説明

溶融塩電解質を備えるリチウムイオン電池の充放電サイクル安定性の改善

本発明の実施例に係る電池の一例は正極と負極と電解質とを有する。正極は正極活物質から成り、正極面積と正極容量とを有する。負極は負極活物質から成り、負極面積と負極容量とを有する。電池は、正極面積を負極面積で除したものに等しい電極面積比と、正極容量を負極容量で除したものに等しい電極容量比とを有する。電池の一具体例では、電極面積比は少なくとも約1、及び/または電極容量比は少なくとも約1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギ貯蔵装置、特に、リチウムイオン(Li−イオン)やリチウム硫黄(Li−S) 電池等の充電式電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の使用、特に自動車での使用にとって、安全性が重要問題である。リチウムイオン電池中の従来の有機電解質は、高い蒸気圧を有し、可燃性である。溶融塩型電解質は、通常、高い融点と、低蒸気圧を有している。このため、それらは潜在的に有機電解質よりも高い安全性を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
溶融塩電解質を備えるリチウムイオン電池は、また、従来のリチウムイオン電池よりも高いエネルギまたは電力密度を有することができる。しかしながら、溶融塩電解質リチウムイオン電池の充放電サイクル安定性は深刻な問題である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本出願は、内容の全体をここに参考文献として合体させる2004年8月30日出願の米国仮特許出願No.60/605,655に基づく優先権を主張するものである。
【0005】
本発明の実施例に係る電池の一例は正極と負極と電解質とを有する。前記正極は正極活物質から成り、正極面積と正極容量とを有する。前記負極は負極活物質から成り、負極面積と負極容量とを有する。前記電池は前記正極面積を前記負極面積で除したものに等しい電極面積比を有し、この電極面積比は少なくとも約1であり、更に前記正極容量を前記負極容量で除したものに等しい電極容量比を有し、この電極容量比は少なくとも約1である。前記電解質は、電池のタイプに応じてイオン源を含む溶融塩電解質である。リチウムイオン電池の場合、前記イオン源はリチウム塩とすることができる。前記負極活物質は約1ミクロン以上の粒子サイズを有する。
【0006】
溶融塩電解質を含むリチウムイオン電池の充放電サイクル安定性は、下記の改善構成、即ち、1ミクロン以上の負極活物質粒子サイズ、正極(カソード)容量を負極(アノード)容量で除したものに等しい容量比が少なくとも約1であること、電極面積比(正極面積を負極面積で除したものに等しい)が少なくとも約1であることの1つまたは複数を使用することによって増大させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施例に係る電池の一例は正極と負極と電解質とを有する。前記正極は正極活物質から成り、正極面積と正極容量とを有する。前記負極は負極活物質から成り、負極面積と負極容量とを有する。前記電池は前記正極面積を前記負極面積で除したものに等しい電極面積比を有し、この電極面積比は少なくとも約1であり、更に前記正極容量を前記負極容量で除したものに等しい電極容量比を有し、この電極容量比は少なくとも約1である。前記電解質は、電池のタイプに応じてイオン源を含む溶融塩電解質である。リチウムイオン電池の場合、前記イオン源はリチウム塩、またはリチウムイオンのその他の源である。
【0008】
前記負極活物質は約1ミクロン以上の粒子サイズを有する。他の例では、前記負極活物質は約3ミクロン以上の粒子サイズを有するが、約3ミクロンであってもよい。前記粒子は、実質的にはサイズにおいて単分散であるか、若しくは認められるほどのサイズ分布を有するものであってよく、その場合、粒子サイズは平均(mean)サイズ等の粒子サイズ分布の平均(average)サイズである。
【0009】
電池の一例において、前記電極容量比は約1である。前記電極容量比は負極容量に対する正極容量の比である。電極の容量は、しばしば単位面積当たりのチャージ−時間積として与えられる。使用されるチャージ及び時間の単位は比の計算において重要ではない。電極の容量は単位面積当たりの容量と電極面積の積に等しい。従って、面積が類似する二つの電極の場合、容量比はそれら二つの電極の単位面積当たりの容量の比率に等しい。
【0010】
電池の一例において、前記溶融塩電解質はオニウムから成る。その他の溶融塩電解質の例も知られている。
