説明

溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法

【課題】Si等を所定量含有する鋼板を基材としつつ、めっき外観が良好な溶融亜鉛めっき鋼板を得る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】 鋼中成分の含有量として、質量%で、Si:0.1%以上3.0%以下、Mn:0.5%以上4.0%以下、sol.Al:3.0%以下を満足する鋼板を基材とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、めっき前の基材鋼板を、ヒドロキシ酸化合物をヒドロキシ酸換算液中濃度で0.5質量%以上含有する水系酸性液状組成物と接触させる酸処理工程;前記酸処理工程を経た基材鋼板を、水素の含有量が1〜40体積%の還元性雰囲気中で700℃以上に加熱することを含む還元焼鈍工程;および該加熱工程に引き続き、基材鋼板に溶融亜鉛めっきを施す溶融亜鉛めっき工程を備える。水系酸性液状組成物は、水溶性Fe含有物質をFe換算液中濃度として0.01質量%以上および/または硝酸物質を硝酸換算液中濃度として0.1質量%以上含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板に関するもので、特に、基材鋼板がSi、MnおよびAlを含有する溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野では車体の軽量化が強く推進されており、適用される鋼板についても高強度化技術が数多く開発されてきた。鋼板の高強度化には、Si、Mn、P、Al等の固溶強化元素の添加が有効であることが知られている。特に、SiやAlが添加された鋼板は、鋼の延性を損なわずに高強度化できる利点がある。
【0003】
ところが、このようなSiやAlが添加された高強度鋼板を基材とする溶融亜鉛めっき鋼板を製造すると、不めっきと呼ばれるめっき欠陥が発生しやすい。また、めっき皮膜の剥離が生じやすい等、製品性能にも問題を抱えることもある。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板製造時には、合金化反応速度が遅くなって、通常の製造条件よりもラインスピードを落として合金化時間を長くしたり高い合金化処理温度が必要になったりする等の製造制約がかかるか、設備によっては製造できないこともあり得る。なお、本発明では、「溶融亜鉛めっき鋼板」なる用語は、特に断らない限り、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下、「GA」ともいう。)を含む意味として用いる。また、例えば、合金化亜鉛めっき鋼板や合金化処理がなされない溶融亜鉛めっき鋼板(以下、「GI」ともいう。)をそれぞれ個別に意味する場合には、各々GA、GI等の用語にて示し、互いに区別可能とする。
【0004】
このような不めっき等が生じる機構は、以下のように説明されている。溶融亜鉛めっきに先立って、基材鋼板は還元雰囲気中で加熱(焼鈍)され、この操作によって基材鋼板表面は通常は活性化される。しかし、Si、MnおよびAl(以下、これらの3元素を総称して「Si等」ともいう。)は易酸化性であるため、基材鋼板が還元雰囲気での加熱中に、これらの元素が基材鋼板の表面に濃化してSi等系酸化物を形成する。このようなSi等系酸化物で覆われた基材鋼板表面は、亜鉛めっき浴と反応しにくくなり、その部分が不めっき欠陥となる。また、Si等系の酸化物はGA製造時の合金化反応の障壁となって、合金化処理性(合金化反応の反応速度)に悪影響を及ぼす。
【0005】
Si等を多く含有する鋼板に溶融亜鉛めっきを施す場合のこのような問題を解決すべく、以下に示す文献のように、還元雰囲気中での加熱工程(焼鈍工程)やその前工程における開発技術が既に提案されている。
【0006】
特許文献1等では、基材鋼板を酸化性雰囲気中で鋼板を加熱して表面に酸化鉄を形成してから、その後還元することにより、Siの表面濃化を抑制する技術に係る発明が開示されている。
【0007】
特許文献2、3等では、基材鋼板表面を処理液に接触させたてから、引き続きこれを還元する技術開示されている。例えば、特許文献2では、Siを0.1〜3質量%を含有する鋼板の表面に、元素量換算で0.1〜1000mg/mのSを含有しかつアルカリ金属を含有しない化合物を鋼板表面に付着させた後、鋼板の最高到達温度:500℃超で酸化処理を行い、次いで、還元性雰囲気中にて50秒以上の保持時間で還元処理を行ってから溶融亜鉛めっきを行う溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。特許文献3では、Siを0.1〜3質量%を含有する鋼板の表面に、ヘマタイト含有率が70質量%以下となる酸化皮膜を形成してから、ついで還元処理を行った後、溶融亜鉛めっきを施す溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されており、同時に、同様の成分の鋼板に表面に、S,C,Cl,Na,K,B,P,FおよびNなる群から選ばれた少なくとも1種の成分を付着させたのち、前記特許文献2と同様の加熱処理及び還元処理を行ってから溶融亜鉛めっきを施す溶融亜鉛めっき鋼板の製造法方法が特許文献3に開示されている。
【0008】
