説明

溶銑の脱硫方法

【課題】 機械攪拌式脱硫装置を用いて溶銑を脱硫処理する際に、反応性に優れる細粒の脱硫剤を効率良く溶銑中へ添加し、溶銑を効率良く脱硫する方法を提供する。
【解決手段】 機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、攪拌羽根4によって攪拌されている溶銑3の浴面上に、脱硫剤7を、上吹きランス5を介して搬送用ガスと共に上吹き添加して脱硫処理を行う。その際に、前記脱硫剤の添加完了後、更に、上吹きランスから搬送用ガスを溶銑表面に向けて吹き付けること、及び、溶銑の浴面に衝突する搬送用ガスの流速を10m/秒以上とするなどにより、脱硫反応を効率良く行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法に関し、詳しくは、反応性に優れる細粒の脱硫剤を効率良く溶銑に添加して脱硫する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉から出銑された溶銑には、通常、鋼の品質に悪影響を及ぼす硫黄(S)が高濃度で含まれており、要求される鋼の品質に応じて、種々の溶銑脱硫及び溶鋼脱硫が行われている。このうち、溶銑の脱硫には、安価な石灰(CaO)を主成分とする脱硫剤が広く用いられており、この場合の脱硫反応は、下記の(1)式に示される反応式に基づいて進行する。
【0003】
【数1】

【0004】
この脱硫処理においては、蛍石(CaF2)系造滓剤及びアルミナ系造滓剤などがCaOの滓化促進剤として使用されており、例えば、CaO源である生石灰に5質量%程度の蛍石を混合したCaO−CaF2系脱硫剤が広く使用されている。しかしながら、これらの滓化促進剤は、一般に高価であり、こうした滓化促進剤の配合率を増やすことは脱硫剤のコスト増大につながる。更に、滓化促進剤の配合率を高めた場合には、脱硫剤中のCaO濃度が低下し、反応効率の低下が懸念される。また、脱硫の反応効率を向上させるために、生石灰とカルシウムカーバイト系脱硫剤及びソーダ系脱硫剤とを併用する方法や、生石灰に石灰石(CaCO3)を混合する方法などもあるが、これらは何れもCaF2系の滓化促進剤を添加することを前提とした脱硫剤であり、近年のフッ素の環境への影響が懸念されている状況下においては、CaF2系の滓化促進剤を使用しないで効率的に脱硫することが望まれている。
【0005】
蛍石を用いない脱硫剤の一例として、カルシウムカーバイト系の脱硫剤及びソーダ系の脱硫剤が実用化されているが、何れも長所と短所がある。カルシウムカーバイト系の脱硫剤は、強力な脱硫能力を有しているが、脱硫処理後の脱硫スラグの後処理において、アセチレンガスが発生するなどの安全上の問題点がある。また、高価であり、危険物でもあるため、取り扱いが極めて困難である。ソーダ系の脱硫剤は比較的安価であるが、強アルカリ性であるため、処理炉及び処理容器の耐火物への影響が大きい。また、排ガス中にはNaが含まれるため、その除去処理が必要である。更に、スラグ中のNa2Oの含有量が高くなるため、セメントなどへの再利用に制約があり、環境への影響からも望ましくない。
【0006】
その他の脱硫方法として、金属Mgを用いる方法もよく知られている。金属Mgは、溶銑中のSと容易に反応してMgSを形成するが、沸点が1100℃と低いため、1250〜1500℃の溶銑中では激しく気化し、溶銑を飛散させる危険性があり、また、発生したMg蒸気は、十分に脱硫反応に寄与せずに大気中に放散してしまうため、効率が悪い。しかも、金属Mg自体が非常に高価であるという問題点がある。
【0007】
ところで、脱硫反応の効率を向上させるためには、反応界面積を増大させることが効果的であり、従って、添加する脱硫剤の粒径を細粒化すると脱硫反応の効率は向上する。しかし、実機での脱硫処理においては、ホッパーから脱硫剤を切り出し、溶銑鍋などの処理容器の上方に設置された投入口から脱硫剤を処理容器内に添加する方法が一般的であり、現在使用している粉状の脱硫剤の粒径を更に細粒化した場合、このような方法で脱硫剤を添加すると、飛散する脱硫剤や上昇気流によって舞い上がる脱硫剤が多くなり、溶銑表面に到達する脱硫剤の量が減少し、結果的に脱硫剤の歩留まり低下をもたらすため、実用的ではない。
【0008】
脱硫剤を細粒化しなくても脱硫剤の溶銑中への分散を促進させ、反応界面積を増大させる方法の一つとして、特許文献1には、処理容器の側壁に側壁から突出した整流体を設け、回転攪拌した溶銑を整流体に衝突させて下降流を発生させ、この下降流に脱硫剤を巻き込ませる方法が提案されている。しかしながら、機械攪拌式脱硫装置の脱硫処理のような強攪拌下において整流体を設置する場合には、非常に強度の高い整流体を設置する必要があり、その製作及びメンテナンスに多額の費用や労力を必要とするという問題点がある。また、整流体を処理容器内に設置する必要があることから、溶銑の収容量が減少し、生産性が低下するという問題点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭51−112416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、機械攪拌式脱硫装置を用いて溶銑を脱硫処理する際に、反応性に優れる細粒の脱硫剤を効率良く溶銑中へ添加し、溶銑を効率良く脱硫する方法を提供することであり、また、フッ素系の滓化促進剤を使用しない脱硫剤であっても、溶銑を効率良く脱硫する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、鋭意検討・研究を行った。以下に、検討・研究の結果を説明する。
