説明

濾過機構

【課題】高圧をかけなくても濾過が可能な濾過機構を提供しようとするもの。
【解決手段】イオン透過性の陽極電極1で陽イオンの透過を電気的に阻止しつつ陰イオンを選択的に透過させ、イオン透過性の陰極電極2で陰イオンの透過を電気的に阻止しつつ陽イオンを選択的に透過させるようにした。この濾過機構によると、イオン透過性の陽極電極で陽イオンの透過を電気的に阻止しつつ陰イオンを選択的に透過させるようにしたので、逆浸透膜のような小さな孔径に対して高圧をかけなくても、電気的な反発力を利用して陽イオンの透過を阻止することが出来る。また、イオン透過性の陰極電極で陰イオンの透過を電気的に阻止しつつ水と陽イオンを選択的に透過させるようにしたので、逆浸透膜のような小さな孔径に対して高圧をかけなくても、電気的な反発力を利用して陰イオンの透過を阻止することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ナトリウムイオンなどの陽イオンや塩化物イオンなどの陰イオンを濾過することができる濾過機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ろ過膜の一種であり、水を通しイオンや塩類など水以外の不純物は透過しない性質を持つ逆浸透膜(RO膜)が知られている(非特許文献1)。
これは、濃度の高い側に外から浸透圧の差を超える圧力をかければ、水分子だけが濃度の高い側から低い側に抜ける逆浸透現象を利用した膜である。
例えば、平均的な塩分3.5パーセントの海水から日本の飲料水基準に適合する塩分0.01パーセントの淡水を、水の回収率40パーセント(残りの60パーセントは濃縮水として捨てるという意味)にて得る場合、2005年現在の最低水準で55気圧程度が必要である。
しかし、このようにかなりの高圧をかける必要があるという問題があった。
【非特許文献1】Wikipedia “逆浸透膜”<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%86%E6%B5%B8%E9%80%8F%E8%86%9C>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこでこの発明は、高圧をかけなくても濾過が可能な濾過機構を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。
(1)この発明の濾過機構は、イオン透過性の陽極電極で陽イオンの透過を電気的に阻止しつつ陰イオンを選択的に透過させ、イオン透過性の陰極電極で陰イオンの透過を電気的に阻止しつつ陽イオンを選択的に透過させるようにしたことを特徴とする。
処理対象となる被処理水として、海水、食塩含有水、塩分含有水などを例示することができ、これらを飲料水や純水として再利用することができる。また、スクラバー排水、冷却塔・クーラーの冷却循環水、ボイラー水を例示でき、これら硬水を軟水化することができる。濾過によって低減乃至除去する対象のイオンとして、シリカ、Ca、Mg、Fe、Mn、Cd、Pb、重金属類、硫酸イオン、硝酸イオンなどを例示することができる。
この濾過機構によると、イオン透過性の陽極電極で陽イオンの透過を電気的に阻止しつつ陰イオンを選択的に透過させるようにしたので、逆浸透膜のような小さな孔径に対して高圧をかけなくても、電気的な反発力を利用して陽イオンの透過を阻止することが出来る。
また、イオン透過性の陰極電極で陰イオンの透過を電気的に阻止しつつ陽イオンを選択的に透過させるようにしたので、逆浸透膜のような小さな孔径に対して高圧をかけなくても、電気的な反発力を利用して陰イオンの透過を阻止することが出来る。
ここで、電気分解がかからない程度の電流を流して、電気的な反発力を利用してイオン分離を行うとよい。
【0005】
(2)また、イオン透過性の陽極電極で陽イオンの透過を電気的に阻止しつつ水と陰イオンを選択的に透過させ、イオン透過性の陰極電極で陰イオンの透過を電気的に阻止しつつ水と陽イオンを選択的に透過させるようにしてもよい。
この濾過機構によると、イオン透過性の陽極電極で陽イオンの透過を電気的に阻止しつつ水と陰イオンを選択的に透過させるようにしたので、逆浸透膜のような小さな孔径に対して高圧をかけなくても、電気的な反発力を利用して陽イオンの透過を阻止することが出来る。
また、イオン透過性の陰極電極で陰イオンの透過を電気的に阻止しつつ水と陽イオンを選択的に透過させるようにしたので、逆浸透膜のような小さな孔径に対して高圧をかけなくても、電気的な反発力を利用して陰イオンの透過を阻止することが出来る。
