説明

潤滑油組成物の高速大量処理審査方法

【課題】複数の異なる潤滑油組成物の潤滑剤性能を決定するための高速大量処理審査方法を提供する。
【解決手段】複数の異なる潤滑油組成物の液体潤滑剤試料について貯蔵安定度を決定する方法を提供する。各試料は、一種以上の基油と一種以上の潤滑油添加剤の組合せを含んでいる。その方法はコンビナトリアル・ケミストリを使用して有利に最適化することができ、それにより潤滑油添加剤またはそのような添加剤を含む潤滑油組成物の組合せのデータベースが生成する。市場の状況が変化したり、および/または製品要求条件または顧客仕様が変わっても、所望の製品を製造するのに適した条件を手待ち時間無しか又は僅かで確定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には潤滑油組成物を高速大量処理により審査する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質合成にコンビナトリアル(組み合わせ)合成を使用することは、迅速な合成及び審査方法を使用して高分子、無機又は固体物質のライブラリを構築することを目的とした、比較的新しい研究領域である。例えば、反応装置技術の進歩によって、化学者や技術者は、新規な薬品の発見を追求して別々の有機分子の大量ライブラリを迅速に作製する能力が与えられ、それによりコンビナトリアル・ケミストリと呼ばれる成長過程にある研究部門の発展に至っている。コンビナトリアル・ケミストリとは一般に、多様性のある物質または化合物の収集群(普通はライブラリとして知られている)を作製するための方法および物質、並びに所望の特性についてライブラリを評価または審査するための技術および機器を意味している。
【0003】
今日、潤滑剤産業における研究には、候補の潤滑油組成物を製造すること、次に製造した組成物の巨視的分析を行うことが含まれる。試験(群)の結果が満足できないものであれば、試験した候補の一つが要求基準を満たすまで、試験操作全体を一連の個々の候補組成物に繰り返すことになる。一般に、各候補組成物を試験するのに用いられる方法では人手による操作が要求される。これによって、試験して中心的な潤滑油組成物と確定することができる組成物の数は順次、著しく減少する。
【0004】
潤滑油組成物の適正な機能を確保することが、自動車エンジンのような機械系統の首尾良い運転と整備には重要である。現行の試験技術に基づく限り、上に開示したように各油組成物候補の分析には時間がかかり、費用もかかる。従って、公知の試験操作に関連した費用を減らし、かつその効率を上げることが望まれている。
【0005】
さらに、例えば変速機液、油圧作動液、ギヤ油、船用シリンダ油、圧縮機油および冷凍機潤滑剤等のような他の潤滑剤用途でも、新たな法定要求条件を含む仕様の変化や変わる顧客要求が再配合に向けて努力を駆り立てている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したように、潤滑剤産業における今日の研究では再配合を迅速なやり方で行うことは不可能である。このように当該分野では、潤滑油組成物の実際の有用な特性と相関した情報を得るために、潤滑油組成物の製造およびそのような組成物の審査のためのより効率的で経済的で組織だった方法を必要としている。
【0007】
さらに、絶えず変わる新たな作動(動作)条件および行政及び工業基準又は仕様に応じ、反応し、更には予測するには、完璧なデータと効率の良い検索ツールを利用できることが重要である。よって、仮に摩耗試験など各種の診断試験に関するデータが完璧で、ディーゼル又は内燃機関のような用途に最適な潤滑油組成物を設計したり選別するのに効率的に検索されたなら、極めて貴重である。
【0008】
従って、複数の試料候補潤滑油組成物を少量で用いて迅速に試験し、分類し、審査して、耐摩耗潤滑特性を自動的に決定し、データとして載せることが望まれている。このようにして、膨大な数の多様性のある組成物の高速大量処理による審査を遂行して、特定の耐摩耗要求を満たす中心的な潤滑油組成物を選別し、確定することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に従って、潤滑油組成物をプログラム制御下で高速大量処理により審査する方法であって、下記の工程からなる方法を提供する:
(a)(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる複数の異なる潤滑油組成物試料を用意する工程、(b)各試料の摩耗安定度を測定して、各試料についての摩耗安定度データとする工程、そして(c)工程(b)の結果を出力する工程。
【0010】
本発明の別の態様に従って、潤滑油組成物をプログラム制御下で高速大量処理により審査する方法であって、下記の工程からなる方法を提供する:
(a)(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる複数の異なる潤滑油組成物試料を用意する工程、(b)各試料の極圧摩耗安定度を測定して、各試料についての極圧摩耗データとする工程、そして(c)工程(b)の結果を出力する工程。
【0011】
本発明のまた別の態様では、潤滑油組成物をプログラム制御下で高速大量処理により審査する方法であって、下記の工程からなる方法を提供する:
(a)(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる複数の異なる潤滑油組成物試料を用意する工程、(b)各試料の流体摩耗安定度を測定して、各試料についての流体摩耗データとする工程、そして(c)工程(b)の結果を出力する工程。
【0012】
本発明の更に別の態様では、潤滑油組成物をプログラム制御下で高速大量処理により審査する方法であって、下記の工程からなる方法を提供する:
(a)(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる複数の異なる潤滑油組成物試料を用意する工程、(b)各試料の腐食摩耗安定度を測定して、各試料についての腐食摩耗データとする工程、そして(c)工程(b)の結果を出力する工程。
【発明の効果】
【0013】
このようにして、膨大な数の多様性のある組成物の高速大量処理による審査を遂行して、特定の耐摩耗要求を満たす中心的な潤滑油組成物を選別し、確定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上記及びその他の観点および利点について、以下の図面を伴う本発明の好ましい態様の詳細な記述により更に容易に明らかにする。
【0015】
本発明は、複数の試験受け器(容器)のそれぞれに入った複数の異なる潤滑油組成物試料を摩耗安定度の測定に掛けることにより、複数の異なる潤滑油組成物の潤滑剤性能を決定するための高速大量処理審査方法に関する。「高速大量処理」なる表現は、本明細書で使用するとき、比較的多数の異なる潤滑油組成物を迅速に製造して分析できることを意味すると理解されたい。本発明の審査方法の第一工程では、少なくとも一種の潤滑粘度の基油と少なくとも一種の潤滑油添加剤の量を変えて試験溜め(容器)それぞれに導入し、それにより各溜めは、各受け器内で潤滑粘度の基油と組み合わせた添加剤の量百分率及び/又は種類に応じて組成が違っている異なる潤滑油組成物を含んでいる。各試料の組成に関するデータはデータライブラリに保存される。操作は、プログラム制御下で有利に遂行され、例えばマイクロプロセッサ又は他のコンピュータ制御装置により自動制御される。「プログラム制御」なる表現は、本明細書で使用するとき、本発明で複数の潤滑油組成物を用意するのに使用される装置が、マイクロプロセッサ又は他のコンピュータ制御装置により自動化され制御されることを意味すると理解されたい。
