漏れ波アンテナ
【課題】CRLH漏れ波アンテナにおいて、利得を向上させる。
【解決手段】漏れ波アンテナ100は、誘電体基板10上にマイクロストリップ導体によって、キャパシタを形成する部分である23i、伝送線路21i、インダクタを形成する部分(スタブ)である24i及び25i、並びにキャパシタを形成する部分である22iが、第iの繰り返し単位(アンテナ素子)を形成している(iは1〜17)。この17個の繰り返しが、Composite Right and Left Handed、CRLH構造を形成している。また、その上に第1の誘電体板11とスロット31〜36を有する金属板30を有する。スロット31〜36を追加することで、それらを有しない場合と比較し、少ない周波数変化で広角にビーム走査が可能であるとのCRLH構造の特徴を損なうことなく利得を向上させることができる。
【解決手段】漏れ波アンテナ100は、誘電体基板10上にマイクロストリップ導体によって、キャパシタを形成する部分である23i、伝送線路21i、インダクタを形成する部分(スタブ)である24i及び25i、並びにキャパシタを形成する部分である22iが、第iの繰り返し単位(アンテナ素子)を形成している(iは1〜17)。この17個の繰り返しが、Composite Right and Left Handed、CRLH構造を形成している。また、その上に第1の誘電体板11とスロット31〜36を有する金属板30を有する。スロット31〜36を追加することで、それらを有しない場合と比較し、少ない周波数変化で広角にビーム走査が可能であるとのCRLH構造の特徴を損なうことなく利得を向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏面に接地板を有する誘電体基板の表側に導体から成る所定の単位パターンを一軸方向に周期的に繰り返し配置することによって形成されたマイクロストリップアレーアンテナによる漏れ波アンテナに関し、特に、アンテナの指向性を制御可能としたものに関する。
この発明は、ミリ波帯域又はマイクロ波帯域の電磁波を送信または受信するレーダや通信機器などに有益であり、アンテナの高利得化、並びに小型化若しくは配設空間の省スペース化に大いに有用なものである。
【背景技術】
【0002】
一般に漏れ波アンテナとしては、図11に示すアンテナ900が知られている。アンテナ900の構成は、図11に示す通り、断面が矩形の導波管90の1つの側面に、伝送方向(x軸方向)に延びたスロット91を形成したものである。尚、スロットの形成面の法線方向にz軸をとる。
【0003】
図11のアンテナ900は、周波数を変化させることで、正面方向(z軸の正方向)から電磁波が伝送する方向(x軸の正方向)にビームを走査できる。これを図11で楕円状のビームとして示し、その向きθが正であることで示した。さらに、導波管90の中にフェライトを挿入し、直流電流を流すことで、その透磁率を変化させ、周波数を固定して電子的にビームを走査することも知られている。
【0004】
また、漏れ波アンテナとしては図12に示す構成も知られている。図11のアンテナ900が正面方向(z軸の正方向)から電磁波が伝送する方向と逆方向(x軸の負方向)にビームを走査できないのに対し、図12の漏れ波アンテナ950は、当該方向にもビームを走査できる特徴が有り、メタマテリアルによる左手系を実現するものである(非特許文献1乃至3)。
【0005】
図12の漏れ波アンテナ950は、誘電体基板10上にCRLH(Composite Right and Left Handed)伝送線路を備えたものである。このCRLH線路は、伝送線路21(x軸方向の主線路)を周期的に分断するギャップGや、その分断された伝送線路21から枝分かれしたスタブ24などが具備されている。この漏れ波アンテナ950では、ギャップGが供するキャパシタンスや、スタブ24が供するインダクタンスの作用により、ある周波数帯において、伝送される電磁波の群速度の向きと位相速度の向きを相互に反対の向きとすることができる。即ち、左手系を実現できる。これにより、伝送される電磁波の周波数を変化させることにより、主線路上で電磁波が伝播する向きとは反対向きの図12中のz軸の正の向きからx軸の負の向きの方に傾斜したθ<0なる角度領域に対しても電磁波を放射することができる。その結果、放射ビームの方向を変化させる場合には、その放射ビームの走査範囲を広くとることができる。この様な、位相速度と群速度の向きが反対となる原理については、例えば下記の非特許文献1などに詳しい開示がある。
【0006】
また、下記の非特許文献2には、給電点から入力する電磁波の周波数を一定値に固定したまま、所定の電子制御に基づいて放射ビームの放射角を可変制御する制御方式が開示されている。この放射角の制御方式では、例えば図12の配線パターンの個々のギャップやスタブに対して、それぞれバラクタダイオードを接近させて配置し、各バラクタダイオードの容量を可変制御することによって放射ビームの放射角を可変制御している。
【非特許文献1】A. Sanada, C. Caloz, and T. Itoh, "Characteristics and Applications of Planar Negative Refractive Index Media," MWE2003, WS02-03.
【非特許文献2】S. Lim, C. Caloz, and T. Itoh, "Electronically-Controlled Metamaterial-Based Transmission Line as a Continuous-Scanning Leaky-Wave Antenna," 2004 IEEE MTT-S Digest TU1D-4.