なお、この濾過機構と電気透析との相違は、電気透析の場合は正負の電極相互間にカチオン膜とアニオン膜が配設され、被処理水はこれらの間に通水され、電極間に流す直流電流が駆動力となって、陽イオンがカチオン膜を透過し、陰イオンがアニオン膜を透過して低減乃至除去され、被処理水から陽イオンと陰イオンが低減乃至除去或いは濃縮されるのであるが、この濾過機構では、被処理水自体がイオン透過性の電極を透過することにより、被処理水から陽イオンか陰イオンが低減乃至除去するようにしている。
この濾過機構によると、圧力が低くても運転することができ、処理面積が広い(単位容積当たりの開孔面積が大きい)という利点があり、UF膜+RO膜の代替とすることができる。
【0006】
(3) 非イオン透過性の電極を有し、前記イオン透過性の電極と非イオン透過性の電極を対向して配置して相互間に電流を流し、イオン透過性の電極を透過した水を集水するようにしてもよい。
例えば、非イオン透過性の陰極電極を有し、前記イオン透過性の陽極電極と非イオン透過性の陰極電極を対向して配置して相互間に電流を流すように構成すると、イオン透過性の陽極電極を透過して陽イオンが低減乃至除去された水を集水することができる。
一方、非イオン透過性の陽極電極を有し、前記イオン透過性の陰極電極と非イオン透過性の陽極電極を対向して配置して相互間に電流を流すように構成すると、イオン透過性の陰極電極を透過して陰イオンが低減乃至除去された水を集水することができる。
【0007】
(4)イオン透過性の陽極電極とイオン透過性の陰極電極とを積層し、これらを透過した水を集水するようにしてもよい。
このように構成すると、水及び陽イオンと陰イオンとを順次濾過して低減乃至除去することができる。なお、陽イオンと陰イオンとは、どちらを先に濾過しても構わない。
【0008】
(5)陽極電極と陰極電極との間で電気分解を起こすようにし、被処理水中の被酸化物質を分解するようにしてもよい。
このように構成すると、被処理水の脱塩・淡水化と、被処理水中の汚れ物質(被酸化物質)の分解・浄化を同時に行うことができる。
処理対象となる被処理水として、化学工場や液晶製造工場、半導体製造工場などの工場排水・排液、生活排水などを例示でき、これらを浄化することができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明は上述のような構成であり、次の効果を有する。
電気的な反発力を利用して陽イオンや陰イオンの透過を阻止することが出来るので、高圧をかけなくても濾過が可能な濾過機構を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
〔実施形態1〕
図1に示すように、この実施形態の濾過機構は、イオン透過性の陽極電極1で陽イオンの透過を電気的に阻止しつつ陰イオンを選択的に透過させ、イオン透過性の陰極電極2で陰イオンの透過を電気的に阻止しつつ陽イオンを選択的に透過させるようにした。
前記イオン透過性の電極(陽極、陰極)として、多孔質(ポーラス)の導電性セラミックスを用いた。この多孔質の孔径として、例えば1nm、10Åに形成することができ、開孔率は適宜設定することができる。
前記セラミックスの材料として、ジルコニア(=二酸化ジルコニウム、ZrO2)や、イットリア(=酸化イットリウム、Y)などを例示することができる。このうち前記ジルコニア(融点2715℃、沸点4300℃)を使用すると弾力性、靭性に優れる。それにイットリアを混ぜると靭性や耐割れ性が向上することになる。アルミナ(=酸化アルミニウム、Al)を混入することにより、焼成温度を低下させることができる。なお、アルミナをあまり混入し過ぎると、割れ易くなる場合がある。
前記セラミックスに導電性を付与するため、ニッケルの微粒子を混合することができる。ニッケルの微粒子を混合すると、セラミックスの焼成時の温度を下げることができる。
【0011】
そして、図示右から、非イオン透過性の陽極電極3、イオン透過性の陰極電極2、イオン透過性の陽極電極1、非イオン透過性の陰極電極4の順に電極を配設し、下方から食塩水を供給し、電気分解がかからない程度の電流を流し電気的な反発力を利用してイオン分離を行う。
すると、非イオン透過性の陽極電極3とイオン透過性の陰極電極2の相互間からナトリウムイオンが低減乃至除去された水が排出され、イオン透過性の陰極電極2とイオン透過性の陽極電極1の相互間から純水に近い水が排出され、イオン透過性の陽極電極1と非イオン透過性の陰極電極4の相互間から塩化物イオンが低減乃至除去された水が排出された。
