説明

潤滑油組成物

【課題】特に走行用燃料として低硫黄含有量の炭化水素系燃料を用いる内燃機関の潤滑に好適に用いられる低硫黄含有量の潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】基油に少なくとも、下記の成分a)乃至e)が溶解もしくは分散され、硫黄含有量が0.5質量%以下である内燃機関用の潤滑油組成物:a)アルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤、b)アルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体である無灰性分散剤、c)塩基性窒素化合物のモリブデン錯体、d)全塩基価が10〜400mgKOH/gのアルカリ土類金属含有清浄剤、そしてe)摩耗防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどの内燃機関の潤滑に有用な潤滑油組成物に関する。本発明は特に、低硫黄含有量の炭化水素燃料を用いて走行する自動車の内燃機関の潤滑に際して摩擦を低減し、かつ良好な高温清浄性を示す低硫黄含有量(約0.5質量%以下、特に、約0.2質量%以下)の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の運転のために用いるガソリンやディーゼル燃料油(軽油)などの燃料に混在する硫黄分は、燃料の燃焼時に酸化されて硫酸などの硫黄酸化物になり、その一部は、内燃機関の潤滑のために用いられる潤滑油に混入し、その他は、燃焼ガスと一緒に排気ガスとして排出される。排気ガスと共に大気中に排出された硫黄酸化物は、大気汚染の原因となることから、従来より、燃料に含まれる硫黄分(硫黄含有量)の規制が行なわれている。この硫黄分の規制は当初はガソリンエンジン用の燃料であるガソリンについて行なわれたが、次いで硫黄含有量の高いディーゼル燃料油についても行なわれるようになってきており、近年ではディーゼル燃料油については、硫黄含有量の上限が0.0010質量%とされている。
【0003】
燃料の硫黄含有量の低下が進めば、燃料の燃焼により生成する硫酸等の硫黄酸化物の潤滑油への混入量が少なくなるため、それらの硫黄酸化物を中和するために必要とされる潤滑油中の過塩基性金属系清浄剤(過塩基性金属含有清浄剤)の添加量を少なくすることができる。
【0004】
なお、燃料のみではなく、潤滑油の一部も、エンジン内で燃焼し、その燃焼ガスは、排気ガスの一部として排出されることも知られている。従って、潤滑油中の硫黄分もまたできるだけ低くする方が好ましい。なお、近年使用されている内燃機関用潤滑油の大部分は、基油とよばれる潤滑粘度の炭化水素油に、潤滑油に混入する硫黄酸化物の中和に有効な過塩基性金属含有清浄剤、高温下に置かれる基油の劣化を防ぐための酸化防止剤、燃料の燃料残査(煤)や基油の劣化や金属含有清浄剤の劣化により発生する残査を基油中に分散させるために有効な分散剤、ピストンとシリンダとの焼き付きを防ぐための極圧剤、そしてピストンとシリンダとの間に発生する摩擦を低減させるための摩擦緩和剤(摩擦調整剤)などの各種の添加成分(潤滑油添加剤)を添加した潤滑油組成物として供給されている。
【0005】
潤滑油組成物に配合される潤滑油添加剤に含まれるリン分や金属分もまた潤滑油組成物の燃焼によってリン酸化物や金属酸化物として排気ガスに混入する。そして、この排気ガス中のリン酸化物や金属酸化物は、排気ガス処理装置に充填される酸化触媒あるいは還元触媒を被毒させ、触媒活性を低下させることが知られている。
【0006】
従って、近年、潤滑油の灰分含量、リン含量、そして硫黄含量の低下の要求が高まっている。これらの要求に答える潤滑油として、特許文献1には、低硫黄含有量の燃料を用いた内燃機関、特にディーゼルエンジン、の潤滑に適した潤滑油組成物が開示されており、その潤滑油組成物は、硫黄含有量0.1質量%以下(好ましくは0.03質量%以下)の基油に少なくとも、組成物の全質量に基づき、
a)アルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤が窒素含有量換算値で0.01〜0.3質量%、
b)硫黄含有量が3質量%以下で全塩基価10〜350mgKOH/gの金属含有清浄剤(いわゆる金属系清浄剤)が硫酸灰分換算値で0.1〜1質量%、
c)ジアルキルジチオリン酸亜鉛が、リン含有量換算値で0.01〜0.12重量%、そして
d)酸化防止性のフェノール化合物および/または酸化防止性のアミン化合物が0.01〜5質量%、
の量にて溶解もしくは分散されていて、組成物の全質量に基づき、硫酸灰分量が0.1〜1質量%の範囲、リン含有量が0.01〜0.1質量%の範囲、そして硫黄含有量が0.01〜0.3質量%の範囲にあって、塩素含有量が40質量ppm以下であり、さらに金属含有清浄剤に含まれる有機酸金属塩が組成物中に0.2〜7質量%(好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは1.0〜3質量%)存在することを特徴とするものである。そして、この特許文献1に記載の実施例では、上記の組成の潤滑油組成物は、エンジン油として使用した場合に優れた高温清浄性を示すことが明らかにされている。
なお、この特許文献1には、潤滑油組成物に、摩擦調整剤、酸化防止剤、そして摩耗防止剤として機能する多機能添加剤として、モリブデン含有化合物を用いることができる旨の記載がある。このような多機能添加剤として有用なモリブデン含有化合物としては、特許文献1にも記載があるが、従来より、硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、硫黄分を含むか、あるいは含まないこはく酸イミドのモリブデン錯体が知られている。
