説明

澱粉系吸水性材料の製造方法

【課題】高い吸水性能を有し、かつ経済面、省資源、生産性の面で優れた澱粉系吸水性材料の製造方法を提供する。
【解決手段】押出機中にて、必要に応じて触媒の存在下で、澱粉系物質と多塩基酸の酸無水物とを反応させ、さらに必要に応じて架橋剤を用いて架橋反応させ、澱粉系物質に含有される澱粉の構成単糖残基当たりのカルボキシ基の導入数が0.1以上である澱粉系吸水性材料を得ることを特徴とする澱粉系吸水性材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉系吸水性材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸水性樹脂は、自重の数十倍から数千倍もの水を吸収できる材料として、生理用品、紙おむつ等の衛生資材、医療用資材、生活用資材、農・園芸用資材、運搬用資材、土木建築資材、電気機器関連資材、水処理剤等の幅広い分野で用いられている。
従来、このような吸水性樹脂としては、例えば、架橋ポリアクリル酸部分中和物、澱粉−アクリロニトリル共重合体の部分加水分解物、澱粉−アクリル酸グラフト共重合体、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とアクリル酸との共重合架橋物、カチオン性モノマーの架橋重合体、架橋イソブチレン−無水マレイン酸共重合体の加水分解物等が知られている。
【0003】
ところが、これらの吸水性樹脂は、ビニルモノマーを主原料とするため、生分解性がほとんどなく、原料の一部に澱粉を用いている吸水性樹脂でも、澱粉以外のビニルポリマー部分の生分解性は非常に乏しい。このため、使用後の吸水性樹脂は、通常、埋め立て処理により廃棄されているが、埋められた吸水性樹脂は半永久的に土壌中に残存するため、埋め立て後の地盤が安定しないという問題がある。また、埋め立てに適した場所が減少していることも大きな問題となっている。
【0004】
このような事情を背景として、近年では、生分解性を有する吸水性材料が注目されている。該吸水性材料としては、例えば、ポリエチレンオキシド架橋体、ポリビニルアルコール架橋体、ガラクトマンナン架橋体、アルギン酸架橋体、カルボキシメチルセルロース架橋体、ポリアミノ酸架橋体、変性澱粉架橋体等が知られている。これらの中では、特に変性澱粉架橋体が、安価で生分解性に優れるものとして知られている。変性澱粉架橋体としては、例えば、以下のものが知られている。
(1)カルボキシメチル澱粉架橋体(特許文献1)。
(2)コハク酸澱粉架橋体(特許文献2)。
【0005】
しかし、(1)、(2)の変性澱粉架橋体は、水中、あるいはアルコール−水混合溶媒中での懸濁、または均一系における反応で製造されており、その製造には多量の溶媒が使用とされる。このため、(i)変性澱粉架橋体と溶媒との分離、および変性澱粉架橋体の乾燥に多大なエネルギーが消費される、(ii)分離された溶媒の処理方法として、廃棄、あるいはリサイクルのいずれかの方法をとる必要があるため、経済面、省資源の面で不利である。また、(1)、(2)の変性澱粉架橋体の製造方法は、バッチ方式のため、連続生産には不適であり、生産性に劣る問題がある。
【0006】
なお、吸水性材料に限定しなければ、澱粉を利用した材料として、澱粉に親水基を導入した化工澱粉が知られている(非特許文献1)。化工澱粉としては、例えば、リン酸澱粉、カルボキシメチル澱粉、ヒドロキシアルキル澱粉、カチオン澱粉、澱粉オクテニルコハク酸エステル、コハク酸澱粉等が挙げられる。化工澱粉の製造方法としては、押出機を用いる方法が知られており、例えば、以下の方法が開示されている。
(3)澱粉、モノクロロ酢酸ナトリウム、および水酸化ナトリウム水溶液を押出機から押し出し、カルボキシメチル澱粉を得る方法(特許文献3)。
(4)澱粉と、少量の無水コハク酸、無水マレイン酸等の二塩基酸無水物とを押出機中で反応させ、コハク酸またはマレイン酸エステル澱粉を得る方法(非特許文献2)。
【0007】
(3)の方法においては、多量の溶媒の代わりに、澱粉を糊化させるための少量の水だけを用いているため、経済面、省資源の面で有利である。また、連続生産できるため、生産性に優れる。しかし、(3)の方法で得られる生成物は、粘度調整剤用の冷水溶性澱粉であり、澱粉の構成単糖残基当たりのカルボキシ基の導入数が0.1以上である吸水性材料を得るための方法は開示されていない。