また特許文献4には、基材鋼板表面を脂肪族ジカルボン酸(C≦8)を含有する水溶液で洗浄(すなわち当該水溶液に接触)してから連続溶融めっきラインで還元焼鈍する溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。
【0009】
特許文献5では、750℃以上かつ900℃以下の温度域において、Hを1〜60体積%含有し、水分圧PHOと水素分圧PHとが特定の関係に規定された雰囲気で焼鈍することにより、表面外観が良好になることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2587724号公報
【特許文献2】特開2007−247018号公報
【特許文献3】特開2007−39780号公報
【特許文献4】特開2010−174287号公報
【特許文献5】特開2007−211280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、前述の特許文献1〜3の技術では、以下のような問題点を有する。
連続溶融めっきラインにて、特許文献1に開示される処理を行うと、基材鋼板表面に形成された酸化鉄が、その後のハースロール付近で剥離、脱落してハースロールに巻き付くという現象が生じやすい。この巻き付きが生じると、この巻き付いた酸化物が後続の鋼板表面に転写されて製品の外観疵となり、製品の歩留まりが著しく低下する。
【0012】
特許文献2に記載されるようなSを含む化合物を用いた前処理や特許文献3のS,C,Cl,Na,K,B,P,FおよびNを含む化合物を付着させる前処理は、本発明者らの実験結果では、めっきの外観(不めっきの状況)や密着性が必ずしも改善されない。例えば、特許文献2および3では有効とされるチオ尿素やシュウ酸を含有する水溶液系を用いた処理では、めっき性は改善されなかった。
【0013】
また特許文献4に示すジカルボン酸含有水溶液で前処理する方法はめっきの外観の改善にある程度効果は認められるものの、効果の安定性の観点からさらなる改善の余地がある。
【0014】
特許文献5のような還元雰囲気を最適化する技術も、不めっきの改善にある程度有効である。しかし、実用上は、それだけで問題ないレベルの製品が得られるというわけでは必ずしもなく、また、大容積に加熱炉内の雰囲気が変化するまではある程度時間がかかるため、例えば、所定の雰囲気が得られるまでスケジュール管理が必要になる。
【0015】
本発明の課題は、Si等を所定量含有する鋼板を基材としつつ、めっき外観が良好な溶融亜鉛めっき鋼板を得る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を得ることにある。別の観点では、Si等を所定量含有する鋼板を基材とする、めっき外観が良好な溶融亜鉛めっき鋼板を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、基材鋼板の加熱に先だって、ヒドロキシ酸化合物を含有する水系酸性液状組成物に基材鋼板を接触させることにより、得られた溶融亜鉛めっき鋼板の外観が大きく改善されることを見出し、これを端著として本発明を完成させた。
【0017】
本発明は次のとおりである。
(1)鋼中成分の含有量として、質量%で、Si:0.1%以上3.0%以下、Mn:0.5%以上4.0%以下およびsol.Al:3.0%以下を満足する鋼板を基材とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、めっき前の基材鋼板を、ヒドロキシ酸、そのイオン、およびその塩、ならびに水中でこれらを形成可能な物質からなる群から選ばれるヒドロキシ酸化合物をヒドロキシ酸換算液中濃度で0.5質量%以上含有する水系酸性液状組成物と接触させる酸処理工程と、前記酸処理工程を経た基材鋼板を、水素の含有量が1〜40体積%の還元性雰囲気中で700℃以上に加熱することを含む還元焼鈍工程と、該加熱工程に引き続き、基材鋼板に溶融亜鉛めっきを施す溶融亜鉛めっき工程と、を備える、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0018】
(2)前記水系酸性液状組成物は、FeおよびFeイオンの少なくとも一方を含む水溶性物質をFe換算液中濃度として0.01質量%以上含有するものである、上記(1)記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0019】
(3)前記水系酸性液状組成物は、硝酸または硝酸イオンを含む物質を硝酸換算液中濃度として0.1質量%以上含有するものである、上記(1)または(2)記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0020】
(4)前記還元焼鈍工程において、前記鋼板が700℃以上の温度域にあるときには前記雰囲気の露点を−15℃以上とすることを特徴とする、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0021】
(5)鋼中成分の含有量として、質量%で、Si:0.1%以上3.0%以下、Mn:0.5%以上4.0%以下、sol.Al:3.0%以下を満足する鋼板を基材とする溶融亜鉛めっき鋼板であって、めっき皮膜を溶解除去した後の基材表面に占めるSi系酸化物の占有率が70面積%以下である、溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、Si等を所定量含有する鋼板を基材としつつめっき外観が良好な溶融亜鉛めっき鋼板を得る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、およびSi等を所定量含有する鋼板を基材とする、めっき外観が良好な溶融亜鉛めっき鋼板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】前処理の内容が異なる場合における処理後の鋼板の表面状態を示す図であって、(a)無処理(水処理)の場合における前処理後の鋼板の表面の観察像、ならびに(b)酒石酸処理の場合における前処理後の鋼板の表面の観察像およびその1領域についてのEDXによる分析結果を示す図である。