【非特許文献3】C. Caloz, and T. Itoh, "Application of the Transmission Line Theory of Left-Handed (LH) Materials to the Realization of a Microstrip LH Line," IEEE-APS Int'l Symp. Digest, vol. 2, pp. 412-415, June 2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図12のような構成の、CRLH伝送線路を用いた漏れ波アンテナ950で高利得のアンテナを実現するために、繰り返し単位の数を増やしてアンテナ長の大きいアンテナを試作した場合、給電点に最も近い第1の繰り返し単位の素子からの放射量が大きく、それを減らすような設計が難しいという問題がある。給電点に最も近い第1の繰り返し単位の素子からの放射量が大きいと、給電部近傍の数素子から電波がほとんど放射してしまい、それより給電点から離れた素子はアンテナとして動作しないために、アンテナ全体としてのビームが形成されず、所望の指向方向へのパワーが集中しない。この結果、アンテナの所望の指向方向について利得が低下し、効率が下がる。さらに通常のパッチアレーアンテナにおいては、素子の間隔やその励振分布を制御することによりサイドローブのレベルやその角度、ヌルの角度を制御した任意の指向性を実現できるが、そのようなアレーアンテナの励振分布の制御が現状ではできない。また、車載レーダにおいては45度斜め偏波が用いられるが、アンテナ全体は回転させずに、偏波のみを45度回転させることができない。本発明は、これらの課題を解決することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを前記誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、前記誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有する漏れ波アンテナにおいて、前記単位パターンは、伝送線路と、前記伝送線路を途中で分断するギャップと、前記伝送線路から枝分かれするスタブとを有し、当該単位パターンを複数配列したストリップ線路の上に設けられた第1の誘電体板と、当該第1の誘電体板の上に設けられた、1個以上のスロットを有する金属板を有することを特徴とする漏れ波アンテナである。
【0009】
請求項2に係る発明は、誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを前記誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、前記誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有する漏れ波アンテナにおいて、前記単位パターンは、伝送線路と、前記伝送線路を途中で分断するギャップと、前記伝送線路から枝分かれするスタブとを有し、当該単位パターンを複数配列したストリップ線路の上に設けられた第1の誘電体板と、当該第1の誘電体板の上に設けられた、1個以上のパッチアンテナ又はダイポールアンテナを有することを特徴とする漏れ波アンテナである。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記スロットを有する金属板の上に設けられた第2の誘電体板と、当該第2の誘電体板の上に設けられた、1個以上のパッチアンテナを有することを特徴とする。
【0011】
尚、請求項1及び2に係る発明の「第1の誘電体板」、請求項3に係る発明の「第2の誘電体板」は、設計によっては、空気、真空その他の流体でも良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の手段によれば、周波数を変化させることにより、ギャップによるキャパシタンス成分とスタブのインダクタンス成分が変化し、線路から漏れる電波の放射方向やそのビーム幅が変化する。さらにこの線路を給電線路として、その給電線路の特性を乱さない高さの位置に設けられた金属板にスロットを設けることにより、給電線路とは独立に、その長さや幅、位置を設計することによりスロット素子からの放射量を調整することができる。その結果、スロットを有しない従来の漏れ波アンテナに比べてアレーの利得や効率を向上させることができる。また、細長矩形状のスロットから放射される偏波は、その電界の方向がスロットの細長方向に垂直であるので、スロットの傾きを変えることにより、その偏波の向きを自由に制御可能となり、車載レーダにおいて用いられる45度傾斜偏波にも容易に対応可能となる。
【0013】
本発明の第2の手段によれば、上記のスロットの代わりに、パッチアンテナ又はダイポールアンテナを設け、その長さ、幅及び位置を設計することにより、パッチアンテナ又はダイポールアンテナからの放射量を調整することができる。パッチアンテナの偏波は0.5波長となる辺に直交する方向であり、ダイポールアンテナの辺波はその長手方向であるため、それらの素子の向きを設計することにより、偏波の向きを自由に制御可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ストリップ線路の構成要素となる上記の単位パターンは、同一のパターンを用いてそれらを周期的に配列することが、例えば設計の容易性などの面でより望ましいが、必ずしも同一のパターンだけを用いる必要はなく、また、必ずしも周期的に配列する必要もない。したがって、例えば、ストリップ線路の構成要素となる上記の単位パターンは、伝送線路やスタブなどの各部の太さや長さなどの寸法が、揃っていなくとも良く、また、ギャップなどの間隔なども不揃いでも良い。また、誘電体基板としては、例えばフッ素樹脂などの比誘電率の小さな材料が望ましい。スタブと伝送線路との成す角度は、90度でなくとも良い。スタブは伝送線路の片側のみに設けられていても両側に設けられていても良く、両側に交互に設けられていても良い。その他任意のCRLH構造の漏れ波アンテナとスロットの結合として良い。
【0015】
本発明のスロットは、必ずしもストリップ線路の単位パターンの数に一致させる必要はなく、各々の数及び位置を所望に設計することができる。実際、ストリップ線路の単位パターンの数の1/2〜1/5程度のスロット数で事足りる。尚、パッチアンテナを設ける場合は、パッチアンテナの数はスロットの数と一致させて、対応するように配置することが好ましい。また、スロット、パッチアンテナ、プリントダイポールとCRLH構造の線路の高さ方向の距離は、1/8波長以上離れていることが好ましい。これ以下の場合には、CRLH構造の線路とスロット、パッチアンテナ、プリントダイポールとの結合が強くなり、CRLH構造の線路の特性が変化してしまうため、このような影響を考慮した設計が必要となる。
