説明

潜熱蓄熱材を用いた室内温度の制御方法

【課題】室内温度を好適に制御しつつ、冷房機器等の運転効率を高める。
【解決手段】潜熱蓄熱材を有する天井部を備え、所定の設定範囲内の目標室内温度に室内温度を近付けるように室内を冷房する冷房機器が設けられた家屋において、潜熱蓄熱材を用いて家屋の室内温度を制御する。そして、潜熱蓄熱材の融点は、目標室内温度よりも高くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜熱蓄熱材を用いた室内温度の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家屋における室内温度は、主に暖房設備や冷房設備によって調整されているが、近年、上記暖房設備等の消費電力を低減することが強く要請されている。そこで、潜熱蓄熱材を家屋の天井や床に配設して室内温度の変化を緩和することが知られている。
【0003】
ここで、「潜熱蓄熱材」は、PCM(Phase Change Material)とも呼ばれ、物質が固相
と液相との間で相変化する際の潜熱を利用した蓄熱材である。すなわち、固相の潜熱蓄熱材の温度が上昇して当該潜熱蓄熱材の融点に達すると、潜熱蓄熱材は融解して融解熱を外部から吸収する。一方、液相の潜熱蓄熱材の温度が低下して当該潜熱蓄熱材の凝固点に達すると、潜熱蓄熱材は凝固して凝固熱を外部に放出する。なお、一般に、融点と凝固点とは互いに一致するので、以下では、「融点」の用語を用いて説明する。
【0004】
通常、夏期における室内温度の制御に用いられる潜熱蓄熱材の融点は、冷房設備による目標室内温度よりも低い温度に設定されている。そして、夏期の夜間に室温が低下したときには、液相の潜熱蓄熱材が凝固熱を室内に放出しつつ固相となる。その後、夏期の昼間において、室温が上昇して固相の潜熱蓄熱材が液相に相変化している間には、潜熱蓄熱材が融解熱を室内から吸収するため、室内温度の上昇が抑えられる。
【0005】
また、通常、冬期における室内温度の制御に用いられる潜熱蓄熱材の融点は、暖房設備による目標室内温度よりも高い温度に設定されている。そして、冬期の昼間に室温が上昇したときには、固相の潜熱蓄熱材が融解熱を室内から吸収しつつ液相となる。その後、冬期の夜間において、室温が低下して液相の潜熱蓄熱材が固相に相変化している間には、潜熱蓄熱材が凝固熱を室内に放出するため、室内温度の低下が抑えられる。
【0006】
このように、潜熱蓄熱材を家屋に配設することによって、室内温度の変化が緩和されるため、冷暖房負荷を低下させることが可能になる。
【0007】
ここで、特許文献1には、床に配設した潜熱蓄熱材の融点を、天井に配設した潜熱蓄熱材の融点よりも低いものとすることにより、1年を通じて室空間の温度変化を緩和して、冷暖房負荷を低減しようすることが開示されている。
【0008】
また、一般に、比較的安価な夜間電力によって夜間に潜熱蓄熱材を積極的に蓄熱し、その蓄熱されたエネルギーを昼間に利用することも知られている。これらのように、潜熱蓄熱材を用いて室内温度を制御する場合には、その室内温度を制御する時間帯以外において何らかの方法により温熱又は冷熱を潜熱蓄熱材に蓄熱し、室内温度を制御する時間帯において潜熱蓄熱材に蓄熱された温熱又は冷熱を利用するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−1677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記従来のように、例えば夏期に用いる潜熱蓄熱材の融点が冷房による目標
室内温度よりも低い場合には、冷房運転当初において、室内の設定温度よりも低い温度で冷房運転を行わない限り、冷房運転による潜熱蓄熱材の固相への変化は起こらず、当該潜熱蓄熱材に冷熱を蓄熱することができないため、冷房負荷を低減することができない。
【0011】
一方、上記従来のように、冬期に用いる潜熱蓄熱材の融点が暖房による目標室内温度よりも高い場合には、暖房運転当初において、
室内の設定温度よりも高い温度で暖房運転を行わない限り、暖房運転による潜熱蓄熱材の液相への変化は起こらず、当該潜熱蓄熱材に温熱を蓄熱することができないため、暖房負荷を低減することができない。
【0012】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、潜熱蓄熱材を用いて室内温度を好適に制御しつつ、冷房機器又は暖房機器の運転効率を可及的に高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、潜熱蓄熱材を有する天井部を備え、所定の設定範囲内の目標室内温度に室内温度を近付けるように室内を冷房する冷房機器が設けられた家屋において、上記潜熱蓄熱材を用いて上記家屋の室内温度を制御する方法を対象としている。そして、上記潜熱蓄熱材の融点は、上記目標室内温度よりも高い。
