説明

溶融塩電池

【課題】電解質の固化前後において充電容量の低下を抑制することのできる溶融塩電池を提供する。
【解決手段】溶融塩電池は、正極活物質2と、導電助剤3と、集電体5と、バインダ4と含む。導電助剤3としては導電性繊維が用いられている。導電性繊維の長さは0.1μm以上とされる。例えば、導電助剤3として、長さが0.1μm〜50μmのカーボンファイバー(導電性繊維)が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電可能な溶融塩電池に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融塩電池として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。ナトリウム硫黄電池では、負極活物質としてナトリウムが用いられ、正極活物質として硫黄が用いられている。電池の充放電を行うときには300℃以上に加熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−030738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ナトリウム硫黄電池の動作温度が高いことから比較的低い温度で動作する溶融塩電池が研究されている。この種の溶融塩電池の正極は、正極活物質と、導電助剤と、集電体と、バインダとを備え、導電助剤を介して正極活物質に発生する電子を集電体に集める。充放電するときは、溶融塩電池を溶融塩の融点以上に加熱する。溶融塩電池を使用しないときは加熱を停止する。通常、溶融塩を一旦加熱したあとは溶融塩の温度を所定温度に維持するが、例えば、省エネ等の観点から充放電を行わないときには溶融塩の加熱を停止させる。このような使用態様について溶融塩電池を評価したところ、溶融塩の固化後の充電容量が固化前の溶融塩電池の充電容量より小さくなることが明らかとなった。
【0005】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電解質の固化前後において充電容量の低下を抑制することのできる溶融塩電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記目的を達成するための手段およびその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、正極活物質と、前記正極活物質の電子を伝達する導電助剤と、前記電子を集める集電体と、前記正極活物質と前記導電助剤とを結合するバインダとを備え、電解質としての溶融塩を含有する溶融塩電池であって、前記導電助剤の少なくとも一部が導電性繊維であることを要旨とする。
【0007】
導電助剤は、正極活物質と集電体との間に介在して両者を電気的に接続する導電経路を形成する。これにより、正極活物質から集電体に電子を移動させる。導電助剤として粒状または粉状のものを用いている場合、多数の導電助剤が連続して繋がることにより、正極活物質と集電体との間に電子が移動する導電経路を形成する。このような導電経路は、多数の接点を有する。
【0008】
このような正極を有する溶融塩電池の場合、電解質の固化により、電解質の固化前後において充電容量が低下する。これは、電解質の固化または固化後の電解質の液化により上記導電経路の接点部分で導電助剤同士が離間すること、またこの離間が電解質の液化によっても元の接触状態に戻らないことに起因する。そして、導電助剤同士の接続が切断されると、正極活物質と集電体とを電気的に接続する経路が少なり、正極の内部抵抗が増大する。これにより溶融塩電池の充電容量が低下する。
【0009】
なお、導電助剤同士の再接触による導電経路の復元がないことは、次のように考えられる。すなわち、固化前の接続状態と同じ状態で導電助剤同士が再接続することがない理由は、導電経路の接点で導電助剤同士が離間したときに離間部分に電解質が入り込むことに起因すると考えられる。
【0010】
これに対して、上記構成の正極では、導電助剤として導電性繊維を用いることにより、導電助剤として粒状または粉状の導電体を用いているものと比べて導電経路における導電助剤同士の接点の数を少なくしている。このため、電解質の固化による導電経路での切断を抑制することができる。これによって、電解質の固化前後における充電容量の低下を抑制することができる。
【0011】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の溶融塩電池において、前記導電性繊維の長さが0.1μm以上50μm以下であることを要旨とする。
