説明

漏液検知線

【課題】柔軟性を有し、かつ漏液捕捉性が高い上に、その捕捉漏液の除去が容易な漏液検知線Pとする。
【解決手段】吸湿性の絶縁編組12で被覆された2本の導体11が間隔を開けて並列され、その絶縁被覆導体を網目状の絶縁芯体13によって隔離絶縁して一体化した漏液検知線Pである。漏液が生じれば、絶縁隔離芯体の網目(孔)14内に容易に漏液は染み込んで導体11間をその漏液でもって円滑に短絡させるため、検知が容易なものとなる。一方、ウェスをこの漏液検知線に当てれば、網目14内の液分がそのウェスに触れるとともに、導体や芯体13裏面の液分も毛管現象によってウェスに吸収除去される。このため、検知復帰性も優れたものとなる。また、網目状絶縁隔離芯体は屈曲性に富むとともに、屈曲されても復元性に富むため、曲げ癖が付きにくい。このため、設置性の優れた漏液検知線である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物内部の漏水や薬液等の貯蔵、運搬時の漏液を検知する漏液検知線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物内部の壁面、床面、各種機器表面、配管接合部等に水が付着したり、漏水したりすると、建物床面等の腐食の原因となったり、各種機器が誤動作したり、各種資料室等においてはその資料が変質したりする恐れがある。また、薬液等の貯蔵、運搬時の漏液は経済的損失や事故の原因となる。
このため、それらの漏水や漏液(以下、両者を「漏液」と称する。)を検知する手段として、建物内部の壁面等に漏液検知線を添設して、その漏液を検知することが行われている。
【0003】
その漏液検知線として、例えば、図4、図5に示すように、導体1を吸湿性絶縁編組2によって被覆し、その被覆電線を撚り合わせるとともにその外周面をさらに非吸湿性絶縁編組3によって被覆したものP1がある(特許文献1第3頁左上欄第7〜16行、同頁右上欄1〜2行、第3図(a)参照)。
この漏液検知線P1は、漏液が生じると、上記両絶縁編組2、3がその漏液を捕捉してその漏液を介して導体1、1間を短絡させ、その短絡よる電気信号によって漏液を検出する。このとき、両絶縁編組2、3が漏液を確実に捕捉するため、検知精度が高いものである。また、可撓性に富んでいるため施工性も良い。
【0004】
また、図6に示すように、2本の導体1、1が間隔を開けて並列され、その導体1、1を絶縁性樹脂4によって被覆し、その絶縁樹脂4を導体長さ方向所要間隔で欠如(透孔5)させるとともに、両導体1、1をその長さ方向所要間隔で露出(導体露出部1a)させたものP2もある(特許文献2段落0022、図1参照)。
この漏液検知線P2は、漏液が生じると、その漏液を透孔5で捕捉してその漏液を介して導体1、1間を短絡させ、その短絡による電気信号によって漏液を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−2034号公報
【特許文献2】特開2000−131178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種の漏液検知線P1、P2は、その漏液個所の処理終了後にはできるだけ早く検知可能状態に復帰することが要求される。
しかし、上記前者の漏液検知線P1は、絶縁編組2、3でもって漏液を捕捉するため、ウェス(布)等を押し当てても、その吸湿性絶縁編組2等から液分を容易に除去できず、上記検知可能状態への復帰に長時間を要している。
【0007】
後者の漏液検知線P2は、絶縁樹脂4が塩化ビニル等からなる成型体のため、撥水作用があって液をはじき、ウェス(布)等を押し当てれば、導体露出部1aの付着液及び透孔5内の液を容易に除去し得る。しかし、漏液は漏液検知線P2の表面部のみならず、裏面にも至っており、その透孔5間の絶縁被覆4裏面の漏液には押さえ付けたウェス等が至らず、容易に除去することができない。その裏面漏液の除去には、漏液検知線P2を持ち上げて絶縁被覆4裏面までウェスを至らせなければならない。この作業は、漏液検知線P2が固定されていることから、容易に持ち上がらない上に、ウェスを容易に絶縁被覆4裏面に至らしづらいことから、非常に繁雑となっている。
また、この漏液検知線P2は、絶縁被覆4が扁平成型体からなるため、柔軟性が前者の漏液検知線P1に比べて劣り、設置時(施工時)、屈曲すると、その曲げ癖の修正が難しく、設置面に添わせにくくなる問題もある。さらに、
導体露出部1aが所定間隔で設けられて、漏液検知はその導体露出部1aでしかなされないので、導体露出部1a以外の箇所では漏液検知はできないという問題がある。
【0008】
この発明は、この様な実情の下、漏液捕捉性が高い上にその捕捉漏液の除去が容易で漏液検知後の検知可能状態への早期復帰性に優れ、かつ柔軟性を有する漏液検知線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、この発明は、上記後者の漏液検知線P2において、導体間の隔離絶縁を網目状としたのである。
