説明

潤滑剤における添加剤としてのチタン化合物およびチタン錯体

潤滑粘度の油と、油溶性チタン含有材料の形態における100万重量部当たり1〜80重量部のチタンと、サリチレート清浄剤とを含む潤滑組成物は、エンジンオイルの堆積物制御、酸化および濾過性などの性状に有益な効果をもたらす。本発明は、内燃機関の潤滑方法であって、前記機関に(a)潤滑粘度の油と;(b)油溶性チタン含有材料の形態における100万重量部当たり1〜80重量部のチタンと;(c)Ti含有清浄剤以外の、0.1〜5重量パーセントの金属含有サリチレート清浄剤とを含む潤滑組成物を供給するステップを含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶性チタン含有材料を含有し、例えばエンジンオイルの堆積物制御、酸化および濾過性などの性状に有益な効果を有する潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現行および提案されているクランクケース潤滑剤用仕様、例えば乗用車モーターオイル用GF−4、およびヘビーデューティディーゼルエンジン用PC−10などは、政府規格を満たすためにますます厳正な基準を指定している。特に重要なものは硫黄およびリン限界である。これらの限界を下げることは、エンジン性能、エンジン摩耗、およびエンジンオイルの酸化に重大な影響を有するおそれがあると一般に考えられている。これは、歴史的にエンジンオイルのリン含量に主として寄与しているのがジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDP)であるからであり、ZDPはエンジンオイルに耐摩耗および耐酸化性性能を付与するため長い間使用されている。したがって、エンジンオイル中のZDPの減量が所望されるので、エンジン性能、エンジン摩耗およびエンジンオイルの酸化という1つまたは複数の性状の劣化に対する保護を付与する代替物への必要性が存在する。潤滑剤中にZDPおよび関連材料が含まれるか否かにかかわらず、このような保護の改善は、望ましいことである。望ましい潤滑剤は、リン、硫黄および灰分の1つまたは複数が低いもの、すなわちASTM D−874(試料の金属含量の評価基準)による硫酸塩灰分が少ないものとすることができる。
【0003】
特許文献1(Schwindら、2003年11月4日)は、有機ポリスルフィドおよび過塩基性(overbased)組成物またはリンもしくは硫黄化合物を組み合わせて含有する潤滑組成物、濃縮物およびグリースを開示している。塩基性金属化合物中に使用することができる金属には(なかんずく)チタンが含まれる。
【0004】
特許文献2(Mathurら、1999年10月19日)は、あるチオリンエステル(thiophosphorus ester)を含有する潤滑組成物、機能性流体およびグリースを開示している。ボレート化過塩基性金属塩とすることができるホウ素耐摩耗剤もしくは極圧剤が存在できる。塩基性金属化合物の金属の例には(なかんずく)チタンが含まれる。
【0005】
特許文献3(Lange、1998年9月22日)は、α,β−不飽和カルボン酸をグラフトした炭化水素ポリマーと、炭化水素置換ポリカルボン酸の窒素および金属含有誘導体との反応生成物を含む潤滑剤向けの金属含有分散性粘度向上剤を開示している。この金属は、(なかんずく)チタンから選択することができる。
【0006】
特許文献4(Salomonら、1997年3月25日)は、潤滑粘度の油、カルボン酸誘導体、およびアルカリ金属過塩基性塩を含む潤滑組成物および濃縮物を開示している。やはり開示されるものは、油溶性遷移金属含有組成物とすることができる酸化防止剤である。この遷移金属は、(なかんずく)チタンから選択することができる。
【0007】
表面改質TiO粒子の形態におけるチタンも、摩擦および摩耗特性を付与するための流動パラフィン中の添加剤として開示されている。例えば、非特許文献1を参照されたい。
【0008】
特許文献5(Brownら、2006年9月28日)は、潤滑剤中の添加剤としてのチタン錯体を開示している。潤滑剤組成物は、潤滑粘度の油、油溶性チタン含有材料の形態におけるチタン1〜1000ppm(別法として1〜50ppm未満)、および、耐摩耗剤、分散剤、酸化防止剤および清浄剤からなる群から選択された少なくとも1種の添加剤を含む。
【0009】
特許文献6(Escheら、2006年1月19日)および特許文献7(Escheら、2007年6月28日)は、それぞれが基油と、表面摩耗の低減をもたらすのに有効な量の炭化水素可溶性チタン化合物とを含有する潤滑された表面を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,642,187号明細書
【特許文献2】米国特許第5,968,880号明細書
【特許文献3】米国特許第5,811,378号明細書
【特許文献4】米国特許第5,614,480号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2006−0217271号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2006−0014561号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2007−0149418号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Q. Xueら、Wear 213巻、29〜32頁、1997年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
例えば、あるチタン化合物の形態で供給されるチタンの存在が、特にサリチレート清浄剤と組み合わせて使用される場合、1つまたは複数の上記の性状に有益な効果をもたらすことが現在では発見されている。特に、チタンイソプロポキシドなどの材料は、Komatsuホットチューブ堆積物スクリーン試験(KHT)、Komatsu KES濾過性試験、分散剤パネルコーカー試験(エンジンオイルの堆積物形成傾向を評価するのに使用される試験)およびCat 1M−PC試験の1種または複数における有益な効果を付与する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
内燃機関の潤滑方法であって、前記機関に
(a)潤滑粘度の油と;
(b)油溶性チタン含有材料の形態における100万重量部当たり1〜80重量部のチタンと;
(c)Ti含有清浄剤以外の、0.1〜5重量パーセントの金属含有サリチレート清浄剤と
を含む潤滑組成物を供給するステップを含む方法。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、
(a)潤滑粘度の油と;
(b)チタン改質分散剤、チタン塩とした、またはチタンにキレート結合したトリルトリアゾールオリゴマー、クエン酸チタン、グリコールに由来するチタン化合物、および表面改質TiOナノ粒子からなる群から選択される、油溶性チタン含有材料の形態における100万重量部当たり1〜80重量部のチタンと;
(c)Ti含有清浄剤以外の、0.1〜5重量パーセントの金属含有サリチレート清浄剤と
を含む潤滑組成物を提供する。
【0015】
本発明は、上述の構成要素を組み合わせるステップを含む、潤滑組成物の調製方法をさらに提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
種々の好ましい特徴および実施形態を、非限定的な例証として以下に記述する。
【0017】
本発明の1つの構成要素は、基油とも呼ばれる潤滑粘度の油である。本発明の潤滑剤組成物中に使用される基油は、アメリカ石油協会(API)基油互換性指針(American Petroleum Institute Base Oil Interchangeability Guidelines)中に規定されるグループI〜Vのいずれかの基油から選択できる。5種の基油のグループは、下記の通りである:
【0018】
【表1】