【0011】
リチウムイオン電池の場合、前記負極活物質はチタン酸リチウム、またはリチウムイオンの授受が可能なその他の化合物から構成することができる。前記負極は、更に炭素含有材(炭素等)等の電子伝導性材とバインダとを含むことができる。前記負極は第1電子コレクタ上の配置される層の形状にすることができる。前記正極活物質も、同様にリチウムイオンイオンの授受が可能な化合物と、電子伝導性材(これは前記負極中の前記電子伝導性材と同じものであってもよいし、それと異なるものであってもよい)と、バインダとを含むことができ、第2電子コレクタ上に配置された層の形状にすることができる。
【0012】
リチウムイオン電池やその他の類似の充電式電池において、アノードという用語が従来より負極に使用され、カソードという用語が正極に使用されている。これらの用語は放電サイクル中の電池についてのみ技術的に正しいものであるが、これらの用語は文献において広く用いられているのでここでは使用することができる。電池という用語は単数または複数の電気化学セルを含む装置を指すのに使用される。
【0013】
リチウムイオン電池の一例は正極と負極とセパレータと溶融塩電解質(溶融塩を含有する電解質)と、前記正極と前記負極とをそれぞれ支持する第1及び第2電子コレクタとを有し、前記正極と負極とは、それぞれバインダと電子伝導性材と正極または負極活物質とを含む。前記両活物質は電池の充電または放電時にリチウムイオンの導入、取り出し(可逆性インターカレーション等)を許容する。負極活物質の一例は、例えば、LiTi12によって表されるチタン酸リチウムである。
【0014】
前記溶融塩電解質は、アンモニウム、ホスホニウム、オキソニウム、スルホニウム、アミジニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム等のオニウムと、PF,BF,CFSO,(CFSO)N,(FSO等の低塩基性アニオンとを含むことができる。前記溶融塩電解質は、更に、Y(−SORf)(−XRf)も含むことができ、ここで、Yは、イミダゾリウムイオン、アンモニウムイオン、スルホニウムイオン、ピリジニウム、(n)(イソ)チアゾリルイオン、そして(n)(イソ)オキサゾリウムイオンから成るグループから選択されるカチオンであり、これは、前記カチオンが−CHRfまたは−OCHRf(ここで、RfはC1−10ポリフルオロアルキル)の少なくとも1つの置換基を有し、RfとRfとがそれぞれ独立にC1−10ポリフルオロアルキルであるか、若しくは両方がC1−10ポリフルオロアルキレンであり、そしてXが−SO−または−CO−であることを条件に、C1−10アルキルまたはエーテル結合を有するC1−10アルキルによって置換することが可能である。
【0015】
但し、溶融塩電解質を有するリチウムイオン電池を充放電した時、特に高電圧カソードを有するセルの場合、連続的なガス発生が観察された。実験の結果、前記ガスは溶融塩電解質の分解から発生したものであることがわかった。そして溶融塩電解質のゆっくりとした分解によって、溶融塩電解質型リチウムイオン電池の充放電サイクル安定性が深刻な影響を受けた。従って、電解質の分解の問題を解決することが改良された電池システムの開発にとって重要である。
【0016】
図1Aは溶融塩型リチウムイオン電池の1つの可能な構造を図示している。この図は層構造体の断面図または端面図である。当該電池は第1電子コレクタ10と、負極(またはアノード)12と、電解質層14,18と、セパレータ16と、正極(またはカソード20)と、第2電子コレクタ22とを備える。前記正極は正極活物質と電子伝導性材とバインダとを含む。前記負極は負極活物質と電子伝導性材とバインダとを含む。
【0017】
図1Bは電極層中の溶融塩電解質分解の略図である。電極(40で示す部分)は活物質粒子42と電子伝導性材粒子44(図示の明瞭性のために厚い壁によって表されている)とを含む。粒子表面48等はバインダの層を支持することができる。粒子間ギャップ50等は電解質で満たされている。粒子の表面における電解質の分解はぎざぎざ形状46によって表されている。
【0018】
図1Cは負極80と正極82とを備える電池の略図である。電池のこれら電極はその長さまたは幅よりも遥かに小さな厚みを有するシートまたは層の形状である。この例において、前記負極はAとラベルされている面積84であり、前記正極は84にその一部が示されている。これら電極はほぼ互いに平行かつ離間している。一部の電池構造においてはセパレータのみが両電極を分離する。
【0019】
前記両電極の構造と、前記負極活物質の粒子サイズは充放電サイクル安定性に大きな影響を与えたが、これは溶融塩電解質の分解に関連する。
