説明

潤滑油検査装置および潤滑油検査方法

【課題】エンジンオイルなどの潤滑油に混入した粒子状の混入物の量を、検査者の熟練度に関わらず、リアルタイムで高精度に判断できる潤滑油の検査装置および検査方法を提供する。
【解決手段】磁性体粒子を含む複数の粒子状混入物が混入した潤滑油を加熱して、潤滑油を蒸発させることで潤滑油に混入した複数の粒子状の混入物を抽出して、抽出した混入物を自然落下させ、この混入物の自然落下行路中に磁界を形成して、混入物に含まれる磁性体粒子に磁力を作用させることで自然落下行路から磁性体粒子を分離して、分離した磁性体粒子を潤滑油に比べて粘性の低い液体に混入させて、この液体中に混入した磁性体の数をフローサイトメータによって計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2サイクルディーゼルエンジン等のエンジンで使用された潤滑油中に混入している粒子状の混入物、特に、鉄粉等の磁性体粒子の量を検査する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型の船舶においては、単筒出力を大きくすることができることや、熱効率に優れ、重油などの低質燃料にも対応できることを理由に、一般に低速2サイクルディーゼルエンジンが採用されている。そして、このような船舶用ディーゼルエンジンにおいては、シリンダ内を摺動するピストンの摺動抵抗を下げて、ピストンリングやシリンダの磨耗を低減するために、シリンダライナの内部に潤滑油(エンジンオイル)を注油している。
【0003】
このような低速2サイクルディーゼルエンジン用のエンジンオイルは、エンジンにおいて燃焼されると、燃料に含まれる窒素や硫黄などによって酸性の燃焼生成物(亜硫酸など)が生成され、これがピストンやシリンダを腐食させたり磨耗を促進したりする。このため、エンジンオイル中には、中和剤として炭酸カルシウム等が混入されている。
【0004】
シリンダライナへのエンジンオイルの注油量が少ないと、シリンダやピストンリングなどのエンジン部品の磨耗が増大し、ピストンの焼付けなどの重大な不具合を生じる。また、エンジンオイルの注油量が多すぎると、高価なエンジンオイルの消費量が増大して運転コストが上昇する。また、エンジンオイルの注油量が多すぎると、エンジンオイルの燃焼によって生じる硬い燃焼生成物が多大となり、この燃焼生成物がピストンリングなどに付着して、ピストンリングの摺動によってシリンダを傷付けたり、シリンダの磨耗を促進することもある。このため、ディーゼルエンジンに注油するエンジンオイルの量は、常時適正な量に保持しておくことが望ましい。
【0005】
従来、船舶において、ディーゼルエンジンへのエンジンオイルの注油量が適正か否かの判断は、エンジンの停止時に機関長が行なっていた。一般に、機関長が、エンジンの停止時に、掃気室と呼ばれる、シリンダライナの内部とピストンリングとを見ることができる場所に入り込み、シリンダライナとピストンリングとの摺動面を観察して磨耗状態を調べ、この磨耗状態によって注油量が適正か否かを判断して注油量を加減していた。このように、従来は、機関長などが掃気室に入って摺道面の磨耗状態を観察して、エンジンオイルの注油量を調節していた。このため、エンジンオイルの検査には長年の経験が必要であり、判断基準の個人差も大きく、注油量を常時適正な量とすることは難しかった。このため、検査者の熟練度に関わらず、エンジンへの注油量が適正か否かを定量的に判断できる、エンジンオイル(潤滑油)の検査装置が望まれている。
【0006】
エンジンオイルの注入量が少ない場合、上述のように、酸性の燃焼生成物(亜硫酸など)が生成されて、ピストンやシリンダを腐食させたり磨耗を促進したりする。このため、エンジンオイル中には、ピストンやシリンダから剥がれ落ちた微細な鉄粉が混入する。すなわち、エンジンオイルに混入している微細な鉄粉の量を測定できれば、現在のエンジンオイルの注入量が適正か否か確認することができる。
【0007】