グループI、IIおよびIIIは、鉱物油ベースストックである。したがって、潤滑粘度の油には、天然もしくは合成潤滑剤およびそれらの混合物が含まれ得る。鉱物油と合成油、特にポリアルファオレフィン油とポリエステル油の混合物がしばしば使用される。
【0019】
天然油には、動物油および植物油(例えばヒマシ油、ラード油および他の植物性酸エステル)ならびに鉱物質潤滑剤、例えば液状の石油および、パラフィン、ナフテンもしくは混合パラフィン−ナフテン型の溶媒処理もしくは酸処理した鉱物質潤滑剤などが含まれる。水素処理油もしくは水素化分解油が、有用な潤滑粘度の油の範囲内に含まれる。
【0020】
石炭または頁岩に由来する潤滑粘度の油も有用である。合成潤滑剤には、炭化水素油およびハロ置換炭化水素油例えば重合および相互重合オレフィンならびにそれらの混合物など;アルキルベンゼン;ポリフェニル(例えばビフェニル、ターフェニルおよびアルキル化ポリフェニル);アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィド、ならびにこれらの誘導体、それらの類似体および同族体が含まれる。
【0021】
アルキレンオキシドポリマーおよびインターポリマーとそれらの誘導体、ならびに末端ヒドロキシル基が例えばエステル化またはエーテル化により変性されているものが、他の種類の、使用できる公知の合成潤滑剤を構成する。
【0022】
使用することのできる他の適切な種類の合成潤滑剤は、ジカルボン酸のエステルおよび、C5〜C12モノカルボン酸から作られるエステルならびにポリオールまたはポリオールエーテルを含む。他の合成潤滑剤には、リン含有酸の液状エステル、ポリマー性テトラヒドロフラン、ケイ素系油例えばポリ−アルキル−、ポリアリール−、ポリアルコキシ−もしくはポリアリールオキシ−シロキサン油など、およびシリケート油が含まれる。
【0023】
水素処理ナフテン油も公知であり、使用することができ、同様にフィッシャー−トロプシュ気−液(GTL:gas to liquid)合成手順によって、続いて水素添加異性体化(hydroisomerization)によって調製した油も知られており、使用することができる。
【0024】
本明細書において上記に開示した型の天然もしくは合成いずれかの未精製、精製および再精製油(ならびにこれらのいずれかの2種以上の混合物)を、本発明の組成物中に使用することができる。未精製油は、天然もしくは合成供給源からさらに精製処理せずに直接得られたものである。精製油は、1つまたは複数の精製ステップでさらに処理されて、1種または複数の性状を向上させている点を除いて、未精製油と同様である。再精製油は、使用状態で既に使用された精製油に、精製油を得るのに用いられる方法と同様な方法を適用することによって得られる。このような再精製油は、しばしば、使用済み添加剤および油分解生成物の除去を対象とする技術によって、さらに処理される。
【0025】
本発明はまた、油溶性チタン含有材料、またはより一般的には炭化水素可溶性材料の形態におけるチタンをも含む。「油溶性」または「炭化水素可溶性」とは、実際的な溶液もしくは分散液を調製することができるように、巨視的もしくは全体的スケールで油または炭化水素、場合により通例鉱油中に溶解もしくは分散する材料を意味する。有用な潤滑剤配合物を調製するためには、チタン材料は、数日または数週間経過する間に、沈殿も沈降析出もするべきではない。このような材料は、分子スケールでの真の溶解性を示すことができ、あるいは、全体的スケールで溶解もしくは分散されている場合でも、種々の大きさまたは規模の凝集体の形態で存在できる。
【0026】
油溶性チタン含有材料の特性は、多岐にわたることができる。本発明において使用することができる――または、本発明の油溶性材料を調製するため使用することができる――チタン化合物の中には、種々のTi(IV)化合物、例えば酸化チタン(IV);硫化チタン(IV);硝酸チタン(IV);チタン(IV)アルコキシド(チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンイソプロポキシド、チタンブトキシドまたはチタン2−エチルヘキソキシドなど)など;ならびに、チタンフェネート;チタンカルボキシレート例えばチタン(IV)2−エチル−1−3−ヘキサンジオエートまたはクエン酸チタンもしくはチタンオレエートなど;チタン(IV)2−エチルヘキサノエート;およびチタン(IV)(トリエタノールアミナト)イソプロポキシドを含むが、それらに限定されない、他のチタン化合物または錯体がある。本発明の中に包含される他の形態のチタンには、チタンホスフェート例えばチタンジチオホスフェート(例えばジアルキルジチオホスフェート)など、およびチタンスルホネート(例えばアルキルスルホネート)、または一般に、塩(特に油溶性塩)を形成する、チタン化合物の種々の酸材料との反応生成物が含まれる。したがってチタン化合物は、なかんずく有機酸、アルコールおよびグリコールに由来することができる。Ti化合物は、Ti−O−Ti構造を含有する二量体またはオリゴマー形態で存在することもできる。このようなチタン材料は市販され、または当業者には明らかである適正な合成技術によって容易に調製することができる。これらのチタン材料は、特定の化合物に応じて、室温で固体または液体として存在できる。これらのチタン材料は、適正な不活性溶媒中の溶液形態で提供されることもできる。
【0027】
別の実施形態において、チタンは、Ti改質分散剤、例えばコハク酸イミド分散剤として供給することができる。このような材料は、チタンアルコキシドと、アルケニル(またはアルキル)無水コハク酸などのヒドロカルビル置換無水コハク酸との間で、チタン混合酸無水物を形成するステップによって調製できる。得られたチタネート−スクシネート中間体は直接使用でき、あるいは任意のいくつかの材料、例えば(a)遊離の縮合可能な−NH官能基を有するポリアミン系コハク酸イミド/アミド分散剤;(b)ポリアミン系コハク酸イミド/アミド分散剤の成分、すなわちアルケニル−(またはアルキル−)コハク酸無水物およびポリアミン、(c)置換された無水コハク酸のポリオール、アミノアルコール、ポリアミンまたはこれらの混合物との反応によって調製されるヒドロキシ含有ポリエステル分散剤と反応させることができる。別法として、このチタネート−スクシネート中間体は、他の薬剤例えばアルコール、アミノアルコール、エーテルアルコール、ポリエーテルアルコールもしくはポリオールまたは脂肪酸などと反応させることができ、その生成物は、潤滑剤にTiを付与するため直接使用されるか、さもなければ上述のコハク酸分散剤とさらに反応させるかいずれかとすることができる。一例として、1部(モルによる)のチタン酸テトライソプロピルは、2部(モルによる)のポリイソブテン置換無水コハク酸と140〜150℃で5〜6時間反応して、チタン改質分散剤または中間体をもたらすことができる。得られた材料(30g)は、ポリイソブテン置換無水コハク酸およびポリエチレンポリアミン混合物からのコハク酸イミド分散剤(127g+希釈油)と150℃で1.5時間さらに反応してチタン改質コハク酸イミド分散剤をもたらすことができる。
【0028】
別の実施形態において、チタンは、チタン塩とした、かつ/またはチタンにキレート結合したトリルトリアゾールオリゴマーとして供給することができる。トリルトリアゾールの界面活性性状が、チタン供与系として作用して、本明細書の他の個所において記述されているチタンの性能利点、ならびにトリルトリアゾールの耐摩耗性能の両方を付与することが可能になる。一実施形態において、この材料は、最初に不活性溶媒中でトリルトリアゾール(1.5当量)とホルムアルデヒド(1.57当量)とを組み合わせるステップによって、続いてジエタノールアミン(1.5当量)を添加し、次いでヘキサデセニル無水コハク酸(1.5当量)および触媒量のメタンスルホン酸を添加し、その間加熱し、縮合により水を除去するステップによって調製することができる。この材料を「オリゴマー」と呼ぶことができる。この中間体は、チタンイソプロポキシド(0.554当量)と60℃で反応し、続いて真空ストリッピングにより赤色粘稠生成物をもたらすことができる。
