説明

溶融還元方法

【課題】 クロム鉱石や鉄鉱石などを溶融還元炉にて溶融還元して金属溶湯を得るにあたり、溶融還元炉から排出される排ガスを、二酸化炭素の分離装置を用いることなく湿式除塵装置によって除塵するだけで、湿式除塵処理後の排ガスを還元用ガスまたは燃料ガスとして有効利用することのできる溶融還元方法を提供する。
【解決手段】 溶融還元炉1内に金属酸化物の鉱石22を燃料及び還元材とともに装入し、酸素ガスを供給することにより前記鉱石を加熱・溶融して還元し、前記鉱石中の金属が含有される溶湯20を溶製する溶融還元方法において、前記鉱石を加熱し且つ溶融還元するための燃料及び還元材として、水素を主成分とするガスのみを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム鉱石、マンガン鉱石、鉄鉱石などの酸化物形態の鉱石を溶融状態で還元して金属溶湯を得る溶融還元方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高価な合金鉄の代わりに、安価な鉱石(例えばクロム鉱石など)を、炭材などの還元材とともに転炉などの鉄浴型溶融還元炉に装入して、鉱石を炉内で溶融還元することによって有価金属(例えばクロムなど)を含有する鉄系溶湯を溶製する技術は、溶融還元方法と呼ばれている。また、鉄鉱石を還元材とともに鉄浴型溶融還元炉に装入して、鉄鉱石を溶融還元することによって溶銑を溶製する技術も、溶融還元方法と呼ばれている。
【0003】
この溶融還元方法における還元材としては、従来、石炭やコークスなどの炭素系原料が使用されている。例えば、特許文献1には、転炉などの冶金反応容器内に収容した溶鉄中に、炭材とクロム鉱石とを添加し、酸素ガスを供給することによりクロム含有溶湯を溶製する溶融還元製錬法において、前記炭材として、JIS M 8801で定めるハードグローブ指数(HGI)が45以下で、且つ炭材中の揮発性成分量が10質量%以下である石炭を用いたクロム鉱石の溶融還元方法が提案されている。特許文献1によれば、ハードグローブ指数が45以下で且つ揮発性成分量が10質量%以下である石炭は熱崩壊により細粒化し、反応界面積が増加し、還元率が向上するとしている。
【0004】
また、特許文献2には、上底吹き機能を有する転炉型溶融還元炉にクロム鉱石を炭素含有物質とともに添加し、酸素ガスを供給することによりクロム含有溶湯を溶製するクロム鉱石の溶融還元方法において、前記炭素含有物質として水素と炭素の原子数の比、H/Cが0.5以下で且つ固定炭素量が85質量%以上の物質を使用し、更に底吹き酸素ガス流量を0.3〜0.8Nm3/min・tとするクロム鉱石の溶融還元方法が提案されている。特許文献2によれば、無煙炭や半無煙炭などが、H/Cが0.5以下で且つ固定炭素量が85質量%以上の炭素含有物質として挙げられ、この炭素含有物質は炉内投入時に細粒化し、還元率が向上するとしている。
【0005】
尚、石炭やコークスなどの炭素系原料は、還元材としてのみ機能するのではなく、炉内に装入された鉱石を加熱・溶融するための燃料としても機能している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−227919号公報
【特許文献2】特開平10−251729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した特許文献1,2などの溶融還元炉から発生する排ガスには、水素ガスや一酸化炭素などの可燃性成分が相当量含まれており、溶融還元炉に装入された炭素系原料の100%を溶融還元での還元材及び燃料として消費しているわけではない。つまり、還元材及び燃料として炉内に装入された炭素系原料のエネルギーとしての利用効率が低い状態にあるのが現状である。
【0008】
ここで、溶融還元炉から発生する排ガスから、水蒸気や二酸化炭素などの、還元及び燃焼を阻害する物質を除去すれば、回収した排ガスは還元材及び燃料として溶融還元製錬で有効活用することができる。通常、排ガスを冷却すると同時に排ガス中のダストを除去するために、高温の排ガスには湿式除塵処理が施されており、この湿式除塵処理により排ガス中の水蒸気の大部分は容易に除去される。
【0009】
