説明

潤滑油組成物および燃料油組成物

【課題】長期間安定して優れた摺動性を発揮し、摩擦係数を低下させてなる潤滑油組成物、および燃焼効率を向上させ静電気的安定性を高めてなる燃料油組成物を提供する。
【解決手段】潤滑油基油あるいは燃料油に、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、所定量配合してなることを特徴とする潤滑油組成物および燃料油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な潤滑油組成物および燃料油に関するものであり、詳しく述べると本発明は、摺動性に優れ、摩擦係数を低下させた潤滑油組成物および燃焼効率を向上させた燃料油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関、自動変速機、緩衝器、パワーステアリングなどの駆動系機器や、ギヤなどには、その摺動部における作動を円滑にするために潤滑油が用いられている。
【0003】
近年、これらの内燃機関や自動変速機の高性能化、高出力化、運転条件の過酷化などに伴い、高度な性能が要求されている。
【0004】
例えば、内燃機関における燃費の改善は、重要な技術課題であり、潤滑油による省燃費対策としては、例えば、流体潤滑下における摩擦損失の低減を意図した低粘度化、および混合潤滑下および境界潤滑下における摩擦損失の低減を意図した摩擦低減剤の添加等が試みられている。
【0005】
従来、潤滑油に配合される摩擦低減剤としては、モリブデンジチオカーバメートやモリブデンジチオホスフェートなどの硫黄を含有する有機モリブデン化合物が優れた摩擦低減効果を示すことから好ましく用いられてきたが、その摩擦低減効果を発揮させるためには、ジチオリン酸亜鉛などの硫黄含有化合物をある程度多量に併用し、摺動面に二硫化モリブデン皮膜を形成させる手法が一般的に行われてきた。
【0006】
しかしながら、近年環境問題の観点から、排気ガス中に含まれる硫黄分や金属含有量を低減することが求められており、潤滑油中においてもこれらの成分の低減化が必要とされているが、これらの成分の低減化によって潤滑油がその本来の性能を充分発揮できなくなることが懸念されており、その解決が望まれているが、抜本的な改善は未だなされていない。また、潤滑油は一般に長期間過酷な熱条件下に曝されるが、上記したような有機モリブデン化合物においては、その熱的安定性の面でも問題の残るものであった。
【0007】
一方、特許文献1には、燃料および潤滑油の燃焼速度向上、帯電防止および/または粘度向上を目的として、カーボンナノチューブを、燃料および潤滑油にそれぞれ、0.01〜30.0重量%および0.01〜20.0重量%配合することが提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1において使用されるようなカーボンナノチューブは、一般に、その生成時点で既に塊になってしまい、これをそのまま使用すると、潤滑油中において均一分散が進まず、また分散安定性の面においても十分なものではないため、長期保存等において潤滑油より沈降分離し、性能不良をきたすおそれがあった。
【特許文献1】米国特許第6828282(B2)号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、長期間安定して優れた摺動性を発揮し、摩擦係数を低下させてなる新規な潤滑油組成物を提供することを課題とするものである。本発明はまた、燃焼効率を向上させ静電気的安定性を高めてなる燃料油組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは、潤滑油および燃料油に配合した際、これらの潤滑油および燃料油中で均一かつ安定に微分散することができ、かつその添加量が少なくても十分な改質効果を発揮することのできる添加剤につき鋭意検討を行った結果、炭素繊維として可能な限り微細な径を有しかつ極力欠陥の少ないものとし、さらにこれら炭素繊維が一本一本ばらばらになることなく互いに強固に結合し、疎な構造体としたものを、潤滑油ないし燃料油に配合すると、これらは非常に分散性高くかつ安定に潤滑油ないし燃料油保持されるものであり、潤滑油ないし燃料油の種々の特性を有効に改質できるものであることを見出し、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、潤滑油基油に、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、全体の0.1〜5質量%の割合で含有してなることを特徴とする潤滑油組成物である。
【0012】
本発明はまた、前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることを特徴とする潤滑油組成物を示すものである。
【0013】
本発明はさらに、前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものである潤滑油組成物を示すものである。
【0014】
上記課題を解決する本発明はまた、燃料油に、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、全体の0.01〜1質量%の割合で含有してなることを特徴とする燃料油組成物である。
【0015】
本発明はまた、前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることを特徴とする燃料油組成物を示すものである。
【0016】
本発明はさらに、前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものである燃料油組成物を示すものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、炭素繊維構造体が、上記したように3次元ネットワーク状に配された微細径の炭素繊維が、前記炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって互いに強固に結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を有するものであるために、潤滑油ないし燃料油中において、当該炭素繊維構造体は、疎な構造を残したまま高い分散性をもってかつ安定に、潤滑油ないし燃料油中に分散配合できる。
【0018】
このように、本発明に係る潤滑油組成物および燃料油組成物においては、上述の炭素繊維構造体が均一に分散分布されているため、潤滑油組成物においては、炭素繊維構造体が炭素質体として材料的な摺動性と共に構造的に適度な弾性を発揮するため、当該潤滑油組成物が摺動部に供給された際、良好な摩擦低減作用を発揮することができ、かつ炭素繊維であるために熱的にも安定したものとなる。また燃料油組成物においては、炭素繊維構造体のフリーラジカル捕捉能によってアンチノッキング作用を発揮しオクタン価を向上させ得、また、ディーゼル燃料のセタン価も向上させ得、燃焼効率、燃焼のクリーン化を高めることができる。さらに、導体である炭素繊維構造体を添加することによって、燃料ないし潤滑油の静電気に対する安定性を高めることができ、さらに、金属および金属イオン封鎖作用、熱的安定性等のその他の特性についても向上が図れることとなるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0020】
本発明の潤滑油組成物および燃料油組成物は、後述するような所定構造を有する3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体を、全体の0.01〜5質量%、あるいは全体の0.01〜1質量%の割合でそれぞれ含有することを特徴するものである。
【0021】
炭素繊維構造体
本発明において用いられる炭素繊維構造体は、例えば、図3に示すSEM写真または図4(a)および(b)に示すTEM写真に見られるように、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有することを特徴とする炭素繊維構造体である。
【0022】
炭素繊維構造体を構成する炭素繊維の外径を、15〜100nmの範囲のものとするのは、外径が15nm未満であると、後述するように炭素繊維の断面が多角形状とならず、一方、炭素繊維の物性上直径が小さいほど単位量あたりの本数が増えるとともに、炭素繊維の軸方向への長さも長くなり、高い導電性が得られるため、100nmを越える外径を有することは、潤滑油および燃料油に対する改質剤、添加剤として配される炭素繊維構造体として適当でないためである。なお、炭素繊維の外径としては特に、20〜70nmの範囲内にあることが、より望ましい。この外径範囲のもので、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層したもの、すなわち多層であるものは、曲がりにくく、弾性、すなわち変形後も元の形状に戻ろうとする性質が付与されるため、炭素繊維構造体が一旦圧縮された後においても、潤滑油および燃料油に配された後において、疎な構造を採りやすくなる。
【0023】