導電性繊維の長さが0.1μm未満のとき、電解質の固化前後における充電容量低下を抑制する効果が殆ど生じない。この点、本発明では、上記構成とするため、電解質の固化前後における充電容量低下の抑制効果を、導電性繊維の長さを0.1μm未満とする構成の場合と比べて、より大きくすることができる。
【0012】
一方、導電性繊維の長さが50μmを超えると、正極の製造工程において導電性繊維の密度にばらつきが生じ、正極活物質との接触が減少する部分が形成されるため、正極において内部抵抗のばらつきが生じる。この点、上記構成では、導電性繊維の長さを50μm以下とするため、50μmより大きい導電性繊維を用いて形成した正極と比べて、正極の内部抵抗を均一にすることができる。
【0013】
また、導電性繊維が50μmを超える場合には、正極と負極間の短絡が起きやすくなる問題も発生する。特に、集電体の厚さを50μmから200μmの範囲にして高容量密度化を図った場合には、正極から突き出た導電性繊維がセパレータを超えて負極に達することがあるため、短絡が起きやすい。導電助剤の長さを50μm以下とすることにより、正極と負極間の短絡を抑制することができる。
【0014】
さらに、導電性繊維は1.0μm以上50μm以下とすることが好ましい。この場合、導電助剤の長さが1.0μm未満の導電性繊維を用いる場合と比べて、導電経路における接点数を少なくすることができるため、電解質の固化前後における充電容量低下の抑制効果をより大きくすることができる。
【0015】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の溶融塩電池において、前記溶融塩は室温以上の融点を有していることを要旨とする。
一般に溶融塩電池は、従来構造のリチウム2次電池よりも長寿命である。以下、この点について簡単に説明する。
【0016】
リチウム2次電池では、電解質として有機電解質やポリマー電解質、およびイオン液体(例えば、有機分子塩が主体であり、室温で液体の溶融塩にリチウム塩を溶解させた電解質)が用いられている。この種の2次電池の課題としては、電解質の電気化学的安定性に欠けるため、電池寿命が比較的に短いという問題点がある。すなわち、有機系の電解質は正極活物質の強い酸化反応や負極活物質表面での強い還元作用に対して劣化しやすく、活物質の界面で分解するため、これにより活物質を高抵抗にする。そして、これが要因となって電池寿命を低下させる。これに対して、無機分子を主成分とする溶融塩は、正極活物質の強い酸化反応や負極活物質表面での強い還元作用に対して劣化しにくく、電解質の電気化学的に安定しているため、溶融塩電池では、電池のサイクル寿命、および長期使用での安定性が確保される。
【0017】
ところが、電解質の融点が室温以上である溶融塩電池では、使用環境または使用方法によっては電解質の固化と溶融が頻繁に繰り返されることが想定される。この場合は、上記理由により電池寿命が短くなるおそれがある。すなわち、溶融塩電池の耐サイクル性、および長期使用での安定性が損なわれるおそれがある。
【0018】
この点、溶融塩電池に上記本発明の構成を適用すると、電解質の固化に起因する充電容量の低下を抑制することができるため、溶融塩電池の電池寿命および長期使用での安定性を維持することができる。
【0019】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶融塩電池において、前記溶融塩は、R1、R2はそれぞれ独立してフッ素またはフルオロアルキル基を示すものとして、N(SOR1)(SOR2)のアニオンと、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方のカチオンとを含む塩であることを要旨とする。
【0020】
この種の溶融塩の溶融温度は250℃以下であるため、溶融塩電池の動作温度を低くすることができる。また、他の溶融塩と比べて、溶融塩の溶融温度と動作温度との差が小さいため、溶融塩電池の寿命の低下を抑制することができる。
【0021】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶融塩電池において、前記集電体は、厚さが50μm以上200μm以下で、かつ気孔径が10μm以上50μm以下の導電性多孔質シートであることを要旨とする。
【0022】
この発明によれば、気孔内に正極活物質を充填することができるため、正極活物質と集電体との間の距離を所定距離以内に制限することができる。さらに、気孔の大きさと導電助剤の長さとを略同じ範囲内に設定するため、正極活物質と集電体との間の導電経路における接点数を制限することができる。すなわち、単位体積あたりの接点数を少なくすることができ、電解質の固化前後における導電経路の切断率を低下させることができる。これにより、電解質の固化前後における充電容量低下の抑制効果をさらに大きくすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電解質の固化前後において充電容量の低下を抑制することのできる溶融塩電池を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態の正極について、その断面構造を示す断面図。