しかしながら、特許文献1,2などの従来の溶融還元方法における排ガスは、還元材及び燃料として炭材を使用していることから、一酸化炭素及び二酸化炭素を主成分としており、また、炉内での二次燃焼に起因して相当量の二酸化炭素を含有しており、この排ガスを湿式除塵しても、排ガス中の水蒸気は除去されるが、二酸化炭素が残留し、還元用ガスまたは燃料ガスとしてそのまま溶融還元製錬で使用することはできない。これは、還元用ガス中の二酸化炭素の存在は、鉱石の還元を阻害するばかりでなく、ソリューションロス反応(C+CO2→2CO)やその他の分解反応によって吸熱反応を生じるため、溶融還元炉の操業においては却って燃料の使用量が増加することになるからである。
【0010】
これを解決する手段としては、一般的に、先ず排ガスを湿式除塵処理し、その後にアミンやアンモニアなどを利用した吸収法などを用いて排ガス中の二酸化炭素を分離・除去し、排ガス中の可燃性成分の含有量を高めることが考えられるが、排ガス中の二酸化炭素の分離は、分離装置の設備費が高価である上に、吸収液の再生には別途エネルギーを必要とし、好ましい形態とはいえない。従って、湿式除塵処理後の回収ガスは、加熱炉などで低熱量の燃料ガスとして利用されるのが現状である。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、クロム鉱石や鉄鉱石などを溶融還元炉にて溶融還元して金属溶湯を得るにあたり、溶融還元炉から排出される排ガスを、二酸化炭素の分離装置を用いることなく湿式除塵装置によって除塵するだけで、湿式除塵処理後の排ガスを還元用ガスまたは燃料ガスとして有効利用することのできる溶融還元方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための第1の発明に係る溶融還元方法は、溶融還元炉内に金属酸化物の鉱石を燃料及び還元材とともに装入し、酸素ガスを供給することにより前記鉱石を加熱・溶融して還元し、前記鉱石中の金属が含有される溶湯を溶製する溶融還元方法において、前記鉱石を加熱し且つ溶融還元するための燃料及び還元材として、水素を主成分とするガスのみを使用することを特徴とするものである。
【0013】
第2の発明に係る溶融還元方法は、第1の発明において、前記溶融還元炉から排出される排ガスを湿式除塵装置で処理し、湿式除塵装置で処理した後の排ガスを燃料または還元材として回収することを特徴とするものである。
【0014】
第3の発明に係る溶融還元方法は、第2の発明において、湿式除塵装置で処理した後の排ガスの少なくとも一部を燃料及び還元材として前記溶融還元炉に供給することを特徴とするものである。
【0015】
第4の発明に係る溶融還元方法は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、前記鉱石を、前記溶融還元炉から排出される排ガスを用いて予め予熱し且つ予備還元することを特徴とするものである。
【0016】
第5の発明に係る溶融還元方法は、第1ないし第4の発明の何れかにおいて、前記水素を主成分とするガスは、ガス中の水素と炭素との原子数の比、H/Cが1.5以上であることを特徴とするものである。
【0017】
第6の発明に係る溶融還元方法は、第5の発明において、前記H/Cが5.0以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属酸化物形態の鉱石を溶融還元する際に使用する燃料及び還元材として、炭材を使用せずに、水素を主成分とするガスのみを使用するので、燃焼及び還元で生成するガスは水蒸気が主体であり、排ガス中の二酸化炭素の含有量は少なく、しかも、排ガス中の水蒸気は、ダストを除去するべく排ガスに対して一般的に行われる、スクラバーなどによる湿式除塵処理を施すだけで容易に除去されるので、水素ガス濃度の高いガスを回収することが可能となる。回収されるガスは水素ガス濃度が高いので、燃料や還元用ガスとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る溶融還元方法を適用した溶融還元設備の概略図である。
【図2】本発明に係る溶融還元方法を適用した他の溶融還元設備の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。先ず、鉱石を予備還元するための予備還元炉を備えていない、溶融還元炉のみから構成される溶融還元設備において本発明を適用した第1の実施形態例について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態例を説明するための図であって、本発明に係る溶融還元方法を適用した溶融還元設備の概略図である。