【0007】
特許文献2には、低灰分、低リンおよび低硫黄の潤滑油、特に内燃機関用潤滑油(エンジン油)として、基油に、エチレンカーボネートで処理した無灰分散剤、ホウ酸塩で処理した無灰分散剤、高塩基性金属含有清浄剤、そしてリン含有化合物を配合した潤滑油組成物が記載されている。そして、この潤滑油組成物には、さらにモリブデン−こはく酸イミド錯体を配合することができることも記載されている。なお、特許文献2の実施例では、この潤滑油組成物が、優れた酸化安定性と共に優れた耐摩耗性を示すことが実験データにより明らかにされている。
【0008】
特許文献3には、低灰分、低リン及び低硫黄のエンジン油として、低硫黄含有量の基油に、ホウ素含有無灰分散剤、モリブデン含有摩擦低減剤、スルホネート、フェネート、サリシレートなどの金属系清浄剤、そしてジチオリン酸亜鉛を添加したエンジン潤滑油組成物が記載されている。なお、この特許文献3には、モリブデン含有摩擦低減剤として、モリブデンジオルガノジチオカーバメート、モリブデンジオルガノジチオホスフェート、モリブデンカルボキシレート、そしてMo37(dtc)4、Mo34(dtc)4で表わされる三核モリブデン化合物が例示されている。そして、この特許文献3に記載の潤滑油組成物については、その実施例にて、モリブデン化合物として、上記の三核モリブデン化合物を用いた潤滑油組成物が優れた高温酸化防止性と摩擦低減特性を示すことが実験データにより明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−53888号公報
【特許文献2】特開2004−149802号公報
【特許文献3】特表2005−516106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、潤滑油組成物に添加する摩擦調整剤として、モリブデン化合物が有効であることは既に知られている。なかでも、モリブデンジオルガノジチオカーバメートとモリブデンジオルガノジチオホスフェートは、モリブデン含有摩擦調整剤として一般的に使用されているが、前者は、分子構造中に硫黄(S)が含まれ、後者は分子構造中にリン(P)が含まれているため、潤滑油組成物に添加した場合に、潤滑油組成物の燃焼により硫黄酸化物ガスやリン酸化物ガスが発生し、排気ガス処理装置の触媒の被毒をもたらすという欠点がある。また、上記特許文献3によると、Mo37(dtc)4、Mo34(dtc)4で表わされる三核モリブデン化合物が優れた摩擦調整作用(摩擦緩和作用)を示すことが明らかにされているが、この三核モリブデン化合物は、配位子として機能する「dtc(ジチオカーバメート)」の分子構造に含まれる硫黄分に加えてモリブデンに配位する硫黄原子が含まれることから、化合物全体としての硫黄含有量が高く、このため、潤滑油組成物の低硫黄含量を進めるためには好ましいとは云えない。
【0011】
本発明は、従来より優れた摩擦緩和作用を示すことが知られている、モリブデンジオルガノジチオカーバメート、モリブデンジオルガノジチオホスフェート、そしてMo37(dtc)4、Mo34(dtc)4で表わされる三核モリブデン化合物などのような高い割合で硫黄やリンが含まれている摩擦緩和剤に代わる、硫黄やリンを含まないか、あるいは硫黄やリンの含有量が相対的に少ないモリブデン含有摩擦緩和剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述のように、モリブデン−こはく酸イミド錯体のような塩基性窒素化合物のモリブデン錯体もモリブデン含有摩擦緩和剤として有効であることは既に知られている。
本発明の発明者の研究により、この塩基性窒素化合物のモリブデン錯体の摩擦緩和作用は、無灰分散剤として知られているアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体、そして同じく無灰分散剤として知られているアルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体を特定の範囲の量にて組合せて潤滑油組成物に添加すると、顕著に向上することを見出し、本発明に到達した。なお、上記の塩基性窒素化合物のモリブデン錯体をこはく酸イミドあるいはその誘導体と組合せて潤滑油組成物に添加した場合(すなわち、さらにこはく酸エステルあるいはその誘導体を組合せることをしなかった場合)には、潤滑油組成物の高温酸化防止性は向上するが、摩擦係数の低減には殆ど有効でないことが判明した。
【0013】
本発明は、基油に少なくとも、下記の成分a)乃至e)が溶解もしくは分散されていて、硫黄含有量が0.5質量%以下である内燃機関の潤滑のための潤滑油組成物にある。
a)0.5〜5.0質量%のアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤、
b)0.5〜5.0質量%のアルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体である無灰性分散剤、
c)モリブデン量として50〜1200質量ppmとなる量の塩基性窒素化合物のモリブデン錯体、
d)アルカリ土類金属量として0.05〜1.0質量%となる量の全塩基価が10〜400mgKOH/gのアルカリ土類金属含有清浄剤、そして
e)0.05〜5.0質量%の摩耗防止剤。
【0014】
本発明はまた、上記の本発明の潤滑油組成物を用いて、硫黄分が0.001質量%以下の燃料油を用いて運転される陸上走行用の車両に搭載された内燃機関を作動させる方法にもある。
【0015】
本発明の潤滑油組成物の好ましい態様を次に記載する。
(1)潤滑油組成物の硫黄含有量が0.01以上、0.2質量%である。