【図2】本実施例に係る二種類の鋼についてめっき皮膜を除去したのちの表面を観察した結果を示す図であって、(a)は表5におけるNo.22であり、(b)はNo.18の観察結果である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について、連続溶融亜鉛めっき鋼板製造ライン(CGL)における製造を例にとり、工程ごとに順を追って説明する。
1.酸処理工程
本発明に係る製造方法は、基材鋼板(鋼帯を含む。以下、特に断らない限り同じ。)の表面に、水系酸性液状組成物を接触させる工程を備える。本発明においてこの処理を「酸処理工程」という。なお、酸処理工程に先立って、通常は公知の方法で、基材鋼板の表面を脱脂・洗浄する。また、脱脂・洗浄の前後で基材鋼板の表面を研削してもよい。
【0025】
(1)水系酸性液状組成物
(1)−a. ヒドロキシ酸化合物
本発明の製造方法において、「水系酸性液状組成物」とは、溶媒の主成分が水である酸性液体からなる部分を含む組成物をいい、組成物中に固体物質が分散していたり堆積していたりしてもよい。
【0026】
本発明に係る水系酸性液状組成物は、ヒドロキシ酸、そのイオン、およびその塩、ならびに水中でこれらを形成可能な物質からなる群から選ばれるヒドロキシ酸化合物をヒドロキシ酸換算液中濃度で0.5質量%以上含有するものである。「ヒドロキシ酸」とは分子内に少なくとも一つのヒドロキシ基(すなわち水酸基)と少なくとも一つのカルボキシル基とを有する有機酸をいい、ヒドロキシ酸の具体例として、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、キナ酸等や、グルコン酸に例示されるアルドン酸が挙げられる。本発明に係るヒドロキシ酸として、特に酒石酸のようなカルボキシル基および水酸基がそれぞれ二つ以上あるものが好適である。本発明に係るヒドロキシ酸化合物は、一種類のヒドロキシ酸に基づく物質により構成されていてもよいし、二種類以上のヒドロキシ酸に基づいていてもよい。
【0027】
ヒドロキシ酸の塩を構成する金属種は限定されないが、本発明に係る水系酸性液状組成物がヒドロキシ酸換算液中濃度として上記の範囲でヒドロキシ酸化合物を含有できるように、ナトリウムなどのアルカリ金属およびマグネシウムなどのアルカリ土類金属から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
【0028】
「水中でこれら(ヒドロキシ酸、そのイオン、およびその塩)を形成可能な物質」は、ラクトンやエステルのようにヒドロキシ酸化合物のヒドロキシ基および/またはカルボキシル基が自らまたは他のヒドロキシ酸化合物と反応したものでもよいし、アルコキシ誘導体やアシル誘導体のようにヒドロキシ酸化合物のヒドロキシ基および/またはカルボキシル酸基が他の官能基に変化したものであって、水系酸性液状組成物中でヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を回復可能なものでもよい。
【0029】
本発明に係る水系酸性液状組成物におけるヒドロキシ酸化合物のヒドロキシ酸換算液中濃度(以下、「ヒドロキシ酸濃度」と略記する。)は、0.5質量%以上である。なお、ヒドロキシ酸濃度とは液中濃度であるから、水系酸性液状組成物の液体部分を採取し、その液体部分に含有されるヒドロキシ酸化合物濃度を測定し、そのヒドロキシ酸化合物の元となるヒドロキシ酸に換算することによって得られる。
【0030】
ヒドロキシ酸濃度が過度に低い場合には、ヒドロキシ酸化合物を含有させたことに基づく効果を得ることが困難となる。上記効果を安定的に得る観点から、ヒドロキシ酸濃度は好ましくは2質量%以上とする。ヒドロキシ酸濃度の上限は特に限定されない。ヒドロキシ酸濃度を過度に高くしても上記の効果が飽和する場合には、経済的観点などからヒドロキシ酸濃度の上限を設定して管理してもよい。
【0031】
(1)−b. 水溶性Fe含有物質、硝酸物質
本発明の製造方法において、水系酸性液状組成物は、FeおよびFeイオンの少なくとも一方を含む水溶性物質(以下、「水溶性Fe含有物質」ともいう。)および/または硝酸または硝酸イオンを含む物質(以下、「硝酸物質」ともいう。)を含有することが好ましい。水溶性Fe含有物質と硝酸物質とが同一の物質であってもよい。そのような物質として硝酸鉄が例示される。
【0032】