【0020】
リチウムイオン電池を使用して充放電サイクル実験を行った。これらにおいて、溶融塩電解質はエチル−1−メチル−3−イミダゾリウム−ビス−フルオロ−スルホニルイミド(EMI−FSI)から構成され、リチウムビス−トリフルオロメタン−スルホニルイミド(LiTFSI)がリチウムイオン源であった。赤外線スペクトル(図2に図示されているもののような)は、溶融塩電解質中のEMIカチオンが電池の充放電サイクル後に分解したことを示した。EMIアニオンの分解からの化合物を、XPS,GC−MS分析によって同定したところ、S=C=O,S=C=S,HC(=O)−CFと類似のフラグメントとを含んでいた。
【0021】
図2はそれぞれA,B,C及びDとして示す4つのIRスペクトルを図示している。図中の最上段のスペクトルAは充放電サイクル前のEMI−TFSI溶融塩のIRスペクトルであり、Bは充放電サイクル後のEMI−TFSI溶融塩のIRスペクトルを表し、Cはアニオン(Li−TFSI)のIRスペクトルを表し、D(図中最下段)はカチオン(EMI−BF)のIRスペクトルを表している。黒丸は電解質分解に関連するピークを示し、この分解が充放電サイクル安定性の低下の原因であると考えられる。以下の実験例において、充放電サイクル安定性不良は電池が充電と放電を通して繰返し充放電サイクルされた場合のカソード容量の低下に関連する。
【0022】
図3はLiTi12粒子サイズが互いに異なる二つのリチウムイオン電池の充放電サイクル安定性の結果を図示している。これら二つの電池は負極材料の粒子サイズを除いては同様に作成された。3μm(3ミクロン)の粒子径を有する電池は50nmの粒子径を有する電池(Bの四角によって示されるデータ)と比較して、良好な充放電サイクル安定性(Aの菱形によって示されているデータ)を示している。
【0023】
図4はアノードに対するカソードの容量比(C/A)の充放電サイクル安定性に対する影響を二つの電池、A(菱形で示すデータ)C/A=1.0とB(四角で示すデータ)C/A=0.5とについて示している。これら二つの電池は容量比を除いては同様に作製された。1.0のC/Aを有する電池はより低いC/A比を有する電池と比較して、改善された充放電サイクル安定性を示した。
【0024】
前記C/A比は正極容量を負極容量で除したものに等しい電極容量比とも称することができ、これは少なくとも約1に等しい。
【0025】
この作用についてのいかなる示唆される説明によって限定されることを望むものではないが、この作用の1つの可能な理由は、正極容量が負極容量よりも小さい場合、電池の作動中に正極において電子が増大することにある。従って、前記電極容量比が約1以上である限り性能の改善が期待される。
【0026】
図5はアノードに対するカソードの面積比(C/A)の充放電サイクル安定性に対する影響を二つの電池、A(菱形で示すデータ)C/A=1.0とB(四角で示すデータ)C/A=0.8とについて示している。これら二つの電池は面積比を除いては同様に作製された。1.0のC/Aを有する電池はより低いC/A比を有する電池と比較して、改善された充放電サイクル安定性を示した。
【0027】
前記C/A比は正極面積を負極面積で除したものに等しい電極面積比とも称することができ、これは少なくとも約1に等しい。1以上の電極面積比は正極面積が負極面積よりも大きいことを意味する。
【0028】
この作用についてのいかなる示唆される説明によって限定されることを望むものではないが、この作用の1つの可能な理由は、正極がその面積において負極よりも小さい場合、正極の外側エッジの近傍で電気力線の集中が起こることにある。従って、前記電極面積比が約1以上である限り性能の改善が期待される。1以上の電極容量比は正極容量が負極容量よりも大きいことを意味する。
【0029】
(例1)
正極を85wt%のLiCoOパウダーと、10wt%のカーボンパウダーと、5wt%のポリフッ化ビニリデンのN−メチルピロリドン溶液とを入念に混合して作製した。正極層を形成するために、前記混合スラリをドクターブレードを使用してアルミニウムホイル上に流し込み、80℃で30分間乾燥させた。この層の密度は約6mg/cmであった。コーティング面積は30cmであった。
【0030】
負極を85wt%のLiTi12パウダー(3μmの粒子サイズ)と、10wt%のカーボンパウダーと、5wt%のポリフッ化ビニリデンのN−メチルピロリドン溶液とを入念に混合して作製した。負極層を形成するために、前記混合スラリをドクターブレードを使用してアルミニウムホイル上に流し込み、80℃で30分間乾燥させた。この層の密度は約8mg/cmであった。コーティング面積は36cmであった。
