説明

潤滑源から気相を介した燃料燃焼系への有機モリブデンの送出

【課題】 吸気弁の堆積物の発生を低減する。
【解決手段】 気相のエンジン潤滑油から燃焼室内に有機モリブデン源を供給することにより燃焼機関内で、例えば吸気弁を含む吸気マニフォールドの堆積物及び排気弁の堆積物の形成を低減するための方法及び燃焼系。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気相(vapor phase)のエンジン潤滑剤から燃焼室に有機モリブデン源を送出(delivery)することにより、内燃機関の吸気弁を含む吸気マニフォールド内の堆積物を抑制するための方法及び燃焼系に関していて、その場合、燃焼室の吸気弁を含む吸気マニフォールド、排気弁及びその両方での堆積物の形成低減を達成できる。
【背景技術】
【0002】
多年に亘って、特に火花点火内燃機関の燃料注入系内での堆積物形成を抑制(防止又は低減)するための添加物を開発するのにかなりの研究が行われている。特に、燃料注入器の堆積物、吸気弁の堆積物及び燃焼室の堆積物を効果的に抑制できる添加物がこの分野のかなりの研究活動で注目されている。これらの努力に関わらず、以下の議論からも明らかなように、堆積物形成問題を解決するのに一層の改善と進歩を必要とする。
【0003】
燃料注入系を用いる燃焼機関では、これらの系統は吸入空気流に燃料を注入することにより作動する。コンピューター制御の注入系は吸入空気流、エンジン温度、負荷と速度、排ガスの組成のようなエンジンの運転状態を測定する。そして、正確な燃料の量をエンジンに注入する。スロットル・ボディ(throttle body)及びシーケンシャル・マルチポート・インジェクション(sequential multiport injection)(MPI)を含むいくつかの燃料注入系がある。スロットル・ボディ系では複数シリンダーが1個の注入器を共有している。シーケンシャル・マルチポート・インジェクション(MPI)系は精度と効率が高い。現在、それらが一般的に用いられている燃料注入系である。
【0004】
シーケンシャル・マルチポート・インジェクション系では、燃料注入器がシリンダーヘッド内に、又は、各シリンダー及びその関連する吸気弁のすぐ外側にある吸気マニフォールドに取付けられている。各シリンダーはそれ自体の専用燃料注入器を有していて、他と無関係に開き、関連シリンダーの吸気弁が開くのにタイミングを合わせている。燃料ポンプはガスタンクから燃料注入系に燃料を供給し、各燃料注入器が関連シリンダーの吸気マニフォールドに燃料を注入する。各注入器はパワー・トレイン(power−train)制御モジュール(PCM)が設定する燃料/空気の混合体を正しい時点で供給する。注入された燃料/空気の混合体が開位置の吸気弁を最初に通過し、次ぎに、燃焼室を通過する。MPIでは、燃料/空気の混合体が容易に燃焼する微細ミストの形でシリンダーに導入される。
【0005】
前記の従来型ポート燃料噴射(port−fuel injection)(PFI)エンジンが、ガソリンを吸気ポートに注入することによりガソリンと空気の均一な予混合を形成する。それと比較して、直接注入ガソリン(DIG)エンジンは、ディーゼル・エンジンと同様、燃焼室にガソリンを直接注入する。この方法で、DIGエンジンでは、層状化燃料混合体を形成することが可能になり、その混合体は点火プラグの近傍で化学量論的量よりも多くの燃料の量を含む。その一方で、燃焼室の他の部分では非常に薄くなる。そのような層状化燃料混合体を形成することにより、全体的に非常に希薄な混合体による燃焼を行えて、PFIエンジンの場合よりも燃料消費量が改善されて、ディーゼル・エンジンの値に近づく。ディーゼル・エンジンと同様に、DIGエンジンでは、吸気弁を通して空気のみを導入し、PFI又はMPIエンジンのように燃料/空気の混合体を導入しない。しかしながら、ディーゼル・エンジンと異なり、燃料を点火するために点火プラグを使用できる。多くの場合、燃料注入器を用いてシリンダーに燃料を直接噴霧する。DIGエンジンのごく最近の設計では、多くの場合、注入器は吸気系と排気弁の間の燃焼室内に置かれる。
【0006】
しかしながら、PFIエンジンとDIGエンジンの両方が、特に注入器、吸気弁に関連して、又、燃焼室内で、好ましくない燃料関連の堆積問題を生じている。MPIシステムでは、吸気弁を通過する燃料/空気の混合体に分散して、潜在的堆積物を低減する洗浄剤又は他の添加物と何らかの接触をしうる。そうではあるが、これらのMPIエンジンは吸入弁堆積物(intake valve deposit)(IVD)の形成を経験していて、そのIVDが最終的にエンジンの清浄度とエンジンの性能の障害になりうる。DIGエンジンではIVD問題が大きくなることがある。特にDIGシステムでは、直接に注入された燃料が燃焼室に導入される前に吸気弁に接触する機会が無い。それで、燃料内に洗浄剤を含めることは吸気弁の堆積物を低減するのに有効ではない。それ故、特にこれらのDIGエンジン技術の最近の実施態様では、吸気弁の堆積物は燃料側から容易ないし適切に抑制できない。それ故、前記のエンジン吸気弁の堆積物問題を扱う他の戦略が必要になる。
【0007】
乗用車又はトラックの内燃機関に用いられる潤滑オイルは使用中に厳しい環境にさらされる。性能向上の努力の中でそのようなモーター・オイルに種々にタイプの添加物を添加している。例えば、種々のモリブデン化合物がモーター・オイルとして使用される潤滑剤への性能向上添加物として使用され、提案されている。特許文献に多くの例があり、潤滑剤内の抗酸化剤、堆積物抑制用添加物、耐摩耗用添加物及び摩擦調節剤のようなモリブデン添加剤の種々の用途が示されている。そのような特許文献の部分的リストには例えば特許文献1、2、3、4、5が含まれている。
【0008】
特許文献6では、ジチオカルバミン酸モリブデンのようなチオカルバミン酸塩と分散媒から成る化合物を境界面に供給することにより、ハイブリッド・エンジンの金属・セラミックの境界面を潤滑するための方法が示されている。分散媒は、サンプ(sump)から供給された潤滑油又は代わりに液体燃料であるとして示されている。特許文献6には、分散媒としての液体燃料内のジチオカルバミン酸モリブデンから調製した組成の例が示されていて、潤滑剤入り燃料組成の他の成分としては、基油(base oil)及び希釈油のみが示されている。