【0012】
攪拌羽根(「インペラー」とも呼ぶ)を備えた機械攪拌式脱硫装置における溶銑の脱硫処理(「KR脱硫法」とも呼ぶ)においては、脱硫剤の利用効率は、CaO−CaF2系の脱硫剤を用いた場合においても、高々10〜20%程度であり、残りの80〜90%は未反応のままで、非常に利用効率が低い。この利用効率の低い原因について種々解析を行った結果、以下の問題点のあることが分かった。
【0013】
即ち、攪拌羽根を備えた機械攪拌式脱硫装置を用いた脱硫方法(以下、「機械攪拌式脱硫方法」と呼ぶ)において、脱硫剤は、一般的に攪拌羽根によって強力に攪拌された状態の溶銑上へ、処理容器の上方から連続的に添加される。脱硫反応を促進させるには、反応界面積が大きいほど有利であるが、そのために脱硫剤を細粒化すると、添加時の飛散量が増加し、歩留まりが悪化する。一方、添加時の飛散を考慮し、粒径の大きい脱硫剤を使用すると、反応界面積が確保できず、脱硫反応が停滞する。また、脱硫剤として現在主に使用されているCaO系の脱硫剤は、溶銑との濡れ性が悪く、溶銑中へ巻き込まれ難い上に、浴上へ添加された脱硫剤が、強攪拌されている溶銑の浴表面または浴中で凝集し、反応界面積が低下していく。このため、強攪拌下にある溶銑中へ、いかに飛散を抑制して反応界面積の大きい脱硫剤を添加し且つ凝集を抑制して脱硫剤を巻き込ませるか、即ちいかに大きな反応界面積を確保するかが課題となる。
【0014】
しかしながら、現状では、飛散し難い粒径の脱硫剤を使用し、脱硫剤の添加量を増加させることによって反応界面積を確保し、脱硫能力を得ている。また、蛍石を用いない場合には、低下する脱硫能力を脱硫剤の添加量を増加させることによって補い、同等の脱硫能力を確保している。但し、脱硫剤使用量の増加は、コスト増加及びスラグ発生量の増加につながるため、望ましいことではない。
【0015】
そこで、この問題を解決すべく脱硫剤の添加方法を種々検討した結果、攪拌羽根を回転させ、処理容器内に溶銑の渦を形成した状態において、細粒の脱硫剤を搬送用ガスと共に溶銑表面に向けて上吹きして添加することで、飛散を抑制し、脱硫剤の使用量を増加させることなく、脱硫反応界面積を増加させることができるとの知見を得た。
【0016】
脱硫剤は、搬送用ガスと共に溶銑表面へ到達して溶銑と接触する。これにより、機械攪拌式脱硫方法における欠点のひとつである、脱硫剤を添加する際の歩留まり低下を生じさせることなく、溶銑表面及び溶銑中へ脱硫剤を添加することが可能であり、反応界面積を増加させることができる。また、ホッパーなどから脱硫剤を処理容器内へ上置き添加する従来の添加方法においては、脱硫剤を溶銑表面へ均一に分散させることは困難であるが、脱硫剤を搬送用ガスと共に溶銑表面に向けて上吹きすることにより、浴表面での凝集を抑制しつつ、細粒の脱硫剤の溶銑浴面への均一分散が可能となる。
【0017】
更に、10m/秒以上の速い速度で溶銑に脱硫剤を吹き付けた場合には、搬送用ガスによって生じる溶銑の下降流により、特許文献1に提案された整流体を用いた場合と同様の効果が得られること、即ち、脱硫剤を溶銑中へ巻き込ませると共に、この下降流によって渦に乱れが生じ、それにより脱硫剤の分散が促進されると同時に脱硫剤の凝集が防止されることが分かった。これは、脱硫剤を上吹き添加せず、ガスのみを上吹きする場合にも同様の効果があるため、脱硫剤の添加が終了した後に続けてガスのみを上吹きしてもよい。また、脱硫剤をホッパーなどから上置き投入し、ガスのみを上吹きすることによっても脱硫剤の分散促進や凝集防止の効果があり、脱硫反応を促進させることが可能であることが分かった。
【0018】
この場合、脱硫剤を溶銑表面へ向けて上吹き添加する際の吹き付け位置が重要となる。機械攪拌式脱硫方法では、処理容器のほぼ中心位置に溶銑中に埋没して攪拌羽根が配置されており、この攪拌羽根の回転によって処理容器内には渦が生成し、脱硫剤は渦に巻き込まれて溶銑中へ分散する。攪拌羽根の中心部分に近接して脱硫剤を吹き付けても溶銑中にうまく巻き込まれないばかりでなく、攪拌羽根や攪拌羽根の軸部分に脱硫剤が付着してしまう。従って、上吹きするランスの位置は、攪拌羽根の中心に近すぎない距離に位置することが好ましい。
【0019】
