説明

溶解保持炉制御装置

【課題】溶解保持炉の設置に必要な空間を小さくできる溶解保持炉制御装置を提供する。
【解決手段】新材43と後工程に配置された鋳造機40から回収されるリターン材42とを含む金属材料44を溶解して溶湯36を生成する溶解炉31と、溶湯36を保持して鋳造機40に供給する保持炉33とを備えた溶解保持炉30を制御する溶解保持炉制御装置であって、溶解炉31に新材43を供給する新材供給部12と、リターン材42を回収して溶解炉31に供給するリターン材供給部16と、リターン材42が滞りなく溶解炉31に供給されるように、新材供給部12での新材43の供給を制御する制御部10とを有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料を溶解して溶湯を生成し、生成した溶湯を保持する溶解保持炉の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、投入された金属材料を溶解して溶湯を生成する溶解炉と、生成した溶湯を保持する保持炉とを備えた溶解保持炉がある(例えば、特許文献1参照)。保持炉により保持された溶湯は、後工程に配置された鋳造機に供給される。溶解炉に投入される金属材料には、新材と鋳造機から回収されるリターン材とが用いられる。
【0003】
近年では生産のグローバル化により、設計自由度が高く空間ロスの少ない生産設備が求められている。これに伴い、溶解保持炉についても、設置に必要な空間を小さくすることが要求されている。
【特許文献1】特開2005−76972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の溶解炉は、投入された金属材料を大量に保持するために非常に大きい材料保持空間を内部に有している。また従来の溶解炉の近傍には、溶解炉への投入限度を超えるリターン材を一時的に保持するために、リターン材バッファ空間が設けられている。したがって、従来の溶解保持炉は、設置に必要な空間が大きくなってしまうという問題を有している。
【0005】
本発明の目的は、溶解保持炉の設置に必要な空間を小さくできる溶解保持炉制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0007】
請求項1に記載の発明は、新材(43)と後工程に配置された鋳造機(40)から回収されるリターン材(42)とを含む金属材料(44)を溶解して溶湯(36)を生成する溶解炉(31)と、溶湯(36)を保持して鋳造機(40)に供給する保持炉(33)とを備えた溶解保持炉(30)を制御する溶解保持炉制御装置であって、溶解炉(31)に新材(43)を供給する新材供給部(12)と、リターン材(42)を回収して溶解炉(31)に供給するリターン材供給部(16)と、リターン材(42)が滞りなく溶解炉(31)に供給されるように、新材供給部(12)での新材(43)の供給を制御する制御部(10)とを有することを特徴としている。
【0008】
これにより、リターン材(42)が滞りなく溶解炉(31)に供給されるようになるため、リターン材(42)を一時的に保持するためのリターン材バッファ空間を溶解炉(31)近傍に設ける必要がなくなったり、少なくとも必要なリターン材バッファ空間を縮小することができる。したがって、溶解保持炉(30)の設置に必要な空間を小さくできる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、制御部(10)は、鋳造機(40)が停止したら、少なくとも鋳造機(40)の運転が再開されるまで新材供給部(12)に新材(43)の供給を停止させることを特徴としている。
【0010】
これにより、鋳造機(40)が停止した後に溶落によって溶解炉(31)内の金属材料(44)の材料充填高さが低下しても、溶解炉(31)には金属材料(44)が投入されなくなる。このため、溶解炉(31)での金属材料(44)の投入容量が十分に確保されるので、鋳造機(40)の運転が再開された後に、鋳造機(40)から回収されるリターン材(42)を滞りなく溶解炉(31)に供給できる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、制御部(10)は、鋳造機(40)の運転が再開された後に、保持炉(33)内の溶湯(36)の湯面高さが所定の高さ(Ls)以下になったら、新材供給部(12)に新材(43)の供給を再開させることを特徴としている。