【0021】
図1において、1は、内部を耐火物で施工された転炉型の溶融還元炉、6は、溶融還元炉1から排出される排ガスを回収するためのガス回収用フード、7は排ガスダクト、8は、湿式除塵装置としてのスクラバー、12は、回収される排ガスを貯蔵するためのガスホルダー、13は、スクラバー8とガスホルダー12とを連結するガス回収管であり、溶融還元炉1で発生した高温の排ガスは、排ガスダクト7を通ってスクラバー8へ送られ、スクラバー8で冷却且つ湿式除塵され、湿式除塵された後の排ガスは、ガス回収管13を通ってガスホルダー12へと導入される。ガス回収用フード6は、その先端と溶融還元炉1の炉口との間隙を調整可能なように、上下移動が可能に構成されている。
【0022】
溶融還元炉1には、その側壁部に、燃料及び還元材となる「水素を主成分とするガス」(以下、「水素含有ガス」とも記す)を溶融還元炉1の内部に吹き込むための、溶融還元炉1の内部に開口する水素含有ガス供給管3と、その炉底部に、酸素ガス、燃料ガス、還元用ガス、攪拌用ガスのうちの少なくとも1種のガスを溶融還元炉1の内部に吹き込むための底吹き羽口4とが、設置されている。この底吹き羽口4は、底吹きガスを供給するための底吹きガス供給管5と連結されている。また、底吹きガス供給管5は、ガスホルダー12に連結する回収ガス供給管14と接続されており、ガスホルダー12に回収された排ガスが、底吹きガス供給管5を経由して底吹き羽口4から溶融還元炉1の内部に吹き込まれるように構成されている。底吹きガス供給管5及び回収ガス供給管14には遮断バルブ(図示せず)が設置されており、回収された排ガスのみを底吹き羽口4から吹き込むことも可能なように構成されている。
【0023】
また、溶融還元炉1の上方には、酸素ガスを溶融還元炉1の内部に供給するための上吹きランス2と、鉱石22及び造滓材(図示せず)などを溶融還元炉1の内部へ投入するための投入シュート10とが、排ガスダクト7を貫通して設置されている。上吹きランス2は、溶融還元炉1の内部への昇降が可能なように構成されており、上吹きランス2から供給される酸素ガスは、水素含有ガス供給管3から供給される水素含有ガスを燃焼するとともに、水素含有ガスの分解により生ずる水素ガスや鉱石22の還元により生ずる一酸化炭素を二次燃焼する役目を担っている。投入シュート10は、鉱石22を収容する鉱石貯蔵ホッパー9と接続されており、鉱石貯蔵ホッパー9からの鉱石22の投入量は、鉱石貯蔵ホッパー9の下部に設置された切出装置11により制御されている。図示はしないが、投入シュート10は造滓材を収容する複数の造滓材貯蔵ホッパーと接続されており、所定の造滓材が所定量だけ溶融還元炉1の内部に投入されるように構成されている。
【0024】
このように構成される溶融還元設備を用い、本発明の第1の実施形態例を以下のようにして実施する。
【0025】
先ず、溶融還元炉1に、熱源或いは溶製される溶湯20の成分調整用として溶銑を溶銑装入鍋(図示せず)にて装入し、次いで、投入シュート10を介して生石灰及びドロマイトなどの造滓材を炉内の溶銑上に投入し、底吹き羽口4から、酸素ガス、燃料ガス、還元用ガス、攪拌用ガスのうちの少なくとも1種以上のガスを吹き込みながら、水素含有ガス供給管3から水素含有ガスを吹き込むと同時に、上吹きランス2から酸素ガスを供給する。これにより、溶銑が攪拌され且つ水素含有ガスが燃焼して造滓材が溶融し、炉内に溶融スラグ21が形成される。溶融スラグ21は、底吹き羽口4から吹き込まれるガスによりフォーミング(泡立ち)した状態となる。
【0026】
この場合、底吹き羽口4からの攪拌用ガスとしては窒素ガスなどの不活性ガスを使用することができるが、窒素ガスは溶融還元炉1からの排ガス中に不燃性ガス成分として残留し、排ガスの利用を阻害することがあるので、本発明を実施する上では、単に攪拌用ガスとしての不活性ガスを使用することは好ましくない。つまり、底吹き羽口4からは、燃料ガスや還元用ガスとしての水素含有ガスまたは酸素ガスを吹き込むことが好ましい。底吹き羽口4から吹き込まれる水素含有ガスまたは酸素ガスは攪拌用ガスとしても機能する。
【0027】