【0016】
マイクロストリップ導体及びパッチアンテナの材質やスロットを設ける金属板としては、印刷可能な銅を好適に用いることができる。
【0017】
以下、図を参照しながら本発明の具体例について説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
図1は、本願発明の具体的な一実施例に係る漏れ波アンテナ100の構成を示す斜視図である。また、図2は、漏れ波アンテナ100の一部分についての断面図であり、該当部分を図1で2点鎖線で示した。図1においては、その構成の把握を容易とするため、第1の誘電体板11とスロット31〜36を有する金属板30を他の部分から離した形で記載している。尚、本実施例は請求項1に係る発明の具体的な実施例に相当する。
【0019】
漏れ波アンテナ100は、x軸方向に長辺方向を有する矩形状のフッ素樹脂からなる誘電体基板10をxy平面に平行に置き、その表側に、分断されたマイクロストリップ導体による同一の単位パターン(1周期構造)を17回形成したものである。当該マイクロストリップ導体は、給電点210aからx軸方向に延設された伝送線路210、それに接続されてキャパシタを形成する部分である220、ギャップを空けてそれと対となるキャパシタを形成する部分である231、それに接続された伝送線路211、それに接続されてキャパシタを形成する部分である221が形成されている。キャパシタを形成する部分である220、231、221は、y軸方向に延設されている。また、伝送線路211中央部付近からは、y軸の正及び負方向に各々延設された、インダクタを形成する部分(スタブ)である251及び241が形成されている。また、スタブ241及び251の先端部の幅を広くすることにより、特性の改善を図った。この、キャパシタを形成する部分である231、伝送線路211、インダクタを形成する部分(スタブ)である241及び251、並びにキャパシタを形成する部分である221が、第1の繰り返し単位(アンテナ素子)を形成している。
【0020】
第1の繰り返し単位(アンテナ素子)とギャップを空けて第2の繰り返し単位(アンテナ素子)が形成されており、以下、第17の繰り返し単位(アンテナ素子)まで形成されている。第17の繰り返し単位(アンテナ素子)はキャパシタを形成する部分である2317、伝送線路2117、インダクタを形成する部分である2417及び2517、並びにキャパシタを形成する部分である2217から成る。
【0021】
第17の繰り返し単位(アンテナ素子)のキャパシタを形成する部分である2217と、ギャップを空けてそれと対となるキャパシタを形成する部分である2318が形成されており、それに接続されて伝送線路2118が形成されている。尚、「接続されて」とは、高周波的に接続されていれば良い。
【0022】
また、誘電体基板10の裏面には接地板20が形成されている。更に、上記マイクロストリップ導体の上には、順に第1の誘電体板11とy軸方向に形成された細長矩形状のスロット31〜36を有する金属板30が形成されている(図2)。
【0023】
スロット31〜36は、その中心が、マイクロストリップ導体の繰り返し単位(アンテナ素子)に対し、各々第1及び第2、第4及び第5、第7及び第8、第10及び第11、第13及び第4、第16及び第17の中間点にあたるように形成されている。実際、図2のように、スロット33は第7及び第8のマイクロストリップ導体の繰り返し単位(アンテナ素子)の中間点、即ち第7のマイクロストリップ導体の繰り返し単位(アンテナ素子)のキャパシタを形成する部分である227と、第8のマイクロストリップ導体の繰り返し単位(アンテナ素子)キャパシタを形成する部分である238とが成すギャップの上方に形成されている。細長矩形状のスロット31〜36は、その長手方向の長さが所望の波長の1/2に設計され、また、スロットの形成位置の周期も所望の波長の1/2以下である0.45波長に設計されている。
【0024】
以上のマイクロストリップ導体が、メタマテリアルであるCRLHを構成し、スロットと共に漏れ波アンテナ100の主要部となっている。誘電体板11の厚みを0.38波長とすることにより、スロット31〜36のCRLHに対するy軸方向の位置(ズレ位置)や、スロットの幅、スロット長を変えることにより素子からの放射量をCRLHの特性を乱すことなく制御できる。これらのパラメータについては、各スロット素子で同一とする必要性はなく、所望の特性となるように素子毎に変更可能である。本実施例ではCRLHの中心線とスロット31〜36の中心がxz平面上にあるようにし、スロットの幅は所望の波長の1/40とした。
【0025】
このような図1及び図2の漏れ波アンテナ100の特性について、設計に用いた所望波の周波数をf0として、0.99f0、f0、1.01f0及び1.02f0の高周波を入力した場合の、放射指向性を図3.Aに示す。尚、比較のため、図1の漏れ波アンテナ100から、第1の誘電体板11とスロット31〜36を有する金属板30を除いた漏れ波アンテナについての放射指向性を図3.Bに示す。図1の漏れ波アンテナ100と、そこから第1の誘電体板11と金属板30を除いた漏れ波アンテナのいずれについても、設計周波数f0においてはほぼ0°(z軸の正方向)にビームが形成され、周波数0.99f0では40°又は30°、周波数1.02f0では−30°の方向にビームが形成されている。即ち、周波数を3%変化させることで指向性を50°以上連続的に変化させることができる。また、図1の漏れ波アンテナ100の利得(dBi)は、そこから第1の誘電体板11と金属板30を除いた漏れ波アンテナの利得(dBi)よりも、設計周波数f0において2.2dB向上した。このことから、本発明のアンテナでは、従来のCRLH構造の漏れ波アンテナの特徴である、少ない周波数変化で広角にビーム走査が可能であるとの特徴を損なうことなく利得が向上しており、有効なことが明らかである。
【実施例2】
【0026】