【0012】
鋳造機(40)の運転が再開されたときには、鋳造機(40)が停止している間の金属材料(44)の溶落によって溶湯(36)の湯面高さが高くなっている。この状態で溶解炉(31)に新材(43)を供給すると、供給した新材(43)を溶解できない場合があるため、溶解の遅延が生じてしまう。したがって、溶湯(36)の湯面高さが低下した後に新材(43)を供給することによって、溶解炉(31)での金属材料(44)の溶解の遅延を防止できるため、鋳造機(40)から回収されるリターン材(42)を滞りなく溶解炉(31)に供給できる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、制御部(10)は、鋳造機(40)を停止させる前に、新材供給部(12)に新材(43)の供給を停止させることを特徴としている。例えば請求項5に記載の発明のように、制御部(10)は、保持炉(33)内の溶湯(36)の湯面高さが第1の高さ(L1)以下になったら、鋳造機(40)を停止させるための鋳造停止要求信号を鋳造機(40)に出力するようにする。
【0014】
新材(43)の供給を停止させて溶湯(36)の湯面高さが低下した後に鋳造機(40)を停止させることによって、鋳造機(40)の運転が再開されるときの溶湯(36)の湯面高さを低くできる。これにより、鋳造機(40)の運転が再開された後の溶解炉(31)での金属材料(44)の溶解の遅延を防止できる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、溶解炉(31)の廃熱温度を検出して廃熱温度信号を制御部(10)に出力する廃熱温度検出器(21)をさらに有し、制御部(10)は、鋳造機(40)が停止した後に、溶解炉(31)に既に投入されている金属材料(44)を溶落させ、廃熱温度信号に基づいて金属材料(44)の溶落完了を判断することを特徴としている。これにより、溶解炉(31)での金属材料(44)の溶落が完了したことを的確に判断できる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、所定の情報を通知する通知部(22)をさらに有し、制御部(10)は、金属材料(44)の溶落が完了したと判断したら、通知部(22)に対し、金属材料(44)の溶落完了を作業者に通知させることを特徴としている。これにより、作業者は適切な時期に溶解炉(31)の炉内清掃を行うことができる。
【0017】
請求項8に記載の発明は、制御部(10)は、鋳造機(40)の運転を再開させる前に、新材供給部(12)に新材(43)を供給させることを特徴としている。新材(43)を供給することにより、鋳造機(40)の停止中に低下させた溶湯(36)の湯面高さを再び高くできるので、鋳造機(40)の運転が再開された後に溶湯(36)が不足することを防止できる。
【0018】
請求項9に記載の発明は、制御部(10)は、湯面高さが第1の高さ(L1)より高い第2の高さ(Ls)以上になったら、新材供給部(12)に新材(43)の供給を停止させ、鋳造機(40)の運転を再開させるための鋳造開始要求信号を鋳造機(40)に出力することを特徴としている。鋳造機(40)の運転が再開される前に新材(43)の供給を停止させることによって、溶解炉(31)での金属材料(44)の溶解の遅延を防止できる。
【0019】
請求項10に記載の発明は、制御部(10)は、鋳造機(40)の運転が再開された後に、湯面高さが第2の高さ(Ls)以下になったら、新材供給部(12)に新材(43)の供給を開始させることを特徴としている。
【0020】
溶解炉(31)への新材(43)の供給を停止させても、溶湯(36)の湯面高さはしばらくの間上昇する。したがって、鋳造機(40)の運転が再開されて溶湯(36)の湯面高さが低下してから溶解炉(31)に新材(43)を供給することによって、金属材料(44)の溶解の遅延を防止することができる。
【0021】
