説明

溶融塩電池

【課題】大容量且つ高エネルギー密度の溶融塩電池を提供する。
【解決手段】複数(図では6つ)の矩形平板状の負極21,21,・・21と、袋状のセパレータ31,31,・・31に各別に収容された複数(図では5つ)の矩形平板状の正極41,41,・・41とを、上下方向に沿う状態で交互に対向して横方向に並設する。負極21,21,・・21の上端部には、容器本体1の一方の側壁1Aに近い側に、電流を取り出すための矩形のタブ22,22,・・22の下端部を接合する。タブ22,22,・・22の上端部は、矩形平板状のタブリード23の下面に接合する。正極41,41,・・41の上端部には、容器本体1の他方の側壁1Bに近い側に、電流を取り出すための矩形のタブ42,42,・・42の下端部を接合する。タブ42,42,・・42の上端部は、矩形平板状のタブリード43の下面に接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩を電解質に用いた溶融塩電池に関し、より詳しくは、溶融塩を含むセパレータを正極及び負極間に介装させた溶融塩電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出を伴わずに電力を発生させる手段として、太陽光、風力等の自然エネルギーを利用した発電が促進されている。自然エネルギーによる発電では、発電量が気候、天候等の自然条件に左右されることが多いのに加えて、電力需要に合わせた発電量の調整が難しいため、負荷に対する電力供給の平準化が不可欠となる。発電された電気エネルギーを充電及び放電させて平準化するには、高エネルギー密度・高効率で大容量の蓄電池が必要とされ、このような条件を満たす蓄電池として、電解質に溶融塩を用いた溶融塩電池が着目されている。
【0003】
溶融塩電池は、例えば、ナトリウムの化合物からなる微粒子状の活物質を集電体に含ませてなる正極と、錫等の金属を集電体にメッキしてなる負極との間に、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のカチオンとフッ素を含むアニオンとからなる溶融塩を含浸させたセパレータを介装させた発電要素を備える。このような溶融塩では、リチウムイオン電池に用いられる油性の非水電解質とは対照的に、カチオンのフリーイオンの密度が桁違いに大きいため、正極及び負極の活物質の厚さを大きくして大容量化することが可能である。
【0004】
溶融塩電池の一種であるナトリウム硫黄電池では、単電池を大型化して大容量化する試みがいくつもなされている(例えば特許文献1参照)。また、特許文献2では、ナトリウム硫黄電池の平板型の単電池を積層することにより、省スペース性を高めた積層型の溶融塩電池を得る技術が開示されている。
【0005】
一方、リチウムイオン電池の場合には、電解液の電導度が低いため、大電流を取り出すためには、正極及び負極の面積が大きいことが必要となる。このため、セパレータを介して正極及び負極をロール状に巻回した形状が一般的であり、その中でも、薄い金属箔を集電体として、これに活物質を付着せしめてなる薄い電極が有効とされる。例えば、特許文献3には、厚さ1〜100μmのアルミニウム箔を用いた、高出力、高エネルギー密度の非水系二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−253289号公報
【特許文献2】特開2004−103422号公報
【特許文献3】特開昭60−253157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、液体の硫黄を正極の活物質とするナトリウム硫黄電池とは異なり、正極の活物質が微粒子状の固体である溶融塩電池では、カチオンが正極の活物質の深層に拡散し難いために、電極の厚さを増すにも限度があって、特許文献1に開示された大型化の技術が適用し難い。また、特許文献2に開示された技術では、単電池ごとに個別の電池容器が必要になることから、省スペース性に自ずと限度があった。更に、特許文献3に開示された技術では、直方体状の電池容器にロール状の電極を収容した場合の収容効率が悪く、微粒子状の活物質を含む正極をロール状に加工すること自体にも問題があった。
【0008】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大容量且つ高エネルギー密度の溶融塩電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る溶融塩電池は、溶融塩を含んでなるセパレータを正極及び負極間に介装させた溶融塩電池において、前記セパレータ、正極及び負極を夫々複数備え、正極及び負極を交互に積層してあり、正極同士及び負極同士を並列的に接続してあることを特徴とする。