図4は、本願発明の具体的な他の実施例に係る漏れ波アンテナ200の構成を示す斜視図である。また、図5は、漏れ波アンテナ200の一部分についての断面図であり、該当部分を図4で2点鎖線で示した。図4及び図5漏れ波アンテナ200の構成は、図1及び図2の漏れ波アンテナ100の構成で、スロット31〜36を有する金属板30の代わりにパッチアンテナ41〜46を設けた構成である。図4においては、その構成の把握を容易とするため、第1の誘電体板11とパッチアンテナ41〜46を他の部分から離した形で記載している。尚、本実施例は請求項2に係る発明の具体的な実施例に相当する。
【0027】
漏れ波アンテナ200は、パッチアンテナ41〜46の中心点がxz平面上に有り、その他は図1の漏れ波アンテナ100と同様の構成である。スロットを有する図1及び図2の漏れ波アンテナ100においては、導体板20と金属板30の間に平行平板モードが発生するため、それを抑圧する様な設計が必要となるが、図4及び図5の本実施例では平行平板モードが発生しないので、上記の設計が不要となる特徴がある。
【実施例3】
【0028】
図6は、本願発明の具体的な他の実施例に係る漏れ波アンテナ300の構成を示す斜視図である。また、図7は、漏れ波アンテナ300の一部分についての断面図であり、該当部分を図6で2点鎖線で示した。図6及び図7漏れ波アンテナ300の構成は、図1及び図2の漏れ波アンテナ100の構成で、スロット31〜36を有する金属板30の代わりにプリントダイポール51〜56を設けた構成である。図6においては、その構成の把握を容易とするため、第1の誘電体板11とプリントダイポール51〜56を他の部分から離した形で記載している。尚、本実施例は請求項2に係る発明の具体的な実施例に相当する。
【0029】
漏れ波アンテナ300は、プリントダイポール51〜56の中心点がxz平面上に有り、その他は図1の漏れ波アンテナ100と同様の構成である。図6及び図7の漏れ波アンテナ300は、図4及び図5の漏れ波アンテナ200と同様に、スロットを有する漏れ波アンテナ100のような平行平板モードは発生しない。また、図6及び図7の漏れ波アンテナ300のプリントダイポール51〜56は、図4及び図5の漏れ波アンテナ200のパッチアンテナ41〜46よりも利得が若干低くなるが、素子面積は小さくできると言う特徴がある。
【実施例4】
【0030】
図8は、本願発明の具体的な他の実施例に係る漏れ波アンテナ400の構成を示す斜視図である。また、図9は、漏れ波アンテナ400の一部分についての断面図であり、該当部分を図8で2点鎖線で示した。図8及び図9漏れ波アンテナ400の構成は、図1及び図2の漏れ波アンテナ100の構成に、第2の誘電体板12と、その上に形成されたパッチアンテナ41〜46を加えた構成である。図8においては、その構成の把握を容易とするため、第1の誘電体板11とスロット31〜36を有する金属板30、第2の誘電体板12とパッチアンテナ41〜46を他の部分から離した形で記載している。尚、本実施例は請求項3に係る発明の具体的な実施例に相当する。
【0031】
漏れ波アンテナ400は、スロット31〜36の中心点にパッチアンテナ41〜46の中心点が対応する、即ちそれら中心点が全てxz平面上にあって、対応するスロットとパッチアンテナの中心点を結ぶ線分がz軸に平行となるように設けられたものである。その他は図1の漏れ波アンテナ100と同様の構成である。この構造ではパッチアンテナ41〜46を形成した誘電体板12が増えるというコスト上の欠点はあるが、アンテナの指向性においては、パッチアンテナを追加する方がスロット単独よりも利得が高いという特徴がある。
【0032】
また図10に示すように各スロットの形成方向をxy平面内で45度傾斜させること(図10では金属板310のうち第1のスロット311のみ示した、)により、車載レーダで用いられる45度傾斜偏波も容易に実現できる。図10では放射される偏波の電界Eの方向を矢印で示した。この場合、例えば各図のz方向を車両の進行方向にすれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、無線通信や電磁波センシングに有用であり、例えば、無線通信装置や、車両の事故防止システムやオートクルーズ制御システムなどに用いられる障害物センサや、或いはその他の車両周辺の物体に対する物体探索手段などとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の具体的な一実施例に係る漏れ波アンテナ100の構成を示す斜視図。
【図2】漏れ波アンテナ100の構成を示す断面図。
【図3】漏れ波アンテナ100の周波数に対する放射特性を比較例と共に示したグラフ図。
【図4】本発明の具体的な他の実施例に係る漏れ波アンテナ200の構成を示す斜視図。
【図5】漏れ波アンテナ200の構成を示す断面図。
【図6】本発明の具体的な他の実施例に係る漏れ波アンテナ300の構成を示す斜視図。
【図7】漏れ波アンテナ300の構成を示す断面図。
【図8】本発明の具体的な他の実施例に係る漏れ波アンテナ400の構成を示す斜視図。
【図9】漏れ波アンテナ400の構成を示す断面図。
【図10】各実施例のスロットの変形例を示す平面図。
【図11】スロットを有する導波管による漏れ波アンテナの構成図。
【図12】メタマテリアルにより構成された左手系となりうる漏れ波アンテナの構成図。
【符号の説明】
【0035】
100、200、300、400:漏れ波アンテナ
10:誘電体基板
11:第1の誘電体板
12:第2の誘電体板
20:接地板
21:ギャップにより分断されたマイクロストリップ線路
24:スタブ
211〜2117(21i):繰り返し単位(アンテナ素子)の伝送路
221〜2217(22i)及び231〜2317(23i):アンテナ素子のキャパシタ形成部分
241〜2417(24i)及び251〜2517(25i):アンテナ素子のインダクタ形成部分(スタブ)
30、310:スロットを有する金属板
31〜36、311:スロット
41〜46:パッチアンテナ
51〜56:プリントダイポールアンテナ
G:ギャップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏面に接地板を有する誘電体基板の表側に導体から成る所定の単位パターンを一軸方向に周期的に繰り返し配置することによって形成されたマイクロストリップアレーアンテナによる漏れ波アンテナに関し、特に、アンテナの指向性を制御可能としたものに関する。
この発明は、ミリ波帯域又はマイクロ波帯域の電磁波を送信または受信するレーダや通信機器などに有益であり、アンテナの高利得化、並びに小型化若しくは配設空間の省スペース化に大いに有用なものである。
【背景技術】
【0002】