検討の結果、攪拌羽根中心からの水平距離で、攪拌羽根の直径の1/3以上離れた外側の位置に上吹きすればよいことが分かった。また、攪拌羽根の半径よりも外周側に向かっては、生成する渦の円周方向への流速が次第に遅くなっていき、処理容器の側壁においては流速はゼロとなる。従って、上吹き添加された脱硫剤がスムーズに渦に巻き込まれて溶銑中へ分散するためには、吹込み位置が処理容器の側壁に近すぎない方がよく、実験した結果、攪拌羽根の端部からの水平距離で、攪拌羽根の端部と処理容器の側壁との距離の2/3程度以内の位置に上吹きするのが効果的であることが分かった。
【0020】
即ち、溶銑を収容する処理容器の内径をD、攪拌羽根の直径をd、攪拌羽根の中心から脱硫剤の吹き付け位置までの水平距離をRとしたときに、水平距離(R)が内径(D)及び直径(d)に対して下記の(2)式の関係を満足する範囲内となる位置で、脱硫剤を上吹き添加することが好ましいことが確認できた。
【0021】
【数2】

【0022】
更に、脱硫剤の上吹き添加に用いる搬送用ガスとしては、酸素を実質的に含有しないガスであることが好ましい。これは、脱硫反応が還元反応であり、酸素の存在が脱硫反応を阻害するからである。よって、搬送用ガスとしては、還元性のガス、不活性ガスまたは非酸化性のガスを使用する。還元性のガスとしては炭化水素などが挙げられ、不活性ガスとしてはアルゴンガスなどが挙げられ、また、非酸化性ガスとしては窒素ガスなどが挙げられる。尚、酸素を実質的に含有しないガスとは、不純物として酸素を体積%で数%程度含有するガスであっても脱硫反応に対する影響は実質的に無視できるので、このようなガスをも、実質的に酸素を含有しないガスとみなすこととする。
【0023】
また、脱硫剤を搬送用ガスと共に溶銑表面に上吹き添加する以前、または脱硫剤の上吹き添加と同時に、若しくは脱硫剤の上吹き添加完了後に、脱硫剤添加用ランスまたは別のランスから、金属Alやアルミドロス粉末などの脱酸源を搬送用ガスと共に溶銑表面に向けて上吹き添加することにより、溶銑中の酸素濃度が低減し、脱硫反応が促進されることが分かった。
【0024】
同様に、脱硫剤を搬送用ガスと共に溶銑表面に上吹き添加する以前、または脱硫剤の上吹き添加と同時に、若しくは脱硫剤の上吹き添加完了後に、脱硫剤添加用ランスまたは別のランスから、炭酸カルシウム(CaCO3)やプラスチックなどの高温下でガスを発生するガス発生物質を搬送用ガスと共に溶銑表面に向けて上吹き添加することにより、脱硫剤の凝集が防止され、反応界面積が更に増大することが分かった。
【0025】
これらの脱酸源及びガス発生物質は、脱硫剤を搬送用ガスと共に溶銑の表面に向けて上吹きする脱硫方式において脱硫反応を促進するものであり、必ずしも上吹きによって添加する必要はなく、処理条件、及び、ホッパー所有数や所有ランス数などの設備条件に応じて、ホッパーなどを利用して溶銑中へ上置き添加してもよいことが分かった。
【0026】
更に、脱硫剤を搬送用ガスと共に溶銑表面に向けて上吹きする脱硫方式においては、反応界面積の増加及び渦の乱れによる脱硫剤の凝集防止の効果から、蛍石を併用したCaO系の脱硫剤のみならず、蛍石を使用しないCaO系の脱硫剤であっても、カルシウムカーバイド系の脱硫剤、ソーダ系の脱硫剤、及び金属Mgなどの脱硫剤を使用した場合と同等以上の脱硫効率を得ることができることが分かった。ここで、CaO系の脱硫剤としては、生石灰(CaO)、ドロマイト(MgCO3・CaCO3)、消石灰(Ca(OH)2)、石灰石(CaCO3)などが挙げられる。
【0027】
本発明は、上記検討結果に基づいてなされたものであり、第1の発明に係る溶銑の脱硫方法は、機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、攪拌羽根によって攪拌されている溶銑の浴面上に、脱硫剤を、上吹きランスを介して搬送用ガスと共に上吹き添加して脱硫処理を行うことを特徴とするものである。
【0028】
第2の発明に係る溶銑の脱硫方法は、第1の発明において、前記脱硫剤の添加完了後、更に、前記上吹きランスから搬送用ガスを溶銑表面に向けて吹き付けて脱硫処理することを特徴とするものである。
【0029】
第3の発明に係る溶銑の脱硫方法は、第1または第2の発明において、溶銑の浴面に衝突する搬送用ガスの流速を10m/秒以上とすることを特徴とするものである。
【0030】
第4の発明に係る溶銑の脱硫方法は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、前記脱硫剤を溶銑浴面に上吹き添加する際に、溶銑を収容する処理容器の内径をD、攪拌羽根の直径をd、攪拌羽根の中心から脱硫剤の吹き付け位置までの水平距離をRとしたときに、水平距離(R)が、内径(D)及び直径(d)に対して上記の(2)式の関係を満足する範囲内となる位置で、脱硫剤を上吹き添加することを特徴とするものである。
【0031】
第5の発明に係る溶銑の脱硫方法は、第1ないし第4の発明の何れかにおいて、前記搬送用ガスは、実質的に酸素を含有してない、還元性ガス、不活性ガス、非酸化性ガスのうちの1種以上であることを特徴とするものである。
【0032】