非特許文献2には、(4)の方法で得られる生成物が、高い吸水性能を示すことに関する記載はない。また、得られた反応生成物は、澱粉の構成単糖残基当たりのカルボキシ基の導入数は、0.1未満であり、高い吸水性能を発現するものではない。
【特許文献1】特開昭53−17679号公報
【特許文献2】特開平8−208703号公報
【特許文献3】特表2004−501212号公報
【非特許文献1】不破英次編、「澱粉科学の辞典」、朝倉書店、2003年、p.393−427
【非特許文献2】Tomasik P.、Wang Y.J.、Jane J.、「Facile Route to Anionic Starches. Succinylation, Maleination and Phthalation of Corn Starch on Extrusion」、Starch/Starke、47、WILEY−VCH Verlagsgesellschaft、1995年、p.96−99
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い吸水性能を有し、かつ経済面、省資源、生産性の面で優れた澱粉系吸水性材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の澱粉系吸水性材料の製造方法は、押出機中にて澱粉系物質と多塩基酸の酸無水物とを反応させ、澱粉系物質に含有される澱粉の構成単糖残基当たりのカルボキシ基の導入数が0.1以上である澱粉系吸水性材料を得ることを特徴とする。
多塩基酸の酸無水物は、二塩基酸無水物であることが好ましい。
触媒としてアルカリ金属の水酸化物を、多塩基酸の酸無水物(100mol%)に対して70〜130mol%用いることが好ましい。
【0010】
さらに、押出機中にて架橋剤を用いて架橋反応させることが好ましい。
澱粉系物質は、乾燥質量換算で26〜90質量%の澱粉を含有する澱粉粕であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の澱粉系吸水性材料の製造方法によれば、高い吸水性能を有し、かつ経済面、省資源、生産性の面で優れた澱粉系吸水性材料を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の澱粉系吸水性材料の製造方法は、押出機中にて澱粉系物質と多塩基酸の酸無水物とを反応させ、澱粉系物質に含有される澱粉の構成単糖残基当たりのカルボキシ基の導入数が0.1以上である澱粉系吸水性材料(以下、単に吸水性材料と記す。)を得る方法である。
【0013】
(澱粉系物質)
澱粉系物質とは、澱粉を含有する物質を意味する。
澱粉系物質としては、澱粉を主成分とする(90質量%以上含有する)ものが挙げられ、例えば、各種澱粉作物から各澱粉製造工程を経て採取、精製された澱粉が挙げられる。
澱粉作物としては、例えば、甘藷、馬鈴薯、キャッサバ、タロイモ、ヤムイモ、タシロイモなどのイモ類、トウモロコシ、小麦、大麦、米、緑豆、葛、サゴヤシ、トゲサゴ、クジャクヤシ、フェニックスヤシ、片栗、蕨、オオウバユリ、ヒガンバナ、カラスウリ、キカラスウリ、トチノキ、コナラ、ミズナラ、アロールート、ガジュツ、食用カンナ、ソテツ、アビシニアバショウ等が挙げられる。
【0014】
澱粉系物質として、部分的に澱粉を含有するものを用いてもよい。該澱粉系物質としては、例えば、澱粉粕が挙げられる。澱粉粕とは、上記各澱粉製造工程で採取可能な量の澱粉を採取した後の残渣であり、澱粉の他に、多糖類(セルロース、ヘミセルロース等。)、リグニン、タンパク質、脂肪等の成分を含有している。
澱粉粕としては、吸水性材料の膨潤状態における耐熱性と吸水性能とのバランスが良好な点から、イモ類から得られる澱粉粕が好ましく、安価で大量に入手しやすい点から、キャッサバから得られる澱粉粕が特に好ましい。吸水性材料の膨潤状態における耐熱性とは、高温でも保水力を備えていることを意味する。
【0015】
澱粉粕の澱粉含有量は、乾燥質量換算で26〜90質量%が好ましく、30〜85質量%がより好ましく、35〜80質量%が特に好ましい。澱粉含有量が26質量%以上であると、優れた生分解性を有する吸水性材料が得られる。澱粉含有量が90質量%以下であると、得られる吸水性材料の膨潤状態における耐熱性が良好となる。このような澱粉含有量の澱粉粕を用いることにより、生分解性と膨潤状態における耐熱性とが良好な吸水性材料が得られる。