【0010】
本発明にあっては、正極及び負極の厚さを薄くして交互に積層する。これにより、単位体積あたりの正極及び負極の表面積が大きくなって、充放電の時間率が大きくなった場合であっても、容量密度の低下が抑制される。
また、積層した正極同士及び負極同士を並列的に接続するため、電池電圧が変わらずに電池容量が増大する。
【0011】
本発明に係る溶融塩電池は、前記正極の厚さは、0.1mm〜5mmであることを特徴とする。
【0012】
本発明にあっては、正極の厚さが0.1mm〜5mmであるため、正極の厚さ及び枚数の積を一定にした場合、後述するように、充放電の時間率が0.1C程度より小さいときに、正極の厚さの変化に対する容量密度の変化が、ほぼ1.5〜2.5倍以内に抑えられる。
正極の厚さが5mmより厚い場合、充放電の時間率が0.1Cより大きくなるほど容量密度の低下が著しくなる。また、正極の厚さが0.1mmより薄い場合、実用的な正極の枚数を超えるものとなる。
【0013】
本発明に係る溶融塩電池は、前記正極の厚さは、0.5mm〜2mmであることを特徴とする。
【0014】
本発明にあっては、正極の厚さが0.5mm〜2mmであることが好ましい。正極の厚さが0.5mmより薄い場合、容量密度の増加が頭打ちとなる一方で、電極の枚数が増加することによるデメリットが増す。また、正極の厚さが2mmより厚い場合、充放電の時間率を0.5Cより小さくする必要が生じる。
【0015】
本発明に係る溶融塩電池は、前記セパレータは、袋状に形成してあり、前記正極を袋中に各別に収容してあることを特徴とする。
【0016】
本発明にあっては、正極を袋状のセパレータに収容してあるため、積層した正極及び負極の積層方向と交差する方向の重なりにずれが生じた場合であっても、正極が負極から確実に絶縁される。
また、正極が負極と共に電池容器に収容された場合、導体からなる電池容器と負極が電気的に導通したときであっても、電池容器を介して正極及び負極間が短絡することが未然に防止される。
【0017】
本発明に係る溶融塩電池は、前記セパレータ、正極及び負極を収容する電池容器と、該電池容器内の前記正極及び/又は負極側に押圧部材とを備え、該押圧部材で前記電池容器の内側から前記正極及び/又は負極を押圧するようにしてあることを特徴とする。
【0018】
本発明にあっては、押圧部材が、該押圧部材に対向する正極及び/又は負極を電池容器の内側から押圧するため、積層した正極及び負極の積層方向と交差する方向の重なりにずれが生じるのを防止する。また、正極及び負極が充放電によって厚さ方向(積層方向)に伸縮した場合であっても、セパレータに対する正極及び負極からの押圧力の変化が、押圧部材の弾性力によって抑制されるため、充放電に伴う正極及び負極での反応が安定することによって充放電が安定する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、正極及び負極の厚さを薄くして積層し、正極同士及び負極同士を並列的に接続するため、単位体積あたりの正極及び負極の表面積が大きくなって、充放電の時間率が大きくなった場合であっても、容量密度の低下が抑制されると共に、電池電圧が変わらないまま電池容量が増大する。
従って、大容量且つ高エネルギー密度の溶融塩電池とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1に係る溶融塩電池の要部構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】積層した発電要素の構成を模式的に示す横断面図である。
【図3】Aは本発明の実施の形態1に係る溶融塩電池の構成を模式的に示す上面図、Bは同溶融塩電池の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図4】正極活物質に対してナトリウムイオンが移動する様子を模式的に示す説明図である。
【図5】ナトリウムイオンが正極に挿入される部分を模式的に示す説明図である。
【図6】正極を厚さ方向に複数枚に分割した場合の容量密度を示す図表である。