本発明に係る水系酸性液状組成物が水溶性Fe含有物質および/または硝酸物質を含有すると、この水系酸性液状組成物により処理された基材鋼板から得られる溶融亜鉛めっき鋼板はめっき外観や合金化処理性が特に改善する。この効果を安定的に得る観点から、水溶性Fe含有物質の水系酸性液状組成物中濃度はFe換算液中濃度として0.01質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であればさらに好ましい。一方、硝酸物質の水系酸性液状組成物中濃度は硝酸換算液中濃度として0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であればさらに好ましい。上記濃度のそれぞれについて上限は設定されないが、他の成分の機能とのバランスや経済性を考慮すると、水溶性Fe含有物質のFe換算液中濃度は1.5質量%以下であることが好ましく、硝酸物質の硝酸換算液中濃度は5.0質量%以下であることが好ましい。なお、上記の濃度はいずれも「液中濃度」であるから、ヒドロキシ酸濃度の場合と同様に、水系酸性液状組成物の液体部分について測定することによって得られるものである。
【0033】
(1)−c. pH
本発明に係る水系酸性液状組成物における溶液部分のpHは7未満である。具体的なpHの値は、本発明の効果を安定的に得る観点から、水系酸性液状組成物が含有する成分を考慮しつつ適宜設定されるべきものである。例えば、ヒドロキシ酸化合物が酒石酸に基づく物質を含有する場合には、pHは1〜3の範囲とすることが好ましい。
【0034】
なお、設備によっては、配管など構成部材の腐食防止の観点などから実質的に水系酸性液状組成物のpHに下限が設定される場合もある。この場合には、水系酸性液状組成物のpHをジエタノールアミンやアンモニア等の適当なアルカリを用いて調整し、pHを適切な範囲(例えば1〜3程度)として使用すればよい。
【0035】
(2) 水系酸性液状組成物と鋼板との接触方法
接触方法は特に限定されず、浸漬、スプレー、ロールコータ等公知の手段を適宜選択できる。また、処理液の温度も特に制限されず、処理時間など他の処理条件とともに適切に管理すべきものである。例えば室温でもよいし、例えば30〜60℃くらいの領域の所定温度で管理してもよい。
【0036】
水系酸性液状組成物に接触させた鋼板は、そのまま後続の前酸化工程または還元工程の前に一旦乾燥することが好ましい。濡れたままの状態でも不めっき改善の効果はあると考えられるが、CGLでの製造を想定すると、鋼板によって持ち込まれた液中の鉄分や酸成分がロール表面で局所的に析出し、押し込み疵等の原因となることが懸念される。
【0037】
鋼板表面が水系酸性液状組成は0.5秒以上、含まない場合は1秒以上物との接触開始から乾燥されるまでの時間は、鉄分又は硝酸分を含む場合であるのが好ましい。
(3) 不めっき改善の推定機構
ここで、Si等を含有する基材鋼板を用いた場合の酸処理工程による不めっき改善の推定機構を、実験例を用いて説明する。
【0038】
表1の鋼成分の基材鋼板(製造条件は後述の実施例と同様。sol.Al量はほぼトレース。表中の含有量の単位は質量%(残部:Feおよび不純物)。)を、所定の大きさに切りだし、表2に示す処理液、処理手順で処理した。なお、以降の説明では、本発明に係る水系酸性液状組成物と基材鋼板とを接触させる処理を含む処理を「ヒドロキシ酸処理」という。また、表2に示すように、本発明に係るヒドロキシ酸化合物の典型例である酒石酸を含有する水系酸性液状組成物を用いたヒドロキシ酸処理は、特に「酒石酸処理」ともいう。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
図1は、処理後の鋼板の表面のFE−SEM像である。(b)酒石酸処理したものは、図1(b)に示すように鋼板表面に膜状の層で覆われていた。このような層は(a)無処理(水処理)のものでは形成されていなかった。この膜状の層を、表面からEDXで分析すると酸素とFeが多く検出される一方、Si等はほとんど検出されなかった。また薄膜X線回折で同定するとマグネタイト(Fe)やウスタイト(FeO)、ヘマタイト(Fe)のピークはいずれも検出されなかった。したがって、この膜状の層は、Si等の含有量が低い非晶質構造の酸化鉄主体の層と考えられる。
【0042】
酒石酸処理によって還元焼鈍前の鋼板表面に図1(b)のような均一な酸化鉄主体の層が形成されることで、後続の還元焼鈍工程後にSi系の酸化物が濃化せずに均一に還元された鋼板表面が得られるため、不めっきの抑制されためっき外観が得られると考えられる。
【0043】
酒石酸処理を施して得られた部材についてGAめっき−基材界面付近を調査すると、基材鋼板の前記界面近傍では脱炭していることが観察された。この脱炭は還元焼鈍工程において、基材鋼板の表面近傍のCが酸化鉄主体の層中の酸素と結合して生じると考えられる。同様に基材鋼板表面近傍のSi等に対しても酸素が供給されるため、これらの元素はその表面直下の鋼板内部で酸化される効果があると考えられる。更に、この様な膜状酸化物はバリア性も高くSiの外部への濃化を抑制すると考えられる。これら2つの効果の発現により結果的に基材鋼板の表面におけるSi等の濃化が抑制されて、良好なめっき外観が得られると考えられる。
【0044】
なお、酒石酸処理を行うことで図1(b)のような均一な膜状の層が形成する理由は明らかでないが、次のような現象が生じている可能性がある。酒石酸はカルボキシル基およびヒドロキシ基を有しており、これらの基を通じて酒石酸が鋼板表面に吸着するとともに鋼板表面のFeを酸化させる。この酸化したFeと酒石酸とが錯体を形成して、鋼板表面に均一に沈着し、乾燥後は酸化鉄主体の膜状の層として形成されたと考えられる。なお、酒石酸などヒドロキシ酸は分子内にカルボキシル基およびヒドロキシ基を有しているため、分子間でエステル結合により重合して高分子化することができる。このような分子間重合が酒石酸処理における鋼板表面に膜状の層の形成に関与している可能性もある。この観点から、本発明に係るヒドロキシ酸化合物に係るヒドロキシ酸が有するヒドロキシ基およびカルボキシル基はそれぞれ2個以上であることが好ましい。