第6の発明に係る溶銑の脱硫方法は、第1ないし第5の発明の何れかにおいて、前記脱硫剤の上吹き添加よりも以前、または脱硫剤の上吹き添加と同時に、若しくは脱硫剤の上吹き添加完了後に、前記上吹きランスまたは別のランスから、脱酸源を搬送用ガスと共に溶銑表面に向けて上吹き添加することを特徴とするものである。
【0033】
第7の発明に係る溶銑の脱硫方法は、第1ないし第5の発明の何れかにおいて、前記脱硫剤の上吹き添加よりも以前、または脱硫剤の上吹き添加と同時に、若しくは脱硫剤の上吹き添加完了後に、溶銑を収容する処理容器内に脱酸源を添加することを特徴とするものである。
【0034】
第8の発明に係る溶銑の脱硫方法は、第6または第7の発明において、前記脱酸源は、金属Al、金属Si、金属Mgのうちの1種以上を含む物質であることを特徴とするものである。
【0035】
第9の発明に係る溶銑の脱硫方法は、第1ないし第8の発明の何れかにおいて、前記脱硫剤の上吹き添加よりも以前、または脱硫剤の上吹き添加と同時に、若しくは脱硫剤の上吹き添加完了後に、前記上吹きランスまたは別のランスから、ガスを発生する物質を搬送用ガスと共に溶銑表面に向けて上吹き添加することを特徴とするものである。
【0036】
第10の発明に係る溶銑の脱硫方法は、第1ないし第8の発明の何れかにおいて、前記脱硫剤の上吹き添加よりも以前、または脱硫剤の上吹き添加と同時に、若しくは脱硫剤の上吹き添加完了後に、溶銑を収容する処理容器内にガスを発生する物質を添加することを特徴とするものである。
【0037】
第11の発明に係る溶銑の脱硫方法は、機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、攪拌羽根によって攪拌されている溶銑の浴面上に脱硫剤を添加した後、上吹きランスを介してガスを溶銑表面に向けて吹き付けて脱硫処理することを特徴とするものである。
【0038】
第12の発明に係る溶銑の脱硫方法は、第1ないし第11の発明の何れかにおいて、前記脱硫剤は、CaOを主体とし、実質的にフッ素を含有しない物質であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、反応性に優れる細粒の脱硫剤を搬送用ガスと共に上吹き添加するので、添加時の飛散が少なくなり、脱硫剤の添加歩留まりが向上し、そして、細粒の脱硫剤は、反応界面積が大きく、そのため、脱硫反応が促進され、脱硫率を著しく向上させることができる。さらに、細粒の脱硫剤は反応界面積が大きく、脱硫反応が促進されることから、CaF2などの滓化促進剤を使用することなく、CaOを主体とする脱硫剤のみで効率良く脱硫することもできる。また、脱硫剤を添加した後、ガスを溶銑表面に上吹きして溶銑に下降流を形成した場合には、脱硫反応が更に促進され、脱硫剤の使用量を更に削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明による脱硫処理の実施の形態の1例を示す側面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明による脱硫処理の実施の形態の1例を示す側面概略図であり、図1は、溶銑を収容する処理容器として取鍋型の溶銑鍋を使用した例を示している。処理容器の形状については、機械攪拌式脱硫装置で脱硫処理を行うことから、図1に示すように取鍋型の処理容器が最適であるが、トーピードカーにおいても使用可能である。以下、処理容器として溶銑鍋を使用した例で説明する。
【0042】
高炉から出銑された溶銑3を台車1に搭載された溶銑鍋2またはトーピードカーで受銑し、受銑した溶銑3を機械攪拌式脱硫装置に搬送する。トーピードカーで受銑した場合には、脱硫処理に先立ち、取鍋型の処理容器に移し替えることが望ましい。本発明による脱硫処理の対象となる溶銑3は、どのような成分であっても構わず、例えば、予め脱珪処理や脱燐処理が施されていてもよい。脱珪処理とは、脱燐処理を効率良く行うために脱燐処理に先立ち、溶銑3に酸素ガスや鉄鉱石などの酸素源を添加して主に溶銑中のSiを除去する処理である。
【0043】
機械攪拌式脱硫装置は、溶銑鍋2内に収容された溶銑3に浸漬・埋没し、旋回して溶銑3を攪拌するための耐火物製の攪拌羽根4を備えており、この攪拌羽根4は、昇降装置(図示せず)によってほぼ鉛直方向に昇降し、且つ、回転装置(図示せず)によって軸4aを回転軸として旋回するようになっている。また、機械攪拌式脱硫装置には、粉体状の脱硫剤7、粉体状の脱酸源8及び粉体状のガス発生物質9を溶銑鍋2内の溶銑3に向けて上吹きして添加するための上吹きランス5と、粒状または塊状の脱硫剤7A、粒状または塊状の脱酸源8A及び粒状または塊状のガス発生物質9Aを溶銑鍋2内の溶銑3の浴面に上置き添加するための投入口6とが設置されている。更に、溶銑鍋2の上方位置には、集塵機(図示せず)に接続する排気ダクト口(図示せず)が備えられ、脱硫処理中に発生するガスやダストが排出されるようになっている。
【0044】
