ)3m、水冷式
・冷却ロール1a,1b間の間隙g:10mm
・冷却ロール1a,1bの回転速度:3rpm
・吹付ノズル20(スリットノズル)の設置数:ロール幅方向で間隔をおいて6本
【0034】
転炉から排出された溶融スラグSをスラグ鍋に受けて冷却処理装置まで搬送し、このスラグ鍋内の溶融スラグSを、スラグ樋を介して約1t/minの供給速度で冷却ロール1a,1bの上部外周面間に約12分間に亘り供給した。なお、スラグ鍋に混入した溶銑が冷却処理装置に供給されないようにするため、スラグ鍋中に溶融スラグSが1/4程度残る段階で、冷却処理装置への溶融スラグSの供給を停止した。
スラグ液溜まりAの各冷却ロール1a,1bと接する部分の液面pに、複数の吹付ノズル20から計0.3m/min(冷却ロール毎)の供給量で空気を吹き付けた。このような流体の吹き付けにより冷却された後、冷却ロール1a,1bで冷却されつつ圧延されて下方に抜き出されたスラグSxは、十分に凝固しており、ロール下方に抜き出された後、スラグが割れた際に内部から溶融スラグが出てくることはなかった。
【0035】
スラグバケットでの冷却後のスラグ性状を確認したが、塩基度が3.8と高いにも関わらず、冷却処理装置で急冷されたことにより、通常の徐冷されたスラグのような粉化現象は見られなかった。スラグバケット内で冷却した後、5mm以下に破砕処理してスラグ製品とした。このスラグ製品は、最大粒径5mmで微粉部分の少ない砂状になっており、絶乾密度は3.1g/cmと通常のコンクリート細骨材と比べて1割以上高かった。
また、このスラグ製品を、海洋土木材としての使用を想定して2倍量の海水中に入れ、3時間後の海水の濁度を測定する試験に供したが、Mg(OH)を生成して海水が白濁することもなかった。これは、細粒ではあるが微粉が少ないため、水と接触してもpHが上昇しにくいためであると考えられる。
また、スラグ液溜まりAの溶融スラグに空気を吹き付けることにより、溶融スラグ中の一部のFeOが酸化されることで、2CaO・Feが増加し、フリーCaOの量が低下したことが確認できた。
【0036】
[実施例2]
図3に示す冷却処理方法を用いた以外は、実施例1と同様の条件で溶融スラグ(転炉脱炭精錬スラグ)を冷却処理した。
冷却ロール1a,1bの上方にロール長手方向全長に沿って設置した供給シュート21から、珪砂を冷却ロール1a,1bの上面に供給した。珪砂は粒度2mm以下のものを用い、各冷却ロールに対して20kg/minの供給量で供給した。このような粉体の供給により冷却された後、冷却ロール1a,1bで冷却されつつ圧延されて下方に抜き出されたスラグSxは、十分に凝固しており、ロール下方に抜き出された後、スラグが割れた際に内部から溶融スラグが出てくることはなかった。スラグバケットでの冷却後のスラグ性状および5mm以下に破砕処理したスラグ製品についても、実施例1と同様の性状、性能を有していた。
また、添加した珪砂の大部分はスラグと反応し、凝固スラグの塩基度CaO/SiOを低下させ、このためフリーCaO量が低下したことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による溶融スラグの冷却処理方法の一実施形態を模式的に示す正面図
【図2】本発明による溶融スラグの冷却処理方法の他の実施形態を模式的に示すもので、冷却ロール1a,1bと冷却手段2を部分的に示す正面図
【図3】本発明による溶融スラグの冷却処理方法の他の実施形態を模式的に示すもので、冷却ロール1a,1bと冷却手段2を部分的に示す正面図
【図4】1対の冷却ロール1a,1bのみ用いた比較例の冷却方法を示すもので、冷却ロール1a,1bと冷却手段2を部分的に示す正面図
【図5】本発明による溶融スラグの冷却処理方法の他の実施形態を模式的に示す正面図
【符号の説明】
【0038】
1a,1b 冷却ロール
2 冷却手段
3 スラグ樋
4 スラグ鍋
5 搬送コンベア
6 冷却装置
7 スラグバケット
8 堰板
9 タンディッシュ
10 冷媒供給手段
20 吹付ノズル
21 供給シュート
g 間隙
p 液面
A スラグ液溜まり
S 溶融スラグ
Sx スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO]が2以上の溶融スラグを冷却処理する際に、
水平方向で間隙(g)を有して並列し、対向する外周部分が下向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ロール(1)を備えた冷却処理装置を用い、1対の冷却ロール(1)の上部外周面間に溶融スラグを供給してスラグ液溜まり(A)を形成し、該スラグ液溜まり(A)内の溶融スラグまたは/およびスラグ液溜まり(A)に流入途中の溶融スラグを冷却手段(2)で冷却するとともに、スラグ液溜まり(A)から間隙(g)内に流入する溶融スラグを1対の冷却ロール(1)で冷却しつつ圧延し、少なくとも表層が凝固したスラグを間隙(g)から下方に抜き出すことを特徴とする溶融スラグの冷却処理方法。
【請求項2】
冷却手段(2)が、溶融スラグに流体または/および粉体を供給する手段であることを特徴とする請求項1に記載の溶融スラグの冷却処理方法。
【請求項3】
冷却手段(2)が、スラグ液溜まり(A)の液面のうち、少なくとも冷却ロール(1)と接する液面に流体を吹き付ける流体吹付手段であることを特徴とする請求項2に記載の溶融スラグの冷却処理方法。
【請求項4】
冷却手段(2)が、スラグ液溜まり(A)に進入する前の冷却ロール面に粉体を供給する粉体供給手段であることを特徴とする請求項2に記載の溶融スラグの冷却処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の冷却処理方法で冷却され、凝固したスラグを破砕処理または/および磨砕処理して粒状のスラグ製品を得ることを特徴とするスラグ製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−308398(P2008−308398A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72688(P2008−72688)
【出願日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】