説明

災害対応型エレベータシステム

【課題】災害発生時の避難運転中にエレベータ制御装置が適正に働かなくなるような異常が生じた場合にも、エレベータかご内の乗客の安全を確保可能な災害対応型エレベータシステムを提供する。
【解決手段】災害発生階600とエレベータかご001の現在位置との間に、エレベータかご001の非常停止判定位置701を設定する。エレベータかご001が非常停止判定位置701を超えて災害発生階600に近づいたとき、巻上機ブレーキ401及び/又は電動式の非常止めを駆動してエレベータかご001に制動をかけ、災害発生階600よりも上方又は下方の所定位置に、エレベータかご001を非常停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災等の災害発生時にも乗客の安全を確保可能な範囲で運転を継続する災害対応型エレベータシステムに係り、特に、災害の状況に応じてエレベータかごの運転範囲をバリアブルに変更する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル火災が発生した場合、従来のエレベータシステムにおいては、エレベータの運転による二次災害の発生を防止するため、エレベータかごを最寄り階に停止した後、自動復帰することなく、そのまま待機させることが一般的であった。しかしながら、高層ビル等に設置されるエレベータシステムについては、近年、火災発生時に大人数のビル利用者が階段を使って円滑に避難することが困難であること、及び近年のビルは防火区画等に関する技術が向上していることなどから、停止階を制限した上でエレベータかごの運転を継続する災害対応型エレベータシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、エレベータかごが昇降路の最上部又は最下部に設定された終端位置を行き過ぎないための安全装置として、機械式のリミットスイッチを昇降路上の所定の位置に設置する技術も従来知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
さらに、終端階強制減速装置の診断を行うに際して、仮想的なリミットスイッチと緩衝器とを設定し、実際の緩衝器を動作させることなく安全にブレーキ及び減速手段の診断を行う技術も従来知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-234778号公報)
【特許文献2】特開2007-153476号公報
【特許文献3】特開2008-127180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、コンピュータからなる避難支援装置を用いて避難計画の立案と停止可能階の設定とを行い、この避難計画に基づいてエレベータ制御装置を駆動して、エレベータかごを設定された停止可能階に停止させる構成であるので、熱や煙などによりエレベータ制御装置に何らかの異常が生じた場合には、停止可能階を超えて火災発生階に近づいてゆくエレベータかごを停止させることができない。また、特許文献1に記載の技術は、エレベータかごが正常に運行できる状態にあることを前提としているので、例えば最大積載重量を超える乗客がエレベータかごに乗り込んで重量超過となり、主ロープがシーブに対して滑り出した場合には、エレベータ制御装置によってエレベータかごを所定の停止階に停止させることができず、停止可能階を超えて火災発生階に近づいてゆくエレベータかごを停止させることができない。
【0007】
特許文献2に記載されているように、昇降路上に機械式のリミットスイッチを備えればエレベータかごの行き過ぎを確実に防止できるが、火災発生階に応じて適宜機械式のリミットスイッチの設定位置を変更することは事実上困難であるので、特許文献2に記載の技術をそのまま応用しても、任意の階床に発生した災害に対応可能な災害対応型エレベータシステムを構築することは不可能である。
【0008】
一方、特許文献3に記載されているように、仮想的なリミットスイッチを設定する構成とすれば、機械式のリミットスイッチを用いる場合とは異なり、原理的にその設定位置を適宜変更可能であるが、特許文献3に記載の技術は、仮想的なリミットスイッチを昇降路上の特定の位置に設定する構成であるので、特許文献3に記載の技術をそのまま応用しても、やはり任意の階床に発生した災害に対応可能な災害対応型エレベータシステムを構築することは不可能である。
【0009】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、災害発生時の避難運転中にエレベータ制御装置が適正に働かなくなるような異常が生じた場合にも、エレベータかご内の乗客の安全を確保可能な災害対応型エレベータシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の災害対応型エレベータシステムは、第1に、ビル内の災害発生階を検出する災害発生階検出手段と、昇降路上のエレベータかごの位置を検出するかご位置検出手段と、前記災害発生階検出手段により検出された災害発生階及び前記かご位置検出手段により検出されたエレベータかごの位置に応じたエレベータかごの非常停止判定位置を設定する非常停止判定位置設定手段と、前