説明

演奏用楽器装置

【課題】演奏者の身体部位が直接触れる演奏操作箇所を最適な状態に維持し、快適な演奏環境で演奏者が気分よく演奏することができるコンファタブルな演奏用楽器装置の提供。
【解決手段】この演奏用楽器装置は、演奏者の身体に接する操作箇所(鍵盤表面)を有する演奏操作部17を備え、温度調整手段23,32,33,37は、この操作箇所に対して熱を放出又は吸収することによりその温度を調整する。図示しない制御手段は、操作部温度検出手段28,36によって検出された操作箇所の実際温度とパネル設定による設定温度に応じて温度調整手段23,32,33,37を駆動することにより、操作箇所の温度を制御する。この温度制御は、汗ばみセンサ30や身体温度センサ27,36によって、汗ばみや、手が冷え切っていたり熱すぎたことが検出された場合に限って実行される。マイナスイオン発生器26は、マイナスイオンを含む空気を演奏者に向かって送り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、演奏上の環境を良くし心地よい気分で快適に演奏することができる演奏用楽器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、演奏者に良好な演奏状況を保つような演奏用楽器としては、例えば、鍵盤楽器に対して椅子の高さや形状を調整可能として演奏位置の高さや演奏者の姿勢を整えるというように、構造的に改良するものがある。しかし、演奏者が心地よい演奏が行うことができるかどうかは、その時々における環境に左右されるので、場合によっては辛いものとなってしまうことがある。
【0003】
そこで、更に演奏環境を良くするような試みがなされてきている。例えば、特許文献1或いは特許文献2では、冬期に鍵盤温熱シート或いはヒーター付鍵盤カバーを鍵盤上に貼り合わせ或いは載置して鍵盤を暖め演奏者の指先が痛くならないようにしている。また、特許文献3では、遠赤外線を放射する面状発熱体を鍵盤楽器の正面乃至下面板やペダルに取り付けて演奏者の胸元や脚部を暖めて快適に演奏することができるよにうしている。
【特許文献1】特開平10−5268号公報
【特許文献2】特開平10−11050号公報
【特許文献3】特開平11−249643号公報
【0004】
しかしながら、鍵盤温熱シートやヒーター付鍵盤カバーは、鍵盤楽器本体とは別体であるため、一旦鍵盤から取り外すとその機能を利用することができず、また、面状発熱体を鍵盤楽器の要部に取り付けるものでは、鍵盤などの演奏者の指が直接触れる演奏操作箇所には直ちに作用しないので、演奏操作を行う身体部位を快適にし演奏しやすい状況をつくるには十分ではない。
【0005】
また、上述のように寒い時期だけでなく、蒸し暑い時期も、楽器の演奏環境が快適でないことが多い。例えば、夏期に汗ばんだ手指などで生暖かい楽器の演奏を始めるのでは、心地良く演奏することができない。しかしながら、現況では、このような場合にも弾き心地の良い演奏環境が得られるようにした楽器装置は現れていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の主たる目的は、このような事情に鑑み、演奏者の身体部位が直接触れる演奏操作箇所を最適な状態に維持することができ、快適な演奏環境で演奏者が気分よく演奏することができるコンファタブルな演奏用楽器装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の主たる特徴に従うと、演奏者の身体に接する操作箇所を有する演奏操作部(17)を備えた演奏用楽器装置において、操作箇所の温度(TP)を含む状態を設定する状態設定手段(M2)と、操作箇所に対して熱を放出又は吸収しその温度を調整する温度調整手段(14,15)と、操作箇所の温度(T1)を含むこの演奏用楽器装置の状態を検出する状態検出手段(M3)と、状態設定手段(M2)により設定された操作箇所の温度と状態検出手段により検出された操作箇所の温度(T1)に応じて温度調整手段(14,15)を制御する制御手段(M1)とを具備する演奏用楽器装置〔請求項1〕が提供される。なお、括弧書きは、理解の便の為に付した実施例の参照記号である。