(2)潤滑油組成物の硫黄含有量が0.05以上、0.12質量%以下である。
(3)潤滑油組成物が、粘度指数向上剤を含有し、SAE粘度グレードが、0W5、0W10、0W15、0W20、0W30、5W20、5W30、10W20、もしくは10W30のマルチグレードエンジン油とされている。
(4)成分a)のアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤の含有量が1.0質量%以上、4.0質量%以下である。
(5)成分b)のアルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体である無灰性分散剤の含有量が1.0質量%以上、4.0質量%以下である。
(6)成分a)のアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤と成分b)のアルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体である無灰性分散剤との質量比が1:4〜4:1の範囲にある。
(7)成分c)の塩基性窒素化合物のモリブデン錯体が、1質量%を超えない量の硫黄を含有する。
(8)成分c)の塩基性窒素化合物のモリブデン錯体が、0.05質量%以上、0.5質量%以下の硫黄を含有する。
(9)成分c)の塩基性窒素化合物のモリブデン錯体が、こはく酸イミドのモリブデン錯体である。
(10)成分d)のアルカリ土類金属含有清浄剤が、アルカリ土類金属のサリシレートを含む。
(11)摩耗防止剤がジアルキルジチオリン酸亜鉛である。
(12)酸化防止剤を含む。
(13)潤滑油組成物が、硫黄分が0.001質量%以下の燃料油を用いて運転される内燃機関の潤滑用である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の潤滑油組成物は、摩擦調整剤として、塩基性窒素化合物のモリブデン錯体(少量の硫黄を含有していてもよい)に、無灰分散剤として知られているアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体そして同じく無灰分散剤として知られているアルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体と特定の範囲の量の関係にて組合せた組成物を用いるため、潤滑油組成物の硫黄含有量を低いレベルにすることができる。一方、本発明の潤滑油組成物は、優れた摩擦緩和作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の潤滑油組成物における基油としては、通常、100℃における動粘度が2〜50mm2/sの鉱油や合成油が用いられる。この鉱油や合成油の種類、あるいはその他の性状については特に制限はないが、基油として、硫黄含有量が0.1質量%以下である必要がある。この硫黄含有量は0.03質量%以下であることが望ましく、特に0.005質量%以下であることが望ましい。
【0018】
鉱油系の基油は、鉱油系潤滑油留分を溶剤精製あるいは水素化処理などの処理方法を適宜組み合わせて利用して処理したものであることが望ましく、特に高度水素化精製基油(例えば、粘度指数が100〜150、芳香族含有量が5質量%以下、窒素および硫黄の含有量がそれぞれ50質量ppm以下である基油)が好ましく用いられる。とりわけ、スラックワックスやGTLワックスを水素化異性化して得られる高粘度指数基油(例えば、粘度指数140−160)は特に好適に用いられる。
【0019】
合成油(合成潤滑油基油)としては、例えば炭素数3〜12のα−オレフィンの重合体であるポリ−α−オレフィン、ジオクチルセバケートに代表されるセバシン酸、アゼライン酸、アジピン酸などの二塩基酸と炭素数4〜18のアルコールとのエステルであるジアルキルジエステル、1−トリメチロールプロパンやペンタエリスリトールと炭素数3〜18の一塩基酸とのエステルであるポリオールエステル、炭素数9〜40のアルキル基を有するアルキルベンゼンなどを挙げることができる。一般に合成油は実質的に硫黄分を含まず、酸化安定性、耐熱性に優れ、一旦燃焼すると残留炭素や煤の生成が少ないので、本発明の潤滑油組成物には特に好ましい。
【0020】
鉱油系基油および合成系基油は、それぞれ単独で使用することができるが、所望により、二種以上の鉱油系基油、あるいは二種以上の合成系基油を組合わせて使用することもできる。また、所望により、鉱油系基油と合成系基油とを任意の割合で組合わせて用いることもできる。
【0021】
本発明の潤滑油組成物には、少なくとも二種類の無灰性分散剤、すなわち、a)成分としてアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体、そしてb)成分としてアルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体がいずれも0.5〜5.0質量%の範囲の量(潤滑油組成物の全量に対するパーセント)、好ましくは1.0〜4.0質量%の範囲の量、にて含有されている。a)成分の無灰性分散剤とb)成分の無灰性分散剤とは、好ましくは、質量比で1:4〜4:1、特に好ましくは1:2〜2:1の範囲内の量比にて使用される。
【0022】
上記のa)成分のアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体としては、公知のアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体を用いることができる。たとえば、ポリオレフィンから誘導されるアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体が用いられる。代表的なこはく酸イミドは、高分子量のアルケニルもしくはアルキル基で置換された、こはく酸無水物と1分子当り平均4〜10個(好ましくは5〜7個)の窒素原子を含むポリアルキレンポリアミンとの反応により得ることができる。高分子量のアルケニルもしくはアルキル基は、数平均分子量が約900〜3000のポリブテン(特にビニリデン末端を有する高反応性ポリブテン)から誘導されたものであることが好ましい。