記かご位置検出手段により検出されたエレベータかごの位置が前記非常停止判定位置設定手段により設定された非常停止判定位置を超えたか否かの判定を行う非常停止判定手段と、前記非常停止判定手段が、前記エレベータかごの位置は前記非常停止判定位置を超えて前記災害発生階に近づいたと判定した場合にエレベータかごを非常停止させる非常停止手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記第1の災害対応型エレベータシステムにおいて、前記非常停止判定位置設定手段は、前記災害発生階が前記エレベータかごの位置よりも下方にある場合は前記非常停止判定位置を前記災害発生階よりも上方に設定し、前記災害発生階が前記エレベータかごの位置よりも上方にある場合は前記非常停止判定位置を前記災害発生階よりも下方に設定することを特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記第1の災害対応型エレベータシステムにおいて、前記災害発生階が前記エレベータかごの位置よりも下方にある場合のエレベータかごの非常停止判定位置は、前記災害発生階の上方に設定される救出階に前記エレベータかごを停止可能な位置であり、前記災害発生階が前記エレベータかごの位置よりも上方にある場合のエレベータかごの非常停止判定位置は、前記災害発生階の下方に設定される救出階に前記エレベータかごを停止可能な位置であることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記第1の災害対応型エレベータシステムにおいて、前記災害発生階検出手段により検出された災害発生階が複数ある場合には、前記かご位置検出手段により検出されたエレベータかごの位置から見て最も近い災害発生階を基準として前記非常停止判定位置を設定することを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記第1の災害対応型エレベータシステムにおいて、前記災害発生階検出手段により検出された災害発生階と前記記憶手段に記憶された前記非常停止判定位置との高低差が、災害発生階の数に拘わりなく一定であることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、前記第1の災害対応型エレベータシステムにおいて、前記災害発生階検出手段により検出された災害発生階と前記記憶手段に記憶された前記非常停止判定位置との高低差が、災害発生階の数が多くなるほど大きく設定されていることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、前記第1の災害対応型エレベータシステムにおいて、前記非常停止判定位置設定手段は、所定時間毎に、前記非常停止判定位置の設定を繰り返して先に設定された前記非常停止判定位置を更新することを特徴とする。
【0017】
また本発明は、前記第1の災害対応型エレベータシステムにおいて、前記非常停止手段として、巻上機ブレーキ及びエレベータかごをガイドレールに把持する電動式非常止めを備えると共に、前記非常停止判定位置設定手段は、前記災害発生階が前記エレベータかごの現在位置よりも下にある場合に、前記非常停止判定位置として、第1の非常停止判定位置と、該第1の非常停止判定位置よりも前記災害発生階に近い第2の非常停止判定位置とを設定し、前記非常停止判定手段が、前記エレベータかごの位置は前記第1の非常停止判定位置を超えて前記災害発生階に近づいたと判定した場合には、前記巻上機ブレーキを駆動してエレベータかごを非常停止させ、前記非常停止判定手段が、前記エレベータかごの位置は前記第2の非常停止判定位置を超えて前記災害発生階に近づいたと判定した場合には、前記電動式非常止めを駆動してエレベータかごを非常停止させることを特徴とする。
【0018】
また上記の目的を達成するため、本発明の災害対応型エレベータシステムは、第2に、ビル内の災害発生階を検出する災害発生階検出手段と、昇降路上のエレベータかごの現在位置を検出するかご位置検出手段と、エレベータかごの昇降速度を検出するエレベータ速度検出手段と、ビル内の災害発生階及びエレベータかごの現在位置に応じたエレベータかごの非常停止判定速度が記憶された記憶手段と、前記災害発生階検出手段により検出された災害発生階及び前記かご位置検出手段により検出されたエレベータかごの現在位置に応じたエレベータかごの非常停止判定速度を前記記憶手段から読み出して記憶する非常停止判定速度設定手段と、前記エレベータ速度検出手段により検出されたエレベータかごの昇降速度が前記非常停止判定速度設定手段により設定された非常停止判定速度を超えたか否かの判定を行う非常停止判定手段と、前記非常停止判定手段が、前記エレベータかごの昇降速度は前記非常停止判定速度を超えたと判定した場合にエレベータかごを非常停止させる非常停止手段とを備えたことを特徴とする。
【0019】
また本発明は、前記第2の災害対応型エレベータシステムにおいて、前記非常停止判定速度設定手段は、前記災害発生階と前記エレベータかごの位置との間の位置にエレベータかごを非常停止させるように前記非常停止判定速度を設定することを特徴とする。
【0020】