エンジンオイルなどのオイルに混入した鉄粉の量を測定する装置が、例えば、下記非特許文献1に記載されている。下記非特許文献1では、マイクロ波空洞共振器を利用した、オイル中の鉄系金属混入量の測定器が開示されている。また、オイルに含まれた鉄系物質によるインダクタンス変化や、オイルに含まれた鉄系物質が電磁誘導されて生じるエネルギー損失などを計測して、オイル中の鉄系金属混入量を測定する測定器も開示されている。また、下記非特許文献1のような、オイル中に含まれる混入物の電磁的性質に基づいたオイル中混入物の測定方法の他に、オイル中混入物の化学的性質に基づいた、オイル中混入物量の測定方法もある。
【非特許文献1】Thomas Kent、他4名、「Development of a range of on-line lubricant and machinery condition sensors for engine monitoring」、CIMAC Congress 2004、Kyoto、Paper No.244
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、オイル中に含まれる混入物の電磁的性質に基づいて、オイル中混入物量(鉄系混入物の量、および非鉄系混入物の量)を測定する、上記非特許文献1に開示された装置では、オイルの温度やオイルに混入した気泡、測定ノイズなどによって、測定精度が大きく低下するといった問題があった。船舶用エンジンにおいて、シリンダ等がなるべく腐食されないためには、なるべく早い段階で、エンジンオイルに鉄系の混入物が混入し始めたことを検知する必要があり、ppmオーダーの混入物を検知する必要がある。電磁的性質に基づいて、オイル中の混入物の量(鉄系混入物の量、および非鉄系混入物の量)を測定する、上記非特許文献1に開示された装置では、このような高精度の検知は不可能であった。また、オイル中の混入物の化学的性質に基づいた方法では、測定に時間がかかり、エンジンへの現在のオイル供給量が適正であるか否かを、リアルタイムで知ることは困難であった。また、化学的性質に基づいた分析結果は直感的に評価することが難しく、分析、または分析結果の適切な評価には専門的知識が必要であるといった問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、エンジンオイルなどの潤滑油に混入した粒子状の混入物の量を、検査者の熟練度に関わらず、リアルタイムで高精度に判断できる潤滑油の検査装置および検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、エンジン用潤滑油に混入した磁性体粒子の量を検査する装置であって、磁性体粒子を含む複数の粒子状混入物が混入した前記潤滑油を加熱して、前記潤滑油を蒸発させることで、前記潤滑油に混入した前記複数の粒子状の混入物を抽出して、抽出した前記複数の粒子状の混入物を自然落下させる混入物抽出手段と、前記複数の粒子状の混入物の自然落下行路中に磁界を形成して、前記複数の粒子状の混入物に含まれる前記磁性体粒子に磁力を作用させることで、前記自然落下行路から前記磁性体粒子を分離する分離手段と、前記分離手段によって分離された前記磁性体粒子を、前記潤滑油に比べて粘性の低い液体に混入させる混入手段と、前記液体中に混入した前記磁性体の数を計測するフローサイトメータとを有することを特徴とする潤滑油検査装置を提供する。
【0011】
なお、前記混入物抽出手段は、前記複数の粒子状混入物が混入した前記潤滑油からなる油滴を形成して、この油滴を自然落下させる油滴形成部と、前記油滴形成部によって形成されて自然落下している最中の前記油滴を加熱して、前記潤滑油を蒸発させる蒸発部とを有して構成されていることことが好ましい。
【0012】
また、前記分離手段が形成する前記磁界は、交流の磁界であることが好ましい。
【0013】
なお、前記混入物抽出手段は、前記潤滑油にレーザ光を照射することで、前記潤滑油を加熱して前記潤滑油を蒸発させてもよい。また、前記混入物抽出手段は、前記潤滑油を高温気体に曝すことで、前記潤滑油を加熱して前記潤滑油を蒸発させてもよい。また、前記混入物抽出手段は、前記潤滑油を電磁波によって加熱して、前記潤滑油を蒸発させてもよい。