【0023】
ポリブテンと無水マレイン酸との反応により、ポリブテニルこはく酸無水物を得る工程では、多くの場合、塩素を用いる塩素化法が用いられている。しかし、この方法では、こはく酸イミド最終製品中に多量の塩素(例えば約2000〜3000質量ppm)が残留する結果となる。一方、塩素を用いない熱反応法では、最終製品中に残る塩素を極めて低いレベル(例えば0〜30質量ppm)に抑えることができる。従って、潤滑油組成物中の塩素含有量を0〜30質量ppmの範囲の量に抑えるためには、熱反応法によって得られたポリブテニルこはく酸無水物からのこはく酸イミドを用いることが望ましい。こはく酸イミドは更にホウ酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、有機酸等と反応させ、いわゆる変性こはく酸イミドとすることができる。特に、ホウ酸あるいはホウ素化合物との反応で得られるホウ素含有アルケニル(もしくはアルキル)こはく酸イミドは、熱・酸化安定性が高く、有利に使用される。
【0024】
上記のb)成分のアルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体としては、公知のアルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体を用いることができる。たとえば、ポリオレフィンから誘導されるアルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体が用いられる。代表的なこはく酸エステルは、高分子量のアルケニルもしくはアルキル基で置換された、こはく酸無水物と1分子当り1〜6個のヒドロキシル基を含むアルコールとの反応により得ることができる。高分子量のアルケニルもしくはアルキル基は、数平均分子量が約900〜3000のポリブテン(特にビニリデン末端を有する高反応性ポリブテン)から誘導されたものであることが好ましい。
【0025】
本発明の潤滑油組成物は、上記のa)成分の無灰性分散剤とb)成分の無灰性分散剤に加えて、アルケニルベンジルアミン系無灰性分散剤などの他の無灰性分散剤を組合わせて用いることができる。
【0026】
本発明の潤滑油組成物は、c)成分として、公知のモリブデン含有多機能分散剤である塩基性窒素化合物のモリブデン錯体を、モリブデン量として50〜1200質量ppmとなる量にて含有する。塩基性窒素化合物のモリブデン錯体は少量の硫黄分が含まれていてもよい。
【0027】
上記の塩基性窒素化合物のモリブデン錯体は、潤滑油組成物中で、主として酸化防止剤、摩耗防止剤あるいは摩擦調整剤として機能し、また高温での清浄性の向上に寄与する。
【0028】
上記の塩基性窒素化合物のモリブデン錯体としては、酸性モリブデン化合物と塩基性窒素化合物の反応生成物であるオキシモリブデン錯体が好ましく用いられる。ここで酸性モリブデン化合物の例としては、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸アルカリ金属塩が挙げられる。また、塩基性窒素化合物の例としては、こはく酸イミド、カルボン酸アミド、ヒドロカルビルアミン、マンニッヒ塩基化合物が挙げられる。塩基性窒素化合物のモリブデン錯体の例としては、こはく酸イミドのモリブデン錯体そして二級脂肪族アミンのモリブデン錯体を挙げることができる。
【0029】
塩基性窒素化合物のモリブデン錯体は少量の硫黄もしくは硫黄化合物との反応生成物として用いることもできる。特にこはく酸イミドのオキシモリブデン錯体の低温硫黄化反応生成物は好ましい。なお、本発明の潤滑油組成物の目的を考慮すると硫黄含有量を高くすることは好ましくないため、硫黄含有量はモリブデン量の10質量%以下とすることが好ましい。硫化オキシモリブデン錯体の製造方法は、例えば、米国特許第6562765B1明細書の実施例C〜Hに記載がある。なお、塩基性窒素化合物のモリブデン錯体は特に酸化防止剤として知られているが、上記の米国特許第6562765B1明細書に開示されているように、摩擦低減剤としての作用を示す。
【0030】
なお、本発明の潤滑油組成物には、さらに、硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、そしてオキシモリブデンモノグリセリドなどの他のモリブデン含有化合物を併用することもできる。
【0031】
本発明の潤滑油組成物には、d)成分として、全塩基価が10〜400mgKOH/gのアルカリ土類金属含有清浄剤を、アルカリ土類金属量として0.05〜1.0質量%となる量にて含有する。
【0032】
