説明

溶融金属の真空精錬装置

【課題】真空蓋6の内部に中蓋9を設けた溶融金属の真空精錬装置において、中蓋9、特に合金材料投入用の開口部13へのスプラッシュの付着をより一層減少させた溶融金属の真空精錬装置を提供する。
【解決手段】溶融金属撹拌用のガスを吹き込む羽口を備えた炉体の炉口部に、真空排気装置に接続したダクト7と合金投入孔8とを有する真空蓋6を被せ、前記真空蓋6の内部に、前記合金投入孔8から投入された合金材料を通過させる開口部13を有する中蓋9を設けてなる溶融金属の真空精錬装置において、前記中蓋9の上面に、前記開口部13を囲む可撓性耐火材15を設け、前記可撓性耐火材15の上面を前記真空蓋6の内面に当接させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉、電気炉等で溶解した溶融金属を、真空下において精錬する溶融金属の真空精錬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炉体上部の炉口部に真空蓋を被せ、真空蓋に接続した真空排気装置で炉内を減圧し、炉体の側壁下部に設けた羽口からAr等の不活性ガスを吹き込み溶融金属を撹拌しながら精錬する溶融金属の真空精錬装置は良く知られている(特許文献1参照)。この溶融金属の真空精錬装置では、溶融金属の成分を最終的に調整するため、精錬途中または精錬終期に、真空蓋の合金投入孔から、溶融金属に合金材料を添加する。
【0003】
こうした溶融金属の真空精錬装置では真空精錬中の溶鋼スプラッシュの発生が激しく、地金やスラグが真空蓋の内面に付着するという問題があり、その問題を解決するために、真空蓋内に中蓋を吊り下げている。中蓋には合金材料を通過させるための開口部を設けているが、この開口部に地金やスラグが付着すると合金材料の添加が妨げられ、所望の合金組成の溶鋼を作ることが困難になる。そのため、開口部に地金やスラグがある厚さ以上付着し、合金材料の投入が困難になる前に、中蓋を交換している。この中蓋の交換には、時間とコストがかかるため、中蓋、特に開口部へのスプラッシュの付着を減少させ、中蓋の寿命を延ばすことが従来から検討されている。
【0004】
このような観点から、特許文献1では、中蓋へのスプラッシュの付着を減少させるために、真空吸引手段に連なる排気ダクトを真空蓋の低い位置に取り付けることにより、中蓋の下面近傍におけるガスの流れ方向を水平より下向きにするとともに速度を低下させるということが行われている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−344200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された真空精錬装置では、中蓋へのスプラッシュの付着は減少するが、未だ不十分であった。そのため、開口部へのスプラッシュ付着により合金材料の投入が困難になったり、中蓋の交換を定期的に行わざるを得ない、という問題が依然としてあった。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、真空蓋の内部に中蓋を設けた溶融金属の真空精錬装置において、中蓋、特に合金材料投入用の開口部へのスプラッシュの付着をより一層減少させた溶融金属の真空精錬装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が検討した結果、特許文献1の発明でも中蓋の開口部にスプラッシュが付着するのは、中蓋と真空蓋との間にできた隙間により、中蓋内を下から上に向かって通過するガス流が発生するためである、ということが分かった。そこで本発明は、中蓋内を下から上に向かって通過するガス流を発生させないために、真空蓋の内面と中蓋の上面とをシールすることに着想してなされたものである。
即ち、請求項1に係る溶融金属の真空精錬装置は、溶融金属撹拌用のガスを吹き込む羽口を備えた炉体の炉口部に、真空排気装置に接続したダクトと合金投入孔とを有する真空蓋を被せ、前記真空蓋の内部に、前記合金投入孔から投入された合金材料を通過させる開口部を有する中蓋を設けてなる溶融金属の真空精錬装置において、前記中蓋の上面に、前記開口部を囲む可撓性耐火材を設け、前記可撓性耐火材の上面を前記真空蓋の内面に当接させたことを特徴とする。