ここで、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態における溶解保持炉制御装置1と、溶解保持炉制御装置1により制御される溶解保持炉30と、溶解保持炉30の後工程に配置された鋳造機40との構成を模式的に示すブロック図である。図1に示すように、溶解保持炉30は、新材43及びリターン材42を含む金属材料44が供給され、金属材料44を溶解して溶湯36を生成する溶解炉31と、生成した溶湯36を収容して保持する保持炉33とを備えている。ここで新材43としては、例えばアルミニウムやアルミニウム合金等が用いられる。
【0023】
溶解炉31には、金属材料44を加熱して溶解するための溶解バーナ32が設けられている。保持炉33には、溶湯36を所定温度に保つための保持バーナ34が設けられている。また保持炉33は、鋳造機40に供給するために溶湯36が汲み出される汲出し室35を有している。
【0024】
鋳造機40は、溶解保持炉30から供給された溶湯36を用いて製品41を鋳造し、鋳造物のうち製品41以外の余剰部分(ランナー等)をリターン材42として溶解保持炉30側に戻すようになっている。
【0025】
溶解保持炉制御装置1は、溶解炉31に新材43を供給する新材供給部12と、鋳造機40から戻されるリターン材42を回収して溶解炉31に供給するリターン材供給部16とを有している。新材供給部12は、外部から供給された新材43を一時的に保持するバッファとしてのバケット13と、新材43を溶解炉31に投入するためのベルトコンベア14とを有している。リターン材供給部16は、リターン材42を溶解炉31に投入するためのベルトコンベア17を有しているが、リターン材42を一時的に保持するバッファを有していない。
【0026】
溶解保持炉制御装置1は、保持炉33内(例えば汲出し室35)の溶湯36の湯面高さを検出して湯面高さ信号を出力する湯面高さ検出器18を有している。湯面高さ検出器18は、例えばレーザ変位計と反射鏡とを備え、溶湯36の湯面高さを非接触で検出するようになっている。また溶解保持炉制御装置1は、溶解炉31内の金属材料44の充填高さを検出して材料充填高さ信号を出力する材料充填高さ検出器20を有している。材料充填高さ検出器20は、例えば複数組の投光素子20a及び受光素子20bを備えている。また溶解保持炉制御装置1は、湯面高さ信号及び材料充填高さ信号と、鋳造機40から出力される鋳造停止信号とが入力される制御部10を有している。制御部10は、リターン材供給部16により回収されたリターン材42が滞りなく溶解炉31に供給されるように、湯面高さ信号及び鋳造停止信号に基づいて新材供給部12での新材43の供給を制御するようになっている。また制御部10は、材料充填高さ信号に基づいて、新材供給部12での新材43の供給を制御するようになっている。さらに制御部10は、湯面高さ信号に基づいて、溶解バーナ32の燃焼出力を制御するようになっている。
【0027】
次に、本実施形態における溶解保持炉制御装置1の作動について説明する。図2は、本実施形態における溶解保持炉制御装置1の作動を示すタイミングチャートである。図2(a)〜(e)の横軸は時間を表している。図2(a)の縦軸は鋳造機40の運転状態(運転/停止)を表し、図2(b)の縦軸は新材供給部12の作動状態(作動/停止)を表し、図2(c)の縦軸はリターン材供給部16の作動状態(作動/停止)を表している。図2(d)の縦軸は溶湯36の湯面高さ(保持炉33内の溶湯保持量)を表している。ここで高さLsは、予め設定された基準レベルである。図2(e)の縦軸は、溶解炉31内の材料充填高さを表している。ここで、高さH1は新材43の供給を停止する新材供給停止レベルであり、高さH2は溶解炉31での金属材料44の溢れを防止するために新材43及びリターン材42の供給を停止するオーバーフローレベルである。高さH1は、高さH2より十分に低く設定されている。
【0028】
図2(a)〜(e)に示すように、初期状態では、鋳造機40が運転しており、新材供給部12及びリターン材供給部16がいずれも作動している。また、初期状態での制御部10は、溶湯36の湯面高さが高さLs程度に維持されるように溶解バーナ32の燃焼出力を制御しており、材料充填高さが高さH1程度に維持されるように新材供給部12での新材43の供給量を制御している。
【0029】
時間t1に鋳造機40が一時停止したとする。このとき鋳造機40は、制御部10に鋳造停止信号を出力する。鋳造停止信号が入力された制御部10は、新材供給部12の作動を停止させる。これにより、溶解炉31への新材43の供給が停止される。ここで、リターン材供給部16は作動し続けるが、鋳造機40が停止している状態ではリターン材42が回収されないため、実際には溶解炉31へのリターン材42の供給も停止される。