本発明の潤滑油組成物におけるd)成分の全塩基価が10〜400mgKOH/gのアルカリ土類金属含有清浄剤としては、公知のアルカリ土類金属含有清浄剤を用いることができるが、特に好ましいのは、アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤である。このアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤は、該アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤に含まれる有機酸金属塩が組成物中に0.2〜7質量%(好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは1.0〜3質量%)存在することが好ましい。該アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤は、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤を含有することが好ましい。炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤は、炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤と組合わせて使用してもよい。なお、本発明において、炭素原子数が14〜18の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤とは、非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩に含まれるアルキル基のうち90モル%以上が、炭素原子数が14〜18のアルキル基である非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤を意味する。上記の炭素原子数が20〜28の範囲のアルキル基を有する非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤についても同様で、非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩に含まれるアルキル基のうち90モル%以上が、炭素原子数が20〜28のアルキル基である非硫化アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤を意味する。
【0033】
非硫化のアルキルサリチル酸カルシウム塩は、所定の炭素原子数のα−オレフィンとフェノールの反応で得られるアルキルフェノールからコルベ・シュミット反応を利用して製造されるアルキルサリチル酸のカルシウム塩であることが好ましい。通常、さらに消石灰と炭酸ガスを用いた過塩基化工程により、全塩基価を高めた過塩基性カルシウムサリシレートがサリチル酸カルシウム塩清浄剤として用いられる。
【0034】
また、アルキルフェノールを直接中和してCa塩にし、炭酸化工程で直接アルキルサリチル酸カルシウム塩を得る方法もある。
【0035】
上記のアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤は、該アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤に含まれる有機酸金属塩が組成物中に0.2〜7質量%(好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは1.0〜3質量%)存在するように、アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤の種類と添加量とを定めることが好ましい。アルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤は、油性媒体中に、有機酸金属塩(一般的に石鹸成分あるいはソープ分と呼ばれている)と、その有機酸金属塩の周囲に凝集している塩基性無機塩微粒子(例、炭酸カルシウム微粒子)を分散状態で含む油性分散物(油性媒体の含有量は、通常30〜50質量%前後である)である。潤滑油組成物へのアルキルサリチル酸カルシウム塩清浄剤の添加量を減らしても、その潤滑油組成物中の有機酸金属塩の存在量が一定レベル以上に維持されていれば、その潤滑油組成物の高温清浄性(高温環境下でエンジンの内部を清浄に維持する能力)の低下は大きくはない。
【0036】
一方、アルカリ土類金属含有清浄剤として、炭素−窒素結合を有する有機酸あるいはフェノール誘導体のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩も用いることができる。なお、一般にアミン化合物を反応させることにより、塩基性の窒素に由来する塩基価が得られ、低灰分でも高い塩基価が得られ有利となる。例えば、アミノカルボン酸の金属塩等のさまざまなものが考えられるが、特に、マンニッヒ塩基構造を有する非硫化のアルキルフェネート(アルカリ土類金属塩)が有効である。この化合物は、通常、アルキルフェノール、ホルムアルデヒド、アミンあるいはアミン化合物を用い、マンニッヒ反応により合成し、フェノールの環のアミノメチル化により得られる反応物を水酸化カルシウム等の塩基で中和し、金属塩にすることによって得ることができる。
【0037】
アルカリ土類金属含有清浄剤としては、石油スルホン酸あるいはアルキルベンゼンスルホン酸もしくはアルキルトルエンスルホン酸のアルカリ土類金属塩であるスルホネートも用いることができる。
【0038】
アルカリ土類金属含有清浄剤としては、硫化フェネート、すなわち、硫化アルキルフェノールのアルカリ土類金属塩も用いることができる。
【0039】
本発明の潤滑油組成物にはさらに、e)成分として、0.05〜5.0質量%の摩耗防止剤が含まれる。摩耗防止剤としては、特に限定するものではないが、一般には、公知の硫黄系摩耗防止剤あるいはリン系摩耗防止剤が用いられる。硫黄系摩耗防止剤の例としては、硫化オレフィン、ポリサルファイド化合物、硫化エステル、硫化アルコール、硫化アミド、硫化油脂、無灰性ジチオカーバメート、モリブデン以外の金属のジチオカーバメート、メルカプトチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトチアゾリンを挙げることができる。また、リン系摩耗防止剤としては、リン酸エステル、亜リン酸エステル、チオリン酸エステル、ジチオリン酸エステル、これらのアミン塩あるいは金属塩であるジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルチオリン酸亜鉛、ジアルキルリン酸亜鉛を挙げることができる。