【0016】
本発明の高速大量処理審査方法に使用される潤滑油組成物には、第一成分として潤滑粘度の基油が主要量で、例えば組成物の全重量に基づき50重量%以上、好ましくは約70重量%以上、より好ましくは約80乃至約99.5重量%、そして最も好ましくは約85乃至約98重量%の量で含まれる。「基油」なる表現は、本明細書で使用するとき、単一の製造者により同一の仕様で(供給原料や製造者の所在地とは無関係に)製造され、同一の製造者の仕様を満たし、そして独特の処方、製造物確認番号またはその両方により確認される潤滑剤成分である基材油または基材油のブレンドを意味すると理解されたい。本発明に使用される基油は、任意のあらゆる用途で、例えばエンジン油、船用シリンダ油、および油圧作動油、ギヤ油、変速機液などの機能液等として潤滑油組成物を配合するのに使用される、現在知られているか、もしくは後年発見される如何なる潤滑粘度の基油であってもよい。さらに、本発明に使用される基油は任意に、高分子量アルキルメタクリレート、エチレン−プロピレン共重合体またはスチレン−ブタジエン共重合体などのオレフィン共重合体等およびそれらの混合物のような粘度指数向上剤を含有することができる。
【0017】
当該分野の熟練者であれば容易に理解できるように、基油の粘度は用途に依存する。よって、本発明に用いられる基油の粘度は通常は、摂氏100度(℃)で約2乃至約2000センチストークス(cSt)の範囲にある。エンジン油として用いられる個々の基油の動粘度範囲は100℃で、一般に約2cSt乃至約30cStであり、好ましくは約3cSt乃至約16cSt、最も好ましくは約4cSt乃至約12cStであり、そして所望とする最終使用および完成油の添加剤に応じて選択もしくはブレンドされて、所望のグレードのエンジン油、例えばSAE粘度グレードが0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40、10W−50、15W、15W−20、15W−30または15W−40である潤滑油組成物とされる。ギヤ油として用いられる油の粘度は、100℃で約2cSt乃至約2000cStの範囲にある。
【0018】
基材油は、種々様々な方法を使用して製造することができ、その例としては、これらに限定されるものではないが、蒸留、溶剤精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化および再精製を挙げることができる。再精製油は、製造中に、汚染により、あるいは以前の使用中に混入した物質を実質的に含むことはない。本発明の潤滑油組成物の基油は、任意の天然または合成の潤滑基油であってよい。好適な炭化水素合成油としては、これらに限定されるものではないが、エチレンの重合によりまたは1−オレフィンの重合により合成されてポリアルファオレフィン又はPAO油のような重合体とされた油、または一酸化炭素ガスと水素ガスを用いてフィッシャー・トロプシュ法などの炭化水素合成法により合成された油を挙げることができる。例えば、好適な基油は、重質留分を含む場合でもその量が僅かである、例えば100℃粘度が20cStか、それ以上である潤滑油留分を殆ど含むことのない油である。
【0019】
基油は、天然の潤滑油、合成の潤滑油またはそれらの混合物から誘導することができる。好適な基油としては、合成ろうおよび粗ろうの異性化により得られた基材油、並びに原油の芳香族及び極性成分を(好ましくは溶剤抽出ではなく)水素化分解して製造した水素化分解基材油を挙げることができる。好適な基油としては、API公報1509、第14版、補遺I、1998年12月に規定されている全API区分I、II、III、IV及びVに含まれるものが挙げられる。IV種基油はポリアルファオレフィン(PAO)である。V種基油には、I、II、III又はIV種に含まれなかったその他全ての基油が含まれる。II、III及びIV種の基油も本発明に使用するのに好ましいが、これら好ましい基油は、I、II、III、IV及びV種の基材油又は基油を一種以上混ぜ合わせることにより製造することができる。
【0020】
使用できる天然油としては、鉱油系潤滑油、例えば液体石油、パラフィン系、ナフテン系又は混合パラフィン−ナフテン系の溶剤処理又は酸処理した鉱油系潤滑油、石炭や頁岩から誘導された油、動物油および植物油(例えばナタネ油、ヒマシ油およびラード油)等を挙げることができる。
【0021】
使用できる合成潤滑油としては、これらに限定されるものではないが、炭化水素油およびハロ置換炭化水素油、具体的には重合及び共重合オレフィン、例えばポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン−イソブチレン共重合体、塩素化ポリブチレン、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)等およびそれらの混合物;アルキルベンゼン、例えばドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2−エチルヘキシル)−ベンゼン等;ポリフェニル、例えばビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル等;アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィド、並びにそれらの誘導体、類似物および同族体等を挙げることができる。
【0022】
他の使用できる合成潤滑油としては、これらに限定されるものではないが、炭素原子数5以下のオレフィン、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、イソブテン、ペンテンおよびそれらの混合物を重合することにより製造された油が挙げられる。そのような重合体油の製造方法も当該分野の熟練者にはよく知られている。
【0023】
別の使用できる合成炭化水素油としては、適正な粘度を有するアルファオレフィンの液体重合体が挙げられる。特に有用な合成炭化水素油は、C6−C12アルファオレフィンの水素化液体オリゴマー、例えば1−デセン三量体である。
【0024】
使用できる合成潤滑油の別の部類としては、これらに限定されるものではないが、アルキレンオキシド重合体、すなわち単独重合体、共重合体、および末端ヒドロキシル基が例えばエステル化またはエーテル化により変性したそれらの誘導体を挙げることができる。これらの油の例示としては、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合により合成された油、これらポリオキシアルキレン重合体のアルキル及びフェニルエーテル(例えば、平均分子量1000のメチルポリプロピレングリコールエーテル、分子量500〜1000のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量1000〜1500のポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、またはそれらのモノ及びポリカルボン酸エステル、例えば酢酸エステル、混合C3−C8脂肪酸エステル、またはテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルがある。
