説明

潤滑油劣化度評価装置

【課題】潤滑油の劣化度を簡単に且つ安定的に測定し得る潤滑油劣化度評価装置、潤滑油劣化度評価方法及びオンライン潤滑油管理装置を提供すること。
【解決手段】pH−ISFETを使用して、潤滑油の水素濃度変化を、ドレインとソース間に一定電圧を印加した場合のドレインとソース間に流れる電流の変化又はドレインとソース間に一定電流を流した場合のドレインとソース間の電圧の変化を出力として測定することにより潤滑油の劣化状態を判別する潤滑油劣化度評価装置、潤滑油劣化度評価方法及びそれを使用したオンライン潤滑油管理装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油の劣化度評価装置、劣化度評価方法及びオンライン潤滑油管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油、特にエンジン油は、その劣化が使用対象であるエンジン等の装置の稼動効率や耐久性等を下げる原因となるため、正常な状態に管理することが必要である。
それ故、劣化度を簡便に測定できる装置・方法が望まれているが、そのような装置・方法はなく、使用時間を劣化度の目安とする管理や、潤滑油を分析して、得られた多くの性状値から劣化度を判断することが行われていた。
【0003】
例えば、潤滑油の誘電率と使用時間及び使用中の過酷度などを加味して劣化度を評価する方法が多く提案されている。然しながら、これらの方法は、何れも、潤滑油の劣化度そのものを測定したものではなく、信頼性の高い劣化度測定法が無いことを前提に組み立てられた方法であり、潤滑油の種類や使用条件によって結果が大きく異なることが予想され、信頼性の低いものである。
【0004】
一方、潤滑油に含まれるアルカリ土類金属、特にカルシウムの油中水分によるイオン化の変化を潤滑油の劣化であると捉え、ISFETを用いて比較電極とISFETとの電位差から当該イオン化の程度を測定する方法が提案されている(特許文献1参照)。然しながら、非水系の潤滑油中では、金属イオンは安定に存在し得ず、水分の少ないものでは、正確な測定は不可能である。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−40855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の欠点を払拭した、潤滑油の劣化度を簡単に且つ安定的に測定し得る潤滑油劣化度評価装置、潤滑油劣化度評価方法及びオンライン潤滑油管理装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、潤滑油の酸性度が潤滑油の真の劣化を示すものであることと、pH−ISFETが適切な方法で使用することにより非水系の潤滑油の酸性度を測定し得るものであることに着目し、本発明に到達したものである。すなわち、本発明は、
【0008】
〔1〕pH−ISFET及び該pH−ISFETのドレインとソース間に一定電圧を印加してドレインとソース間に流れる電流を測定する回路又はドレインとソース間に一定電流を流してドレインとソース間の電圧を測定する回路を具備してなる潤滑油劣化度評価装置
〔2〕pH−ISFETに対する比較電極を具備しない上記〔1〕の潤滑油劣化度評価装置、
〔3〕潤滑油がエンジン油である上記〔1〕又は〔2〕の潤滑油劣化度評価装置、
〔4〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかの潤滑油劣化度評価装置を使用し、潤滑油の酸性度を、ドレインとソース間に一定電圧を印加した場合のドレインとソース間に流れる電流又はドレインとソース間に一定電流を流した場合のドレインとソース間の電圧を出力として測定することからなる、潤滑油劣化度評価方法、
〔5〕ドレインとソース間に一定電圧を断続的に印加するか又はドレインとソース間に一定電流を断続的に流すことによって、非測定時間を設ける上記〔4〕の潤滑油劣化度評価方法、
〔6〕ドレインとソース間に異なる電圧を断続的に印加するか又はドレインとソース間に異なる電流を断続的に流すことによって、異なる電圧値もしくは異なる電流値におけるドレインとソース間電流もしくはドレインとソース間電圧の差を測定する上記〔4〕又は〔5〕の潤滑油劣化度評価方法、
〔7〕潤滑油がエンジン油である上記〔4〕〜〔6〕のいずれかの潤滑油劣化度評価方法、及び
〔8〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかの潤滑油劣化度評価装置を用いてなるオンライン潤滑油管理装置
を提供するものである。