【0040】
本発明の潤滑油組成物におけるe)成分の摩耗防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛あるいはジヒドロカルビルリン酸亜鉛などのリン酸亜鉛摩耗防止剤を用いることが好ましい。これらのリン酸亜鉛摩耗防止剤の基本的な製造方法と特性については既に詳しく知られている。このリン酸亜鉛摩耗防止剤が、リン含有量換算値で0.01〜0.12質量%の範囲で用いるが、低リン含量と低硫黄含量の観点からは、0.01〜0.06質量%の範囲の量で用いることが好ましい。
【0041】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、炭素原子数3〜18のアルキル基もしくは炭素原子数3〜18のアルキル基を含むアルキルアリール基を有することが望ましい。特に好ましいのは、摩耗の抑制に特に有効な、炭素原子数3〜18の第二級アルコールから誘導されたアルキル基、あるいは炭素原子数3〜18の第一級アルコールと炭素原子数3〜18の第二級アルコールとの混合物から誘導されたアルキル基を含むジアルキルジチオリン酸亜鉛である。第一級アルコールからのジアルキルジチオリン酸亜鉛は耐熱性に優れる傾向がある。これらのジチオリン酸亜鉛は、単独で用いてもよいが、第二級アルキル基タイプのものおよび/または第一級アルキル基タイプのものを主体とする混合物で用いることが好ましい。
【0042】
本発明の潤滑油組成物は、さらに酸化防止性のフェノール化合物、酸化防止性のアミン化合物などの酸化防止剤を0.01〜5質量%(好ましくは0.1〜3質量%)の範囲で含むことが好ましい。一般に、低灰分、低リンかつ低硫黄の潤滑油組成物は、金属系清浄剤およびジチオリン酸亜鉛の含有量が少なくなるため、高温清浄性や酸化安定性あるいは耐摩耗性の低下が起こりやすい。従って、これらの性能を維持するために酸化防止剤の添加が好ましい。酸化防止剤としては、ジアリールアミン系酸化防止剤及び/またはヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤は高温清浄性の向上にも効果的である。特にジアリールアミン系酸化防止剤は、窒素に由来する塩基価を有しているので、この点で有利である。一方、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、NOx酸化劣化の防止に有利である。
【0043】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(6−t−ブチル−o−クレゾール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、そして3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシルなどのヒンダードフェノール類を挙げることができる。
【0044】
ジアリールアミン系酸化防止剤の例としては、炭素原子数が4〜9の混合アルキルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、アルキル化−α−ナフチルアミン、そしてアルキル化−フェニル−α−ナフチルアミンなどのジアリールアミン類を挙げることができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤とジアリールアミン系酸化防止剤とは、それぞれ単独で使用することができるが、所望により組合せて使用する。また、これら以外の油溶性酸化防止剤を併用してもよい。
【0045】
一方、アルカリ金属ホウ酸塩水和物の添加も、高温清浄性あるいは塩基価の付与の点で効果的である。アルカリ金属ホウ酸塩水和物は、米国特許3929650および4089790に記載されている方法により合成される化合物に代表される化合物を表す。例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属中性スルホネートをアルカリ金属水酸化物の存在下で炭酸化して過塩基性スルホネートを得、これにホウ酸を反応させて得られるアルカリ金属ホウ酸塩の微粒子分散体(炭酸化反応の時、こはく酸イミドのような無灰性分散剤を共存させるのが望ましい)を挙げることができる。ここでアルカリ金属としては、カリウム、ナトリウムなどが望ましい。具体例として、中性カルシウムスルホネートおよびこはく酸イミド系に分散させた組成式:KB35・H2Oで表される粒径約0.3μm以下の微粒子分散体を挙げることができる。耐水性の点からは、カリウムをナトリウムで置換したものも良好に用いられる。
【0046】
本発明の潤滑油組成物は更に、粘度指数向上剤を20質量%以下(好ましくは1〜20質量%の範囲)の量で含むことが望ましい。粘度指数向上剤の例としては、ポリアルキルメタクリレート、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、そしてポリイソプレンなどの高分子化合物を挙げることができる。あるいは、これらの高分子化合物に分散性能を付与した分散型粘度指数向上剤もしくは多機能型粘度指数向上剤を用いることができる。これらの粘度指数向上剤は単独で用いることができるが、任意の粘度指数向上剤を二種以上を組合せて使用しても良い。
【0047】