【0045】
さらに、水系酸性液状組成物が鉄分(水溶性Fe含有物質)、硝酸分(硝酸物質)を含んでいる場合には、前述した膜状の層の形成機構においては、硝酸物質による鋼板表面の酸化や水溶性Fe含有物質との錯体の形成に有利になる。そのため、例えば処理液との接触時間が短くても、錯体の均一な沈着が生じ前述の膜状の層が形成されやすいと考えられる。
【0046】
2.前酸化工程
酸処理工程を経た鋼板は、必要に応じ、酸化雰囲気で加熱される。CGLにおいては、還元焼鈍炉の上流側に設置されたNOF(無酸化炉)やDFF(直火炉)のような加熱炉で、鋼板(鋼帯)を加熱する工程が相当する。近年のCGLでは、NOFやDFFを備えず、鋼板(鋼帯)が還元焼鈍炉に直接入る設備もあり、このような設備では前酸化工程が省略される。すなわち、本発明の製造方法において、前酸化工程は設備の構成に基づいて実施/不実施を判断してもよい任意工程である。
【0047】
3.還元焼鈍工程
本発明においては、雰囲気や温度等の条件は適宜設定されるべきものであって、めっき直前の鋼板表面が十分に還元され、そのうえで製品鋼板に求められる機械特性を満たすようすればよい。雰囲気は公知のものでよく、例えば水素の含有量が1〜40体積%の還元性雰囲気とすればよい。なお、この雰囲気における残部は窒素などの不活性気体が主体であり、若干量の水分などを含む。以下では、さらに不めっき改善の観点から、還元焼鈍工程での雰囲気の露点についての好ましい条件を中心に説明する。
【0048】
(1)加熱初期(〜700℃)
加熱初期(鋼板温度が700℃に達するまで)の領域では、加熱雰囲気は、鉄にとって還元性であればよく、特に限定されない。CGLの還元焼鈍炉の気流は、通常、下流から上流側に向かうので、この領域で特に雰囲気を制御しなければ後述する高温域での雰囲気とほぼ同様となる。
【0049】
(2)高温域(700℃以上〜保持)
この領域では、雰囲気の露点を−15℃以上+30℃以下とするのがよい。露点が低すぎると、得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観及び密着性が若干低下する。一方、極端に高すぎる必要もなく、かえって後続の冷却以降で露点を下げるうえではあまり高すぎない方が好適である。
【0050】
通常、純度の高い工業的なN−H混合ガスの露点は−60℃以下なので、上記の範囲の露点の雰囲気を調整するためには、予め混合ガスを構成する窒素ガスおよび/または水素ガスの中の露点を高めておく、炉内に直接水蒸気を吹き込むなどの方法が例示される。雰囲気が均質化する点で前者の方法の方が有利である。この方法を実施する場合には、後述するように、高温域の終端付近から露点調整された混合ガスを吹き込むのがよい。
【0051】
高温域で高露点とする方が有利な理由については、次のように考える。
そもそも、Si含有鋼板に不めっきが生じやすい理由は、前述したように、還元焼鈍過程で鋼板表面にSiの酸化皮膜が形成するためである。そこで、高温域で高露点とすれば、鋼中のSiは鋼板表面に達する前に表面直下の鋼板内部で酸化され、鋼板表面にはSiの酸化皮膜が形成されにくくなる。
【0052】
(3)冷却域(保持温度〜550℃以下に達するまで)
高温域で所定温度に保持された鋼板は、その後冷却される。このとき焼鈍炉内の雰囲気は、ガスの基本的な組成(すなわち、還元性雰囲気であること)は高温域と同様でよいが、露点は冷却開始にあわせて下げることが好ましい。冷却域の具体的な露点の範囲は特に限定されないが、上限は高温域の露点とするべきであり、低温域では後述するように露点を−30℃以下に管理することから、冷却域においてもこの範囲に到達していることが好ましい。このような管理を実現する具体的な方法として、前述したように、連続溶融亜鉛めっき設備の還元焼鈍炉内の気流は通常下流から上流に向かうので、例えば、高温域終端付近で高露点ガス(あるいは水蒸気)を吹き込み、冷却帯での冷却ガスやそれ以降の領域で吹き込むガスは低露点とする方法が例示される。
【0053】
(4)低温域(550℃以下〜めっきまで)
当該領域は、材料の機械特性を安定化させる領域である。この領域で露点が高い場合には、得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の性能が若干劣化することが懸念される。したがって、この領域における雰囲気の露点は−30℃以下にすることが好ましい。
【0054】
4.めっき工程及び合金化処理工程
前記加熱工程を経た基材鋼板は、引き続き溶融亜鉛めっき浴に浸漬され、めっき浴から引き上げられたのち、ガスワイピング等で付着量が制御されて、GIとなる。GAを製造する場合にはさらに合金化処理を行う。めっき浴、鋼板温度、付着量、合金化処理等に係る諸条件は、通常の範囲内で特に制限されず、製品の仕様や要求性能に応じて適宜設定されればよい。以下、好ましい代表的な条件について説明する。
【0055】
めっき浴中のAl濃度は、0.08質量%以上0.5質量%以下が好ましい。さらに言えば、GAを製造する場合は0.08質量%以上0.15質量%以下、GIを製造する場合は0.1質量%以上0.5質量%以下とするのが好適である。
【0056】
めっき浴温度は、めっき付着量の調整を容易にするために430℃以上とし、Znの蒸発を避けてめっき浴の維持を容易にするために500℃以下とすることが好ましい。鋼板のめっき浴へ侵入材温は、めっき浴の温度維持の面ではめっき浴と同程度か若干高め(+10℃程度以内)とするのがよい。高過ぎると鋼板から鉄分が浴中に溶出してドロスが発生しやすくなる。