【図7】Aは本発明の実施の形態2に係る溶融塩電池の構成を模式的に示す上面図、Bは同溶融塩電池の構成を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1に係る溶融塩電池の要部構成を模式的に示す斜視図、図2は積層した発電要素の構成を模式的に示す横断面図、図3のAは本発明の実施の形態1に係る溶融塩電池の構成を模式的に示す上面図、Bは同溶融塩電池の構成を模式的に示す縦断面図である。
【0022】
本発明の溶融塩電池では、複数(図では6つ)の矩形平板状の負極21,21,・・21と、袋状のセパレータ31,31,・・31に各別に収容された複数(図では5つ)の矩形平板状の正極41,41,・・41とが、上下方向に沿う状態で交互に対向して横方向に並設されている。負極21、セパレータ31及び正極41が1つの発電要素を構成し、本実施の形態では5つの発電要素及び1つの負極21が積層されて直方体状の電池容器10内に収容されている。
【0023】
電池容器10は、上面に開口部1Eを有する容器本体1と、容器本体1の開口部1Eの内周に形成された段部1Gに内嵌されて開口部1Eを塞ぐ矩形平板状の蓋体(図示せず)とを有している。容器本体1は、平面視で短辺側に位置する2つの側壁1A,1Bと、長辺側に位置する2つの側壁1C,1Dと、底壁1Fとを備えている。電池容器10はアルミニウム(以下、単にアルミという)合金からなり、電池容器10の内側はフッ素樹脂コーティングによって絶縁処理が施されている。
【0024】
負極21,21,・・21の上端部には、容器本体1の短辺側に位置する一方の側壁1Aに近い側に、電流を取り出すための矩形のタブ(導線)22,22,・・22の下端部が接合されている。タブ22,22,・・22の上端部は、矩形平板状のタブリード23の下面に接合されている。正極41,41,・・41の上端部には、容器本体1の短辺側に位置する他方の側壁1Bに近い側に、電流を取り出すための矩形のタブ42,42,・・42の下端部が接合されている。タブ42,42,・・42の上端部は、矩形平板状のタブリード43の下面に接合されている。これにより、上述した5つの発電要素及び1つの負極21が電気的に並列接続されて、電池容量が大きい溶融塩電池を構成する。
【0025】
負極21,21,・・21は、負極活物質である錫がメッキされたアルミ箔からなる。アルミは、正/負各電極の集電体に適した材料であり、且つ溶融塩に対して耐腐食性を有する。負極21,21,・・21は活物質を含めた厚さが約0.14mmであり、縦方向及び横方向夫々の寸法が、100mm及び120mmである。
正極41,41,・・41は、アルミ合金の多孔質体を集電体とし、該集電体にバインダと導電助剤と正極活物質であるNaCrO2 とを含む合剤を充填して、約1mmの板厚に形成してある。正極41,41,・・41の縦方向及び横方向夫々の寸法は、デンドライトの発生を防止するために、負極21,21,・・21の縦方向及び横方向の寸法より小さくしてあり、正極41,41,・・41の外縁が、セパレータ31,31,・・31を介して負極21,21,・・21の周縁部に対向するようになっている。尚、正極41の集電体は、例えば、繊維状のアルミからなる不織布であってもよい。
【0026】
セパレータ31,31,・・31は、溶融塩電池が動作する温度で溶融塩に対する耐性を有するフッ素樹脂の膜からなり、多孔質に且つ袋状をなすように形成されている。セパレータ31,31,・・31は、負極21,21,・・21及び正極41,41,・・41と共に、直方体状の電池容器10内に満たされた溶融塩6の液面下約10mmの位置から下側に浸漬されている。これにより、多少の液面低下が許容される。タブリード23,43は、積層された発電要素全体と外部の電気回路とを接続するための外部電極の役割を果たすものであり、溶融塩6の液面より上側に位置するようにしてある。溶融塩6は、FSI(ビスフルオロスルフォニルイミド)又はTFSI(ビストリフルオロメチルスルフォニルイミド)系アニオンと、ナトリウム及び/又はカリウムのカチオンとからなるが、これに限定されるものではない。
【0027】
上述した構成において、図示しない外部の加熱手段により、電池容器10全体が85℃〜95℃に加熱されることにより、溶融塩6が融解して充電及び放電が可能となる。
次に、溶融塩電池に対する充放電について説明する。
図4は、正極活物質に対してナトリウムイオンが移動する様子を模式的に示す説明図である。図中410は粒状の正極活物質であり、正極活物質410は、溶融塩電池の充電に伴ってナトリウムイオン60を放出し、放電に伴ってナトリウムイオン60が挿入される。
【0028】