【0008】
この演奏用楽器装置において、状態設定手段(M2)はこの演奏用楽器装置の環境温度の許容範囲(TL〜TU)を設定し、状態検出手段(M3)は環境温度(T1)を検出し、制御手段(M1)は、状態検出手段(M3)により検出された環境温度(T1)が許容範囲(TL〜TU)内にあるときに、温度調整手段(14,15)の制御を停止する(C1・C4→NO)〔請求項2〕ように構成することができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明による演奏用楽器装置では、鍵盤楽器の鍵盤のようにユーザ(演奏者)の身体に接する演奏操作部を有する演奏用楽器装置において、演奏操作部の身体に接する操作箇所(例えば、鍵盤の表面)に対して熱を放出又は吸収してこの操作箇所の温度を変更する温度調整手段を設け、制御手段によりユーザ設定に応じて温度調整手段による熱変更の程度を制御する。その際、操作箇所の温度が熱くなり過ぎたり冷え過ぎたりしないように、温度検出手段によって直接的又は間接的に操作箇所の温度を管理し、温度検出手段で得られた操作箇所の温度とユーザ設定に応じて温度調整手段を駆動する。これにより、ユーザが演奏用楽器装置を演奏している間、ユーザの身体が触れる演奏箇所について快適な状態が続くように管理し制御することができる。
【0010】
従って、この発明によれば、ユーザの身体が触れる演奏箇所自体に快適な温度状態が持続するようにして演奏上の環境を良くするようにしているので、ユーザは、心地よい気分で快適に演奏を続けることができ、練習に励みやすくなり上達するのが早くなる。
【0011】
また、この発明では、演奏用楽器装置を取りまく環境温度(室温など)についてユーザ自身が快適と思う温度範囲を“許容範囲”としてユーザ設定し、環境温度が許容範囲内のユーザに快適な状態である場合は温度制御をしないようにしているので、もともと快適な状態では自然な快適状態の中で演奏することができる。
【0012】
なお、この発明による演奏用楽器装置では、状態設定手段(M2)は、演奏者の身体の状態(Sa,Sb)を検出し、制御手段(M1)は、状態検出手段(M3)により検出された身体の状態(Sa,Sb)に応じて、温度調整手段(14,15)の制御を実行するか否かを決定する(C2・C5)ように構成すると、ユーザの身体の状態に応じて温度制御の実行を決定することによって、ユーザの手が冷え切っていたり或いは熱すぎた場合や汗ばみがあるなどの場合に限って温度制御を行って快適な状態を作り出し、身体の調子が良い場合には温度制御なしの自然体で演奏を練習することができる。
【0013】
また、演奏箇所の温度調整機能に加えて、マイナスイオン発生器を用いてマイナスイオンに包まれた演奏環境を作るように構成することができ、さらに、空気清浄機能やドライヤー機能を付加することもできる。また、構造的には、鍵盤タッチ自動調整を採用することができる。また、演奏用の椅子や楽器の高さや形状を、弾く姿勢がよくなり快適でデザイン性のあるものを用いることができる。そして、これらの機能や構造を採用することにより、更に弾き心地や演奏する時の心地良さから知らず知らずうちに上達できるコンファタブルな演奏用楽器装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔システム構成〕
図1は、この発明の一実施例による演奏用楽器装置のハードウエア構成例を示すブロック図である。この演奏用楽器装置には、演奏操作子の操作が機構的にそのまま発音に反映するピアノなどの自然楽器と演奏操作子の操作が一旦電気信号に変換された後電気音響変換される電子ピアノのような電子楽器の何れをも使用することができる。
【0015】
この演奏用楽器装置は、管理制御部(M1)の主体として機能し、本体制御装置を構成す中央処理装置(CPU)1、タイマ2、ランダムアクセスメモリ(RAM)3及び読出専用メモリ(ROM)4の外に、外部記憶装置5、操作パネル6、表示装置7、センサ及び制御インターフェース8,9などを備え、これらの要素1〜9はバス10を介して互いに接続される。
【0016】