上吹きランス5は、粉体状の脱硫剤7を収容するホッパー10とホッパー10から定量切り出すためのロータリーフィーダー11とからなる供給装置、粉体状の脱酸源8を収容するホッパー12とホッパー12から定量切り出すためのロータリーフィーダー13とからなる供給装置、並びに、粉体状のガス発生物質9を収容するホッパー14とホッパー14から定量切り出すためのロータリーフィーダー15とからなる供給装置と接続しており、上吹きランス5から、搬送用ガスと共に、粉体状の脱硫剤7、粉体状の脱酸源8及び粉体状のガス発生物質9を任意のタイミングで各々独立して調整して供給できる構造になっている。当然ながら、同時に供給することも、また、搬送用ガスのみを上吹きすることもできる構造になっている。
【0045】
この場合に、脱硫剤7、脱酸源8及びガス発生物質9を上吹きするための上吹きランス5は、単孔でもよいし、溶銑湯面における吹き付け面積を増加させるなどの目的で多孔化してもよい。また、上吹きランス5の吹き付け角度、つまり、上吹きランス5から脱硫剤7、脱酸源8及びガス発生物質9を溶銑浴面に吹き付ける角度は、鉛直方向のみならず、攪拌中の溶銑湯面(盛り上がって渦が形成されているため、水平面に対しては傾斜した角度を持つ)に対して垂直に供給することも可能であり、また、鉛直方向と湯面に垂直な方向との間の任意の角度で上吹き添加することができるようになっている。
【0046】
これと同様に、投入口6は、粒状または塊状の脱硫剤7Aを収容するホッパー16とホッパー16から定量切り出すためのロータリーフィーダー17とからなる供給装置、粒状または塊状の脱酸源8Aを収容するホッパー18とホッパー18から定量切り出すためのロータリーフィーダー19とからなる供給装置、並びに、粒状または塊状のガス発生物質9Aを収容するホッパー20とホッパー20から定量切り出すためのロータリーフィーダー21とからなる供給装置と接続しており、投入口6から、粒状または塊状の脱硫剤7A、粒状または塊状の脱酸源8A及び粒状または塊状のガス発生物質9Aを任意のタイミングで各々独立して調整して供給できる構造になっている。
【0047】
脱硫剤7,7Aとしては、CaO系の脱硫剤のみならず、カルシウムカーバイド系の脱硫剤、ソーダ系の脱硫剤、及び金属Mgなど種々の脱硫剤を用いることができるが、安価であることから、CaO系の脱硫剤を使用することが好ましい。しかも、環境対策や発生するスラグの再利用が容易であることから、蛍石などのフッ素源を併用せずに、CaO系の脱硫剤のみを使用することが好ましい。CaO系の脱硫剤としては、生石灰(CaO)、ドロマイト(MgCO3・CaCO3)、消石灰(Ca(OH)2)、石灰石(CaCO3)などを使用することができる。本発明では、脱硫剤7を上吹き添加する或いは上吹きガスにより脱硫剤7,7Aを強制的に溶銑3中に巻き込ませるので、フッ素源を使用しなくても、十分に脱硫することができる。但し、フッ素が不純物成分として不可避的に混入した物質については使用しても構わない。
【0048】
上吹きするCaO系の脱硫剤のサイズは、用いる上吹きランス5や溶銑鍋2の寸法などに応じて最適な粒度を選択することができるが、反応界面積を増加させるためにも、細粒の脱硫剤を用いた方がよく、例えば、500μm以下のものが好ましく、更に100μm以下のものが望ましい。最適な粒径分布は、その機械攪拌式脱硫装置の大きさや吹込み用上吹きランス5の形状などによって異なるため、機械攪拌式脱硫装置の能力に応じた粒子径を選択することが望ましい。
【0049】
脱酸源8,8Aとしては、金属Al、及び、アルミ源として安価に入手できることからアルミドロス粉末が望ましい。また、アルミニウム融液をガスでアトマイズして得られるアトマイズ粉末や、アルミニウム合金を研磨、切削する際に発生する切削粉など、他のAl源であってもよい。また、フェロシリコンのようなSi合金や、Mg合金などを用いることもできる。これらは、搬送用ガスと共に溶銑3の表面へ上吹き添加する場合には、粉末状が望ましく、そして、上吹き添加する場合には、通常であれば飛散するような微細な粉末でも、問題なく使用することが可能である。
【0050】
ガスを発生させるガス発生物質9,9Aとしては、以下のような物質を用いることができる。即ち、溶銑3中で分解してガスを発生する物質としては、CO2ガスを発生する炭酸塩として、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、炭酸カリウム(K2CO3)などを使用することができる。また、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を用いてもよい。なかでも炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムを使用した場合には、分解後に生成する酸化物(CaO)が脱硫に寄与するため、スラグ量の増加を懸念する必要もなく、非常に効率的である。しかし、これらの分解反応は吸熱反応であり、脱硫剤7,7Aを含め溶銑鍋2内に添加した全フラックス中の炭酸塩及び水酸化物の比率が増加すると、吸熱反応により溶銑3の温度降下が懸念される。従って、これらを添加する場合には、その添加量の総和を全フラックス中の30質量%以下とすることが望ましい。また、他のガス発生物質として、分解して炭化水素、水素ガス及び炭素源を生成するプラスチックなどを添加してもよい。プラスチックを連続添加することにより、脱硫剤の分散促進及び凝集防止効果だけでなく、還元性ガスによる脱硫反応の促進効果も期待できる。これらのガス発生物質は、ひとつを用いてもよいし、2つ以上を併用してもよい。