【図2】比較構造の正極について、その断面構造を示す断面図。
【図3】本実施形態の正極および比較構造の正極について、導電経路を模式的に示す模式図。
【図4】実施例および比較例について、試験前後の充電容量を示すテーブル。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1〜図4を参照して本発明の一実施形態を説明する。
以下、溶融塩電池の構成について説明する。
溶融塩電池は、正極と、負極と、正極および負極との間に配置されるセパレータと、正極および負極およびセパレータを収容する収容ケースとを備える。収容ケース内には溶融塩が満たされている。
【0026】
収容ケースは、正極に接続される正極ケースと、負極に接続される負極ケースと、正極ケースと負極ケースとの間を封止する封止部材と、負極を正極の方向に押圧する板ばねとにより構成されている。封止部材はフッ素系の弾性部材により形成されている。正極ケースおよび負極ケースはアルミニウム合金により形成されている。
【0027】
溶融塩としては、例えば、下記の式(1)で示されるアニオン(以下、「FSA」)とナトリウムカチオンとカリウムカチオンとを含むもの(以下、NaFSA−KFSA)が用いられる。NaFSAとKFSAとの組成割合は45mol%、55mol%とされる。このような組成のときNaFSA−KFSAの融点は約57℃となる。
【0028】
【化1】

【0029】
・R1およびR2はそれぞれF(フッ素)を示す。なお、この溶融塩に代えて、Fおよびフルオロアルキル基により構成される群から任意に選択される2つの基をR1とR2としたものを溶融塩として用いることもできる。例えば、溶融塩として、上記式(1)においてR1およびR2をCF3に置換した塩(以下、「TFSA」)またはR1をFとしR2をCF3に置換した塩が挙げられる。また、上記の式(1)においてR1およびR2を独立にFまたはフルオロアルキル基に置換したものの群から選択される複数のアニオンを含む溶融塩が挙げられる。
【0030】
また、NaまたはKをカチオンとする溶融塩に限定されない。アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群から選択される1種または複数種をカチオンとして溶融塩を構成することができる。
【0031】
アルカリ金属としては、Li、Na、K、RbおよびセシウムCsから選択することができる。また、アルカリ土類金属としては、Mg、Ca、SrおよびBaから選択される。例えば、FSAをアニオンとする溶融塩の単塩としては、LiFSA、NaFSA、KFSA、RbFSA、CsFSA、Mg(FSA)、Ca(FSA)、Sr(FSA)およびBa(FSA)が挙げられる。また、これらの混合物を溶融塩として用いることができる。
【0032】
TFSAをアニオンとする溶融塩の単塩としては、LiTFSA、NaTFSA、KTFSA、RbTFSA、CsTFSA、Mg(TFSA)、Ca(TFSA)、Sr(TFSA)およびBa(TFSA)が挙げられる。また、これらの混合物も溶融塩電池の溶融塩とされる。
【0033】
負極としては、例えば、Sn−Na合金が用いられる。負極の芯部はSnであり、表面がSn−Na合金となっている。Sn−Na合金は、メッキでSn金属にNaを析出させることにより、形成される。
【0034】
セパレータは、正極と負極とが接触しないように両極を隔離するものであり、溶融塩を通過させる。具体的には、厚み200μmのガラスクロスがセパレータとして用いられている。
【0035】
図1を参照して、正極1の構成について説明する。
正極1は、正極活物質2と、正極活物質2に発生した電子を伝達させる導電助剤3と、電子を集める集電体5と、正極活物質2と導電助剤3とを結合するバインダ4とを備えている。
【0036】
正極活物質2としては、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO)の結晶粒子の塊(以下、「結晶粒子塊」)が用いられている。結晶粒子塊は、複数の亜クロム酸ナトリウムの結晶粒子が集まって互いに結合したものである。亜クロム酸ナトリウムの結晶粒子の粒径(直径)は0.05μm〜1.0μmにある。結晶粒子塊の粒径(直径)は、製造過程の粉砕工程において、0.1μm〜数十μmの大きさにされる。
【0037】