【0014】
本発明は、また、エンジン用潤滑油に混入した磁性体粒子の量を検査する方法であって、磁性体粒子を含む複数の粒子状混入物が混入した前記潤滑油を加熱して、前記潤滑油を蒸発させることで、前記潤滑油に混入していた前記複数の粒子状の混入物を抽出して、抽出した前記複数の粒子状の混入物を自然落下させる混入物抽出ステップと、前記複数の粒子状の混入物の自然落下行路中に磁界を形成して、前記複数の粒子状の混入物に含まれる前記磁性体粒子に磁力を作用させることで、前記自然落下行路から前記磁性体粒子を分離する分離ステップと、前記分離ステップによって分離された前記磁性体粒子を、前記潤滑油に比べて粘性の低い液体に混入させて、前記液体中に混入した前記磁性体の数を計測する計測ステップとを有することを特徴とする潤滑油検査方法を、併せて提供する。
【0015】
なお、前記混入物抽出ステップは、前記複数の粒子状混入物が混入した前記潤滑油からなる油滴を形成して、この油滴を自然落下させ、自然落下している最中の前記油滴を加熱して、前記潤滑油を蒸発させることが好ましい。
【0016】
なお、前記分離ステップにおいて形成される前記磁界は、交流の磁界であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の潤滑油検査装置および方法によれば、エンジンオイルなどの潤滑油に混入した混合物の量を、検査者の熟練度に関わらず、リアルタイムで測定することができる。また、フローサイトメータを用いて粒子の個数を1つ1つカウントすることが可能であり、高精度な測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の潤滑油検査装置および潤滑油検査方法を詳細に説明する。図1は、本発明の潤滑油検査装置の一実施形態である、エンジンオイルパーティクル検査装置20(検査装置20)を備えて構成された、船舶用ディーゼルエンジン本体12(エンジン本体12)への潤滑油注入量調整システム10(システム10)の概略構成図である。システム10は、装置20の他、図示しないタンクや、注油器16、および制御部18を有して構成されている。
【0019】
図1において、エンジン本体12は、図示しない船舶に搭載された、公知の2サイクルディーゼルエンジンであり、シリンダライナ22の内部をピストン24が軸方向(上下方向)に摺動するようになっている。システム10は、このエンジン本体12のシリンダライナ22の内周面に、潤滑油である公知の2サイクルディーゼルエンジン用のエンジンオイルを供給するためのシステムである。
【0020】
図示しないタンクはエンジンオイルを貯留しておく部位である。図示しないタンクに貯留されているエンジンオイルは、図示しないポンプ等によって、配管を介して注油器16に供給されている。注油器16は、配管を介してシリンダライナ22と接続されており、この配管を介して、シリンダライナ22の図示しない注油ポートから、シリンダライナ22の内部にエンジンオイルを供給する。なお、シリンダライナ22には、注油器16と接続された図示しない注油ポートが、周方向に複数形成されている。シリンダライナ22の内部に供給されたエンジンオイルは、エンジンにおいて燃焼された後、ピストン24の表面やシリンダライナ22の表面をつたい(また表面から滴下して)下方に移動する。シリンダライナ22の下面側には、オイル排出ポート28が設けられており、下方に移動したエンジンオイルは、オイル排出ポート28から配管に入り、図示しないポンプ等によって検査装置20に送られる。
【0021】
検査装置20は、本発明の潤滑油検査装置に対応する部位であり、エンジンオイルに含まれる鉄粉などの磁性体粒子の数を計測する。検査装置20の構成および計測方法の詳細については、後述する。検査装置20は、制御部18と接続されており、検査装置20における計測結果(後述する磁性体粒子数のデータ)を、制御部18へと送る。
【0022】