楽器全体を制御するCPU1は、環境制御プログラムに従って、タイマ2による時間管理の下、演奏環境を整えるための環境制御処理を実行する。書込可能なRAM3は、例えば、ユーザ設定による環境条件や環境状態、制御出力などの環境制御処理に必要な種々の情報を一時的に記憶するためのワーキングメモリとして機能する。また、ROM4には、環境制御プログラムや、環境制御のために予め設定されたデフォルト動作条件等の各種データが記憶されている。
【0017】
外部記憶装置5は、ハードディスク(HD)などの内蔵記録媒体や、フレキシブルディスク(FD)、光磁気(MO)ディスク、コンパクトディスク(CD)、スマートメディア(登録商標)などの移動可能な記録媒体を含み、ユーザにより設定された動作条件などのユーザ所望の各種データが記憶される。
【0018】
操作パネル6は、ユーザの操作内容を受け付けて本体制御装置内に導入し、表示装置7は、LCD等のディスプレイやインジケータを含み、それらの表示内容をCPU1からの指令に従って制御して操作パネル6のユーザ操作に対する表示援助を行う。例えば、ユーザは、操作パネル6のパネル操作子を用いて、環境制御のための動作条件をデフォルト値から任意のユーザ設定に変更したり、設定状態や環境状態の現況などをディスプレイに表示させることができる。操作パネル6及び表示装置7はパネル設定部(M2)の端末として機能し、ディスプレイや主たるパネル操作子は前面パネル(21)上に設けられる。
【0019】
センサインターフェース8は、これに接続されるセンサ11〜13と共に、環境状態入力部(M3)として機能し、センサ11〜13からの現在の環境状態情報を本体制御装置に入力する。第1温度センサ11は、この楽器装置が設置位置近傍の演奏空間(例えば、演奏室など)の温度(室温という)を検出するためのセンサであり、第2温度センサ12は、この楽器装置の操作箇所の温度(操作部温度という)を測定するためのセンサである。ここで、「操作箇所」とは、演奏操作部において演奏者が操作する身体部位(操作部位という)に直接触れる箇所をいい、例えば、鍵盤楽器であれば、鍵盤各鍵の表面をいう。
【0020】
また、その他センサ13は、演奏者の操作部位の汗ばみを検出するための汗ばみセンサや、例えば、演奏者の手などの身体温度、演奏室の湿度、不快指数など、その他の必要な環境に関する状態を測定するためのセンサを総称的に表わしている。なお、これらのセンサ11〜13は、この楽器装置に検出部を取り付けたものだけでなく、検出出力受信器を取り付けたものを含む。例えば、第1温度センサ11は、楽器本体に取り付けてもよいが、演奏室の壁などに室温検出部を設置し、室温検出部の出力を受信する検出出力受信器を楽器本体に取り付けてもよい。
【0021】
制御インターフェース8は、これに接続される温熱調整部14、冷却調整部15及びマイナスイオン発生部16と共に、環境制御出力部(M4)として機能し、本体制御装置からの制御出力情報をこれら調整部に分配する。温熱調整部14は、楽器装置の操作箇所に熱を放出して操作部温度を上昇させるように機能し、例えば、遠赤外線熱源、ジュール熱源などの任意の熱源からの熱を温風、輻射又は伝導により操作箇所を暖める。冷却調整部15は、操作箇所から熱を吸収して操作部温度を下降させるように機能し、例えば、冷却源には、冷却媒体からの冷気を送風して操作箇所を冷やす。マイナスイオン発生部16は、マイナスイオン発生器(26)からのマイナスイオンを含む空気を演奏者及びその近傍に向かって送り出すように機能する。
【0022】
なお、操作箇所に温風又は冷風を当てる場合には、両調整部14,15に共通の送風機を備えた温冷風供給機構(23)を用ることができる。また、冷却調整部15にはドライヤー機能を備えることができる。さらに、マイナスイオン発生部16には、温度調節機能や、空気清浄器、ドライヤーの機能を備えることができる。
【0023】
〔電子楽器の場合〕
なお、この楽器装置が電子楽器で構成される場合には、破線で示すように、演奏操作内容を電気信号で本体制御装置に入力するための演奏操作子(演奏操作部)17と、音源及びサウンドシステムから成る楽音出力部18がバス10に付加接続される。さらに、電子鍵盤楽器の場合には、演奏操作子17である鍵盤には、特開平2−322695号公報などで説明されているようなタッチ感調整機能が備えられる。