【0016】
澱粉粕の澱粉含有量は、酵素法によって測定される。酵素法は、財団法人日本食品分析センターで採用されている方法である。詳細には、試料のうち50%エタノールに不溶なものをグルコアミラーゼ処理(pH4.8、40℃、3時間。)した後、これに含まれるブドウ糖の量を測定して0.9を乗じた値を澱粉含有量とする。
【0017】
澱粉粕を用いた場合、押出機中でせん断エネルギーを付与し澱粉粕内部の繊維成分を細かく解すことで、結果的に優れた吸水性能を有し、かつ膨潤状態での耐熱性に優れる吸水性材料を得ることができる。この理由は明確ではないが、以下の現象によるものと推察される。
まず、澱粉粕は、内部の澱粉分子の少なくとも一部分が、繊維成分(セルロース、ヘミセルロース、リグニン等。)、タンパク質成分、脂肪成分等と複雑に絡み合った構造を形成していると考えられる。このうち、澱粉分子はカルボキシ基が導入され水可溶性となるが、繊維成分は多塩基酸の酸無水物と反応し難く、水に不溶性の状態のまま吸水性材料中に含有される。
【0018】
このため、押出機中で繊維成分を細かく解すことで、以下の2つの効果が発現していると考えられる。
(i)繊維成分を細かく解し、上記の絡み合い構造の一部を破壊することで、澱粉分子の多塩基酸の酸無水物との反応が促進される。
(ii)水不溶性の繊維成分が吸水性材料中に細かく解された状態で存在するため、吸水性材料として使用した際、膨潤を阻害されることなく吸水し、加えて細かく分散した繊維成分が、膨潤時にゲルの強度を向上させるため、高温時に保水力を維持できる。
【0019】
澱粉粕を用いる場合、多塩基酸の酸無水物と反応させる前に、前処理として澱粉粕の粉砕処理を行ってもよい。粉砕には、自動乳鉢、ハンマーミル、ボールミル、ホモジナイザー、リファイナー等を用いる。澱粉粕を粉砕し、澱粉粕の粒子径を制御することにより、反応速度、反応の均一性、得られる吸水性材料の吸水性能、ゲル強度等を目的に応じて調整できる。
【0020】
澱粉系物質は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
澱粉製造工程としては、例えば、非特許文献1に詳細に記載されているような公知の澱粉製造工程が挙げられる。
【0021】
(可塑剤)
本発明においては、澱粉系物質と多塩基酸の酸無水物との反応性を高めるために、可塑剤を添加することが好ましい。押出機中で可塑剤とともに加熱することにより、澱粉系物質は熱可塑性溶融体を形成して多塩基酸の酸無水物等と均一に混合して反応が進行する。
可塑剤としては、公知の可塑剤が挙げられ、例えば、水;エチレングリコール、グリセロール、ソルビトール等の多価アルコール類;ピリジン、尿素、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒が挙げられ、低毒性の点から、水または多価アルコールが好ましい。可塑剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
可塑剤として水のみを使用する場合、水の添加量は、澱粉系物質と水との合計(100質量%)に対して、5〜80質量%が好ましく、10〜50質量%が特に好ましい。水の添加量が5質量%以上であると、澱粉が充分に可塑化し、反応が充分に進行する。水の添加量が80質量%以下であると、多塩基酸の酸無水物と水との反応が抑えられ、吸水性能の高い吸水性材料を得ることができる。
【0023】
(多塩基酸の酸無水物)
澱粉系物質が有するヒドロキシル基と、多塩基酸の酸無水物とをエステル反応させることによって、澱粉系物質にカルボキシ基を導入する。本発明におけるカルボキシ基には、−COOHおよび−COO- が含まれるものとする。
【0024】
多塩基酸の酸無水物としては、例えば、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、クエン酸、リンゴ酸等の多塩基酸の酸無水物が挙げられ、エステル化反応によって副生成物が発生しない点から、一分子内に複数のカルボキシル基を有する多塩基酸が分子内で環状の酸無水物を形成している多塩基酸無水物がより好ましく、入手のし易さの点から、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸等の二塩基酸無水物がさらに好ましく、生分解性の点から、無水コハク酸および無水マレイン酸が特に好ましい。