制御部18は、注油器16と接続されており、検査装置20から送られた計測結果を受け取り、この計測結果に基づいて、注油器16からシリンダライナ22へのエンジンオイル注油量を制御する。エンジンオイルの注油量が少ない場合、上述のように、生成された酸性の燃焼生成物(亜硫酸など)によって、ピストンやシリンダの腐食や磨耗が促進して、エンジンオイルに混入する鉄粉などの磁性体粒子の数は増大する。制御部18では、検査装置20において測定された、エンジンオイルに混入している磁性体粒子の数に基づき、エンジンオイルの現在の注油量を調整する。具体的には、エンジンオイルに混入している鉄粉等の磁性体粒子の数が所定量を上回った場合、エンジンオイルの供給量が少ないと判断し、エンジンオイルの供給量を、所定量(所定割合)だけ増加させる。
【0023】
図2は、本発明の潤滑油検査装置の一例である検査装置20の概略の構成を示す、検査装置20の断面図である。検査装置20は、油滴形成器30と、蒸発室32と、分離室34と、フローサイトメータ(計測器)36とを有して構成されている。
【0024】
油滴形成器30(油滴形成部)は、ポンプ42と吐出ノズル44とからなる。ポンプ42は、シリンダライナ22から排出されたエンジンオイルを、所定の流量で吐出ノズル44に送る。吐出ノズル44は、内部に空間を有する筐体40の上壁部41の中央部分に設置されており、筐体40の内部空間に油滴52を滴下する。油滴52は、筐体40内部の中央部分付近を自由落下する。
【0025】
蒸発室32(蒸発部)は、筐体40の上方部分にあり、蒸発手段であるレーザ光照射ユニット46を有している。レーザ光照射ユニット46は、筐体40の側壁部43に設置されている。レーザ光照射装置46からは、レーザ光が連続して出射されている。レーザ光照射装置46は、筐体40内部を自由落下する油滴52にレーザ光が照射されるよう、レーザ光の照射方向が制御されている。蒸発室32では、このレーザ光照射装置46によって、自由落下する油滴52にレーザ光を照射することで、油滴52からエンジンオイルを蒸発させる。これにより、油滴52から、この油滴52に混入していた(すなわち、油滴52を成すエンジンオイルに混入していた)混入体54を抽出して、筐体40内部を自由落下させる。ここで、混入体54とは、油滴52に混入されていた複数の磁性体粒子56と、複数の非磁性体粒子58との集合体のことをいう。
【0026】
本発明において、油滴からエンジンオイルを蒸発させるための手段は、レーザ光による加熱に限定されない。例えば、蒸発室を落下する油滴に高温の気体を吹きかけてもよく、またマイクロ波によって油滴を加熱してもよい。なお、油滴からエンジンオイルを蒸発させる際、短時間で一気にエンジンオイルを蒸発させると、油滴に含まれている固体成分(磁性体粒子や非磁性体粒子)が飛散してしまう。本発明においては、油滴からエンジンオイルを蒸発させる際、なるべく時間をかけて、徐々にエンジンオイルを蒸発させることが好ましい。例えば、図2に示す例の場合、レーザ光照射装置46のレーザ光出力を比較的小さくした上、油滴52の落下の最中に常時油滴52にレーザ光が照射されるよう、油滴52の移動に伴ってレーザ光照射装置46の照射方向を自動的に制御すればよい。
【0027】
分離室34は、筐体40の下方部分にあり、分離手段である磁界発生手段48を有している。蒸発室32の内部と分離室34の内部とは連通しているが、その接続部33の内径は、蒸発室32および分離室34の内径と比べて、充分小さくなっている。これにより蒸発室32で発生する熱を、分離室34内部にまで伝わることを防止している。
【0028】
磁界発生手段48は、交流電源から印加される交流電圧によって交流磁界を発生する公知の電磁石であって、筐体40内部に磁界を発生する。分離室34では、一対の磁界発生手段48が、筐体40の中央部分を挟んで対向するように、それぞれ筐体40の外部に配置されている。磁界発生手段48は、筐体40内部を自由落下する混入体54の落下行路中に磁界を発生させることで、混入体54を構成する粒子のうち、鉄粉などの磁性体粒子56にのみ磁力を作用させる。磁界発生手段48は、この磁力によって、混入体54を構成する粒子のうち鉄粉などの磁性体粒子56のみを、磁界発生手段48に引き寄せる。すなわち、混入体54のうち磁性体粒子56のみを、筐体40内部の中央部付近から筐体40の側壁部45に向けて引き寄せて、磁性体粒子56を側壁部45の近辺に落下させ、非磁性体粒子58を、筐体40内部の中央部付近に落下させる。分離室34ではこのようにして、混入体54から、磁性体粒子56と非磁性体粒子58とを分離する。