なお、2400℃以上でアニール処理すると、積層したグラフェンシートの面間隔が狭まり真密度が1.89g/cmから2.1g/cmに増加するとともに、炭素繊維の軸直交断面が多角形状となり、この構造の炭素繊維は、積層方向および炭素繊維を構成する筒状のグラフェンシートの面方向の両方において緻密で欠陥の少ないものとなるため、曲げ剛性(EI)が向上する。
【0024】
加えて、該微細炭素繊維は、その外径が軸方向に沿って変化するものであることが望ましい。このように炭素繊維の外径が軸方向に沿って一定でなく、変化するものであると、樹脂等のマトリックス中において当該炭素繊維に一種のアンカー効果が生じるものと思われ、マトリックス中における移動が生じにくく分散安定性が高まるものとなる。
【0025】
そして本発明に係る炭素繊維構造体においては、このような所定外径を有する微細炭素繊維が3次元ネットワーク状に存在するが、これら炭素繊維は、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているものである。このように、微細炭素繊維同士が単に絡合しているものではなく、粒状部において相互に強固に結合されているものであることから、潤滑油および燃料油に配した場合に当該構造体が炭素繊維単体として分散されることなく、嵩高な構造体のまま潤滑油および燃料油中に分散配合されることができる。
【0026】
当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、当該粒状部における炭素間結合は十分に発達したものとなり、正確には明らかではないが、sp結合およびsp結合の混合状態を含むと思われる。そして、生成後(後述する中間体および第一中間体)においては、粒状部と繊維部とが、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合せたような構造をもって連続しており、その後の高温熱処理後においては、図4(a)および(b)に示されるように、粒状部を構成するグラフェン層の少なくとも一部は、当該粒状部より延出する微細炭素繊維を構成するグラフェン層に連続するものとなる。本発明に係る炭素繊維構造体において、粒状部と微細炭素繊維との間は、上記したような粒状部を構成するグラフェン層が微細炭素繊維を構成するグラフェン層と連続していることに象徴されるように、炭素結晶構造的な結合によって(少なくともその一部が)繋がっているものであって、これによって粒状部と微細炭素繊維との間の強固な結合が形成されているものである。
【0027】
なお、本願明細書において、粒状部から炭素繊維が「延出する」するとは、粒状部と炭素繊維とが他の結着剤(炭素質のものを含む)によって、単に見かけ上で繋がっているような状態をさすものではなく、上記したように炭素結晶構造的な結合によって繋がっている状態を主として意味するものである。
【0028】
また、当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるが、その痕跡として粒状部の内部には、少なくとも1つの触媒粒子、あるいはその触媒粒子がその後の熱処理工程において揮発除去されて生じる空孔を有している。この空孔(ないし触媒粒子)は、粒状部より延出している各微細炭素繊維の内部に形成される中空部とは、本質的に独立したものである(なお、ごく一部に、偶発的に中空部と連続してしまったものも観察される。)。
【0029】
この触媒粒子ないし空孔の数としては特に限定されるものではないが、粒状部1つ当りに1〜1000個程度、より望ましくは3〜500個程度存在する。このような範囲の数の触媒粒子の存在下で粒状部が形成されたことによって、後述するような所望の大きさの粒状部とすることができる。
【0030】
また、この粒状部中に存在する触媒粒子ないし空孔の1つ当りの大きさとしては、例えば、1〜100nm、より好ましくは2〜40nm、さらに好ましくは3〜15nmである。
【0031】
さらに、特に限定されるわけではないが、この粒状部の粒径は、図2に示すように、前記微細炭素繊維の外径よりも大きいことが望ましい。具体的には、例えば、前記微細炭素繊維の外径の1.3〜250倍、より好ましくは1.5〜100倍、さらに好ましくは2.0〜25倍である。なお、前記値は平均値である。このように炭素繊維相互の結合点である粒状部の粒径が微細炭素繊維外径の1.3倍以上と十分に大きなものであると、当該粒状部より延出する炭素繊維に対して高い結合力がもたらされ、樹脂等のマトリックス中に当該炭素繊維構造体を配した場合に、ある程度のせん弾力を加えた場合であっても、3次元ネットワーク構造を保持したままマトリックス中に分散させることができる。一方、粒状部の大きさが微細炭素繊維の外径の250倍を超える極端に大きなものとなると、炭素繊維構造体の繊維状の特性が損なわれる虞れがあり、例えば、各種マトリックス中への添加剤、配合剤として適当なものとならない虞れがあるために望ましくない。なお、本明細書でいう「粒状部の粒径」とは、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして測定した値である。
【0032】
その粒状部の具体的な粒径は、炭素繊維構造体の大きさ、炭素繊維構造体中の微細炭素繊維の外径にも左右されるが、例えば、平均値で20〜5000nm、より好ましくは25〜2000nm、さらに好ましくは30〜500nm程度である。
【0033】
さらにこの粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、比較的球状に近い形状を有しており、その円形度は、平均値で0.2〜<1、好ましくは0.5〜0.99、より好ましくは0.7〜0.98程度である。
【0034】
加えて、この粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであって、例えば、微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等と比較して、当該粒状部における、炭素繊維同士の結合は非常に強固なものであり、炭素繊維構造体における炭素繊維の破断が生じるような条件下においても、この粒状部(結合部)は安定に保持される。具体的には例えば、後述する実施例において示すように、当該炭素繊維構造体を液状媒体中に分散させ、これに一定出力で所定周波数の超音波をかけて、炭素繊維の平均長がほぼ半減する程度の負荷条件としても、該粒状部の平均粒径の変化率は、10%未満、より好ましくは5%未満であって、粒状部、すなわち、繊維同士の結合部は、安定に保持されているものである。
【0035】
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μm、より好ましくは60〜90μm程度程度であることが望ましい。ここで面積基準の円相当平均径とは、炭素繊維構造体の外形を電子顕微鏡などを用いて撮影し、この撮影画像において、各炭素繊維構造体の輪郭を、適当な画像解析ソフトウェア、例えばWinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化したものである。
【0036】
複合化される樹脂等のマトリックス材の種類によっても左右されるため、全ての場合において適用されるわけではないが、この円相当平均径は、樹脂等のマトリックス中に配合された場合における当該炭素繊維構造体の最長の長さを決める要因となるものであり、概して、円相当平均径が50μm未満であると、導電性が十分に発揮されないおそれがあり、一方、100μmを越えるものであると、例えば、マトリックス中へ混練等によって配合する際に大きな粘度上昇が起こり混合分散が困難あるいは成形性が劣化する虞れがあるためである。
【0037】
また本発明に係る炭素繊維構造体は、上記したように、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているが、1つの炭素繊維構造体において、炭素繊維を結合する粒状部が複数個存在して3次元ネットワークを形成している場合、隣接する粒状部間の平均距離は、例えば、0.5μm〜300μm、より好ましくは0.5〜100μm、さらに好ましくは1〜50μm程度となる。なお、この隣接する粒状部間の距離は、1つの粒状体の中心部からこれに隣接する粒状部の中心部までの距離を測定したものである。粒状体間の平均距離が、0.5μm未満であると、炭素繊維が3次元ネットワーク状に十分に発展した形態とならないため、例えば、マトリックス中に分散配合された場合に、良好な導電パスを形成し得ないものとなる虞れがあり、一方、平均距離が300μmを越えるものであると、マトリックス中に分散配合させる際に、粘性を高くさせる要因となり、炭素繊維構造体のマトリックスに対する分散性が低下する虞れがあるためである。
【0038】
さらに、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、上記したように、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しており、このため当該構造体は炭素繊維が疎に存在した嵩高な構造を有するが、具体的には、例えば、その嵩密度が0.0001〜0.05g/cm、より好ましくは0.001〜0.02g/cmであることが望ましい。嵩密度が0.05g/cmを超えるものであると、少量添加によって、潤滑油組成物および燃料油組成物の物性を改善することが難しくなるためである。