より詳細には、溶融塩電池が放電する場合、ナトリウムイオン60が、負極21から溶融塩6を介して正極活物質410の表層410Aに挿入され、続いて内層410Bに拡散して行く。この場合、表層410Aに挿入されるべきナトリウムイオン60が、液体である溶融塩6を介して比較的速やかに表層410Aに移動するのに対し、表層410Aに挿入されたナトリウムイオン60は、表層410Aと同じ固体からなる内層410Bへ比較的穏やかに拡散する。
【0029】
一方、溶融塩電池を充電する場合、ナトリウムイオン60が、正極活物質410の表層410Aから溶融塩6を介して負極21側に放出されるに連れて、内層410Bから表層410Aに拡散して行く。この場合、表層410Aから放出されるべきナトリウムイオン60が、溶融塩6を介して比較的速やかに表層410Aから移動するのに対し、内層410Bから表層410Aへは、ナトリウムイオン60が比較的穏やかに拡散する。
【0030】
上述のとおり、充電及び放電の何れの場合であっても、正極41及び負極21間でのナトリウムイオン60の移動度は、正極活物質410の表層410A及び内層410B間におけるナトリウムイオン60の拡散速度に大きく左右される。つまり、充放電の時間率を大きくするには、正極活物質410の表面積を大きくする必要があると言える。
以上は、正極活物質410をミクロに見た場合の考察であるが、正極41全体をマクロに見た場合にも同様のことが言える。
【0031】
図5は、ナトリウムイオン60が正極41に挿入される部分を模式的に示す説明図である。ここでは、負極21は、アルミ箔からなる負極集電体21A上に、負極活物質である錫を含む錫メッキ層21Bを形成してある。正極41は、前述したように、アルミ合金の多孔質体に、バインダと導電助剤と正極活物質410とを含む合剤を充填して形成してある。
【0032】
溶融塩電池を充電した場合、正極41から放出されたナトリウムイオン60が、セパレータ31を介して負極21に移動し、負極21上でナトリウムとなって錫メッキ層21Bに含まれる錫と合金を形成する。次に、溶融塩電池を放電した場合、錫メッキ層21Bの前記合金から放出されたナトリウムイオン60が、図中矢印で示すように移動して正極41に挿入される。ここで、放電の時間率が大きい場合、図4を用いて説明した現象と同様の原理により、ナトリウムイオン60の拡散が、正極41の表層部41Aから深層部41Bにまで十分に進行しないことがある。
【0033】
具体的には、放電の時間率が一定値より大きい場合、ナトリウムイオン60が、単位時間あたりに正極41に挿入される量が、表層部41A内で拡散する量よりも多くなるため、表層部41Aに対するナトリウムイオン60の挿入が飽和状態となる。これにより、負極21から見た正極41の電圧が放電終止電圧にまで低下するため、深層部41Bの正極活物質410が放電に利用されないまま、それ以上の放電を停止させることとなる。
【0034】
一般的には、電池容量は、正極41及び負極21の活物質の量に比例して増大するが、上述した理由により、特に正極41の厚さを増して正極活物質410の量を増加させた場合は、充放電の時間率を下げる必要があり、急速な充放電が要求される用途には不向きとなる。一方の負極21の活物質は金属の錫であり、錫とナトリウムとが合金を形成するため、正極41におけるナトリウムイオン60の拡散のような問題は生じない。
【0035】
そこで、本実施の形態1では、溶融塩電池を急速な充放電に対応可能とするために、正極41の厚さを薄くして負極21と交互に積層している。
図6は、正極41を厚さ方向に複数枚に分割した場合の容量密度を示す図表である。図6における正極41は、線径が100μmの繊維状のアルミからなる不織布(単位面積あたりの重量:550g/m2 )を集電体とし、平均の粒径が約10μmのNaCrO2 を含む合剤を集電体の隙間に充填してある。電解質はFSIとナトリウム及びカリウムとからなる溶融塩である。また、図6におけるセパレータ31は、厚さが約200μmのガラスペーパからなる。負極21は、厚さが100μmのアルミ箔を集電体とし、厚さが約20μmの錫メッキ層を集電体の両面に夫々形成してある。正極41及び負極21は、約100mm角の矩形平板状をなしている。
【0036】
この溶融塩電池を90℃に加熱し、正極41の厚さと枚数との積を20mm・枚に固定しつつ、正極41の厚さを5mmから0.1mmまで段階的に変化させた。そして、正極41の厚さを変化させる都度、0.1C、0.5C及び1Cの時間率で3.5Vまで充電し、夫々の時間率で2.5Vまで放電させるサイクルを繰り返して、充電時及び放電時の容量密度(単位:mAh/g)を測定した。ここで、「C」は充放電の時間率を表す。例えば1Cとは、溶融塩電池の定格容量(Ah)に相当する電気量を1時間で供給し得る電流値(A)を意味する。