【0051】
攪拌羽根4の位置が溶銑鍋2のほぼ中心になるように、溶銑鍋2を搭載した台車1の位置を調整し、次いで、攪拌羽根4を下降させて溶銑3に浸漬させる。攪拌羽根4が溶銑3中に浸漬したならば、攪拌羽根4の旋回を開始し、所定の回転数まで昇速する。攪拌羽根4の回転数が所定の回転数に達したならば、ロータリーフィーダー11を起動させて、ホッパー10内の脱硫剤7を、搬送用ガスと共に溶銑3の浴面に向けて吹き付けて添加する。搬送用ガスとしては、還元性のガス、不活性ガスまたは非酸化性を使用する。溶銑3の表面に吹き付ける速度が速いほど、脱硫反応が促進されるので、溶銑3の浴面に衝突する搬送用ガスの流速が10m/秒以上となるように、搬送用ガスの流量を調整することが好ましい。
【0052】
その際に、脱硫剤7の溶銑3の浴面における吹き付け位置が、溶銑鍋2の内径をD、攪拌羽根4の直径をd、攪拌羽根4の中心から脱硫剤7の吹き付け位置までの水平距離をRとしたときに、内径(D)と直径(d)と水平距離(R)とが前述した(2)式の関係を満足する範囲となるように、上吹きランス5の位置を調整することが好ましい。例えば、上吹きランス5から鉛直方向に供給する場合には、攪拌羽根4の中心から上吹きランス5の先端位置までの水平距離を水平距離(R)として調整すればよく、鉛直方向に対して傾斜させて上吹きする場合には、脱硫剤7の溶銑3の浴面における吹き付け位置が(2)式の関係を満足するように、傾斜角度に応じて上吹きランス5の位置を調整すればよい。
【0053】
この脱硫剤7の上吹き添加と並行して、または、上吹き添加の前後に、若しくは脱硫処理期間の全期間に、脱硫反応を促進させるために、脱酸源8,8A及びガス発生物質9,9Aを溶銑鍋2内に供給することが好ましい。脱酸源8,8Aとガス発生物質9,9Aとを同時に添加してもよく、また、どちらか一方を添加してもよい。使用する脱酸源8,8A及びガス発生物質9,9Aのサイズに応じて、上吹きランス5と投入口6とを使い分ければよい。
【0054】
所定量の脱硫剤7を添加完了した後も、上吹きランス5から搬送用ガスのみを吹き付けることが好ましい。上吹きランス5から搬送用ガスを吹き付けることで、溶銑3に下降流が形成され、添加した脱硫剤7が下降流によって溶銑3に巻き込まれ、脱硫反応が促進される。
【0055】
このように、所定量の脱硫剤を添加完了した後に、更に、上吹きランス5から搬送用ガスを溶銑3の湯面に吹き付ける場合には、必ずしも粉体状の脱硫剤7を使用し、上吹きして添加する必要はなく、粒状または塊状の脱硫剤7Aを使用し、投入口6から溶銑3の浴面に上置き添加しても構わない。この場合も、上記に沿って、脱酸源8,8A及びガス発生物質9,9Aを溶銑鍋2内に供給することが好ましい。
【0056】
所定時間の攪拌が行われたなら、攪拌羽根4の回転数を減少させ停止させる。攪拌羽根4の旋回が停止したなら、攪拌羽根4を上昇させ、溶銑鍋2の上方に待機させる。生成したスラグが浮上して溶銑表面を覆い、静止した状態で溶銑3の脱硫処理が終了する。脱硫処理後、生成したスラグを溶銑鍋2内から排出し、次の精錬工程に溶銑鍋2を搬送する。
【0057】
このようにして溶銑3に対して脱硫処理を施すことで、細粒の脱硫剤7であっても、添加時の飛散が少なくなり、脱硫剤7の添加歩留まりが向上し、そして、細粒の脱硫剤7は、反応界面積が大きく、そのため、脱硫反応が促進され、脱硫率が向上する。更に、細粒の脱硫剤7は反応界面積が大きく、脱硫反応が促進されることから、CaF2などの滓化促進剤を使用することなく、CaOを主体とする脱硫剤のみで効率良く脱硫することができる。
【0058】
また、細粒の脱硫剤7を添加した後、ガスを溶銑表面に上吹きして溶銑3に下降流を形成した場合には、脱硫反応が更に促進され、脱硫剤の使用量を更に削減することが可能となる。ガスを溶銑表面に上吹きして下降流を形成する場合には、粒状または塊状の脱硫剤7Aであっても、従来以上の脱硫率を得ることができる。
【0059】
尚、本発明は上記の説明範囲に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、上吹きランスを複数個設け、それぞれの上吹きランスから脱硫剤7、脱酸源8、ガス発生物質9を吹き込んでもよい。又、上吹きランス5からは脱硫剤7のみを供給し、脱酸源8及びガス発生物質9は投入口6から上置き添加するようにしてもよい。
【実施例1】
【0060】
本発明方法を用いて溶銑鍋内の約150トンの溶銑を図1に示す機械攪拌式脱硫装置で脱硫処理した本発明例(本発明例1〜13)を説明する。
【0061】
