説明

溶解装置およびこれを用いた溶解方法

【課題】金属塩と金属粉との混合物から金属粉を溶解して分離する溶解方法およびそれに用いる溶解装置において、エネルギー効率に優れた移行式プラズマを適用化可能とする。
【解決手段】第1の金属からなるハース10の側面および側面の上縁を覆うように、第2の金属からなる内面部材15を嵌め込む。そして、金属塩と金属粉からなる混合物1を、スキマー13によって区分されたハース10の混合物投入領域16に投入し、プラズマ19aを用いて混合物1の全体を溶解した状態で保持し、上層(金属塩が溶融した溶融塩6)と下層(溶融金属7)の上下2層を比重差によって形成する。内面部材15の溶融塩6に接する部分の温度を溶融塩6の融点以上に保つことによって、ハース10の内面に溶融塩6が凝固して形成される、絶縁体である溶融塩層の生成を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒と金属塩との混合物から金属粒を構成する金属を分離するのに用いる溶解装置であって、熱効率に優れた移行型プラズマを用いて安定した動作が可能な溶解装置、およびこれを用いた溶解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属Tiの工業的な製法としては、TiCl4をMgにより還元するクロール法が一般的であり、この方法によれば高純度の製品を製造することが可能である。しかし、生成したTi粉が凝集した状態で沈降し、反応容器外へ回収することが困難であるため、操業をバッチ方式で行わざるを得ない。また、TiCl4が反応容器内の溶融Mg液の液面に上方から液体状で供給され、溶融Mg液の液面近傍だけで反応が行われるので、TiCl4の利用効率の低下を回避し、反応に伴う局所的な発熱を避けるため、TiCl4の供給速度が制限される。その結果、製造コストが嵩み、製品価格が非常に高くなる。
【0003】
そのため、クロール法以外の金属Tiの製造方法に関して多くの研究開発がなされてきた。例えば、特許文献1には、反応容器内にCaCl2の溶融金属塩(以下、単に「溶融塩」ともいう)を保持し、その溶融塩中に上方から金属Ca粉末を供給して、溶融塩中にCaを溶け込ませるとともに、下方からTiCl4ガスを供給して、CaCl2の溶融塩中で溶解CaとTiCl4を反応させる方法が記載されている。しかし、金属Caの粉末が極めて高価であり、加えて、反応性が強いCaは取り扱いが非常に難しく、この方法は工業的な金属Ti製造法としては成立し得ない。
【0004】
そこで、本発明者らは、Ca還元による金属Tiの製造方法を工業的に確立するには、TiCl4のCaによる還元が不可欠であり、還元反応で消費される溶融塩中のCaを経済的に補充する必要があると考え、溶融CaCl2の電気分解により生成するCaを利用するとともに、このCaを循環使用する方法、即ち「OYIK法(オーイック法)」を提案した(特許文献2および3参照)。
【0005】
特許文献2では、電気分解によりCaが生成、補充され、Ca濃度が高められた溶融CaCl2を反応容器に導入し、Ca還元によるTi粒子の生成に使用する方法が記載され、特許文献3では、更に、陰極として合金電極(例えば、Mg−Ca電極)を用いることにより、電解に伴うバックリアクションを効果的に抑制する方法が示されている。バックリアクションとは、分離工程でTiが分離された後の溶融塩を電解槽に戻したときに、溶融塩中のCaと電気分解により生成したCl2との反応をいい、バックリアクションが生じると、電流効率が低下する。
【0006】
特許文献4には、前記OYIK法に立脚したTiの製造方法が記載されており、還元反応で生成したTi粒を含有する溶融塩からTiを分離する方法として、まず高温デカンターで遠心沈降によりTi粒を溶融塩から分離し、次いで分離槽でプラズマトーチから照射されるプラズマによりTi粒を加熱、溶融して、Ti粒に付着している溶融塩を除去する方法が記載されている。そして、溶融したTiは鋳型に流し込まれインゴットとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4820339号明細書
【特許文献2】特開2005−133195号公報
【特許文献3】特開2005−133196号公報