【0039】
また、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維がその成長過程において形成された粒状部において互いに結合されていることから、上記したように構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであるが、例えば、一定圧縮密度0.8g/cmにおいて測定した粉体抵抗値が、0.02Ω・cm以下、より望ましくは、0.001〜0.010Ω・cmであることが好ましい。
【0040】
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、高い強度および導電性を有する上から、炭素繊維を構成するグラフェンシート中における欠陥が少ないことが望ましく、具体的には、例えば、ラマン分光分析法で測定されるI/I比が、0.2以下、より好ましくは0.1以下であることが望ましい。ここで、ラマン分光分析では、大きな単結晶の黒鉛では1580cm−1付近のピーク(Gバンド)しか現れない。結晶が有限の微小サイズであることや格子欠陥により、1360cm−1付近にピーク(Dバンド)が出現する。このため、DバンドとGバンドの強度比(R=I1360/I1580=I/I)が上記したように所定値以下であると、グラフェンシート中における欠陥量が少ないことが認められるためである。
【0041】
本発明に係る前記炭素繊維構造体はまた、空気中での燃焼開始温度が750℃以上、より好ましくは800〜900℃であることが望ましい。前記したように炭素繊維構造体が欠陥が少なく、かつ炭素繊維が所期の外径を有するものであることから、このような高い熱的安定性を有するものとなる。
【0042】
上記したような所期の形状を有する炭素繊維構造体は、特に限定されるものではないが、例えば、次のようにして調製することができる。
【0043】
基本的には、遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解して繊維構造体(以下、中間体という)を得、これをさらに高温熱処理する。
【0044】
原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。特に限定されるわけではないが、本発明に係る繊維構造体を得る上においては、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが好ましい。なお、本明細書において述べる「少なくとも2つ以上の炭素化合物」とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成反応過程において、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化(hydrodealkylation)などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様も含むものである。
【0045】
なお、熱分解反応系において炭素源としてこのように2種以上の炭素化合物を存在させた場合、それぞれの炭素化合物の分解温度は、炭素化合物の種類のみでなく、原料ガス中の各炭素化合物のガス分圧ないしモル比によっても変動するものであるため、原料ガス中における2種以上の炭素化合物の組成比を調整することにより、炭素化合物として比較的多くの組み合わせを用いることができる。
【0046】
例えば、メタン、エタン、プロパン類、ブタン類、ペンタン類、へキサン類、ヘプタン類、シクロプロパン、シクロヘキサンなどといったアルカンないしシクロアルカン、特に炭素数1〜7程度のアルカン;エチレン、プロピレン、ブチレン類、ペンテン類、ヘプテン類、シクロペンテンなどといったアルケンないしシクロオレフィン、特に炭素数1〜7程度のアルケン;アセチレン、プロピン等のアルキン、特に炭素数1〜7程度のアルキン;ベンゼン、トルエン、スチレン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、インデン、フェナントレン等の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、特に炭素数6〜18程度の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、メタノール、エタノール等のアルコール類、特に炭素数1〜7程度のアルコール類;その他、一酸化炭素、ケトン類、エーテル類等の中から選択した2種以上の炭素化合物を、所期の熱分解反応温度域において異なる分解温度を発揮できるようにガス分圧を調整し、組み合わせて用いること、および/または、所定の温度領域における滞留時間を調整することで可能であり、その混合比を最適化することで効率よく本発明に係る炭素繊維構造体を製造することができる。
【0047】
このような2種以上の炭素化合物の組み合わせのうち、例えば、メタンとベンゼンとの組み合わせにおいては、メタン/ベンゼンのモル比が、>1〜600、より好ましくは1.1〜200、さらに好ましくは3〜100とすることが望ましい。なお、この値は、反応炉の入り口におけるガス組成比であり、例えば、炭素源の1つとしてトルエンを使用する場合には、反応炉内でトルエンが100%分解して、メタンおよびベンゼンが1:1で生じることを考慮して、不足分のメタンを別途供給するようにすれば良い。例えば、メタン/ベンゼンのモル比を3とする場合には、トルエン1モルに対し、メタン2モルを添加すれば良い。なお、このようなトルエンに対して添加するメタンとしては、必ずしも新鮮なメタンを別途用意する方法のみならず、当該反応炉より排出される排ガス中に含まれる未反応のメタンを循環使用することにより用いることも可能である。
【0048】
このような範囲内の組成比とすることで、炭素繊維部および粒状部のいずれもが十分を発達した構造を有する炭素繊維構造体を得ることが可能となる。
【0049】
なお、雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスや水素を用いることができる。
【0050】
また、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
【0051】
中間体の合成は、通常行われている炭化水素等のCVD法を用い、原料となる炭化水素および触媒の混合液を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1300℃の温度で熱分解する。これにより、外径が15〜100nmの繊維相互が、前記触媒の粒子を核として成長した粒状体によって結合した疎な三次元構造を有する炭素繊維構造体(中間体)が複数集まった数cmから数十センチの大きさの集合体を合成する。
【0052】
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしながら、本発明に係る炭素繊維構造体を得る上においては、このような熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受け、また、前記熱分解反応と成長速度とのバランスは、上記したような炭素源の種類のみならず、反応温度およびガス温度等によっても影響受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長方向を一定方向とすることなく、制御下に多方向として、本発明に係るような三次元構造を形成することができるものである。なお、生成する中間体において、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成する上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度、およびガス温度等を最適化することが望ましい。
【0053】
なお、本発明に係る炭素繊維構造体を効率良く製造する方法としては、上記したような分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物を最適な混合比にて用いるアプローチ以外に、反応炉に供給される原料ガスに、その供給口近傍において乱流を生じさせるアプローチを挙げることができる。ここでいう乱流とは、激しく乱れた流れであり、渦巻いて流れるような流れをいう。
【0054】
反応炉においては、原料ガスが、その供給口より反応炉内へ導入された直後において、原料混合ガス中の触媒としての遷移金属化合物の分解により金属触媒微粒子が形成されるが、これは、次のような段階を経てもたらされる。すなわち、まず、遷移金属化合物が分解され金属原子となり、次いで、複数個、例えば、約100原子程度の金属原子の衝突によりクラスター生成が起こる。この生成したクラスターの段階では、微細炭素繊維の触媒として作用せず、生成したクラスター同士が衝突により更に集合し、約3nm〜10nm程度の金属の結晶性粒子に成長して、微細炭素繊維の製造用の金属触媒微粒子として利用されることとなる。
【0055】