【0029】
平均直径5nmを有し、2−エチルヘキサン酸で表面改質されているTiO2ナノ粒子を開示しているQ. Xueら、Wear 213巻、29〜32頁、1997年(Elsevier Science S.A.)中に、より詳細に記述されている表面改質されたTiOナノ粒子などの他の形態のチタンを提供することもできる。有機ヒドロカルビル鎖によりキャップされたこのようなナノ粒子は、非極性および弱極性有機溶媒中に良好に分散すると言われている。それらの合成は、K.G.SeverinらによりChem.Mater.、6巻、8990〜898頁、1994年に、より詳細に記述されている。
【0030】
一実施形態において、チタンは、長鎖ポリマーすなわち高分子量ポリマーの一部、またはそれへの付加物ではない。したがってこれらの状況では、チタン化学種は、150,000未満、または100,000もしくは30,000もしくは20,000もしくは10,000もしくは5000もしくは3000もしくは2000未満、例えば約1000または1000未満の数平均分子量を有することができる。上記において開示したチタンを提供する非ポリマー化学種は、通例このようなポリマーの分子量範囲未満であろう。例えばチタンイソプロポキシドなどのチタンテトラアルコキシドは、容易に計算できるように、1000以下、または300以下の数平均分子量を有することができる。上述のチタン改質分散剤は、3000以下または2000以下、例えば約1000の数平均分子量を有するヒドロカルビル置換基を含むことができる。
【0031】
潤滑剤中に存在するチタンの量は、典型的には100万重量部当たり1〜80重量部(ppm)とすることができ、別法として、チタンに結合したアニオン部分(Ti ppmの計算に含まれない)を含まずに、1または5〜60もしくは〜40、あるいは5または10〜30、または10〜25、または15〜25ppmとすることができる。本発明において観察される並外れた清浄度/防汚性/耐酸化性の利益は、以下に詳細に記述する、サリチレート清浄剤と組み合わせて使用した場合、これらの比較的低いチタン濃度において観察されると考えられる。著しく高いチタン濃度では、チタン成分それ自体が、十分な清浄度の利益に寄与しており、さらにサリチレート清浄剤を使用することによって、著しいさらなる利益は得られないと考えられる。
【0032】
これらのチタン量における限界は、考察される特定の系により幾分変動でき、またチタンに結合したアニオンまたは錯化剤によってある程度影響され得る。また、使用される特定のチタン化合物の全体量も、チタンに結合したアニオンまたは錯化基の相対的重量によって決まるであろう。例えばチタンイソプロポキシドは、通例、チタン16.8重量%を含有する形態で商業的に供給される。したがって、20ppmのチタン量を供給しようとする場合、約119ppm(すなわち約0.019重量パーセント)のチタンイソプロポキシドが使用されることになるなどである。
【0033】
同様に、異なった特定のチタン化合物を使用することによって、すなわち、化合物のアニオン部分または錯化部分が異なることにより、異なった性能利点を得ることができる。例えば、表面改質されたTiO粒子は、摩擦特性および摩耗特性を付与することができる。同様に、チタン塩とした、かつ/またはチタンにキレート結合したトリルトリアゾールオリゴマーは耐摩耗性状を付与することができる。同様な形で、比較的長鎖のアニオン部分を含有する、あるいはリンまたは他の耐摩耗元素を含有するアニオン部分を含有するチタン化合物は、アニオンの耐摩耗性状のため耐摩耗性状を付与することができる。例には、チタンネオデカノエート;チタン2−エチルヘキソキシド;チタン(IV)2−プロパノラト、トリス−イソオクタデカナト−O;チタン(IV)2,2(ビス−2−プロペノラトメチル)ブタノラト、トリス−ネオデカナト−O;チタン(IV)2−プロパノラト、トリス(ジオクチル)ホスファト−O;およびチタン(IV)2−プロパノラト、トリス(ドデシル)ベンゼンスルファナト−Oが含まれるであろう。任意のこのような耐摩耗付与材料を使用する場合、このような化合物を全く含まない潤滑剤組成物の表面よりも著しい表面摩耗減少を付与するのに適した――また実際に、付与するはずである――量で、それらは使用できる。
【0034】
ある実施形態において、チタン含有材料は、チタンアルコキシド、チタン改質分散剤、芳香族カルボン酸(安息香酸またはアルキル置換された安息香酸など)のチタン塩、硫黄含有酸(式R−S−R’−COH(式中、Rはヒドロカルビル基であり、R’はヒドロカルビレン基である。)の硫黄含有酸など)のチタン塩からなる群から選択できる。
【0035】
チタン化合物は、任意の便利な方法、例えば他の形で仕上がった潤滑剤に添加するステップによる(トップ処理)、または、油もしくは他の適切な溶媒中の濃縮物の形態におけるチタン化合物を、場合によって1種または複数の追加成分、例えば酸化防止剤、グリセロールモノオレエートなどの摩擦調整剤、コハク酸イミド分散剤などの分散剤、または過塩基性硫化フェネート清浄剤などの清浄剤、などと一緒に予備混合するステップによるなどの方法で、潤滑剤組成物に付与することができる。このような追加成分は、通例希釈油と一緒に、DI(清浄剤−抑制剤)パッケージと呼ばれることがある添加剤パッケージ内に通例含まれる。
【0036】
チタンサリチレート清浄剤以外の、またはチタンサリチレート清浄剤に加えての、本発明の他の成分は、金属含有清浄剤である。一般に清浄剤は、中性塩とすることもできるが、典型的には、過塩基性材料である。過塩基性材料、さもなければ過塩基性もしくは超塩基性塩と呼ばれるものは、一般に、金属およびその金属と反応する特定の酸性有機化合物を化学量論により中和するため存在するであろう含量よりも過剰な金属含量を特徴とする、単相の均一ニュートン系である。過塩基性材料は、酸性材料(典型的には無機酸または低級カルボン酸、好ましくは二酸化炭素)を、酸性有機化合物、前記酸性有機材料について不活性な有機溶媒(例えば鉱油、ナフサ、トルエン、キシレン)少なくとも1種を含む反応媒質、化学量論的過剰の金属塩基(他の金属の中でも、Ca、Mg、Ba、NaもしくはK化合物など)、および、フェノールもしくはアルコールなどの促進剤を含む混合物と反応させるステップにより調製される。酸性有機材料は、一般に油中におけるある程度の溶解度をもたらすのに十分な数の炭素原子を有するであろう。過剰な金属量は、通常、金属比として表される。用語「金属比」は、金属の全当量の、酸性有機化合物の当量に対する比率である。中性金属塩は金属比1を有する。通常の塩において存在する金属の4.5倍多い金属を有する塩は、3.5当量過剰な金属を、または金属比4.5を有するであろう。
【0037】
このような過塩基性材料は、当業者に周知である。長鎖アルキルベンゼンスルホン酸などのスルホン酸、カルボン酸;過塩基性フェノールスルフィド(硫黄架橋のあるフェノール)を含むフェノール、ホスホン酸、およびこれらのいずれか2種以上の混合物の塩基性塩の製造技術を記載する特許には、米国特許第2,501,731号、第2,616,905号;第2,616,911号;第2,616,925号;第2,777,874号;第3,256,186号;第3,384,585号;第3,365,396号;第3,320,162号;第3,318,809号;第3,488,284号;および第3,629,109号が含まれる。
【0038】
典型的なサリチレート清浄剤は、油溶性を増進する十分に長い炭化水素置換基を有する金属過塩基性サリチレートである。ヒドロカルビル置換サリチル酸は、そのアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応による、対応するフェノールの反応によって調製することができる。炭化水素置換基は、カルボキシレートまたはフェネート清浄剤について記述される通りとすることができる。
【0039】
より詳細には、炭化水素置換サリチル酸は、式
【0040】
【化1】