【0009】
この請求項1の発明によれば、中蓋の上面に開口部を囲むようにして設けられた可撓性耐火材を、真空蓋の内面に当接させ、真空蓋と中蓋を確実にシールしたため、中蓋の開口部内及び開口部付近のガスが、水平より上向きに流れ中蓋の上を通ってダクトの方向へ流れようとしても、真空蓋の内面に当接した可撓性耐火材で遮られる。よって、開口部内及び開口部付近のガスは下向きに流れるから、スプラッシュが中蓋へ向かって進む速度が遅くなり、中蓋の下面や開口部へのスプラッシュの付着がより減少する。
なお、可撓性耐火材とは、セラミックファイバ等の繊維状高温断熱材である。
【0010】
請求項2に係る溶融金属の真空精錬装置は、請求項1に係る溶融金属の真空精錬装置において、前記中蓋が、その周縁より中央に向かって次第に溶融金属の表面から遠ざかる笠形状を呈する笠部を有し、前記笠部の上端面上に前記可撓性耐火材を載置したことを特徴とする。
【0011】
この請求項2の発明によれば、笠部の下端部においては、開口部の直径を真空蓋の合金投入孔の直径よりも大きくできるため、スプラッシュ付着により合金投入孔の添加が妨げられる問題を低減できる。笠部の上端部における開口部の直径は、真空蓋内面へのスプラッシュの付着を防止するため、真空蓋の合金投入孔の直径と略等しくする必要があるが、笠部の上部における開口部は溶融金属の湯面との距離が遠くなっているから、この部分へのスプラッシュの付着を低減できる。また、笠部の上端面上に前記可撓性耐火材を載置したため、真空蓋の合金投入孔から投入された合金材料が中蓋の上面に堆積することを防止できる。よって、溶融金属の成分調整をスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中蓋、特に開口部へのスプラッシュの付着を減少させ、中蓋の寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1乃至図4に示す第1実施形態により、この発明の実施の形態を説明する。図1は、溶融金属の真空精錬装置の概略縦断面図である。図1に示すように、炉体1の側面下部には、Arガス等のガスを吹き込む羽口2が設けられており、この羽口2からのガスにより炉体1内の溶融金属3やスラグ4を撹拌する。真空蓋6は炉体1上部の炉口部5に被せられており、その側面には、図示しない真空排気装置に接続するダクト7が設けられている。また、真空蓋6の上面中央には、合金材料を投入するための合金投入孔8が設けられている。真空蓋6の内部には、中蓋9が吊り下げられている。
【0014】
図2は、真空蓋6及び中蓋9の部分を拡大した縦断面図である。中蓋9は、図2に示されるように、中蓋本体10と中蓋吊具20とからなり、中蓋本体10は、その上面及び側面の鋼板に不定形耐火物を張設した構造である。中蓋本体10は、その中央部に合金材料を通過させる開口部13を有し、周縁より中央に向かって次第に溶融金属の表面から遠ざかる笠形状を呈する笠部11と、笠部11の下端から外方へ延びる環状の鍔部12とからなる。
笠部11は、その上端に環状の上端面14を有し、上端面14の内径は、真空蓋6の合金材料投入孔8の内径と略等しくなっている。また、中蓋9はその開口部13の軸芯が合金投入孔8の軸芯と略一致するように吊下げられている。
なお、中蓋吊具20は鍔部12上面の円周方向等間隔3箇所に設けられている。
【0015】
図2に示すように、上端面14の開口部13側端部には、短筒状のカラー16が立設されており、該カラー16の外側には、該カラー16と同じ高さを有する短筒状のカラー17が立設されている。そして、カラー16とカラー17との間には、矩形断面を有する可撓性耐火材(カオウール)15が載置されている。
【0016】