この触媒形成過程において、上記したように激しい乱流による渦流が存在すると、ブラウン運動のみの金属原子又はクラスター同士の衝突と比してより激しい衝突が可能となり、単位時間あたりの衝突回数の増加によって金属触媒微粒子が短時間に高収率で得られ、又、渦流によって濃度、温度等が均一化されることにより粒子のサイズの揃った金属触媒微粒子を得ることができる。さらに、金属触媒微粒子が形成される過程で、渦流による激しい衝突により金属の結晶性粒子が多数集合した金属触媒微粒子の集合体を形成する。このようにして金属触媒微粒子が速やかに生成されるため、炭素化合物の分解が促進されて、十分な炭素物質が供給されることになり、前記集合体の各々の金属触媒微粒子を核として放射状に微細炭素繊維が成長し、一方で、前記したように一部の炭素化合物の熱分解速度が炭素物質の成長速度よりも速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向にも成長し、前記集合体の周りに粒状部を形成し、所期の三次元構造を有する炭素繊維構造体を効率よく形成する。なお、前記金属触媒微粒子の集合体中には、他の触媒微粒子よりも活性の低いないしは反応途中で失活してしまった触媒微粒子も一部に含まれていることも考えられ、集合体として凝集するより以前にこのような触媒微粒子の表面に成長していた、あるいは集合体となった後にこのような触媒微粒子を核として成長した非繊維状ないしはごく短い繊維状の炭素物質層が、集合体の周縁位置に存在することで、本発明に係る炭素繊維構造体の粒状部を形成しているものとも思われる。
【0056】
反応炉の原料ガス供給口近傍において、原料ガスの流れに乱流を生じさせる具体的手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、原料ガス供給口より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得る位置に、何らかの衝突部を設ける等の手段を採ることができる。前記衝突部の形状としては、何ら限定されるものではなく、衝突部を起点として発生した渦流によって十分な乱流が反応炉内に形成されるものであれば良いが、例えば、各種形状の邪魔板、パドル、テーパ管、傘状体等を単独であるいは複数組み合わせて1ないし複数個配置するといった形態を採択することができる。
【0057】
このようにして、触媒および炭化水素の混合ガスを800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱生成して得られた中間体は、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合わせたような(生焼け状態の、不完全な)構造を有し、ラマン分光分析をすると、Dバンドが非常に大きく、欠陥が多い。また、生成した中間体は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
【0058】
従って、このような中間体からこれら残留物を除去し、欠陥が少ない所期の炭素繊維構造体を得るために、適切な方法で2400〜3000℃の高温熱処理する。
【0059】
すなわち、例えば、この中間体を800〜1200℃で加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を除去した後、2400〜3000℃の高温でアニール処理することによって所期の構造体を調製し、同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去する。なお、この際、物質構造を保護するために不活性ガス雰囲気中に還元ガスや微量の一酸化炭素ガスを添加してもよい。
【0060】
前記中間体を2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理すると、炭素原子からなるパッチ状のシート片は、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成する。
【0061】
また、このような高温熱処理前もしくは処理後において、炭素繊維構造体の円相当平均径を数cmに解砕処理する工程と、解砕処理された炭素繊維構造体の円相当平均径を50〜100μmに粉砕処理する工程とを経ることで、所望の円相当平均径を有する炭素繊維構造体を得る。なお、解砕処理を経ることなく、粉砕処理を行っても良い。また、本発明に係る炭素繊維構造体を複数有する集合体を、使いやすい形、大きさ、嵩密度に造粒する処理を行っても良い。さらに好ましくは、反応時に形成された上記構造を有効に活用するために、嵩密度が低い状態(極力繊維が伸びきった状態でかつ空隙率が大きい状態)で、アニール処理するとさらに樹脂への導電性付与に効果的である。
【0062】
本発明において用いられる微細炭素繊維構造体は、
A)嵩密度が低い、
B)マトリックスに対する分散性が良い、
C)導電性が高い、
D)熱伝導性が高い、
E)摺動性が良い、
F)化学的安定性が良い、
G)熱的安定性が高い、
などの特性がある。
【0063】
潤滑油組成物
本発明に係る潤滑油組成物は、上記したような微細炭素繊維構造体を潤滑油基油中に配合してなるものであるが、本発明において用いられる潤滑油基油としては、特に限定されるものではなく、潤滑油の基油として通常使用されているものであれば、鉱油系、合成系を問わず本発明の潤滑油基油に使用できる。
【0064】
使用可能な鉱油系潤滑油基油としては、例えば、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系、又はこれらの混合系炭化水素油等の油が挙げられる。
【0065】
また、使用可能な合成系潤滑油基油としては、例えば、ポリα−オレフィン、ジエステル、ポリオールエステル、トリメリット酸エステル等のポリエステル、リン酸エステル、アルキルベンゼン及びアルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、シリコーン油、フッ素油、アルキルフェニルエーテル油、アルキルビフェニル油、ポリフェニルエーテル油等が挙げられる。
【0066】
前記ポリα−オレフィンとしては、炭素数2〜14、好ましくは4〜12の範囲の分岐を有する、或いは有しないオレフィン炭化水素から選択された任意の1種の単独重合体又は2種以上の共重合により得られるものであり、平均分子量100〜約2000、好ましくは200〜約1000の生成物から選択されるが、特に水素化によって不飽和結合を除去したものが好ましい。好ましいオレフィンオリゴマーとしては、例えばポリブテン、α−オレフィンオリゴマー、エチレン・α−オレフィンオリゴマー、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等である。ポリブテンとしては、例えばイソブテンを主体とし、ブテン−1、及びブテン−2の単量体混合物を共重合させて得られるものが好ましい。また、α−オレフィンオリゴマーとしては、炭化水素の熱分解又は低級オレフィンの3量化〜6量化により得られる炭素数6〜12のα−オレフィン混合物を共重合したものを使用することができる。また、デセンのごとき単独モノマーから得られるオリゴマーも好適である。
【0067】
オレフィンオリゴマーは、塩化アルミニウム、フッ化硼素等のフリーデルクラフト型触媒、チーグラー触媒及び酸化クロム等の酸化物触媒等を使用して製造することができる。又オレフィンオリゴマーの水素化は反応生成物から触媒を除去した後、加温、加圧下において、例えばニッケル−モリブデン/アルミナのような水素化触媒と接触させることにより行うことができる。
【0068】
前記ジエステルエステルとしては、炭素数4〜14の脂肪族二塩基酸あるいは芳香族二塩基酸と炭素数4〜14の脂肪族アルコールとを反応させて得られるものがある。このようなジエステルとしては、例えばジオクチルアジペート、ジ−(1−エチルプロピル)アジペート、ジ−(3−メチルブチル)アジペート、ジ−(1,3−ジメチルブチル)アジペート、ジ−(2−エチルブチル)アジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アジペート、ジ−(イソオクチル)アジペート、ジ−(イソノニル)アジペート、ジ−(3,5,5トリメチルヘキシル)アジペート、ジ−(イソデシル)アジペート、ジ−(ウンデシル)アジペート、ジ−(トリデシル)アジペート、ジ−(イソテトラデシル)アジペート、ジ−(2、2、4−トリメチルペンチル)アジペート、ジ−〔混合(2−エチルヘキシル、イソノニル)〕アジペート、ジ−(1−エチルプロピル)アゼレート、ジ−(2−エチルブチル)アゼレート、ジ−(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジ−(イソオクチル)アゼレート、ジ−(イソノニル)アゼレート、ジ−(3,5,5トリメチルヘキシル)アゼレート、ジ−(イソデシル)アゼレート、ジ−(トリデシル)アゼレート、ジ−〔混合(2−エチルヘキシル、イソノニル)〕アゼレート、ジ−〔混合(2−エチルヘキシル、デシル)〕アゼレート、ジ−〔混合(2−エチルヘキシル、イソデシル)〕アゼレート、ジ−〔混合(2−エチルヘキシル、2−プロピルヘプチル)〕アゼレート、ジ−〔混合(2−エチルヘキシル、デシル)〕アゼレート、ジ−(n−ブチル)セバケート、ジ−(イソブチル)セバケート、ジ−(1−エチルプロピル)セバケート、ジ−(3−メチルブチル)セバケート、ジ−(1,3−ジメチルブチル)セバケート、ジ−(2−エチルブチル)セバケート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−〔2−(2’−エチルブトキシ)エチル〕セバケート、ジ−(2,2,4−トリメチルペンチル)セバケート、ジ−(イソノニル)セバケート、ジ−(3,5,5トリメチルヘキシル)セバケート、ジ−(イソデシル)セバケート、ジ−(イソウンデシル)セバケート、ジ−(トリデシル)セバケート、ジ−(イソテトラデシル)セバケート、ジ−〔混合(2−エチルヘキシル、イソノニル)〕セバケート、ジ−(2−エチルヘキシル)グルタレート、ジ−(イソウンデシル)グルタレート及びジ−(イソテトラデシル)グルタレート、ジ−n−ブチルフタレート、ジ−n−ヘキシルフタレート、ジ−n−ヘプチルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート、オクチルデシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート等が挙げられる。