また本発明は、前記第2の災害対応型エレベータシステムにおいて、前記非常停止判定速度設定手段は、前記災害発生階と前記エレベータかごの現在位置との間の昇降路区間に対して、前記エレベータかごの位置に応じた前記非常停止判定速度を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、火災等の災害発生階とエレベータかごの現在位置とに基づいてエレベータかごの非常停止位置を設定し、設定された非常停止位置にエレベータかごが停止するように非常停止手段を駆動するので、災害発生時に乗客の安全を確保可能な範囲でエレベータの運転を継続する場合において、何らかの原因によりエレベータ制御装置や主ロープ等に異常が生じてエレベータかごが災害発生階に近づいてゆく場合でも、エレベータかごが災害発生階に達する前にエレベータを安全な位置に非常停止させることができ、エレベータかご内の乗客の安全を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係る災害対応型エレベータシステムのシステム構成図である。
【図2】実施形態に係る災害対応型エレベータシステムの制御ブロック図である。
【図3】実施形態に係る災害対応型エレベータシステムの効果を示す図である。
【図4】実施形態に係る災害対応型エレベータシステムの非常停止判定位置設定処理を示すフローチャートである。
【図5】図4のフローチャートに従って設定された非常停止判定位置の例を示す図である。
【図6】実施形態に係る災害対応型エレベータシステムの非常停止判定位置の変更例を示す図である。
【図7】他の実施形態に係る災害対応型エレベータシステムの制御ブロック図である。
【図8】他の実施形態に係る災害対応型エレベータシステムにおける過速度判定値の特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、実施形態に係る災害対応型エレベータシステムを説明する。従来のエレベータシステムでは、安全装置が接点スイッチやリレー回路のような機械系の装置で構成されていた。これに対して、実施形態に係る災害対応型エレベータシステムは、安全装置が、例えば信頼性の高い二重化構成のマイコンなどからなる安全コントローラを中心とする電子装置で構成される。安全コントローラは、入力される複数のセンサやエンコーダの情報を組み合わせてエレベータの安全状態を判定する。ここで、安全状態の判定処理は、ソフトウェアを用いたより高度な判定法が可能なため、従来のスイッチやリレー回路よりも高機能な安全制御が実現可能となる。また、従来の機械式安全システムでは、スイッチやリレーで異常を判定するため、異常判定の条件(基準)が固定であったが、電子安全化されたエレベータシステムでは、安全コントローラ上で作動するソフトウェアによる柔軟な判定処理が可能となる。
【0024】
実施形態に係る災害対応型エレベータシステムでは、ビルの災害発生階及びエレベータかごの現在位置を検出して、これらの情報を安全コントローラに取り込み、仮にエレベータ制御装置や主ロープ等に異常が生じた場合でも、安全コントローラにより異常の発生を判定して、エレベータかごを安全な位置に停止させることがポイントになる。
【0025】
図1に示すように、実施形態に係る災害対応型エレベータシステムは、エレベータの乗りかご001と釣合いおもり002が主ロープ003で結ばれており、巻上機004が回転することによってエレベータかご001が上下に移動する仕掛けとなっている。エレベータシステムの制御は、機械室005内に設置された制御盤100で実行される。制御盤100は、運転制御コントローラ101と安全コントローラ102から構成されており、エレベータの運転制御は運転制御コントローラ101で実行され、安全関連の制御が安全コントローラ102で実行される。運転制御コントローラ101及び安全コントローラ102は共にマイコンで実装され、特に高い信頼性が要求される安全コントローラ102は二重化構成のマイコンで構成される。
【0026】
安全コントローラ102は、エレベータかご001の位置、速度、ドアの開閉状態等を検出して、エレベータシステムが安全な状態にあるか否かを常時判定している。具体的には、エレベータかご001に取り付けられた位置センサ200(例えば、磁気センサ、光電センサ、静電容量センサ等)で各階床の乗り場の敷居(シル)に取り付けられた検出体201a〜201hを検出して、昇降路006上でのエレベータかご001の絶対位置を検出する。位置センサ200の信号は、信号線202を通って安全コントローラ102に入力される。また、エレベータかご001の移動量及び速度は、エレベータかご001と係合機構301を介して係合されたガバナロープ302により回転駆動されるガバナ回転体303の回転量を、ガバナエンコーダ304で検出することにより検出できる。このガバナエンコーダ304の信号は、信号線305を通って安全コントローラ102に入力される。
【0027】