【0024】
電子楽器の場合は、本体制御装置1〜4は、ROM4に記憶された楽音制御プログラムに従って楽音処理を行う“演奏モード”で動作することができ、演奏操作部17からの演奏入力信号に応じた演奏楽音を楽音出力部18から放音したり、この演奏楽音に合わせて、ROM4や外部記憶装置5に記憶された伴奏データに基づく伴奏音を放音させることができる。これに対して、先に説明した環境制御を実行するモードは“快適モード”と呼ばれ、“演奏モード”と並行して動作させることができる。
【0025】
〔環境制御の概要〕
この発明の一実施例による楽器装置では、現在の演奏環境に応じて演奏者の操作部位に接する演奏操作部の操作箇所の温度(操作部温度)を所定温度に制御したり、演奏者の近傍に爽やかな空気を与えるように制御することができる。図2は、この発明の一実施例による楽器装置における環境制御系の機能を概略的に示す機能ブロック図である。
【0026】
管理制御部M1は、CPU1、タイマ2、RAM3及びROM4から成る本体制御装置を主体にして構成され、環境状態入力部M3からフィードバックされる環境状態量に応じた環境制御出力信号を環境制御出力部M4に出力して、操作部温度を含む環境状態が最適になるように制御する。
【0027】
パネル設定部M2は、操作パネル6を含み、ユーザ操作に基づき、管理制御部M1に対して、ユーザ所望の環境状態が得られるように環境制御の動作条件などに関する設定を行う。このような設定には、例えば、環境制御出力部M4による温度制御に対して設定される室温の上限値TU乃至下限値TLや操作部温度の目標値TP、環境状態入力部M3からの汗ばみ状態に対する感度設定値LS、マイナスイオン発生のオン/オフなどがある。
【0028】
環境状態入力部M3は、楽器装置各部に設けられた複数のセンサ(検出出力受信器を含む)11〜13及びセンサインターフェース8を含み、楽器装置又はその近傍における現在の環境状態を計測し、計測された環境状態を管理制御部M1に入力する。例えば、第1温度センサ11及び第2温度センサ12からはそれぞれ現在の室温T1及び操作部温度T2が入力される。また、図2の「その他センサa」は、図1のその他センサ13中の汗ばみセンサに対応し、汗ばみ度Saを管理制御部M1に入力する。同様に、身体温度センサに対応するその他センサb(図示せず)は演奏者の手の温度Sbを検出入力し、その他センサc〜nも、対応する検出状態量Sc〜Snを管理制御部M1に入力する。
【0029】
環境制御出力部M4は、管理制御部M1から出力される制御出力信号に応じて各調整部14〜16を駆動し、既に説明したように、温熱調整部14により楽器装置の操作部温度を上昇さけ、冷却調整部15により操作部温度を下降させ、或いは、マイナスイオン発生部16によりマイナスイオンを含む空気を送出させて、最適の環境状態を実現する。なお、冷却調整部15乃至マイナスイオン発生部16にはその他センサ13中の汗ばみセンサや湿度センサなどの出力に応動するドライヤー(乾燥)機能を備えさせることができる。これにより、例えば、ユーザ設定に応じてマイナスイオン含有の空気を清浄化し、また、汗ばみ、湿度、不快指数などに応じてドライ化することができる。
【0030】
〔環境制御の機構例〕
図3は、この発明の一実施例による環境制御の機構を説明するための図である。この例では、楽器装置としてピアノタイプの電子鍵盤楽器(電子ピアノ)が用いられるが、ピアノやオルガンのような自然鍵盤楽器にもほぼ同様の態様で実施することができる。
【0031】
図3(1)の構造例では、環境制御出力部M4の温熱乃至冷却調整部14,15を楽器装置の操作箇所に温風又は冷風を当てて操作部温度を所望の目標値TPに維持する場合に採用することができる。前面パネル21のほぼ中央には、ディスプレイやパネル操作子を配備した操作盤(図示せず)が設けられている。この例では、前面パネル21の下縁に、鍵盤17(演奏操作部)の奥行部との間で第1送風口22が形成される(或いは、前面パネル21の下部に送風口22を形成してもよい)。前面パネル21の背後の楽器構体内部には温冷風供給機構23が設けられ、温冷風供給機構23からの暖風乃至冷風が第1送風口22を通じて鍵盤17の表面(操作箇所)に当てて素早く加温することができる。