【0025】
使用できる合成潤滑油の別の部類としては、これらに限定されるものではないが、ジカルボン酸、例えばフタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸等と、各種アルコール、例えばブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等とのエステルが挙げられる。これらエステルの具体例としては、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、および1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2−エチルヘキサン酸と反応させて生成した複合エステル等を挙げることができる。
【0026】
また、合成油として使用できるエステルとしては、これらに限定されるものではないが、炭素原子数約5〜約12のカルボン酸と、アルコール、例えばメタノール、エタノール等、ポリオールおよびポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトール等とから製造されたものも挙げられる。
【0027】
ケイ素系の油、例えばポリアルキル、ポリアリール、ポリアルコキシ又はポリアリールオキシ−シロキサン油及びシリケート油は、合成潤滑油の別の有用な部類を構成する。これらの具体例としては、以下に限定されるものではないが、テトラエチルシリケート、テトラ−イソプロピルシリケート、テトラ−(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ−(4−メチル−ヘキシル)シリケート、テトラ−(p−t−ブチルフェニル)シリケート、ヘキシル−(4−メチル−2−ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン、ポリ(メチルフェニル)シロキサン等を挙げることができる。更に別の使用できる合成潤滑油としては、これらに限定されるものではないが、リン含有酸の液体エステル、例えばリン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、デカンホスフィン酸のジエチルエステル等、および高分子量テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0028】
潤滑油は、天然、合成または上に開示した種類のうちの任意の二種以上の混合物の未精製、精製及び再精製の油から誘導することができる。未精製油は、天然原料または合成原料(例えば、石炭、頁岩またはタール・サンド・ビチューメン)から直接に、それ以上の精製や処理無しに得られた油である。未精製油の例としては、これらに限定されるものではないが、レトルト操作により直接得られた頁岩油、蒸留により直接得られた石油、またはエステル化処理により直接得られたエステル油が挙げられ、各々その後それ以上の処理無しに使用される。精製油は、一以上の性状を改善するために一以上の精製工程で更に処理されたことを除いては、未精製油と同じである。これらの精製技術は、当該分野の熟練者には知られているが、例えば溶剤抽出、二次蒸留、酸又は塩基抽出、ろ過、パーコレート、水素化処理、脱ろう等が挙げられる。再精製油は、使用済の油を精製油を得るのに用いたのと同様の処理で処理することにより得られる。そのような再精製油は、再生又は再処理油としても知られていて、使用された添加剤や油分解生成物の除去を目的とする技術によりしばしば更に処理される。
【0029】
ろうの水素異性化から誘導された潤滑基材油も、単独で、あるいは前記天然及び/又は合成基材油と組み合わせて使用することができる。そのようなろう異性体油は、天然又は合成ろうまたはそれらの混合物を水素異性化触媒上で水素異性化することにより製造される。
【0030】
天然ろうは一般に、鉱油を溶剤脱ろうすることにより回収された粗ろうであり、合成ろうは一般に、フィッシャー・トロプシュ法により製造されたろうである。
【0031】
本発明に使用される潤滑油組成物の第二成分は、少なくとも一種の潤滑油添加剤である。そのような添加剤は、潤滑油組成物を配合するのに使用される現在知られているか、もしくは後年発見される任意の添加剤であってよい。本発明に使用される潤滑油添加剤としては、これらに限定されるものではないが、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、金属清浄剤などの清浄剤、さび止め添加剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶剤、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤等、およびそれらの混合物を挙げることができる。グリースには、適当な増粘剤を添加する必要がある。各種の添加剤が知られていて市販されてもいる。本発明に係る種々の潤滑油組成物の製造にも、これらの添加剤またはその類似化合物を用いることができる。
【0032】
あるいは、潤滑油添加剤(類)は更に希釈油を含むことにより添加剤濃縮物を形成することができる。これら濃縮物は通常、希釈油を少なくとも約90重量%乃至約10重量%、好ましくは約90重量%乃至約50重量%、および上記添加剤(類)を約10重量%乃至約90重量%、好ましくは約10乃至約50重量%含有している。濃縮物に適した希釈剤としては任意の不活性希釈剤、好ましくは潤滑粘度の油、例えば前述した基油が挙げられ、それにより濃縮物を容易に潤滑油と混合して潤滑油組成物を製造することができる。希釈剤として使用することができる好適な潤滑油は、任意の潤滑粘度の油であってよい。
【0033】
酸化防止剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アミン型のもの、例えばジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチル−アミン、N,N−ジ(アルキルフェニル)アミン;およびアルキル化フェニレン−ジアミン;フェノール型のもの、例えばBHT、立体障害のあるヒンダードアルキルフェノール、具体的には2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、および2,6−ジ−t−ブチル−4−(2−オクチル−3−プロパノイック)フェノール;硫黄含有物質、例えば硫化オレフィン又はエステル等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0034】