本発明の潤滑油組成物は更に、各種の補助的な添加剤を含んでいてもよい。そのような補助的な添加剤の例としては、金属不活性剤として機能するベンゾトリアゾール系化合物やチアジアゾール系化合物などの化合物を挙げることができる。また、防錆剤あるいは抗乳化剤として機能するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体などのポリオキシアルキレン非イオン性の界面活性剤を添加することもできる。また、消泡剤や流動点降下剤として機能する各種化合物を添加することもできる。なお、これらの補助的な添加剤は、潤滑油組成物に対して、それぞれ3質量%以下(特に、0.001〜3質量%の範囲)の量にて使用することが望ましい。
【実施例】
【0048】
(1)潤滑油組成物(試験油)の製造
性能評価に供する潤滑油組成物として、下記の基油と添加剤成分とを用いて、硫黄含有量が0.5質量%以下の潤滑油組成物を下記処方により製造した。潤滑油組成物は、粘度指数向上剤の添加により、5W30の粘度グレード(SAE粘度グレード)を示すように調整された。
【0049】
(2)基油及び添加剤
1)基油(下記基油Aと基油Bの質量比で46:54の混合物)
基油A:100℃での動粘度が6.4mm2/sで、粘度指数が132、飽和成分が92質量%、硫黄含有量が0.001質量%未満の水素化分解基油
基油B:100℃での動粘度が4.1mm2/sで、粘度指数が127、飽和成分が92質量%、硫黄含有量が0.001質量%未満の水素化分解基油
2)添加剤
【0050】
無灰性分散剤A:炭酸エチレン反応処理こはく酸イミド系分散剤(窒素含量:0.85質量%、数平均分子量約2200のポリブテンと無水マレイン酸との熱反応によりポリイソブテニルこはく酸無水物を生成させ、ついでこのポリイソブテニルこはく酸無水物約2モルと平均窒素原子数6.5個(1分子当り)のポリアルキレンポリアミンとを反応させてビスタイプこはく酸イミドを生成させ、最後にこれをエチレンカーボネートで反応処理したもの)
無灰性分散剤B:こはく酸エステル分散剤(TAN:5mgKOH/g、数平均分子量が約1000のポリブテンと無水マレイン酸との熱反応によりポリイソブテニルこはく酸無水物を生成させ、ついでこのポリイソブテニルこはく酸無水物約1.14モルとペンタエリスリトール1モルとを反応させて得たアルケニルこはく酸エステル)
【0051】
こはく酸イミドMo錯体:数平均分子量約1000のポリイソブテンから誘導されたモノタイプのアルケニルこはく酸イミドとモリブデン酸との反応により得られたモリブデン錯体に少量の硫黄を反応させて得た化合物(モリブデン含量:4.5質量%、窒素含量2.1質量%、硫黄含量:0.16質量%)
MoDTC:硫化オキシモリブデンジアルキルジチオカーバメート(モリブデン含量:10質量%、硫黄含量:11質量%)
【0052】
カルシウム含有清浄剤A:モノアルキル(炭素原子数:約14〜18)サリチル酸カルシウム塩(過塩基化度:2.0、カルシウム含量:6.2質量%、硫黄含量:0.12質量%)
カルシウム含有清浄剤B:モノアルキル(炭素原子数:約20〜28)サリチル酸カルシウム塩(過塩基化度:8.2、カルシウム含量:11.4質量%、硫黄含量:0.17質量%)
カルシウム含有清浄剤C:ニュートラルタイプのカルシウムスルホネート(カルシウム含量:2.4質量%、硫黄含量:2.7質量%)
【0053】
ZnDTP:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(リン含量:7.2質量%、硫黄含量:14.4%、原料として炭素原子数4と6の第二級アルコールを使用)
【0054】
酸化防止剤:ジアルキルジフェニルアミン系酸化防止剤とヒンダードフェノールプロピオン酸エステル系酸化防止剤との混合物
粘度指数向上剤(非分散型のエチレンプロピレン共重合体、Paratone8057)
【0055】
(3)摩擦係数の測定
往復動摩擦試験機(HFRR)を用い、下記の測定条件にて、試験油の摩擦係数を測定した。
油温:105℃、荷重:400g、摩擦距離:1000μm、往復動周期:20Hz、測定時間:1時間
【0056】
(4)高温堆積物生成防止性
ホットチューブ試験機(HTT)を用い、下記の測定条件にて、試験油の高温堆積物(デポジット)の生成を防止する能力を評価した。なお、評価はメリット法(10点満点)による評点で行なった。従って、評点が高いほど、高温堆積物生成の防止能力が高いことを意味する。
内径2mmのガラス管をヒータブロック内に垂直に配置し、このガラス管の下部から、試験油を0.31cc/時、そして空気を10cc/分の流速にて送り込んだ。なお、この操作はヒータ部の温度を280℃に維持して16時間行なった。その後、ガラス管をヒータブロックから取り外し、石油エーテルで洗浄したのち乾燥し、ガラス管の内面に付着した堆積物を観察し、メリット法による評点を付けた。
【0057】
(5)試験油の組成及び評価結果
試験油の組成と評価結果を下記の第1表に示す。
【0058】
第1表
────────────────────────────────────
実施例1 比較例1 比較例2
────────────────────────────────────
無灰性分散剤A
(質量%) 3.0 5.5 3.0
無灰性分散剤B
(質量%) 2.5 − 2.5
こはく酸イミドMo錯体
(Mo換算質量ppm) 220 220 −
MoDTC
(Mo換算質量ppm) − − 220
カルシウム含有清浄剤A
(Ca換算質量%) 0.19 0.19 0.19
カルシウム含有清浄剤B
(Ca換算質量%) 0.06 0.06 0.06
カルシウム含有清浄剤C
(Ca換算質量%) 0.01 0.01 0.01
ZnDTP
(P換算質量%) 0.04 0.04 0.04
酸化防止剤
(質量%) 1.0 1.0 1.0
粘度指数向上剤
(質量%) 5.0 5.0 5.0
基油 残余 残余 残余