図3は、カラー16、17及び可撓性耐火材15の部分の水平断面図である。図3に示すように、可撓性耐火材15は、長さがカラー16の外周長さよりも長く、カラー16の外周に沿って巻かれ、両端部は横方向に重複するようにして載置されている。なお、可撓性耐火材15の厚さ(開口部13の軸芯方向と直交する方向の長さ)は、カラー16の外周とカラー17の内周との間隔の1/2(2分の1)よりも若干厚くなっているため、可撓性耐火材15の重なり合った両端部は、カラー16、17により互いに圧縮されている。
可撓性耐火材15の高さ(開口部13の軸芯方向長さ)は、中蓋9を真空蓋6内に吊下げた時の収縮代を考慮し、カラー16、17の高さよりも高くなっている。
このように、可撓性耐火材15はカラー16とカラー17の間に載置されているため、上端面14上から外れることはない。また、可撓性耐火材15の重複した両端部はカラー16とカラー17との間で互いに圧縮されているため、この両端部同士の間には隙間はできない。よって、可撓性耐火材15の上端面を真空蓋6の内面に当接させたとき、真空蓋6の内面と上端面14とを確実にシールすることができる。
【0017】
図4は、中蓋9の吊下げ構造を示す縦断面図である。真空蓋6の上面には、円周方向等間隔3箇所に貫通孔40が設けてあり、その貫通孔40を囲むように、中蓋支持部41が設けてある。中蓋支持部41は、真空蓋6の上面に固定された短管42、該短管42の上端に固定されたフランジ43、該フランジ43にネジにより固定されたカバー44からなる。
中蓋吊具20は、鍔部12の上面に固着された一対の支持板21、22、支持板21、22の間に固定された軸23、軸23に係合する中蓋吊金具24とからなる。
中蓋吊金具24は、軸部25と、軸部25の一端に設けられ、軸23に係合するボス部26と、軸部25の他端に設けられた一対の支持片27、28とからなっている。軸部25の上部には、後述する連結杆46を通すための透孔29が設けられている。また、支持片27、28には、ピン挿入孔30、31が設けてある。
【0018】
次に、中蓋9の交換方法について説明する。先ず、中蓋9を吊下げた真空蓋6を炉体1の上部から退避させ、所定の中蓋交換位置に移動させる。次に、カバー44を取り外し、図示しない中蓋昇降装置で中蓋昇降用吊金具48を下降させ、中蓋昇降用吊金具48の先端を支持片27、28の間に通す。中蓋昇降用吊金具48の先端には、ピン挿入孔30、31と略等しい径の孔49が設けられており、ピン挿入孔30、31と孔49に図示しないピンを通し、中蓋昇降用吊金具48と中蓋9を連結する。その次に、中蓋昇降装置で中蓋昇降用吊金具48及び中蓋9を少しだけ上昇させ、連結杆46を抜き、中蓋昇降装置で中蓋9を下降させる。その後、ピンを抜いて使い終わった中蓋9を真空蓋6の下部から退避させた後、新しい中蓋9を真空蓋9の下部に配置する。なお、新しい中蓋9のカラー16、17の間には、新しい可撓性耐火材15が載置されている。次に、中蓋昇降用吊金具48の先端を中蓋吊具20の支持片27、28の間に通し、ピン挿入孔30、31と孔49に図示しないピンを通して中蓋昇降用吊金具48と中蓋9を連結する。次に、中蓋9を、可撓性耐火材15の上面が真空蓋6の内面に当接するまで上昇させた後、透孔29に連結杆46を通し、該連結杆46の両端をフランジ43で支持する。その後、ピンを抜いて中蓋昇降用吊金具48と中蓋9との連結を解除し、中蓋昇降用吊金具48を上昇させた後、フランジ43にカバー44を被せてネジにより固定する。
【0019】
本発明は、図2に示すように、中蓋9の上面に開口部13を囲むようにして載置した可撓性耐火材15を、真空蓋6の内面に当接させたため、開口部13内部及び開口部13付近のガスは、矢印Aの方向へは流れず、矢印Bの方向へのみ流れる。よって、スプラッシュが中蓋9へ向かって進む速度が遅くなるため、中蓋9、特に開口部13へのスプラッシュの付着を低減でき、ひいては、中蓋9の寿命を延ばし、中蓋9の交換によるコスト的・時間的ロスを低減することができる。また、中蓋9が笠部11を有しているため、溶融金属3と開口部13の上部との距離が遠くなり、この部分へのスプラッシュの付着を減少させることができる。さらに、笠部11の上端面14に可撓性耐火材15を載置したため、合金投入孔8から投入された合金材料が、中蓋9の上面に堆積することがない。よって、溶融金属3の成分調整を効率よく行える。