【0009】
クランクケースの潤滑油に金属を含む洗浄剤を加えた場合又は加えない場合のモリブデン化合物の添加もその特許文献に示されている。特許文献7では低温の耐摩耗特性と燃料の経済性を改善するためにエンジンのクランクケースで用いる潤滑油の組成を示しているが、0.058−0.58 重量%の量のカルシウムを提供する少なくとも1種のカルシウム入り洗浄剤、最高350 ppm Moの量のMoを提供する少なくとも1種類の可溶性モリブデン化合物、少なくとも1種の窒素を含む摩擦調節剤、約0.1 重量%の量の燐を提供するジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛の化合物から成る潤滑用粘度のオイルを含んでいて、その組成によるNOACK揮発減量は約15.5 重量%以下である。
【0010】
特許文献8は、(a)約1モルの脂肪油、1.0から2.5モルのジエタノールアミン、化合物重量に基づく0.1から12.0パーセントのモリブデンを生じるのに十分なモリブデン源を反応させることにより調製した有機モリブデン化合物、及び、(b)特定組成の1,3,4−チアジアゾール化合物から成るグループから選定した有機硫黄化合物、から成る相乗作用を持つ有機モリブデンの耐摩耗化合物を示している。さらに、特許文献8は大部分が潤滑用粘度のオイルと組合わせた耐摩耗成分を0.1から10.0重量パーセント含む潤滑剤を示している。
【0011】
特許文献9では、内燃機関内で、酸化安定性と燃料経済性を高め、堆積物と摩耗を低減するのに種々の効果があるクランクケース用オイルで用いるためのモリブデン化合物を示している。低減しうる堆積物は、ピストンの堆積物、リング・ランド(ring land)の堆積物、クラウン・ランド(crown land)の堆積物、トップ・ランド(top land)の堆積物として示されている。
【0012】
特許文献10及び11も有機可溶性モリブデン化合物の添加物及びそれらを含む潤滑用モーター・オイルを示している。
【特許文献1】米国特許第4,164,473号明細書
【特許文献2】米国特許第5,840,672号明細書
【特許文献3】米国特許第6,103,674号明細書
【特許文献4】米国特許第6,174,842号明細書
【特許文献5】米国再発行特許発明第RE37,363E号明細書
【特許文献6】米国特許第5,445,749号明細書
【特許文献7】米国特許第6,300,291号明細書
【特許文献8】欧州特許第EP 0 874,040 B1号明細書
【特許文献9】米国特許第6,528,463号明細書
【特許文献10】米国特許第6,509,303号明細書
【特許文献11】米国特許第6,528,461号明細書
【特許文献12】米国特許第3,578,690号明細書
【特許文献13】米国特許第4,765,918号明細書
【特許文献14】米国特許第4,889,647号明細書
【特許文献15】米国特許第5,137,647号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
内燃機関の吸気弁の堆積物発生を低減する戦略のニーズが残っている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施態様では、内燃機関の吸気マニフォールド及び弁の堆積物低減が、その吸気弁を通して燃焼室に気相のエンジン潤滑剤から有機モリブデン源を供給することにより達成される。一側面で、特に弁堆積物の低減が、燃焼室の吸気弁及び排気弁の一方又は両方で達成できる。
【0015】
本発明のいくつかの実施態様では、吸気弁を経由して燃焼系に気相の潤滑油から有機モリブデン源となる成分を導入するために、いくつかの通路のうちの1以上を用いる。一実施態様では、有機モリブデン源を含むクランクケースの潤滑油から気相で得られる活性要素により吸気弁の清浄度が得られる。一側面では、有機モリブデン源が気相の潤滑剤に同伴し、ポジティブ・クランクケース・ベンチレーション(positive crankcase ventilation)(PCV)のガスにより燃焼室に導入される。そのガスが吸気弁を含む吸気マニフォールドを通過して、燃焼室に送られるので、全体として吸気マニフォールド、特に吸気弁の堆積物形成を抑制するのに有効である。追加的に又は代替的に、有機モリブデン源又はその燃焼生成物が吸気弁を通り、排ガス再循環(EGR)システムを経由して燃焼室に導入できる。ここで弁の堆積物と関連して用いている「抑制(control)」の用語は、弁の堆積物形成の防止及び(又は)既に弁に形成された堆積物の除去を意味している。
【0016】
本発明の実施態様は全ての火花点火内燃機関に広く適用でき、より特定すれば、例えば、MPIエンジン及びDIGエンジンに適用できる。
【0017】
有機モリブデン源は、油溶性添加物として潤滑剤内に存在し、それは、(a)有機モリブデン源の蒸気を発生するのに十分なエンジンの運転状態でクランクケース内の潤滑油から有機モリブデン源の少なくとも部分的な揮発、及び(又は)、(b)クランクケース内の表面と動的に接触することにより、又は、クランクケース内で機械的部品を動かすことにより、液相のオイルを物理的に乱して、クランクケース内で潤滑剤の液相から気相へ微小液滴として飛散又は排出され、その成分として有機モリブデン源を含む潤滑油の微小液滴、の少なくとも一方のメカニズムにより、クランクケース内で気相の潤滑剤に導入される。結果として、有機モリブデン源はクランクケースの気相に同伴され、それから、燃焼室の吸気弁を通って燃焼室に送られる。燃焼室に供給された燃料/空気又はガスの流れの中にエンジンの潤滑剤から得られた有機モリブデン源となる物質が存在することが、非常に驚くほど、吸気弁での弁堆積物形成を低減ないし防止することが観察されている。
【0018】
本明細書の目的に合わせて、「気相(vapor phase)」とは、空気及び(又は)ガス(単数又は複数)内に懸濁した粒子を意味し、可視的又は不可視的、顕微鏡的又は巨視的に懸濁された(a)湿った粒子ないし液滴、及び(又は)、(b)ガス状態の物質、を含めることができる。本明細書では、「揮発(Volatilization)」又は「揮発させらた(volatized)」は、バルク(bulk)状の液体を形成している部分から蒸気への状態の変化を意味する。