【0057】
めっき付着量は特に限定されないが、高い耐食性と優れた経済性とを両立させる観点から、片面当たり30g/m以上100g/m以下とすることが好適である。GAの場合は、合金化処理後の付着量で30g/m以上80g/m以下が好適である。
【0058】
合金化処理する場合、合金化処理温度は450℃〜650℃が好適である。温度が高すぎると得られたGAの耐パウダリング性に劣ることが懸念され、低すぎると合金化反応が遅くなって生産性の低下を招く。
【0059】
めっきの合金化度(合金化後のめっき皮膜におけるFeの含有量)は、7質量%以上16質量%以下が好ましい。低すぎると、部分的に表面まで合金化が完了しないGAムラが発生したり、めっき表面に摺動性に劣るη相やζ相が残ったりしやすい。逆に高すぎると耐パウダリング性に劣ることが懸念される。例えばプレス成形用途のGAでは、8質量%以上10質量%以下とするのがよい。
【0060】
5.後続の工程
得られた溶融亜鉛めっき鋼板は、通常、調質圧延されて、機械的特性や表面粗度が調整される。さらに、必要に応じ、耐食性や潤滑性の付与を目的とした後処理(例としてクロメート処理やクロムフリー耐食皮膜形成処理、リン酸塩処理等)がなされる。
【0061】
6.基材鋼板
次に、本発明に用いる基材鋼板について説明する。なお、鋼組成の説明における「%」は質量%を意味する。
【0062】
(1)鋼組成
本発明は、Si等を含有する鋼板を対象とするものであるから、まず、最も特徴的な成分であるSi、MnおよびAl(sol.Al)について説明し、続いてその他の成分について説明する。
【0063】
[Si:0.1%以上3.0%以下]
Siは、延性を損ねず高強度な鋼板を得る上で最も効果的な元素である。Siを含有させたことに基づく効果を安定的に得るためには、Si含有量を0.1%以上とすることが好ましい。例えば引張強度を340Mpa以上とするには、0.5%以上とすればよい。一方、Siが多すぎると、十分なめっき外観が得られない、合金化処理速度が遅くなりすぎるといった不具合が生じる可能性が高まる。したがって、Si含有量は3.0%以下とすることが好ましく、1.5%以下とすればさらに好ましい。
【0064】
[Mn:0.5%以上4.0%以下]
Mnも、鋼の強度向上に寄与する元素である。Mnを含有させたことに基づく効果を安定的に得るためには、Mn含有量を0.5%以上とすることが好ましい。例えば鋼板の引張強度を340MPa以上にするために0.5%以上含有させればよく、引張強度を980MPa以上にするためには、1.8%以上含有させればよい。一方、Mn含有量が多すぎると、転炉における鋼の溶解や精錬が困難になるだけでなく、溶接性が劣化する。したがって、Mn含有量は4.0%以下とすることが好ましく、3.0%以下とすればさらに好ましい。
【0065】
[sol.Al:3.0%以下]
Alも、鋼の強度上昇に有効な元素である。一方で、Alを含有させると、少量の含有で不めっきを生じやすい。主としてAlによって鋼の強度を高める場合でも3.0%以下とすることが好ましく、1.0%以下とすることがさらに好ましい。また、他の成分や製造条件の調整で必要な機械特性が得られるのであれば、Alは極力少ないのが好ましく、0.01%以下とするのがよい。Al含有量の下限は特に設定されない。
【0066】
[C:0.05%以上0.30%以下]
Cは,高強度を得る上で重要な成分である。C含有量が少なすぎると十分な強度が得られない。一方、C含有量が多すぎると靱性や溶接性が低下する。そこで、本発明では、C含有量は0.05%以上0.30%以下とするのが好ましい。
【0067】
[P:0.1%以下]
Pは,鋼板の高強度化に有効な成分であるが、反面、靱性を劣化させる。また、合金化処理速度も遅延させる。Si等他の成分の含有により必要な強度が得られるのであれば、Pは少ない方がよく0.1%以下とするのが好ましい。
【0068】
[S:0.01%以下]
Sは、鋼中でMnSとなって一般に曲げ性を劣化させる。そこで、Sは0.01%以下とするのが好ましい。
【0069】
[N:0.01%以下]
Nは、連続鋳造中に窒化物を形成してスラブのひび割れの原因となるので、N含有量は低い方が好ましい。従って、N含有量は0.01%以下とする。
【0070】
[Ti:0.25%以下、Nb:0.25%以下、V:0.25%以下]
Ti、NbおよびVは、還元焼鈍工程において鋼の再結晶を遅らせて結晶粒を微細化させるので、鋼の高強度化にも有効である。したがって、これらの元素の一種または二種以上を必要に応じて含有させてもよい。しかし、この効果は、Ti含有量が0.25%を超え、Nb含有量が0.25%を超え、またはV含有量が0.25%を超えると、飽和してコスト的に不利となる。そのため、Ti含有量は0.25%以下、Nb含有量は0.25%以下、V含有量は0.25%以下とする。例えば、980MPa以上の引張強度をより安定的に確保するためには、Ti、Nb、Vの何れかの元素の含有量は0.003%以上であることが好ましい。
【0071】
[CrおよびMo:合計で1%以下]
CrおよびMoは、何れもMnと同様にオ−ステナイトを安定化することで変態強化を促進する働きがあり、鋼板の高強度化に有効であるので、必要に応じてこれらの1種または2種を含有させてもよい。これらの元素を含有させたことに基づく効果を安定的に得るためにはそれぞれについて0.2%以上含有させることが好ましい。しかしながら、これらの元素の含有量の合計が1%を超えると、加工性が低下する可能性が高まる。したがって、Crおよび/またはMoを含有させる場合には、これらの元素の含有量の合計を1%以下とすることが好ましい。