【0031】
前記正極シートと、微細多孔性ポリプロピレンフィルムセパレータと、前記負極シートとを積層し、アルミ製ラミネートパック中にセットした。
【0032】
前記ラミネートパックに、ある量の溶融塩電解質を添加した。ここで、溶融塩電解質として、リチウムビス−トリフルオロメタン−スルホニルイミド(LiTFSI)を有するエチル−1−メチル−3−イミダゾリウム−ビス−フルオロ−スルホニルイミド(EMI−FSI)を使用した。前記アルミニウムラミネートパックは真空シールしてソフトパッケージ電池とした。
【0033】
(例2)
負極を85wt%のLiTi12パウダー(50nmの粒子サイズ)と、10wt%のカーボンパウダーと、5wt%のポリフッ化ビニリデンのN−メチルピロリドン溶液とを入念に混合して作製した。負極層を形成するために、前記混合スラリをドクターブレードを使用してアルミニウムホイル上に流し込み、80℃で30分間乾燥させた。この層の密度は約6mg/cmであった。コーティング面積は36cmであった。その他の詳細は例1と同じである。
【0034】
(例3)
負極を85wt%のLiTi12パウダー(50nmの粒子サイズ)と、10wt%のカーボンパウダーと、5wt%のポリフッ化ビニリデンのN−メチルピロリドン溶液とを入念に混合して作製した。負極層を形成するために、前記混合スラリをドクターブレードを使用してアルミニウムホイル上に流し込み、80℃で30分間乾燥させた。この層の密度は約8mg/cmであった。コーティング面積は30cmであった。その他の詳細は例1と同じである。
【0035】
(参照例1)
負極を85wt%のLiTi12パウダー(50nmの粒子サイズ)と、10wt%のカーボンパウダーと、5wt%のポリフッ化ビニリデンのN−メチルピロリドン溶液とを入念に混合して作製した。負極層を形成するために、前記混合スラリをドクターブレードを使用してアルミニウムホイル上に流し込み、80℃で30分間乾燥させた。この層の密度は約8mg/cmであった。コーティング面積は36cmであった。その他の詳細は例1と同じである。
【0036】
(評価条件)
電池を下記の条件下で充電及び放電した。
電流密度:0.3mA/cm
充電終了電圧:2.6V
放電終了電圧:1.5V
充放電回数:100サイクル。
【0037】
その結果は、溶融塩電極を備えるリチウムイオン電池にある種の粒子サイズのLiTi12を使用することによって電池性能が改善されることを示している。例えば、数マイクロメートルの粒子サイズを使用することができる。例えば、粒子サイズは約50nm以上、例えば、約1ミクロン、または約1ミクロン以上、例えば、約3ミクロン、または約3ミクロン以上にすることができる。
【0038】
粒子サイズが大きい方がよいのは、電解質の分解率が減少するように活性表面積が減少するためであると考えられる。
【0039】
従って、本発明の実施例に係るリチウムイオン電池の改良電極構造設計は、アノード(LiTi12等)容量に対するカソード容量の容量比(C/A)とアノード面積(例えば、ここに記載の溶融塩電解質を備える)に対するカソード面積の面積比(Ca/As)とを含み、ここで、前記容量比と前記面積比は、共に約1.0である。その他の例において、前記容量比は約1.0以上とすることができ、及び/または前記面積比は約1.0以上とすることができる。
【0040】
従って、負極物質の粒子サイズ、そして両電極の構造(例えば、アノードに対するカソードの容量比とアノードに対するカソードの面積比)によって電池サイクル性能に大きな影響を与えることができる。リチウムイオン電池等の電池のサイクル寿命を大幅に改善することができる。リチウムイオン電池(例えば、上述したLiTi12アノードと溶融塩電解質とを備えるもの)における両電極の構造と粒子サイズの改良設計によって電池のサイクル寿命を大幅に改善することができる。
【0041】
電極層の厚みを変えて電極容量を調節することができる。例えば、正極が負極よりも低い単位体積当たりの容量を有するものすれば、正極の厚み、従って、その容量をそれに応じて増大させることができる。従って、改良された電池は両電極容量をほぼ等しくするように、または正極の電極容量が負極にほぼ等しいか、または大きくなるように選択された電極厚みを有する。同様に電極の活物質の割合も、それに対応して両電極容量をほぼ等しくするように、または正極の電極容量が負極にほぼ等しいか、または大きくなるように調節することができる。厚み及び/または活物質の割合が互いに類似の正極及び負極が互いに異なる電極容量を備えるようにする場合は、電極厚み及び/または活物質の割合を調節することができる。
【0042】