【0037】
図6に示すように、充放電の時間率が0.1Cの場合、正極41の厚さを5mmから0.5mmへと4段階に変化させたときに、充電時の容量密度が53(mAh/g。以下省略)から75に増加した。放電時の容量密度は、他の種類の電池でもそうであるように、充電時よりも若干低下する。尚、正極41の厚さを0.5mmから0.1mmへと変化させても、充放電の容量密度の増加が、0.5mmの場合と比較して頭打ちとなる傾向が見られたため、図6では記載を省略した。正極41の厚さを0.1mmより薄くして積層枚数を多くすると、実際上は、組み立ての工数、難度、コスト及び不良率が増大するだけでなく、セパレータ31と正極及び負極の集電体の枚数が増加するため、容量密度の低下を招く。
【0038】
次に、正極41の厚さを一定にして充放電の時間率を0.1Cから1Cへと3段階に変化させた場合、正極41の厚さが0.5mmのときは、充電時の容量密度が75から68までしか低下しないのに対し、正極41の厚さが1mmのときは、充電時の容量密度が75から23にまで大幅に低下した。更に、正極41の厚さが2mm及び5mmのときは、充放電の時間率が夫々0.5C及び0.1Cより大きい場合、容量密度が極端に低下する傾向が見られたため、図6では数値の記載を省略した(「−」と表示した)。
【0039】
以上の測定結果から、以下のことが言える。即ち、
(イ)充放電の時間率が0.1C程度より小さい場合、正極41の厚さを0.1mmから5mmの範囲で変化させても、容量密度の変化がほぼ1.5〜2.5倍以内に抑えられる。
(ロ)正極41の厚さが2mm及び5mmより厚い場合、容量密度の著しい低下を防止するために、充放電の時間率を夫々0.5C及び0.1Cより小さくしなければならない。
【0040】
以上のように本実施の形態1によれば、特に正極の厚さを薄くして正極及び負極を交互に積層する。これにより、単位体積あたりの正極の表面積が大きくなって容量密度が増加する。
また、積層した正極同士及び負極同士を並列的に接続するため、電池電圧が変わらずに電池容量が増大する。
従って、大容量且つ高エネルギー密度とすることが可能となる。
【0041】
また、正極の厚さ及び枚数の積を一定にした場合、充放電の時間率が0.1C程度より小さいときは、正極の厚さを0.1mm〜5mmにすることにより、正極の厚さの変化に対する容量密度の変化を、ほぼ1.5〜2.5倍以内に抑えることが可能となる。
【0042】
更にまた、正極の厚さ及び枚数の積を一定にして、正極の厚さを0.5mm〜2mmにすることにより、正極の厚さを薄くするほど容量密度を増加させることができると共に、充放電の時間率を0.5Cより大きくすることが可能となる。
【0043】
更にまた、正極を袋状のセパレータに収容してあるため、積層した正極及び負極の積層方向と交差する方向の重なりにずれが生じた場合であっても、正極の絶縁を確保することが可能となる。その上、電池容器と負極が電気的に導通した場合であっても、電池容器を介して正極及び負極間が短絡するのを防止することが可能となる。
【0044】
(実施の形態2)
実施の形態1が、セパレータ31,31,・・31を介して交互に積層された正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21をそのまま電池容器10に収容する形態であるのに対し、実施の形態2は、電池容器10の内側から正極41,41,・・41及び/又は負極21,21,・・21を押圧する形態である。
【0045】
図7のAは本発明の実施の形態2に係る溶融塩電池の構成を模式的に示す上面図、Bは同溶融塩電池の構成を模式的に示す縦断面図である。図7では、実施の形態1の図6に対して、側壁1Dと最前側の負極21との間にアルミ合金からなる平板状の押え板9が配されており、更に、側壁1Dと押え板9との間には、波板状のアルミ合金からなる板バネ8が挿設されている。板バネ8は、押え板9を後方に付勢しており、付勢された押え板9が最前側の負極21を後方に略均等に押圧する。そして、その反作用で、最後側の負極21が側壁1Cの内側から前方に略均等に押圧されるようになっている。
【0046】