網目状隔離絶縁であると、その網目内に容易に漏液は染み込んで導体間をその漏液でもって円滑に短絡させるため、検知が容易にできる。
一方、ウェス等をこの漏液検知線の漏液を捕捉した個所の全長に当てれば、網目状の孔内の液分がそのウェス等に触れ、毛管現象によって裏面の液分等もウェスに吸収除去される。このため、復帰性も優れたものとなる。
また、網目状隔離絶縁は屈曲性に富むとともに、屈曲されても復元性に富み、曲げ癖が付きにくい。このとき、導体を撚り線とすれば、その屈曲性もより優れたものとなるとともに曲げ癖もより付き難いものとなる。
【0010】
この発明の構成としては、2本の導体が間隔を開けて並列され、その導体はその長さ方向全長に亘って絶縁被覆されているとともにその長さ方向所要間隔で露出しており、前記導体の間には網目状の絶縁隔離芯体が設けられた構成を採用することができる。
この構成において、導体とその周りの絶縁被覆の間に吸湿材からなる被覆層を形成すれば、その被覆層によって漏液の捕捉性が向上するため、検知が容易となる。その導体の絶縁被覆も網目状とすれば、柔軟性も向上する上に
、その網目が吸湿材からなる被覆層の全長に亘って存在するため、漏液検知線の全長どの個所でも漏液を検知できる。その網目状絶縁被覆と上記絶縁隔離芯体とを同一の織りで構成することができる。
【0011】
上記導体としては、従来から使用されているものであれば何れでも良く、例えば、錫メッキ等の撚り線、単線、平角線等であって、その材質も金属に限らず、導電性を有すれば、非金属であっても良いが、屈曲性を重視するのであれば、撚り線が好ましい。
導体の並列間隔及び所要露出間隔は、検知精度を考慮して実験等によって適宜に決定する。
絶縁隔離芯体は、吸湿材であっても良いが、非吸湿材が好ましい。網目状であるため、その網目内の孔でもって漏液を円滑に捕捉し得るため、素材としての吸湿性をあまり要求されないからである。むしろ、復帰時の漏液除去においては非吸湿性の方、特に撥水性を有する方が好ましいからである。その材料としては、各種の天然繊維や樹脂等の種々のものが考えられるが、例えば、ポリプロピレン繊維(PP繊維)、ポリフェニレンサルファイド繊維(PPS繊維)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等を挙げることができ、それらはモノフィラメントでもマルチフィラメントでも良い。
吸湿性被覆層も、編組等の従来周知の構成を適宜に採用でき、編組の場合、その素材も、従来から使用されている各種の天然繊維や樹脂等の種々のものが考えられるが、例えば、ポリビニルアルコール繊維(PVA繊維)、ポリエステル繊維、ナイロン繊維等を挙げることができ、同様に、それらはモノフィラメントでもマルチフィラメントでも良い。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、以上のように導体間の隔離絶縁を網目状としたので、長さ方向の全長に亘りその網目を介して漏液をふき取ることが可能なため、検知復帰性に優れ、かつ検知が容易である。また、柔軟性に富み、かつ屈曲されても復元性に富んで曲げ癖が付き難いため、設置性(施工性)の優れた漏液検知線となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施形態の概略図
【図2】同拡大断面図
【図3】(a)、(b)は同実施形態の絶縁隔離芯体の形成説明図
【図4】従来の一例の一部切断概略正面図
【図5】同拡大断面図
【図6】従来の他例の概略正面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1、図2に、この発明の一実施形態を示し、この実施形態の漏液検知線Pは、従来と同様に、2本の導体11、11が間隔を開けて並列され、その導体11はその長さ方向全長に亘ってPVA繊維からなる吸湿性絶縁編組12で被覆されている。
導体11は、錫メッキ軟銅撚り線(素線径:0.18mm×13本=0.33mm)のものである。
【0015】
導体11の外周面及び導体11、11の間は、PP樹脂からなる絶縁芯体(絶縁隔離芯体)13が形成されている。この絶縁芯体13は、径:約0.3mmの線(糸)状PP樹脂13aの5本を導体11、11間に巻回しつつ綾織りすることによって形成したものである。その際、図3(b)に示すように、一糸13aが他の糸13a’を押さえつつ進む時、その他の糸13a’を鎖線の如く治具17でもって押さえると良い(同図(a)。押えることで、糸13aに応力が残るため、成形後の漏液検知線Pを変形させたとしても、元の形状に戻りやすくなる。このとき、この網目の孔14の範囲(大きさ)は0.5〜4mm、好ましくは0.8〜2mmである。0.5mm未満では、網目の孔の漏液がふきとれない。4mmを超えると漏液検知性能が悪くなる。