処理対象の溶銑は、高炉から出銑した後、高炉鋳床及び受銑容器である溶銑鍋の2段階で脱珪処理を行ったものを用いた。溶銑組成は、事前の脱珪処理により[Si]:0.05〜0.10質量%であり、[C]:4.3〜4.6質量%、[Mn]:0.22〜0.41質量%、[P]:0.10〜0.13質量%であり、処理前の[S]は0.039〜0.042質量%であった。溶銑温度は、1330〜1430℃であった。
【0062】
使用する脱硫剤は、生石灰(CaO)を主成分とし、これに蛍石(CaF2)、石灰石(CaCO3)を添加したものも用いた。搬送用ガスとしては還元性の炭化水素ガス(=プロパンガス)またはArガスを用い、脱酸源としては金属Alを50質量%程度含有するアルミドロスの粉末を用い、また、ガス発生物質としては炭酸カルシウム及びプラスチックを用いた。また、比較例として、脱硫剤の上吹き供給を行わず、ホッパーからの切り出しによって溶銑鍋上方の投入口から上置き添加した脱硫処理も実施(比較例1〜3)した。尚、脱硫剤の投入量は一定とし、粒径500μm以下のものを用いた。また、脱硫剤を上吹きせず、従来どおり投入口から投入を行い、ガスのみの上吹きによる攪拌を行う場合には、脱硫剤は粒径1mm以下のものを使用した。脱硫剤投入後の攪拌時間は一定とした。
【0063】
本発明例1〜13及び比較例1〜3における脱硫方法、脱硫剤組成、使用した脱酸源、ガス発生物質などの脱硫処理条件並びに脱硫処理結果を表1に示す。表1における「溶銑の脱酸」及び「ガス発生物質」の「添加方法」の欄において、「脱硫剤の前」とは、脱硫剤を添加する前に添加したことを、「脱硫剤と同時」とは、脱硫剤と同時に添加したことを、「脱硫剤と同時+後」とは、脱硫剤と同時に添加し且つ脱硫剤の添加完了後も添加したことを、「上吹き」とは上吹きランスを介して添加したことを、「投入口」とは投入口から上置き添加したことを示している。
【0064】
【表1】

【0065】
本発明例1〜3は、上吹きランスを介して生石灰−蛍石系の脱硫剤を上吹き添加する際に、溶銑鍋の内径(D)及び攪拌羽根の直径(d)に対して攪拌羽根中心から上吹きランスまでの水平距離(R)を変え、水平距離(R)の脱硫率に及ぼす影響を比較した試験である。ここで、脱硫率とは、脱硫処理前後の溶銑中[S]の差を、処理開始前の溶銑中[S]に対して百分率で示した数値である。
【0066】
表1からも明らかなように、上吹き位置の水平距離(R)がd/3よりも攪拌羽根側である本発明例1では、脱硫剤が攪拌羽根の上部に堆積している様子が見られ、脱硫率も76%と低かった。これに対して、本発明例1よりも上吹き位置を攪拌羽根の中心から離れるようにした、上吹き位置の水平距離(R)がd/3以上でd/2+1/3×(D−d)以下である本発明例2では、攪拌羽根への脱硫剤の付着も見られず、溶銑中へ脱硫剤が巻き込まれている様子が観察できた。脱硫率も85%程度となり、上吹きしない比較例1と比較して脱硫率が約10%上昇していた。しかし、本発明例2よりも更に上吹き位置を攪拌羽根の中心から離れるようにした、上吹き位置の水平距離(R)がd/2+1/3×(D−d)を越えた本発明例3では、脱硫剤の渦への巻き込みが悪くなり、脱硫率も80%以下となった。
【0067】
これらの結果から、脱硫剤を上吹きする場合には、上吹き位置が重要であり、攪拌羽根の中心から上吹き位置までの水平距離(R)と溶銑鍋の内径(D)と攪拌羽根の直径(d)とが、前述した(2)式の関係を満たすことが高脱硫率を得るための条件であることが確認できた。従って、以下の本発明例では、上吹きランス位置を(2)式の関係を満たす位置に固定し、脱硫処理を実施した。
【0068】
本発明例5では、脱酸源としてアルミドロスを用い、脱硫剤の添加前に溶銑中へアルミドロスを上吹き添加し、一方、本発明例6では、アルミドロスを投入口から上置き添加した。脱酸源としてアルミドロスを添加した本発明例5及び本発明例6の方が、アルミドロスを添加しない本発明例2及び本発明例4に比較して脱硫率が向上していた。また、投入口からの投入より、上吹きした場合の方が脱硫率は高いことが確認できた。
【0069】
また、アルミドロスを用いた上で、搬送用ガスとしてArガスに代えて還元性の炭化水素ガス(プロパンガス)を使用した本発明例7では、脱硫率は97.5%と著しく高くなった。
【0070】
本発明例8〜11では、アルミドロスを用いた上で、更にガス発生物質として石灰石やプラスチックを使用した。アルミドロスを用いた上で、更にガス発生物質を使用した場合には、ガス発生物質を上吹き添加した場合でも投入口から上置き添加した場合でも何れも90%以上と高い脱硫率を示した。また、本発明例11においては、蛍石を添加しない脱硫剤を使用しており、本発明方法により、フッ素を併用しない条件下でも高い脱硫率を得られることが確認できた。
【0071】
また、従来の脱硫方法において、脱硫剤として蛍石を使用せず、生石灰のみを用いた比較例3の場合には、蛍石を使用した比較例1,2に比較して脱硫率が低下していたが、脱硫剤として生石灰のみを使用した本発明例12では、脱硫剤の上吹き添加を行うことにより、87%以上の脱硫率が得られていた。この結果からも、本発明方法は、フッ素を使用しない脱硫方法として有効であることが確認できた。