(式中、それぞれのRは、脂肪族ヒドロカルビル基であり、またyは独立に1、2、3または4であり、但しRおよびyは、R基により提供される炭素原子の合計数が少なくとも7個であるようなものであることを条件とする。)によって表すことができる。一実施形態においてyは1または2であり、また一実施形態においてyは1である。R基により提供される炭素原子の合計数は、7〜50、また一実施形態において12〜50、また一実施形態において12〜40、また一実施形態において12〜30、また一実施形態において16〜24、また一実施形態において16〜18、また一実施形態において20〜24とすることができる。一実施形態においてyは1であり、またRは炭素原子16〜18個を含有するアルキル基である。過塩基性サリチル酸清浄剤およびそれらの調製は、米国特許第3,372,116号において、より詳細に記述されている。
【0041】
一実施形態において、金属塩は、「M7101」であり、このものはInfineum USA LP社により供給され、油中に分散されたサリチル酸カルシウムと特定され、TBN168、カルシウム含量6.0重量%、希釈油濃度40重量%を有する。
【0042】
サリチレート清浄剤の使用はさまざまな理由において利益をもたらすことができる。サリチレート清浄剤は、硫黄を含まず、したがって潤滑剤中に存在する硫黄の量を低下させるのに有利とすることができる。その上、非常に低レベルのチタン(例えば20ppm)でも、有意な割合のサリチレート清浄剤を含有する配合物中の析出物形成を減らすことができる。この同じレベルのチタンが、主としてスルホネート、フェネートもしくはサリキサレート清浄剤を含有する同様な配合物中では効果がより少なくまたは効果がない可能性がある。
【0043】
種々の量の他の清浄剤、例えばスルホネート清浄剤、サリキサレート清浄剤、またはサリゲニン誘導体清浄剤もまた存在することができる。サリゲニン清浄剤は、米国特許出願公開第2004/0102335号において、より詳細に記述されている。サリゲニン清浄剤は、式:
【0044】
【化2】