上述した構成において、外部よりタブリード23に対してタブリード43に正の電圧を印加して充電した場合、ナトリウムイオン60が正極41,41,・・41からセパレータ31,31,・・31を介して負極21,21,・・21に移動し、その結果、正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21が共に膨脹する。一方、タブリード23,43間に外部の負荷を接続して放電させた場合、ナトリウムイオン60が負極21,21,・・21から正極41,41,・・41に移動し、正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21が共に収縮する。このため、正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21は、充放電に伴って体積が変化し、厚さ方向についても伸縮することになる。
【0047】
このように、充放電に伴って正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21が厚さ方向(積層方向)に伸縮する場合であっても、最前側の負極21が押え板9に及ぼす前後方向の変位が、板バネ8の前後方向の伸縮によって吸収されるため、板バネ8が押え板9を介して最前側の負極21を押圧する押圧力の変化が抑制される。
【0048】
その他、実施の形態1に対応する箇所には同様の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0049】
以上のように本実施の形態2によれば、板バネが電池容器の内側から押え板を介して負極を押圧するため、積層した正極及び負極の積層方向と交差する方向の重なりにずれが生じるのを防止することが可能となる。また、正極及び負極が充放電によって厚さ方向に伸縮した場合であっても、セパレータに対する正極及び負極からの押圧力の変化が、押圧部材の弾性力によって抑制されるため、充放電を安定にすることが可能となる。
【0050】
更にまた、板バネから与圧されて負極への押圧力を分散伝達する押え板を備えているため、負極に対する押圧力が略均等となる。従って、正極及び負極に歪み(しわ)が生じるのを防止すると共に、充放電に伴う正極及び負極での反応を略均一に進行させて、充放電を更に安定にすることが可能となる。
【0051】
尚、本実施の形態2では、押圧部材としての板バネと、伝達部材としての押え板とを用いて正極及び負極を押圧したが、これに限定されるものではなく、例えば、板状のシリコンゴムを押圧部材として用いることにより、伝達部材を省略してもよい。
【0052】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1 容器本体
21 負極
31 セパレータ
41 正極
6 溶融塩
8 板バネ(押圧部材)
9 押え板
10 電池容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩を含んでなるセパレータを正極及び負極間に介装させた溶融塩電池において、
前記セパレータ、正極及び負極を夫々複数備え、
正極及び負極を交互に積層してあり、
正極同士及び負極同士を並列的に接続してあること
を特徴とする溶融塩電池。
【請求項2】
前記正極の厚さは、0.1mm〜5mmであることを特徴とする請求項1に記載の溶融塩電池。
【請求項3】
前記正極の厚さは、0.5mm〜2mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融塩電池。
【請求項4】
前記セパレータは、袋状に形成してあり、前記正極を袋中に各別に収容してあることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の溶融塩電池。
【請求項5】
前記セパレータ、正極及び負極を収容する電池容器と、
該電池容器内の前記正極及び/又は負極側に押圧部材とを備え、
該押圧部材で前記電池容器の内側から前記正極及び/又は負極を押圧するようにしてあること
を特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の溶融塩電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−89381(P2012−89381A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235762(P2010−235762)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】