【0072】
更に、脱硫剤を上吹きせずに投入口から上置きし、脱硫剤の添加完了後、Arガスのみを上吹き用ランスから吹込んだ本発明例13の場合にも、その他の条件が同一でガス上吹きをしない比較例2に対して脱硫率が向上しており、上吹きガスにより形成される下降流による攪拌効果が確認できた。
【符号の説明】
【0073】
1 台車
2 溶銑鍋
3 溶銑
4 攪拌羽根
5 上吹きランス
6 投入口
7 脱硫剤
7A 脱硫剤
8 脱酸源
8A 脱酸源
9 ガス発生物質
9A ガス発生物質
10,12,14,16,18,20 ホッパー
11,13,15,17,19,21 ロータリーフィーダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、攪拌羽根によって攪拌されている溶銑の浴面上に、脱硫剤を、上吹きランスを介して搬送用ガスと共に上吹き添加して脱硫処理を行うことを特徴とする、溶銑の脱硫方法。
【請求項2】
前記脱硫剤の添加完了後、更に、前記上吹きランスから搬送用ガスを溶銑表面に向けて吹き付けて脱硫処理することを特徴とする、請求項1に記載の溶銑の脱硫方法。
【請求項3】
溶銑の浴面に衝突する搬送用ガスの流速を10m/秒以上とすることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の溶銑の脱硫方法。
【請求項4】
前記脱硫剤を溶銑浴面に上吹き添加する際に、溶銑を収容する処理容器の内径をD、攪拌羽根の直径をd、攪拌羽根の中心から脱硫剤の吹き付け位置までの水平距離をRとしたときに、水平距離(R)が、内径(D)及び直径(d)に対して下記の(2)式の関係を満足する範囲内となる位置で、脱硫剤を上吹き添加することを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の溶銑の脱硫方法。
d/3≦R≦d/2+1/3×(D-d) …(2)
但し、(2)式において、Dは溶銑を収容する処理容器の内径、dは攪拌羽根の直径、Rは攪拌羽根の中心から脱硫剤の吹き付け位置までの水平距離である。
【請求項5】
前記搬送用ガスは、実質的に酸素を含有してない、還元性ガス、不活性ガス、非酸化性ガスのうちの1種以上であることを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載の溶銑の脱硫方法。
【請求項6】
前記脱硫剤の上吹き添加よりも以前、または脱硫剤の上吹き添加と同時に、若しくは脱硫剤の上吹き添加完了後に、前記上吹きランスまたは別のランスから、脱酸源を搬送用ガスと共に溶銑表面に向けて上吹き添加することを特徴とする、請求項1ないし請求項5の何れか1つに記載の溶銑の脱硫方法。
【請求項7】
前記脱硫剤の上吹き添加よりも以前、または脱硫剤の上吹き添加と同時に、若しくは脱硫剤の上吹き添加完了後に、溶銑を収容する処理容器内に脱酸源を添加することを特徴とする、請求項1ないし請求項5の何れか1つに記載の溶銑の脱硫方法。
【請求項8】
前記脱酸源は、金属Al、金属Si、金属Mgのうちの1種以上を含む物質であることを特徴とする、請求項6または請求項7に記載の溶銑の脱硫方法。
【請求項9】
前記脱硫剤の上吹き添加よりも以前、または脱硫剤の上吹き添加と同時に、若しくは脱硫剤の上吹き添加完了後に、前記上吹きランスまたは別のランスから、ガスを発生する物質を搬送用ガスと共に溶銑表面に向けて上吹き添加することを特徴とする、請求項1ないし請求項8の何れか1つに記載の溶銑の脱硫方法。
【請求項10】
前記脱硫剤の上吹き添加よりも以前、または脱硫剤の上吹き添加と同時に、若しくは脱硫剤の上吹き添加完了後に、溶銑を収容する処理容器内にガスを発生する物質を添加することを特徴とする、請求項1ないし請求項8の何れか1つに記載の溶銑の脱硫方法。
【請求項11】
機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、攪拌羽根によって攪拌されている溶銑の浴面上に脱硫剤を添加した後、上吹きランスを介してガスを溶銑表面に向けて吹き付けて脱硫処理することを特徴とする、溶銑の脱硫方法。
【請求項12】
前記脱硫剤は、CaOを主体とし、実質的にフッ素を含有しない物質であることを特徴とする、請求項1ないし請求項11の何れか1つに記載の溶銑の脱硫方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−163697(P2010−163697A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107097(P2010−107097)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【分割の表示】特願2003−417385(P2003−417385)の分割
【原出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】