(式中、Xは−CHOまたは−CHOHを含み、Yは−CH−または−CHOCH−を含み、またこの場合、典型的な実施形態において、このような−CHO基は、XおよびY基の少なくとも10モルパーセントであり;またMは、典型的には1または2価の原子価の金属イオンである。)によって表すことができる。それぞれのnは、独立に0または1である。Rは、通例、炭素原子1〜60個を含有するヒドロカルビル基であり、mは0〜10であり、またm>0の場合、X基の1つはHとすることができ;それぞれのpは、独立に0、1、2または3、好ましくは1であり;また全てのR基中の炭素原子の合計数は、通例少なくとも7である。nが0である場合、MはHにより置換されて未中和のフェノール性−OH基を形成する。好ましい金属イオンMは、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの1価金属イオン、ならびにカルシウムまたはマグネシウムなどの2価イオンである。サリゲニン誘導体およびそれらの調製方法は、米国特許第6,310,009号において、より詳細に記述されている。
【0045】
サリキサレート清浄剤は、式(I)または式(II):
【0046】
【化3】

の少なくとも1単位を含む実質的に線状の化合物によって表すことができ、この化合物のそれぞれの末端は、式(III)または式(IV):
【0047】
【化4】

の末端基を有し、このような基が、それぞれの連結について同一または異なることができる2価架橋基Aによって連結される。上記の式(I)〜(IV)において、Rは水素またはヒドロカルビル基であり;Rはヒドロキシルまたはヒドロカルビル基であり、またjは0、1または2であり;Rは水素、ヒドロカルビル基またはヘテロ置換ヒドロカルビル基であり;また、Rがヒドロキシルであり、かつRおよびRが独立に水素、ヒドロカルビル基またはヘテロ置換ヒドロカルビル基のいずれかであるか、さもなければRおよびRが共にヒドロキシルであり、かつRが水素、ヒドロカルビル基またはヘテロ置換ヒドロカルビル基であるかのいずれかであり;但しR、R、RおよびRの少なくとも1つが、炭素原子少なくとも8個を含有するヒドロカルビルであることを条件とし;またこの場合これらの分子は平均して、単位(I)もしくは(III)の少なくとも1つと、単位(II)もしくは(IV)の少なくとも1つとを含有し、組成物中の単位(I)および(III)の合計数の、単位(II)および(IV)の合計数に対する比率は0.1:1〜2:1である。2価架橋基「A」は、それぞれの存在時において同一または異なることができ、そのいずれもがホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド等価物(例えばパラホルム、ホルマリン)に由来することができる−CH−(メチレン架橋)および−CHOCH−(エーテル架橋)を含む。サリキサレート誘導体およびそれらの調製方法は、米国特許第6,200,936号およびPCT公開WO 01/56968号において、より詳細に記述されている。サリキサレート誘導体は、むしろマクロ環状構造よりも主として線状構造を有すると考えられる(両構造が、用語「サリキサレート」によって包含されることを意図しているものであるが)。
【0048】
サリチレート清浄剤の量は、典型的には、油を含まない基準に対し0.1〜5.0重量パーセントとすることができる。多くの清浄剤は希釈油30〜50パーセントを含有するので、これは例えば、約0.2〜12重量パーセントの市販の、油で希釈した清浄剤に相当する。別の実施形態において、清浄剤の量は、0.2〜4.0重量パーセントまたは0.3〜3.0または0.7〜2.0または1.0〜1.5重量パーセント(油を含まない)とすることができる。他の清浄剤(サリチレート以外)の全体量は、適合可能な量のものであることができる。 清浄剤が一般に、任意の前述の金属、ならびに他の金属に基づくことができることは、明らかであろう。したがって、チタン系清浄剤も可能である。したがって、ある清浄剤はチタンを含有できるが、ある実施形態において、存在することができる清浄剤は、チタン含有清浄剤以外のものである。すなわち、Ti含有清浄剤が潤滑剤中に存在しても、存在しなくてもよいが、チタンを含有しない異なったもしくは追加の清浄剤が存在するであろう。もちろん、潤滑剤内の金属イオンが、一方の清浄剤から他方の清浄剤へと移動し得る点が認められ、そのためチタン清浄剤以外の清浄剤を最初添加しても、時間が経過した後その清浄剤のいくつかの分子が、Tiイオンと結合してしまう可能性がある。Ti含有清浄剤以外の清浄剤の存在が、このような清浄剤中のこのような偶発的な、移動したTiイオンの存在によって否定されるべきではないと解釈されたい。
【0049】
本発明による潤滑剤を調製するのに、クランクケース潤滑剤に典型的に使用される添加剤などの追加的な慣習的な成分を使用することができる。クランクケース潤滑剤は、本明細書において以後記述される下記の成分のいずれかまたは全てを典型的に含有できる。1つのこのような添加剤は耐摩耗剤である。
【0050】
耐摩耗剤の例には、リン含有耐摩耗/極圧剤、例えば金属チオホスフェート、リン酸エステルおよびその塩、リン含有カルボン酸、エステル、エーテルおよびアミドなど;ならびにホスファイトが含まれる。リン含有酸(phosphorus acid)には、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸;ジチオリン酸ならびにモノチオリン酸を含むチオリン酸;チオホスフィン酸およびチオホスホン酸が含まれる。リン含有耐摩耗剤は、米国特許出願公開第2003/0092585号において、より詳細に記述されている。リン含有耐摩耗剤の適正量は、選択された特定の薬剤およびその有効性によってある程度まで決まるであろう。しかし、ある実施形態において、リン含有耐摩耗剤は、本組成物に、リン0.01〜0.2重量パーセントを提供する、またはリン0.015〜0.15もしくは0.02〜0.1もしくは0.025〜0.08重量パーセントを提供する量で存在できる。したがって、約16重量パーセントのPを含有するジブチルホスファイト、例えば((CO)P(O)H)については、適正量は、0.062〜0.56重量パーセントを含むことができる。11重量パーセントのPを含有できる典型的なジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDP)については(油を含まない基準で計算し)、適切な量は、0.09〜0.82重量パーセントを含むことができる。比較的少量のZDPおよび他の亜鉛、硫黄およびリン供給源、例えば1200、1000、500、100またはさらに50ppm未満のリンを含有するこれらの配合物では、本発明の利点が時にはより明確に理解され得ると考えられる。ある実施形態において、リンの量は50〜500または50〜600ppmとすることができる。
【0051】
非リン含有耐摩耗剤には、ボレート化エステル、モリブデン含有化合物および硫化オレフィンが含まれる。
【0052】
ホウ酸エステルとしても公知であるボレート化エステル耐摩耗剤は、1つまたは複数の式
【0053】
【化5】

(式中、それぞれのRは、独立に有機基とすることができ、また任意の2つの隣接するR基は一緒になって環状基を形成できる。)によって表される、1種または複数の化合物とすることができる。上述の2種以上の混合物が、使用できる。一実施形態において、それぞれのRは、独立にヒドロカルビル基とすることができる。それぞれの式中のR基における炭素原子の合計数は、この化合物を基油に可溶性とするのに十分なものとすることができる。一般に、R基における炭素原子の合計数は、少なくとも8個、また一実施形態において少なくとも10個、また一実施形態において少なくとも12個とすることができる。必要とされる、R基における炭素原子の合計数には制限がないが、実際の上限は、炭素原子400または500個とすることができる。一実施形態において、それぞれのR基は独立に、炭素原子1〜100個の、また一実施形態において炭素原子1〜50個の、また一実施形態において炭素原子1〜30個の、また一実施形態において炭素原子1〜10個のヒドロカルビル基とすることができ、但しR基における炭素原子の合計数を少なくとも8個とし得ることを条件とする。それぞれのR基は、異なることができるが、他のものと同一とすることができる。有用なR基の例には、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、アミル、1,3−ジメチルブチル、2−エチル−1−ヘキシル、イソオクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、2−ペンテニル、ドデセニル、フェニル、ナフチル、アルキルフェニル、アルキルナフチル、フェニルアルキル、ナフチルアルキル、アルキルフェニルアルキルおよびアルキルナフチルアルキルが含まれてよい。
【0054】
一実施形態において、ホウ酸エステルは、式
【0055】
【化6】

(式中、R、R、RおよびRは、独立に、炭素原子1〜12個のヒドロカルビル基であり、またRおよびRは、独立に、炭素原子1〜6個の、また一実施形態において炭素原子2〜4個の、また一実施形態において炭素原子2または3個のアルキレン基である。)によって表される化合物とすることができる。一実施形態において、RおよびRは独立に、炭素原子1〜6個を含有でき、また一実施形態においてそれぞれt−ブチル基とすることができる。一実施形態において、RおよびRは、独立に、炭素原子2〜12個の、また一実施形態において炭素原子8〜10個のヒドロカルビル基である。一実施形態において、RおよびRは、独立に、−CHCH−または−CHCHCH−である。
【0056】
有用なホウ酸エステルは、商標名LA−2607のもとにCrompton Corporationから入手可能である。この材料は、上記に示される構造を有するフェノール性ホウ酸エステル(式中、RおよびRはそれぞれt−ブチルであり、RおよびRは、炭素原子2〜12個のヒドロカルビル基であり、Rは−CHCH−であり、またRは−CHCHCH−である。)として特定することができる。
【0057】
一実施形態において、ホウ酸エステルは、式
【0058】
【化7】