【0025】
カルボキシ基の導入数(以下、DSと記す。)は、澱粉系物質に含有される澱粉の構成単糖残基当たり、0.1〜1.5であり、0.1〜1.0がより好ましい。該範囲でカルボキシ基を導入すると、吸水性能が良好であるとともに、ゲル強度にも優れた吸水性材料が得られる。すなわち、DSが0.1以上であると、吸水性材料が充分に高い吸水性能を発現する。DSが1.5以下であると、カルボキシ基を導入する反応時における澱粉系物質の分子量低下が抑制され、高い吸水性能とゲル強度とを備えた吸水性材料が得られやすい。
本発明においては、得られる吸水性材料のDSが0.1〜1.5となるように、澱粉系物質と多塩基酸の酸無水物との比率、押出条件(反応温度、反応時間、スクリュー回転数等。)等を適宜調整する。
【0026】
DSとは、架橋剤との反応で架橋を形成したカルボキシ基を除いた、澱粉の構成単糖残基当たりのカルボキシ基の導入数を意味する。DSは、吸水性材料をカルボキシ基の対イオンを含む水溶液中に充分に浸漬して、全てのカルボキシ基を塩の形態に変化させた後に、原子吸光分析により対イオン含有量を定量して、その値から計算して求める。
【0027】
(触媒)
本発明においては、澱粉系物質と多塩基酸の酸無水物とのエステル化反応を促進する触媒を添加してもよい。
エステル化触媒としては、例えば、酸類、塩基類、ルイス酸類、アミン類等が挙げられる。これらのうち、反応後の触媒が吸水性材料において、カルボキシ基の対イオンになる点から、ナトリウムイオン、カリウムイオン等の一価の陽イオンであるアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩;アミン類等の塩基性物質が好ましく、価格および低毒性の点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムがより好ましく、反応性の点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が特に好ましい。
【0028】
アルカリ金属の水酸化物の添加量は、多塩基酸の酸無水物(100mol%)に対して70〜130mol%が好ましく、80〜120mol%が特に好ましい。アルカリ金属の水酸化物の添加量が範囲であると、吸水性材料の吸水性能が高くなる。
【0029】
本発明において、多塩基酸の酸無水物として、一つの分子内に複数のカルボキシル基を有する多塩基酸が分子内で環状構造を形成している化合物を用い、かつ触媒としてアルカリ金属の水酸化物を多塩基酸の酸無水物に対して70〜130mol%用いる場合、反応時の副生成物としての塩類の発生が少量である。このため、反応生成物の精製を行わずにそのまま吸水性材料として用いた場合、塩類を多量に含むものに比べて吸水力の点で優れている。この理由は、多量の塩類の存在下では吸水性材料中のカルボキシ基同士の電気的な反発力が減少し、結果として吸水力が低下する現象に基づいており、吸水性材料中に含有される塩類量の少ない方が高い吸水性能を示すためである。これに対して、モノクロロ酢酸ナトリウムによるカルボキシメチル化反応等のように、多量の塩類を副生する反応により得られる生成物は、反応生成物中に塩類を多く含有し、これを精製を行わずにそのまま吸水性材料として用いた場合、吸水性能が低下するため、塩類を精製除去することが必要となる。
【0030】
(架橋剤)
本発明においては、澱粉系物質にカルボキシ基を導入すると同時に、澱粉系物質を架橋させてもよい。
架橋方法としては、加熱により架橋させる方法(熱架橋)、架橋剤を用いる方法等、公知の方法が挙げられる。本発明においては、澱粉系物質と多塩基酸の酸無水物との反応を押出機中で高温下、かつ高濃度条件で行うため、架橋剤を用いなくても熱架橋が進行する。よって、目的とする吸水性材料の物性によっては、架橋剤を用いることなく架橋を行うこともできる。
【0031】