導電助剤3としては、直径が0.5nm〜70nm、長さが1.0μm〜50μm、直径と長さとの比が15〜10にあるカーボンファイバー(導電性繊維)が用いられる。例えば、昭和電工株式会社により提供されているカーボンファイバーが用いることができる。なお、導電助剤3の構成としては、カーボンファイバーのみであることには限定されず、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラッシーカーボン等が混合されていてもよいが、カーボンファイバーの含有量は少なくとも50体積%以上であることが好ましい。
【0038】
バインダ4としては、ポリフッ化ビニリデンが用いられる。なお、導電助剤3と正極活物質2を接着するものあって加熱下の上記溶融塩中で腐食しないものであれば、バインダ4として用いることができる。
【0039】
集電体5としては、アルミニウム多孔質シート(導電性多孔質シート)が用いられる。アルミニウム多孔質シートは、例えば、気孔率が70〜99%であり、気孔径が10μm以上50μm以下のものが用いられる。また、厚さは50μm以上200μm以下とすることが好ましい。なお、アルミニウム多孔質シートの気孔は連通気孔である。
【0040】
次に、正極1の内部構造について説明する。
導電助剤3は、正極活物質2と集電体5との間に介在し、両者を電気的に接続する。例えば、一の導電助剤3は、正極活物質2と集電体5とに接して両者を電気的に接続する。また、他の導電助剤3は、別の導電助剤3を介して正極活物質2と集電体5とを接続する。このように、導電助剤3は、比較的少ない個数で正極活物質2と集電体5とを接続する。すなわち、上記導電助剤3により形成される導電経路LCは、粒状または粉状の導電体により形成される導電経路LCよりも、導電経路LCにおける導電助剤3同士の接点の数が少ない。このため、この正極が、電解質の固化および溶解が繰り返される条件下におかれたとき、この条件により生じる導電経路LCの切断頻度は、粒状または粉状の導電助剤を用いた正極が同条件に置かれる場合と比較して、低くなる。
【0041】
また、導電助剤3は、導電助剤3同士が互いに接することにより、アルミニウム多孔質シートの気孔内に、導電経路LCからなる導電ネットワークを形成し、この導電ネットワークの小空間内に正極活物質2を取り込む。すなわち、導電助剤3同士が絡まりやすい状態におかれている。このため、電解質の固化および溶解が繰り返される条件下に正極がおかれるとき、導電助剤3同士がより絡まるためまたは導電助剤同士が固化前とは異なる部分で互いに接触しあうため、導電ネットワークの接点数を減少させずに異なる形態で導電ネットワークが維持される。これにより、固化前後における導電助剤同士の接点数の減少を抑制する。
【0042】
次に、正極1の製造方法について説明する。
まず、正極活物質2としてのNaCrOと、導電助剤3と、バインダ4と、溶媒としてのN−メチル−2−ピロリドンとを、質量比で85:10:5:50の割合で混ぜ合わせ、スラリを形成する。次に、アルミニウム多孔質シートにスラリを充填し、これを乾燥した後、1000kgf/cm(9.8×10Pa)にてプレスする。以上のようにして、正極1が形成される。
【0043】
図2を参照して、比較構造の溶融塩電池の構造について説明する。
比較構造の溶融塩電池は、上記実施形態の溶融塩電池に対して導電助剤の形態が異なる。導電助剤30として、粒状のカーボンブラックが用いられている。カーボンブラックのサイズは、例えば、平均径で10nm〜1000nmとされる。
【0044】
この種の正極1では、多数の導電助剤30が連続して繋がることにより導電経路LCを形成する。このため、導電経路LCは、上記実施形態の正極1に比べて、多数の接点を有する。
【0045】
図3を参照して、実施形態の正極構造と比較溶融塩電池の正極構造とを比較する。
図3(A)は実施形態の正極1における導電経路LCを示す。
正極活物質2と集電体5とは、2本の導電助剤3により電気的に接続されている。すなわち、導電経路LCには、正極1内に浸漬する電解質の相変化すなわち固体から液体への変化または液体から固体への変化により、切断される部分はない。
【0046】
図3(B)は比較溶融塩電池の正極における導電経路LCを示す。
正極活物質2と集電体5との間には、複数の導電助剤30が介在する。そして、これら導電助剤30が連続して繋がることにより、正極活物質2と集電体5とが電気的に接続される。すなわち、導電経路LCには、同図の矢印に示すように、導電助剤30同士が接触する接点が複数存在する。このような接点は、正極1内に浸漬する電解質の相変化すなわち固体から液体への変化または液体から固体への変化により離間する可能性がある。そして、当該接点で導電助剤30同士が離間すると、その後、元の状態と完全に同じ状態に戻ることは殆どない。
【0047】