(式中、R基は、独立に水素またはヒドロカルビル基である。)によって表される化合物とすることができる。それぞれのヒドロカルビル基は、炭素原子1〜12個、また一実施形態において炭素原子1〜4個を含有できる。一例は、2,2’−オキシ−ビス−(4,4,6−トリメチル−1,3,2−ジオキサボリナン)である。
【0059】
一実施形態において、ホウ酸エステルは、式B(OC11またはB(OCによって表される化合物とすることができる。有用なホウ素含有化合物は、商標名MCP−1286のもとにMobil社から入手可能である。
【0060】
他のホウ酸エステルには、ボレート化エポキシドが含まれ、エポキシドをホウ素源と反応させることにより調製することができるので、こう名付けられる。このような材料は、他の構造の中でも式
【0061】
【化8】

(式中、R(複数)は、水素またはヒドロカルビル基である。)によって表すことができる。ボレート化エポキシドは、一般に1種または複数の反応性ホウ素化合物例えばホウ酸もしくは三酸化ホウ素もしくはあるホウ酸エステルなどの、少なくとも1種のエポキシドとの反応生成物である。エポキシドは一般に、炭素原子8〜30個または10〜24個または12〜20個を有する脂肪族エポキシドである。有用な脂肪族エポキシドの例には、ヘプチルエポキシド、オクチルエポキシド、オレイルエポキシドなどが含まれる。エポキシドの混合物、例えば炭素原子14〜16個を有するエポキシドと、炭素原子14〜18個を有するエポキシドとの商業的混合物を使用することもできる。ボレート化脂肪酸エポキシド(fatty epoxide)は一般に公知であり、米国特許第4,584,115号中に開示されている。
【0062】
ホウ酸エステルは、0.2重量%までの、また一実施形態において0.01重量%〜0.2重量%、また一実施形態において0.02重量%〜0.12重量%、また一実施形態において0.05重量%〜0.1重量%の範囲におけるホウ素濃度を有する潤滑油組成物をもたらすのに十分な濃度で、潤滑油組成物中に使用することができる。これらの化合物は、潤滑油組成物中に直接添加できる。しかし、一実施形態において、それらは、実質的に不活性な、通常液体の有機希釈剤、例えば鉱油、合成油(例えばジカルボン酸のエステル)、ナフサ、アルキル化(例えばC10〜C13アルキル)ベンゼン、トルエン、またはキシレンなどで希釈して添加剤濃縮物を形成することができる。これらの濃縮物は、1重量%〜99重量%、また一実施形態において10重量%〜90重量%の希釈剤を含有できる。
【0063】
他の耐摩耗剤は、ジチオカルバメート化合物を含むことができる。一実施形態において、ジチオカルバメート含有組成物は、ジチオカルバミン酸もしくは塩(これが究極的にアクリルアミドと反応する)を形成するジアミルアミンまたはジブチルアミンと二硫化炭素との反応生成物に由来する。この薬剤の量、または耐摩耗剤全体の量は、リン含有薬剤について上述したのと同様に、例えばある実施形態において、0.05〜1重量パーセントとすることができる。
【0064】
潤滑剤の分野では分散剤が周知であり、主として無灰型分散剤およびポリマー分散剤として公知であるものが含まれる。無灰型分散剤は、比較的高分子量の炭化水素鎖に結合した極性基によって特徴付けられる。典型的な無灰分散剤には、窒素含有分散剤、例えば、典型的には
【0065】
【化9】

(式中、それぞれのRは独立に、アルキル基、しばしば分子量500〜5000を有するポリイソブチレン基であり、またRはアルキレン基、通常エチレン(C)基である。)を含む様々な化学構造を有するN−置換長鎖アルケニルコハク酸イミドなどが含まれる。このような分子は、アルケニルアシル化剤とポリアミンとの反応に通常由来し、上記に示した単純なイミド構造のほかに、様々なアミドおよび第四級アンモニウム塩を含む2つの部分間の広く様々な結合が可能である。コハク酸イミド分散剤は、米国特許第4,234,435号および第3,172,892号中に、より完全に記述されている。
【0066】
他の種類の無灰分散剤は、高分子量エステルである。これらの材料は、それらがヒドロカルビルアシル化剤と、多価脂肪族アルコール例えばグリセロール、ペンタエリトリトールまたはソルビトールなどとの反応によって調製されていると見ることができる点を除いて、上述のコハク酸イミドに類似している。このような材料は、米国特許第3,381,022号中に、より詳細に記述されている。
【0067】
他の種類の無灰分散剤は、マンニッヒ塩基である。これらは、高分子量のアルキル置換フェノール、アルキレンポリアミド、およびホルムアルデヒドなどのアルデヒドの縮合により形成される材料である。このような材料は、一般的構造
【0068】
【化10】

(様々な異性体などを含む)を有することができ、米国特許第3,634,515号中に、より詳細に記述されている。
【0069】
他の分散剤には、ポリマー分散性添加剤が含まれ、これらは一般に、炭化水素系ポリマーであり、このポリマーに分散特性を付与する極性官能基を含有する。
【0070】
分散剤は、任意の様々な薬剤との反応によって後処理することもできる。これらの中には、尿素、チオ尿素、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換無水コハク酸、ニトリル、エポキシド、ホウ素化合物、およびリン化合物がある。このような処理を詳述する参考文献が、米国特許第4,654,403号中に、掲げられている。
【0071】
本組成物における分散剤の量は、典型的に1〜10重量パーセント、または1.5〜9.0パーセント、または2.0〜8.0パーセント(全て油を含まない基準で表される)とすることができる。
【0072】
別の成分は、酸化防止剤である。ある酸化防止剤はチタンを含有できるが、ある実施形態において、存在できる酸化防止剤は、チタン含有酸化防止剤以外である。すなわち、潤滑剤中にTi含有酸化防止剤が存在しても、存在しなくてもよいが、ある実施形態において、異なったもしくは追加の、チタンを含有しない酸化防止剤が存在できる。
【0073】
酸化防止剤はフェノール性酸化防止剤を包含し、これらは一般式
【0074】
【化11】

(式中、Rは、炭素原子1〜24個または4〜18個を含有するアルキル基であり、またaは、1〜5または1〜3または2の整数である。)のものとすることができる。フェノールは、t−ブチル基2または3個を含有するブチル置換フェノール、例えば
【0075】
【化12】

などとすることができる。パラ位は、ヒドロカルビル基、または2つの芳香環を架橋する基によって占められることもできる。ある実施形態では、パラ位は、エステル含有基、例えば、式
【0076】
【化13】

