説明

濾過構造

【課題】フィルタの交換や洗浄などを必要としない濾過構造を提供する。
【解決手段】フィルタを、主流路と副流路の交差部分に、主流路から副流路に流入する流体を濾過するように設ける。副流路には、流量の切換手段を設け、副流路を流通する流体の流量を適宜変化させる。フィルタは、主流路に臨んだフィルタ面を、主流路の壁面に対して凹もしくは凸とするなど、異なる面に形成する。フィルタの異なる面は、副流路への流通を停止させると、主流路内を流れる流体に乱流を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタの交換や洗浄などを不要とした濾過構造に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧機器類は、通常油路の経路中にフィルタ類を備え、オイルをオイルフィルタで濾過しオイルに含まれる塵埃をオイルから除去するようにしている。殊に車両用自動変速機など、油圧で駆動されるクラッチ機構や歯車変速機構を備えた機器類には、油圧を制御する切換バルブに塵埃が噛みこまないよう、多数のオイルフィルタが組み込まれている。
【0003】
オイルフィルタは、オイルを濾過してオイルに含まれる塵埃を捕捉すると、その表面に順次塵埃が堆積する。そして最終的には捕捉された塵埃によりフィルタは目詰まりを起こし、フィルタとしての機能が失われる。フィルタが目詰まりした場合従来は、オイルフィルタを装着している機器からオイルフィルタを取り外して新規なオイルフィルタに交換したり、オイルフィルタに付着した塵埃を除去して、再度機器に組みつけていた。また、オイルなどの被濾過流体を通常の流通方向と流通方向を逆にして流通させ、オイルフィルタなどの表面に付着した塵埃等を除去する逆流による洗浄も行なわれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−230298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両用の自動変速機などに組み込まれているバルブボディは、変速機本体内部に組み付けられ、容易に取り外すことができない構造となっている。そのためバルブボディの内部に組み込まれたフィルタの目詰まりにより、その都度フィルタを交換したり洗浄することは手間とコストが非常にかかるものであった。
【0006】
またフィルタの逆流洗浄は、逆流洗浄を行うための逆流装置などを必要とし、コストがかかり、また装置が大型になるという問題があった。また逆流洗浄の場合には、逆流によりフィルタから除去された塵埃が流体内に混入され、それらを改めて処理する必要があり、精密な制御を必要とする機器類にはあまり使用できなかった。
【0007】
本発明は上記課題を解決し、フィルタを交換したり、フィルタを取り外して洗浄すること等を不要とした濾過構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、流体の濾過構造を次のように構成した。
フィルタは、主流路と副流路との交差部分に、主流路から副流路に流入する流体を濾過するように設けられている。副流路には、流量の切換手段が設けられており、切換手段が作動することにより副流路を流通する流体の流量が適宜変化が生じる。
【0009】
更にフィルタは、主流路に臨んだフィルタ面が、主流路の壁面を構成する面と同一面とならない面を形成している。これによりフィルタは、主流路内に臨ませたフィルタ面によって、主流路内を流れる流体に、流れの乱れを生じさせている。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる濾過構造によれば、副流路に設けられている切換手段、例えば開閉機器が開放されると、主流路を流れる流体がフィルタを通して副流路に流入する。副流路に流入する流通流体は、フィルタにより濾過され、流体内に塵埃が含まれているとフィルタにより塵埃が捕捉される。
【0011】
副流路の開閉機器が閉じられ、副流路を流れる流量が減少すると、主流路と副流路の分岐点での流体の流通状況が変化する。例えば副流路への流体の流通を停止させると、フィルタにおける塵埃の捕捉力がなくなり、また、フィルタ面により生じる流れの乱れにより、塵埃がフィルタの表面から脱落して、主流路内を流れる流体内に混入する。これによりフィルタ表面は、主流路を流れる流体により洗浄されることとなる。
【0012】
そして、新たに副流路の開閉機器が開かれると、主流路から副流路に流体が流入される。副流路に流入する流体に塵埃が含まれていると、フィルタに捕捉され、濾過された流体が副流路に流入する。そして、再び副流路の流量が減少あるいは0になると、上記したと同様に塵埃がフィルタ表面から脱落して主流路内の流体内に混入し、再度フィルタが洗浄される。
【0013】
このように、副流路に設けられた切換手段が操作されて副流路を流れる流体の流量が減少する都度、フィルタに付着した塵埃が除去され、フィルタを常に洗浄された状態に保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる濾過構造の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】同濾過構造を備えた自動変速機の一実施形態を示す部分断面図である。