【0069】
前記ポリオールエステルとしては、炭素数5〜9のネオペンチルポリオール、例えばネオペンチルグリコール(NPG)、トリメチロールプロパン(TMP)又はペンタエリスリトール(PE)等と炭素数4〜18の有機酸との合成によって作られる。このようなポリオールエステルの具体例としては、NPG・ジ−(ヘプタノエート)、NPG・ジ−(2ーエチルブチレート)、NPG・ジ−(シクロヘキサノエート)、NPG・ジ−(ヘプタノエート)、NPG・ジ−(イソヘプタノエート)、NPG・ジ−(オクタノエート)、NPG・ジ−(2−エチルヘキサノエート)、NPG・ジ−(イソオクタノエート)、NPG・ジ−(イソノナノエート)、NPG・ジ−(イソデカノエート)、NPG・ジ−{混合(ヘキサノエート,ヘプタノエート)}、NPG・ジ−{混合(ヘキサノエート,オクタノエート)}、NPG・ジ−{混合(ヘキサノエート,ノナノエート)}、NPG・ジ−{混合(ヘプタノエート,オクタノエート)}、NPG・ジ−{混合(ヘプタノエート,ノナノエート)}、NPG・ジ−{混合(ヘプタノエート,イソオクタノエート)}、NPG・ジ−{混合(ヘプタノエート,イソノナノエート)}、NPG・ジ−{混合(イソオクタノエート,イソノナノエート)}、NPG・ジ−{混合(ブタノエート,トリデカノエート)}、NPG・ジ−{混合(ブタノエート,テトラデカノエート)}、NPG・ジ−{混合(ブタノエート,ヘキサデカノエート)}、NPG・ジ−{混合(ブタノエート,オクタデカノエート)}、NPG・ジ−{混合(ヘキサノエート,イソオクタノエート,イソノナノエート)}、NPG・ジ−{混合(ヘキサノエート,イソオクタノエート,イソデカノエート)}、NPG・ジ−{混合(ヘプタノエート,イソオクタノエート,イソノナノエート)}、NPG・ジ−{混合(ヘプタノエート,イソオクタノエート,イソデカノエート)}、NPG・ジ−{混合(オクタノエート,イソノナノエート,イソデカノエート)}、TMP・トリ−(ペンタノエート)、TMP・トリ−(ヘキサノエート)、TMP・トリ−(ヘプタノエート)、TMP・トリ−(オクタノエート)、TMP・トリ−(ノナノエート)、TMP・トリ−(イソペンタノエート)、TMP・トリ−(2−エチルブチレート)、TMP・トリ−(イソペンタノエート)、TMP・トリ−(イソオクタノエート)、TMP・トリ−(2−エチルヘキサノエート)、TMP・トリ−(イソノナノエート)、TMP・トリ−(イソデカノエート)、TMP・トリ−〔混合(ブチレート、オクタデカノエート)〕、TMP・トリ−〔混合(ヘキサノエート、ヘキサデカノエート)〕、TMP・トリ−〔混合(ヘプタノエート、トリデカノエート)〕、TMP・トリ−〔混合(オクタノエート、デカノエート)〕、TMP・トリ−〔混合(オクタノエート、ノナノエート)〕、TMP・トリ−〔混合(ブチレート、ヘプタノエート、オクタデカノエート)〕、TMP・トリ−〔混合(ペンタノエート、ヘプタノエート、トリデカノエート)〕、TMP・トリ−〔混合(ヘキサノエート、ヘプタノエート、オクタノエート)〕、TMP・トリノナノエート、TMP・トリ−〔混合(ヘプタノエート、ノナノエート)〕、TMP・トリ−〔混合(ヘプタノエート、オクタノエート、ノナノエート)〕、又、PE・テトラ(ペンタノエート)、PE・テトラ(ヘキサノエート)、PE・テトラ(イソペンタノエート)、PE・テトラ(2−エチルブチレート)、PE・テトラ(ヘプタノエート)、PE・テトラ(イソヘプタノエート)、PE・テトラ(イソオクタノエート)、PE・テトラ(2−エチルヘキサノエート)、PE・テトラ(ノナノエート)、PE・テトラ(イソノナノエート)及びPEと炭素数4〜9の直鎖状又は分岐状カルボン酸の混合物とのエステル等である。
【0070】
また、NPG、TMP及びPE以外のネオペンチルポリオール、例えば2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパンジオール、トリメチロールエタン及びトリメチロールヘキサンと有機酸単独、又は混合したポリオールエステル等も挙げられる。
【0071】
リン酸エステルとしては、トリクレジルフォスフェート、クレジルジフェニルフォスフェート、プロピルフェニルジフェニルフォスフェート、ジプロピルフェニルフェニルフォスフェート、トリプロピルフォスフェート、ジブチルフェニルフェニルフォスフェート、ブチルフェニルジフェニルフォスフェート、トリブチルフェニルフォスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)フォスフェート、トリアルキルフェニルフォスフェート、アルキルフェニルフェニルフォスフェート等が挙げられる。
【0072】
アルキルベンゼン又はアルキルナフタレンは、分岐又は直鎖のα−オレフィンとベンゼン、トルエン又はナフタレン等の芳香族炭化水素をフッ化水素、硫酸、塩化アルミニウム等の触媒を用いてアルキル化して得られ、主としてジアルキル化芳香族炭化水素を含む油である。アルキル基としては、主としてC12のもので直鎖又は分岐のいずれのものもこれに属する。
【0073】
ポリオキシアルキレングリコールとしては、アルキレン基の炭素数が2〜5、好ましくは2〜3の直鎖状又は分岐状アルキレンオキシドの開環重合体である。アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、或いはそれらの混合物、好ましくはプロピレンオキシドであり、好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールを挙げることができ、分子量範囲100〜2000のもの、好ましくは200〜1000のものである。分子の両端がアルキル基のもの、片端がアルキル基で片端がヒドロキシル基のもの、両端ともヒドロキシル基のものが含まれる。このアルキル基は通常C1〜C18の範囲のものである。
【0074】
本発明において潤滑油基油は、2種以上の鉱油系基油又は合成油系基油の混合物であって差し支えなく、鉱油系基油と合成油系基油の混合物であっても差し支えない。そして、上記混合物における2種以上の基油の混合比は、任意に選ぶことができる。本発明で使用する潤滑油基油には、粘度に関して特別な限定条件はないが、例えば、40℃における動粘度が1〜1000mm/sの範囲程度のものが望ましい。
【0075】
本発明の潤滑油組成物は、前記のような潤滑油基油と共に、前述の炭素繊維構造体を有効量含む。
【0076】
その量は、潤滑油組成物の用途や潤滑油基油の種類等によって異なるが、凡そ0.1〜5%である。0.1%未満では、潤滑油組成物における摩擦係数の低下等の改質が十分なものとならない虞れがある。一方、5%より多くなると、潤滑油組成物の粘度特性を必要以上に上げてしまう虞れがある。
【0077】
本発明に係る潤滑油組成物中には、炭素繊維構造体以外に、その目的を阻害しない範囲で公知の種々の添加剤を加えることができる。添加できる添加剤としては、他の摩擦調整剤、酸化防止剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、錆止め剤、腐食防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、着色剤等が例示できる。これらは単独で、あるいは数種類組合わせて用いることができる。
【0078】
他の摩擦調整剤としては、例えば、極圧剤、摩耗防止剤、油性剤が挙げられる。
【0079】
前記極圧剤及び磨耗防止剤としては、例えば、硫黄系化合物やリン系化合物等が挙げられる。硫黄系化合物としては、例えば、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類が、またリン系化合物としては、例えば、リン酸モノエステル類、リン酸ジエステル類、リン酸トリエステル類、亜リン酸モノエステル類、亜リン酸ジエステル類、亜リン酸トリエステル類、及びこれらのエステル類とアミン類、アルカノールアミン類との塩等が挙げられる。また上記の硫黄系、ジチオリン酸亜鉛系、リン系化合物等は単独で使用してもよいが、二種以上組み合わせて添加してもよい。