(式中、Rは、例えば炭素原子1〜18個または2〜12個または2〜8個または2〜6個を含有するアルキル基などのヒドロカルビル基であり、またt−アルキルは、t−ブチルとすることができる。)の酸化防止剤などによって占められる。このような酸化防止剤は、米国特許第6,559,105号において、さらにより詳細に記述されている。
【0077】
酸化防止剤はまた、芳香族アミン、例えば、式
【0078】
【化14】

(式中、Rは、フェニル基、ナフチル基、またはRで置換されたフェニル基などの芳香族基とすることができ、またRおよびRは独立に、水素、または炭素原子1〜24個もしくは4〜20個もしくは6〜12個を含有するアルキル基とすることができる。)のものなどをも含む。一実施形態において、芳香族アミン酸化防止剤は、アルキル化ジフェニルアミン、例えば、式
【0079】
【化15】

のノニル化ジフェニルアミン、またはジノニル化およびモノノニル化ジフェニルアミンの混合物などを含むことができる。
【0080】
酸化防止剤はまた、モノ−もしくはジスルフィド、またはこれらの混合物などの硫化オレフィンをも含む。これらの材料は、一般に、硫黄原子1〜10個、例えば1〜4個または1もしくは2個を有するスルフィド結合を有する。硫化して、本発明の硫化有機組成物を形成することができる材料には、油、脂肪酸およびエステル、オレフィンおよびそれから作ったポリオレフィン、テルペン、またはディールス−アルダー付加物が含まれる。いくつかのこのような硫化材料の調製方法の細部は、米国特許第3,471,404号、第4,191,659号、第3,498,915号および第4,582,618号中に見出すことができる。
【0081】
モリブデン化合物も、酸化防止剤として役立つことができ、これらの材料は、耐摩耗剤などの種々の他の機能においても役立つことができる。潤滑油組成物における耐摩耗剤および酸化防止剤としてのモリブデンおよび硫黄含有組成物の使用が公知である。例えば、米国特許第4,285,822号は、(1)極性溶媒、酸性モリブデン化合物および油溶性塩基性窒素化合物を組み合わせて、モリブデン含有錯体を形成するステップと、(2)この錯体を二硫化炭素に接触させて、モリブデンおよび硫黄含有組成物を形成するステップとによって、調製したモリブデンおよび硫黄含有組成物を含有する潤滑油組成物を開示している。モリブデン系酸化防止剤は存在でき、または不在とすることができる。ある実施形態において、本潤滑剤配合物は、モリブデンを、例えば、100万重量部当たり500未満または300未満または150未満または100未満または50未満または20未満または10未満または5未満または1未満重量部Mo(例えば10〜300ppmMo)という僅かしか含有せず、もしくは全く含有しない。
【0082】
酸化防止剤の典型的な量は、もちろん、特定の酸化防止剤およびその個別的有効性によって決まるが、例示的合計量は、0.01〜5重量パーセントまたは0.15〜4.5重量パーセントまたは0.2〜4重量パーセントとすることができる。さらに、2種以上の酸化防止剤が存在でき、あるこれらの組合せでは、それらを組み合わせた全体効果が相乗作用的となり得る。
【0083】
粘度向上剤(時には粘度指数向上剤または粘度調整剤とも呼ばれる)を、本発明の組成物中に含むことができる。粘度向上剤は、通常ポリマーであり、ポリイソブテン、ポリメタクリル酸エステル、ジエンポリマー、ポリアルキルスチレン、エステル化スチレン−無水マレイン酸コポリマー、アルケニルアレーン−共役ジエンコポリマーおよびポリオレフィンを含む。本発明のもの以外の、やはり分散性および/または耐酸化性状を有する多官能性粘度向上剤が公知であり、場合によって本発明の製品に加えて使用できる。
【0084】
本発明の潤滑剤中に、場合によって使用できる他の添加剤には、流動点降下剤、極圧剤、耐摩耗剤、色安定剤および消泡剤が含まれる。
【0085】
本発明の組成物中に含まれ得る極圧剤ならびに腐食および酸化抑制剤は、塩素化脂肪族炭化水素、有機スルフィドおよびポリスルフィド、二炭化水素および三炭化水素ホスファイトを含むリンエステル(phosphorus ester)、ならびにモリブデン化合物によって例示される。
【0086】
本明細書において記述される種々の添加剤は、潤滑剤に直接添加することができる。しかし、一実施形態において、それらの添加剤は、濃縮物形成量の実質的に不活性な、通常液体の有機希釈剤例えば鉱油またはポリアルファオレフィンなどの合成油などで希釈して、添加剤濃縮物を形成することができる。これらの濃縮物は、通常0.1〜80重量%の本発明の組成物を含み、またさらに当技術分野で公知のもしくは本明細書において上述した、1種または複数の他の添加剤を含有できる。15%、20%、30%または50%以上などの濃度の添加剤を使用することができる。「濃縮物形成量(concentrate forming amount)」とは、完全に配合された潤滑剤中に存在する油または他の溶媒の量未満、例えば85%もしくは80%もしくは70%もしくは60%未満の油または他の溶媒の量を一般に意味する。添加剤濃縮物はしばしば、通常150℃または130℃または115℃までの高温で、所望の成分を一緒に混合するステップによって調製することができる。
【0087】
したがって、本発明の潤滑組成物は、エンジンドライブトレーンなどの機械装置の表面、例えば、内燃機関の部品内部表面を含む、車両のドライブトレーンの可動部分を潤滑するのに使用される場合、エンジン性能、エンジン摩耗、エンジン清浄度、エンジンオイルの堆積物制御、濾過性および酸化という、1種または複数の性状の劣化に対する保護を付与することができる。したがって、このような表面は、潤滑組成物の被膜を含むと言うことができる。
【0088】
潤滑される内燃機関には、ガソリン燃料エンジン、火花点火エンジン、ディーゼルエンジン、圧縮点火エンジン、2行程サイクルエンジン、4行程サイクルエンジン、サンプ潤滑エンジン、燃料潤滑エンジン、天然ガス燃料エンジン、舶用ディーゼルエンジンおよび定置エンジンが含まれ得る。このようなエンジンを使用できる輸送手段(vehicle)には、自動車、トラック、路上外走行車、海上輸送手段、モータサイクル、全地形用車両およびスノーモビルが含まれ得る。一実施形態において、潤滑されるエンジンは、ヘビーデューティディーゼルエンジンであり、これは、当業者に周知であるサンプ潤滑された2行程もしくは4行程サイクルエンジンを含むことができる。このようなエンジンは、3Lを超える、5Lを超える、または7Lを超えるエンジン排気量を有することができる。
【0089】
本明細書において使用される用語「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」は、当業者に周知であるその通常の意味で使用されている。具体的には、それは、分子の残基に直接結合した炭素原子を有し、主として炭化水素の特質を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例には下記が含まれる:
炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えばアルキルまたはアルケニル)置換基、脂環式(例えばシクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、ならびに芳香族−、脂肪族−および脂環式−置換された芳香族置換基、同様に、分子の他の部分によって環が完成される(例えば、2つの置換基が一緒になって環を形成する)環状置換基;
置換された炭化水素置換基、すなわち、本発明の文脈において、その置換基の、主として炭化水素の特性を変化させない非炭化水素基(例えば、ハロ(特にクロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソおよびスルホキシ)を含有する置換基;
ヘテロ置換基、すなわち、本発明の文脈において、主として炭化水素の特質を有しながら,他の点では炭素原子で構成される環または分子鎖中に炭素以外を含有する置換基。ヘテロ原子は硫黄、酸素、窒素を含み、またピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルなどの置換基を包含する。一般に、ヒドロカルビル基では、炭素原子10個毎にわずか2個以下の、好ましくは1個以下の非炭化水素基しか存在しないであろう;典型的には、ヒドロカルビル基中には非炭化水素置換基は存在しないであろう。
【0090】
上述のいくつかの材料が、最終配合物において相互に作用し、そのため最終配合物の成分が最初に添加したものと異なる可能性があることが公知である。例えば、金属イオン(例えば、清浄剤の)が、他の分子の他の酸性もしくはアニオン性部位に移動する可能性がある。それによって形成される生成物が、本発明の組成物をその本来の用途に使用する際、構成している生成物を含めて、簡単に記述される余地はないであろう。しかし、全てのこのような改変および反応生成物は、本発明の範囲内に含まれる;本発明は、上述した成分を混合することによって調製される組成物を包含する。
【実施例】
【0091】
配合物A.様々な清浄剤基質を含有する潤滑剤において、低レベルのチタンの効果を評価するため、配合物を調製している。配合物は、鉱油中に、下記の添加剤(示したもの以外に、それぞれ商業慣例的な量の希釈油を含有する):
6重量%粘度調整剤、
0.2%流動点降下剤、
7.2%コハク酸イミド分散剤、
1%ジアルキルジチオリン酸亜鉛、
0.85%ヒンダードフェノール性エステルおよび芳香族アミン酸化防止剤、
1.9〜2.1%の下表に示した完全過塩基性清浄剤(油を含まない基準で報告される)(それぞれ最初に27〜51%の油と一緒に供給される)、
0または0.015%の、表中に示したチタンイソプロポキシド
を含有する。
【0092】
全ての配合物は、実質的に同一量の灰分(0.84〜0.87%)および石鹸基質(1.48〜1.5%)を含有する。上述したKomatsuホットチューブ試験からの結果を報告している。
【0093】
【表2】