【図3】同濾過構造を備えたバルブユニットを示す部分平面図である。
【図4】同濾過構造の一実施形態を示す平面図である。
【図5】バルブユニットの油圧回路を表す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明にかかる、濾過構造の一実施形態について説明する。
【0016】
図1に、濾過構造10を示す。濾過構造10は、フィルタ12を有し、主流路14から副流路16が分岐している箇所に形成されている。図2に、車両用の自動変速機20を示す。自動変速機20は、前方(車両の前進方向)にバルブボディ22と、2基のクラッチ機構24、26を備えた、いわゆるデュアルクラッチ式の自動化機械式変速機である。
【0017】
クラッチ機構24および26は、湿式多板式クラッチで、クラッチアクチュエータで28、30により接断操作される。クラッチ機構24、26の後方には、変速歯車機構18が設けられている
バルブボディ22は、クラッチ機構24、26の前方(車両進行方向)に設けられており、油路(図示せず。)で連結されている。バルブボディ22には、切換手段としての切換バルブ52、54(図5参照。)が設けられており、クラッチ機構24、26のクラッチアクチュエータ28、30に接続している。
【0018】
バルブボディ22は、図3に示すように円板状に形成されており、中心にはオイルポンプ32が設けられている。オイルポンプ32は、歯車ポンプであり、エンジン56(図5参照。)からの回転力で駆動し、吸引口38を介してオイルパン58(図5参照。)からオイルを吸引し、吐出口34からオイルを吐出させる。
【0019】
吐出口34には、主流路14と排出路36が接続している。主流路14は、オイルポンプ32を中心にほぼ半円を描くように形成されている。排出路36は、オイルパン58に連通している。
【0020】
図5に、バルブボディ22の油圧回路を示す。オイルポンプ32は、吸引口38が吸引管40を介してオイルパン58に連結され、上述したように吐出口34が主流路14に連通している。吸引管40の先端には、ストレーナ42が取り付けられ、オイルパン58に臨ませてある。
【0021】
主流路14には、調圧機構44が設けられている。調圧機構44は、油圧によって作動する調圧用のバルブ46やアキュムレータ48などからなり、主流路14内のオイルの圧力を所定の圧力に調整する。
【0022】
主流路14には送油管59が設けてあり、送油管59によりフィルタ57を介して主流路14がギヤシフトユニット60に連結されている。ギヤシフトユニット60は、3基の駆動機構62を備え、バルブボディ22から送られるオイルにより各駆動機構62を作動させる。各駆動機構62の作動により変速歯車機構18(図2参照)のシフトフォークが適宜移動し、変速歯車機構18のシンクロ機構(いずれも図示せず。)を作動させる。シンクロ機構を作動させることにより、変速歯車機構18の被動歯車と回転軸(いずれも図示せず。)が適宜連結され、変速歯車機構18に所定のギヤ段が設定される。
【0023】
また主流路14は、3台の切換バルブ70、71、72を介してクラッチ潤滑装置74およびオイルクーラ75に連結している。クラッチ潤滑装置74は、クラッチ機構24、26にオイルを供給し、クラッチ機構24、26のクラッチ板(図示せず。)などにオイルをかけ流し続けている。
【0024】
また温度センサ80の検出結果に基づき、切換バルブ71を作動させ、オイル温度が高く、所定の油圧があるときにはオイルクーラ75を通してクラッチ潤滑装置74からオイルを流出させている。これにより、油温が上昇した場合はオイルクーラ75で冷却したオイルを供給してクラッチ機構24、26を潤滑、冷却させる。
【0025】
クラッチアクチュエータ28、30は、クラッチ機構24、26にそれぞれ設けられている。各クラッチアクチュエータ28および30は、主流路14から分岐した副流路16と切換バルブ52等を介して連結しており、副流路16を通ったオイルで駆動され、クラッチ機構24と26を各々作動させる。
【0026】
図1および図4に、主流路14と副流路16の分岐点を示す。主流路14と副流路16の分岐点には、フィルタ12が設けられている。フィルタ12は、側面に濾過材を備えた円筒状の濾過部材である。
【0027】
主流路14は、概ね一定の断面形状を有する通路であり、バルブボディ22にほぼ半円形を描くように形成してある。主流路14の側壁部15に、円筒状の溝部90が形成してある。溝部90は、フィルタ12を収納可能な形状であり、フィルタ12を組み付けると、側壁部15側に、フィルタ12の側壁面の約2/3が覆われるように形成されている。したがって溝部90にフィルタ12を組み付けると、フィルタ12の側壁面の約1/3が主流路14内に突出する。フィルタ12の主流路14内には、濾過材が突出する。
【0028】
フィルタ12の下端は、主流路14に密着しており、下端から流体は流入しない構造となっている。フィルタ12の上面は開放してあり、連結通路92に接続し、連結通路92を介して副流路16に連結している。
【0029】
次に、濾過構造10の作用について説明する。