【0080】
油性剤としては、脂肪族モノカルボン酸、例えばカプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられ、また脂肪族ジカルボン酸としてはアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、テトラデカン二酸、その他C15〜C30の脂肪族ジカルボン酸、及びこれら脂肪族(ジ)カルボン酸のエステル、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、脂肪族アミン塩、脂肪酸アミド等が挙げられる。これらは単独で、あるいは数種類組合わせて用いることができる。
【0081】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物やアミン系化合物など、潤滑油に一般的に使用されているものであればいずれのものでも用いることができ、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールなどのアルキルフェノール類、メチレン−4,4−ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)などのビスフェノール類、フェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン類、ジアルキルジフェニルアミン類、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛などのジアルキルジチオリン酸亜鉛類、フェノチアジン類等が挙げられる。
【0082】
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリチレート、アルカリ土類金属ホスフォネート等が挙げられる。
【0083】
無灰分散剤としては、例えば、アルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン、アルキルポリアミン、又はそのこれらのホウ素化合物や硫黄化合物による変性品、アルケニルコハク酸エステル等が挙げられる。
【0084】
前記錆止め剤としては、例えば、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート等が挙げられる。
【0085】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系の化合物等が挙げられる。
【0086】
粘度指数向上剤としては、非分散型粘度指数向上剤や分散型粘度指数向上剤が使用でき、具体的には、ポリメタクリレート類や、エチレン−プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリスチレン、スチレン−ジエン共重合体等のオレフィンコポリマー類等が挙げられる。
【0087】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマーなどが使用できる。
【0088】
消泡剤としては、例えば、ジメチルシリコーンやフルオロシリコーンなどのシリコーン類が使用可能である。
【0089】
これらの添加剤の添加量は任意であるが、通常、潤滑油組成物全量基準で、消泡剤の含有量は0.0005〜1質量%、粘度指数向上剤の含有量は1〜30質量%、腐食防止剤の含有量は0.005〜1質量%、その他の添加剤の含有量は、それぞれ0.1〜15質量%程度である。
【0090】
本発明の潤滑油組成物は、例えば、二輪車、四輪車等の自動車用、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン用の潤滑油、自動車、建設機械、農業機械等のギヤー油、自動変速機用あるいは手動変速機用の潤滑油、その他、繊維用潤滑油、圧延用潤滑油、ルームエアコン、カーエアコン、電気冷蔵庫などの冷凍機用潤滑油などの用途に広く用いることができる。
【0091】
燃料油組成物
本発明に係る燃料油組成物は、上記したような微細炭素繊維構造体を燃料油中に配合してなるものであるが、本発明において用いられる燃料油とは、主として燃焼を目的とした液状炭化水素燃料油を意味しており、通常、沸点が30〜700℃程度、好ましくは40〜600℃程度のものである。液状炭化水素燃料油としては種々の種類のものが使用でき、特に制限されるものではない。具体的には例えば、石油、廃棄物、オイル・シェール、オイル・サンド、石炭、バイオマスなどから誘導される任意の液状炭化水素燃料油が使用可能である。このうち特に、原油または石油留分を主成分とするものを用いることが好ましい。
【0092】
本発明の液状炭化水素燃料油として用いることができる原油としては、パラフィン基原油、ナフテン基原油、混合基原油、特殊原油、またはこれらの混合物など、任意の原油が使用可能である。また、本発明の液状炭化水素燃料油として用いることができる石油留分とは、上記の原油またはこれらの混合物を蒸留、分解、改質やその他の精製処理などを適宜行うことによって得られる留分または残渣を意味しており、より具体的には例えば、自動車エンジン用ガソリン、農業用内燃機関用ガソリン、林業用内燃ガソリンなどのガソリン留分;燃料用ナフサなどに代表されるナフサ留分(軽質ナフサ、重質ナフサ、ホールレンジナフサなど);ジェット燃料、航空ガソリンなどに代表されるジェット燃料留分;冷暖房用灯油、厨房用灯油、石油発動機用灯油、工業燃料用灯油などに代表される灯油留分;自動車ディーゼルエンジン用軽油、加熱燃料用軽油に代表される軽油留分;ボイラー用重油、ビル暖房用重油、船舶ディーゼルエンジン用重油、窯業用重油などに代表される重油留分(JIS K 2205「重油」で規定される1種(A重油)、2種(B重油)や3種(C重油などを含む);およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0093】
廃棄物から誘導される液状炭化水素燃料油としては、具体的には都市廃棄物、産業廃棄物、廃油などの分解、精製その他の処理によって誘導されるものが挙げられる。本発明における燃料油としては、上記したような任意の液状炭化水素燃料油およびそれらの混合物が使用可能である。
【0094】
本発明の燃料油組成物は、前記のような燃料油と共に、前述の炭素繊維構造体を有効量含む。
【0095】
その量は、燃料油組成物の用途や燃料油の種類等によって異なるが、凡そ0.01〜1%である。0.01%未満では、燃料油組成物における燃焼速度および燃焼効率の向上、燃焼のクリーン化、静電気に対する安定性、金属および金属イオン封鎖作用等の改質が十分なものとならない虞れがある。一方、1%より多くなると、燃料油組成物の粘度特性を必要以上に上げてしまう虞れがある。
【0096】
本発明に係る燃料油組成物中には、炭素繊維構造体以外に、その目的を阻害しない範囲で公知の種々の添加剤を加えることができる。添加できる添加剤としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール、イソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル、メチルターシャリーアミルエーテルなどのエーテル、芳香族アミン類などに代表されるオクタン価向上剤;硝酸エステルや有機過酸化物などに代表されるセタン価向上剤;有機リン酸エステル、ハロゲン化有機リン酸エステルなどに代表される表面着火防止剤;サリチリデン誘導体などに代表される金属不活性化剤;金属スルフォネート、金属フェネート、金属サリシレートなどに代表される金属清浄剤;アルケニルコハク酸イミド、アルキルポリアミン、ポリエーテルポリアミンなどに代表される無灰清浄分散剤;グリコール、グリセリン、グリコールエーテルなどに代表される氷結防止剤;グリコールエーテル、ホウ素化合物などに代表される微生物殺菌剤;金属ナフテネート、金属スルフォネート、硫酸アルコールエステルなどに代表される助燃剤;エチレン−酢酸ビニル共重合体、アルケニルコハク酸アミドなどに代表される低温流動性向上剤;脂肪族アミン、アルケニルコハク酸エステルなどの腐食防止剤;アニオン系、カチオン系、両性系界面活性剤などの帯電防止剤;アゾ染料などの着色剤などを挙げることができる。これらは単独で、あるいは数種類組合わせて用いることができる。
【0097】
これら添加剤を添加する際の添加量も任意であるが、通常添加剤の個々の添加量は組成物全量基準で0.5質量%以下、望ましくは0.2質量%以下である。
【0098】
本発明の燃料油組成物は、例えば、ベースとなる燃料油の上記したような各種用途に応じて広く用いることができる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0100】
なお、以下において、各物性値は次のようにして測定した。
【0101】
<面積基準の円相当平均径>