また、その絶縁芯体13の形成と同時に、その線状PP樹脂13aが両導体11、11に巻回されて、その導体長さ方向所要間隔に各線状PP樹脂13a間からなる空間部16を有する絶縁被覆15が形成される。その空間部16を介し下層の吸湿性絶縁編組12が露出し、その吸湿性絶縁編組12を介して導体11が露出する。
【0016】
以上の構成の扁平(平型)漏液検知線Pは、幅W=6.5±0.5mm、厚さT=2.0±0.2mmとした(図2参照)。
その一実施例を下記表1に示す。また、図4で示した漏液検知線P1についても、同表1で示す比較例を作成した。この比較例において、吸湿性絶縁編組2はポリエチレンモノフィラメント糸、非吸湿性絶縁編組3はポリエステルマルチフィラメント糸からそれぞれなるものとした。その表1において、この実施例Pと比較例P1のそれぞれ1mを水道水:100mlに水没させ、それを水から引き上げて、各表面をウェスで拭き取り、その水没前、水没後及び拭き取り後の導体(電極)1、1、11、11間の抵抗値を計った。なお、この種の漏液検知線においては、通常、導体間抵抗:9KΩ以下で「漏液検知状態」と判断する。
【0017】
【表1】

【0018】
その両漏液検知線P、P1における「復帰性」を示す「拭き取り後の導体間抵抗値」において、この実施形態の漏液検知線Pが優れていることが確認できる。また、吸水(感度)特性において、この実施形態の漏液検知線Pは、絶縁芯体13は撥水性のため、水をはじくが、そのはじいた水を露出する吸湿性絶縁編組12が捕捉し、絶縁芯体13の網目に捕捉されている水とその吸湿性絶縁編組12が捕捉した水とが導体11間を導通させるため、十分に使用し得るものとなっている、と考える。
【0019】
なお、この実施形態の漏液検知線Pは、導体11の絶縁性を担保するもの(吸湿性絶縁編組12及び絶縁芯体13)を編組で構成しているため、検出器等の電気機器等への接続時、漏液検知線Pの端末の吸湿性絶縁編組12、絶縁芯体13および導体絶縁被覆15をしごくだけで、導体11の端末を露出できてその作業性が良いものである。
【0020】
この実施形態において、導体11の絶縁性を担保できる限りにおいて、絶縁編組12を除去することもできる。
導体11の絶縁は、編組12や網目状絶縁に限らず、その長さ方向所要間隔で露出して、漏液を検知可能であれば、例えば、図6に示すように、その長さ方向全長に亘って所要間隔の導体露出部1aを有する樹脂絶縁被覆されているものであっても良い。また、絶縁芯体13も織りによらずに網目状樹脂成型品とすることもできる。
【符号の説明】
【0021】
P、P1、P2 漏液検知線
1、11 導体
1a 導体露出部
2、12 絶縁編組(吸着層)
13 網目状絶縁芯体
13a 編組糸
14 網目の孔
15 導体の絶縁被覆
16 導体絶縁被覆の空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の導体(11、11)が間隔を開けて並列され、その導体(11)はその長さ方向全長に亘って絶縁被覆(15)されているとともにその長さ方向所要間隔で露出しており、前記導体(11、11)の間は網目状の絶縁隔離芯体(13)が設けられた漏液検知線。
【請求項2】
上記導体(11)とその周りの絶縁被覆(15)との間に吸湿材からなる被覆層(12)が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の漏液検知線。
【請求項3】
上記吸湿材からなる被覆層(12)はその吸湿材の編組からなることを特徴とする請求項2に記載の漏液検知線。
【請求項4】
上記導体(11)の絶縁被覆(15)も網目状として、その網目でもって上記導体(11)の所要間隔の露出を確保したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の漏液検知線。
【請求項5】
上記網目状絶縁被覆(15)と上記絶縁隔離芯体(13)とを同一の織りで構成したことを特徴とする請求項4に記載の漏液検知線。
【請求項6】
上記絶縁隔離芯体(13)は非吸湿材からなることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載の漏液検知線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−13004(P2011−13004A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155325(P2009−155325)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000108742)タツタ電線株式会社 (76)
【Fターム(参考)】