【0019】
他の側面で、排気弁での堆積物の形成抑制は、燃焼室に供給される燃料/空気又はガスの流れ内にあるエンジン潤滑剤から得られた有機モリブデン源及びその燃焼生成物が、排気弁を経由して燃焼室から排出されるときに達成しうる。
【0020】
いくつかの実施態様で、有機モリブデン源を含むクランクケースの気相内の有機モリブデンの蒸気及び(又は)燃料オイルの液滴が、燃焼機関の吸気マニフォールドに供給されたPCVガス及び(又は)再循環されたEGRガスに同伴される。これらの方法で、例えば、有機モリブデン源の蒸気が、(a)吸気マニフォールドから、かつ、吸気弁と接触関係で燃焼室に供給された燃料/空気の混合体の成分又は空気単独と、さらに、(b)燃焼室内で生じて、吸気弁及び排気弁の一部にも接触できた燃焼生成物と、接触関係になる。
【0021】
本明細書に用いる場合、「接触(contacting)」とは、化学的又は物理的反応ないし変化を生じるかどうかに関係なく、2以上の物質の間での接触、寄せ集め、反応、錯化、統合、結合、混ぜ合わせ、混合、及び、同様の関係を意味する。
【0022】
さらに他の実施態様で、有機モリブデン源を含む潤滑剤が、燃焼室の排気弁に固体潤滑剤を供給するための弁座用凹部への添加剤として使用される。
【0023】
前述の一般的説明及び以下の詳細説明の両方、及び、本明細書の参照図面は例示的かつ説明用に過ぎず、請求項に基づいて本発明をさらに説明しようと意図していることを理解されたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施態様には、吸気弁及び排気弁での堆積物形成の低減のようなエンジンの燃焼系に有利な効果を生じるために、クランクケースのオイルのようなエンジン潤滑剤の気相成分を有利に用いるための方法が含まれている。一実施態様では、エンジン用潤滑剤の有機モリブデン源の成分となる部分がクランクケースの気相を介して、吸気弁を通じてエンジンの燃焼室へ供給する吸入空気に同伴しうる。実施態様では、本明細書に示された方法を実施できる燃焼系にも関係する。
【0025】
驚くべきことに、燃焼室に供給された燃料/空気の混合体又は空気の中のエンジン潤滑剤からの気相に、有機モリブデン源の成分となる部分を供給し、含め、存在させることにより、全体として吸気マニフォールド内の堆積物、特に吸気弁堆積物(intake valve deposits)(IVD)の形成低減が見込み通り得られることが発見されている。吸気マニフォールドの堆積物及び(又は)IVDの低減が達成されることはエンジンが清浄になることを意味し、かつ、燃費効率、出力及び(又は)耐久性に基づくエンジン性能の改善が得られる。
【0026】
ここで、何らかの特定理論に拘束されることは望ましくないけれども、他の可能なメカニズムの中でも、エンジン潤滑剤からの潤滑剤の気相に同伴している有機モリブデン源が、そうでなければ、クランクケースのオイルの上方にある気相内に形成され、存在していて、弁の堆積物を形成する反応性有機前駆体の低減を生じる又は誘発することが考えられる。さらに、潤滑剤の気相に同伴した有機モリブデン源となる成分の部分に帰因した燃焼室の排気弁での弁堆積物の形成低減を達成できる。潤滑剤の気相はエンジン潤滑剤の液相から、燃焼室に供給される燃料/空気の混合体又は空気及びその燃焼生成物に導入される。
【0027】
ある実施態様は、MPI、DIG又はPFIのエンジンに適用でき、その中で、有機モリブデン源を含む燃料/空気の混合体をエンジンのクランクケースの気相に同伴でき、そこから、内燃機関の吸気マニフォールドに供給でき、及び(又は)、吸気弁を通過できる。ある実施態様はDIGエンジンに適用でき、DIGエンジンでは燃焼室及び有機モリブデン源を含む空気の中に燃料を注入し、気相に同伴されて、吸気弁を通過して供給できる。以下の例で示すように、気相に同伴された有機モリブデン源を含むエンジン潤滑剤が、主要成分として、部分的に合成された重負荷ディーゼル(HDD)オイルである基油を有している場合に、特にIVDを有意に低減することが示されている。
【0028】
モリブデンの供給ルート
非限定的な一実施態様で、エンジン潤滑剤に含まれているモリブデン成分についての同じシナリオと比較して、IVDを抑制するのに有効なように、潤滑剤に含まれる有機モリブデン源はエンジン運転中のクランクケースの状態に基づく蒸気圧を有し、その十分な量が気相中に揮発し、本明細書に示した技術により燃焼室の吸気弁に供給される空気流に同伴される。代わりに、又は、前記のメカニズムと組合わせて、クランクケース内の機械的部品を動かすことにより、潤滑剤とクランクケースの内面及びその部品との間で動的な接触をして、潤滑剤の成分に対して、有機モリブデン源を含むオイルの微細な液滴をバルク状の油相から分離させ、気相に分散させるのに十分なエネルギーを与える。それによりブローバイガス(blow−by gas)に同伴されて、以下で詳細に示すように、クランクケース換気システム等に運べる。
【0029】
図1を参照すると、典型的なエンジン潤滑系統はオイルポンプ(図示せず)を有し、オイル10をオイルパン12から吸引して、オイルフィルター(図示せず)を通し、クランク軸の通路に入って、コンロッド14からピストン16とピストン・リングに送る。オイルはリフター18とプッシュロッド20を通って、ロッカーアーム22をカバーする。ここでオイルはパン12に流下して、サイクルを終了する。
【0030】
当該分野を熟知している者には理解できるように、モーター・オイルがエンジンの主要要素に移動して、流れるようにエンジン内には種々の流路が設けられている。例えば、オイルの流路をエンジンの接続部分に設けることにより、ピストンのような動きの激しい部品が十分な潤滑を受けられる。ピストンとコンロッドの場合、通常、クランク軸とコンロッドの穴が位置合わせするたびに流路が開くように設計されている。従来形式を含めてオイルシール(oil seal)(図示せず)を使用でき、一般に、オイル、変速機用流体、パワー・ステアリング用流体のような流体が対象域内に保持されるように軸端に取付けられる。これらのシールは柔軟で、ハウジングから出ている軸の回りに密なはめ合いを保持できる。この図面を単純化するために示されていないが、燃料注入器、オイルフィルター、オイルポンプ、燃料ポンプ、タイミング・チェーン、主軸受、フライホイール、ベルト、オイルシール等のような内燃機関の他の一般的な要素も取付けられる。一般的に、本発明の実施態様に基づく方法により運転されるエンジン内で使用されるとき、これらの装置は従来通りの設計と機能を使用できる。