【0014】
この第1の発明では、潜熱蓄熱材の融点が冷房機器による目標室内温度よりも高いので、冷房運転当初において、その融点が比較的高い潜熱蓄熱材が固相に変化するために大きな冷房能力を要しない。しかも、潜熱蓄熱材の融点が冷房機器による目標室内温度よりも高いので、固相の潜熱蓄熱材から冷熱を室内に供給し、冷房負荷を低減することが可能になる。よって、潜熱蓄熱材を用いて室内温度を好適に制御しつつ、冷房機器の運転効率を高めることが可能になる。
【0015】
第2の発明は、潜熱蓄熱材を有する床部を備え、所定の設定範囲内の目標室内温度に室内温度を近付けるように室内を暖房する暖房機器が設けられた家屋において、上記潜熱蓄熱材を用いて上記家屋の室内温度を制御する方法を対象としている。そして、上記潜熱蓄熱材の融点は、上記目標室内温度よりも低い。
【0016】
この第2の発明では、潜熱蓄熱材の融点が暖房機器による目標室内温度よりも低いので、暖房運転当初において、その融点が比較的低い潜熱蓄熱材が液相に変化するために大きな暖房能力を要しない。しかも、潜熱蓄熱材の融点が暖房機器による目標室内温度よりも低いので、液相の潜熱蓄熱材から温熱を室内に供給し、暖房負荷を低減することが可能になる。よって、潜熱蓄熱材を用いて室内温度を好適に制御しつつ、暖房機器の運転効率を高めることが可能になる。
【0017】
第3の発明は、上記第1の発明において、上記目標室内温度は、26℃以上且つ28℃以下であり、上記潜熱蓄熱材の融点は、28℃よりも大きく且つ30℃以下であることを特徴とする。
【0018】
この第3の発明では、夏期に適した目標室内温度の下で、冷房機器の運転効率が好適に高められることとなる。
【0019】
第4の発明は、上記第2の発明において、上記目標室内温度は、20℃以上且つ22℃以下であり、上記潜熱蓄熱材の融点は、18℃以上且つ20℃未満であることを特徴とする。
【0020】
この第4の発明では、冬期に適した目標室内温度の下で、暖房機器の運転効率が好適に高められることとなる。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明によると、天井部が有する潜熱蓄熱材の融点を、冷房機器による目標室内温度よりも高くすることにより、冷房運転当初において潜熱蓄熱材が固相に変化するために大きな冷房能力が必要とならず、固相の潜熱蓄熱材から冷熱を室内に供給して冷房負荷を低減できるため、潜熱蓄熱材を用いて室内温度を好適に制御しつつ、冷房機器の運転効率を高めることができる。
【0022】
第2の発明によると、床部が有する潜熱蓄熱材の融点を、暖房機器による目標室内温度よりも低くすることにより、暖房運転当初において潜熱蓄熱材が液相に変化するために大きな暖房能力が必要とならず、液相の潜熱蓄熱材から温熱を室内に供給して暖房負荷を低減できるため、潜熱蓄熱材を用いて室内温度を好適に制御しつつ、暖房機器の運転効率を高めることができる。
【0023】
第3の発明によると、目標室内温度を26℃以上且つ28℃以下とし、潜熱蓄熱材の融点を28℃よりも大きく且つ30℃以下とすることにより、夏期に適した目標室内温度の下で、冷房機器の運転効率を好適に高めることができる。
【0024】
第4の発明によると、目標室内温度を20℃以上且つ22℃以下とし、潜熱蓄熱材の融点を18℃以上且つ20℃未満とすることにより、冬期に適した目標室内温度の下で、暖房機器の運転効率を好適に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本実施形態における室内温度が制御される家屋を示す斜視図である。
【図2】図2は、天井部の構造を示す断面図である。
【図3】図3は、床部の構造を示す断面図である。
【図4】図4は、壁部の構造を示す断面図である。
【図5】図5は、夏期及び冬期におけるPCM融点と目標室内温度とを示す表である。
【図6】図6は、冷房運転時に蓄熱部が設けられた家屋と、設けられていない家屋とについて各々の室内温度の測定結果を示す図である。
【図7】図7は、冷房運転時に蓄熱部が設けられた家屋と、設けられていない家屋とについて各々の天井板の温度の測定結果を示す図である。
【図8】図8は、冷房運転時に蓄熱部が設けられた家屋と、設けられていない家屋とについて各々の冷房COPの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0027】
《発明の実施形態1》
図1〜図5は、本発明の実施形態1を示している。
【0028】