【0029】
本発明において、分離手段で発生する磁界は、交流磁界でなく直流磁界であってもよい。例えば、直流電源と接続されて直流磁界を発生する電磁石や永久磁石を用いて、直流磁界を発生してもよい。ただし、磁界発生手段48において発生する磁界を交流磁界とすれば、筐体40の側壁45に向けて引き寄せられながら落下する磁性体粒子56が、磁力によって凝集するのを防止し、1つ1つの粒子が離散した状態で、磁性体粒子捕集容器52内部の水に混合することができる。これにより、後述するフローサイトメータ36を用いた測定において、粒子の個数を比較的高精度に計測することができる。
【0030】
筐体40の底壁部43の内面には、磁性体粒子捕集容器62、および非磁性体粒子捕集容器64とが配置されている。磁性体粒子捕集容器62および非磁性体粒子捕集容器64は、それぞれ、上面が開放されており、図示しない水供給手段によって、内部には常時水もしくは溶剤が供給されている。蒸発室32の内部と分離室34の内部とは連通しているが、上述のように、その接続部33の内径は、蒸発室32および分離室34の内径と比べて小さくなっている。蒸発室32で発生する熱は、分離室34内部にまではほとんど伝わらず、磁性体粒子捕集容器62および非磁性体粒子捕集容器64内部の水が蒸発する量はごく少ない。
【0031】
磁性体粒子捕集容器62は、筐体40内部の底壁部43の外縁に沿って、すなわち、筐体40の側壁部45の内面に沿って連続して設けられており、磁性体粒子捕集容器62内部の水もしくは溶剤は、筐体40の側壁45に沿って一方向に流れている。分離室34において、磁界発生手段48が発生する磁界によって、筐体40の側壁45に向けて引き寄せられながら落下した磁性体粒子は、磁性体粒子捕集容器62内部に落下し、内部を流れる水もしくは溶剤に混合する。磁性体粒子捕集容器62内部を流れる水もしくは溶剤は、常時排水孔72を通り排水されており、配管を介してフローサイトメータ36へと送られる。
【0032】
非磁性体粒子捕集容器64は、筐体40内部の底壁部43の内面の中央部分に設けられている。この非磁性体粒子捕集容器64には、非磁性体粒子58が落下する。非磁性体粒子捕集容器64に落下した非磁性体粒子58は、非磁性体粒子捕集容器64内部の水とともに排出される。
【0033】
フローサイトメータ36は、例えば、生化学分野における細胞種類の同定等で使用される公知のフローサイトメータであり、水中に混合された微小かつ微量の磁性体粒子58について、その数と大きさを高い精度で計測することができる。なお、本発明におけるフローサイトメータとは、透明な管路を通過する液体に向けてレーザ光を照射し、このレーザ光が液体中の粒子に照射されて起こる散乱や光遮蔽を検知することで、この液体中に混入した粒子の大きさや数を計測する装置全般(パーティクルカウンタと称されることもある)のことを指す。
【0034】
フローサイトメータ36のような、生化学分野でも用いられる高精度なフローサイトメータでは、直径約100μm程度の極細い管路中に、液体を流動させる必要がある。一般的に、エンジンオイルなどの潤滑油は比較的粘度が高く、このような極細い管路中をスムーズに流すのは困難である。このため、エンジンオイルをそのままフローサイトメータに流し、エンジンオイル中の微粒子を計測することは困難である。本発明の潤滑油検査装置では、蒸発手段および分離手段によって、エンジンオイルに含まれる鉄等の磁性体粒子56をエンジンオイルから抽出し、水等の比較的粘度が低い液体と混合することで、高精度なフローサイトメータを使用可能としている。本発明の潤滑油検査装置を用いれば、エンジンオイル中における、鉄等の磁性体粒子の混入割合が、たとえppmオーダー程度とごく微量であっても、このような磁性体粒子の大きさや混入数を、高精度に検知することができる。