【0031】
ある実施態様では、達成される目的は、モリブデン源がエンジン潤滑剤に含まれていないことを除けば同じにしたエンジンの設定と運転で比較して、エンジンの運転期間中に、吸入弁でのIVD形成を低減するのに有効となる量、率、方法で、吸入弁にエンジン潤滑剤の気相から有機モリブデン源を供給することである。図面には吸入弁24の代表的で、非限定的な図が含まれていて、それを通じて同伴したモリブデン源を含んでいる燃料/空気の混合体、又は代わりに、空気が吸入マニフォールド36から供給される。吸入弁36が弁座26に着座している。又、吸入弁ステム(stem)28及び弁スプリング30も示されている。燃焼室の排気側では、弁座34に着座した排気弁32を介して排気マニフォールド38に送られる。さらに、図面はシリンダーヘッド42、クランクケース46、ブロック44、冷却材48も示している。
【0032】
この概略的情報を念頭に置いて、ここで、エンジンの燃焼室の吸気弁を通じて供給される吸入空気に気相に同伴されたエンジン潤滑剤の有機モリブデン源となる成分の部分を供給するための例示的で、非限定的な技術を詳細に説明する。
【0033】
触媒コンバーター及び蒸発ガスシステムに加えて、エンジン性能を改善し、大気汚染を低減するために、一般にポジティブ・クランクケース・ベンチレーション(PCV)及びEGRのシステムが車両の排出制御システムに含まれている。エンジンのシリンダーは完全にはシール(seal)できない。例えば、燃焼ガスの一部がピストンリングとシリンダー壁の間の小さなギャップを通って漏洩し、クランクケースに入る。結果として、これらのガスが燃焼室からピストンリングを通ってクランクケースに入るので、往復エンジンのクランクケースは換気しなければならない。多くの場合、これらの流出ガスは「ブローバイガス」と呼ばれる。さらに、クランク機構の運動により生じる周期的体積変化も補償しなければならない。ピストンの運動がクランクケース内に高速のガス流を生じる。微細な油滴がそのガスに同伴するので、クランクケース換気系に侵入する。
【0034】
PCVシステムはこれらのブローバイガスをシリンダーに戻してそれらを再燃焼するのに用いられる。例えば、エンジン運転時に、吸気マニフォールドの真空がPCV弁に供給される。この真空が清浄空気用ホースを通して空気をロッカーアーム・カバーに送る。この位置から空気がシリンダーヘッドの開口部を通ってクランクケースに流れ、クランクケースで空気が、燃焼室からピストン・リングを通って流出したブローバイガスと混合する。ブローバイガスと空気の混合体がシリンダーヘッドの開口部を通ってロッカーアーム・カバーとPCV弁に流れる。吸気マニフォールドの真空により、ブローバイガスの混合体がPCV弁を通って吸気マニフォールドに移動する。そこで、ブローバイガスが吸気弁を通過して、燃焼室に送られ、そこで燃焼する。アイドリング、減速、スロットルの部分的絞り、高いエンジン負荷、バックファイアのエンジン状態の間に経験する吸気マニフォールドの真空が、従来の燃焼エンジン技術で知られていて、用いられているPCV弁の位置に影響を与える。さらに、PCVシステムの前記構成は、全体として、燃焼エンジン技術でのそのようなシステムについて一般的に知られている方法で使用できる。それゆえ、PCVシステムの作動についての前記の一般的方法は、燃費効率を高め、エンジン内の有害なガスとスラッジの形成を低減できる。
【0035】
しかしながら、PCVシステムはクランクケースからオイル蒸気を吸引し、燃焼すべき吸引空気に追加的に導入する傾向がある。この後者の現象は好ましくないことであると以前に考えられたけれども、本発明の実施態様では、有益な添加物を導入するための供給メカニズムとして用いている。有益な添加物とは本発明の実施態様で気相に同伴された有機モリブデン源で、オイルの気相から、吸気弁を通って燃焼室に供給される空気を含む供給流に送られ、吸入弁堆積物(intake valve deposit)(IVD)の形成、及び(又は)、形成速度を低減するのに有効である。
【0036】
他の代替的又は追加的な実施態様では、有機モリブデン源をクランクケースのオイルの気相から燃焼室の吸気弁を通って供給される空気を含む流れに送ることができ、EGRシステムを介してIVDを低減するのに有効である。EGRシステムは、有害な酸化窒素(NOx)の形成を防止する。燃焼室内でのNOx生成を低減するために、NOxは高温で発生しやすいので、EGRは燃焼室温度を低減するのに用いられる。EGRは一定量の排気ガスを燃焼室に戻して再循環し、燃料混合体を希釈することによりこれを実現している。
【0037】
例えば、排気ポートのEGR弁はダイアフラム(diaphragm)を含み、そのダイアフラムの上にシールされた真空室を有している。このチャンバーからの真空の出口は真空制御部に接続している。ステム(stem)がダイアフラムからEGR弁の下側にあるテーパード(tapered)弁に伸びている。ダイアフラムの上にあるスプリングがそれを下側に押して、下側の弁ボディ内にあるマッチング・シート(matching seat)の上にテーパード弁を着座させる。排気マニフォールドからテーパード弁とシートに通路で接続されている。テーパード弁の上部から吸気マニフォールドへ通路で接続されている。真空はパワートレイン・コントロール・モジュール(power−train control module)(PCM)により制御されたソレノイド(solenoid)を通じてEGR弁のダイアフラム室に供給される。真空がダイアフラム室に供給されると、ダイアフラム、ステム、弁が上に引き上げられて、ある量の排ガスを排気マニフォールドから吸気マニフォールドに再循環する。即ち、EGR弁が排ガスをクロスオーバー・パッセージ(crossover passage)から吸気マニフォールドに送る。一般にEGRシステムには、放熱器の上の温度弁が含まれ、ある場合には、遅延タイマーと真空増幅器を有している。再循環された排ガスには酸素はほとんど含まれないので、燃焼室内で燃焼せず、燃焼温度が低下する。これにより、酸化窒素の放出も低減する。正背圧EGR弁、負背圧EGR弁、リニア(linear)EGR弁又は排ガス温度センサー付きEGR弁も使用できる。前記のEGRシステムの機能は、燃焼機関技術でのそのようなEGRの要素及びシステムに対して一般的に知られている任意の方法で実施できる。