【0030】
オイルポンプ32が作動すると、図5に示すオイルパン58に貯留されているオイルが吸い上げられる。オイルは、オイルパン58に臨ませてあるストレーナ42を通して吸い上げられ、オイルポンプ32の吐出口34((図3参照。))から吐出される。
【0031】
オイルポンプ32から吐出されたオイルは、調圧機構44で圧力が所定の圧力に調整され、主流路14に供給される。主流路14に供給されない他のオイルは排出路36を通り、オイルポンプ32に吸引されたり、オイルパン58に戻る。
【0032】
主流路14に供給されたオイルにより、ギヤシフトユニット60やクラッチ機構24等のクラッチアクチュエータ28等には、所定の油圧がかけられる。例えば変速する指示があった場合には、ギヤシフトユニット60の駆動機構62が指示に従い作動し、オイルが主流路14から所定の駆動機構62に供給される。
【0033】
また、クラッチ機構24や26を作動させる場合は、クラッチアクチュエータ28や30の切換バルブ52等を作動させ、主流路14からのオイルをクラッチアクチュエータ28等に供給する。オイルは、主流路14からフィルタ12を通って副流路16に流入し、副流路16から切換バルブ52等に至り、それらの作動により所定のクラッチアクチュエータ28等に供給される。
【0034】
オイルは、仮に塵埃等を含んでいると、フィルタ12を通過する際フィルタ12にその塵埃が捕捉される。捕捉された塵埃は、フィルタ12の表面に付着する。
【0035】
クラッチ機構24等の駆動が終了すると、開かれた切換バルブ52等が閉じられ、クラッチアクチュエータ28等へのオイルの流入が停止し、またクラッチアクチュエータ28等の内部からオイルがオイルパン58へ排出される。
【0036】
すると、フィルタ12を通ってオイルが副流路16に流れ込まなくなる。すると、フィルタ12の表面に捕捉され、オイルの流入によりフィルタ12に付着していた塵埃などは、付着力を失いフィルタ12の表面から剥がれ、主流路14内を流れるオイルに混入される。
【0037】
このように、切換バルブ52等の操作により所定のクラッチアクチュエータ28等に供給され、副流路16を通るオイルは、フィルタ12により濾過され、オイルに塵埃が含まれる場合には塵埃がフィルタ12により確実に除去される。そして、フィルタ12には、副流路16に流れるオイルから捕捉した塵埃が表面に付着するが、副流路16へのオイルの流入が停止すると、塵埃が表面から脱落するので、フィルタ12は洗浄されたと同様な新規な状態になる。
【0038】
以上述べたように濾過構造10によれば、副流路16にフィルタ12で濾過したオイルを供給でき、かつ副流路16内の流量が減少、あるいは流通が停止されることによりフィルタ12に付着した塵埃等を除去させることができ、このため、フィルタ12を交換したり、取り外して洗浄する必要がなく長時間安定した使用が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば自動変速機のバルブユニットにおけるフィルタを用いた濾過構造に用いられる。
【符号の説明】
【0040】
10…濾過構造 12…フィルタ 14…主流路 15…側壁部 16…副流路 20…自動変速機 22…バルブボディ 24.26…クラッチ機構 28、30…クラッチアクチュエータ 32…オイルポンプ 52、54…切換バルブ 90…溝部 92…連結通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主流路と副流路との交差部分に、前記主流路から前記副流路に流入する流体を濾過するようにフィルタを設け、
前記副流路は、該副流路を流れる流体の流量を切り換える切換手段を備え、
前記フィルタは、前記主流路に臨んだ該フィルタのフィルタ面が、前記主流路の壁面を構成する面と異なる凹あるいは凸面を有し、
前記切換手段が作動することにより前記副流路を流通する流体の流通が停止されると、前記主流路内に臨ませた前記フィルタ面によって、前記主流路内を流れる流体に乱流を生じさせることを特徴とした濾過構造。
【請求項2】
前記フィルタは、側壁面に濾過材を有する円筒状で、
前記主流路の壁面に形成した溝部内に前記フィルタを、前記側壁面の一部を該主流路内に突出させた状態で組み付け、
かつ前記フィルタの内部を前記副流路に連通させたことを特徴とする請求項1に記載の濾過構造。
【請求項3】
前記主流路は、車両用自動変速機のバルブボディに形成されたオイル流路であり、
更に前記主流路は、前記バルブボディのオイルポンプから前記車両用自動変速機のクラッチ機構に至る流路であり、
前記副流路は、前記クラッチ機構を作動させるアクチュエータに、前記主流路から切換手段を介して至る流路であることを特徴とする請求項1または2に記載の濾過構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−102812(P2012−102812A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252272(P2010−252272)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】