説明

漆模様製造方法及びそれを使用して形成された漆模様、並びに漆模様の展示方法

【課題】製造が容易で、しかも変化のある模様を多種多様かつ効率的に付与することを可能とする。
【解決手段】透明又は半透明のガラス材や樹脂材等からなる被装飾材1に漆材を塗布して漆層3を形成した後に、未乾燥状態の漆層3にアルコール剤を混入させて漆材を流動化させ、その漆材を流動作用を利用して漆模様3a,3bを形成し、或いは箔層7等のヒビ割れ模様を形成することによって、漆層3の乾燥時間を大幅に低減するとともに、漆の流動漆模様、漆割れ模様及び箔割れ模様等からなる漆模様を好適に形成するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被装飾材に漆材を塗布して漆層に模様を形成するようにした漆模様製造方法及びそれを使用して形成された漆模様、並びに漆模様の展示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
器や装飾品など表面に対して伝統的に施されている漆塗りは、通常、均質で平滑な塗り面が得られるように漆材を極めて慎重に塗布する工程が行われており、そのような塗布工程が数度にわたって行われている。また、塗布する工程を終了した後の乾燥工程も、多大の時間と回数をかけて行うのが常識となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−255929号公報
【特許文献2】特開2002−225499号公報
【特許文献3】特開平10−194782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したように漆塗りを行うには、多大な時間を要する上に、均質で平滑な塗り面しか得られないことから、蒔絵等の加飾を行う以外には模様の変化をほとんど得ることができないという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、製造が容易で、しかも変化のある模様を多種多様かつ効率的に付与することが出来るようにした漆模様製造方法及びそれを使用して形成された漆模様、並びに漆模様の展示方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明では、被装飾材に漆材を塗布して漆層を形成する第1工程と、前記漆層が未乾燥状態の間に当該漆層の適宜の位置にアルコール剤を混入させる第2工程と、前記アルコール剤が混入された部位における漆材の流動作用によって流動漆模様を形成する第3工程と、前記流動漆模様が形成された漆層の全体を乾燥させる第4工程とを備えた構成が採用されている。
【0007】
このような構成を有する本発明によれば、被装飾材に漆材を塗布した後における未乾燥状態の漆層にアルコール剤を混入させて漆材を流動化させ、その漆材の流動作用によって流動漆模様が形成されるために、漆材の流動作用に伴う漆模様が好適に形成されるとともに、漆層の乾燥前に模様の形成が行われることから作業時間が大幅に低減される。
【0008】
また、本発明におけるアルコール剤が、エタノール成分を含むものであることが望ましい。
【0009】
このような構成を有する本発明によれば、漆材の流動作用が良好に得られる。
【0010】
また、本発明における流動漆模様が、前記漆材の濃淡模様、又は前記漆材が流動した領域の流動縁部に形成される盛上模様からなることが可能である。
【0011】
このような構成を有する本発明によれば、盛上模様によって立体感のある漆模様が容易に得られる。
【0012】
また、本発明における未乾燥の漆層に、タンパク質を含有する乾燥剤を混入させることによって前記漆層にヒビ(罅)割れ模様を形成することが可能である。このとき、本発明にかかる卵白等のタンパク質を含有する乾燥剤を混入させるタイミングを適宜に調整することによって、ヒビ割れ模様におけるヒビ割れの大きさや向き(方向)を調整することが可能である。
【0013】
このような構成を有する本発明によれば、タンパク質と漆材とが反応を起こして、本来は均質で平滑な漆層がヒビ(罅)割れしたような立体感のある漆模様が容易に得られる。
【0014】
また本発明では、被装飾材に漆材を塗布して漆層を形成する第1工程と、前記漆層が未乾燥状態の間に当該漆層に、タンパク質を含有する乾燥剤を混合させるように塗布して混合漆層を形成する第2工程と、前記混合漆層を乾燥させることによって漆割れ模様を形成する第3工程と、を備えた構成が採用される。
【0015】