【0038】
しかしながら、EGRシステムはクランクケースからオイルの蒸気を吸引して、再循環排ガスと組合わせて燃焼すべき吸入空気に導入する傾向もある。後者の現象は好ましくないと以前に考えられたけれども、本発明の実施態様は、有益なモリブデン源をオイルの気相から燃焼室の吸気弁を通って供給される空気を含む供給流れに導入して、吸入弁堆積物(intake valve deposit)(IVD)の形成を低減する供給メカニズムとしてそれを用いている。
【0039】
有機モリブデン源を同伴した蒸気、又は、同一物質を含む微細油滴の蒸気/ミストをクランクケースの潤滑剤から燃焼室に導入するための前記ルートは例示的で、非限定的であることに留意されたい。例えば、モリブデン源を燃焼室に導入する他のルートには、弁のオーバーラップ・タイミング(overlap timing)により生じたEGRメカニズムとして、燃焼室から吸気システムへの逆流経由が含まれる。さらに、導入が、吸気弁の弁座を通り、ステムを流下して堆積物を形成する面に流れるオイルにより生じることがある。これは通常きわめて有害と考えられていたものである。
【0040】
これらの実施態様の原理の実施及び適用は、エンジンの全てのシリンダーの吸気弁でIVDを低減するのに使用されるが、シリンダーの数を少なくして処理することも可能である。一実施態様では、クランクケースがクランクケース換気を閉にしても良い。充填口のキャップ(cap)を通して通気する必要がない。そのような実施態様では、吸気弁に供給される空気流に同伴させるために、エンジンの潤滑剤の気相に同伴させる有機モリブデン源の量を高めることもできる。クランクケース換気システム内にオイル分離器を含めて、気相に同伴される油滴を実質的に全部即ち100%無くす必要もない。
【0041】
有機モリブデン源の化学的タイプが異なれば蒸気圧が異なることがあり、オイルが異なると表面張力、及び、クランクケースの温度と圧力の条件の下での液滴の飛散しやすさに影響する他の特性が異なることがあり、又、気相内に潤滑剤の微細液滴を放出ないし飛散するしやすさは、オイルの全体的組成だけでなく、そのオイルをかき回す機械的力の大きさとタイプにより影響を受けるので、気化して同伴された有機モリブデン源の量と微細油滴を経由して気相に同伴された量の間の内訳が状態により異なることに留意されたい。エンジン、クランクケース及びクランクケースの要素は種々の条件、例えば、温度、圧力、ダイナミックな機械的条件の下で機能することがある。その場合、油溶性添加物として潤滑剤の液相内に存在する有機モリブデン源の有効量を、気相で吸気マニフォールドに移行するために利用できる前記メカニズムのどれかひとつによりクランクケース内の潤滑剤の気相に移行し、導入することができる。
【0042】
ここで用いる「空気」の用語は、大気中の空気のみに限定されず、大気中の空気から吸引したガス、PCVシステムによりクランクケースから吸引したガス、及び(又は)、EGRシステムにより再循環されるガスのどれか又はその組合わせを一般的に含めるように意図されている。エンジンの潤滑剤で通常用いられる他の添加物を、必要に応じて、有機モリブデン源を気化及び(又は)小さな油滴を経由して気相に同伴させる能力、及び、有機モリブデン源の成分によるIVD低減効果を有意に妨げない、又は、干渉しない程度まで含めることもできる。
【0043】
エンジン潤滑油の組成
エンジン潤滑油には少なくともかなりの量で潤滑用粘度の基油及び有機モリブデン源を含められる。通常のエンジン状態で、エンジン潤滑剤のかなりの量が流動性の液状のままである。
【0044】
有機モリブデン源となる化合物は油溶性の化合物及び(又は)燃料に溶ける物質で構成しうる。有機モリブデンの成分は、油溶性である、又は、潤滑油への又は濃縮液に対する希釈剤へ通常の混合又は使用状態で溶解できるという意味で「油溶性」であれば良い。前記のように、非限定的実施態様では、揮発部分の一部又は全部がエンジンの吸気弁を通って燃焼室に供給される燃料/空気の混合体又は他のガス流に同伴されたときに、有機モリブデン源がエンジン運転中のクランクケースの状態で、IVD形成の低減又は防止を支援するのに十分な揮発部分を発生しうる蒸気圧を有している。
【0045】
ここで、「有機モリブデン源」が電荷を有した又は電荷を有さない物質かどうかに関係なく、前記の機能的特性を有する全ての有機モリブデンの化合物、源、錯体、塩、誘導体を意味する。そのような有機モリブデン材料には、例えば、一核性(mono−nuclear)、二核性、三核性のスルホン酸モリブデン,モリブデンフェネート(molybdenum phenate),サリチル酸モリブデン,カルボン酸モリブデン,ジチオカルバミン酸モリブデン, 中性及び過塩基性(overbased)のサリチル酸モリブデン, 中性及び過塩基性のモリブデンフェネート(molybdenum phenate), 中性及び過塩基性のスルホン酸モリブデン,モリブデン酸アンモニウム,モリブデン酸ナトリウム,モリブデン酸カリウム,ハロゲン化モリブデン, アミン及びアルコールと反応したモリブデンから誘導された化合物、及び、その組合わせと混合物が含まれるが、それに限定されない。一実施態様では、有機モリブデン源は脂肪油、ジエタノールアミン、及び、モリブデン源を反応させることにより調製された有機モリブデンの錯体から成っている。他の適当なモリブデン源には特許文献10、11、9に示されたモリブデンの錯体が含まれていて、その内容は参考用として本明細書に組込まれている。それらは、例えば、特許文献4、12、13、14、15に示されているようにカルボン酸、カルボン酸アミド又は脂肪酸アミドから得ることができる。これらの特許文献の内容は参考用として本明細書に組込まれている。
【0046】