処理対象となる被処理水として、食塩含有水の他に海水などが挙げられ、これらを飲料水や純水として再利用することができる。また処理対象となる被処理水として、スクラバー排水、冷却塔・クーラーの冷却循環水、ボイラー水などが挙げられ、これら硬水を軟水化することができる。
濾過によって低減乃至除去する対象のイオンとして、ナトリウムや塩化物の他にシリカ、Ca、Mg、Fe、Mn、Cd、Pb、重金属類、硫酸イオン、硝酸イオンなどが挙げられる。
【0012】
次に、この実施形態の濾過機構の使用状態を説明する。
この濾過機構によると、イオン透過性の陽極電極1で陽イオンの透過を電気的に阻止しつつ陰イオンを選択的に透過させるようにしたので、逆浸透膜のような小さな孔径に対して高圧をかけなくても、電気的な反発力を利用して陽イオンの透過を阻止することが出来る。
また、イオン透過性の陰極電極2で陰イオンの透過を電気的に阻止しつつ陽イオンを選択的に透過させるようにしたので、逆浸透膜のような小さな孔径に対して高圧をかけなくても、電気的な反発力を利用して陰イオンの透過を阻止することが出来る。
この濾過機構は、電気的な反発力を利用して陽イオンや陰イオンの透過を阻止することが出来るので、高圧をかけなくても濾過が可能であるという利点を有する。また、この濾過機構によると、圧力が低くても運転することができ、処理面積が広い(単位容積当たりの開孔面積が大きい)という利点があり、UF膜+RO膜の代替とすることができる。
【0013】
〔実施形態2〕
図2に示すように、この実施形態の濾過機構は、イオン透過性の陽極電極1で陽イオンの透過を電気的に阻止しつつ水と陰イオンを選択的に透過させ、イオン透過性の陰極電極2で陰イオンの透過を電気的に阻止しつつ水と陽イオンを選択的に透過させるようにした。
また、この実施形態では、非イオン透過性の電極3,4を有し、前記イオン透過性の電極1,2と非イオン透過性の電極3,4を対向して配置して相互間に電流を流し、イオン透過性の電極1,2を透過した水を集水するようにした。
具体的には、海水が投入されるアニオン膜槽5では、非イオン透過性の陰極電極4(陰極無孔セラミックス膜)を有し、前記イオン透過性の陽極電極1(陽極有孔セラミックス膜)と非イオン透過性の陰極電極4を対向してスペーサーSを介して配置して積層しており、相互間に電流を流すようにし、イオン透過性の陽極電極1を透過して陽イオンが低減乃至除去されたマイナスイオン濃縮水を中央の集水管Pに集水する。
【0014】
次いで、前記マイナスイオン濃縮水が供給されるカチオン膜槽6では、非イオン透過性の陽極電極3(陽極無孔セラミックス膜)を有し、前記イオン透過性の陰極電極2(陰極有孔セラミックス膜)と非イオン透過性の陽極電極3を対向してスペーサーSを介して配置して積層しており、相互間に電流を流すようにし、イオン透過性の陰極電極2を透過して陰イオンが低減乃至除去された純水を中央の集水管Pに集水する。
一方、前記イオン透過性の陽極電極1(陽極有孔セラミックス膜)を通過しなかった陽イオン濃縮水は濃縮水系統へと送られ、前記イオン透過性の陰極電極2を通過しなかった陰イオン濃縮水は濃縮水系統へと送られ、合流して濃縮水として放流される。
ここで、この実施形態では、対向する正負のセラミックス電極に沿って電極間の通路に液体を流すのではなく、セラミックス電極に直行して液体を電極板の膜を透過させる方向に垂直に流すようにしている。
【0015】
次に、この実施形態の濾過機構の使用状態を説明する。
この濾過機構によると、イオン透過性の陽極電極1で陽イオンの透過を電気的に阻止しつつ水と陰イオンを選択的に透過させるようにしたので、逆浸透膜のような小さな孔径に対して高圧をかけなくても、電気的な反発力を利用して陽イオンの透過を阻止することが出来る。
また、イオン透過性の陰極電極2で陰イオンの透過を電気的に阻止しつつ水と陽イオンを選択的に透過させるようにしたので、逆浸透膜のような小さな孔径に対して高圧をかけなくても、電気的な反発力を利用して陰イオンの透過を阻止することが出来る。
【0016】
この濾過機構は、電気的な反発力を利用して陽イオンや陰イオンの透過を阻止することが出来るので、高圧をかけなくても濾過が可能であるという利点を有する。また、この濾過機構によると、圧力が低くても運転することができ、処理面積が広い(単位容積当たりの開孔面積が大きい)という利点があり、UF膜+RO膜の代替とすることができる。
