説明

潤滑剤密封装置

【課題】 この潤滑剤密封装置は,フッ素グリースをシール部材に塗布又は充填して動力伝達部の潤滑剤がモートル部等の外部へ漏洩するのを防止する。
【解決手段】この潤滑剤密封装置は,互いに相対的に運動する回転軸1とハウジング2との間に少なくともオイルシール3等のシール部材を配設し,シール部材の表面及び/又は近傍に潤滑剤とは混合せず撥油性のフッ素グリース10を塗布又は充填し,歯車列等の動力伝達部に充填されている潤滑油,グリース等の潤滑剤がシール部材で阻止して外部に漏洩するのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,互いに相対移動する相対運動部材間にオイルシール等のシール部材が配設される機械装置に適用される潤滑剤密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,歯車列を備えた機械装置,例えば,ギヤモートルは,モートル部とその回転軸に連結された減速機部とが仕切板によって区切られ,減速機部内には回転駆動する歯車列の潤滑のため潤滑油,グリース等の潤滑剤が充填されているのが一般的である。これらの機械装置は,モートル部によって減速機部が駆動されと,減速機部に充填された潤滑剤が歯車列の回転に伴って飛散されるが,減速機部内の潤滑剤の飛散によってモートル部等の外部への潤滑剤が漏洩するのを防止するため,減速機部を設けた回転軸に対してオイルシール等のシール部材が配設され,該オイルシールによって潤滑剤が減速機部から外部に漏洩しないように密封(封止)されるように構成されている。また,歯車列を備えた機械装置において,減速機や増速機を構成する歯車箱等のハウジング内には,歯車列の潤滑のため大量のグリース,潤滑油等の潤滑剤が充填されており,入力軸,出力軸等の軸が装置内部を形成するハウジングから突き出しており,潤滑剤の飛散や潤滑剤が回転軸に沿って外部に漏洩するのをオイルシール等のシール部材で防止するように構成されている。
【0003】
また,ギヤモートルとしては,モートル部と減速機部とが仕切部材で区画され,減速機部内には減速歯車群を潤滑するための潤滑油が封入され,モートル部の回転軸が仕切部材を貫通して減速機部に延び出し,回転軸に形成されたピニオンが減速機部の歯車と噛み合わされ,モートル部の回転力を減速機部を介して出力するものが知られている。該ギヤモートルには,回転軸を支承する軸受,回転軸に配設されたオイルシール,冷却兼用潤滑油を保留し得る空間部,及び空間部と減速機内部とを遮蔽する遮蔽部材が配設されている。オイルシール用の冷却兼用潤滑油は,減速機部内の潤滑油よりも高い粘性を有する潤滑油が選択され,遮蔽部材は回転軸の回転を許容しつつ,回転軸の径方向に密接しうる弾性体により構成され,回転軸の径方向に密接した弾性体と空間部内に保留された冷却兼用潤滑油とによって減速機部内の潤滑油が空間部内に侵入することを阻止し,減速機部内の潤滑油に混じった金属摩耗粉が空間部内に保留された冷却兼用潤滑油に混じり合うのを防止することによってオイルシールの機能を長期間維持するように構成されている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,ギヤモートルにおいて,オイルシールを確実に長寿命化するものが知られている。該オイルシールの機能維持方法は,ギヤモートルにおいてモートル部と,モートル部の回転軸に連結される減速機部との間を仕切部材で区画し,減速機部内に潤滑油を注油し,仕切部材及び回転軸の間に潤滑油がモートル部へ漏れるのを防ぐオイルシールを設けたものであり,仕切部材及び回転軸の間におけるオイルシールの減速機部側に設けられかつ減速機内の潤滑油より粘性の高い冷却用潤滑油を保留する空間部により,減速機部内からモートル部への潤滑油の侵入を阻止すると共に,オイルシールと回転軸との間を冷却したり,或いはオイルシールと回転軸との間を冷却する一方,空間部内の冷却兼用潤滑油を交換させるものである(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,ギヤモートルにおいて,オイルシールを確実に長寿命化するものが知られている。