【0030】
時間t1以降、溶解炉31に既に投入されている金属材料44が溶解バーナ32による加熱によって溶落するため、溶解炉31内の材料充填高さは高さH1から単調に低下する。金属材料44の溶落により保持炉33内の溶湯36が増加するのに対し、鋳造機40には溶湯36が供給されないため、溶湯36の湯面高さは高さLsから単調に上昇する。
【0031】
時間t2に鋳造機40の運転が再開されたとする。鋳造機40の運転が再開された時点では溶解炉31への新材43の供給を再開しないため、鋳造機40は、制御部10に鋳造開始信号を出力する必要はない。鋳造機40が運転している状態ではリターン材42がリターン材供給部16により回収されるため、溶解炉31へのリターン材42の供給が再開される。
【0032】
時間t2以降、溶解炉31はリターン材42のみを溶解して溶湯36を生成するのに対し、鋳造機40は溶湯36を用いて製品41を製造し続けるため、溶湯36の量は鋳造機40で製造される製品41の分だけ減少する。したがって、溶湯36の湯面高さは単調に低下する。溶解炉31内の材料充填高さは高さH2より十分に低いため、リターン材42は滞りなく溶解炉31内に供給される。
【0033】
時間t3に溶湯36の湯面高さが基準レベルの高さLs以下に低下すると、制御部10は新材供給部12の作動を再開させる。これにより、溶解炉31への新材43の供給が再開される。
【0034】
時間t3以降、新材43が供給されることにより、溶解炉31内の材料充填高さは上昇する。溶解炉31内の材料充填高さは高さH2より十分に低いため、リターン材42は滞りなく溶解炉31内に供給される。制御部10は、溶湯36の湯面高さが高さLs程度を維持するように溶解バーナ32の燃焼出力を制御する。
【0035】
時間t4に鋳造機40が再び一時停止したとする。このとき鋳造機40は、制御部10に鋳造停止信号を出力する。鋳造停止信号が入力された制御部10は、新材供給部12の作動を停止させる。これにより、溶解炉31への新材43の供給が停止される。リターン材供給部16は作動し続けるが、鋳造機40が停止している状態ではリターン材42が回収されないため、実際には溶解炉31へのリターン材42の供給も停止される。
【0036】
時間t4以降、溶解炉31に既に投入されている金属材料44が溶落するため、溶解炉31内の材料充填高さは低下する。金属材料44の溶落により保持炉33内の溶湯36は増加するのに対し、鋳造機40には溶湯36が供給されないため、溶湯36の湯面高さは高さLsから単調に上昇する。
【0037】
時間t5に鋳造機40の運転が再開されたとする。鋳造機40の運転が再開された時点では溶解炉31への新材43の供給を再開しないため、鋳造機40は、制御部10に鋳造開始信号を出力する必要はない。鋳造機40が運転している状態ではリターン材42がリターン材供給部16により回収されるため、溶解炉31へのリターン材42の供給が再開される。
【0038】
時間t5以降、溶解炉31はリターン材42のみを溶解して溶湯36を生成するのに対し、鋳造機40は溶湯36を用いて製品41を製造し続けるため、溶湯36の量は鋳造機40で製造される製品41の分だけ減少する。したがって、溶湯36の湯面高さは単調に低下する。溶解炉31内の材料充填高さは高さH2より十分に低いため、リターン材42は滞りなく溶解炉31内に供給される。
【0039】
時間t6に溶湯36の湯面高さが高さLs以下に低下すると、制御部10は新材供給部12の作動を再開させる。これにより、溶解炉31への新材43の供給が再開される。
【0040】
時間t6以降、新材43が供給されることにより、溶解炉31内の材料充填高さは高さH1程度まで上昇する。溶解炉31内の材料充填高さは高さH2より十分に低いため、リターン材42は滞りなく溶解炉31内に供給される。制御部10は、溶湯36の湯面高さが高さLs程度を維持するように溶解バーナ32の燃焼出力を制御する。その後も以上の説明と同様に溶解保持炉制御装置1が作動する。
【0041】