【特許文献4】国際公開第2007/105616号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図1は、分離槽およびプラズマトーチを備える従来の溶解装置の構成例を示す図である。分離槽であるハース10は底面11と側面12からなり、内部がスキマー13によって混合物投入領域16と溶融Ti領域17とに区分されている。両領域16、17はスキマー13の下部に設けられた連通口14によって連通している。側面12の上縁は、混合物投入領域16側の方が溶融Ti領域17側よりも高く設定されており、双方の側面12の上縁には液体等の流動物の排出のための溝(図示せず)が形成されている。
【0009】
ハース10の上方には、首振り運動が可能であり、混合物投入領域16と溶融Ti領域17にプラズマ19aの照射が可能なプラズマトーチ19が配置されている。ハース10としては、水冷銅ハースが一般的に用いられる。また、スキマー13としては、Y23等のセラミックスを使用することができる。
【0010】
次に、ハース10における操作について説明する。還元反応で生成したTi粒と、CaCl2を含む溶融塩との混合物(以下、固液混合物1という)を、ハース10の混合物投入領域16に投入する。固液混合物1に、プラズマトーチ19からプラズマ19aを照射して、Tiの融点以上に加熱し、固液混合物1の全体を溶融状態とする。そして、この溶融物をTiの融点以上に保持し、Tiと溶融塩との比重差によって、溶融Tiを沈降させ、上層(溶融塩6)と、下層(溶融Ti7)の上下2層に分離させる。
【0011】
そして、固液混合物1をさらに投入すると、溶融物は2層に分離した状態で混合物投入領域16と溶融Ti領域17において液面が上昇し、溶融Ti領域17側の側壁12の上縁から溶融塩が排出され始める。溶融塩が全て排出されると、溶融Ti領域17は溶融Ti7のみが占める状態となり、溶融Ti7が排出される。一方、混合物投入領域16においても液面が上昇し、液面が混合物投入領域16側の側壁12の上縁よりも高くなると、溶融塩6が排出され始める。
【0012】
従来、ハース10で固液混合物1を溶解するのに用いられるプラズマトーチ19としては、トーチ単独でプラズマを発生させることができ、使用が簡便な非移行型プラズマトーチが用いられていた。しかし、非移行型プラズマトーチは熱効率が10%以下と低いため、本発明者らは、30%以上の優れた熱効率を有する移行型プラズマトーチを用いたハース10における固液混合物1の溶解を試行した。移行型プラズマトーチでは、プラズマを発生させるためにトーチと被加熱体との間に通電しなければならないため、プラズマトーチ19とハース10との間に電源を配置した。固液混合物1はTi粒を含む電気伝導体であるため、移行型プラズマトーチを用いた場合でもプラズマによる溶解が可能である。
【0013】
ところが、溶解を連続して行っているうちに、プラズマトーチ19からプラズマが発生しなくなった。また、プラズマが発生しなくなった際にトーチに流す電流を増加するのにともないしばらくはプラズマが発生するものの、ハースの内面が局部的に損傷するという問題が生じた。この原因について検討したところ、ハース10の内面全体に、溶融塩6が凝固した金属塩層が生成していることが分かった。
【0014】
図2は、ハース10の内面に金属塩層8が形成された状態を示す図である。金属塩は絶縁体であるため、金属塩層8によってハース10と溶融Ti7とが絶縁され、溶融Ti7に通電しなくなり、プラズマが発生しなくなったと考えられる。また、ハース10の内面の局部的損傷は、金属塩層8が広がる途中の段階で、ハース10の内面のわずかにチタンが露出している部分を通じて溶融Ti7との間で放電し、溶解したものと考えられる。
【0015】
このように金属塩層8が生成する理由は、以下のように考えられる。ハース10は水冷されているため、固液混合物1を収容した状態ではプラズマ19aが照射されてもハース10の内面の温度はTiおよびCaCl2の融点以下に保たれる。そのため、固液混合物1がプラズマによって溶解された後、プラズマが照射されている状態であっても、ハース10の内面ではTiおよびCaCl2が凝固し、TiおよびCaCl2の混合物からなるシェル4が形成される。
【0016】