該ギヤモートルは,オイルシールのモートル部側に設けられた回転軸を軸受で支承し,仕切部材と回転軸の間のオイルシールにより減速機部側の空間部に冷却兼用潤滑油が保留され,空間部の減速機部側であってかつ仕切部材とカラーとの間の空間部に設けられた微小間隙とを備え,潤滑油がオイルシールと回転軸に装着されたカラーとの間に油膜を形成して冷却するので,オイルシールがカラーの回転によって生じる熱により劣化するのが防止され,潤滑油中の摩耗粉によって損傷したりするのが防止される(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
また,可変速電動機と減速装置とを備えた可変速減速電動機が知られている。該可変速減速電動機は,電動機の回転軸が軸受を介してブラケットに支持されており,回転軸の減速装置内に突出した突出部に軸封部材が嵌着されており,ブラケットには,軸封部材が変位した時に軸封部材のラッパ状の傾斜面と所定の接触圧で摺接する同一方向のラッパ状の傾斜面と該傾斜面に円錐状の溝部とが形成されている(例えば,特許文献4参照)。
【特許文献1】特公平8−32143号公報
【特許文献2】特開平7−151212号公報
【特許文献3】特開平10−26218号公報
【特許文献4】実開昭58−9056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,機械装置において,歯車列を備えた動力伝達部を備えた装置内部には潤滑油,グリース等の潤滑剤が充填され,潤滑剤の外部への漏洩を防止するためオイルシールが組み込まれているが,例えば,潤滑油等は液状の潤滑剤であり,回転軸やオイルシールの壁面に沿って潤滑剤が外部へ漏洩する現象があり,例えば,潤滑剤がモートル部に侵入してモートル部に悪影響を与えたり,或いは潤滑剤が回転軸に沿って外部へ漏洩して,外部環境を汚染するという問題があった。
【0008】
この発明の目的は,上記の課題を解決するため,機械装置の内部の動力伝達部に充填されている潤滑油,グリース等の潤滑剤が充填領域から外部,例えば,モートル部や外部環境に漏洩することを防止するため,オイルシール等のシール部材にフッ素グリースを塗布又は充填し,潤滑剤に対するフッ素グリースの不混合性,撥油性等の反発特性,非化合性等の特性を利用して装置内部の潤滑剤が外部に漏洩することを防止する潤滑剤密封装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は,互いに相対的に運動する少なくとも第1部材と第2部材とを備え,動力伝達部を備えた装置内部には潤滑油,グリース等の潤滑剤が充填され,前記第1部材と前記第2部材と間に少なくともシール部材が配設されている機械装置において,
前記シール部材の表面及び/又は近傍には,前記装置内部に充填された前記潤滑剤が外部に漏洩するのを防止するため,前記潤滑剤に対して少なくとも非混合性で撥油性の特性を持つフッ素グリースを存在させたことを特徴とする潤滑剤密封装置に関する。
【0010】
前記第1部材は回転軸を構成し,前記第2部材は前記回転軸の外周に位置するハウジングを構成し,前記フッ素グリースは前記回転軸と前記シール部材との間に形成される空間部に充填されている。
【0011】
前記シール部材は前記第1部材に接するシールリップ部を備えており,前記装置内部に面する少なくとも前記シール部材の前記表面に前記フッ素グリースが塗布されている。
【0012】
前記シール部材は前記第1部材に接する二股状の一対のシールリップ部を備えており,少なくとも前記リップ部間の凹部で構成された空間部には前記フッ素グリースが充填されている。
【0013】
前記フッ素グリースは,ベースオイルにフッ素系油を主成分として増ちょう剤を用いてゲル化されており,用途に応じた添加剤が添加されている。
【0014】
前記フッ素系油は,主成分としてパーフルオロポリエーテル油が使用されている。
【0015】
前記シール部材は,前記リップ部を備えたオイルシールである。
【0016】
前記オイルシールにおいて,前記リップ部は,リップヘッド部と該リップヘッド部から隔置したちりよけ用リップ部を有し,前記リップヘッド部と前記ちりよけ用リップ部との間に形成される凹部で構成された空間部には前記フッ素グリースが充填されている。