本発明に使用しうる市販のジチオカルバミン酸有機モリブデンの例には、R.T.バンダービルト社(R.T. Vanderbilt Company)から入手できるMolyvan(R)807及びMolyvan(R)822及び旭電化工業(株)から入手できるSakura−Lube 100、Sakura−Lube 155、Sakura−Lube 165、Sakura−Lube 600が含まれる。市販されていて硫黄及び燐を含まない油溶性のモリブデン化合物又は錯体の例は旭電化工業(株)から入手できるSakura−Lube 700及びR.T.バンダービルト社(R.T. Vanderbilt Company)から入手できるMolyvan(R)856B及びMolyvan(R)855である。本発明で使用しうるカルボン酸から誘導された市販のカルボン酸モリブデンの化合物の例には、例えば、オーエムグループインク(OM Group Inc.)から入手できる15% Molybdenum HEX−CEM、シェファードケミカル社(Shepherd Chemical Company)から入手できるMolybdenyl Naphthenate 6%及びMolybdenum Octoate 8%が含まれるが、それに限定されない。他の有用な市販されている油溶性有機モリブデン化合物の例には、旭電化工業(株)から入手できるSakura−Lube 180及びR.T.バンダービルト社(R.T. Vanderbilt Company)から入手できるMolyvan(R)A及びクロムトン社(Cromton Corporation)からのNaugalube MolyFMがある。
【0047】
最終的クランクケース用オイルを生成し、かつ、IVD低減の効果を持つために、潤滑油に添加するモリブデンの量は顧客の他の追加的要求、及び、モリブデン化合物が潤滑油の液相からの有利な効果を生じる特定の用途により異なる。気相によるIVD低減は、エンジン潤滑剤の液層から生じる有機モリブデン源による利益に対する予想外の追加利益である。
【0048】
クランクケース用オイルのようなエンジン潤滑剤内の有機モリブデン源の添加量は一般的に約0.002 重量% (20 ppm)から約3.0 重量% (30000 ppm)で、特に約0.0025 重量% (25 ppm)から約0.15 重量% (1500 ppm)で変化する。実施態様に基づく潤滑剤内の有機モリブデン源の濃度には実際的な特別の上限はないが、経済的理由で、有効Moの上限は指定されていないけれども約4000 ppmであろう。
【0049】
本発明の有機モリブデンの添加物は、天然潤滑油、合成潤滑油又はその混合体から得られるような種々の潤滑油ベースのストック(stocks)に使用しうる。これらのオイルには、火花点火及び圧縮点火の内燃機関、例えば、ガソリンエンジン、シーケンシャル(sequential)MPIエンジン、DGIエンジン、スロットル・エンジン(throttle engines)、天然ガスエンジン、ディーゼルエンジンに対する典型的なクランクケース用潤滑油が含まれる。
【0050】
これらのオイル・ベースのストックには、例えば、水素添加処理をした基油、パラフィン系、ナフテン系又はその混合体のような鉱油、植物油、石油、油母頁岩から得たオイル、シリコン・ベースのオイル、ハロゲン置換をした炭化水素系オイル、ジカルボン酸とアルコールのエステル、ワックス異性化オイル、ポリアルファオレフィン及びその混合体を含めることができる。限定的でない一実施態様では、本発明の潤滑剤の組成を形成するのに使用される基油は、大量の飽和物質(saturates)と非常に少量の硫黄が存在することを特徴としていて、石油添加物業界で、グループII及びグループIIIの基油と呼ばれる基油が含まれている。そのような基油についてのこれ以上の詳細は例えば特許文献2に示されていて、その内容は参考用として本明細書に組込まれている。限定されない一実施態様では、基油には一般的に約90%以上の飽和物質、約0.03重量パーセント以下の硫黄が含まれ、約80以上の粘度指数を有している。典型的に、基油は全体として100℃で約2から約15 cStの粘度を有している。
【0051】
限定されない一実施態様では、潤滑油は、約75から約95重量パーセント(重量%)の間の潤滑用粘度の基油、約0から約30 重量%の間の重合体の粘度指数改善剤、約5から約15 重量%の間の補足的添加剤パッケージ、及び、典型的には最終の潤滑剤に少なくとも約50 ppmのモリブデンを加えるのに十分な量のモリブデン化合物を含む配合油としうる。例えば、選択肢としての補足的添加剤を、補足的洗浄剤/腐食抑制剤の添加剤パッケージ及び(又は)粘度指数改善剤としうる。さらに、実施態様には、本発明で開示している有機モリブデンの添加物を含めることで改善した潤滑油組成を含めることができる。
【0052】
エンジン用潤滑油に配合したとき、潤滑油に典型的に用いられるものを含めた1以上の他の添加物と組合わせて選択肢として油溶性の有機モリブデンの添加物を使用できる。潤滑油に典型的に用いられる添加物で、この点で選択肢として使用できるものには、洗浄剤、腐食抑制剤、発錆抑制剤、追加の酸化防止剤、分散剤、発泡抑制剤、追加の摩耗防止剤、追加の摩擦調節剤、抗乳化剤、粘度指数改善剤、流動点抑制剤、zinc dialkyldithiophosphates(ZDDP)等が含まれる。そのような選択肢としての補足的添加物の例は、例えば特許文献2に示されていて、その内容は参考用に本明細書に組込まれている。ここに示したような有機モリブデンの添加物を含む潤滑油の全体的組成は顧客及び特定用途に基づいて有意に変化しうる。
【0053】
本発明の実施態様に基づいて、潤滑剤から供給されて同伴されている有機モリブデン源により吸気弁に堆積するのを低減され又は無くされるIVDの堆積形成物質が、炭化水素系燃料の燃焼に用いられる空気から発生しうることも理解すべきである。一実施態様で、有機モリブデン源により吸気弁に堆積するのを低減され又は無くされるIVDの堆積形成物質が、炭化水素系燃料から発生しうる。他の実施態様では、有機モリブデン源により吸気弁に堆積するのを低減され又は無くされるIVDの堆積形成物質が、燃焼系を潤滑するのに用いられる潤滑剤から発生しうる。この時点で拘束されることは望ましくないけれども、潤滑剤から得られた有機モリブデン源となる物質の蒸気又はそれを含むオイルの微細液滴が、吸気弁を通過して供給される供給流れ内に微細に分散されて、潜在的IVD形成物質が吸気弁に堆積物を形成するのを又は堆積物として吸気弁に保持されるのを妨げ又は阻止するのに、及び(又は)、吸気弁の状態をそのような堆積物形成物質を受容しにくい素地にするのに有効にすることが可能であると信じられる。同伴された有機モリブデン源となる材料が吸気弁に既に形成されていた堆積物の量を減らす可能性もある。