このような構成を有する本発明によれば、漆にタンパク質を含有する乾燥剤が混合した状態で乾燥が行われるため、大きく自然で立体感のある漆のヒビ割模様である漆割れ模様が容易に得られる。
【0016】
さらに本発明では、被装飾材に漆材を塗布して漆層を形成する第1工程と、前記漆層が未乾燥状態の間に当該漆層の上に金属箔を被着して箔層を形成する第2工程と、前記箔層の上に、タンパク質を含有する乾燥剤を塗布して乾燥させることによって箔割れ模様を形成する第3工程と、を備えた構成が採用される。
【0017】
このような構成を有する本発明によれば、金属箔にタンパク質を含有する乾燥剤が混合した状態で乾燥が行われるため、金属箔が大きく自然にヒビ割れした立体感のある漆の箔割れ模様が容易に得られる。
【0018】
また、本発明における被装飾材が、透明体又は半透明体のガラス材又は樹脂材からなるように構成することが可能である。
【0019】
このような構成を有する本発明によれば、漆材の流動作用に伴う流動漆模様、漆割れ模様及び箔割れ模様等からなる漆模様が、被装飾材を通した光線によって変化のある模様になされる。
【0020】
さらにまた本発明では、流動漆模様又は漆割れ模様又は箔割れ模様を、雰囲気の温度又は湿度を適宜に調整して形成することが望ましい。
【0021】
このような構成を有する本発明によれば、各漆模様の仕上り具合を多種多様なものに容易にコントロールすることが可能となる。
【0022】
一方、本発明では、上述した漆模様製造方法を使用して形成された漆模様に外部からの光を照射して展示する構成が採用される。
【0023】
このような構成を有する本発明によれば、上述した流動漆模様、漆割れ模様及び箔割れ模様等からなる漆模様が光によって輝きを増し、特に展示の後方から光を当てた場合には漆模様に光が良好に融合される。
【発明の効果】
【0024】
以上述べたように本発明は、被装飾材に漆材を塗布した後における未乾燥状態の漆層にアルコール剤、金属箔、又はタンパク質を含有する乾燥剤を混入させたときの漆材に対する特有の作用によって好適な流動漆模様、漆割れ模様及び箔割れ模様等からなる漆模様を形成し、種々の漆模様を好適に形成可能とするとともに、漆層の乾燥時間を低減可能としたものであるから、製造が容易で、しかも変化のある模様を多種多様に付与することができ、漆模様の有用性を低廉かつ大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態にかかる漆模様製造方法により形成された流動漆模様の層構成を模式的に表した断面説明図である。
【図2】図1に示された流動漆模様のうちの濃淡模様又は盛上模様の構成を模式的に表した断面説明図である。
【図3】図2に示された濃淡模様又は盛上模様にヒビ(罅)模様を付けた状態を模式的に表した断面説明図である。
【図4】本発明の他の実施形態にかかる金箔等の金属箔を用いた漆模様製造方法により形成された漆の箔割れ模様の層構成を模式的に表した断面説明図である。
【図5】図4に示された実施形態にかかる漆の箔割れ模様を外方から見たときの正面説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
まず、本発明にかかる漆模様製造方法を使用して形成された漆模様は、例えば図1に示された実施形態にかかる構成になされている。すなわち、図1に示された実施形態では、漆模様が付与される被装飾材1として、透明体又は半透明体のガラス材又は樹脂材が採用されており、その被装飾材1の表面には、接着材等からなるプライマ2を介して、漆材を塗布して漆層3を形成する第1工程が施されている。
【0027】
上述した第1工程により形成された漆層3が未乾燥状態の間に当該漆層3の適宜の位置には、例えばエタノール成分を含むアルコール剤を混入させる第2工程が施される。これによって漆層3を構成している漆材が流動化されることとなり、そのアルコール剤が混入された部位における漆材の流動作用によって流動漆模様を形成する第3工程が行われる。この漆材を流動化させるアルコールは、揮発性が高いことから塗膜への影響が極めて少ない。
【0028】
このような第3工程によって、漆材の濃淡模様、又は漆材が流動した領域の流動縁部に形成される盛上模様からなる流動漆模様が形成されることとなる。例えば、この第3工程を例えば3回行うと、図2に示されているような3段階の盛上模様3aを有する濃淡模様が流動漆模様として形成される。この流動漆模様の仕上り具合は、雰囲気の温度又は湿度を適宜に調整することによって、多種多様なものに容易にコントロールすることが可能となる。