ここで、この濾過機構と電気透析との相違は、電気透析の場合は正負の電極相互間にカチオン膜とアニオン膜が配設され、被処理水はこれらの間に通水され、電極間に流す直流電流が駆動力となって、陽イオンがカチオン膜を透過し、陰イオンがアニオン膜を透過して低減乃至除去され、被処理水から陽イオンと陰イオンが低減乃至除去或いは濃縮されるのであるが、この濾過機構では、被処理水自体がイオン透過性の電極を透過することにより、被処理水から陽イオン、陰イオンが低減乃至除去するようにしていることになる。
【0017】
〔実施形態3〕
次に、実施形態3を上記実施形態1,2との相違点を中心に説明する。
処理対象となる被処理水として、化学工場や液晶製造工場、半導体製造工場などの工場排水・排液、生活排水などを例示でき、これらを脱塩・浄化することができる。
図3に示すように、排水が投入される電解アニオン膜槽7では、非イオン透過性の陰極電極4(陰極無孔セラミックス膜)を有し、前記イオン透過性の陽極電極1(陽極有孔セラミックス膜)と非イオン透過性の陰極電極4を対向してスペーサーSを介して配置して積層しており、相互間に電流を流すようにし、イオン透過性の陽極電極1を透過して陽イオンが低減乃至除去されたマイナスイオン濃縮水を中央の集水管Pに集水する。
【0018】
次いで、前記マイナスイオン濃縮水が供給される電解カチオン膜槽8では、非イオン透過性の陽極電極3(陽極無孔セラミックス膜)を有し、前記イオン透過性の陰極電極2(陰極有孔セラミックス膜)と非イオン透過性の陽極電極3を対向してスペーサーSを介して配置して積層しており、相互間に電流を流すようにし、イオン透過性の陰極電極2を透過して陰イオンが低減乃至除去された純水を中央の集水管Pに集水する。
そして、陽極電極と陰極電極との間で電気分解を起こすようにしたので、これにより生成した次亜塩素酸や・OHラジカルの強力な酸化作用により排水中の汚れ成分(被酸化物質)を分解することができ、排水の脱塩・淡水化と排水中の汚れ物質の分解・浄化を同時に行うことができるという利点を有する。
【0019】
〔実施形態4〕
この実施形態では、イオン透過性の陽極電極とイオン透過性の陰極電極とを積層し、これらを両方透過した水を集水するようにしており(図示せず)、陽イオンと陰イオンとを順次濾過して低減乃至除去することができる。なお、陽イオンと陰イオンとは、どちらを先に濾過しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0020】
高圧をかけなくても濾過が可能であることによって、種々の濾過機構の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の濾過機構の実施形態1を説明するシステム・フロー図。
【図2】この発明の濾過機構の実施形態2を説明するシステム・フロー図。
【図3】この発明の濾過機構の実施形態2を説明するシステム・フロー図。
【符号の説明】
【0022】
1 イオン透過性の陽極電極
2 イオン透過性の陰極電極
3 非イオン透過性の陽極電極
4 非イオン透過性の陰極電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン透過性の陽極電極1で陽イオンの透過を電気的に阻止しつつ陰イオンを選択的に透過させ、イオン透過性の陰極電極2で陰イオンの透過を電気的に阻止しつつ陽イオンを選択的に透過させるようにしたことを特徴とする濾過機構。
【請求項2】
イオン透過性の陽極電極1で陽イオンの透過を電気的に阻止しつつ水と陰イオンを選択的に透過させ、イオン透過性の陰極電極2で陰イオンの透過を電気的に阻止しつつ水と陽イオンを選択的に透過させるようにした請求項1記載の濾過機構。
【請求項3】
非イオン透過性の電極3,4を有し、前記イオン透過性1,2の電極と非イオン透過性3,4の電極を対向して配置して相互間に電流を流し、イオン透過性の電極1,2を透過した水を集水するようにした請求項1又は2記載の濾過機構。
【請求項4】
イオン透過性の陽極電極1とイオン透過性の陰極電極2とを積層し、これらを透過した水を集水するようにした請求項1又は2記載の濾過機構。
【請求項5】
陽極電極と陰極電極との間で電気分解を起こすようにし、被処理水中の被酸化物質を分解するようにした請求項1乃至4のいずれかに記載の濾過機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−63407(P2013−63407A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204658(P2011−204658)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(399049981)株式会社オメガ (70)
【Fターム(参考)】