【0032】
なお、温冷風供給機構23の熱源や冷却源には、通常の家庭用の電気的な暖房器やクーラーの熱源や冷却媒体を用いることができるが、熱源には装置電源の発生熱を利用してもよい。冷風送風時にはドライヤー機能を付加することができる。
【0033】
前面パネル21の上部には、風向調整板24を備えた第2通風口25が形成され、第2通風口25の背後の楽器構体内部には送風機を内蔵するマイナスイオン発生器26が設けられる。そして、マイナスイオン発生器26から内蔵送風機及び第2送風口25を通じて送風されるマイナスイオン含有の爽やかな空気が、風向調整板24により調整可能な風向に従って、演奏者近傍に放出される。マイナスイオン発生器26に温度調節機能を付加する場合には、温冷風供給機構23の熱源や冷却源を共用することができ、ドライヤー機能を付加する場合には、冷風供給時のドライヤー機能を利用することができる。
【0034】
前面パネル21の所定箇所(例えば、操作盤の左右)には、身体温度センサ(その他センサb)として赤外線検出タイプのセンサ27が設けられ、演奏者の手の温度を熱線検出方式で計測し、演奏者の手が冷えているかどうかの判定などに用いる。
【0035】
また、第2温度センサ12(b)として、鍵盤17の鍵の裏側に、鍵盤17の温度(操作部温度)を検出するための熱電対28が取り付けられ、鍵盤17の下部空間に、熱電対28に接続された本体計測処理部29が設けられる。鍵盤17の鍵の表面(操作箇所)には、汗ばみセンサ(その他センサa)として一対の薄膜電極30がプリントされ、鍵盤17の表面は電極30のコーティング又は埋込みによって平滑化されている。出来鍵盤17の下部の空間に、薄膜電極30に接続された本体計測処理部31が設けられ、電極30間の容量値又は電導度から水分量を計測して汗ばみを検出する。
【0036】
なお、熱電対28や薄膜電極30は、鍵盤17の全鍵に設けてもよいが、代表的な鍵に設ければ十分である。例えば、熱電対28は、中央部に位置する任意の鍵に設けられ、薄膜電極30は、よく使用される鍵(例えば、C4鍵或いはその近傍の白鍵数鍵)に設けるか、或いは、汗ばみ検出専用に定められた左右何れかの端部の鍵に設けてもよい。
【0037】
図3(2)の構造例では、図3(1)の例で用いた冷暖両用の空調送風機構23を冷風専用に替えて冷風供給機構32を用い、環境制御出力部M4の温熱調整部14を楽器装置の操作箇所を輻射熱発生機構33を用いる。この機構33は、演奏操作部である鍵盤17の下部の空間に設けられ、輻射熱源となる遠赤外線電球34と反射鏡35から成り、熱源34から放射される遠赤外線により鍵盤17の裏側から熱を加えてその表面(操作箇所)の温度を素早く上昇させることができる。また、第2温度センサ12(b)には、前面パネル21の所定箇所に設けられた赤外線検出タイプのセンサ36が用いられ、鍵盤17表面(操作箇所)の温度を熱線検出方式で計測する。この温度センサ36は、指向性を上(身体)/下(鍵盤)に切り換えることによって、身体温度センサ27と共用することができる。なお、冷風供給やマイナスイオン関係の構成等は、図3(1)の例と相違しない。
【0038】
図3(3)の構造例では、図3(2)の輻射熱発生機構33に替えて発熱機構37を用い、この機構37は、演奏操作部である鍵盤17各鍵の下面に取り付けられたペルチエ素子のような発熱体で構成され、電力供給により発生する熱を鍵の表面(操作箇所)に伝えて表面温度を効率的に素早く上昇させることができる。その他の構成は、図3(2)の例と変わらず、冷風供給やマイナスイオン関係の構成等は、図3(1)の例と相違しない。
【0039】
以上説明したこの演奏用楽器装置の機能を要約をすると次のとおりである:
この演奏用楽器装置は、演奏者の身体に接する操作箇所(鍵盤表面)を有する演奏操作部17を備え、温度調整手段14,15(23,32,33,37)は、この操作箇所に対して熱を放出又は吸収することにより、その温度を調整する。制御手段M1は、状態検出手段M3の操作部温度検出手段28,36によって検出された操作箇所の実際温度T2とパネル設定手段M2による設定温度Tpに応じて温度調整手段14,15を駆動することにより、操作箇所の温度を制御する。この温度制御は、状態検出手段M3の汗ばみセンサ(a)30や身体温度センサ(b)27,36により、汗ばみが検出された場合や手が冷え切っていたり或いは熱すぎたことが検出された場合に限って実行される。マイナスイオン発生部16(26)は、マイナスイオンを含む空気を演奏者及びその近傍に向かって送り出し、この空気は、必要に応じてユーザ設定により清浄化され、また、汗ばみ、湿度、不快指数などに応じてドライ化される。
【0040】
〔環境制御(快適モード)の動作フロー例〕
図4は、この発明の一実施例による環境制御の動作手順を表わすフローチャートを示す。この動作フローは、図3(1)のように楽器装置が電子楽器である場合に実行される“快適モード”の制御手順例であり、図4(1)は“快適モード”全体の制御フローを示し、図4(2)は、温度制御段階(S2)で実行される具体的な温度制御フローを示す。
【0041】
この電子楽器の装置電源が投入されると、図示しないメインフローが立ち上がり、このメインフローでは、初期化の後、「機器の設定」、“快適モード”、“演奏モード”の段階がループで繰り返し実行される。「機器の設定」段階では、演奏者(ユーザ)の操作に基づいて、快適モードの動作条件TU,TL;TP;LSやマイナスイオン発生のオン/オフ等(例えば、TU=28℃,TL=18℃;TP=23℃)を設定し、演奏モードにおける音色設定や効果設定、自動伴奏演奏設定など実演奏に関わる設定を行うことができる。そして、「機器の設定」段階で快適モード乃至演奏モードの実行が指示されると、“快適モード”乃至“演奏モード”段階で夫々快適モード乃至演奏モードが実行される。
【0042】
従って、メインフローの「機器の設定」段階で快適モード実行が指示された場合には、図4(1)の“快適モード”の動作フローが適宜のタイミングで実行される。また、この動作フローは、「機器の設定」段階で、装置電源の投入で直ちに快適モードを実行するように設定しておくと、装置電源の投入により設定動作条件で自動的に実行が指示される。
【0043】
図4(1)の快適モードの実行がスタートすると、まず、ステップS1において、各種センサ11〜13により、現在の環境状態を検出する。次のステップS2では、「機器の設定」段階で設定された動作条件とステップS1で取得した現在の環境状態に基づいて温熱及び冷却調整器14,15を駆動して温度制御〔図3(2)〕を行う。なお、この温度制御では、必要に応じて、温熱調整器14による加温制御のみとすることができる。
【0044】
続くステップS3では、マイナスイオン発生のオンが設定されている場合には、マイナスイオン制御を行い、マイナスイオン発生部16を駆動してマイナスイオンを発生させ演奏環境の快適度をアップさせる。そして、ステップS4にて、設定状態に応じて、鍵盤のタッチ感などを調整制御したり、湿度や不快指数などに応じてドライヤー機能を冷却調整器14やマイナスイオン発生部16に付加するなどの「その他快適処理」を実行し、その後、メインフローの“演奏モード”段階へとリターンする。
【0045】
ステップS2の温度制御は、例えば、図4(2)の動作フローに従って実行される。その第1ステップC1では、現在の室温T1が下限設定値TL=18度(℃)以下であるか否かを判定し、室温が18度以下のときは(C1→YES)ステップC2に進む。ステップC2では、身体温度センサ(b)で検出した操作部温度T2と設定された適正温度TP=23度(℃)に基づいてユーザの手が冷えているか否かを判定し、冷えていれば(C2→YES)、ステップC3に進んで温熱調整器14を駆動し、温風を演奏操作子17の操作箇所(鍵盤表面)に送風してこれを暖める。これにより操作部温度T2が適正温度23度に達したときは、温熱調整器14の駆動を停止し或いは出力を下げる。このような温風供給により、演奏操作部(鍵盤)自体に暖かさがある快適状態を持続することができる。
【0046】