【発明の効果】
【0017】
この発明による潤滑剤密封装置は,上記のように構成されているので,例えば,隔置したシールリップ部を有するダブルリップ部を備えたオイルシールを使用した場合に,一対のシールリップ部間の凹部にフッ素系グリースを充填したり,凹部の壁面にフッ素グリースを塗布即ちコーティングすることによって,フッ素グリースが装置内部に充填されている潤滑油,グリース等の潤滑剤との混合や化合を起こすことなく,撥油性のフッ素グリースが潤滑剤を弾いてオイルシール側へと侵入させることがなく,オイルシールのシール性能をアップさせ,また,潤滑剤等によるオイルシールの劣化を防止することができるので,オイルシールの長寿命化を図ることができる。フッ素グリースの特徴は,後述するが,特に,ほとんどの有機溶剤,油脂類,酸類,塩基類に対して不溶であり,極めて強力な撥水性及び撥油性を有しているので,上記潤滑剤の密封には極めて有効なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明による潤滑剤密封装置は,例えば,相対回転部材間にオイルシール等のシール部材が装填される機械装置に適用して好ましいものである。この潤滑剤密封装置におけるシール部材としては,この実施例ではオイルシールを挙げているが,オイルシールの他に,接触シール,非接触シール,ラビリンス,運動用シール,各種のパッキン(非金属パッキン,金属パッキン,セルフタイトニングパッキン,軸パッキン,ロッドパッキン,ピストンパッキン,プランジャパッキン,コイルパッキン,スパイラルパッキン等)にも同様に適用できるものであり,形状に限定されるものではなく,種々の形状に形成できるものである。
【0019】
図1〜図7には,この潤滑剤密封装置に組み込まれたシール部材であるスプリング5を備えたオイルシールの各種タイプが示されている。一般的に,オイルシール3は,図1〜図7に示すように,ガータばねであるスプリング5を配設した場合には,潤滑油用として使用され,また,図8〜図10に示すように,スプリングを備えていない場合には,グリース用として使用されることが一般的である。この潤滑剤密封装置は,例えば,相対的に運動する回転軸1(第1部材)と回転軸1を軸受(図7の符号25参照)を介して回転自在に支持するハウジング2(第2部材)とを備えた機械装置に適用される。図7では,ハウジング2は,機械本体のベース26に適宜な手段で取り付けられているが,ベース26に一体構造に構成することもでき,本願発明では,回転軸1に対する静止部材としてハウジングと称することにする。
【0020】
機械装置は,回転軸1とハウジング2との間の装置内部,特に,動力伝達部を備えた装置内部には,該動力伝達部の潤滑のために潤滑油,グリース等の潤滑剤が充填され,回転軸1とハウジング2と間に少なくともオイルシール3等のシール部材が配設されている。図1〜図7には,回転軸1と,回転軸1を軸受(図示せず)を介して回転自在に支持するハウジング2との間に装填されるシール部材であるオイルシール3A,3B,3C,3D,3E,3F,3G(総称は3)がそれぞれ示されている。この潤滑剤密封装置は,特に,装置内部側のオイルシール3等のシール部材の表面及び/又は近傍には,シール部材と回転軸1又はハウジング2との間を通じて装置内部に充填された潤滑剤が外部に漏洩することを防止するため,潤滑剤とは混合せず撥油性を有し,潤滑剤とは反発する特性を持つフッ素グリース10が少なくとも存在していることを特徴とするものである。
【0021】
図1に示されたオイルシール3Aは,ばね入り外周ゴムちりよけ付きタイプであり,オイルシール3Aは,装置内部側である前面12側にシールリップ部4を備えており,シールリップ部4のばね溝6にガータばねであるスプリング5が嵌合され,外周にゴム製ケース14を備えている。ゴム製ケース14は,ゴム製ケース9に芯金8が埋め込まれたものである。また,オイルシール3Aは,後面13側にシールリップ部4から隔置してちりよけを構成するマイナリップ部7を備え,いわゆる二股状のダブルリップ部4,7を備えている。この潤滑剤密封装置は,オイルシール3Aを機械装置に装填した場合には,オイルシール3Aのシールリップ部4とマイナリップ部7とで形成される凹部11にフッ素グリース10を図示のように充填することが好ましい。言い換えれば,この潤滑剤密封装置は,オイルシール3Aの少なくともリップ部4と7間の空間部である凹部11にフッ素グリース10が充填されている。或いは,この潤滑剤密封装置は,図示していないが,凹部11を形成する壁面にフッ素グリース10をコーティング即ち塗布した状態に設けてもよいものである。