図1は、本実施形態における室内温度が制御される家屋10を示す斜視図である。図2は、天井部12の構造を示す断面図である。図3は、床部14の構造を示す断面図である。図4は、壁部16の構造を示す断面図である。図5は、夏期及び冬期におけるPCM融点と目標室内温度とを示す表である。
【0029】
家屋10は、図1に示すように、天井部12と、床部14と、壁部16とを備えており、これらで囲まれて室内空間Aが構成されている。また、天井部12の上部には屋根17が設けられており、天井部12と屋根17との間には小屋裏空間Bが形成されている。さらに、室内空間Aと地面との間には床下空間Cが形成されている。そして、家屋10は、新省エネルギー基準(IV地域)に相当する断熱性能を有している。
【0030】
また、家屋10には、冷房運転及び暖房運転を行うように構成された空調装置5が壁部16に設けられている。すなわち、空調装置5は冷房機器であり暖房機器でもある。空調装置5は、例えば、冷房能力が2.8kWであって暖房能力が4.0kWである。また、空調装置5のCOPは、例えば、冷房が5.77であって暖房が6.02である。
【0031】
天井部12は、図2に示すように、室内空間A側から順に、天井用建材18、石膏ボード20、蓄熱部25及び住宅用グラスウール断熱材(GW10K)24を積層することによって形成されている。
【0032】
天井用建材18は、例えば、インシュレーションボード、ロックウールボード、又は火山性ガラス質複層板等の有機材料や無機材料からなる成型板によって構成されている。また、住宅用グラスウール断熱材24の厚みは例えば100mmである。
【0033】
蓄熱部25は、例えばノルマルパラフィン及びエラストマーが混合された潜熱蓄熱材と、その潜熱蓄熱材を収容する容器であるアルミパックとを有している。そして、複数の蓄熱部25が石膏ボード20と住宅用グラスウール断熱材24との間に敷き詰められている。
【0034】
このとき、ノルマルパラフィンとしては、例えば冷房運転を想定し、室内温度設定を26℃〜28℃とする場合、28℃〜30℃程度の温度帯が融点である潜熱蓄熱材(例えばノルマルオクタデカン)が好適に用いられる。また、この場合、エラストマーとしては、熱可塑性エラストマー(例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー等)が好適に用いられる。そして、ノルマルパラフィン70〜90重量%と熱可塑性エラストマー10〜30重量%とを均一混合した潜熱蓄熱材が好適に使用される。
【0035】
この場合、ノルマルパラフィンと熱可塑性エラストマーとは混合割合で融点が変わるものではなく、ノルマルパラフィンは潜熱蓄熱材として、熱可塑性エラストマーはノルマルパラフィンの流動性をなくし、弾性体を構成する目的で添加されている。
【0036】
床部14は、図3に示すように、室内空間A側から順に、フローリング材26、合板28、蓄熱部27及び住宅用グラスウール断熱材(GW10K)32が積層されることによって形成されている。住宅用グラスウール断熱材32の厚みは例えば50mmである。
【0037】
蓄熱部27は、天井部12に用いた蓄熱部25と同様の構成を有し、例えばノルマルパラフィン及びエラストマーが混合された潜熱蓄熱材と、その潜熱蓄熱材を収容する容器であるアルミパックとを備えている。
【0038】
このとき、ノルマルパラフィンとしては、例えば暖房運転を想定し、室内温度設定を18℃〜20℃とする場合、20℃〜22℃程度の温度帯が融点である潜熱蓄熱材(例えばノルマルヘプタデカン)が好適に用いられる。また、この場合、エラストマーとしては、熱可塑性エラストマー(例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー等)が好適に用いられる。そして、ノルマルパラフィン70〜90重量%と熱可塑性エラストマー10〜30重量%とを均一混合した潜熱蓄熱材が好適に使用される。
【0039】
壁部16は、図4に示すように、室内空間A側から順に、壁用建材34、石膏ボード36、防湿シート38、住宅用グラスウール断熱材40、火山性ガラス複層板42、透湿防水シート44、通気層46及び窯業系サイディング48が積層されることによって形成されている。窯業系サイディング48は、セメント質と繊維質を主な原料にして、板状に形成したものである。住宅用グラスウール断熱材40の厚みは例えば100mmである。
【0040】
また、床部14は、例えば3.64m×4.55mの略長方形であり、面積が16.6mである。そして、天井高さが例えば2.4mである。また、室内の換気は、第1種換気によって0.5回/hで行われる。さらに、家屋10の開口部における熱貫流率は、4.65W/mKである。なお、家屋10の東側及び西側の外壁には、遮熱シートが設けられており、日射による熱を遮蔽するようになっている。