【0072】
[Cu:1%、Ni:1%以下]
CuおよびNiは、腐食抑制効果があり、表面に濃化して水素の侵入を抑え、遅れ破壊を抑制する働きがあるので、必要に応じてこれらの1種または2種を含有させてもよい。これらの元素を含有させたことに基づく効果を安定的に得るためにはそれぞれについて0.2%以上含有させることが好ましい。しかし、何れの元素についても、その含有量が1%を超えるとこの効果は飽和しコスト的に不利となる。したがって、Cuおよび/またはNiを含有させる場合には、これらの元素の含有量をそれぞれ1%以下とすることが好ましい。
【0073】
[Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下]
Ca、Mg、REMおよびZrは、いずれも鋼中の介在物の微細分散化に寄与し、曲げ性をさらに向上させるため、必要に応じてこれらの1種または2種以上を含有させてもよい。これらの元素を含有させたことに基づく効果を安定的に得るためにはこれらの元素の合計含有量を0.001%以上とすることが好ましい。しかし、これらの元素を過剰に含有すると表面性状が劣化する。したがって、Ca、Mg、REMおよびZrからなる群から選ばれる1種または2種以上を含有させる場合には、これらの元素の含有量をそれぞれ0.01%以下とすることが好ましい。
【0074】
[B:0.01%以下]
Bは、粒界からの核生成を抑え、焼き入れ性を高めて高強度化に寄与する。したがって、必要に応じてBを含有させてもよい。Bを含有させたことに基づく効果を安定的に得るためにはその含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。ただし過剰に含有しても効果が飽和する。したがって、Bを含有させる場合には、その含有量を0.01%以下とすることが好ましい。
【0075】
[Bi:0.0001〜0.05%]
Biは、その含有によって凝固組織が微細化し、例えば高強度化のためMnを多量に含有させても組織が均一となり、曲げ性の劣化が抑制される。したがって、所望の曲げ性を確保するために、含有させてもよい。Biを含有させたことに基づく効果を安定的に得るためにはその含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。ただし、Bi含有量が0.005%を超えると曲げ加工性が飽和するため、Biを含有させる場合であっても、その含有量を0.005%以下とすることが好ましい。
【0076】
(2)基材鋼板に係るその他の構成
基材鋼板は、熱間圧延鋼板でも冷間圧延鋼板でも構わない。また熱間圧延、冷間圧延等に係る条件も、所望の機械特性その他の性能が得られるように適宜選択されればよい。
【0077】
7.めっき除去後の基材界面に占めるSi系酸化物
別の観点から、本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき皮膜を溶解除去した後の基材表面に占めるSi系酸化物(Siを含有する酸化物)の占有率が70面積%以下である。このような溶融亜鉛めっき鋼板は不めっきが抑制され、めっき外観が良好である。さらに、Si系酸化物の占有率を20面積%以下とすれば、良好な外観及び合金化処理性が安定して得られるので好ましい。
【0078】
後述する実施例で詳細に示すように、本発明に係る酸処理工程を経て製造されたGA(以下、「本発明GA」という。)と該酸処理工程を経ずに製造されたGA(以下、「従来GA」という。)とでは、めっき皮膜除去後の基材鋼板表面におけるSi系酸化物の占有率が異なる。していない場合を比較するとその占有率が明らかに異なる。
【0079】
従来GAでは、めっき除去後の基材表面はそのほぼ全面がSi系の酸化物により覆われているのに対し、不めっきのない本発明GAでは、めっき除去後の基材表面におけるSi系の酸化物は、基材表面を全面に覆うように存在するのではなく基材鋼板の結晶粒界部分に分散して存在する。これは、前述したように、酸処理工程を経ることによって後続の還元焼鈍工程においてもSi系の酸化物が基材表面に濃化していなかったことが影響していると考えられる。
【0080】
また、酸処理工程の水系酸性液状組成物に水溶性Fe含有物質および/または硝酸物質が含まれていると、上記のSi系酸化物の占有率はさらに小さくなる傾向がある。
【実施例】
【0081】
本発明を、実施例を参照しながらより具体的に説明する。
表3に示す組成の鋼スラブを1200℃に加熱し、仕上げ熱延温度900℃となるよう熱間圧延し、巻取温度550℃で巻き取った。熱延鋼板の厚みは3mmとした。次いでこの熱延鋼板を酸洗した後、これを板厚1.6mmまで冷間圧延し、この冷間圧延鋼板を本実施例の基材とした。
【0082】
【表3】

【0083】
この基材鋼板を、後述のめっきされる領域が200×100mmとなるような大きさに切りだした後、アルカリ洗浄液(朝日化学工業(株)製アサファインC−4Sを5体積%含有、70℃)でスプレー洗浄し、水洗、乾燥した。
【0084】
続いて、基材鋼板に表4に記載の処理液組成で、バーコータで鋼板表面の液膜厚が約5μmになるよう塗布した後、60℃で乾燥させた。
【0085】
【表4】

【0086】