【0022】
図2に示されたオイルシール3Bは,ばね入り外周金属ちりよけ付きタイプであり,オイルシール3Bは,装置内部側である前面12側にシールリップ部4を備えており,シールリップ部4のばね溝6にスプリング5が嵌合され,外周に金属製ケース15を備えている。また,オイルシール3Bは,後面13側にシールリップ部4から隔置してちりよけを構成するマイナリップ部7を備えている。この潤滑剤密封装置は,オイルシール3Bを機械装置に装填した場合には,オイルシール3Bのシールリップ部4とマイナリップ部7とで形成される凹部11にフッ素グリース10を図示のように充填することが好ましい。或いは,この潤滑剤密封装置は,図示していないが,凹部11を形成する壁面にフッ素グリース10をコーティング即ち塗布した状態に設けてもよいものである。
【0023】
図3に示されたオイルシール3Cは,ばね入り組立てちりよけ付きタイプであり,オイルシール3Cは,装置内部側である前面12側にシールリップ部4を備えており,シールリップ部4のばね溝6にスプリング5が嵌合され,外周に組立てケース16を備えている。組立てケース16はアウタケース23とアウタケース23の内側に配置されたインナケース24から構成されている。また,オイルシール3Cは,後面13側にシールリップ部4から隔置してちりよけを構成するマイナリップ部7を備えている。この潤滑剤密封装置は,オイルシール3Cを機械装置に装填した場合には,オイルシール3Cのシールリップ部4とマイナリップ部7とで形成される凹部11にフッ素グリース10を図示のように充填することが好ましい。或いは,この潤滑剤密封装置は,図示していないが,凹部11を形成する壁面にフッ素グリース10をコーティング即ち塗布した状態に設けてもよいものである。
【0024】
図4に示されたオイルシール3Dは,ばね入り外周ゴムタイプであり,オイルシール3Dは,装置内部側である前面12側にシールリップ部4を備えており,シールリップ部4のばね溝6にスプリング5が嵌合され,外周にゴム製の外周ケース17を備え,外周ケース17にインサート20が埋め込まれている。この潤滑剤密封装置は,オイルシール3Dを機械装置に装填した場合には,回転軸1に近接したオイルシール3Dの前面12側の壁面18及び/又は後面13側の壁面19にフッ素グリース10を塗布又はコーティングすることが好ましい。或いは,この潤滑剤密封装置は,壁面18及び/又は壁面19の領域にフッ素グリース10を充填することもできる。フッ素グリース10を充填した場合には,例えば,前面12又は後面13に仕切り板を設けてフッ素グリース10の飛散を防止することもできる。
【0025】
図5に示されたオイルシール3Eは,ばね入り外周金属タイプであり,オイルシール3Eは,装置内部側である前面12側にシールリップ部4を備えており,シールリップ部4のばね溝6にスプリング5が嵌合され,外周ケース17の外周面に金属製ケース21を備えている。この潤滑剤密封装置は,オイルシール3Eを機械装置に装填した場合には,回転軸1に近接したオイルシール3Eの前面12側の壁面18及び/又は後面13側の壁面19にフッ素グリース10を塗布又はコーティングすることが好ましい。或いは,この潤滑剤密封装置は,図4の潤滑剤密封装置と同様であるが,壁面18及び/又は壁面19の領域にフッ素グリース10を充填することもでき,場合によっては,仕切り板を設けてフッ素グリース10の飛散を防止することもできる。
【0026】