耐摩耗性添加剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛およびジアリールジチオリン酸亜鉛、例えばボーン(Born)、外著、「種々の潤滑メカニズムにおけるある種の金属ジアルキル及びジアリールジチオリン酸塩の化学構造と有効性との関係」、ルブリケーション・サイエンス(Lubrication Science)、第4−2巻、1992年1月(例えばp.97−100参照)掲載の論文に記載されているもの;アリールリン酸エステル及び亜リン酸エステル、硫黄含有エステル、リン硫黄化合物、金属又は無灰ジチオカルバメート、キサントゲン酸エステル、硫化アルキル等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0035】
清浄剤の例としては、これらに限定されるものではないが、スルホネート清浄剤のような過塩基性又は中性清浄剤、例えばアルキルベンゼンと発煙硫酸から製造されたもの;フェネート(高過塩基性又は低過塩基性)、高過塩基性フェネートステアレート、フェノレート、サリチレート、ホスホネート、チオホスホネート、イオン性界面活性剤等、およびそれらの混合物を挙げることができる。低過塩基性金属スルホネートは、一般に全塩基価(TBN)が約0乃至約30、好ましくは約10乃至約25である。低過塩基性金属スルホネートおよび中性金属スルホネートが当該分野ではよく知られている。
【0036】
さび止め添加剤の例としては、これらに限定されるものではないが、非イオン性ポリオキシアルキレン添加剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエート;ステアリン酸および他の脂肪酸;ジカルボン酸;金属石鹸;脂肪酸アミン塩;重質スルホン酸の金属塩;多価アルコールの部分カルボン酸エステル;リン酸エステル;(短鎖)アルケニルコハク酸;それらの部分エステルおよびそれらの窒素含有誘導体;合成アルカリールスルホネート、例えば金属ジノニルナフタレンスルホネート等;およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0037】
摩擦緩和剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アルコキシル化脂肪アミン;ホウ酸化脂肪エポキシド;脂肪亜リン酸エステル;脂肪エポキシド;脂肪アミン;ホウ酸化アルコキシル化脂肪アミン;脂肪酸の金属塩;脂肪酸アミド;グリセロールエステル;ホウ酸化グリセロールエステル;および米国特許第6372696号明細書に開示されている脂肪イミダゾリン(その開示内容も参照事項として本明細書の記載とする);C4−C75、好ましくはC6−C24、最も好ましくはC6−C20の脂肪酸エステルと、アンモニアおよびアルカノールアミン、例えば米国特許出願第10/402170号(2003年3月28日出願)の明細書に開示されているもの(その開示内容も参照事項として本明細書の記載とする)からなる群より選ばれた窒素含有化合物との反応生成物から得られた摩擦緩和剤等、およびそれらの混合物を挙げることできる。
【0038】
消泡剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アルキルメタクリレートの重合体;ジメチルシリコーンの重合体等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0039】
無灰分散剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ポリアルキレンコハク酸無水物;ポリアルキレンコハク酸無水物の非窒素含有誘導体;コハク酸イミド、カルボン酸アミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、マンニッヒ塩基、ホスホンアミド、チオホスホンアミドおよびリンアミドからなる群より選ばれる塩基性窒素化合物;チアゾール、例えば2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾールおよびそれらの誘導体;トリアゾール、例えばアルキルトリアゾールおよびベンゾトリアゾール;アミン、アミド、イミン、イミド、ヒドロキシル、カルボキシル等を含む一以上の付加極性官能基を持つカルボン酸エステルを含む共重合体、例えば長鎖アルキルアクリレート又はメタクリレートと上記官能基を持つ単量体との共重合により製造された生成物等、およびそれらの混合物を挙げることができる。これらの分散剤の誘導体、例えばホウ酸化コハク酸イミドなどのホウ酸化分散剤も使用することができる。分散剤は、ポリアルキレンコハク酸無水物をポリアルキレンポリアミンでアミノ化して誘導されたポリアルキレンコハク酸イミドであることが好ましい。
【0040】
所望により、後述するように少なくとも一種の基油と少なくとも一種の潤滑油添加剤を分配して本発明に係る組成物とする前に、組成物(すなわち配合物)に使用することが提案された化合物の分子モデリングを行って、どの化合物が可能性のある中心的な候補組成物をもたらすかを判断することが有利であると言える。例えば、化合物の遷移状態、結合の長さ、結合角、双極子モーメント、疎水性等のような因子を含む計算を実施することができる。よって、提案された化合物を審査して、例えば、どの化合物が中間体の過酸化物を捕捉する能力が乏しいために酸化防止過程で不充分にしか機能しないかを判断することができる。これは、例えばアクセルリス(Accelrys)社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のクアンタム・メカニックス(Quantum Mechanics)のような公知のソフトウェアを使用して実施することができる。
【0041】
上記の実験プログラム(群)の入力に基づいて最初の化合物テスト・ライブラリを設計するのに、テスト・ライブラリの設計用ソフトウェアを使用することができる。このソフトウェアを使用して、所望の実験空間を包含し統計実験設計法を利用するテスト・ライブラリを効率的に設計することができる。次に、別のソフトウェアを使用して実験のデータを解析し、そしてそのデータを化合物の構造および/または化合物処理条件および/または反応条件と相関させることができる。そのような相関関係はしばしば、アクセルリス社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のQSARソフトウェア(定量的構造活性相関)と呼ばれている。次に、ソフトウェアによりそのようなQSARプログラムを使用して、それ以後の化合物テスト・ライブラリを更なる審査に向けて設計することができる。
【0042】
そのようなQSARプログラムの使用によって審査の効率を高めることができる。より多くのデータが集まるにつれて、これらQSARプログラムは化合物ライブラリを発展させる効率がもっと良くなり、所望の化合物を見つける確率も高まる。例えば、後述するように解析した化合物を種々の潤滑油組成物に配合することができ、その後、例えば回帰及び解析技術により、アクセルリス社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のC2−QSARなど公知のソフトウェアを使用して更に解析することができる。このように、分子モデリングから得られたデータの確認を遂行することができ、次いでこのデータもデータ収集装置に保存することができる。このようにして、当該分野の熟練者が考えた新規な化合物を、化合物の実際の合成に先立ってQSARソフトウェアで調べてその活性度を予測することができる。さらに、そのようなソフトウェアツールを利用して、合成を考えている可能な化合物の一覧表に当該分野の熟練者が成功する確率が高い順に優先順位を付けることが可能である。