図4を参照して、実施形態の溶融塩電池と比較構造の溶融塩電池について、電解質の固化前後における充電容量の変化について説明する。なお、実施例は、実施形態の溶融塩電池の例であり、比較例は比較構造の溶融塩電池を示す。
【0048】
[実施例の溶融塩電池]
・溶融塩電池の構造は、上記実施形態に示した溶融塩電池と同じ構造とした。
・正極活物質量(NaCrO)は1.2mg/cmとした。
・正極の厚みは0.05mmとした。
・導電助剤3として、平均径が10nm、平均長さが15μmである昭和電工株式会社製のカーボンファイバーを用いた。平均径および平均長さについては、倍率15000として電子顕微鏡により撮像した画像から任意に選択した100本の試料について計測し、これら値に基づいて算出した。
【0049】
[比較例の溶融塩電池]
・溶融塩電池の構造は、導電助剤を除き、上記実施形態に示した溶融塩電池と同じ構造とした。
・正極活物質量(NaCrO)は1.2mg/cmとした。
・正極の厚みは0.05mmとした。
・導電助剤30として、平均粒子径が35nmである電気化学工業株式会社製のカーボンブラックを用いた。平均粒子径については、倍率15000として電子顕微鏡により撮像した画像から任意に選択した100本の試料について計測し、これら値に基づいて算出した。
【0050】
[試験条件]
・各試料について、放電レート0.2C、電流密度0.02mAとして、充電容量を計測した。
・上記試験前の充電容量の計測後、次の条件によるヒートサイクル試験を行なった。ヒートサイクル試験は、低温条件を25℃、高温条件を80℃、低温維持期間を900分、高温維持期間を360分とし、低温条件下に維持したあと高温条件に維持するサイクルを1サイクルとして、50サイクル行なう。なお、低温条件では溶融塩は固体状態となり、高温条件では溶融塩は液体状態となる。
・上記試験後、試験前と同じ条件で充電容量を計測した。
【0051】
[試験結果]
・図4に示すように、比較例の溶融塩電池における試験前後の充電容量の低下率は6.6%であるのに対し、実施例の溶融塩電池における試験前後の充電容量の低下率は、1.3%となっている。すなわち、実施例の溶融塩電池は、比較例の溶融塩電池よりも、充電容量の低下率が小さい。
【0052】
[評価]
上記試験により、電解質に浸漬された状態でこの電解質が固化される状態と電解質が液化される状態とにおかれるため、正極1は膨張と収縮を繰り返す。これにより、導電経路LCに引っ張りの力または剪断の力が加わるため、導電経路LCにおいて弱い部分すなわち導電助剤3同士が互いに接する接点が、切り離される。
【0053】
比較例の溶融塩電池の場合、導電経路LCに多数の接点が存在するため、上記試験により導電経路LCが切断状態となる可能性は高い。これに対して、実施例の溶融塩電池の場合、導電経路LCに存在する接点の数が少ないため、上記試験により導電経路LCが切断される可能性は低い。一方、導電経路LCが切断されたとき、正極1極活物質と集電体5との間の抵抗が増大することに基づいて充電容量が低下する。以上によれば、実施例の溶融塩電池は、比較例の溶融塩電池に比べて、試験前後における充電容量の低下も小さいと考えられる。実際に、試験結果に示すように、実施例の溶融塩電池は、比較例の溶融塩電池に比べて、試験前後における充電容量の低下率が小さいことが確認された。
【0054】
本実施形態によれば以下の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、導電助剤3として導電性繊維を用いている。これにより、粒状または粉状の導電助剤30を用いているものと比べて、導電経路LCにおける導電助剤3同士の接点の数を少なくすることができるため、電解質の固化前後における充電容量の低下を抑制することができる。
【0055】
(2)本実施形態では、導電性繊維の長さを1.0μm以上50μm以下とする。この構成によれば、長さが1.0μm未満の導電性繊維を用いる場合と比べて、導電経路LCにおける接点数を少なくすることができるため、電解質の固化前後における充電容量低下の抑制効果をより大きくすることができる。
【0056】
また、50μmより大きい導電性繊維を用いて形成した正極1と比べて、正極1の製造工程において導電性繊維の分散状態のばらつきを少なくすることができるため、正極1面において内部抵抗を均一にすることができる。また、導電性繊維の長さを50μm以下とすることにより、正極と負極間の短絡を抑制することができる。
【0057】
(3)本実施形態では、電解液として室温以上の融点を有する溶融塩を用いている。室温(25℃)以上の融点を有するナトリウムイオン伝導性電解質の溶融塩電池においては、当該電池の使用環境または使用方法によっては電解質が固化する頻度が高くなる場合もある。このような場合においては、特に、導電助剤3として導電性繊維を採用したことの効果が顕著にあらわれる。