図6に示されたオイルシール3Fは,ばね入り組立てタイプであり,オイルシール3Fは,装置内部側である前面12側にシールリップ部4を備えており,シールリップ部4のばね溝6にスプリング5が嵌合され,外周に組立てケース22を備えている。組立てケース22はアウタケース23とアウタケース23の内側に配置されたインナケース24から構成されている。この潤滑剤密封装置は,オイルシール3Fを機械装置に装填した場合には,回転軸1に近接したオイルシール3Fの前面12側の壁面18及び/又は後面13側の壁面19にフッ素グリース10を塗布又はコーティングすることが好ましい。或いは,この潤滑剤密封装置は,図4の潤滑剤密封装置と同様であるが,壁面18及び/又は壁面19の領域にフッ素グリース10を充填することもでき,場合によっては,仕切り板を設けてフッ素グリース10の飛散を防止することもできる。
【0027】
図7に示された機械装置は,回転軸1がベース26に軸受25を介して回転自在に支持され,ベース26にはハウジング2が固定されており,オイルシール3Gの取り付け構造が上記実施例の場合と異なっている。オイルシール3Gは,ハウジング2に固定されたばね入り組立てタイプであり,装置内部側である前面12側にシールリップ部4を備えており,シールリップ部4のばね溝6にスプリング5が嵌合されている。この潤滑剤密封装置は,オイルシール3Gを機械装置に装填した場合には,回転軸1に近接したオイルシール3Gの前面12側の壁面18及び/又は後面13側の壁面19にフッ素グリース10を塗布又はコーティングすることが好ましい。或いは,この潤滑剤密封装置は,壁面18及び/又は壁面19の近傍領域にフッ素グリース10を充填することもできるが,その時には上記のようにフッ素グリース10の飛散防止対策を講ずる必要がある。
【0028】
図8に示されたオイルシール3Hは,外周ゴムタイプであり,オイルシール3Hは,装置内部側である前面12側にシールリップ部4を備えており,外周にゴム製の外周ケース17を備え,外周ケース17にインサート20が埋め込まれている。この潤滑剤密封装置は,オイルシール3Hを機械装置に装填した場合には,回転軸1に近接したオイルシール3Hの前面12側の壁面18及び/又は後面13側の壁面19にフッ素グリース10を塗布又はコーティングすることが好ましい。或いは,この潤滑剤密封装置は,壁面18及び/又は壁面19の領域にフッ素グリース10を充填することもできるが,その時には,上記のようにフッ素グリース10の飛散防止対策を講ずる必要がある。
【0029】
図9に示されたオイルシール3Iは,外周金属タイプであり,オイルシール3Iは,装置内部側である前面12側にシールリップ部4を備えており,外周ケース17の外周面に金属製ケース21を備えている。この潤滑剤密封装置は,オイルシール3Iを機械装置に装填した場合には,回転軸1に近接したオイルシール3Iの前面12側の壁面18及び/又は後面13側の壁面19にフッ素グリース10を塗布又はコーティングすることが好ましい。或いは,この潤滑剤密封装置は,壁面18及び/又は壁面19の領域にフッ素グリース10を充填することもできるが,その時には,上記のようにフッ素グリース10の飛散防止対策を講ずる必要がある。
【0030】
図10に示されたオイルシール3Jは,組立てタイプであり,オイルシール3Jは,装置内部側である前面12側にシールリップ部4を備えており,外周に組立てケース22を備えている。組立てケース22はアウタケース23とアウタケース23の内側に配置されたインナケース24から構成されている。この潤滑剤密封装置は,オイルシール3Jを機械装置に装填した場合には,回転軸1に近接したオイルシール3Jの前面12側の壁面18及び/又は後面13側の壁面19にフッ素グリース10を塗布又はコーティングすることが好ましい。或いは,この潤滑剤密封装置は,壁面18及び/又は壁面19の領域にフッ素グリース10を充填することもできるが,その時には,上記のようにフッ素グリース10の飛散防止対策を講ずる必要がある。
【0031】
この潤滑剤密封装置に使用されるフッ素グリースは,ベースオイルにフッ素系油を主成分として増ちょう剤を用いてゲル化されており,用途に応じた添加剤が添加されている。フッ素系油は,主成分としてパーフルオロポリエーテル油が使用されている。パーフルオロポリエーテル油は,直鎖タイプと側鎖タイプとがあり,両タイプでは耐酸化性,不燃性,溶剤に対する不溶性等の化学的な性質は余り差がないが,分子量,流動点,粘度指数等の物理的な性質が多少異なっているので,機械装置内に充填されている潤滑油,グリース等の潤滑剤を考慮して何れかを選択すればよい。
