説明

漁礁ブロック及びその据付方法

【課題】安定した挙動で落下し、海底の据付予定位置へ正確に落下させることができる漁礁ブロックを提供する。
【解決手段】上部フレーム2、下部フレーム3、垂直部4、斜材部5とによって構成され、上部フレーム2、及び、下部フレーム3は、平面輪郭形状が正方形で、内側に開口を有する枠状に形成され、垂直部4は、上部フレーム2の角部と下部フレーム3の角部とを接続するように、かつ、垂直方向へ延在するように構成され、斜材部5は、フレームの内側の空間内において、上端側がそれぞれ外側へ拡がるように傾斜した状態で延在するように構成され、下部フレーム3及び上部フレーム2には、フラップ状の下方張出部3a及び上方張出部2aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類を保護することを目的として海底に設置される漁礁ブロック及びその据付方法に関し、特に、安定した挙動で水中を落下させることができる漁礁ブロック及びその据付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の海洋水産資源(魚介類)を保護することを目的として、漁場となる水域の海底にコンクリート製の漁礁ブロックを設置することが行われている。漁礁ブロックを海底に据え付ける場合、通常は、陸上で製造した漁礁ブロックを、設置すべき水域まで作業船で運搬し、海上から海底までワイヤーで吊り降ろし、漁礁ブロックが着底したらワイヤーを切り離す、という方法によって行われている。
【0003】
漁礁ブロックをワイヤーで吊り降ろして据え付け作業を行う場合、海底の据付予定位置へ漁礁ブロックを精度良く吊り降ろすために、作業船を、海上における作業予定ポイントに正確に定位させ、作業の開始から終了までの長時間にわたってその位置を維持させることが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−190309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
漁礁ブロックの据付作業を、水深が浅い海域で実施する場合には、投錨を行うことにより、ある程度正確に作業船を作業予定ポイントに定位させることが可能であるが、例えば、水深300m程度の大水深の海域で実施しようとする場合には、長時間にわたって作業船の位置を固定しておくことは非常に難しい。また、大水深の海域で、漁礁ブロックを海底までワイヤーで吊り降ろすとなると、非常に時間がかかる。このため施工コストが嵩んでしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決すべくなされたものであって、安定した挙動で落下し、静水中においては、投入ポイントから鉛直下方向へほぼ直線的に落下させることができ、海底の据付予定位置へ精度良く落下させることができる漁礁ブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る漁礁ブロックは、上部フレーム、下部フレーム、四つの垂直部、及び、四つの斜材部とによって構成され、上部フレーム、及び、下部フレームは、いずれも平面輪郭形状が正方形であり、内側に開口を有する枠状に形成され、四つの垂直部は、上部フレームの四つの角部と、下部フレームの四つの角部とを所定間隔を置いて接続するように、かつ、垂直方向へ延在するように構成され、四つの斜材部は、上部フレーム及び下部フレームの外縁よりも内側の空間内において、下端側に対し上端側がそれぞれ外側へ拡がるように傾斜した状態で延在するように構成され、下部フレームの上縁部付近には、各外側面よりも外側へ張り出したフラップ状の下方張出部が形成され、上部フレームの上縁部付近には、垂直部の各外側面よりも外側へ張り出したフラップ状の上方張出部が形成され、重心位置が下方寄りとなるように構成されていることを特徴としている。尚、下方張出部、及び、上方張出部の下面は、基端部側が低く、先端部側が高くなるような傾斜面となっていることが好ましい。
【0008】
本発明に係る漁礁ブロックの据付方法は、上記漁礁ブロックを、海面から海中へ投入し、海中を落下させ、着底させて、海底に据え付けることを特徴としている。尚、この方法においては、漁礁ブロックについて行った流水中落下実験のデータ、実施しようとする海域における海流の方向、及び、流速を基に、コンピュータによる数値解析を行い、海底の据付予定位置に着底させるための投入ポイントを算出し、当該投入ポイントから漁礁ブロックを海中へ投入することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る漁礁ブロックは、水中へ投入すると、安定した挙動で落下し、静水中においては、投入ポイントから鉛直下方向へほぼ直線的に落下させることができる。従って、据え付け作業を、作業船から漁礁ブロックを海中へ投入するという方法で実施することができ、施工時間及び施工コストを大幅に縮減することができ、非常に経済的である。特に、水深300m程度の大水深の海域であっても、海底の据付予定位置に精度良く設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の漁礁ブロック1(第1の実施形態)の斜視図である。