【0054】
本発明の有機モリブデンの添加物は内燃機関のクランクケース用オイルのような潤滑油、さらに、歯車用潤滑剤、液圧用作動液、自動変速機作動液、タービン潤滑剤、エンジン燃料、圧縮機オイル、潤滑用グリース等で使用できる。本発明の潤滑油の組成を有機モリブデンを含む組成、及び、補助的添加物を潤滑用粘度のオイルに添加することにより作ることができる。成分添加の方法ないし順序は重要ではない。代わりに、追加の添加物と共にモリブデンの成分を濃縮剤としてオイルに添加できる。
【0055】
いくつかの実施態様はDIGエンジンに適用でき、その中で、燃料噴霧器を用いて、可燃の炭化水素系燃料をエンジン・シリンダー内に直接噴霧する。特に、燃料噴霧器は吸気弁と排気弁の間のDIGエンジンの燃焼室内に置くことができる。この配置では、燃料自体による堆積物抑制を達成できない。しかしながら、前記のように、エンジン潤滑剤から得られた有機モリブデン源となる材料を気相を経由して燃焼室に導入できて、弁の堆積物を抑制するのに有効である。
【0056】
前記及び下記の全ての適用、特許、出版物の全開示内容は参考用として本出願書に組込まれている。
【実施例】
【0057】
以下の例が試験されて、本発明の実施態様に基づくエンジン潤滑剤の気相から有機モリブデン源を供給することにより吸気弁堆積物(IVD)を低減する性能を実証している。
【0058】
ASTM D−6201に基づく試験手順をこの試験に用いた。試験エンジンは2.3リットルのFordガソリン・エンジンであった。2種類のモーター・オイルを異なる試験番号で用いた。業界標準の試験オイルであるMotorcraft SAE 5W−30 (API Service SH Grade) Super Premiumモーター・オイルを試験番号1−3に用いた。それを表1にまとめている。Motorcraft SAE 15W40重負荷ディーゼル・モーター・オイルを基準オイルとして他の試験番号で用いた。その結果を比較しやすいようにディーゼル・モーター・オイルを用いた。全ての試験番号ではないが、いくつかの試験番号で添加した有機モリブデン源は、R.T. Vanderbiltが製造したMolyvan(R)855である。潤滑剤へのモリブデン源の処理量は潤滑剤組成物の全重量に対して0.15 重量%であった。抗酸化用添加剤も、実施した試験番号の全部ではないが、一部に含まれていた。Ethyl Corporation, Richmond, Virginiaから得られたHi−TEC(R)4975(A)が、この抗酸化用添加剤として用いられた市販の供給源である。以下の表1では、抗酸化用添加剤の処理量をポンド/1000バレル(PTB)の単位で示している。
【0059】
結果は以下の表1に示されている。
【0060】
【表1】



【0061】
これらの結果は、試験番号3及び5で、液体のエンジン潤滑剤にモリブデン源を含めることは、それが気相に同伴され、燃焼機関内の吸気弁の堆積物を低減することを明確に示している。これらの試験で報告されたIVDの結果の精度は±15 mgである。一方、CCDは約±65で再現されている。それゆえ、モリブデン有りと無しの場合で、オイルの変化がCCDを増加させたという結論も得られた。モリブデン添加物が存在しない場合にのみIVDも増加させている。
【0062】
別の他の実施態様で、有機モリブデン源を含む潤滑剤が、燃焼室の排気弁に固体潤滑剤を供給している弁座用凹部に使用でき、さらに、排気弁での弁堆積物形成を抑制(低減又は防止)できる。
【0063】
当該分野の技術者がここで開示された発明の明細書、図面及び方法を検討することにより他の実施態様が明らかになろう。明細書と図面は例示用と考えるべきで、本発明の真の範囲及び精神は請求項に示されるように意図している。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】例示的方法を非限定的説明の中で実施しているエンジンの断面図を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その中で燃料と空気の混合体を燃焼するように作動する燃焼室、少なくとも空気を燃焼室に導入するように作動する吸気弁を含む吸気マニフォールド、及び、燃焼室から燃焼生成物を放出するように作動する排気弁を有する燃焼機関内の堆積物を低減するための方法で、
内燃機関のクランクケース内にある潤滑油の液相からエンジン内の気相に有機モリブデン源を導入すること、
有機モリブデン源無しの潤滑油を用いるのと比較して、吸気マニフォールド内の堆積物形成を低減するのに有効な方法で、その気相から吸気弁を含む吸気マニフォールドを通じて、燃焼室に有機モリブデン源を送出すること、
を含んで成る方法。
【請求項2】
有機モリブデン源の送出が、潤滑油から揮発した有機モリブデン源を含む蒸気が燃焼室に供給されるガスに同伴すること、及び、有機モリブデン源を含むクランクケースの気相内の微細な油滴が燃焼室に供給されるガスに同伴すること、又は、その組合わせの少なくともひとつを含んで成る請求項1の方法。
【請求項3】
エンジンの堆積物形成の低減が吸気弁で生じることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項4】
さらに、有機モリブデン源の蒸気が存在する中で燃焼室に導入された炭化水素系の燃料を燃焼すること、及び、排気弁を経由して燃焼室からその燃焼生成物が排出され、その場合、排気弁での弁堆積物の形成が低減することをさらに含んで成る請求項1の方法。
【請求項5】
有機モリブデン源の送出が、潤滑油から揮発した有機モリブデン源の蒸気及び有機モリブデン源を含むクランクケースの気相内の微細な油滴の少なくとも一方を、吸気マニフォールドと吸気弁を通して導入するために、ポジティブ・クランクケース・ベンチレーション(PCV)・システムを経由して吸気マニフォールドに供給されたクランクケースのガスに同伴させることを含んで成る請求項1の方法。