室温がTL=18度を超えるとき(C1→NO)、ユーザの手が冷えていないとき(C2→NO)或いは温風供給処理(C3)の後は、ステップC4において、現在の室温T1が上限設定値TU=28度(℃)以上であるか否かを判定し、室温が28度以上のときは(C4→YES)ステップC5に進む。ステップC5では、汗ばみセンサ(a)及び身体温度センサ(b)の検出温度に基づいて、ユーザの手が“汗ばんでいる又は熱い”か否かを判定する。ここで、ユーザの手が汗ばんでいるか熱いかの何れかであれば(C5→YES)、ステップC6に進んで、ステップC3と同様の制御方法で、冷却調整器15を駆動して操作箇所(鍵盤表面)を冷風(ドライ化可能)で冷却し、操作部温度T2が適正温度TP=23度に達したときは、冷却調整器15の駆動を停止し或いは出力を下げる。
【0047】
そして、室温がTU=28度未満のとき(C4→NO)、ユーザの手が汗ばんでも熱くなってもいないとき(C5→NO)或いは冷風供給処理(C6)の後は、“快適モード”全体フロー〔図3(1)〕のマイナスイオン制御ステップ(S3)へとリターンする。
【0048】
〔種々の実施態様〕
以上、図面を参照しつつこの発明の好適な実施例を詳述したが、この実施例は単なる一例であって、この発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、実施例では、鍵盤楽器について説明したが、自然楽器、電子楽器を問わず、この発明は、演奏者の手なり口なりの人体に接する演奏操作子をもつものであれば、鍵盤楽器以外の任意の楽器に適用することができる。
【0049】
また、実施例では、温熱調整器と冷却調整器の両方を用いているが、楽器装置の使用環境に応じて何れか一方のみを用いてもよい。マイナスイオン発生機能、ドライヤー機能、空気清浄機能なども、必要に応じて任意の組合せを採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の一実施例による演奏用楽器装置のハードウエア構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の一実施例による環境制御系の機能ブロック図である。
【図3】この発明の一実施例による環境制御の機構を説明するための図である。
【図4】この発明の一実施例による環境制御の動作手順を表わすフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
M1 本体制御装置1〜4を主体とする管理制御部、
M2 操作パネル6を含むパネル設定部、
M3 センサa〜n(11〜13)を含む環境状態入力部、
M4 温熱調整器14、冷却調整器15及びマイナスイオン発生器を含む制御出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
演奏者の身体に接する操作箇所を有する演奏操作部を備えた演奏用楽器装置において、
上記操作箇所の温度を含む状態を設定する状態設定手段と、
上記操作箇所に対して熱を放出又は吸収しその温度を調整する温度調整手段と、
上記操作箇所の温度を含むこの演奏用楽器装置の状態を検出する状態検出手段と、
上記状態設定手段により設定された操作箇所の温度と上記状態検出手段により検出された操作箇所の温度に応じて上記温度調整手段を制御する制御手段と
を具備することを特徴とする演奏用楽器装置。
【請求項2】
前記状態設定手段はこの演奏用楽器装置の環境温度の許容範囲を設定し、
前記状態検出手段は上記環境温度を検出し、
前記制御手段は、前記状態検出手段により検出された環境温度が上記許容範囲内にあるときに、前記温度調整手段の制御を停止する
ことを特徴とする請求項1に記載の演奏用楽器装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−91646(P2006−91646A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279205(P2004−279205)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】