【0032】
この潤滑剤密封装置に使用されるフッ素グリースは,種々の特性を有しているが,この潤滑剤密封装置では,特に有効な特性は,ほとんどの有機溶剤,油脂類,酸類,塩基類に対して不溶であり,しかも,極めて強力な撥水性及び撥油性を有していることが有効である。即ち,減速機,増速機,ギヤモートル等の機械装置には,その内部に鉱物油又は各種合成油,グリース等の潤滑剤が充填されているので,フッ素グリースは,これらの潤滑剤に対してシール作用を有効に発揮できる。また,フッ素グリースは,上記の特性の他に,温度特性に優れ,難燃性(不燃性),蒸気圧が低く,高温酸化安定性に極めて優れ,比重が1.9〜2.2と大きく,殆どの化学薬品に対して安定であり,耐放射線性に優れている。
【0033】
減速機,増速機,ギヤモートル等の機械装置の装置内部に充填されている潤滑油,グリース等の潤滑剤としては,次の特徴が要求されるのが一般的である。即ち,潤滑剤は,極圧性,耐摩耗性等の潤滑性に優れ.粘着性即ち付着性に優れ,ちょう度が310〜430と柔らかいことが好ましく,機械的安定性(剪断安定性)に優れ,フッ素グリースとは混合せず反撥性を持っていることである。上記潤滑剤としては,鉱物油ベースと合成油ベースとが代表的である。鉱物油ベースは,鉱物油を基油とし,Ca石けん,Li石けん,Al石けん,Na石けん等の各種金属石けん,ウレア樹脂,シリカゲル,ベントナイト等でゲル化し,更に,酸化防止剤,極圧剤,防錆剤等の添加剤が必要に応じて添加したものが使用されている。例えば,減速機用グリースとしては,硫黄化合物,燐化合物等の各種極圧剤,亜鉛化合物,モリブデン化合物等の摩耗防止剤を添加してものが多く使用されている。合成油ベースは,合成炭化水素油,エステル系油,ポリエーテル系油,ポリグリコール類,シリコーン油等の各種合成油を基油とし,各種金属石けん,ウレア樹脂,シリカゲル,ベントナイト等でゲル化し,更に,酸化防止剤,極圧剤,防錆剤等の添加剤が必要に応じて添加したものが使用されている。例えば,減速機用グリースとしては,硫黄化合物,燐化合物等の各種極圧剤,亜鉛化合物,モリブデン化合物等の摩耗防止剤を添加したものが多く使用されている。
【0034】
フッ素グリースへ配合する増ちょう剤としては,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)GA使用されるが,特殊なケースとして,シリカゲル,窒化硼素,アルミナ,金属石けん,ウレア樹脂等を使用することができる。フッ素グリースに対して増ちょう剤の量が多くなると,グリースが硬くなり,即ち,ちょう度が小さくなり,少ない程柔らかいグリースになる。従って,この潤滑剤密封装置では,オイルシール3等のシール部材に対して充填する空所やコーティング面に対して増ちょう剤の混合割合を適正に調節して適正な硬度を確保するようにすればよい。
【0035】
フッ素グリースへ添加する添加剤は,固体潤滑剤として,二硫化モリブデン,二硫化タングステン,グラファイト,カーボン,メラミンシアヌレート(MCA)等があり,また,防錆剤として,亜硝酸ソーダ等があり,また,腐食防止剤として,ベンゾトリアゾール等がある。従って,この潤滑剤密封装置は,如何なる機械装置に適用するかによって,その特性を活かすように添加剤を選択すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明による潤滑剤密封装置は,各種機械に潤滑のため使用されている潤滑油,グリース等の潤滑剤が装置内部から,例えば,モートル部,発電部,外部環境等の外部への漏洩を防止することが要求されるギヤモートル,軸受潤滑装置,変速機,電動機,発電機等の各種の装置に適用して好ましいものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明による潤滑剤密封装置の第1実施例を示す断面図である。