架橋剤としては、塩化アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム12水和物(カリウムみょうばん)、酢酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化カルシウム等のカルシウム塩、鉄塩、第二銅塩、バリウム塩、マンガン塩、カドミウム塩、クロム酸塩、チタン酸塩、アンチモン酸塩等の水溶性多価金属塩;ホルムアルデヒド、グリオキザール等のアルデヒド類;ジメチロールウレア、ジメチロールエチレンウレア、ジメチロールイミダゾリドン等のN−メチロール化合物類;1,4−ジアミノブタン等の多価アミン類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジエタノールアミン、エタンジチオール、チオエタノールアミン、チオエタノール、トリエタノールアミン、ポリオキシプロピレン、ポリビニルアルコール、ペンダエリスリトール、ソルビット、ソルビタン、グルコース、マンニット、マンニタン等の多価アルコール類、多価チオール類;蓚酸、マレイン酸、コハク酸、ポリアクリル酸等の多価カルボン酸類;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエポキシブタン等の多価エポキシ化合物類;ジビニルスルホン、メチレンビスアクリルアミド等のジビニル化合物類;ジクロロアセトン、ジクロロプロパノール、ジクロロ酢酸等の多価ハロゲン化合物類;エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン等のハロヒドリン化合物類;多価アジリジン化合物類等が挙げられる。
【0032】
架橋剤としては、得られる吸水性材料の吸水性能、ゲル強度、生分解性、環境安全性の点から、多価カルボン酸類;多価アルコール類;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等の多価エポキシ化合物類が好ましく、架橋反応の容易さの点から、エチレングリコールジグリシジルエーテルおよびポリエチレングリコールジグリシジルエーテルが特に好ましい。
架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
(他の添加剤)
本発明においては、さらに他の添加剤を加えてもよい。他の添加剤としては、潤滑剤、防腐剤、着色剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0034】
(押出機)
押出機としては、単軸押出機、多軸押出機等の公知の押出機が挙げられ、かみ込み性に優れる点から、多軸押出機が好ましく、2軸押出機が特に好ましい。2軸押出機としては、押出物にせん断応力がかかりやすく、また輸送効率が高い点から、完全かみ合い型の同方向回転型が好ましい。
【0035】
澱粉系物質、多塩基酸の酸無水物、架橋剤および触媒の押出機への投入順序は、特に制限がなく、全ての原料を一括で投入してもよく、押出機の途中に設けられた投入口から各原料を順次投入してもよい。
押出条件は、公知の澱粉の押出条件を採用すればよい。
反応温度は、70〜180℃が好ましく、80〜150℃がより好ましく、90〜130℃が特に好ましい。反応温度が70℃以上であると、充分に反応が進行する。反応温度が180℃以下であると、押出機中での澱粉系物質の劣化が抑えられる。
スクリュー回転速度は、50〜300回転/分が好ましく、60〜200回転/分が特に好ましい。
【0036】
吸水性材料は、反応後にダイより押出され棒状物として得られる。棒状のままで吸水性材料として用いてもよく、使用の目的に応じて適した形状に加工してもよい。例えば、ペレタイザーにより長さ5〜30mm程度のペレット状にしてもよく、公知の粉砕機を用いてさらに小さく破砕してもよい。
【0037】
吸収性材料から、必要に応じて未架橋成分を除去してもよい。未架橋成分とは、吸水性材料の内部で架橋していない成分、および未反応の多塩基酸の酸無水物、触媒、架橋剤であり、水に溶解する成分を意味する。
除去方法としては、架橋後の吸水性材料を適当量の純水中に浸漬し、充分に未架橋部分を溶解した後に、ろ過して得られたゲル状部分を乾燥する方法等が挙げられる。
【0038】
以上説明した本発明の澱粉系吸水性材料の製造方法にあっては、押出機中にて澱粉系物質と多塩基酸の酸無水物とを反応させているため、多量の溶媒を用いる必要がなく、かつ連続生産可能である。そのため、経済面、省資源、生産性の面で優れている。