なお、pH−ISFETは、水素イオン感応型のイオン感応性電界効果型トランジスタ(Ion Sensitive Field Effect Transistor)を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、潤滑油の長期に亘る劣化状態を的確に測定することのできる装置及び方法が得られる。また、pH−ISFETに対する比較電極を設けない形とすれば、装置の回路が更に簡単になり、且つ、測定値の安定性を増すこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の潤滑油劣化度評価装置で使用する、pH−ISFETとしては、通常に使用される、水素イオン感応型のISFETが使用可能である。
pH-ISFETは、P型基板の上にN型半導体の島(ソース及びドレイン)を2箇所作り、絶縁被膜からなるゲートを設けた、通常に使用されるものであり、ゲート材料としては、例えば、酸化タンタル(Ta25)や窒化珪素(Si34)等を例示することができる。
【0011】
第1図は、本発明の潤滑油劣化度評価装置の1例を示す模式図であり、第2図は、本発明の潤滑油劣化度評価装置の他の例を示す模式図である。以下、第1図及び第2図に基づき、潤滑油劣化度評価装置及び潤滑油劣化度評価方法を説明する。
P型半導体1の両端に2つのN型半導体の島、ドレイン2とソース3とが形成され、各々の島に接するドレイン電極2'とソース電極3'から配線が出されている。ドレイン2とソース3とが形成されたP型半導体1の片面にはゲート4が形成され、そのゲート4の表面が潤滑油5と接触している。
【0012】
潤滑油5の水素イオンがゲート4に溜まると、P型半導体の主たるキャリアーである自由ホールは反発してゲート4から遠ざかり、逆に、P型半導体に少数派として存在する電子はゲート4に引き寄せられて、Nチャンネルを形成する。その結果、ドレイン2とソース3との間に電流が流れることとなる。
なお、図2の例では、水素イオン透過膜6を設けているが、ISFETでは原理的にゲートの電位を測定しているのであり、本発明においては必ずしも必要ではない。
このNチャンネルは、潤滑油5の水素イオンが高いほどの厚くなり、ドレイン2とソース3との間により多くの電流が流れるようになる。
従って、ドレイン2とソース3との間に印加する電圧(Vds)を一定とした場合には、潤滑油5の水素イオンが高まるほど、ドレイン2とソース3との間に流れる電流(Ids)は大きくなり、また、ドレイン2とソース3との間に流す電流(Ids)を一定とした場合には、潤滑油の水素イオンが高まるほど、ドレイン2とソース3との間の電圧(Vds)は小さくなる。
【0013】
この、一定の電圧を印加した場合の電流値、または、一定の電流を流した場合の電圧値を測定することにより潤滑油の水素イオン濃度、言い換えれば、劣化の程度を判定でき、長期に亘ってそれらの電流値または電圧値を測定することによって、劣化の進行状況を把握することができる。
pH−ISFETは、通常の場合と同様に、図2の例に示すように、比較電極7を設けて使用することもできるが、比較電極7を設けずに使用することが可能であり、その方が、回路が簡単になり、比較電極の管理も不要となるので、好ましい。
【0014】
なお、図示していないが、実際的には、潤滑油劣化度評価装置は潤滑油中に浸漬し、ゲート4(図2の例では水素イオン透過膜6)を潤滑油5と接触させて使用するので、それを可能とする構造をとることとなる。また、ドレイン2とソース3との間には、定電圧装置により一定の電圧を印加してその時の電流値を測定するための測定回路、又は、定電流装置により一定の電流を流してその時の電圧値を測定するための測定回路を結合する。
【0015】
一定の電圧を印加するか、一定電流を流して測定を開始した直後は、測定値が安定せず、一定の電圧を印加した場合の電流値Idsは次第に大きくなり、又、一定の電流を流した場合の電圧値Vdsは次第に小さくなる傾向があるが、何れも場合も、次第に一定値となる。従って、測定時間は5秒以上、特に、10秒以上とするのが好ましい。
また、1回のみの測定では、最初の出力のみが測定されて、測定値が安定しない傾向にあるので、一定電圧を印加しない時間又は一定電流を流さない非測定時間を設けて複数回測定するのが好ましく、非測定時間としては10秒以内が、測定回数としては5回以上で測定値が収斂する条件が好ましい。
【0016】
ドレインとソース間に異なる電圧を断続的に印加するか又はドレインとソース間に異なる電流を断続的に流すことによって、異なる電圧値もしくは異なる電流値におけるドレインとソース間電流もしくはドレインとソース間電圧の差を測定する方法も採ることができ、この場合には、一定電圧を印加するか又は一定電流を流す時間を30秒以内の一定時間とし、且つ、異なる一定電圧を印加するか又は異なる一定電流を流し始めて測定を開始して30秒以内の一定時間後に測定することを繰り返して測定した値の差によって劣化状態を判別する。