【図2】図2は、図1の漁礁ブロック1の平面図である。
【図3】図3は、図1の漁礁ブロック1の側面図である。
【図4】図4は、図3に示すX−X線による漁礁ブロック1の断面図である。
【図5】図5は、図3に示すY−Y線による漁礁ブロック1の断面図である。
【図6】図6は、実施例1の静水中落下実験の際、水槽内において模型(本発明の漁礁ブロック1の模型、及び、比較例A〜Dの模型)が落下する様子を撮影した連続写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に沿って本発明「漁礁ブロック」の実施形態について説明する。図1は、本発明の漁礁ブロック1(第1の実施形態)の斜視図、図2は平面図、図3は側面図である。また、図4は、図3に示すX−X線による断面図、図5は、図3に示すY−Y線による断面図である。
【0012】
この漁礁ブロック1は、図示されているように、基本形状が立方体に近く、立方体を構成する12本の「辺」に相当する部分が、所定の太さのコンクリートによって枠状に形成され、立方体を構成する6つの「面」に相当する部分に、それぞれ開口部が形成されている。また、枠の内部にも、コンクリート製の要素が形成されている。
【0013】
より具体的に説明すると、この漁礁ブロック1は、上部フレーム2、下部フレーム3、四つの垂直部4、及び、四つの斜材部5とによって構成されている。上部フレーム2、及び、下部フレーム3は、いずれも平面輪郭形状が正方形であり、内側(中央部)に大きな開口を有する枠状に形成されている。四つの垂直部4は、すべて同一形状であり、いずれも水平断面が矩形状となる角柱状に形成され、上部フレーム2の四つの角部と、下部フレーム3の四つの角部とを、所定間隔を置いて接続するように、かつ、垂直方向へ延在するように構成されている。
【0014】
四つの斜材部5は、すべて同一形状であり、いずれも水平断面が矩形状となる角柱状に形成され、上部フレーム2及び下部フレーム3の外縁よりも内側の空間内において、下端側に対し上端側がそれぞれ外側へ拡がるように傾斜した状態で延在するように構成されている。
【0015】
また、下部フレーム3の中央開口部内には、十字状部6が形成されている。この十字状部6は、同一形状の四つの平板状部6aを、中央部6b周りに90°間隔で放射状(十字状)に配置し、各平板状部6aの外側先端部がそれぞれ下部フレーム3の各内側面の中間位置(隣接する二つの垂直部4,4の中間位置)にそれぞれ接続された状態となっている。四つの斜材部5は、下端がそれぞれ十字状部6に接続され、上端が上部フレーム2の下面の中間位置(隣接する二つの垂直部4,4の中間位置)に接続されている。
【0016】
下部フレーム3の上縁部付近には、各外側面3bよりも外側へ張り出したフラップ状の下方張出部3aが形成されている。また、上部フレーム2の上縁部付近にも、垂直部4の各外側面よりも外側へ張り出したフラップ状の上方張出部2aが形成されている。尚、張出部2a,3aのいずれも、下面が傾斜面(基端部側(内側)が低く、先端部側(外側)が高くなるような傾斜面)となっている。
【0017】
この漁礁ブロック1においては、垂直部4、斜材部5、及び、十字状部6が、漁礁ブロック1の垂直な中心軸線を基準として、距離及び角度間隔がそれぞれ均等となるように配置され、漁礁ブロック1の四つの側面形状(側面図において表れる形状)(内側に配置されている斜材部5の形状を含む)がいずれも同一となるように、また、各側面形状が左右対象となるように構成されている。従って、垂直な中心軸線周りの重量バランスは均等であり、重心は中心軸線上に位置することになる。また、上半部よりも下半部の方が重量が大きく、重心位置は下方寄り(上下方向の中間位置よりも下部フレーム3側)となっている。尚、本実施形態においては、漁礁ブロック1の横幅寸法は4.6m、高さ寸法は4m、重量は40tに設定されている。
【0018】
本実施形態の漁礁ブロック1は、上記のような構成に係るものであるところ、据え付け作業を、作業船から漁礁ブロック1を海中へ投入するという方法で実施することができる。この点についてより具体的に説明すると、まず、従来の漁礁ブロックを、海底までワイヤーで吊り降ろすのではなく、作業船から海中へ投入する方法によって据え付けようとする場合、海底の据付予定位置へ精度良く落下させることが非常に難しいという問題がある。