【0041】
−室内温度の制御方法−
次に、上記家屋10における室内温度の制御方法について説明する。
【0042】
本実施形態における潜熱蓄熱材を用いた室内温度の制御方法は、空調装置5と潜熱蓄熱材を有する蓄熱部25,27とによって、家屋10の室内温度を制御する方法である。
【0043】
空調装置5は、インバータ制御を行う制御部(不図示)を有しており、所定の設定範囲内の目標室内温度に室内温度を近付けるように室内を冷房又は暖房するように構成されている。
【0044】
空調装置5が夏期に冷房運転するときには、図5における表の上段に示すように、目標室内温度が26℃以上且つ28℃以下に設定される。これに対し、天井部12の蓄熱部25が有している潜熱蓄熱材の融点は、冷房運転時における目標室内温度よりも高くなっている。この蓄熱部25における潜熱蓄熱材の融点は、例えば28℃よりも大きく且つ30℃以下になっている。
【0045】
そして、空調装置5により冷房運転が開始されると、空調装置5はその運転当初に強運転状態となり、空調装置5の給気風量や室内温度が比較的大きく変動する。また、天井部12の蓄熱部25において液相となっている潜熱蓄熱材は、固相に変化していく。その後、潜熱蓄熱材が固相となった蓄熱部25から冷熱が室内に供給されることにより、冷房負荷が低下する。その結果、強運転状態であった空調装置5は絞り運転状態となり、空調装置5による給気風量は大きい状態である一方、室内の温度変化は小さくなる。こうして、効率のよい冷房運転が行われることとなる。
【0046】
一方、空調装置5が冬期に暖房運転するときには、図5における表の下段に示すように、目標室内温度が20℃以上且つ22℃以下に設定される。これに対し、床部14の蓄熱部27が有している潜熱蓄熱材の融点は、暖房運転時における目標室内温度よりも低くなっている。この蓄熱部27における潜熱蓄熱材の融点は、例えば18℃以上且つ20℃未満になっている。
【0047】
そして、空調装置5により暖房運転が開始されると、空調装置5はその運転当初に強運転状態となり、空調装置5の給気風量や室内温度が比較的大きく変動する。また、床部14の蓄熱部27において固相となっている潜熱蓄熱材は、液相に変化していく。その後、潜熱蓄熱材が液相となった蓄熱部27から温熱が室内に供給されることにより、暖房負荷が低下する。その結果、強運転状態であった空調装置5は絞り運転状態となり、空調装置5による給気風量は大きい状態である一方、室内の温度変化は小さくなる。こうして、効率のよい暖房運転が行われることとなる。
【0048】
−実施形態1の効果−
したがって、この実施形態1によると、天井部12の蓄熱部25における潜熱蓄熱材の融点が冷房運転時の目標室内温度よりも高いので、冷房運転当初において、液相の潜熱蓄熱材を比較的小さな冷房能力によって固相に変化させることができる。しかも、潜熱蓄熱材の融点が空調装置5の冷房運転時における目標室内温度よりも高いので、蓄熱部25における固相の潜熱蓄熱材から冷熱を室内に供給し、冷房負荷を低減することができる。よって、潜熱蓄熱材を用いて室内温度を好適に制御しつつ、冷房運転する空調装置5の運転効率を高めることができる。
【0049】
さらに、床部14の蓄熱部27における潜熱蓄熱材の融点が暖房運転時の目標室内温度よりも低いので、暖房運転当初において、固相の潜熱蓄熱材を比較的小さな暖房能力によって液相に変化させることができる。しかも、潜熱蓄熱材の融点が空調装置5の暖房運転時における目標室内温度よりも低いので、蓄熱部27における液相の潜熱蓄熱材から温熱を室内に供給し、暖房負荷を低減することができる。よって、潜熱蓄熱材を用いて室内温度を好適に制御しつつ、暖房機器の運転効率を高めることができる。
【0050】
《その他の実施形態》
上記実施形態1において、天井部12及び床部14だけでなく、壁部16にも蓄熱部を設けるようにしてもよい。例えば、年平均気温が比較的低い地域に家屋10が建てられているときには、壁部16に設ける蓄熱部を床部14の蓄熱部27と同じ構成とすることが好ましい。そのことにより、効率良く暖房運転を行うことができる。
【0051】
一方、年平均気温が比較的高い地域に家屋10が建てられているときには、壁部16に設ける蓄熱部を天井部12の蓄熱部25と同じ構成とすることが好ましい。
【0052】
また、いずれにも属さない地域においては、天井部12の蓄熱部25と、床部14の蓄熱部27とを、均等又は所定の割合で壁下地や壁仕上げ材等として設けてもよい。
【0053】
それらのことにより、効率良く冷房運転を行うことができる。
【実施例】