本発明の例による電池は溶融塩電解質を備える。ここで溶融塩電解質という用語は、その電解質の大きな成分、例えば、電解質の50%以上として、単数または複数種の溶融塩を含む電解質をいう。溶融塩電解質は、電池の作動温度において少なくともその一部が溶融(またはその他の液体状態)状態にある単数または複数の溶融塩を含む電解質である。溶融塩電解質は、また、水性溶媒が要求されない場合には、溶融、非水性電解質として、またはイオン性液体として記載することも可能である。本発明の実施例において使用することが可能な溶融塩電解質はジャイフォードの米国特許No.4,463,071、ママントフ他の米国特許No.5,552,241、カーリン他の米国特許No.5,589,291、カージャ他の米国特許No.6,326,104、ミコットの米国特許No.6,365,301、そしてグイドッティの米国特許No.6,544,691に記載されている。
【0043】
溶融塩の具体例としては、芳香性カチオンを含むもの(イミダゾリウム塩やピリジニウム塩等)、脂肪族四級アンモニウム塩、またはスルホニウム塩がある。使用される溶融塩電解質は、アンモニウム、ホスホニウム、オキソニウム、スルホニウム、アミジニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム等のオニウムと、PF, BF, CFSO,(CFSO)N,(FSO,(CSO、Cl及びBr等の低塩基性アニオンを含むことができる。本発明の一例に使用される溶融塩電解質は、Y(−SORf)(−XRf)も含むことができ、ここで、Yはイミダゾリウムイオン、アンモニウムイオン、スルホニウムイオン、ピリジニウムイオン、(n)(イソ) チアゾリルイオン、そして(n)(イソ) オキサゾリウムイオンから成るグループから選択されるカチオンであり、これは、前記カチオンが−CHRfまたは−OCHRf(ここで、RfはC1−10ポリフルオロアルキル)の少なくとも1つの置換基を有し、RfとRfとがそれぞれ独立にC1−10ポリフルオロアルキルであるか、若しくは両方がC1−10ポリフルオロアルキレンであり、そしてXが−SO−または−CO−であることを条件に、C1−10アルキルまたはエーテル結合を有するC1−10アルキルによって置換することが可能である。
【0044】
溶融塩は芳香性カチオンを含む塩 (イミダゾリウム塩やピリジニウム塩等)、脂肪族四級アンモニウム塩、またはスルホニウム塩を含む。
【0045】
イミダゾリウム塩はジメチルイミダゾリウムイオン、エチルメチルイミダゾリウムイオン、プロピルメチルイミダゾリウムイオン、ブチルメチルイミダゾリウムイオン、ヘキシルメチルイミダゾリウムイオン、またはオクチルメチルイミダゾリウムイオン等のジアルキルイミダゾリウムイオン、または1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、または1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン等のトリアルキルイミダゾリウムイオンを有する塩を含む。イミダゾリウム塩はエチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレイト(EMI−BF)、エチルメチルイミダゾリウムトリフルオロスルホニルイミド(EMI−TFSI)、プロピルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレイト、1,2−ジエチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(DEMI−TFSI)、及び1,2,4−トリエチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(TEMI−TFSI)を含む。
【0046】
ピリジニウム塩は1−エチルピリジニウムイオン、1−ブチルピリジニウムイオン、または1−ヘキサピリジニウムイオン等のアルキルピリジニウムイオンを有する塩を含む。ピリジニウム塩は1−エチルピリジニウムテトラフルオロボレイトと1−エチルピリジニウムトルフルオロメタンスルホニイミドを含む。アンモニウム塩はトリメチルプロピルアンモニウムトルフルオロメタンスルホニイミド(TMPA−TFSI)、ジエチルメチルプロピルアンモニウムトルフルオロメタンスルホニイミド、そして1−ブチル−メチルピロリジニウムトルフルオロメタンスルホニイミドを含む。スルホニウム塩はトリエチルスルホニウムトルフルオロメタンスルホニイミド(TES−TFSI)を含む。
【0047】