また、DSが0.1以上であるため、吸水性材料に必要とされる吸水性能を充分に発揮できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。本実施例において、「部」は「質量部」を意味する。
本実施例における各種測定方法および評価方法を以下に示す。
【0040】
(1)澱粉の構成単糖残基当たりのカルボキシ基の導入数(DS):
多塩基酸の酸無水物として無水マレイン酸、触媒として水酸化ナトリウムを用いた場合について、下記の方法によりDSを求めた。
1gの試料を凍結粉砕した後、300mlの50質量%エタノール水溶液中に浸漬し、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0に調節し、全てのカルボキシ基をナトリウム塩の状態にした後、ろ過を行い50質量%エタノール水溶液でを充分に洗浄した。ついで、再度50質量%エタノール水溶液300ml中に20時間浸漬し、未反応の無水マレイン酸および余剰のナトリウムイオンを充分に抽出した後、再度ろ過、洗浄を行い充分に乾燥した。この試料を金属製るつぼに0.1g量りとり、電気炉にて加熱し、有機分を完全に除去した。残った灰分を50mlの0.1Nの希塩酸水溶液に溶解し、原子吸光分析装置(パーキンエルマージャパン社製、Aanalyst 800)により、試料に含まれるナトリウムイオン濃度(ppm)を定量し、得られた値からDSを求めた。DSの算出は下式(1)〜(3)に従って行なった。すなわち、まず式(1)により試料中のナトリウムの固形分換算含有量(Y、質量%)を算出し、同様に式(2)により原料についての値(Y0 )を得た。次いで式(3)によりDSを算出した。
【0041】
【数1】

【0042】
【数2】

【0043】
【数3】

【0044】
ここで上式中の各々の記号は以下を示す。また添え字の0は原料に関する値であることを示す。
Y:試料中のナトリウムの固形分換算含有量(質量%)、
0 :原料中のナトリウムの固形分換算含有量(質量%)、
A:試料中のナトリウム含有量の原子吸光分析測定値(ppm)、
0 :原料中のナトリウム含有量の原子吸光分析測定値(ppm)、
B:原子吸光分析測定に供した試料精秤量値(g)、
0 :原子吸光分析測定に供した原料精秤量値(g)、
C:原子吸光分析に供した試料中の含水率(質量%)、
0 :原子吸光分析に供した原料中の含水率(質量%)、
X:DS、
23:Naの原子量、
162+120X:DS=Xの場合の、マレイン酸エステル化澱粉(または澱粉粕)の構成単糖あたりの平均分子量。
【0045】
(2)飽和吸水倍率:
以下に示すティーバッグ法により、各吸水性材料の飽和吸水倍率を測定した。
吸水性材料約0.05gを、250メッシュのナイロンメッシュで作製したティーバッグに入れ、室温で過剰量の蒸留水中に浸漬して、該吸水性材料を24時間膨潤させた。その後、ティーバッグを引き上げて1分間水切りを行い、膨潤した材料を含むティーバッグの質量を測定した。一方、同様の操作をティーバッグのみで行った場合のティーバッグの質量をブランクとして測定しておいた。そして、膨潤した吸水性材料を含むティーバッグの質量からブランクの質量および吸水性材料の質量を減じた値を、吸水性材料の質量で除して、この値を飽和吸水倍率(g/吸水性材料1g)とした。
【0046】
〔実施例1〕
120部の澱粉(和光純薬(株)製、バレイショ由来、含水率16.4質量%、乾燥質量100部)および粉末状の無水マレイン酸30部を、ヘンシェルミキサー中で充分に混合しながら、12.3部の水酸化ナトリウムを純水275部に溶解させて調製した水酸化ナトリウム水溶液を、少量ずつ添加した。このときの無水マレイン酸と水酸化ナトリウムとのモル比は1/1である。
【0047】
得られた混合物を、二軸押出機(WERNER&PFLEIDERER社製、ZSK30)にて、バレル温度90℃、スクリュー回転数100rpmの条件で押出し、得られたストランドを室温で冷却した後、ペレタイザーを用いてペレット状の吸水性材料を得た。 該吸水性材料をミキサーによりさらに細かく粉砕し、飽和吸水倍率を測定したところ、100倍の吸水倍率を示した。また、該吸水性材料のDSは、0.21であった。結果を表1に示す。
【0048】
〔実施例2〕