【請求項6】
有機モリブデン源の送出が、前記有機モリブデン源を含む燃焼生成物又は燃焼室内のその燃焼生成物を、前記有機モリブデン源を含むその再循環された燃焼生成物を供給する吸気マニフォールドに、又は、その燃焼生成物を吸気マニフォールドと吸気弁を通して燃焼室に戻すように再循環することを含んで成る請求項1の方法。
【請求項7】
有機モリブデン源の送出が、前記有機モリブデン源を含む燃焼生成物又は燃焼室内のその燃焼生成物を、排ガス再循環(EGR)システムにより、その再循環される前記有機モリブデン源を含む燃焼生成物を供給する吸気マニフォールドに、又は、その燃焼生成物を吸気弁を通して燃焼室に再循環することを含んで成る請求項1の方法。
【請求項8】
潤滑油内の有機モリブデン源が、スルホン酸モリブデン、モリブデンフェネート、サリチル酸モリブデン、カルボン酸モリブデン、一核性及び二核性及び三核性のジチオカルバミン酸モリブデン、中性及び過塩基性のサリチル酸モリブデン、過塩基性のモリブデンフェネート、過塩基性のスルホン酸モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、ハロゲン化モリブデン、アミン及びアルコールと反応したモリブデンから誘導された化合物、及び、その組合わせ、混合物又はその誘導体から成るグループから選択されていることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項9】
有機モリブデン源がその潤滑油に少なくとも約20 ppmのモリブデンを供給するのに十分な量で潤滑油内に存在することを特徴とする請求項1の方法。
【請求項10】
有機モリブデン源が、その潤滑油に約20 ppmから約4000 ppmのモリブデンを供給するのに十分な量で潤滑油内に存在することを特徴とする請求項1の方法。
【請求項11】
潤滑油が潤滑用粘度の基油を主要量として含むことを特徴とする請求項1の方法。
【請求項12】
潤滑油が潤滑用粘度の基油を主要量として含み、その場合、基油が0.03 重量%以下の硫黄及び90 重量%以上の飽和物質を含み、かつ、80以上の粘度指数を有していることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項13】
燃焼機関が、マルチポート・エンジン、シーケンシャル・マルチポート・エンジン、直接噴射ガソリン・エンジン、ポート燃料噴射エンジンから成るグループから選択されることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項14】
燃焼機関が、ガソリン燃料エンジン、ディーゼル燃料エンジン、ディーゼル電動ハイブリッド・エンジン、ガソリン電動ハイブリッド・エンジン、燃料油燃焼機関、ガソホールエンジン、ジェット燃料エンジンから成るグループから選択されることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項15】
請求項1の方法を実施するための装置であって、
(a)炭化水素系燃料を燃焼するのに適した燃焼室、
(b)潤滑剤を保持して循環するのに適したクランクケースで、前記クランクケースが作動面で燃焼室と関連していて、前記潤滑剤が基油及び油溶性有機モリブデン源を含んでいること、
(c)炭化水素系燃料を燃焼室に導入するのに適した燃料導入手段、
(d)燃焼室に少なくとも空気を導入するのに適した吸気弁を含む吸気マニフォールド、
(e)燃焼室から燃焼生成物を排出するための排気弁、
を含んで成る装置。
【請求項16】
さらに、吸気マニフォールドを経由して燃焼室に導入すべき空気を用いて、クランクケース内の気相内に導入され、分散された有機モリブデン源用接続部分のための接続手段を含む請求項15の装置。
【請求項17】
その接続手段がポジティブ・クランクケース・ベンチレーション(PCV)・システムを含んで成る請求項16の装置。
【請求項18】
その接続手段が排ガス再循環(EGR)システムを含んで成る請求項16の装置。
【請求項19】
燃料導入手段と吸気弁が同じであることを特徴とする請求項15の装置。
【請求項20】
燃料導入手段が、吸気弁と排気弁の間の燃焼室内に燃料を直接注入するのに適していることを特徴とする請求項15の装置。
【請求項21】
燃焼機関が、マルチポート・エンジン、シーケンシャル・マルチポート・エンジン、直接噴射ガソリン・エンジン及びポート燃料噴射エンジンから成るグループから選択されることを特徴とする請求項15の装置。
【請求項22】
燃焼機関が、ガソリン燃料エンジン、ディーゼル燃料エンジン、ディーゼル電動ハイブリッド・エンジン、ガソリン電動ハイブリッド・エンジン、燃料油燃焼機関、ガソホール・エンジン及びジェット燃料エンジンから成るグループから選択されることを特徴とする請求項15の装置。
【請求項23】
燃焼室及びその中に燃料を導入するように作動できる燃料・吸気弁及び燃焼室から燃焼生成物を排出するように作動できる排気弁を有する燃焼機関内の排気弁での堆積物を低減するための方法であって、
排気弁の弁座用凹部と接触するように油溶性の有機モリブデン源を含む潤滑油を用いること、
燃焼室内で燃料と空気の混合体を燃焼すること、
燃焼ステップから得られた燃焼生成物を燃焼室から排気弁を通して排出すること、
燃焼ステップを複数回繰返し、その中で、有機モリブデン源を含まない潤滑油から形成された堆積物と比較して、有機モリブデン源が排気弁に形成された堆積物を低減すること、
のステップを含んで成る方法。

【図1】
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【公開番号】特開2004−346939(P2004−346939A)
【公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−152108(P2004−152108)
【出願日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(391002328)エチル・コーポレーシヨン (2)
【氏名又は名称原語表記】ETHYL CORPORATION
【Fターム(参考)】