溶解保持炉30の設置空間を小さくするには、金属材料44を保持するためのバッファ空間を設けないことによる溶解炉31のバッファレス化が有効である。リターン材42に関して溶解炉31のバッファレス化を実現するためには、鋳造開始から鋳造終了までの間、鋳造機40から回収されたリターン材42を滞りなく溶解炉31内に供給し続けられるようにする必要がある。
【0042】
一般に溶解工程は、後工程である鋳造工程に対して容量性のある制御要素となる。すなわち、鋳造機40の運転開始から実際に鋳造が開始されるまでの間、及び鋳造機40の停止から実際に鋳造が終了するまでの間は比較的短時間であるのに対し、溶解バーナ32の燃焼開始から実際に金属材料44の溶解が開始されるまでの間、及び溶解バーナ32の燃焼停止から実際に金属材料44の溶解が終了するまでの間は比較的長時間である。このため、溶解工程では無駄時間や遅延が生じ易いので、溶解バーナ32の作動状態を鋳造機40の運転状態に完全に同期して制御することは困難である。
【0043】
本実施形態では、鋳造機40が停止した時間t1、t4以降に溶落によって溶解炉31内の金属材料44の材料充填高さが低下しても、溶解炉31には金属材料44(新材43)を投入しないようにしている。これにより、溶解炉31での金属材料44の投入容量が十分に確保されるので、鋳造機40の運転が再開された時間t2、t5以降に、鋳造機40から回収されるリターン材42を滞りなく溶解炉31に供給できる。このため、溶解炉31内の材料保持空間が比較的小さくても、リターン材42を一時的に保持するためのリターン材バッファ空間を溶解炉31近傍に設ける必要がなくなる。したがって、溶解保持炉30の設置に必要な空間を小さくできる。
【0044】
鋳造機40の運転が再開された時間t2、t5には、鋳造機40が停止している間の金属材料44の溶落によって溶湯36の湯面高さが高くなっている。このため、溶解炉31の溶解バーナ32は、燃焼出力が比較的低い状態又は燃焼停止状態にある。この状態で溶解炉31に新材43を供給すると、供給した新材43を溶解できないため、溶解の遅延が生じてしまう。このような溶解の遅延が生じると、回収されるリターン材42を滞りなく溶解炉31に供給できない。したがって本実施形態のように、溶湯36の湯面高さが高さLs以下に低下した時間t3、t6以降に新材43を供給すれば、溶解炉31での金属材料44の溶解の遅延を防止できるため、鋳造機40から回収されるリターン材42を滞りなく溶解炉31に供給できる。
【0045】
さらに、鋳造機40で生成されたリターン材42はバッファ空間等で滞ってしまうことなく溶解炉31に供給されるため、新材43より高い温度を有している。したがって、溶解炉31で金属材料44を溶解するのに必要な熱量を低減できる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図3は、本実施形態における溶解保持炉制御装置2と、溶解保持炉制御装置2により制御される溶解保持炉30と、溶解保持炉30の後工程に配置された鋳造機40との構成を模式的に示すブロック図である。ここで、第1実施形態の構成要素と同一の機能を有する構成要素については、図3において図1と同一の符号を付し、その説明を省略する。図3に示すように、溶解保持炉制御装置2は、溶解炉31から排出される排気の廃熱温度を検出し、廃熱温度信号を制御部10に出力する廃熱温度検出器21と、通知音を出力する通知音出力部や所定の色で点灯する表示灯等を有し、作業者に情報を通知する通知部22とを備えている点に構成上の特徴を有している。廃熱温度検出器21は、例えば溶解炉31の上部に設けられている。通知部22には、溶解炉31内の金属材料44の溶落が完了したときに制御部10から出力される溶落完了信号が入力されるようになっている。また溶解保持炉制御装置2は、制御部10が鋳造機40に鋳造開始/要求信号を出力する点と、制御部10に鋳造機40からの鋳造開始信号が入力される点とに特徴を有している。
【0047】
図4は、本実施形態における溶解保持炉制御装置2の作動を示すタイミングチャートである。図4(a)〜(h)の横軸は時間を表している。図4(a)の縦軸は鋳造機40の運転状態(運転/停止)を表し、図4(b)の縦軸は、溶解炉31に既に投入されている金属材料44を溶落させるための溶落モードの設定状態(ON/OFF)を表している。図4(c)の縦軸は新材供給部12の作動状態(作動/停止)を表し、図4(d)の縦軸はリターン材供給部16の作動状態(作動/停止)を表している。図4(e)の縦軸は、溶湯36の湯面高さを表している。ここで、高さLsは予め設定された基準レベルであり、高さLminは溶湯不足により鋳造機40の作動を禁止する鋳造禁止レベルである。図4(f)の縦軸は鋳造停止要求信号の出力状態(ON/OFF)を表し、図4(g)の縦軸は溶解バーナ32の作動状態(作動/停止)を表し、図4(h)の縦軸は鋳造開始要求信号の出力状態(ON/OFF)を表している。