【0029】
ここで、上述した第3工程により形成される漆材の濃淡模様又は盛上模様からなる流動漆模様を構成している未乾燥の漆層3に、卵白のようなタンパク質を含有する乾燥剤4を混入させることとすれば、タンパク質と漆材とが反応を起こして、図3に示されているように前記漆層3にヒビ割れ模様3bが形成される。そして、その乾燥剤を混入させるタイミングを適宜に調整することによって、前記ヒビ割れ模様3bにおけるヒビ割れ大きさが調整される。
【0030】
このとき、上述した卵白等のタンパク質を含有する乾燥剤4を、所定の時間をおいて数回塗布するようにすれば、多種多様なひび割れ模様が形成される。なお、卵白等の乾燥剤4を塗布した後には、従来のような洗い作業や磨き作業は不要であり、工程時間が大幅に増大されることはない。
【0031】
そして、上述した漆層5が形成された後の第4工程によって、上述したような流動漆模様が形成された漆層3の全体を乾燥させて全行程を完了する。
【0032】
このような構成を有する本発明によれば、被装飾材1に漆材を塗布した後における未乾燥状態の漆層3にアルコール剤を混入させて漆材を流動化させ、その漆材の流動作用によって流動漆模様が形成されるため、漆層3の乾燥時間が大幅に低減されるとともに、漆材の流動作用に伴う流動模様が好適に形成されるようになっている。
【0033】
また、本実施形態では、アルコール剤がエタノール成分を含むものであることから、塗膜への影響を小さくした状態で漆材の流動作用が良好に得られる。
【0034】
さらに、本実施形態における流動漆模様が、前記漆材の濃淡模様、又は前記漆材が流動した領域の流動縁部に形成される盛上模様からなることから、盛上模様によって立体感のある漆模様が容易に得られる。
【0035】
さらにまた、本実施形態では、未乾燥の漆層3にタンパク質を含有する乾燥剤を混入させることによって前記漆層3にヒビ(罅)割れ模様を形成し、その乾燥剤を混入させるタイミングを適宜に調整することによって、ヒビ割れ模様におけるヒビ割れ大きさを調整していることから、本来は均質で平滑な漆層がヒビ(罅)割れしたような立体感のある漆模様が容易に得られる。
【0036】
加えて、本実施形態においては被装飾材1が、透明体又は半透明体のガラス材又は樹脂材からなるように構成されていることから、漆材の流動作用に伴う流動漆模様が、被装飾材1を通した光線によって変化のある模様になされる。
【0037】
一方、上述した実施形態と同一構成物に対して同一の符号を付した図4に示された実施形態は、金箔等の金属箔を用いて金属箔のヒビ割れ模様である箔割れ模様を形成する方法を表している。当該実施形態においては、プライマ2の上にアクリル系の塗膜6を形成した後に漆層3を形成し、その漆層3が未乾燥状態にある間に当該漆層3の表面の適宜の位置に、金箔等からなる金属箔の箔層7を被着させる工程を有している。さらに、その箔層7の上に、卵白等のタンパク質を含有する乾燥剤4を塗布して乾燥させる工程が付加される。これらの工程によって、未乾燥状態の漆層3とともに箔層7が乾燥されることとなって、例えば図5に示されているように、箔層7を構成する金箔等に、従来より大きな自然な割れ目が形成されて箔割れ模様が形成される。
【0038】
このような構成を有する実施形態によれば、金属箔からなる箔層7に卵白等のタンパク質を含有する乾燥剤4が混合した状態で乾燥が行われるため、金属箔を構成する金箔等に自然にヒビ割れした立体感のある漆の箔割れ模様が容易に得られる。このとき、その箔割れ模様の仕上り具合は、雰囲気の温度又は湿度を適宜に調整することによって、多種多様なものに容易にコントロールすることが可能となる。
【0039】
また、上述した実施形態において、金箔等からなる金属箔の箔層7を形成することなくヒビ割れ模様である漆割れ模様を形成する実施形態も可能である。このような実施形態では、被装飾材1に塗布された漆材からなる漆層3が未乾燥状態の間に、タンパク質を含有する乾燥剤4を混合させるように塗布して混合漆層を形成する工程が行われ、その工程により形成された混合漆層を乾燥させることによって漆割れ模様を形成する工程が実行される。
【0040】
このような構成を有する本実施形態によれば、漆に卵白等のタンパク質を含有する乾燥剤4が混合した状態で乾燥が行われるため、従来より大きく自然な立体感のある漆のヒビ割模様である漆割れ模様が容易に得られる。この漆割れ模様の仕上り具合も、雰囲気の温度又は湿度を適宜に調整することによって、多種多様なものに容易にコントロールすることが可能となる。