【0043】
ここで図1に言及すると、複数の試験受け器それぞれに入った前記組成物を供給するシステムの例を、システム100として概括的に図示している。複数の試験受け器それぞれに入った前記組成物を供給するこのシステムと方法の代表的なものとしては、同時係属出願中の米国特許出願第10/699510号明細書(ウォレンベルグ、外、2003年10月31日出願、題名「コンビナトリアル・ライブラリのための潤滑油組成物の高速大量処理製造」、(ドケット第T−6298A号、(538−60))、譲受人は本出願と共通)に開示されているものがあり、その内容も参照事項として本明細書の記載とする。一般に容器110は、前記潤滑粘度の基油Bの供給物を含んでいる。容器120は、添加剤Aの供給物を含んでいて、基油の性状を改良するのに有用な前記添加剤のうちのいずれかであってよい。当該分野の熟練者であれば容易に理解できるように、一種以上の基油および/または一種以上の添加剤をそれぞれ分配するときは、一個以上の容器110および容器120を使用することができる。
【0044】
管路111は、基油Bをノズル部分113まで導く導管であり、後述するようにノズル部分から基油Bを選択した試験溜めに分配することができる。分配する基油の量は計量ポンプ112で決められるが、コンピュータで制御することができる。
【0045】
管路121は、潤滑油添加剤Aをノズル部分123まで導く導管であり、後述するようにノズル部分から添加剤Aを選択した試験溜めに分配することができる。分配される潤滑油添加剤の量は計量ポンプ122で決められるが、これもコンピュータで制御することができる。予め選択したプロトコルに従って予め決めた量の物質を自動的に計量するためのコンピュータプログラムとシステムが当該分野では知られているが、本発明でも使用することができる。
【0046】
ノズル113及び123は極めて接近していることが好ましく、それにより基油Bと添加剤Aを同時に試験溜めに分配することができる。あるいは、基油Bと添加剤Aを順次試験溜めに添加することもできる。ノズル113及び123は、多チャンネルピペットまたは一個以上の注射針から構成することができる。
【0047】
容器110及び120は加圧することができる。任意に、二個以上の容器を用いることができる。本発明に使用するのに適した計量ポンプも知られていて市販されてもいる。粘性の高い潤滑基材油または添加剤を使用する場合には、容器110及び120および/または管路111及び121、計量ポンプ112及び122、および/またはノズル113及び123を加熱して液流の通過を容易にすることができる。
【0048】
試験フレーム130は、分配した添加剤または基油と添加剤を受け入れる複数のくぼみ132を有する透明な材料(例えば、ガラス)でできたブロック131を包含している。くぼみは試験溜めになり、各溜めには予め決めた異なる組成の潤滑油添加剤組成物または潤滑油組成物が入る、すなわち各組成物の基油及び/又は添加剤の百分率及び/又は種類は溜め毎に互いに異なる。任意に溜めは、ブロックに設けられたくぼみの代わりにラックに取り付けられた別個の受け器(例えば、試験管)であってもよい。試験受け器は透明なガラス管から構成されることが好ましい。図1には5個の溜め、すなわちくぼみ132a、132b、132c、132d、132eが図示されているが、本発明には任意の個数の溜めを用いることができる。例えば、要求次第でシステムは20個、50個、100個又はそれ以上の試験受け器と試料を用いることができる。
【0049】
個々の溜めは、比較的少量の試料を保持するように作られている。各溜めの試料サイズは、一般には約20mL以下であってよく、好ましくは約15mL以下、より好ましくは約10mL以下、そして更に好ましくは約5mL以下である。
【0050】
試験フレーム130および分配ノズル113及び123は、互いに相対的に移動できる。装置操作者による手動での装置移動も本発明の範囲に含まれるが、プログラム可能な移動を伴うロボット機構が好ましい。ある態様では試験フレーム130は、選択したくぼみが分配ノズル113及び123の下に順次位置するように、横及び/又は縦方向に移動できる滑り移動可能なキャリジに取り付けられている。別の態様では、ノズル113及び123および任意に容器110及び120が横及び/又は縦に滑り移動できて、ノズル113及び123の位置決めを行なう。
【0051】
試験の操作では、容器110及び120をそれぞれ選択した潤滑基油と添加剤(類)で満たす。システム100の装置が、分配ノズル113及び123がくぼみ132aの上部一直線上に位置するように移動する。計量した量の基油Bと計量した量の添加剤Aが同時にくぼみ132aに分配される。その後、分配ノズル113及び123は次のくぼみ132bの一直線上に再び位置して、そして予め決めた変動計画に従ってくぼみ132bの潤滑油がくぼみ132aの潤滑油とは添加剤の組成百分率が異なるように、添加剤Aおよび/または基油Bの計量する量が変わる。ノズル113及び123は順次、連続したくぼみ132c、132d及び132eの一直線上になるようにしながらこのパターンを繰り返して、各くぼみに予め決めた組成の潤滑油が含まれるようにする。
【0052】
成分AとBは、混合することにより、例えばフレーム131の撹拌、静的混合、溜めの内容物の個々の撹拌(機械的または磁気的撹拌)により、および/または溜めに窒素などのガスを吹き込むことにより、溜め内で組み合わせることが好ましい。任意に、基油Bと添加剤(類)Aを溜めそれぞれに分配する前に組み合わせることもできる。例えば、混合室を有する単一の分配ノズルを使用することができ、基油Bと添加剤(類)Aは計量されて混合室に入ったのちノズルより溜めに分配される。
【0053】
一旦潤滑油添加剤組成物および/または潤滑油組成物を含む複数の受け器が供給されたなら、複数の液体試料各々を耐摩耗性、すなわち摩耗安定度それぞれについて分析することができる。摩耗の種類の分類としては、これらに限定されるものではないが、凝着摩耗、アブレシブ摩耗、疲れ摩耗および研磨摩耗が挙げられ、一般に次のものが三大摩耗試験である:極圧摩耗試験、流体摩耗試験および腐食摩耗試験。
【0054】
極圧摩耗試験は、潤滑油組成物が擦れ合う二面間の空隙から絞り出されて、その結果、相互作用面には化学的に結合した試験組成物の耐摩耗性添加剤の非液膜しか残っていない状況に関係している。例えば、極圧摩耗条件は、稼働している内燃機関のピストンリングとシリンダ壁の間で、ピストンが上死点に達して燃料燃焼爆発力を受けながら瞬間的に滑り移動していないときに生じる。
【0055】
流体試験は、液体潤滑剤膜が相互作用面の間に残っているような状態で、潤滑油組成物が摩耗を防ぐ能力を試験するように設計されている。一般に流体潤滑条件は、内燃機関のピストンリングとシリンダ壁の間で、ピストンがストローク過程で滑り移動しているときに生じる。
【0056】