【0020】
次に図5に示すこの発明の第2の実施形態を説明する。この例の真空精錬装置は、前記第1実施形態に比べて、中蓋の形状が異なるだけで、その他の構成は第1実施形態と同様であるので、図2、図4と同一または相当部分には同一符号を付して図示し、それらの部分の詳細な説明は省略する。
【0021】
中蓋50は、図5に示されるように、内部に合金材料を通すための開口部53を有する筒状部51と、筒状部51の下端から外方へ延びる鍔部52と、鍔部52上面の円周方向等間隔3箇所に設けられた中蓋吊具54とからなる。
筒状部51の上端面55には、第1実施形態と同様に、短筒状のカラー16、17が立設され、内側のカラー16の外周には可撓性耐火材(カオウール)15が載置されている。なお、可撓性耐火材15の載置方法は第1実施形態と同様である。
【0022】
中蓋50は、開口部53の軸芯が合金投入孔8の軸芯に略一致し、可撓性耐火材15の上面が真空蓋6の内面に当接するように、中蓋吊具54によって真空蓋6から吊り下げられている。
【0023】
この例でも、筒状部51の上端面55に載置した可撓性耐火材15を真空蓋6の内面に当接させているため、開口部53内部のガスが矢印Aの方向へは流れず、矢印Bの方向へのみ流れる。よって、スプラッシュが中蓋50へ向かって進む速度が遅くなるため、中蓋50、特に開口部53へのスプラッシュ付着を低減でき、ひいては、中蓋50の寿命を延ばし、中蓋50の交換によるコスト的・時間的ロスを低減することができる。
【0024】
この発明は上記の例に限定されるものではなく、可撓性耐火材として、カオウールではなく、ファイバフラックス等、その他のセラミックファイバを使用することもできる。また、可撓性耐火材の形状や固定方法も上記の例に限定されず、例えば可撓性耐火材の断面形状は丸でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】溶融金属の真空精錬装置の概略縦断面図。
【図2】第1実施形態に係る溶融金属の真空精錬装置の、真空蓋部分の縦断面図。
【図3】カラー及び可撓性耐火材の部分の水平断面図。
【図4】中蓋の吊下げ構造を示す縦断面図。
【図5】第2実施形態に係る溶融金属の真空精錬装置の、真空蓋部分の縦断面図。
【符号の説明】
【0026】
1・・・炉体、2・・・羽口、3・・・溶融金属、4・・・スラグ、5・・・炉口部、6・・・真空蓋、7・・・ダクト、8・・・合金投入孔、9・・・中蓋、10・・・中蓋本体、11・・・笠部、12・・・鍔部、13・・・開口部、14・・・上端面、15・・・可撓性耐火材(カオウール)、16・・・カラー、17・・・カラー、20・・・中蓋吊具、50・・・中蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属撹拌用のガスを吹き込む羽口を備えた炉体の炉口部に、真空排気装置に接続したダクトと合金投入孔とを有する真空蓋を被せ、前記真空蓋の内部に、前記合金投入孔から投入された合金材料を通過させる開口部を有する中蓋を設けてなる溶融金属の真空精錬装置において、
前記中蓋の上面に、前記開口部を囲む可撓性耐火材を設け、前記可撓性耐火材の上面を前記真空蓋の内面に当接させたことを特徴とする溶融金属の真空精錬装置。
【請求項2】
前記中蓋が、その周縁より中央に向かって次第に溶融金属の表面から遠ざかる笠形状を呈する笠部を有し、前記笠部の上端面上に前記可撓性耐火材を載置したことを特徴とする請求項1記載の溶融金属の真空精錬装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−43343(P2010−43343A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209613(P2008−209613)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】