カチオンのマイグレーションによって作動する二次電池において、前記電解質は通常、その電池のタイプに応じてカチオンを提供するカチオン源を含む。リチウムイオン電池の場合、前記カチオン源はリチウム塩とすることができる。リチウムイオン電池の電解質中のリチウム塩はLiPF,LiAsF,LiSbF,LiBF,LiClO,LiCFSO,Li(CFSON,Li(CSON,LiCSO,Li(CFSOC,LiBPh,LiBOB(リチウムビス(オキサレート)ボレイト)、そしてLi(CFSO)(CFCO)N等のうちの単数または複数を含む。本発明の具体例は、他のアルカリ金属または他のカチオンベースの電池等のリチウム以外のイオンを使用した充電式電池を含むことができ、その場合、適当な塩が使用される。例えば、カリウムイオン電池の溶融塩はKPFまたは他のカリウムイオン供給化合物を含むことができる。
【0048】
前記正極またはカソードの活物質はカチオン導入及び放出を許容する物質とすることができる。リチウムイオン電池の場合、前記カソード活物質はリチウム金属酸化物(リチウムと少なくとも1つのその他の金属種との酸化物)等のリチウム複合酸化物とすることができる。リチウム複合酸化物の具体例は、Li−Ni−含有酸化物(LixNiO等)、Li−Mn−含有酸化物(LixMnO,LixMn,LixNi0.5Mn1.5及びその他のリチウムマグネシウムニッケル酸化物)、及びLi−Co−含有酸化物(Lix−CoO等)、他のリチウム遷移金属酸化物、リチウム金属リン酸塩(LiCoPO及びLiCoPOF等のフッ化リチウム金属リン酸塩)、及びその他のリチウム金属カルコゲナイドを含み、ここで前記金属は遷移金属とすることができる。リチウム複合酸化物は、リチウムと単数または複数種の遷移金属との酸化物、そして、リチウムと、Co,Al,Mn,Cr,Fe,V,Mg,Ti,Zr,Nb,Mo,W,Cu,Zn,Ga,In,Sn,La及びCeから成るグループから選択される単数または複数種の金属との酸化物を含む。前記カソード活物質は、ナノ構造化、例えば、1ミクロン以下の平均径を有するナノ粒子の形態にすることができる。
【0049】
前記負極(アノード)は、負極活物質と(オプションとしての)電子伝導性材とバインダとを含む。前記負極は電子コレクタと電通状態に形成することができる。前記負極活物質はカーボンベース、例えば黒鉛状炭素及び/またはアモルファス炭素、天然黒鉛、メゾカーボン、マイクロビーズ(MCMB)、高配向性熱分解黒鉛(HOPG)、硬質黒鉛、軟質黒鉛等、或いは、珪素及び/またはスズ、その他の成分を含む材料とすることができる。前記負極は、LiTi12等のチタン酸リチウム、等とすることができる。
【0050】
本発明の具体例による充電式電池は、可逆的に保存(例えば、挿入またはインターカレーション)及び放出が可能な任意のカチオンをベースとしたものを含む。カチオンは、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウムやバリウム等のアルカリ土類金属、マグネシウム、アルミニウム、銀、亜鉛等のその他の金属、水素の陽イオンを含むことができる。その他の例では、カチオンは、アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、及びこれらのイオンのアルキルまたはその他の誘導体等の誘導体を含むことができる。
【0051】
本発明の具体例による電池の電極に使用することが可能な電子伝導性材料は、黒鉛等の炭素含有物質を含むことができる。その他の電子伝導性材料の例としては、ポリアニリンまたはその他の導電性ポリマー、カーボンファイバ、カーボンブラック(またはアセチレンブラックまたはケッチェンブラック等の類似の物質)、及びコバルト、銅、ニッケル、その他の金属または金属化合物等の非電気活性金属がある。前記電子伝導性材は、粒子(ここでの使用において、この用語はグラニュール、フレーク、パウダー等を含む)、ファイバ、メッシュ、シート、またはその他の二次元的または三次元的構造体の形態とすることができる。電子伝導性材は、また、SnO,Ti,In/SnO(ITO),Ta,WO,W1849,CrO及びTi等の酸化物、式MC(ここで、Mは、WC,TiC及びTaC等の金属である)によって表される炭化物、式MCによって表される炭化物、金属炭化物、及び金属タングステンも含む。
【0052】
電池の一例は、更に、電気リード線と、適当なパッケージ、例えば、第1及び第2電流コレクタと電通する電気コンタクトを提供する封止容器とを含むことができる。
【0053】