シェル4は、プラズマトーチ19の首振り運動等の要因から温度が変動するため、収縮、膨張する。そして、シェル4が収縮した際にできるハース10の内面とシェル4との間の隙間に、混合物投入領域16に上層として存在する溶融塩6が流れ込み、凝固する。このようなシェル4の収縮、膨張が繰り返されるうちに、溶融塩6の流れ込む部分がハース10の内面に次第に広がり、金属塩層8が形成される。このような現象は、固液混合物1中の金属塩とTi粒との比率にかかわらず生じる可能性がある。
【0017】
そこで、本発明は、金属粒と金属塩の混合物を溶解して金属粒を構成する金属を分離するのに用いる溶解装置であって、熱効率に優れた移行型プラズマを用いて安定した動作が可能な溶解装置、およびこれを用いた溶解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明者らが、ハース10の内面とシェル4との間に金属塩層8を生成させない方法について検討したところ、金属塩層8の生成の起点となるのは混合物投入領域16におけるシェル4と上層の溶融塩6とが接する部分であることから、この部分での溶融塩6の凝固を防止することに着想した。
【0019】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたもので、その要旨は、下記(1)の溶解装置および下記(2)の溶解方法にある。
【0020】
(1)側面と底面を有し、第1の金属からなる水冷ハースと、前記水冷ハースの内面にプラズマを照射可能に配置された移行型のプラズマトーチとを備える溶解装置であって、前記水冷ハースの内面のうち少なくとも側面および側面の上縁を覆うように、第2の金属からなる内面部材が嵌め込まれたことを特徴とする溶解装置。
【0021】
前記(1)に記載の溶解装置において、前記内面部材が前記水冷銅ハースの内面の底面も覆うことが望ましく、前記内面部材が一体に形成されていることがより望ましい。また、前記第1の金属をCu、前記第2の金属をTiとすることができる。Tiは金属Tiであっても、合金Tiであってもよい。
【0022】
(2)前記(1)に記載の溶解装置において、金属塩と前記第2の金属からなる金属粉との混合物を前記水冷ハースに収容し、前記プラズマトーチの照射するプラズマによって溶解する溶解方法であって、前記内面部材の前記金属塩に接する部分の温度を前記金属塩の融点以上に保つことを特徴とする溶解方法。水冷ハースに投入する時点での金属塩は、固体状態であっても液体状態であってもよい。
【0023】
前記(2)に記載の溶解方法において、前記水冷ハースの内面を、スキマーにより複数の領域に区分され、前記複数の領域がそれぞれ前記スキマーの下部に設けられた連通口により連通されたものとし、前記混合物を前記水冷ハースの1の領域でプラズマによって溶解し、比重差によって、前記金属粉が溶解した溶融金属からなる層と、前記金属塩が溶解した溶融塩からなる層の上下二層に分離し、上層を前記領域の上部から、下層を前記連通口から排出することとしてもよい。これにより、金属粉を構成する第2の金属と、金属塩とを容易に分離することが可能となる。
【0024】
前記(2)に記載の溶解方法において、前記金属塩をCaCl2、前記第2の金属をTiとすることができる。Tiは金属Tiであっても、合金Tiであってもよい。合金Tiの場合は、内面部材を、金属粉を構成する合金元素とすることにより、分離されたTi合金の汚染を防止することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の溶解装置および溶解方法によれば、内面部材を設けることにより、水冷ハースの内面に絶縁体である金属塩層が形成されるのを防ぐことができるため、トーチと被加熱体との間に通電が必要な移行型プラズマを用いても、安定して金属粒と金属塩(溶融塩)の混合物から金属粒を構成する金属を分離することができる。また、内面部材を構成する金属を分離する金属と同じものとするため、分離する金属を汚染することもない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来の溶解装置の構成例を示す図である。
【図2】従来の溶解装置においてプラズマが発生しなくなった場合の模式図である。
【図3】本発明の第1の実施形態にかかる溶解装置の構成例を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態にかかる溶解装置の別の構成例を示す図であり、(a)は底板を設けた場合、(b)はハースの内面全体を一体化した内面部材で覆った場合である。