【0017】
本発明の潤滑油劣化度評価装置は、例えば、エンジン運転制御システムの一部として組み込んで、オンライン潤滑油管理装置として機能させることができる。
【実施例】
【0018】
以下に本発明の実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1
標準試験油 JASO DD6油について、JASO 336-98自動車用ディーゼル機関用潤滑油-清浄性試験方法を行ない、試験開始から200時間経過までの試験油について、図1に示した如き装置を使用して、ドレイン2とソース3との間に0.5mAの一定電流を流し、ドレイン2とソース3との間の電圧(Vds)を一定時間毎に測定した。測定は、非測定時間を2秒間とし、測定開始後(一定電流を流し始めてから)18秒後の電圧を測定した。その測定操作を10回繰り返し、測定された電圧値の収束値をその時点でのドレイン−ソース間電圧(Vds)として採用した。
その結果はグラフとして表示すると、図3の如くとなる。
この結果からは、エンジン試験時間が長くなって、潤滑油の劣化が進むと、ドレイン−ソース間電圧(Vds)が下がり、酸性度が高くなっていることが分かる。また、オイルの劣化度合いがほぼ等しいと考えられる100時間と200時間の値がほぼ同じ値を示している。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の潤滑油劣化度評価装置及び方法は、潤滑油の長期に亘る劣化状態を的確に測定することのできる装置及び方法であり、各種エンジン等の潤滑油を使用する装置の分野において、極めて有用な装置及び方法として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の潤滑油劣化度評価装置の1例を示す模式図である。
【図2】本発明の潤滑油劣化度評価装置の他の例を示す模式図である。
【図3】本発明の潤滑油劣化度評価装置を使用して潤滑油の劣化度を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1:P型半導体
2:ドレイン(N型半導体)
2':ドレイン電極
3:ソース(N型半導体)
3':ソース電極
4:ゲート
5: 潤滑油
6:水素イオン透過膜
7:比較電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH−ISFET及び該pH−ISFETのドレインとソース間に一定電圧を印加してドレインとソース間に流れる電流を測定する回路又はドレインとソース間に一定電流を流してドレインとソース間の電圧を測定する回路を具備してなる潤滑油劣化度評価装置。
【請求項2】
pH−ISFETに対する比較電極を具備しない請求項1に記載の潤滑油劣化度評価装置。
【請求項3】
潤滑油がエンジン油である請求項1又は2に記載の潤滑油劣化度評価装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油劣化度評価装置を使用し、潤滑油の酸性度を、ドレインとソース間に一定電圧を印加した場合のドレインとソース間に流れる電流又はドレインとソース間に一定電流を流した場合のドレインとソース間の電圧を出力として測定することからなる、潤滑油劣化度評価方法。
【請求項5】
ドレインとソース間に一定電圧を断続的に印加するか又はドレインとソース間に一定電流を断続的に流すことによって、非測定時間を設ける請求項4に記載の潤滑油劣化度評価方法。
【請求項6】
ドレインとソース間に異なる電圧を断続的に印加するか又はドレインとソース間に異なる電流を断続的に流すことによって、異なる電圧値もしくは異なる電流値におけるドレインとソース間電流もしくはドレインとソース間電圧の差を測定する請求項4又は5に記載の潤滑油劣化度評価方法。
【請求項7】
潤滑油がエンジン油である請求項4〜6のいずれかに記載の潤滑油劣化度評価方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油劣化度評価装置を用いてなるオンライン潤滑油管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−276148(P2009−276148A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126314(P2008−126314)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】