一般に漏れ波アンテナとしては、図11に示すアンテナ900が知られている。アンテナ900の構成は、図11に示す通り、断面が矩形の導波管90の1つの側面に、伝送方向(x軸方向)に延びたスロット91を形成したものである。尚、スロットの形成面の法線方向にz軸をとる。
【0003】
図11のアンテナ900は、周波数を変化させることで、正面方向(z軸の正方向)から電磁波が伝送する方向(x軸の正方向)にビームを走査できる。これを図11で楕円状のビームとして示し、その向きθが正であることで示した。さらに、導波管90の中にフェライトを挿入し、直流電流を流すことで、その透磁率を変化させ、周波数を固定して電子的にビームを走査することも知られている。
【0004】
また、漏れ波アンテナとしては図12に示す構成も知られている。図11のアンテナ900が正面方向(z軸の正方向)から電磁波が伝送する方向と逆方向(x軸の負方向)にビームを走査できないのに対し、図12の漏れ波アンテナ950は、当該方向にもビームを走査できる特徴が有り、メタマテリアルによる左手系を実現するものである(非特許文献1乃至3)。
【0005】
図12の漏れ波アンテナ950は、誘電体基板10上にCRLH(Composite Right and Left Handed)伝送線路を備えたものである。このCRLH線路は、伝送線路21(x軸方向の主線路)を周期的に分断するギャップGや、その分断された伝送線路21から枝分かれしたスタブ24などが具備されている。この漏れ波アンテナ950では、ギャップGが供するキャパシタンスや、スタブ24が供するインダクタンスの作用により、ある周波数帯において、伝送される電磁波の群速度の向きと位相速度の向きを相互に反対の向きとすることができる。即ち、左手系を実現できる。これにより、伝送される電磁波の周波数を変化させることにより、主線路上で電磁波が伝播する向きとは反対向きの図12中のz軸の正の向きからx軸の負の向きの方に傾斜したθ<0なる角度領域に対しても電磁波を放射することができる。その結果、放射ビームの方向を変化させる場合には、その放射ビームの走査範囲を広くとることができる。この様な、位相速度と群速度の向きが反対となる原理については、例えば下記の非特許文献1などに詳しい開示がある。
【0006】
また、下記の非特許文献2には、給電点から入力する電磁波の周波数を一定値に固定したまま、所定の電子制御に基づいて放射ビームの放射角を可変制御する制御方式が開示されている。この放射角の制御方式では、例えば図12の配線パターンの個々のギャップやスタブに対して、それぞれバラクタダイオードを接近させて配置し、各バラクタダイオードの容量を可変制御することによって放射ビームの放射角を可変制御している。
【非特許文献1】A. Sanada, C. Caloz, and T. Itoh, "Characteristics and Applications of Planar Negative Refractive Index Media," MWE2003, WS02-03.
【非特許文献2】S. Lim, C. Caloz, and T. Itoh, "Electronically-Controlled Metamaterial-Based Transmission Line as a Continuous-Scanning Leaky-Wave Antenna," 2004 IEEE MTT-S Digest TU1D-4.
【非特許文献3】C. Caloz, and T. Itoh, "Application of the Transmission Line Theory of Left-Handed (LH) Materials to the Realization of a Microstrip LH Line," IEEE-APS Int'l Symp. Digest, vol. 2, pp. 412-415, June 2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図12のような構成の、CRLH伝送線路を用いた漏れ波アンテナ950で高利得のアンテナを実現するために、繰り返し単位の数を増やしてアンテナ長の大きいアンテナを試作した場合、給電点に最も近い第1の繰り返し単位の素子からの放射量が大きく、それを減らすような設計が難しいという問題がある。給電点に最も近い第1の繰り返し単位の素子からの放射量が大きいと、給電部近傍の数素子から電波がほとんど放射してしまい、それより給電点から離れた素子はアンテナとして動作しないために、アンテナ全体としてのビームが形成されず、所望の指向方向へのパワーが集中しない。この結果、アンテナの所望の指向方向について利得が低下し、効率が下がる。さらに通常のパッチアレーアンテナにおいては、素子の間隔やその励振分布を制御することによりサイドローブのレベルやその角度、ヌルの角度を制御した任意の指向性を実現できるが、そのようなアレーアンテナの励振分布の制御が現状ではできない。また、車載レーダにおいては45度斜め偏波が用いられるが、アンテナ全体は回転させずに、偏波のみを45度回転させることができない。本発明は、これらの課題を解決することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを前記誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、前記誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有する漏れ波アンテナにおいて、前記単位パターンは、伝送線路と、前記伝送線路を途中で分断するギャップと、前記伝送線路から枝分かれするスタブとを有し、当該単位パターンを複数配列したストリップ線路の上に設けられた第1の誘電体板と、当該第1の誘電体板の上に設けられた、1個以上のスロットを有する金属板を有することを特徴とする漏れ波アンテナである。
【0009】
請求項2に係る発明は、誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを前記誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、前記誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有する漏れ波アンテナにおいて、前記単位パターンは、伝送線路と、前記伝送線路を途中で分断するギャップと、前記伝送線路から枝分かれするスタブとを有し、当該単位パターンを複数配列したストリップ線路の上に設けられた第1の誘電体板と、当該第1の誘電体板の上に設けられた、1個以上のパッチアンテナ又はダイポールアンテナを有することを特徴とする漏れ波アンテナである。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記スロットを有する金属板の上に設けられた第2の誘電体板と、当該第2の誘電体板の上に設けられた、1個以上のパッチアンテナを有することを特徴とする。