【図5】本発明の第2の実施形態にかかる溶解装置の構成例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態にかかる溶解装置の動作を示す図であり、(a)は溶融塩を排出している状態、(b)は溶融Tiを排出している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〈第1の実施形態〉
図3は、本発明の第1の実施形態にかかる溶融装置の構成例を示す図である。図3に示す溶融装置は、プラズマトーチが移行式である点およびハースの内側の側面に内面部材が設けられている点以外は、図1に示すものと同等であり、同一の符号を付している。
【0028】
図3に示すように、プラズマトーチ19は、移行型であり、プラズマトーチ19とハース10との間には、電源20が接続されている。ハース10および固液混合物1は電気伝導体であるため、固液混合物1をハース10に投入した状態で電源20によって電圧を印加するとプラズマトーチ19とハース10および固液混合物1との間でプラズマ19aが発生する。本実施形態において、溶融塩と金属粒からなる固液混合物1に代えて、固体状態の金属塩と金属粒との混合物をハース10に投入してもよい。
【0029】
また、本実施形態のハース10には、側面12の上縁および内面を覆うように、Tiからなる内面部材15が嵌め込まれている。この内面部材15の厚さやハース10との密着度等を調整することにより、ハース10と内面部材15との間の熱伝導量を調整し、プラズマ19aを照射して固液混合物1を溶解している間の内面部材15の溶融塩6に接する面の温度を金属塩の融点以上とすることができる。以下、収容物がない場合に露出しているハース10の内面および内面部材15の露出している面(ハース10の内面が露出していない場合は内面部材15の溶融塩6に接する面)を総称してハース10の内面という。
【0030】
これにより、ハース10の内面でTiが凝固してシェル4が形成され、シェル4の収縮によってハース10の内面との間にできた隙間に、混合物投入領域16に上層として存在する溶融塩6が流れ込んだとしても、溶融塩6が凝固しない。そのため、流れ込んだ溶融塩6はシェル4が膨張した際に上層に押し戻される。また、シェル4と内面部材15とが一体化した場合には、シェル4とハース10の内面との間には隙間ができない。そのため、ハース10の内面に絶縁物である金属塩層8が形成されることがない。
【0031】
ハース10の側面12の上縁も内面部材15によって覆われている。そのため、混合物投入領域16に上層として存在する溶融塩6が混合物投入領域16の上部から外部に排出される際に、ハース10と内面部材15との間に入り込まず、ハース10と内面部材15との間の通電状態は維持される。また、内面部材15の下部は溶融Ti7と接しており、ハース10と内面部材15との間に溶融Ti7が入り込んで凝固したとしても、シェル4の一部となるため、ハース10と内面部材15との間の通電状態は維持される。したがって、電源20から溶融Ti7への通電状態およびプラズマ19aの発生が安定して維持される。
【0032】
また、ハース10が浅い場合や、プラズマトーチ19の出力が大きい場合等、ハース10内全体にプラズマ19aの熱が行き渡り、シェル4が形成されない場合には、ハース10の内面で溶融塩6が凝固しないことおよび溶融Ti7よりも溶融塩6の比重が小さいことから溶融塩6は混合物投入領域16に上層として存在することとなる。この場合にも、溶融Ti7への通電状態およびそれによるプラズマ19aの発生が維持される。
【0033】
したがって、上述のように、シェルの有無にかかわらず、熱効率に優れた移行型プラズマトーチを用いて安定したTiと溶融塩との分離を行うことができる。また、内面部材15は、Tiからなるため、分離されたTiを汚染することがない。Ti粒をTi合金とする場合には、内面部材15を、Ti粒を構成する合金元素からなるものとすることにより、分離されたTi合金の汚染を防止することができる。
【0034】
図4は、本実施形態にかかる溶解装置の別の構成例を示す図である。本実施形態において、図4(a)に示すように、ハース10の側面12の上縁および内面を覆う内面部材15に加えて、ハース10の底面11の内面を覆う底板15aを設けてもよい。また、同図(b)に示すように、内面部材15を一体でハース10の内面全体および側面12の上縁を覆うものとしてもよい。図4では、シェルが形成されていない状態を示す。