【0019】
例えば、投入した漁礁ブロックを、投入ポイントから鉛直下方向へほぼ直線的に落下させることができるのであれば、据付予定位置の鉛直上方のポイントから投入すればよい、ということになるが、従来の漁礁ブロックは、海中へ投入すると、例えば、僅かに傾斜した姿勢のまま斜め下方向へ落下したり、横揺れしながら、或いは、螺旋を描きながら落下するといった具合に、落下時の挙動が不安定となり、着底位置が定まらない。
【0020】
本実施形態の漁礁ブロック1は、水中へ投入すると、安定した挙動で落下し、静水中においては、投入ポイントから鉛直下方向へほぼ直線的に落下させることができ、据付予定位置の鉛直上方のポイントから投入することにより、据付予定位置へ精度良く落下させることができる。かかる効果は、この漁礁ブロック1において、重心位置が低くなるように設定したことと、フレームの内側に、下端側に対し上端側が外側へ拡がるように傾斜した状態で延在する斜材部5をフレームの内側に形成したこと、更に、上部フレーム2の上縁部付近に、垂直部4の各外側面よりも外側へ張り出したフラップ状の上方張出部2aを形成したこと、及び、下部フレーム3の上縁部付近に、各外側面3bよりも外側へ張り出したフラップ状の下方張出部3aを形成したことによって実現される。
【0021】
より詳細には、重心位置が低くなるように設定するとともに、フレームの内側に上述のような斜材部5を形成することにより、水中落下時において、漁礁ブロック1が縦方向へ回転することを好適に抑制し、下部フレーム3が常に下側となる姿勢で落下させることができ、必ず正立の状態で着底させることができる。
【0022】
また、上下の張出部2a,3aにより、横揺れを抑制することができ、ほぼ鉛直下方向へほぼ直線的に落下させることができる。尚、傾けた姿勢で海中に投入した場合でも、上下の張出部2a,3aが抵抗となって、横揺れしながらも、規則的に安定した挙動で落下することになり、鉛直な仮想中心線から左右方向へ均等な揺れ幅(ブロックの横幅1個分程度)をもって、鉛直下方向へ落下させることができる。
【0023】
このため、漁礁ブロック1を海底の据付予定位置の上方の海面付近から海中へ投入することにより、据付予定位置へ精度良く(所定の範囲内に)着底させることができ、施工時間及び施工コストを大幅に縮減することができ、非常に経済的である。特に、300m程度の大水深の海域に漁礁を形成しようとする場合、従来の漁礁ブロック及び据付方法では非常に困難であったが、本実施形態の漁礁ブロック1を用いれば、短時間で、経済的に実施することができ、最適である。
【0024】
尚、実施しようとする海域において、無視できない大きさの海流(潮流を含む)が生じている場合には、漁礁ブロックについて行った流水中落下実験のデータ、実施しようとする海域における海流の方向、及び、流速を基に、コンピュータによる数値解析を行い、海底の据付予定位置に着底させるための投入ポイントを算出し、当該投入ポイントから漁礁ブロックを海中へ投入する。
【0025】
以下、本発明に係る漁礁ブロック1の性能について、本発明の発明者らが行った実験(試験)の結果を、実施例1、2として説明する。
【実施例1】
【0026】
まず、図1に示した本発明の漁礁ブロック1の1/60スケールの模型(横幅寸法:77mm、高さ寸法:67mm、重量:185g)を用意するとともに、構成が異なる下記の4種類のブロック模型(比較例A〜D)を用意し、水深2m(現地量:120m)の水槽を用いて、静水中落下実験を行った。
比較例A: 図1の漁礁ブロック1から、斜材部5、上方張出部2a、及び、下方張出部3aを除去したもの(低重心)
比較例B: 図1の漁礁ブロック1から、上方張出部2a、及び、下方張出部3aを除去したもの(低重心)
比較例C: 図1の漁礁ブロック1から、上方張出部2aを除去したもの(低重心)
比較例D: 図1の漁礁ブロック1から、下方張出部3aを除去したもの(低重心)
【0027】
図6は、水中を落下中の模型の連続写真である。斜材部が形成されていない比較例Aのブロック模型は、図6に示すように、低重心であるにも拘わらず、縦方向への回転が生じ、不安定な挙動で落下した。また、着底時に必ずしも正立せず、横倒し状態となるケースが頻繁に生じた。更に、着底位置が定まらず、広範囲にわたって分散した。一方、斜材部5を有する比較例Bの模型では、縦方向への回転が抑制されることが確認された。但し、図6に示すように、斜め下方向へ滑るような落下挙動が確認された。
【0028】