【0011】
尚、請求項1及び2に係る発明の「第1の誘電体板」、請求項3に係る発明の「第2の誘電体板」は、設計によっては、空気、真空その他の流体でも良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の手段によれば、周波数を変化させることにより、ギャップによるキャパシタンス成分とスタブのインダクタンス成分が変化し、線路から漏れる電波の放射方向やそのビーム幅が変化する。さらにこの線路を給電線路として、その給電線路の特性を乱さない高さの位置に設けられた金属板にスロットを設けることにより、給電線路とは独立に、その長さや幅、位置を設計することによりスロット素子からの放射量を調整することができる。その結果、スロットを有しない従来の漏れ波アンテナに比べてアレーの利得や効率を向上させることができる。また、細長矩形状のスロットから放射される偏波は、その電界の方向がスロットの細長方向に垂直であるので、スロットの傾きを変えることにより、その偏波の向きを自由に制御可能となり、車載レーダにおいて用いられる45度傾斜偏波にも容易に対応可能となる。
【0013】
本発明の第2の手段によれば、上記のスロットの代わりに、パッチアンテナ又はダイポールアンテナを設け、その長さ、幅及び位置を設計することにより、パッチアンテナ又はダイポールアンテナからの放射量を調整することができる。パッチアンテナの偏波は0.5波長となる辺に直交する方向であり、ダイポールアンテナの辺波はその長手方向であるため、それらの素子の向きを設計することにより、偏波の向きを自由に制御可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ストリップ線路の構成要素となる上記の単位パターンは、同一のパターンを用いてそれらを周期的に配列することが、例えば設計の容易性などの面でより望ましいが、必ずしも同一のパターンだけを用いる必要はなく、また、必ずしも周期的に配列する必要もない。したがって、例えば、ストリップ線路の構成要素となる上記の単位パターンは、伝送線路やスタブなどの各部の太さや長さなどの寸法が、揃っていなくとも良く、また、ギャップなどの間隔なども不揃いでも良い。また、誘電体基板としては、例えばフッ素樹脂などの比誘電率の小さな材料が望ましい。スタブと伝送線路との成す角度は、90度でなくとも良い。スタブは伝送線路の片側のみに設けられていても両側に設けられていても良く、両側に交互に設けられていても良い。その他任意のCRLH構造の漏れ波アンテナとスロットの結合として良い。
【0015】
本発明のスロットは、必ずしもストリップ線路の単位パターンの数に一致させる必要はなく、各々の数及び位置を所望に設計することができる。実際、ストリップ線路の単位パターンの数の1/2〜1/5程度のスロット数で事足りる。尚、パッチアンテナを設ける場合は、パッチアンテナの数はスロットの数と一致させて、対応するように配置することが好ましい。また、スロット、パッチアンテナ、プリントダイポールとCRLH構造の線路の高さ方向の距離は、1/8波長以上離れていることが好ましい。これ以下の場合には、CRLH構造の線路とスロット、パッチアンテナ、プリントダイポールとの結合が強くなり、CRLH構造の線路の特性が変化してしまうため、このような影響を考慮した設計が必要となる。
【0016】
マイクロストリップ導体及びパッチアンテナの材質やスロットを設ける金属板としては、印刷可能な銅を好適に用いることができる。
【0017】
以下、図を参照しながら本発明の具体例について説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
図1は、本願発明の具体的な一実施例に係る漏れ波アンテナ100の構成を示す斜視図である。また、図2は、漏れ波アンテナ100の一部分についての断面図であり、該当部分を図1で2点鎖線で示した。図1においては、その構成の把握を容易とするため、第1の誘電体板11とスロット31〜36を有する金属板30を他の部分から離した形で記載している。尚、本実施例は請求項1に係る発明の具体的な実施例に相当する。
【0019】
漏れ波アンテナ100は、x軸方向に長辺方向を有する矩形状のフッ素樹脂からなる誘電体基板10をxy平面に平行に置き、その表側に、分断されたマイクロストリップ導体による同一の単位パターン(1周期構造)を17回形成したものである。当該マイクロストリップ導体は、給電点210aからx軸方向に延設された伝送線路210、それに接続されてキャパシタを形成する部分である220、ギャップを空けてそれと対となるキャパシタを形成する部分である231、それに接続された伝送線路211、それに接続されてキャパシタを形成する部分である221が形成されている。キャパシタを形成する部分である220、231、221は、y軸方向に延設されている。また、伝送線路211中央部付近からは、y軸の正及び負方向に各々延設された、インダクタを形成する部分(スタブ)である251及び241が形成されている。また、スタブ241及び251の先端部の幅を広くすることにより、特性の改善を図った。この、キャパシタを形成する部分である231、伝送線路211、インダクタを形成する部分(スタブ)である241及び251、並びにキャパシタを形成する部分である221が、第1の繰り返し単位(アンテナ素子)を形成している。
【0020】
第1の繰り返し単位(アンテナ素子)とギャップを空けて第2の繰り返し単位(アンテナ素子)が形成されており、以下、第17の繰り返し単位(アンテナ素子)まで形成されている。第17の繰り返し単位(アンテナ素子)はキャパシタを形成する部分である2317、伝送線路2117、インダクタを形成する部分である2417及び2517、並びにキャパシタを形成する部分である2217から成る。
【0021】
第17の繰り返し単位(アンテナ素子)のキャパシタを形成する部分である2217と、ギャップを空けてそれと対となるキャパシタを形成する部分である2318が形成されており、それに接続されて伝送線路2118が形成されている。尚、「接続されて」とは、高周波的に接続されていれば良い。
【0022】