【0035】
これらの場合、底面11も含めたハース10の内面の温度を金属塩の融点以上とすることができるため、シェルが形成された後、溶融塩6が底面まで侵入することがあったとしても、金属塩層の形成を防止することができ、より安定した、移行型プラズマトーチを用いたTiと溶融塩との分離を行うことができる。
【0036】
〈第2の実施形態〉
図5は、本発明の第2の実施形態にかかる溶融装置の構成例を示す図である。図5に示す溶融装置は、ハースが傾動可能である点およびハース内にスキマーが設けられていない点以外は、図3に示すものと同等であり、実質的に同一の部分には同一の符号を付している。
【0037】
本実施形態では、ハース10に投入された固液混合物1にプラズマトーチ19からプラズマ19aを照射して、固液混合物1を溶融塩の融点以上Tiの融点未満に加熱する。さらに、固液混合物1をこの温度に保持し、ハース10の底面11に溶融塩6が広がり、溶融塩6中に固体Ti3が分散した状態とする。固液混合物1を構成する固体Tiが、Ti粒が焼結等により結合し、多孔質の塊状となっている場合には、このTi塊の溶融塩6から露出している部分では、Ti塊内部の隙間に存在していた溶融塩または金属塩が外部に排出される。
【0038】
図6は、本発明の第2の実施形態にかかる溶融装置の動作を示す図であり、(a)は溶融塩を排出している状態、(b)は溶融Tiを排出している状態を示す図である。図6では、プラズマトーチ等は省略している。溶融塩6をハース10の底面11に広がった状態とした後、ハース10を、図6(a)に示すように左側が下がるように傾動させ、溶融塩6をハース10の左下に配置された溶融塩容器21に排出し、ハース10内に固体Ti3と排出されなかったわずかな溶融塩とが存在する状態とする。固体Ti3が小さい粒状または粉状である場合には、溶融塩6中で沈降させ、溶融塩6を攪拌しないように排出することにより、溶融塩6とともに排出される固体Ti3を最小限とすることができる。
【0039】
続いて、ハース10を水平に戻して、ハース10内に残存した固体Ti3に、プラズマトーチ19からプラズマ19aを照射して固体Ti3を溶解し、ハース10を右側が下がるように傾動させ、溶融Ti7をハース10の左下に配置されたTi容器22に排出する。固体Ti3は、全体を溶解してから排出してもよいし、部分的に溶解しながら順次Ti容器22に排出してもよい。
【0040】
その後、再びハース10に固液混合物1を投入し、固液混合物1の溶解、溶融塩の排出、Tiの溶解およびTiの排出を繰り返す。固液混合物1の投入は、Tiを全て排出してから行ってもよいし、ハース10内に固体や液体のTiが一部残存した状態で行ってもよい。ハース10内にTiが一部残存した状態で固液混合物1を投入すると、残存した高温のTiによって固液混合物1が加熱されるため、エネルギー効率の面で優れている。
【0041】
本実施形態においても、プラズマ19aの照射により、固液混合物1や固体Ti3を溶解している間の内面部材15の溶融塩やTiに接する面の温度を、金属塩の融点以上とすることができる。そのため、ハース10の内面で溶解したTiが再び凝固してシェルが形成され、シェルの収縮によってシェルとハース10の内面との間にできた隙間に溶融塩が流れ込んだとしても、内面部材15の溶融塩やTiに接する面の温度を金属塩の融点以上となるようにプラズマ19aを照射することにより、その隙間内での溶融塩の凝固を抑制できる。したがって、ハース10の内面に絶縁物である金属塩層8が形成されることがなく、電源20と、被加熱体である固液混合物1や固体Ti3との間の通電状態は維持され、プラズマ19aの発生が安定して維持される。また、本実施形態によれば、スキマーを必要としないため、溶融装置を簡単な構成とすることができる。
【0042】
本実施形態の溶融装置を用いて得られた溶融Tiは、微量の溶融塩を含有する。この溶融Tiを、溶融状態を維持したままで別のハースへ移動させ、溶融塩を除去することにより、Tiを精製することができる。このTiの精製用のハースとしては、上述の第1の実施形態のハースを用いることができる。
【0043】
図6では、溶融塩を排出する場合とTiを排出する場合とで、ハース10を傾動させる方向が異なる。しかし、溶融塩容器21とTi容器22が移動可能である場合など、ハース10に対して同じ側に位置する場合には、ハース10を傾動させる方向は同じであってもよい。