【0048】
図4(a)〜(h)に示すように、初期状態では、鋳造機40が運転しており、溶落モードが非設定(OFF)であり、新材供給部12及びリターン材供給部16がいずれも作動しており、溶解バーナ32が作動している。また、初期状態での制御部10は、溶湯36の湯面高さが高さLs程度に維持されるように溶解バーナ32の燃焼出力を制御している。
【0049】
まず、休日前等に鋳造機40及び溶解バーナ32の運転を停止させ、溶解炉31内を清掃する場合の溶解保持炉制御装置2の作動について説明する。予め設定されたスケジュール又は作業者の操作によって時間t11に鋳造停止処理が開始されたとすると、まず制御部10は、自らの動作モードを溶落モードに設定する(ON)。溶落モードに設定された制御部10は、新材供給部12の作動を停止させる。これにより、溶解炉31への新材43の供給が停止される。
【0050】
時間t11以降、溶解炉31ではリターン材42のみを溶解して溶湯36を生成するのに対し、鋳造機40は溶湯36を用いて製品41を製造し続けるため、溶湯36の量は鋳造機40で製造される製品41の分だけ減少する。したがって、溶湯36の湯面高さは単調に低下する。
【0051】
時間t12に溶湯36の湯面高さが高さL1(Ls>L1>Lmin)以下に低下すると、制御部10は、鋳造機40に鋳造停止要求信号を出力する。高さL1は、鋳造機40が実際に停止するまで湯面高さが低下し続けることを考慮し、湯面高さが高さLminに達しないように設定される。また高さL1は、後述する高さL2がL1<L2<Lsを満たすように設定される。鋳造停止要求信号が入力された鋳造機40側では、例えば通知音の出力や表示灯の点灯等により鋳造停止要求が作業者に伝達され、鋳造機40の運転が作業者の操作により停止される。
【0052】
時間t13に鋳造機40が停止したとする。このとき鋳造機40は、制御部10に鋳造停止信号を出力する。鋳造停止信号が入力された制御部10は、リターン材供給部16の作動を停止させる。ここで、時間t13以降は鋳造機40が停止しているためリターン材42は回収されない。したがって、仮に鋳造機40を停止させるのが比較的短時間であることが予め分かっていれば、リターン材供給部16を停止させる必要はない。
【0053】
時間t13以降も依然として溶解バーナ32は燃焼状態にあるので、溶解炉31に既に投入されている金属材料44は徐々に溶落する。一方、鋳造機40は停止しているため、保持炉33から鋳造機40に溶湯36が供給されることはない。このため、溶湯36の湯面高さは、金属材料44が全て溶落するまで単調に上昇する。ほぼ全ての金属材料44が溶落すると、溶湯36の湯面高さは高さL2(L1<L2<Ls)で安定する。またほぼ全ての金属材料44が溶落すると、溶解バーナ32での燃焼熱が金属材料44の溶解潜熱として吸収されなくなるので、廃熱温度は上昇する。したがって制御部10は、廃熱温度検出器21からの廃熱温度信号に基づいて廃熱温度の上昇を検知することにより、金属材料44の溶落完了を判断する。
【0054】
時間t14に、金属材料44の溶落が完了したと制御部10が判断したとする。このとき制御部10は、自らの溶落モードの設定を解除する(OFF)とともに、溶解バーナ32を停止させる。
【0055】
溶解炉31内に堆積した酸化物等を除去する炉内清掃は、溶解炉31内の金属材料44の溶落が完了した後に行われる。したがって制御部10は、金属材料44の溶落が完了したと判断したら、溶落完了信号を通知部22に出力する。溶落完了信号が入力された通知部22は、通知音を所定時間出力するとともに表示灯を点灯させ、炉内清掃が可能になったことを作業者に通知する。通知音の出力又は表示灯の点灯を確認した作業者は、溶解炉31の炉内清掃を行う。以上の手順により、鋳造機40及び溶解バーナ32の停止処理が完了する。
【0056】