また、誘電体基板10の裏面には接地板20が形成されている。更に、上記マイクロストリップ導体の上には、順に第1の誘電体板11とy軸方向に形成された細長矩形状のスロット31〜36を有する金属板30が形成されている(図2)。
【0023】
スロット31〜36は、その中心が、マイクロストリップ導体の繰り返し単位(アンテナ素子)に対し、各々第1及び第2、第4及び第5、第7及び第8、第10及び第11、第13及び第4、第16及び第17の中間点にあたるように形成されている。実際、図2のように、スロット33は第7及び第8のマイクロストリップ導体の繰り返し単位(アンテナ素子)の中間点、即ち第7のマイクロストリップ導体の繰り返し単位(アンテナ素子)のキャパシタを形成する部分である227と、第8のマイクロストリップ導体の繰り返し単位(アンテナ素子)キャパシタを形成する部分である238とが成すギャップの上方に形成されている。細長矩形状のスロット31〜36は、その長手方向の長さが所望の波長の1/2に設計され、また、スロットの形成位置の周期も所望の波長の1/2以下である0.45波長に設計されている。
【0024】
以上のマイクロストリップ導体が、メタマテリアルであるCRLHを構成し、スロットと共に漏れ波アンテナ100の主要部となっている。誘電体板11の厚みを0.38波長とすることにより、スロット31〜36のCRLHに対するy軸方向の位置(ズレ位置)や、スロットの幅、スロット長を変えることにより素子からの放射量をCRLHの特性を乱すことなく制御できる。これらのパラメータについては、各スロット素子で同一とする必要性はなく、所望の特性となるように素子毎に変更可能である。本実施例ではCRLHの中心線とスロット31〜36の中心がxz平面上にあるようにし、スロットの幅は所望の波長の1/40とした。
【0025】
このような図1及び図2の漏れ波アンテナ100の特性について、設計に用いた所望波の周波数をf0として、0.99f0、f0、1.01f0及び1.02f0の高周波を入力した場合の、放射指向性を図3.Aに示す。尚、比較のため、図1の漏れ波アンテナ100から、第1の誘電体板11とスロット31〜36を有する金属板30を除いた漏れ波アンテナについての放射指向性を図3.Bに示す。図1の漏れ波アンテナ100と、そこから第1の誘電体板11と金属板30を除いた漏れ波アンテナのいずれについても、設計周波数f0においてはほぼ0°(z軸の正方向)にビームが形成され、周波数0.99f0では40°又は30°、周波数1.02f0では−30°の方向にビームが形成されている。即ち、周波数を3%変化させることで指向性を50°以上連続的に変化させることができる。また、図1の漏れ波アンテナ100の利得(dBi)は、そこから第1の誘電体板11と金属板30を除いた漏れ波アンテナの利得(dBi)よりも、設計周波数f0において2.2dB向上した。このことから、本発明のアンテナでは、従来のCRLH構造の漏れ波アンテナの特徴である、少ない周波数変化で広角にビーム走査が可能であるとの特徴を損なうことなく利得が向上しており、有効なことが明らかである。
【実施例2】
【0026】
図4は、本願発明の具体的な他の実施例に係る漏れ波アンテナ200の構成を示す斜視図である。また、図5は、漏れ波アンテナ200の一部分についての断面図であり、該当部分を図4で2点鎖線で示した。図4及び図5漏れ波アンテナ200の構成は、図1及び図2の漏れ波アンテナ100の構成で、スロット31〜36を有する金属板30の代わりにパッチアンテナ41〜46を設けた構成である。図4においては、その構成の把握を容易とするため、第1の誘電体板11とパッチアンテナ41〜46を他の部分から離した形で記載している。尚、本実施例は請求項2に係る発明の具体的な実施例に相当する。
【0027】
漏れ波アンテナ200は、パッチアンテナ41〜46の中心点がxz平面上に有り、その他は図1の漏れ波アンテナ100と同様の構成である。スロットを有する図1及び図2の漏れ波アンテナ100においては、導体板20と金属板30の間に平行平板モードが発生するため、それを抑圧する様な設計が必要となるが、図4及び図5の本実施例では平行平板モードが発生しないので、上記の設計が不要となる特徴がある。
【実施例3】
【0028】
図6は、本願発明の具体的な他の実施例に係る漏れ波アンテナ300の構成を示す斜視図である。また、図7は、漏れ波アンテナ300の一部分についての断面図であり、該当部分を図6で2点鎖線で示した。図6及び図7漏れ波アンテナ300の構成は、図1及び図2の漏れ波アンテナ100の構成で、スロット31〜36を有する金属板30の代わりにプリントダイポール51〜56を設けた構成である。図6においては、その構成の把握を容易とするため、第1の誘電体板11とプリントダイポール51〜56を他の部分から離した形で記載している。尚、本実施例は請求項2に係る発明の具体的な実施例に相当する。
【0029】
漏れ波アンテナ300は、プリントダイポール51〜56の中心点がxz平面上に有り、その他は図1の漏れ波アンテナ100と同様の構成である。図6及び図7の漏れ波アンテナ300は、図4及び図5の漏れ波アンテナ200と同様に、スロットを有する漏れ波アンテナ100のような平行平板モードは発生しない。また、図6及び図7の漏れ波アンテナ300のプリントダイポール51〜56は、図4及び図5の漏れ波アンテナ200のパッチアンテナ41〜46よりも利得が若干低くなるが、素子面積は小さくできると言う特徴がある。
【実施例4】
【0030】
図8は、本願発明の具体的な他の実施例に係る漏れ波アンテナ400の構成を示す斜視図である。また、図9は、漏れ波アンテナ400の一部分についての断面図であり、該当部分を図8で2点鎖線で示した。図8及び図9漏れ波アンテナ400の構成は、図1及び図2の漏れ波アンテナ100の構成に、第2の誘電体板12と、その上に形成されたパッチアンテナ41〜46を加えた構成である。図8においては、その構成の把握を容易とするため、第1の誘電体板11とスロット31〜36を有する金属板30、第2の誘電体板12とパッチアンテナ41〜46を他の部分から離した形で記載している。尚、本実施例は請求項3に係る発明の具体的な実施例に相当する。
【0031】
漏れ波アンテナ400は、スロット31〜36の中心点にパッチアンテナ41〜46の中心点が対応する、即ちそれら中心点が全てxz平面上にあって、対応するスロットとパッチアンテナの中心点を結ぶ線分がz軸に平行となるように設けられたものである。その他は図1の漏れ波アンテナ100と同様の構成である。この構造ではパッチアンテナ41〜46を形成した誘電体板12が増えるというコスト上の欠点はあるが、アンテナの指向性においては、パッチアンテナを追加する方がスロット単独よりも利得が高いという特徴がある。