最後に、腐食摩耗試験は、潤滑油組成物が腐食環境下で相互作用面を摩耗から防護する能力を試験するように設計されている。後者の腐食環境は、燃焼すべき燃料または潤滑油組成物の成分の酸化のために、例えば硫黄が硫酸を発生する場合に、内燃機関内で観察することができる。
【0057】
ここで図2及び図3に言及すると、図1に従ってライブラリに保存された複数の潤滑油組成物の耐摩耗性を順次分析するための本発明の方法とシステムを図示している。保存された潤滑油組成物の各々の耐摩耗性に関係した情報を加えることにより、所望の作動条件または法定要求条件下で極圧、流体及び腐食摩耗安定度試験を行なってうまくいくことが可能な候補組成物の選択が実質的に容易になる。
【0058】
210(図2)で複数の潤滑油組成物が供給されているので、ロボット組立装置300(図3)は、試験受け器310を選択的に試験ステーション320に届けることにより試験の各々を実施するように作られている。ここで、各試験受け器は試料をそれぞれ含み、識別バーコード350を有する。ロボット組立装置は一つ以上の可動アーム312を有するように構成され、各アームには把握機構314が設けられ、把握機構はコンピュータ制御装置316からの命令に従って個々の試験受け器310を掴む。
【0059】
試験ステーション320は、一度に一つの試験を行う単一の試験装置を包含していてもよいが、好ましくはこのステーションは同時に稼働する多重の装置で組み立てられ、それにより各装置は制御装置316からの命令220(図2)に従ってそれぞれの試験を実施する。多重装置の場合には、試験する潤滑油組成物を極圧試験装置322、流体試験装置324および腐食試験装置326に分配することができる。試験装置の各々は所望の制御条件下で稼働するが、その条件としては数ある中でも、現行の又は提案された法定要求条件に明示された条件に対応したり、稼働エンジンの多数部分又は全部に対応する予め決めた温度、荷重および酸濃度が挙げられる。よって、例えば極圧試験装置322を、時間を制御しながら掛けた荷重が例えば約200lbsから約300lbs、約400lbsまで順次増加するように稼働させてもよい。流体試験装置324を、荷重が例えば約50lbsから約100lbs、約150lbsまで、極圧荷重装置324の荷重増加に関係した間隔と同じかまたは違う間隔で増加するように制御してもよい。最後に、例えば硫酸のような腐食要素をコンピュータ制御した濃度で腐食試験装置326に送り出して、予め決めた荷重と酸濃度に対応した所望の腐食環境を再び作り、そして潤滑油組成物の腐食摩耗安定度を決定することができる。特定の荷重と酸濃度条件が、試験装置の各々に関連して制御可能で作り出され変更される唯一のパラメータではないことを理解すべきである。
【0060】
図2の230に示すように、潤滑油組成物の各々又はその一部を上記試験(群)に掛けると、240でコンピュータ制御装置316(図3)は試験結果それぞれを処理して出力し、試験結果の各々はライブラリに加えられる。従って、ライブラリに保存された潤滑油組成物の耐摩耗性に関する情報は、例えばライブラリに載った組成物の貯蔵安定度や酸化安定度に加えて、情報の別の断片となる。
【0061】
上述した試験を実施するための各種の潤滑及び摩耗試験機械又は装置が知られている。例えば、図4及び図5に図示するように、試験ピンとV形ブロック400および四球組立試験機500はそれぞれ、極圧、流体及び腐食摩耗試験を別個にもしくは組み合わせて行うことが可能である。例えば、図4の試験ピン構造では、2個のV形ブロック410を回転ジャーナル420に対して制御可能で加圧でき、ジャーナルは試験する潤滑油組成物を含むカップ430の中に沈められている。従って、荷重を制御可能に増加させることにより、潤滑油組成物の各々について流体及び極圧試験を順次行うことができる。測った濃度の酸化媒体をジャーナルに送ることにより、前二つの試験の各々と同時にもしくは別個に腐食試験を実施することができる。そのような配送は、例えばジャーナルのある箇所に絶えず硫酸を注入することにより実行することができる。勿論、酸濃度が増加するにつれて摩耗および/または摩耗率も増加する。
【0062】
四球試験装置500は、図5に示したように、3個の試験下球530が据え付けのホルダ540に置かれ、その場所に固定され、そして潤滑油組成物の各一種520で覆われるように組み立てられている。上球510をチャックに入れて上球510をスピンドル550に取り付けると直ちに、上述したようにコンピュータ制御しながら荷重を掛ける。流体試験と極圧試験のどちらを実施しようとするかによって、試験実施による摩耗痕径に相当する荷重摩耗指数または融着点を決定することができる。
【0063】
図6に、本発明の方法とシステムの特に有利な態様を図示するが、この態様によって、予測した作動条件または新たな法定要求条件に最も適した耐摩耗性を有する、電子ライブラリに載っている潤滑油組成物を迅速に選別することが可能になる。そのような選別を実行するために、コンピュータ制御装置600は、610に一般的に示すように、以前の最も厳格な要求条件を満たすのに不合格であると選定した組成物を排除し、そして合格であると選定した耐摩耗特性を有する組成物のみを選別するように機能する。620では、選別した群を、現行の要求条件、例えば高くなった荷重及び/又は温度または延びた作動時間が挙げられるが、に従って再度試験してもよい。試験(群)の結果を、工程630に示すように、転送して電子ライブラリに保存することができ、更に640では予測した結果と電子的に比較することができる。比較工程に続いて、650では選別した群を修正し、更には最も好適な耐摩耗特性を示す最適候補にしぼる。
【0064】
しかし、何等かの一定の要求条件に最も適した潤滑油組成物の使用が法外に高い原価と関係してくるかもしれない。工程660に従えば、本発明の方法とシステムによって選別した候補を最適化することが可能になる。選別した潤滑油組成物を最適化することは、満足できるが必ずしもベストではない最小の原価の潤滑油組成物を与えるような添加剤(類)の種類と量を選択することである。言い換えれば、最適化は、上述した方法とシステムに従って電子ライブラリに保存された情報に基づいて、性能を含む試験と原価分析との釣合いをとることである。
【0065】
実用的な見地からは、上述した試験の各々は、稼働エンジンのような実際の機械系統の種々の部分をシミュレートしていることを記憶に留める必要がある。その結果、保存したデータから、ある種の添加剤又は油組成物が特定の試験に使用したときに非常に急勾配の応答を示すことで効果があることが分かる。ゆえに、少なくとも一種の添加剤を少なくとも一種の基油に少量で添加することによって、新たな要求条件を満たす潤滑油組成物を製造することができる。さらに、もう一度種々の添加剤の勾配応答を追跡すると、例えば、多くの添加剤が上述した試験のうちの一タイプには有効であるものの、他の試験に使用すると鼓舞するような結果を生じないことが分かる。この情報を電子ライブラリに保存することによって、一定の試験についての新たな要求条件に応じて多重の潤滑油組成物を迅速に選別することが可能になるだけではなく、この情報によって必要な添加剤の変更を最小原価で算定することも可能になる。
【0066】