斜材部5、及び、下方張出部3aが形成された比較例Cの模型では、斜め下方向へ滑るような挙動がなくなり、安定した挙動でまっすぐに落下した。一方、斜材部5、及び、上方張出部2aが形成された比較例Dにおいても、斜め下方向へ滑るような挙動はなくなった。但し、上方張出部2aが抵抗となって、パラシュートのように、螺旋を描きながら落下した。
【0029】
これらに対し、斜材部5、上方張出部2a、及び、下方張出部3aがそれぞれ形成された本発明の模型は、最も安定した挙動で鉛直下方向へほぼ直線的に落下し、必ず正立状態で着底することが確認された。また、着底範囲は、投入ポイントの鉛直下位置から、ブロック1個分の幅の範囲に集中した。更に、傾けた状態で落下させた場合でも、上下の張出部2a,3aが抵抗となって、左右に揺れながらも、着底範囲に大きな差は生じなかった。
【0030】
これらの実験結果により、本発明に係る漁礁ブロック1は、水中へ投入すると、安定した挙動で落下し、投入ポイントから鉛直下方向へほぼ直線的に落下させることができ、据付予定位置の鉛直上方のポイントから投入することにより、海底の据付予定位置へ精度良く落下させることができるということが確認された。
【実施例2】
【0031】
実施例1の実験で使用した図1の漁礁ブロック1の1/60スケールの模型を用いて、流水中落下実験を行った。具体的には、水深80cm(現地量:50m)の水槽内において、流速2cm/sの水流(現地量:0.15m/s)を生じさせ、漁礁ブロック1の模型を落下させた。その結果、模型は、流速と同程度の速さで流下方向に移動し、着底範囲については、ブロック1個分の幅の範囲に集中した。また、流速を5cm/sとした場合(現地量:0.38m/s)も同様の結果となった。更に、これらの実験結果を基に、コンピュータによる数値シミュレーションにより、図1の漁礁ブロック1を、300mの水深の海域で海面から落下させた場合における着底位置の予測を行ったところ、上記実験結果と同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0032】
1:漁礁ブロック、
2:上部フレーム、
2a:上方張出部、
3:下部フレーム、
3a:下方張出部、
3b:外側面、
4:垂直部、
5:斜材部、
6:十字状部、
6a:平板状部、
6b:中央部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部フレーム、下部フレーム、四つの垂直部、及び、四つの斜材部とによって構成され、
前記上部フレーム、及び、下部フレームは、いずれも平面輪郭形状が正方形であり、内側に開口を有する枠状に形成され、
前記四つの垂直部は、上部フレームの四つの角部と、下部フレームの四つの角部とを所定間隔を置いて接続するように、かつ、垂直方向へ延在するように構成され、
前記四つの斜材部は、上部フレーム及び下部フレームの外縁よりも内側の空間内において、下端側に対し上端側がそれぞれ外側へ拡がるように傾斜した状態で延在するように構成され、
前記下部フレームの上縁部付近には、各外側面よりも外側へ張り出したフラップ状の下方張出部が形成され、
前記上部フレームの上縁部付近には、前記垂直部の各外側面よりも外側へ張り出したフラップ状の上方張出部が形成され、
重心位置が下方寄りとなるように構成されていることを特徴とする漁礁ブロック。
【請求項2】
前記下方張出部、及び、上方張出部の下面が、基端部側が低く、先端部側が高くなるような傾斜面となっていることを特徴とする、請求項1に記載の漁礁ブロック。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の漁礁ブロックを、海面から海中へ投入し、海中を落下させ、着底させて、海底に据え付けることを特徴とする漁礁ブロックの据付方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の漁礁ブロックについて行った流水中落下実験のデータ、実施しようとする海域における海流の方向、及び、流速を基に、コンピュータによる数値解析を行い、海底の据付予定位置に着底させるための投入ポイントを算出し、当該投入ポイントから漁礁ブロックを海中へ投入することを特徴とする、請求項3に記載の漁礁ブロックの据付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−250747(P2011−250747A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127666(P2010−127666)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000236610)株式会社不動テトラ (136)
【Fターム(参考)】