澱粉の代わりに、キャッサバの澱粉製造工程で得られたキャッサバ澱粉粕(別称キャッサバパルプ、含水率9.6質量%、乾燥質量100部、澱粉含有量(乾燥質量換算)68質量%)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、吸水性材料を得た。混合物の固形分濃度、および無水マレイン酸と水酸化ナトリウムとのモル比は、実施例1と同じである。
得られた吸水性材料の飽和吸水倍率は、81g/gであり、DSは、0.12であった。結果を表1に示す。
【0049】
〔比較例1〕
無水マレイン酸の仕込み量を、澱粉120部に対して6部にした以外は、実施例1と同様の操作を行い、吸水性材料を得た。混合物の固形分濃度、および無水マレイン酸と水酸化ナトリウムとのモル比は実施例1と同じである。
得られた吸水性材料の飽和吸水倍率は、20g/gであり、DSは、0.02であった。結果を表1に示す。
【0050】
〔比較例2〕
キャッサバ澱粉粕を用い、押出機を用いずに溶液法にて吸水性材料を得た。
キャッサバ澱粉粕111部(乾燥質量100部)を800部の純水中に溶解、分散させた後、3Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを9に調節した。ついで、反応温度を25℃に保ち、3Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを9に維持しながら、粉末状の無水マレイン酸30部を2時間に渡り添加した。3Nの水酸化ナトリウム水溶液を水酸化ナトリウムが無水マレイン酸に対して当モル量になるまで添加した後、反応をさらに3時間保持し、酢酸を用いてpHを7に調節した後に、アセトンを添加して溶解した部分を沈殿させた。得られた生成物をろ過した後、真空乾燥機を用いて室温で乾燥させた。ついで得られたマレイン酸エステル化澱粉粕を固形分が10質量%になるように純水に溶解、分散させ、90℃で2時間加熱した後、溶液をバットに移して蒸気乾燥機中で55℃で72時間乾燥させ、マレイン酸エステル化澱粉粕の熱架橋を行った。生成物を粉砕して、吸水性材料を得た。
得られた吸水性材料の飽和吸水倍率は、18g/gであり、DSは、0.06であった。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
澱粉系物質と無水マレイン酸との反応を押出機中にて行うことにより、優れた飽和吸水倍率を有する吸水性材料を得ることができた。特に得られた吸水性材料のDSが0.1以上の場合、高い飽和吸水倍率を示した。
また、原料に澱粉粕を用い、押出機法により合成した吸水性材料は、溶液法で調製した吸水性材料に比べ、高い飽和吸水倍率とDSを示した。理由としては、溶液法で反応させる場合、澱粉粕内部の繊維成分が澱粉分子と強く絡み合っているために反応が充分に進行しなかったことが考えられる。さらに得られた吸水性材料中において、水不溶性の繊維成分が解されていない状態で存在し、澱粉分子の運動を抑制し膨潤、吸水を妨げているためだと推察できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の製造方法によって得られた澱粉系吸水性材料は、高い吸水性能を有し、かつ経済面、省資源、生産性の面で優れていることから、生理用品、紙おむつ等の衛生資材、医療用資材、生活用資材、農・園芸用資材、運搬用資材、土木建築資材、電気機器関連資材、水処理剤等に用いられる吸水性材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機中にて澱粉系物質と多塩基酸の酸無水物とを反応させ、澱粉系物質に含有される澱粉の構成単糖残基当たりのカルボキシ基の導入数が0.1以上である澱粉系吸水性材料を得る、澱粉系吸水性材料の製造方法。
【請求項2】
触媒としてアルカリ金属の水酸化物を、多塩基酸の酸無水物(100mol%)に対して70〜130mol%用いる、請求項1記載の澱粉系吸水性材料の製造方法。

【公開番号】特開2007−222704(P2007−222704A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43636(P2006−43636)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】