まず、粉砕品の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。対象とされた各炭素繊維構造体の輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化した。
【0102】
<嵩密度の測定>
内径70mmで分散板付透明円筒に1g粉体を充填し、圧力0.1Mpa、容量1.3リットルの空気を分散板下部から送り粉体を吹出し、自然沈降させる。5回吹出した時点で沈降後の粉体層の高さを測定する。このとき測定箇所は6箇所とることとし、6箇所の平均を求めた後、嵩密度を算出した。
【0103】
<ラマン分光分析>
堀場ジョバンイボン製LabRam800を用い、アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定した。
【0104】
<TG燃焼温度>
マックサイエンス製TG−DTAを用い、空気を0.1リットル/分の流速で流通させながら、10℃/分の速度で昇温し、燃焼挙動を測定した。燃焼時にTGは減量を示し、DTAは発熱ピークを示すので、発熱ピークのトップ位置を燃焼開始温度と定義した。
【0105】
<X線回折>
粉末X線回折装置(JDX3532、日本電子製)を用いて、アニール処理後の炭素繊維構造体を調べた。Cu管球で40kV、30mAで発生させたKα線を用いることとし、面間隔の測定は学振法(最新の炭素材料実験技術(分析・解析編)、炭素材料学会編)に従い、シリコン粉末を内部標準として用いた。
【0106】
<粉体抵抗および復元性>
CNT粉体1gを秤取り、樹脂製ダイス(内寸40L、10W、80Hmm)に充填圧縮し、変位および荷重を読み取る。4端子法で定電流を流して、そのときの電圧を測定し、0.9g/cmの密度まで測定したら、圧力を解除し復元後の密度を測定した。粉体抵抗については、0.5、0.8および0.9g/cmに圧縮したときの抵抗を測定することとする。
【0107】
<粒状部の平均粒径、円形度、微細炭素繊維との比>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
【0108】
対象とされた各炭素繊維構造体において、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして、その輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、これを平均化して粒状部の平均粒径とした。また、円形度(R)は、前記画像解析ソフトウェアを用いて測定した輪郭内の面積(A)と、各粒状部の実測の輪郭長さ(L)より、次式により各粒状部の円形度を求めこれを平均化した。
【0109】
R=A*4π/L2
さらに、対象とされた各炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径を求め、これと前記各炭素繊維構造体の粒状部の円相当径から、各炭素繊維構造体における粒状部の大きさを微細炭素繊維との比として求め、これを平均化した。
【0110】
<粒状部の間の平均距離>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
【0111】
対象とされた各炭素繊維構造体において、粒状部が微細炭素繊維によって結ばれている箇所を全て探し出し、このように微細炭素繊維によって結ばれる隣接する粒状部間の距離(一端の粒状体の中心部から他端の粒状体の中心部までを含めた微細炭素繊維の長さ)をそれぞれ測定し、これを平均化した。
【0112】
<炭素繊維構造体の破壊試験>
蓋付バイアル瓶中に入れられたトルエン100mlに、30μg/mlの割合で炭素繊維構造体を添加し、炭素繊維構造体の分散液試料を調製した。
【0113】
このようにして得られた炭素繊維構造体の分散液試料に対し、発信周波数38kHz、出力150wの超音波洗浄器((株)エスエヌディ製、商品名:USK-3)を用いて、超音波を照射し、分散液試料中の炭素繊維構造体の変化を経時的に観察した。
【0114】
まず超音波を照射し、30分経過後において、瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維(少なくとも一端部が粒状部に結合している微細炭素繊維)をランダムに200本を選出し、選出された各微細炭素繊維の長さを測定し、D50平均値を求め、これを初期平均繊維長とした。
【0115】
一方、得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における炭素繊維相互の結合点である粒状部をランダムに200個を選出し、選出された各粒状部をそれぞれ1つの粒子とみなしてその輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、このD50平均値を求めた。そして得られたD50平均値を粒状部の初期平均径とした。
【0116】
その後、一定時間毎に、前記と同様に瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影し、この得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維のD50平均長さおよび粒状部のD50平均径を前記と同様にして求めた。
【0117】
そして、算出される微細炭素繊維のD50平均長さが、初期平均繊維長の約半分となった時点(本実施例においては超音波を照射し、500分経過後)における、粒状部のD50平均径を、初期平均径と対比しその変動割合(%)を調べた。
【0118】
合成例1
CVD法によって、トルエンを原料として炭素繊維構造体を合成した。
【0119】
触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに380℃に加熱し、生成炉に供給し、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
【0120】
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の概略構成を図8に示す。図8に示すように、生成炉1は、その上端部に、上記したようなトルエン、触媒および水素ガスからなる原料混合ガスを生成炉1内へ導入する導入ノズル2を有しているが、さらにこの導入ノズル2の外側方には、円筒状の衝突部3が設けられている。この衝突部3は、導入ノズル2の下端に位置する原料ガス供給口4より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得るものとされている。なお、この実施例において用いられた生成炉1では、導入ノズル2の内径a、生成炉1の内径b、筒状の衝突部3の内径c、生成炉1の上端から原料混合ガス導入口4までの距離d、原料混合ガス導入口4から衝突部3の下端までの距離e、原料混合ガス導入口4から生成炉1の下端までの距離をfとすると、各々の寸法比は、おおよそa:b:c:d:e:f=1.0:3.6:1.8:3.2:2.0:21.0に形成されていた。また、反応炉への原料ガス導入速度は、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
【0121】
上記のようにして合成された中間体を窒素中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.98であった。また、この第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図1、2に示す。
【0122】
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明において用いられる炭素繊維構造体を得た。
【0123】
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図3、4に示す。
【0124】
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察したSEM写真を図5に、またその粒度分布を表1に示した。
【0125】
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べた。結果を図6および7に示す。
【0126】
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、72.8μm、嵩密度は0.0032g/cm、ラマンI/I比値は0.090、TG燃焼温度は786℃、面間隔は3.383オングストローム、粉体抵抗値は0.0083Ω・cm、復元後の密度は0.25g/cmであった。
【0127】
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、443nm(SD207nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の7.38倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.67(SD0.14)であった。
【0128】