【0035】
フローサイトメータ36における検出結果は、制御部18に送られる。制御部18では、フローサイトメータ36において検出された、エンジンオイル中の磁性体粒子の数が所定量を超えた場合、注油器16による、シリンダライナ22内面への単位時間当たりの注油量を、所定の割合だけ増加させる。本実施形態の潤滑油注入量調整システムでは、このように、高精度に検出された、エンジンオイル中に混入した鉄粉等の磁性体粒子の量に基づき、エンジン本体への潤滑油の注油量を、自動的に高精度に制御することができる。
【0036】
このフローサイトメータ36では、エンジンオイル中の磁性体粒子の数のみではなく、エンジンオイル中の磁性体粒子の大きさも測定しておくことが好ましい。例えば、エンジンオイル中の磁性体粒子の大きさをレベル分けしておき、各大きさのレベル毎に、磁性体粒子の数をそれぞれ計測すればよい。そして制御部において、例えば、より大きな磁性体粒子が増えるほど、注油量の増加割合をより大きくするなど、磁性体粒子の大きさも加味して注油量の増加割合を制御してもよい。このようにすることで、エンジンオイル中の磁性体粒子の数のみではなく、エンジンオイル中の磁性体粒子の大きさも反映した、より高精度な注油量の制御が可能となる。
【0037】
また、本実施形態では、非磁性体粒子捕集容器64に落下した非磁性体粒子58は、非磁性体粒子捕集容器64内部の水とともに排出されている。例えば、フローサイトメータを用いて、非磁性体粒子捕集容器64に落下した非磁性体粒子58の数や大きさを計測してもよい。このような非磁性体粒子の数を計測することで、エンジンオイルの燃焼によって生じる硬い燃焼生成物などの量を知ることができる。例えば、制御部18において、非磁性体粒子捕集容器64に落下した非磁性体粒子58の数が多すぎるときは、シリンダライナ22内面への単位時間当たりの注油量を、所定の割合だけ減少させればよい。このようにすることで、エンジンオイルの注油量が必要以上に多くなることを防止でき、エンジンオイルの無駄な消費を抑え、かつエンジンオイルの燃焼によって生じる硬い燃焼生成物の発生を抑制することができる。このように、制御部18では、エンジンオイル中の磁性体粒子の数や大きさのみではなく、エンジンオイル中の非磁性体粒子の数や大きさも反映させて、注油量を制御してもよい。
【0038】
本実施形態では、船舶用の2サイクルディーゼルエンジン用の潤滑油について説明した。本発明の潤滑油検査装置および潤滑油検査方法で検査する潤滑油は、例えば、乗用車用ガソリンエンジンなどの各種エンジンや、その他の内燃機関で用いられる種々の潤滑油であってもよく、特に限定されない。本発明の潤滑油検査装置および方法では、船舶用の2サイクルディーゼルエンジンなど、比較的大量の潤滑油に含まれるごく微量の磁性体粒子が問題となる機関であっても、潤滑油中の微量な磁性体粒子の量を、高精度に検出することができる。
【0039】
本発明は、基本的に以上のようなものである。以上、本発明の潤滑油検査装置および潤滑油検査方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の潤滑油検査装置の一例である、エンジンオイルパーティクル検査装置を備えて構成された、船舶用ディーゼルエンジン本体への潤滑油注入量調整システムの概略構成図である。
【図2】図1に示すエンジンオイルパーティクル検査装置の概略の構成を示す、エンジンオイルパーティクル検査装置の断面図である。
【符号の説明】
【0041】
10 潤滑油注入量調整システム(システム)
12 エンジン本体
14 タンク
16 注油器
18 制御部
20 エンジンオイルパーティクル検査装置(検査装置)
22 シリンダライナ
24 ピストン
26 注油ポート
28 オイル排出ポート
30 油滴形成器
32 蒸発室
33 接続部
34 分離室
36 フローサイトメータ(計測器)
40 筐体
41 上壁部