例えば、潤滑油組成物に関する摩耗安定度データを関係データベースに保存して、コンビナトリアル潤滑油組成物ライブラリとすることができる。あるいは、システム操作と制御用のコンピュータ・マイクロプロセッサを含む信号データ収集装置にシステムを電気的に接続して、長期間にわたって種々の試験のデータを収集し、コンビナトリアル潤滑油組成物ライブラリにコンパイルしてもよい。データベースは、所望される製品の動向に対して最適な組合せを見つけるのに使用することができ、特に所望される製品の動向が市場要因によって変わる場合に有用であると言える。製品要求条件が変更になったときに、適切な組合せを選択して所望の製品を製造することができる。
【0067】
潤滑油組成物の識別点とそれから得られた酸化安定度の解析データとを相関させるのに、関係データベース・ソフトウェアを使用することができる。多数の市販の関係データベース・ソフトウェア・プログラムが、例えばオラクル(Oracle)、トリポス(Tripos)、MDL、オックスフォード・モレキュラー(Oxford Molecular)(「ケミカル・デザイン」)、IDBS(「アクティビティ・ベース」)、および他のソフトウェア業者から入手できる。
【0068】
関係データベース・ソフトウェアは、本明細書に記載した方法の過程で得られたデータを管理するための好ましいタイプのソフトウェアである。しかし、潤滑油組成物の「メモリマップ」を作製して、その情報を貯蔵安定度測定から得られた情報と相関させることができる任意のソフトウェアを使用することができる。このタイプのソフトウェアも当該分野の熟練者にはよく知られている。
【0069】
以上の記述には数多くの詳細事項が含まれているが、これら詳細事項は、本発明を限定するものとみなすべきではなく、単に本発明の好ましい態様の例示とみなすべきである。当該分野の熟練者であれば、添付した特許請求の範囲で規定した本発明の範囲および真意内で他の多数の態様を思い描くであろう。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のシステムの一例である。
【図2】図1のシステムに従って供給された複数の潤滑油組成物の耐摩耗性を決定して保存する本発明の方法を示す流れ図である。
【図3】図2の方法を実施することが可能な本発明のシステムの一例を示す略図である。
【図4】本発明の方法とシステムに従って複数の摩耗試験を実施することが可能な機構部分の一例として示す試験ピンとV形ブロックの拡大図である。
【図5】本発明の方法とシステムに従って複数の摩耗試験を実施することが可能な機構部分の別の例として示す四球ブロック試験500の等角図である。
【図6】複数の潤滑油組成物の耐摩耗性を決定して保存する図2の本発明の方法の別の態様を示す流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油組成物をプログラム制御下で審査する方法であって、下記の工程からなる方法:
(a)(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる複数の異なる潤滑油組成物試料を用意する工程、
(b)各試料の摩耗安定度を測定して、各試料についての摩耗安定度データとする工程、そして
(c)工程(b)の結果を出力する工程。
【請求項2】
摩耗安定度を測定する工程が、極圧摩耗試験、流体摩耗試験、腐食摩耗試験およびそれらの組合せからなる群より選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
摩耗安定度を測定する工程が更に、摩耗安定度を測定するための種々の条件をプログラム制御に従って選択的に変更する工程を含み、そして種々の条件が、少なくとも一つの試験の時間、少なくとも一つの試験中に生じる荷重、少なくとも一つの試験中に送出される酸の量およびそれらの組合せからなる群より選ばれる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
極圧、流体及び腐食摩耗試験をプログラム制御に従って同時に行う請求項2に記載の方法。
【請求項5】
極圧、流体及び腐食摩耗試験をプログラム制御に従って順次行う請求項2に記載の方法。
【請求項6】
腐食摩耗試験を、プログラム制御に従って極圧及び流体試験のうちの少なくとも一つと同時に行う請求項2に記載の方法。
【請求項7】
さらに、極圧、流体及び腐食摩耗試験の各々の出力した結果を体系化し、それにより複数の潤滑油組成物の各々に関連した出力結果のライブラリを組み立てる工程を含み、そして摩耗試験の各々が、稼働する内燃機関の選択部分又は全体の性能を示すように選択される請求項2に記載の方法。
【請求項8】
さらに、所望の作動条件または法定要求条件から選ばれた基準値を保存し、そして複数の潤滑油組成物の極圧、流体及び腐食摩耗試験のうちの少なくとも一つの出力結果を、プログラム制御に従って保存した基準値と比較する工程を含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
さらに、ライブラリに保存した複数の潤滑油組成物の出力結果の各々に、プログラム制御に従ってその結果と基準値との比較に基づいて「合格/不合格」値を定める工程を含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
さらに、「合格/不合格」値に基づいて一群の潤滑油組成物を選別し、そして選別した潤滑油組成物群の各々の原価分析をして少なくとも一つの最適潤滑油組成物を選別する工程を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
さらに、ライブラリに保存した極圧、流体及び腐食摩耗安定度試験の各々の出力結果の変化を、プログラム制御に従って複数の条件の変更に基づいて解析する工程を含む請求項7に記載の方法。
【請求項12】
解析工程が、プログラム制御に従って、複数の潤滑油組成物の極圧、流体及び腐食摩耗安定度試験の各々の出力結果に関連した勾配を生成させて、複数の条件の変更に応じた潤滑油組成物の性能のパターンを確定することを含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも一種の潤滑油添加剤が、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、清浄剤、さび止め添加剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶剤、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項14】
さらに、プログラム制御に従って、極圧摩耗安定度試験、流体摩耗試験および腐食摩耗試験のうちの少なくとも一つを供するように構成された試験ステーションに、複数の潤滑油組成物を移して、試験する潤滑油組成物の各々の耐摩耗性を決定する工程を含む請求項2に記載の方法。
【請求項15】
さらに、複数の潤滑油組成物の各々を容器それぞれに保管し、そして複数の容器を予め決めた順序で配列する工程を含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ロボット組立装置が、複数の潤滑油組成物の耐摩耗性を決定するためにプログラム制御に従って、複数の容器を順次取り出して試験ステーションに移す請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ロボット組立装置が、複数の潤滑油組成物の耐摩耗性を決定するためにプログラム制御に従って、個々の容器を選択的に取り出して試験ステーションに届ける請求項15に記載の方法。