【0032】
また図10に示すように各スロットの形成方向をxy平面内で45度傾斜させること(図10では金属板310のうち第1のスロット311のみ示した、)により、車載レーダで用いられる45度傾斜偏波も容易に実現できる。図10では放射される偏波の電界Eの方向を矢印で示した。この場合、例えば各図のz方向を車両の進行方向にすれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、無線通信や電磁波センシングに有用であり、例えば、無線通信装置や、車両の事故防止システムやオートクルーズ制御システムなどに用いられる障害物センサや、或いはその他の車両周辺の物体に対する物体探索手段などとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の具体的な一実施例に係る漏れ波アンテナ100の構成を示す斜視図。
【図2】漏れ波アンテナ100の構成を示す断面図。
【図3】漏れ波アンテナ100の周波数に対する放射特性を比較例と共に示したグラフ図。
【図4】本発明の具体的な他の実施例に係る漏れ波アンテナ200の構成を示す斜視図。
【図5】漏れ波アンテナ200の構成を示す断面図。
【図6】本発明の具体的な他の実施例に係る漏れ波アンテナ300の構成を示す斜視図。
【図7】漏れ波アンテナ300の構成を示す断面図。
【図8】本発明の具体的な他の実施例に係る漏れ波アンテナ400の構成を示す斜視図。
【図9】漏れ波アンテナ400の構成を示す断面図。
【図10】各実施例のスロットの変形例を示す平面図。
【図11】スロットを有する導波管による漏れ波アンテナの構成図。
【図12】メタマテリアルにより構成された左手系となりうる漏れ波アンテナの構成図。
【符号の説明】
【0035】
100、200、300、400:漏れ波アンテナ
10:誘電体基板
11:第1の誘電体板
12:第2の誘電体板
20:接地板
21:ギャップにより分断されたマイクロストリップ線路
24:スタブ
211〜2117(21i):繰り返し単位(アンテナ素子)の伝送路
221〜2217(22i)及び231〜2317(23i):アンテナ素子のキャパシタ形成部分
241〜2417(24i)及び251〜2517(25i):アンテナ素子のインダクタ形成部分(スタブ)
30、310:スロットを有する金属板
31〜36、311:スロット
41〜46:パッチアンテナ
51〜56:プリントダイポールアンテナ
G:ギャップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを前記誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、前記誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有する漏れ波アンテナにおいて、
前記単位パターンは、伝送線路と、前記伝送線路を途中で分断するギャップと、前記伝送線路から枝分かれするスタブとを有し、
当該単位パターンを複数配列したストリップ線路の上に設けられた第1の誘電体板と、
当該第1の誘電体板の上に設けられた、1個以上のスロットを有する金属板を有することを特徴とする漏れ波アンテナ。
【請求項2】
誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを前記誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、前記誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有する漏れ波アンテナにおいて、
前記単位パターンは、伝送線路と、前記伝送線路を途中で分断するギャップと、前記伝送線路から枝分かれするスタブとを有し、
当該単位パターンを複数配列したストリップ線路の上に設けられた第1の誘電体板と、
当該第1の誘電体板の上に設けられた、1個以上のパッチアンテナ又はダイポールアンテナを有することを特徴とする漏れ波アンテナ。
【請求項3】
前記スロットを有する金属板の上に設けられた第2の誘電体板と、
当該第2の誘電体板の上に設けられた、1個以上のパッチアンテナを有することを特徴とする請求項1に記載の漏れ波アンテナ。
【請求項1】
誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを前記誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、前記誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有する漏れ波アンテナにおいて、
前記単位パターンは、伝送線路と、前記伝送線路を途中で分断するギャップと、前記伝送線路から枝分かれするスタブとを有し、
当該単位パターンを複数配列したストリップ線路の上に設けられた第1の誘電体板と、
当該第1の誘電体板の上に設けられた、1個以上のスロットを有する金属板を有することを特徴とする漏れ波アンテナ。
【請求項2】
誘電体基板と、導体から成る同一または類似の単位パターンを前記誘電体基板の表側に所定の方向に複数配列することによって形成されたストリップ線路と、前記誘電体基板の裏面に形成された導体から成る接地板とを有する漏れ波アンテナにおいて、
前記単位パターンは、伝送線路と、前記伝送線路を途中で分断するギャップと、前記伝送線路から枝分かれするスタブとを有し、
当該単位パターンを複数配列したストリップ線路の上に設けられた第1の誘電体板と、
当該第1の誘電体板の上に設けられた、1個以上のパッチアンテナ又はダイポールアンテナを有することを特徴とする漏れ波アンテナ。
【請求項3】
前記スロットを有する金属板の上に設けられた第2の誘電体板と、
当該第2の誘電体板の上に設けられた、1個以上のパッチアンテナを有することを特徴とする請求項1に記載の漏れ波アンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−81825(P2007−81825A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266955(P2005−266955)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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