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.8μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.7μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.8%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
【0129】
なお、合成例1で測定した各種物性値を、表2にまとめた。
【0130】
【表1】

【0131】
【表2】

合成例2
生成炉からの排ガスの一部を循環ガスとして使用し、この循環ガス中に含まれるメタン等の炭素化合物を、新鮮なトルエンと共に、炭素源として使用して、CVD法により微細炭素繊維を合成した。
【0132】
合成は、触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。新鮮な原料ガスとして、トルエン、触媒を水素ガスとともに予熱炉にて380℃に加熱した。一方、生成炉の下端より取り出された排ガスの一部を循環ガスとし、その温度を380℃に調整した上で、前記した新鮮な原料ガスの供給路途中にて混合して、生成炉に供給した。
【0133】
なお、使用した循環ガスにおける組成比は、体積基準のモル比でCH 7.5%、C 0.3%、C 0.7%、C 0.1%、CO 0.3%、N 3.5%、H 87.6%であり、新鮮な原料ガスとの混合によって、生成炉へ供給される原料ガス中におけるメタンとベンゼンとの混合モル比CH/C(なお、新鮮な原料ガス中のトルエンは予熱炉での加熱によって、CH:C=1:1に100%分解したものとして考慮した。)が、3.44となるように、混合流量を調整された。
【0134】
なお、最終的な原料ガス中には、混合される循環ガス中に含まれていた、C、CおよびCOも炭素化合物として当然に含まれているが、これらの成分は、いずれもごく微量であり、実質的に炭素源としては無視できるものであった。
【0135】
そして、実施例1と同様に、生成炉において、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
【0136】
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の構成は、円筒状の衝突部3がない以外は、図8に示す構成と同様のものであり、また反応炉への原料ガス導入速度は、実施例1と同様に、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
【0137】
上記のようにして合成された第一中間体をアルゴン中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.83であった。また、第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したところ、そのSEMおよびTEM写真は図1、2に示す実施例1のものとほぼ同様のものであった。
【0138】
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明に係る炭素繊維構造体を得た。
【0139】
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真は、図3、4に示す実施例1のものとほぼ同様のものであった。
【0140】
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察し粒度分布を調べた。得られた結果を表3に示す。
【0141】
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べたところ、図6および7に示す実施例1の結果とほぼ同様のものであった。
【0142】
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、75.8μm、嵩密度は0.004g/cm、ラマンI/I比値は0.086、TG燃焼温度は807℃、面間隔は3.386オングストローム、粉体抵抗値は0.0077Ω・cm、復元後の密度は0.26g/cmであった。
【0143】
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、349.5nm(SD180.1nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の5.8倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.69(SD0.15)であった。
【0144】
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.4μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.3μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.2%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
【0145】
なお、合成例2で測定した各種物性値を、表4にまとめた。
【0146】
【表3】

【0147】
【表4】

実施例1
市販の鉱物油系潤滑油(製品名:アポロイル・プロメンテ、出光興産(株)製)100質量部に、上記合成例1で得られた炭素繊維構造体を0.5質量部で添加し、ビーズミールを用いて、分散処理することにより、炭素繊維構造体を分散させた潤滑油組成物を製造した。
【0148】
この潤滑油組成物を120時間静置した後観察したところ、炭素繊維構造体は潤滑油中に均一に微分散しており、沈殿等は生じていなかった。
【0149】
実施例2
合成例1で得られた炭素繊維構造体に代えて、実施例2で得られた炭素繊維構造体を用いる以外は、実施例1と同様にして潤滑油組成物を製造した。
【0150】
実施例3
市販の無鉛ガソリン(オクタン価98)100質量部に、上記合成例1で得られた炭素繊維構造体を0.05質量部で添加し、ビーズミールを用いて、分散処理することにより、炭素繊維構造体を分散させた燃料油組成物を製造した。
【0151】
この燃料油組成物を120時間静置した後観察したところ、炭素繊維構造体は燃料油中に均一に微分散しており、沈殿等は生じていなかった。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】本発明の潤滑油ないし燃料油組成物に用いる炭素繊維構造体の中間体のSEM写真である。
【図2】本発明の潤滑油ないし燃料油油組成物に用いる炭素繊維構造体の中間体のTEM写真である。
【図3】本発明の潤滑油ないし燃料油組成物に用いる炭素繊維構造体のSEM写真である。
【図4】(a)(b)は、それぞれ本発明の潤滑油組成物に用いる炭素繊維構造体のTEM写真である。
【図5】本発明の潤滑油組成物に用いる炭素繊維構造体のSEM写真である。
【図6】本発明の潤滑油組成物に用いる炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のX線回折チャートである。
【図7】本発明の潤滑油組成物に用いる炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のラマン分光分析チャートである。
【図8】本発明の実施例において炭素繊維構造体の製造に用いた生成炉の概略構成を示す図面である。
【符号の説明】
【0153】
1 生成炉
2 導入ノズル
3 衝突部
4 原料ガス供給口
a 導入ノズルの内径
b 生成炉の内径
c 衝突部の内径
d 生成炉の上端から原料混合ガス導入口までの距離
e 原料混合ガス導入口から衝突部の下端までの距離
f 原料混合ガス導入口から生成炉の下端までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、全体の0.1〜5質量%の割合で含有してなることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものである請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
燃料油に、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、全体の0.01〜1質量%の割合で含有してなることを特徴とする燃料油組成物。
【請求項5】
前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることを特徴とする請求項4に記載の燃料油組成物。
【請求項6】
前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものである請求項4または5に記載の燃料油組成物。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−119694(P2007−119694A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317263(P2005−317263)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】