さらに、これらの基材鋼板に対して、溶融亜鉛めっきシミュレータ((株)レスカ製)を用いて、還元焼鈍および溶融亜鉛めっきを施した。還元焼鈍の雰囲気は2%水素−窒素とし、加湿窒素を用いて、加熱開始から保持温度までの雰囲気の露点を種々変更した。また、保持温度から冷却後の550℃〜めっき直前における露点は、−35℃とした。めっき浴は0.13%Al-Zn浴とし、基材鋼板をめっき浴に浸漬後引き上げて窒素ガスでのワイピングで付着量を調整した。なおめっき浴温度は460℃、鋼板の侵入温度は480℃とした。これにより、めっき付着量が約50g/mのGIサンプルを作成した。
【0087】
得られたサンプルを用いて、以下の項目を調査した。
【0088】
[めっき外観]
得られたGIのめっき面を観察し、不めっき部の存在状態により以下の基準で評価し、「△」および「○」を合格と判定した。
○(優)…最大径0.5mm以上の不めっき部が観察されない、
△(良)…最大径0.5mm以上の不めっき部が10個所未満、
×(不良)…最大径0.5mm以上の不めっき部が10か所以上。
【0089】
[合金化処理性]
GIを500℃の溶融塩に浸漬し、合金化度が約10質量%となる時間を測定して以下の基準で評価し、「△」および「○」を合格と判定した。
○(処理性良好):60秒間未満、
△(処理性やや良好):60秒間以上120秒間未満、
×(処理性不良):120秒間以上。
【0090】
[耐パウダリング性]
前記の溶融塩浸漬により合金化度を約10質量%としたGAサンプルを用いて、円筒絞り成形後の成形サンプル側壁のめっき剥離状況により評価した。
円筒絞り条件および評価基準(「△」および「○」を合格と判定した。)は、以下のとおりである。
(円筒絞り条件)
ブランク直径:90mm、
絞り高さ:25mm、
潤滑油:一般防錆油(Nox−Rust550HN;パーカー興産(株))
(評価基準)
○:パウダリング剥離量が50mg未満。
△:パウダリング剥離量が50mg以上100mg以下、
×:パウダリング剥離量が100mg超、
【0091】
[Si系酸化物の占有率]
前記の溶融塩浸漬により合金化度を約10%としたGAサンプルについて、インヒビター(朝日化学工業(株) 700BK)を3ml/L含有する10%塩酸を用いて、めっき皮膜を溶解除去した。残った基材鋼板を水洗乾燥したのち、FE−SEMにてめっき除去後の基材の表面を観察(加速電圧8kV 二次電子像)し、Si系酸化物の占有率を評価した。
【0092】
FE−SEMでの観察像の例を図2に示す。
図2(a)および(b)は、それぞれ表5のNo.22、No.18について、めっき除去後の基材表面を観察したものである。図2で黒っぽく観察される個所をEDXで分析すると、Si系(Al、Mn等も含む)の酸化物であったことから、視野中にこのように黒っぽく観察される面積割合を、Si系酸化物の占有率とした。なお、図2(a)では占有率を95%、図2(b)では15%と評価した。
【0093】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼中成分の含有量として、質量%で、Si:0.1%以上3.0%以下、Mn:0.5%以上4.0%以下およびsol.Al:3.0%以下を満足する鋼板を基材とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
めっき前の基材鋼板を、ヒドロキシ酸、そのイオン、およびその塩、ならびに水中でこれらを形成可能な物質からなる群から選ばれるヒドロキシ酸化合物をヒドロキシ酸換算液中濃度で0.5質量%以上含有する水系酸性液状組成物と接触させる酸処理工程と、
前記酸処理工程を経た基材鋼板を、水素の含有量が1〜40体積%の還元性雰囲気中で700℃以上に加熱することを含む還元焼鈍工程と、
該加熱工程に引き続き、基材鋼板に溶融亜鉛めっきを施す溶融亜鉛めっき工程と、
を備える、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記水系酸性液状組成物は、FeおよびFeイオンの少なくとも一方を含む水溶性物質をFe換算液中濃度として0.01質量%以上含有するものである、請求項1記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記水系酸性液状組成物は、硝酸または硝酸イオンを含む物質を硝酸換算液中濃度として0.1質量%以上含有するものである、請求項1または2記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記還元焼鈍工程において、前記鋼板が700℃以上の温度域にあるときには前記雰囲気の露点を−15℃以上とすることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
鋼中成分の含有量として、質量%で、Si:0.1%以上3.0%以下、Mn:0.5%以上4.0%以下、sol.Al:3.0%以下を満足する鋼板を基材とする溶融亜鉛めっき鋼板であって、めっき皮膜を溶解除去した後の基材表面に占めるSi系酸化物の占有率が70面積%以下である、溶融亜鉛めっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−224887(P2012−224887A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91410(P2011−91410)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】