より高レベルのチタン(92〜98ppm)における同様の試験は、3種の清浄剤系全てについて良好なKHT値(7.5または8)を示す。
【0094】
サリチレート清浄剤と低レベルのチタンとの組合せが、他の清浄剤基質と組み合わせた同一レベルのチタンと比較して、思いがけず優れた性能をもたらしている。
【0095】
上記において言及したそれぞれの資料は、参照により本明細書に組み込まれている。実施例における、または特に明確に指示された場合を除いて、材料の量、反応条件、分子量、炭素原子数などを指定する、本明細書における全ての数量は、語「約(about)」によって修飾されると理解されたい。特に指示されない限り、本明細書において参照されるそれぞれの化学物質または組成物は、市販等級材料中に存在すると通常理解される異性体、副生成物、誘導体および他のこのような材料を含有できる市販等級材料であると解釈されるべきである。しかし、それぞれの化学成分の量は、特に指示されない限り、市販材料中に慣例的に存在できるどんな溶媒または希釈油をも除いて表される。本明細書において示される上方および下方の量、範囲および比率の限界は、独立に組み合わせることができると理解されたい。同様に、本発明のそれぞれの構成要素についての範囲および量は、任意の他の構成要素についての範囲または量と一緒に使用することができる。本明細書において使用される表現「から本質的になる(consisting essentially of)」は、検討下にある組成物の基本的および新規な特性に実質的に影響を及ぼさない物質を包含することを許容する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の潤滑方法であって、前記機関に、
(a)潤滑粘度の油と;
(b)油溶性チタン含有材料の形態における100万重量部当たり約1〜約80重量部のチタンと;
(c)Ti含有清浄剤以外の、約0.1〜約5重量パーセントの金属含有サリチレート清浄剤と
を含む潤滑組成物を供給するステップを含む方法。
【請求項2】
前記油溶性チタン含有材料が、チタンアルコキシドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記油溶性チタン含有材料が、チタン改質分散剤、チタン塩とした、またはチタンにキレート結合したトリルトリアゾールオリゴマー、クエン酸チタン、グリコールに由来するチタン化合物(上述のそれぞれが20,000未満の数平均分子量を有する)、および表面改質TiOナノ粒子からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記油溶性チタン含有材料が、チタンアルコキシドとヒドロカルビル置換コハク酸イミド分散剤との反応生成物であるチタン改質コハク酸イミド分散剤を含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記チタンの量が、100万重量部当たり約5〜約40重量部である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記チタンの量が、100万重量部当たり約10〜約30重量部である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記金属含有サリチレート清浄剤が、過塩基性サリチル酸カルシウム清浄剤である、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記潤滑組成物が、(d)ボレート化エステルから選択される非リン含有耐摩耗剤をさらに含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記組成物中のモリブデンの量が、100万重量部当たり150重量部未満であり、また前記組成物が、100万重量部当たり1200重量部未満のリンを含有する、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記機関が、ディーゼルエンジンである、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
(a)潤滑粘度の油と;
(b)チタン改質分散剤、チタン塩とした、またはチタンにキレート結合したトリルトリアゾールオリゴマー、クエン酸チタン、グリコールに由来するチタン化合物、および表面改質TiOナノ粒子からなる群から選択される、油溶性チタン含有材料の形態における100万重量部当たり約1〜約80重量部のチタンと;
(c)Ti含有清浄剤以外の、約0.1〜約5重量パーセントの金属含有サリチレート清浄剤と
を含む潤滑組成物。
【請求項12】
(d)ボレート化エステルから選択される非リン含有耐摩耗剤からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤
をさらに含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の成分を組み合わせるステップを含む、潤滑組成物の調製方法。

【公表番号】特表2010−540722(P2010−540722A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527078(P2010−527078)
【出願日】平成20年9月23日(2008.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/077366
【国際公開番号】WO2009/042586
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(591131338)ザ ルブリゾル コーポレイション (203)
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
【Fターム(参考)】