【0054】
次に、具体的に実施した例について説明する。
【0055】
上記実施形態1で説明した天井部12、床部14及び壁部16を有し、その天井部12に蓄熱部25が設けられた家屋(この実施例では「西棟(PCM)」と称する)に対して、空調装置5で室内空間Aを冷房したときの冷房COPについて求めた。また、比較のために、天井部12に蓄熱部25が設けられていないが、その他の構造は同じである家屋(この実施例では「東棟(Blank)」と称する)に対しても、同様の冷房COPについて求めた。
【0056】
COP(Coefficient Of Performance)は、成績係数と呼ばれるもので、電力1kwを使って得られる冷房効果を示す指標であり、このCOPの値が大きいほど冷房運転時の消費電力が少なくなり、省エネ性能が優れることになる。
【0057】
測定を行った季節は夏期を、また時間帯は08:00〜18:00をそれぞれ想定し、空調装置5による室内温度設定は24℃とした。また、蓄熱部25の潜熱蓄熱材として、融点26〜28℃のものを用いた。
【0058】
以上の結果を図6〜図8に示す。この図6〜図8を含めた結果を考察すると、図6に示すように、室内温度は西棟(PCM)と東棟(Blank)とも同程度である。
【0059】
また、蓄熱部25が設けられている西棟(PCM)は、東棟(Blank)に比べて冷房負荷が大きくなっていた。これは、潜熱蓄熱材を凝固させるために負荷が大きくなっていると判断できる。また、消費電力量については、西棟(PCM)と東棟(Blank)との間に殆ど差異がなかった。そして、図8に示すCOPを見れば、西棟(PCM)が東棟(Blank)に比べて全般的に高く、空調装置の運転効率が非常に良くなっている。
【0060】
このことから、潜熱蓄熱材を施工することで、建物の冷房負荷(暖房負荷)が大きくなるものの、空調装置の運転効率が向上するために、消費電力としては同程度になっている。
【0061】
また、冷房運転の終了時(18:00)には、西棟(PCM)における潜熱蓄熱材は凝固状態にあり、図7に示すように、その潜熱蓄熱材が隣接配置されている天井板の温度は、18:00以降も東棟(Blank)に比べ低温に保たれている。また、図6に示すように、西棟(PCM)の室内温度も18:00以降は東棟(Blank)に比べ低温に保たれていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明は、潜熱蓄熱材を用いた室内温度の制御方法について有用である。
【符号の説明】
【0063】
5 空調装置(冷房機器、暖房機器)
10 家屋
12 天井部
14 床部
25,27 蓄熱部(潜熱蓄熱材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜熱蓄熱材を有する天井部を備え、所定の設定範囲内の目標室内温度に室内温度を近付けるように室内を冷房する冷房機器が設けられた家屋において、上記潜熱蓄熱材を用いて上記家屋の室内温度を制御する方法であって、
上記潜熱蓄熱材の融点は、上記目標室内温度よりも高い
ことを特徴とする潜熱蓄熱材を用いた室内温度の制御方法。
【請求項2】
潜熱蓄熱材を有する床部を備え、所定の設定範囲内の目標室内温度に室内温度を近付けるように室内を暖房する暖房機器が設けられた家屋において、上記潜熱蓄熱材を用いて上記家屋の室内温度を制御する方法であって、
上記潜熱蓄熱材の融点は、上記目標室内温度よりも低い
ことを特徴とする潜熱蓄熱材を用いた室内温度の制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載された潜熱蓄熱材を用いた室内温度の制御方法において、
上記目標室内温度は、26℃以上且つ28℃以下であり、
上記潜熱蓄熱材の融点は、28℃よりも大きく且つ30℃以下である
ことを特徴とする潜熱蓄熱材を用いた室内温度の制御方法。
【請求項4】
請求項2に記載された潜熱蓄熱材を用いた室内温度の制御方法において、
上記目標室内温度は、20℃以上且つ22℃以下であり、
上記潜熱蓄熱材の融点は、18℃以上且つ20℃未満である
ことを特徴とする潜熱蓄熱材を用いた室内温度の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−83147(P2013−83147A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−212386(P2012−212386)
【出願日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【出願人】(000204985)大建工業株式会社 (419)
【Fターム(参考)】