水素含有ガス供給管3から吹き込む「水素を主成分とするガス」としては、ガス中の水素と炭素との原子数の比H/Cが1.0を超えるガス種である限り、その種類は問わずどのようなガスであっても使用可能であり、例えば、水素ガスそのもの、メタンガス、エタンガス、プロパンガスなどの炭化水素系ガス、コークス炉ガスに代表される水性ガスのような混合ガスを使用することができる。また、溶融還元炉1からの排ガス中の二酸化炭素濃度を極力低下させるために、ガス中の水素と炭素との原子数の比H/Cが1.5以上のガスを使用することが好ましく、更に、比H/Cが5.0以上、更には比H/Cが10.0以上のガス種を使用することが望ましい。
【0028】
炉内に溶融スラグ21が形成されたなら、投入シュート10を介して鉱石22を炉内に投入し、溶融還元製錬を開始する。鉱石22の投入に伴って、造滓材を追加装入してもよい。鉱石22の投入以降、上吹きランス2からの酸素ガス供給量、水素含有ガス供給管3からの水素含有ガス供給量、及び、底吹き羽口4からの吹き込み流量は所定値に保持する。投入する鉱石22としては、金属酸化物形態の鉱石であり且つ水素によって還元される鉱石ならば、その種類は問わずどのような鉱石であっても構わず、例えば、クロム鉱石、マンガン鉱石、鉄鉱石、ニッケル鉱石などを対象とすることができる。
【0029】
炉内へ装入された鉱石22は溶融スラグ21に溶け込み、水素含有ガス中の水素または炭素によって還元され、生成した金属は溶銑に移行し、溶湯20が形成される。その際に、鉱石22に含有される脈石(Al23成分など)が溶融スラグ21に移行するので、安定した溶融還元速度を確保し、また溶融還元炉1の内張り耐火物の溶損を抑制するために、鉱石22の投入速度に対応して、生石灰、マグネシアクリンカー、軽焼ドロマイトなどの造滓材を所定の投入速度で装入し、溶融スラグ21の組成を一定の領域に保持することが好ましい。
【0030】
この溶融還元製錬により発生する排ガスは、ガス回収用フード6及び排ガスダクト7を通ってスクラバー8に導入され、散水冷却・除塵処理処理が施される。この湿式除塵処理により、排ガス中のダスト及び水蒸気は除去される。尚、発生ガスは、水素含有ガス中の水素を起源とする未燃の水素ガス(水性ガスの場合は水素ガスそのもの)、この水素ガスと鉱石22との還元反応またはこの水素ガスの二次燃焼により生成する水蒸気、水素含有ガスの燃焼により生じる水蒸気及び二酸化炭素、水素含有ガス中の炭素と鉱石22との還元反応により生ずる一酸化炭素、水素含有ガス中の未燃の一酸化炭素(水性ガスの場合)、これら一酸化炭素の二次燃焼により生ずる二酸化炭素などである。攪拌用の底吹きガスとして窒素ガスを吹き込んだ場合には、窒素ガスも含有される。
【0031】
本発明においては、燃料及び還元材として「水素を主成分とするガス」を使用するので、発生する排ガス中の二酸化炭素の含有量は少なく、従って、排ガスを湿式除塵処理することで、ガスホルダー12には水素ガスの含有量の高い排ガスが回収される。この回収ガスは、回収ガス供給管14を介して、単独で或いは水素含有ガスと混合して、底吹き羽口4から還元用ガス及び燃料として吹き込むことができる。また、水素含有ガスと混合して、水素含有ガス供給管3から吹き込むこともできる。勿論、鋼材加熱炉や発電用などの他の用途に使用することもできる。
【0032】
このようにして溶融還元製錬を継続し、溶融還元炉1の内部に所定量の溶湯20が形成されたなら、溶融還元製錬を終了し、溶融還元炉1を傾転し、出湯口(図示せず)から溶湯20及び溶融スラグ21を取鍋(図示せず)に出湯し、次回の溶融還元製錬に備える。
【0033】
次に、鉱石を予備還元するための予備還元炉と、溶融還元炉と、を備えた溶融還元設備において本発明を適用した第2の実施形態例について説明する。図2は、本発明の第2の実施形態例を説明するための図であって、本発明に係る溶融還元方法を適用した溶融還元設備の概略図である。
【0034】
この溶融還元設備は、図2に示すように、溶融還元炉1の上方に、内部を耐火物で施工され、鉱石22を予熱し且つ予備還元するための予備還元炉15が設置されており、溶融還元炉1から排出される排ガスは、排ガスダクト7を通って予備還元炉15に導入され、予備還元炉15にて鉱石22を予熱し且つ予備還元し、その後、排ガスダクト7aを通ってスクラバー8に導入されるように構成されている。
【0035】