次に、例えば休日明け等に鋳造機40及び溶解バーナ32の運転を再開する場合の溶解保持炉制御装置2の作動について説明する。予め設定されたスケジュール又は作業者の操作によって時間t15に鋳造再開処理が開始されたとすると、制御部10は、溶解バーナ32及び新材供給部12を作動させる。これにより、溶解バーナ32の燃焼が開始されるとともに、溶解炉31への新材43の供給が開始される。溶解炉31に供給された新材43は温度が比較的低いため、溶解バーナ32の燃焼開始直後は溶解せず、時間t15から所定時間経過後に溶解し始める。
【0057】
時間t16に溶湯36の湯面高さが高さLs以上に上昇すると、制御部10は、新材供給部12を停止させる。これにより、溶解炉31への新材43の供給が停止される。また制御部10は、鋳造機40に鋳造開始要求信号を出力する。鋳造開始要求信号が入力された鋳造機40側では、例えば通知音の出力や表示灯の点灯等により鋳造開始要求が作業者に伝達され、鋳造機40の運転が作業者の操作により開始される。溶湯36の湯面高さは、鋳造機40の運転が実際に開始されるまで単調に上昇する。
【0058】
時間t17に鋳造機40の運転が開始されたとすると、鋳造機40は制御部10に鋳造開始信号を出力する。鋳造開始信号が入力された制御部10は、リターン材供給部16を作動させる。鋳造機40の運転が開始されるとリターン材42が回収されるため、溶解炉31へのリターン材42の供給が開始される。
【0059】
時間t17以降、溶解炉31ではリターン材42のみを溶解して溶湯36を生成するのに対し、鋳造機40は溶湯36を用いて製品41を製造し続けるため、溶湯36の湯面高さは単調に低下する。
【0060】
時間t18に湯面高さが高さLs以下に低下すると、制御部10は、新材供給部12を作動させる。これにより溶解炉31への新材43の供給が開始される。
【0061】
時間t18以降、制御部10は、溶湯36の湯面高さが高さLs程度に維持されるように溶解バーナ32の燃焼出力を制御する。
【0062】
本実施形態では、新材43の供給を停止させて溶湯36の湯面高さが高さL1に低下した時間t12以降に、鋳造機40を停止させている。これにより、鋳造機40の運転が再開されるときの溶湯36の湯面高さL2を低くできる。このため、鋳造機40の運転が再開された後の溶解炉31での金属材料44の溶解の遅延を防止できるので、鋳造機40から回収されるリターン材42を滞りなく溶解炉31に供給できる。したがって、リターン材バッファ空間を溶解炉31近傍に設ける必要がなくなるため、溶解保持炉30の設置に必要な空間を小さくできる。
【0063】
また本実施形態では、鋳造機40の停止中に低下させた溶湯36の湯面高さを鋳造機40の運転再開前に再び高くできる。したがって、鋳造機40の運転が再開された時間t14以降に溶湯36が不足することを防止できる。
【0064】
さらに本実施形態では、鋳造機40の運転が再開される前に新材43の供給を停止させている。これにより、溶解炉31での金属材料44の溶解の遅延を防止できる。
【0065】
ただし、溶解炉31への新材43の供給を停止させても、溶湯36の湯面高さはしばらくの間上昇する。したがって本実施形態では、鋳造機40の運転が再開されて溶湯36の湯面高さが低下してから溶解炉31に新材43を供給している。これにより、金属材料44の溶解の遅延をより確実に防止することができる。
【0066】
また本実施形態では、溶解炉31の廃熱温度の変化によって金属材料44の溶落完了を判断し、溶落完了したことを作業者に通知している。これにより、金属材料44の溶落が完了したことを的確に判断できる。また作業者は、適切な時期に溶解炉31の炉内清掃を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1実施形態における溶解保持炉制御装置、溶解保持炉及び鋳造機の構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態における溶解保持炉制御装置の作動を示すタイミングチャートである。
【図3】本発明の第2実施形態における溶解保持炉制御装置、溶解保持炉及び鋳造機の構成を模式的に示すブロック図である。
【図4】本発明の第2実施形態における溶解保持炉制御装置の作動を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0068】