電流コレクタとしても知られている、電子コレクタは金属、伝導性ポリマー、またはその他の伝導性材料を含む電導性部材とすることができる。前記電子コレクタの形態は、シート、メッシュ、ロッド、またはその他所望のものとすることができる。例えば、電子コレクタは、Al,Ni,Fe,Ti,ステンレス鋼、またはその他の金属、または合金、を含むことができる。前記電子コレクタは、腐食を低減するための保護コーティング、例えば、タングステン(W),プラチナ(Pt)、炭化チタン(TiC)、炭化タンタル(TaC)、酸化チタン(例えば、Ti)、リン酸銅(Cu)、リン酸ニッケル、リン酸鉄、(FeP)等を含む保護層を有することができる。電極の電子コレクタに対する接着を促進するために接着促進剤を使用することができる。
【0054】
一方または両方の電極にバインダを含ませることができる。このバインダは電極の物理特性の改善、電極の製造及び処理の容易化等の目的のために単数または複数種の不活性物質を含むことができる。バインダ材の具体例としては、ポリエチレン、ポリオレフィン及びそれらの誘導体、ポリエチレンオキサイド、アクリルポリマー(ポリメタクリレートを含む)、等のポリマー、合成ゴム等がある。バインダは、更にポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン)コポリマー(PVDF−HEP)等も含む。バインダは、PEO(ポリエチレンオキサイド)、PAN(ポリアクリロニトリル)、CMC(カルボキシメチルセルロース)、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、または複合材、コポリマー等を含む化合物の混合物を含むことができる。
【0055】
上述した具体例は、溶融塩電解質について言及したが、有機炭化物等の有機溶媒を含む電池中の電解質成分、または有機溶媒と溶融塩との両方を含む電解質の分解を低減するためにも類似の方法を使用することができる。
【0056】
電池は、更に、ハウジングと、前記正極と負極との間のセパレータとを備えることができる。電池は、両電極間の直接電気接触(短絡)を防止する目的で、負極と正極との間に位置する単数または複数のセパレータを備えることができる。セパレータは、イオン伝導性シート、例えば多孔性シート、フィルム、メッシュ、または織布、不織布、繊維マット(布)、またはその他の形態のものとすることができる。前記セパレータは、オプションであって、固体電解質によっても類似の機能を提供することができる。セパレータは、ポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、メチルセルロース、またはその他のポリマー)、ゾル−ゲル材、ormosil、ガラス、セラミック、ガラス−セラミック、またはその他の材料を含む多孔性またはその他のイオン伝導性シートとすることができる。セパレータは片方または両方の電極の表面に取り付けることができる。
【0057】
本発明は上述した具体例に限定されるものではない。ここに記載した方法、装置、組成物、等は、例示的なものであって、本発明の範囲を限定するものではない。当業者はそれらの変更及びその他の利用法を想到するであろう。本発明の範囲はクレームによって定義される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1A】電池の略図
【図1B】電池中の溶融塩電解質の問題を示す略図
【図1C】電池の略図
【図2】電池の充放電サイクル後の溶融塩電解質分解のIRスペクトル
【図3】充放電サイクル安定性に対する負極活物質の粒子サイズの影響を示すグラフ(溶融塩電解質を有するリチウムイオン電池中に(A)3ミクロン及び(B)50nmのLiTi12負極活物質を使用している)
【図4】負極(アノード)容量に対する正極(カソード)容量の電極容量比(C/A)の(A)Ca/Aa=1.0及び(B)Ca/Aa=0.5の場合の充放電サイクル安定性に対する影響を示すグラフ
【図5】アノードに対するカソードの電極面積比(Ca/Aa)の(A)Ca/Aa=1.0及び(B)Ca/Aa=0.8の場合の充放電サイクル安定性に対する影響を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含み、正極面積と正極容量とを有する正極と、
負極活物質を含み、負極面積と負極容量とを有する負極と、
イオン源を含む溶融塩電解質である電解質とを備え、
前記正極面積を前記負極面積で除したものに等しい電極面積比を有し、当該電極面積比は少なくとも約1であり、
前記正極容量を前記負極容量で除したものに等しい電極容量比を有し、当該電極容量比は少なくとも約1である充電式の電池。
【請求項2】
前記イオン源はリチウム塩であり、前記イオンはリチウムイオンであり、前記電池は充電式リチウムイオン電池である請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記負極活物質は約1ミクロン以上の粒子サイズを有する請求項1に記載の電池。