予備還元炉15の内部には、予備還元炉15の内部を上下に二分する、鉛直方向に貫通するストレート形状のノズルを有する分散板16が設けられており、この分散板16を境として予備還元炉15の上部側が予備還元室17、下部側が風箱18と呼ばれている。風箱18は、溶融還元炉1から排出される排ガスの流れを均一化させ、分散板16に設置されるノズルから排ガスを均一に予備還元室17に導入させる機能を有するものである。予備還元室17は、鉱石22を収容する鉱石貯蔵ホッパー9と連結しており、鉱石貯蔵ホッパー9から予備還元室17に供給された鉱石22は、風箱18から吹き込まれる排ガスにより流動層23を形成して予熱され且つ予備還元され、予備還元された鉱石22は、予備還元室17の下部に設置された、投入シュート10と連通する鉱石排出管19を通って投入シュート10から溶融還元炉1の内部に投入されるように構成されている。
【0036】
また、ガスホルダー12に接続する回収ガス供給管14は、底吹きガス供給管5のみならず、排ガスダクト7と連通しており、ガスホルダー12に回収された排ガスは、排ガスダクト7を経由して予備還元炉15に導入されるように構成されている。回収ガス供給管14には遮断バルブ(図示せず)が設けられ、底吹きガス供給管5及び排ガスダクト7に独立して排ガスを供給できるようになっている。図2に示す溶融還元設備のその他の構造は、図1に示す溶融還元設備と同一構造になっており、同一の部分は同一符号により示し、その説明は省略する。
【0037】
このように構成される溶融還元設備を用いて本発明の第2の実施形態例を実施する。第2の実施形態例は、基本的には前述した第1の実施形態例と同様にして行うが、第1の実施形態例と異なる点は、第2の実施形態例では予備還元炉15において、鉱石22を予熱且つ予備還元することである。但し、溶融還元製錬の開始直後は、排ガス発生量が少なく、予備還元室17において鉱石22の流動層23が形成されないので、溶融還元反応が或る程度進行し、流動層23を形成するに十分な量の排ガスが発生するまでは、鉱石22を、予備還元炉15を経由しないまま溶融還元炉1に装入して溶融還元製錬を実施し、流動層23を形成するに十分な量の排ガスが発生した以降、鉱石22を予備還元炉15に装入し、予熱し且つ予備還元した鉱石22を溶融還元炉1に装入する。この場合、回収した排ガスを還元用ガスとして、排ガスダクト7に吹き込みながら溶融還元製錬を実施することが好ましい。
【0038】
予備還元炉15から排出される排ガスをスクラバー8に導入し、スクラバー8で湿式除塵処理を施し、湿式除塵処理の施された排ガスをガスホルダー12に回収する。
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、鉱石22を溶融還元する際に使用する燃料及び還元材として、炭材を使用せずに、水素を主成分とするガスのみを使用するので、溶融還元炉1からの排ガス中の二酸化炭素の含有量は少なく、また、排ガス中の水蒸気は、ダストを除去するべく排ガスに対して一般的に行われる、スクラバーなどによる湿式除塵処理を施すだけで容易に除去されるので、水素ガス濃度の高いガスを回収することが実現される。回収されるガスは水素ガス濃度が高いので、燃料や還元用ガスとして利用することができ、この回収ガスを溶融還元製錬にリサイクリ使用することで、鉱石22の溶融還元に使用するエネルギーを大幅に削減することが可能となる。
【実施例1】
【0040】
図1及び図2に示す溶融還元設備を用いて本発明を適用した例(本発明例1〜4)を説明する。
【0041】
本発明例1は、燃料及び還元材としてプロパンガスのみを使用し、クロム鉱石を溶融還元した例である。本発明例2は、燃料及び還元材としてプロパンガスのみを使用し、マンガン鉱石を溶融還元した例である。本発明例3は、燃料及び還元材としてメタンガスのみを使用し、鉄鉱石を溶融還元した例である。本発明例4は、燃料及び還元材としてコークス炉ガスのみを使用し、鉄鉱石を溶融還元した例である。本発明例1〜3は、図1に示す溶融還元設備を用い、本発明例4は、図2に示す溶融還元設備を用いて鉄鉱石を予備還元した例である。底吹き羽口からは、本発明例1〜4ともに酸素ガスを吹き込んだ。本発明例4では、回収ガスを予備還元炉にリサイクル使用した。
【0042】