【図2】この発明による潤滑剤密封装置の第2実施例を示す断面図である。
【図3】この発明による潤滑剤密封装置の第3実施例を示す断面図である。
【図4】この発明による潤滑剤密封装置の第4実施例を示す断面図である。
【図5】この発明による潤滑剤密封装置の第5実施例を示す断面図である。
【図6】この発明による潤滑剤密封装置の第6実施例を示す断面図である。
【図7】この発明による潤滑剤密封装置の第7実施例を示す断面図である。
【図8】この発明による潤滑剤密封装置の第8実施例を示す断面図である。
【図9】この発明による潤滑剤密封装置の第9実施例を示す断面図である。
【図10】この発明による潤滑剤密封装置の第10実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 回転軸(第1部材)
2 ハウジング(第2部材)
3 オイルシール(シール部材)
4 シールリップ部(リップ部)
7 マイナリップ部(リップ部)
10 フッ素グリース
11 凹部(空間部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対的に運動する少なくとも第1部材と第2部材とを備え,動力伝達部を備えた装置内部には潤滑油,グリース等の潤滑剤が充填され,前記第1部材と前記第2部材と間に少なくともシール部材が配設されている機械装置において,
前記シール部材の表面及び/又は近傍には,前記装置内部に充填された前記潤滑剤が外部に漏洩するのを防止するため,前記潤滑剤に対して少なくとも非混合性で撥油性の特性を持つフッ素グリースを存在させたことを特徴とする潤滑剤密封装置。
【請求項2】
前記第1部材は回転軸を構成し,前記第2部材は前記回転軸の外周に位置するハウジングを構成し,前記フッ素グリースは前記回転軸と前記シール部材との間に形成される空間部に充填されていることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤密封装置。
【請求項3】
前記シール部材は前記第1部材に接するリップ部を備えており,前記装置内部に面する少なくとも前記シール部材の前記表面に前記フッ素グリースが塗布されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑剤密封装置。
【請求項4】
前記シール部材は前記第1部材に接する二股状の一対のリップ部を備えており,少なくとも前記リップ部間に形成される凹部で構成された空間部には前記フッ素グリースが充填されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑剤密封装置。
【請求項5】
前記フッ素グリースは,ベースオイルにフッ素系油を主成分として増ちょう剤を用いてゲル化されており,用途に応じた添加剤が添加されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の潤滑剤密封装置。
【請求項6】
前記フッ素系油は,主成分としてパーフルオロポリエーテル油が使用されていることを特徴とする請求項5に記載の潤滑剤密封装置。
【請求項7】
前記シール部材は,前記リップ部を備えたオイルシールであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の潤滑剤密封装置。
【請求項8】
前記オイルシールにおいて,前記リップ部は,リップヘッド部と該リップヘッド部から隔置したちりよけ用リップ部を有し,前記リップヘッド部と前記ちりよけ用リップ部との間に形成される凹部で構成された空間部には前記フッ素グリースが充填されていることを特徴とする請求項7に記載の潤滑剤密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−258234(P2006−258234A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78842(P2005−78842)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(390022275)株式会社日本礦油 (25)
【Fターム(参考)】