42 ポンプ
43 側壁部
44 吐出ノズル
46 レーザ光照射装置
52 油滴
54 混入体
56 磁性体粒子
58 非磁性体粒子
62 磁性体粒子捕集容器
64 非磁性体粒子捕集容器
72 常時排水孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン用潤滑油に混入した磁性体粒子の量を検査する装置であって、
磁性体粒子を含む複数の粒子状混入物が混入した前記潤滑油を加熱して、前記潤滑油を蒸発させることで、前記潤滑油に混入した前記複数の粒子状の混入物を抽出して、抽出した前記複数の粒子状の混入物を自然落下させる混入物抽出手段と、
前記複数の粒子状の混入物の自然落下行路中に磁界を形成して、前記複数の粒子状の混入物に含まれる前記磁性体粒子に磁力を作用させることで、前記自然落下行路から前記磁性体粒子を分離する分離手段と、
前記分離手段によって分離された前記磁性体粒子を、前記潤滑油に比べて粘性の低い液体に混入させる混入手段と、
前記液体中に混入した前記磁性体の数を計測するフローサイトメータとを有することを特徴とする潤滑油検査装置。
【請求項2】
前記混入物抽出手段は、前記複数の粒子状混入物が混入した前記潤滑油からなる油滴を形成して、この油滴を自然落下させる油滴形成部と、
前記油滴形成部によって形成されて自然落下している最中の前記油滴を加熱して、前記潤滑油を蒸発させる蒸発部とを有して構成されていることを特徴とする請求項1記載の潤滑油検査装置。
【請求項3】
前記分離手段が形成する前記磁界は、交流の磁界であることを特徴とする請求項1または2記載の潤滑油検査装置。
【請求項4】
前記混入物抽出手段は、前記潤滑油にレーザ光を照射することで、前記潤滑油を加熱して前記潤滑油を蒸発させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油検査装置。
【請求項5】
前記混入物抽出手段は、前記潤滑油を高温気体に曝すことで、前記潤滑油を加熱して前記潤滑油を蒸発させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油検査装置。
【請求項6】
前記混入物抽出手段は、前記潤滑油を電磁波によって加熱して、前記潤滑油を蒸発させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油検査装置。
【請求項7】
エンジン用潤滑油に混入した磁性体粒子の量を検査する方法であって、
磁性体粒子を含む複数の粒子状混入物が混入した前記潤滑油を加熱して、前記潤滑油を蒸発させることで、前記潤滑油に混入していた前記複数の粒子状の混入物を抽出して、抽出した前記複数の粒子状の混入物を自然落下させる混入物抽出ステップと、
前記複数の粒子状の混入物の自然落下行路中に磁界を形成して、前記複数の粒子状の混入物に含まれる前記磁性体粒子に磁力を作用させることで、前記自然落下行路から前記磁性体粒子を分離する分離ステップと、
前記分離ステップによって分離された前記磁性体粒子を、前記潤滑油に比べて粘性の低い液体に混入させて、前記液体中に混入した前記磁性体の数を計測する計測ステップとを有することを特徴とする潤滑油検査方法。
【請求項8】
前記混入物抽出ステップは、前記複数の粒子状混入物が混入した前記潤滑油からなる油滴を形成して、この油滴を自然落下させ、自然落下している最中の前記油滴を加熱して、前記潤滑油を蒸発させることを特徴とする請求項7記載の潤滑油検査方法。
【請求項9】
前記分離ステップにおいて形成される前記磁界は、交流の磁界であることを特徴とする請求項7または8記載の潤滑油検査装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−170854(P2007−170854A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365197(P2005−365197)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】