また、比較のために、燃料及び還元材として炭材を併用し、図1に示す溶融還元設備を用いてクロム鉱石を溶融還元する操業も実施した(比較例1〜3)。比較例1〜3ともに炭材としては無煙炭を使用し、比較例1は、無煙炭及びプロパンガスを燃料及び還元材として、燃料及び還元材中の水素と炭素との原子数の比H/Cが0.143(=1/7)になるように無煙炭とプロパンガスとの配合比を調整し、比較例2は、無煙炭及びプロパンガスを燃料及び還元材として、燃料及び還元材中の水素と炭素との原子数の比H/Cが0.2(=1/5)になるように無煙炭とプロパンガスとの配合比を調整し、比較例3は、無煙炭及びメタンガスを燃料及び還元材として、燃料及び還元材中の水素と炭素との原子数の比H/Cが0.333(=1/3)になるように無煙炭とメタンガスとの配合比を調整した。比較例1〜3ともに、底吹き羽口からは酸素ガスを吹き込んだ。
【0043】
表1に、本発明例1〜4及び比較例1〜3の操業条件及び操業結果を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
比較例1〜3では、溶融還元炉からの排ガス中に二酸化炭素が含有されており、排ガスをスクラバーにて湿式除塵処理しただけでは、排ガス中の不燃性ガス成分を除去しきれず、回収した排ガスは、燃料または還元材としてリサイクル使用することは不可能であった。従って、ガス利用率は17〜22%と低位であった。
【0046】
これに対して、本発明例1〜4では、排ガス中の二酸化炭素が少なく、排ガスをスクラバーにて湿式除塵処理しただけで、排ガス中の不燃性ガス成分の大部分は除去され、回収した排ガスは、燃料または還元材としてリサイクル使用することが可能であった。従って、ガス利用率は47〜80%と高位であった。尚、ここでガス利用率とは、下記の(1)式で定義されるものである。
ガス利用率(%)=100×(D-E)/(A-B-C) …(1)
但し、(1)式において、Aは供給燃料中のCとH2の総モル数、Bは供給燃料中の炭酸塩CO2と水分水和物H2Oのモル数、Cは炉の排ガスのうち、炉にリサイクルされた、COとH2のモル数、Dは排ガス中のCO2とH2Oのモル数、Eは炉の排ガスのうち、炉にリサイクルされた、CO2とH2Oのモル数である。
【符号の説明】
【0047】
1 溶融還元炉
2 上吹きランス
3 水素含有ガス供給管
4 底吹き羽口
5 底吹きガス供給管
6 ガス回収用フード
7 排ガスダクト
7a 排ガスダクト
8 スクラバー
9 鉱石貯蔵ホッパー
10 投入シュート
11 切出装置
12 ガスホルダー
13 ガス回収管
14 回収ガス供給管
15 予備還元炉
16 分散板
17 予備還元室
18 風箱
19 鉱石排出管
20 溶湯
21 溶融スラグ
22 鉱石
23 流動層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融還元炉内に金属酸化物の鉱石を燃料及び還元材とともに装入し、酸素ガスを供給することにより前記鉱石を加熱・溶融して還元し、前記鉱石中の金属が含有される溶湯を溶製する溶融還元方法において、前記鉱石を加熱し且つ溶融還元するための燃料及び還元材として、水素を主成分とするガスのみを使用することを特徴とする溶融還元方法。
【請求項2】
前記溶融還元炉から排出される排ガスを湿式除塵装置で処理し、湿式除塵装置で処理した後の排ガスを燃料または還元材として回収することを特徴とする、請求項1に記載の溶融還元方法。
【請求項3】
湿式除塵装置で処理した後の排ガスの少なくとも一部を燃料及び還元材として前記溶融還元炉に供給することを特徴とする、請求項2に記載の溶融還元方法。
【請求項4】
前記鉱石を、前記溶融還元炉から排出される排ガスを用いて予め予熱し且つ予備還元することを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の溶融還元方法。
【請求項5】
前記水素を主成分とするガスは、ガス中の水素と炭素との原子数の比、H/Cが1.5以上であることを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載の溶融還元方法。
【請求項6】
前記H/Cが5.0以上であることを特徴とする、請求項5に記載の溶融還元方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−6744(P2011−6744A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151931(P2009−151931)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】