【0044】
本実施形態において、溶融塩と金属粒からなる固液混合物1に代えて、固体状態の金属塩と金属粒との混合物をハース10に投入してもよい。また、ハースの側面の高さは前記図3および図4に示すように左右で異なっていてもよいし、前記図5および図6に示すように均一であってもよい。
【0045】
本実施形態において、内面部材15が図4(a)に示すようにハース10の側面12の上縁および内面のみを覆うものと底板とからなるものであっても、図4(b)に示すようにハースの側面の上面および内面のみを覆うものであってもよい。いずれの場合であっても、底面11も含めたハース10の内面の温度を金属塩の融点以上とすることができるため、シェルが形成された後、溶融塩6が底面まで侵入することがあったとしても、内面部材とシェルとの間における金属塩層の形成を防止することができ、より安定した、移行型プラズマトーチを用いたTiと溶融塩との分離を行うことができる。
【実施例】
【0046】
本発明の金属の溶解装置および溶解方法の効果を確認するため、下記の溶解実験を行い、その結果を評価した。
【0047】
〈試験1〉
1.溶解条件
図4(b)に示す溶解装置を用いて、Ti粒と固体状態のCaCl2の混合物からなる原料を溶融塩と溶融Tiに分離した後、Tiのインゴットを鋳造した。表1は、用いた製造装置の条件である。表1に示すように、チャンバー内雰囲気はアルゴン雰囲気とした。また、本発明例は、水冷ハースにハース内面全体および側面の上縁を覆う一体形成の内面部材を嵌め込み、比較例は、内面部材を用いないこととした。
【0048】
表2は、原料組成、重量および溶解電流量の条件である。原料は、本発明例、比較例ともに、Ti粒を10重量%とCaCl2を90重量%含有する混合物とし、5000〜6000g用いた。
【0049】
溶解電流とは、プラズマトーチに流す電流であり、本発明例、比較例ともに、ハースの上部では、原料全体が溶解するように設定した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
2.試験結果
上記条件で行ったTiインゴットの鋳造について、表3に示すように、ハースの損耗の有無および溶解中断後の溶解の再開の可否を指標として評価を行った。
【0053】
【表3】

【0054】
比較例、本発明例ともに、Tiインゴットの鋳造は可能であった。しかし、表3に示すように、本発明例ではハースの損耗が発生しなかったものの、比較例では発生した。これは、比較例ではハースの内面とシェルとの間に金属塩層の形成が進行しており、ハースの内面の露出している部分において溶融Tiとの間で局部的な放電が発生したためと考えられる。
【0055】
また、本発明例では、溶解を中断し、溶融塩および溶融Tiが凝固した後でも、プラズマトーチからプラズマが発生し、溶解の再開も可能であった。しかし、比較例では、溶解を中断した後では、ハースの内面とシェルとの間に金属塩層が形成されていたため、プラズマトーチからプラズマが発生せず、溶解を再開することができなかった。
【0056】
原料としてTi粒と液体状態のCaCl2との混合物を用いた場合にも、同様の結果となった。
【0057】
〈試験2〉
1.溶解条件
実験1と同様の溶解実験を、前記図5に示す溶解装置を用いて行った。表4は、用いた製造装置の条件である。本発明例では水冷ハースにハース内面全体および側面の上縁を覆う一体形成の内面部材を嵌め込み、比較例は、内面部材を用いなかった。
【0058】
表5は、原料組成、重量および溶解電流量の条件である。原料は、本発明例、比較例ともに、多孔質の塊状に焼結したTi粒を40重量%とCaCl2を60重量%含有する混合物とした。
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
そして、前記図6に示すように、ハースを左に傾動させて溶融塩を排出し、右に傾動させて溶融Tiを排出し、溶融Tiが残った状態で原料を追加する操作を、原料の全量を溶解するまで繰り返した。プラズマの照射はこの操作の間停止しなかった。
【0062】
また、上記の連続溶解試験を行ったハースを用いて、溶融塩がハースの底面に広がった状態とした後、プラズマの照射を中断し、Ti粒と金属塩が凝固した状態とした後、再度プラズマの照射を行った。
【0063】
2.試験結果