【請求項18】
さらに、試験ステーションに、極圧、流体及び摩耗安定度試験のうちの少なくとも一つを行うように構成された少なくとも一つの装置を設ける工程を含み、そして装置が、ピンとV形ブロック、四球ブロックおよびそれらの組合せからなる群より選ばれる請求項15に記載の方法。
【請求項19】
潤滑油組成物をプログラム制御下で審査する方法であって、下記の工程からなる方法:
(a)(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる複数の異なる潤滑油組成物試料を用意する工程、
(b)各試料の極圧摩耗安定度を測定して、各試料についての極圧摩耗データとする工程、そして
(c)工程(b)の結果を出力し、それにより電子ライブラリを組み立てる工程。
【請求項20】
潤滑油組成物をプログラム制御下で審査する方法であって、下記の工程からなる方法:
(a)(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる複数の異なる潤滑油組成物試料を用意する工程、
(b)各試料の流体摩耗安定度を測定して、各試料についての流体摩耗安定度データとする工程、そして
(c)工程(b)の結果を出力し、それにより電子ライブラリを組み立てる工程。
【請求項21】
潤滑油組成物をプログラム制御下で審査する方法であって、下記の工程からなる方法:
(a)(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる複数の異なる潤滑油組成物試料を用意する工程、
(b)各試料の腐食摩耗安定度を測定して、各試料についての腐食摩耗安定度データとする工程、そして
(c)工程(b)の結果を出力し、それにより電子ライブラリを組み立てる工程。
【請求項22】
複数の潤滑油組成物を審査するためのシステムであって、下記の手段を含むシステム:
(a)複数の試験容器であって、各試験容器には異なる潤滑油組成物が含まれ、各潤滑油組成物は(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤とからなる、
(b)複数の潤滑油組成物の各々を、潤滑油組成物の各々の摩耗安定度を測定するための試験ステーションに別個に位置させるように構成された移動装置、および
(c)試験ステーションに連結していて、複数の潤滑油組成物の各々の摩耗安定度の測定値を受信して保存するように構成された制御装置。
【請求項23】
制御装置が、複数の潤滑油組成物の各々の摩耗安定度の測定値を自動的に受信して保存するソフトウェアを備えている請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
制御装置が、試験ステーションで処理された複数の潤滑油組成物の各々の保存された摩耗安定度の測定値を電子ライブラリに組み立てるソフトウェアを備えている請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
試験ステーションが、複数の潤滑油組成物の各々の摩耗安定度を測定するために少なくとも一つの摩耗安定度試験を行うように構成された少なくとも一つの装置を含んでいる請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
少なくとも一つの摩耗安定度試験が、極圧試験、流体試験、腐食試験およびそれらの組合せからなる群より選ばれ、少なくとも一つの装置が、ソフトウェアを有する制御装置に連結していて、ソフトウェアは該装置で、少なくとも一つの摩耗安定度試験に関する複数の条件を選択的に変更することを実行し、そして複数の条件が、少なくとも一つの摩耗安定度試験の時間、少なくとも一つの摩耗安定度試験中に生じる荷重、少なくとも一つの摩耗安定度試験中に送出される酸の量およびそれらの組合せからなる群より選ばれる請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
さらに、制御装置に連結していて、複数の潤滑油組成物の極圧、流体及び腐食試験の各々を行うように構成された少なくとも一つの追加装置を含む請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
少なくとも一つの追加装置が少なくとも一つの装置と同時に稼働し、そして制御装置が、該装置の各々が極圧、流体及び腐食摩耗安定度試験からなる群より選ばれた試験それぞれを行うように、同時に稼働する装置の各々を制御するべく制御装置で機能するソフトウェアを備えている請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
同時に稼働する装置が各々、同時に稼働する装置のうちの別の一つで行われる試験とは異なった、極圧、流体及び腐食試験のそれぞれを行う請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
同時に稼働する装置のうちの一つが、腐食試験を極圧試験と流体試験のうちの一つと同時に行うように構成されている請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
制御装置が、複数の潤滑油組成物のそれぞれの極圧、流体及び腐食試験の各々の結果の変化の割合を解析して多群の組成物を選別するべく制御装置で機能するソフトウェアを有し、そして多群の各々には、極圧、流体及び腐食試験のうちの特定の一つに良く適した潤滑油組成物が含まれる請求項26に記載のシステム。
【請求項32】
制御装置が更に、選別した多群のそれぞれに含まれる潤滑油組成物の各々の原価と、選別した群の潤滑油組成物の各々の摩耗安定度結果それぞれとのバランスをとることにより、選別した多群の各々を最適化するべく制御装置で機能するソフトウェアを有する請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
複数の潤滑油組成物各々が試験容器それぞれに含まれている請求項22に記載のシステム。
【請求項34】
移動装置が、試験容器の各々をしっかりと掴んで試験ステーションに届けるように構成されたロボットアームを含んでいる請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
各試験受け器の外側表面にバーコードが付けられている請求項33に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−514801(P2007−514801A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538335(P2006−538335)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/036071
【国際公開番号】WO2005/042765
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】