────────────────────────────────────
硫黄含有量(質量%) 0.11 0.11 0.13
────────────────────────────────────
摩擦係数 0.05 0.12 0.05
────────────────────────────────────
高温堆積物生成評点 7.5 7.5 5.5
────────────────────────────────────
【0059】
第1表に示した結果から、本発明に従う潤滑油組成物(実施例1の試験油)は、こはく酸イミドMo錯体をこはく酸イミド分散剤(無灰分散剤A)と組合せたが、こはく酸エステル分散剤(無灰分散剤B)と組合せなかった潤滑油組成物(比較例1の試験油)と比較すると、高温堆積物生成防止能力については同等であるが、明らかに低い摩擦係数を示すこと、そしてこはく酸イミドMo錯体を同量のMoDTC(硫化オキシモリブデンジアルキルジチオカーバメート)に置き換えて調製した潤滑油組成物(比較例2の試験油)と比較すると、比較例2の試験油では硫黄含有量が高くなり、摩擦係数については同等であるが、高温堆積物生成防止能力が劣ることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油に少なくとも、下記の成分a)乃至e)が溶解もしくは分散されていて、硫黄含有量が0.5質量%以下である内燃機関の潤滑のための潤滑油組成物:
a)0.5〜5.0質量%のアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤、
b)0.5〜5.0質量%のアルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体である無灰性分散剤、
c)モリブデン量として50〜1200質量ppmとなる量の塩基性窒素化合物のモリブデン錯体、
d)アルカリ土類金属量として0.05〜1.0質量%となる量の全塩基価が10〜400mgKOH/gのアルカリ土類金属含有清浄剤、そして
e)0.05〜5.0質量%の摩耗防止剤。
【請求項2】
硫黄含有量が0.01〜0.2質量%の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
硫黄含有量が0.05〜0.12質量%の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
さらに粘度指数向上剤を含有する、SAE粘度グレードが0W5、0W10、0W15、0W20、0W30、5W20、5W30、10W20、もしくは10W30のマルチグレードエンジン油である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
成分a)のアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤の含有量が1.0〜4.0質量%である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
成分b)のアルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体である無灰性分散剤の含有量が1.0〜4.0質量%である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
成分a)のアルケニルもしくはアルキルこはく酸イミドあるいはその誘導体である無灰性分散剤と成分b)のアルケニルもしくはアルキルこはく酸エステルあるいはその誘導体である無灰性分散剤との質量比が1:4〜4:1の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
成分c)の塩基性窒素化合物のモリブデン錯体が、1質量%を超えない量の硫黄を含有する請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
成分c)の塩基性窒素化合物のモリブデン錯体が、0.05〜0.5質量%の硫黄を含有する請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
成分c)の塩基性窒素化合物のモリブデン錯体が、こはく酸イミドのモリブデン錯体である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
成分d)のアルカリ土類金属含有清浄剤が、アルカリ土類金属のサリシレートを含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
摩耗防止剤がジアルキルジチオリン酸亜鉛である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
さらに酸化防止剤を含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
硫黄分が0.001質量%以下の燃料油を用いて運転される内燃機関の潤滑用である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の潤滑油組成物を用いて、硫黄分が0.001質量%以下の燃料油を用いて運転される陸上走行用の車両に搭載された内燃機関を作動させる方法。

【公開番号】特開2013−72060(P2013−72060A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214116(P2011−214116)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(391050525)シェブロンジャパン株式会社 (26)
【Fターム(参考)】