1、2 溶解保持炉制御装置
10 制御部
12 新材供給部
16 リターン材供給部
21 廃熱温度検出器
22 通知部
31 溶解炉
33 保持炉
36 溶湯
40 鋳造機
42 リターン材
43 新材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新材(43)と後工程に配置された鋳造機(40)から回収されるリターン材(42)とを含む金属材料(44)を溶解して溶湯(36)を生成する溶解炉(31)と、前記溶湯(36)を保持して前記鋳造機(40)に供給する保持炉(33)とを備えた溶解保持炉(30)を制御する溶解保持炉制御装置であって、
前記溶解炉(31)に前記新材(43)を供給する新材供給部(12)と、
前記リターン材(42)を回収して前記溶解炉(31)に供給するリターン材供給部(16)と、
前記リターン材(42)が滞りなく前記溶解炉(31)に供給されるように、前記新材供給部(12)での前記新材(43)の供給を制御する制御部(10)とを有することを特徴とする溶解保持炉制御装置。
【請求項2】
前記制御部(10)は、前記鋳造機(40)が停止したら、少なくとも前記鋳造機(40)の運転が再開されるまで前記新材供給部(12)に前記新材(43)の供給を停止させることを特徴とする請求項1に記載の溶解保持炉制御装置。
【請求項3】
前記制御部(10)は、前記鋳造機(40)の運転が再開された後に、前記保持炉(33)内の前記溶湯(36)の湯面高さが所定の高さ(Ls)以下になったら、前記新材供給部(12)に前記新材(43)の供給を再開させることを特徴とする請求項2に記載の溶解保持炉制御装置。
【請求項4】
前記制御部(10)は、前記鋳造機(40)を停止させる前に、前記新材供給部(12)に前記新材(43)の供給を停止させることを特徴とする請求項1に記載の溶解保持炉制御装置。
【請求項5】
前記制御部(10)は、前記保持炉(33)内の前記溶湯(36)の湯面高さが第1の高さ(L1)以下になったら、前記鋳造機(40)を停止させるための鋳造停止要求信号を前記鋳造機(40)に出力することを特徴とする請求項4に記載の溶解保持炉制御装置。
【請求項6】
前記溶解炉(31)の廃熱温度を検出して廃熱温度信号を前記制御部(10)に出力する廃熱温度検出器(21)をさらに有し、
前記制御部(10)は、前記鋳造機(40)が停止した後に、前記溶解炉(31)に既に投入されている前記金属材料(44)を溶落させ、前記廃熱温度信号に基づいて前記金属材料(44)の溶落完了を判断することを特徴とする請求項4又は5に記載の溶解保持炉制御装置。
【請求項7】
所定の情報を通知する通知部(22)をさらに有し、
前記制御部(10)は、前記金属材料(44)の溶落が完了したと判断したら、前記通知部(22)に対し、前記金属材料(44)の溶落完了を作業者に通知させることを特徴とする請求項6に記載の溶解保持炉制御装置。
【請求項8】
前記制御部(10)は、前記鋳造機(40)の運転を再開させる前に、前記新材供給部(12)に前記新材(43)を供給させることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の溶解保持炉制御装置。
【請求項9】
前記制御部(10)は、前記湯面高さが前記第1の高さ(L1)より高い第2の高さ(Ls)以上になったら、前記新材供給部(12)に前記新材(43)の供給を停止させ、前記鋳造機(40)の運転を再開させるための鋳造開始要求信号を前記鋳造機(40)に出力することを特徴とする請求項8に記載の溶解保持炉制御装置。
【請求項10】
前記制御部(10)は、前記鋳造機(40)の運転が再開された後に、前記湯面高さが前記第2の高さ(Ls)以下になったら、前記新材供給部(12)に前記新材(43)の供給を開始させることを特徴とする請求項9に記載の溶解保持炉制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−128502(P2008−128502A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310579(P2006−310579)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】