【0058】
(4)本実施形態では、溶融塩として、N(SOR1)(SOR2)のアニオンと、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方のカチオンとを含む塩を用いる。この種の溶融塩の溶融温度は250℃以下であるため、溶融塩電池の動作温度を低くすることができる。また、他の溶融塩と比べて、溶融塩の溶融温度と動作温度との差が小さいため、溶融塩電池の寿命の低下を抑制することができる。
【0059】
(5)本実施形態では、集電体5として10μm以上50μm以下の気孔を有するアルミニウム多孔質シートが用いられている。この構成によれば、正極活物質2と集電体5との間の距離を所定距離以内に制限されるとともに、正極活物質2と集電体5との間の導電経路LCにおける接点数が制限される。これにより、単位体積あたりの接点数を少なくすることができるため、電解質の固化前後における充電容量低下の抑制効果をより大きくすることができる。
【0060】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施形態は上記実施例にて示した態様に限られるものではなく、これを例えば以下に示すように変更して実施することもできる。また以下の各変形例は、上記各実施例についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0061】
・上記実施形態では、長さが1.0μm〜50μmである導電助剤3を用いているが、1.0μmよりも短いものを用いることもできる。具体的には、導電助剤3の長さが0.1μm以上の導電助剤3であれば、0.1μm未満の導電性粒子を導電助剤として用いる正極に比べて、電解質の固化前後における充電容量の低下を抑制することができる。
【0062】
・上記実施形態では、導電助剤3としてカーボンファイバーを挙げているが、その形態は限定されない。例えば、枝分かれする導電性繊維または導電性粒子が鎖状に強く連結したものを導電助剤3として用いることもできる。
【0063】
・上記実施形態では、導電助剤3の組成を炭素としているが、炭素に限定されず、添加物を含めてもよい。また、導電助剤3としてアルミニウムの繊維を用いることもできる。このような構成によっても、実施形態に準じた効果を奏する。
【0064】
・上記実施形態では、集電体5として、アルミニウム多孔質シートを用いているが、これに代えて、アルミニウム不職布またはアルミニウムシートを用いることもできる。この構成によっても上記実施形態に準じた効果を奏する。
【符号の説明】
【0065】
1…正極、2…正極活物質、3、30…導電助剤、4…バインダ、5…集電体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、前記正極活物質の電子を伝達する導電助剤と、前記電子を集める集電体と、前記正極活物質と前記導電助剤とを結合するバインダとを備え、電解質としての溶融塩を含有する溶融塩電池であって、
前記導電助剤の少なくとも一部が導電性繊維である
ことを特徴とする溶融塩電池。
【請求項2】
請求項1に記載の溶融塩電池において、
前記導電性繊維の長さが0.1μm以上50μm以下である
ことを特徴とする溶融塩電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の溶融塩電池において、
前記溶融塩は室温以上の融点を有している
ことを特徴とする溶融塩電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶融塩電池において、
前記溶融塩は、R1、R2はそれぞれ独立してフッ素またはフルオロアルキル基を示すものとして、N(SOR1)(SOR2)のアニオンと、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方のカチオンとを含む塩である
ことを特徴とする溶融塩電池。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶融塩電池において、
前記集電体は、厚さが50μm以上200μm以下で、かつ気孔径が10μm以上50μm以下の導電性多孔質シートである
ことを特徴とする溶融塩電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−195100(P2012−195100A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56838(P2011−56838)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】