【請求項4】
前記負極活物質は約3ミクロン以上の粒子サイズを有する請求項1に記載の電池。
【請求項5】
前記負極活物質は約3ミクロンの粒子サイズを有する請求項1に記載の電池。
【請求項6】
前記電極容量比は約1である請求項1に記載の電池。
【請求項7】
前記電極面積比は約1である請求項1に記載の電池。
【請求項8】
前記溶融塩電解質はオニウムを含む請求項1に記載の電池。
【請求項9】
前記溶融塩電解質はスルホニウム塩を含む請求項1に記載の電池。
【請求項10】
前記負極活物質はチタン酸リチウムを含む請求項1に記載の電池。
【請求項11】
前記負極活物質は、更に電子伝導性材を含む請求項1に記載の電池。
【請求項12】
前記電子伝導性材は炭素含有材である請求項11に記載の電池。
【請求項13】
正極活物質を含み、正極面積と正極容量とを有する正極と、
負極活物質を含み、負極面積と負極容量とを有する負極と、
溶融塩とリチウムイオン源とを含む電解質とを備える充電式リチウムイオン電池であって、
前記正極面積を前記負極面積で除したものに等しい電極面積比を有し、当該電極面積比は少なくとも約1であり、
前記正極容量を前記負極容量で除したものに等しい電極容量比を有し、当該電極容量比は少なくとも約1である電池。
【請求項14】
前記リチウムイオン源はリチウム塩である請求項13に記載の電池。
【請求項15】
前記負極活物質はリチウム化遷移金属酸化物である請求項13に記載の電池。
【請求項16】
前記負極物質はチタン酸リチウム酸化物である請求項13に記載の電池。
【請求項17】
前記電極面積比は約1である請求項13に記載の電池。
【請求項18】
前記電極容量比は約1である請求項13に記載の電池。
【請求項19】
前記電極面積比は約1であり、前記電極容量比は約1であり、前記負極活物質は約1ミクロン以上の粒子サイズを有する請求項13に記載の電池。
【請求項20】
前記負極活物質は約3ミクロンの粒子サイズを有する請求項19に記載の電池。
【請求項21】
正極活物質を含み、正極面積と正極容量とを有する正極と、
粒子状であり、少なくとも1ミクロンの平均粒子サイズを有する負極活物質と電子伝導性材とを含み、負極面積と負極容量とを有する負極と、
リチウム塩を含む溶融塩電解質である電解質とを備える充電式リチウムイオン電池であって、
前記正極面積を前記負極面積で除したものに等しい電極面積比を有し、当該電極面積比は少なくとも約1であり、
前記正極容量を前記負極容量で除したものに等しい電極容量比を有し、当該電極容量比は少なくとも約1である電池。
【請求項22】
前記負極物質はチタン酸リチウム酸化物である請求項21に記載の電池。
【請求項23】
前記負極活物質の粒子サイズは約3ミクロンである請求項21に記載の電池。
【請求項24】
前記正極活物質はリチウムコバルト酸化物である請求項21に記載の電池。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−517419(P2008−517419A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530248(P2007−530248)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/030751
【国際公開番号】WO2006/026585
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(505438890)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ インコーポレイテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】TOYOTA MOTOR ENGINEERING & MANUFACTURING NORTH AMERICA, INC.
【住所又は居所原語表記】25 ATLANTIC AVENUE,ERLANGER, KENTUCKY 41018, UNITED STATES OF AMERICA
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(506386343)サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シオンティフィーク (3)
【出願人】(506386354)ユニバーシティ・ドゥ・モントリオール (3)
【出願人】(507066002)
【Fターム(参考)】