【0041】
さらに、上述した各実施形態にかかる漆模様製造方法を使用して形成した流動漆模様、漆割れ模様及び箔割れ模様等からなる漆模様を展示するにあたっては、当該漆模様に外部からの光を照射して展示することが可能である。このような展示方法を採用しておけば、漆模様が光によって輝きを増し、装飾性が高められることとなる。特に被装飾材1が透明体又は半透明体のガラス材又は樹脂材からなる場合において展示の後方から光を当てた場合には、漆模様に光が良好に融合されて、さらに装飾性の高い漆模様が得られる。
【0042】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であるというのはいうまでもない。
【0043】
例えば、上述した実施形態では、被装飾材として透明又は半透明のガラス材や樹脂材が用いられているが、その他の多種多様な材質、例えば、木材や金属材なども同様に用いることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、多種多様な被装飾材に対して広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 被装飾材(透明体又は半透明体のガラス材又は樹脂材)
2 プライマ
3 漆層
3a 盛上模様
3b ヒビ割れ模様
4 乾燥剤(卵白)
5 漆層
6 アクリル系塗膜
7 金属箔(金箔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被装飾材に漆材を塗布して漆層を形成する第1工程と、
前記漆層が未乾燥状態の間に当該漆層の適宜の位置にアルコール剤を混入させる第2工程と、
前記アルコール剤が混入された部位における漆材の流動作用によって流動漆模様を形成する第3工程と、
前記流動漆模様が形成された漆層の全体を乾燥させる第4工程と、
を備えていることを特徴とする漆模様製造方法。
【請求項2】
前記流動漆模様が、前記漆材の濃淡模様、又は前記漆材が流動した領域の流動縁部に形成される盛上模様からなることを特徴とする請求項1記載の漆模様製造方法。
【請求項3】
前記未乾燥の漆層に、タンパク質を含有する乾燥剤を混入させることによって前記漆層にヒビ割れ模様を形成するようにしたことを特徴とする請求項1記載の漆模様製造方法。
【請求項4】
前記乾燥剤を混入させるタイミングを適宜に調整することによって、前記ヒビ割れ模様におけるヒビ割れ大きさを調整するようにしたことを特徴とする請求項4記載の漆模様製造方法。
【請求項5】
被装飾材に漆材を塗布して漆層を形成する第1工程と、
前記漆層が未乾燥状態の間に当該漆層に、タンパク質を含有する乾燥剤を混合させるように塗布して混合漆層を形成する第2工程と、
前記混合漆層を乾燥させることによって漆割れ模様を形成する第3工程と、
を備えていることを特徴とする漆模様製造方法。
【請求項6】
被装飾材に漆材を塗布して漆層を形成する第1工程と、
前記漆層が未乾燥状態の間に当該漆層の上に金属箔を被着して箔層を形成する第2工程と、
前記箔層の上に、タンパク質を含有する乾燥剤を塗布して乾燥させることによって箔割れ模様を形成する第3工程と、
を備えていることを特徴とする漆模様製造方法。
【請求項7】
前記被装飾材が、透明体又は半透明体のガラス材又は樹脂材からなることを特徴とする請求項1又は請求項5又は請求項6のいずれかに記載の漆模様製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の流動漆模様、又は請求項5記載の漆割れ模様、又は請求項6記載の箔割れ模様を、雰囲気の温度又は湿度を適宜に調整して形成するようにしたことを特徴とする漆模様製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の漆模様製造方法を使用して形成されたことを特徴とする漆模様。
【請求項10】
請求項9記載の漆模様に、外部からの光を照射して展示することを特徴とする漆模様展示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−274644(P2010−274644A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198053(P2009−198053)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(504458194)株式会社Duco (2)
【Fターム(参考)】