上記溶解実験について、表6に示すように、上述の試験1と同様にハースの損耗の有無および溶解中断後の溶解の再開の可否を指標として評価を行った。
【0064】
【表6】

【0065】
比較例、本発明例ともに溶融Tiを得ることができた。しかし、試験1と同様に、ハースの損耗は、本発明例では発生せず、比較例では発生した。これは、比較例ではハースの内面とシェルとの間に金属塩層の形成が進行しており、ハースの内面の露出している部分において溶融Tiとの間で局部的な放電が発生したためと考えられる。
【0066】
また、原料の溶解を中断した後の再開は、本発明例ではプラズマトーチからプラズマが発生したため可能であった。しかし、比較例では、ハースの内面(内面部材の表面)とシェルとの間に金属塩層が形成されていたため、プラズマトーチからプラズマが発生せず、溶解を再開することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の溶解装置および溶解方法によれば、金属粉と金属塩の混合物を溶融させて、金属粒を構成する金属を分離する際に、水冷ハースの内面に絶縁体である金属塩層が形成されるのを防ぐことができるため、熱効率に優れているが、トーチと被加熱体との間の通電が必要な移行型プラズマトーチを用いても、安定して分離動作を行うことができる。
【0068】
したがって、本発明の溶解装置および溶解方法は、金属粉が溶融塩と混合した状態で得られる、溶融塩中で金属の塩化物等を還元することによる金属の製造において有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1:固液混合物、 3:固体Ti、 4:シェル、 6:溶融塩、 7:溶融Ti、
8:金属塩層、 10:ハース、 11:底面、 12:側面、 13:スキマー、
14:連通口、 15:内面部材、 15a:底板、 16:混合物投入領域、
17:溶融Ti領域、 19:プラズマトーチ、 19a:プラズマ、 20:電源
21:溶融塩容器、 22:Ti容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面と底面を有し、第1の金属からなる水冷ハースと、前記水冷ハースの内面にプラズマを照射可能に配置された移行型のプラズマトーチとを備える溶解装置であって、
前記水冷ハースの内面のうち少なくとも側面および側面の上縁を覆うように、第2の金属からなる内面部材が嵌め込まれたことを特徴とする溶解装置。
【請求項2】
前記内面部材が前記水冷ハースの内面の底面も覆うことを特徴とする請求項1に記載の溶解装置。
【請求項3】
前記内面部材が一体に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の溶解装置。
【請求項4】
前記第1の金属がCuであり、前記第2の金属がTiであることを特徴とする請求項1に記載の溶解装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の溶解装置において、金属塩と前記第2の金属からなる金属粉との混合物を前記水冷ハースに収容し、前記プラズマトーチの照射するプラズマによって溶解する溶解方法であって、
前記内面部材の前記金属塩に接する部分の温度を前記金属塩の融点以上に保つことを特徴とする溶解方法。
【請求項6】
前記水冷ハースの内面を、スキマーにより複数の領域に区分され、前記複数の領域がそれぞれ前記スキマーの下部に設けられた連通口により連通されたものとし、
前記混合物を前記水冷ハースの1の領域でプラズマによって溶解し、比重差によって、前記金属粉が溶解した溶融金属からなる層と、前記金属塩が溶解した溶融塩からなる層の上下二層に分離し、上層を前記領域の上部から、下層を前記連通口から排出することを特徴とする請求項5に記載の溶解方法。
【請求項7】
前記金属塩がCaCl2であり、前記第2の金属がTiであることを特徴とする請求項5または6に記載の溶解方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−14398(P2010−14398A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68441(P2009−68441)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】