安全コントローラ102では、位置センサ200の信号及びガバナエンコーダ304の信号からエレベータかご001の昇降路006上の絶対位置と速度を演算して、かご位置の正常/異常もしくは速度の正常/異常を判定する。安全コントローラ102が異常と判定した場合には、瞬時に巻上機004に備えられた巻上機ブレーキ401のコイル電源を遮断して巻上機ブレーキ401を制動させ、同時に巻上機004を駆動する主電源を遮断して、エレベータかご001を非常停止させる。なお、巻上機ブレーキ401の故障に備えて、ロープブレーキ402を更に備え、これら両ブレーキ401,402を同時に制動させる場合もある。また、主ロープ003が切れて巻上機ブレーキ401による制動ができないなどの万一の事故が発生した場合には、安全コントローラ102が、かご速度の超過からで事故の発生を判定し、電動式の非常止め403を作動させる。電動式の非常止め403は、ガイドレール404を把持することでかごを停止させる。さらに、万一の事故に備えた最終段として昇降路の底部にバッファ405が設けられている。バッファ405は、油の粘性などによってエレベータかご001の衝突エネルギーを吸収する仕掛けとなっている。以上が電子安全化されたエレベータシステムの構成となる。
【0028】
次に、災害対応の構成要素について説明する。ビルの各階には災害検出装置501a〜501h(例えば、温度センサによる火災発生検出器)が設置されており、これが通信ネットワーク502を介して、ビル内の災害対応コントローラ500に入力される。災害対応コントローラ500は、ビル管理の設備でサーバのようなコンピュータであり、災害が発生している階及び位置、災害の種類、災害の危険度合いなどの情報を管理している。この災害対応コントローラ500から運転制御コントローラ101及び安全コントローラ102のそれぞれに災害発生階などの災害関連の情報が発信され、災害に応じたエレベータの運転制御及び安全制御が実施される。
【0029】
まずは災害発生時のエレベータによる避難用運転について説明する。従来は、火災等の災害が発生すると、万一の事態に備えてエレベータは運転を停止させるのが原則となっていた。これに対して、30階以上の高層ビルが多数建設されるようになり、このような高層ビルでは階段による避難が容易ではないため、エレベータを避難用に利用しようとする構想が国内外で議論されている。避難用運転はこれを実現するもので、災害対応コントローラ500からビル内の災害発生階の情報が運転制御コントローラ101に送られ、運転制御コントローラ101では災害発生階600を避けるようにエレベータの停止可能階が設定される。運転制御コントローラ101は、停止可能な階の区間内で避難用の運転を実施する。例えば図1の例では、災害発生階600に対して、これより上層階にいるビル利用者の避難のために、災害発生階の情報から運転制御コントローラ101がそれを避けるようにエレベータを運転させる。
【0030】
避難用運転を実行する運転制御系に対して、安全系の中核をなす安全コントローラ102では、ビルの災害状況に応じてエレベータの安全判定条件(異常判定条件)を変更してエレベータ利用者の安全を確保する。具体的には、昇降路006内でのエレベータかご001の安全な走行区間(図1の区間705)を定める非常停止判定位置(下限の非常停止判定位置701と上限の非常停止判定位置702)を災害発生階の位置に応じて可変に設定する。これが本実施例の特徴であり、以下詳細を説明する。
【0031】
まず図1において、災害発生階600の位置を災害検出装置501aにより検出する。この情報は、災害対応コントローラ500を介して、エレベータの機械室005に備えられた安全コントローラ102に入力される。また、エレベータかご001の現在位置の情報が、かご位置センサ200及びガバナエンコーダ304から安全コントローラ102に入力される。安全コントローラ102では、災害発生階600とエレベータかご001の現在位置から、両者の位置関係に応じて適宜の非常停止判定位置701,702を設定する。非常停止判定位置701,702の設定は、安全コントローラ102の記憶部に、災害発生階600及びエレベータかご001の現在位置に応じたエレベータかご001の非常停止判定位置を高信頼なメモリなどに予め記憶しておき、この情報を非常停止判定位置設定手段が随時読み出して記憶するという方法で設定することができる。また非常停止判定位置701,702の設定は,判定位置から所定の位置(後で述べる救出階の手前の位置)までにかごを停止させるように設定され,この判定位置と所定位置間の距離(ブレーキ制動による停止距離)を決めるためにエレベータかご001の避難運転時の速度,巻上機ブレーキ401のブレーキ制動時の平均減速度などの情報が必要であり,これらがデータベースの形で予め記憶されている。
【0032】
安全コントローラ102の記憶部には、エレベータかご001が安全な領域内で避難運転できるように、災害発生時のエレベータかご001の位置が,災害発生階600よりも上方にある場合には下方の非常停止判定位置701を災害発生階600よりも上に設定し,災害発生階600よりも下方にある場合には上方の非常停止判定位置702を災害発生階600よりも上に設定したエレベータかご001の非常停止判定位置701,702とが記憶される。災害発生階600と災害発生時のエレベータかご001の位置は,その災害ケースによって変わるため,その都度,その災害発生時の発生階とかご位置の関係によって,上方または下方の非常停止判定位置が設定される。
【0033】
災害発生時において、災害発生階600がエレベータかご001の位置よりも下方にある場合のエレベータかご001の非常停止判定位置701,702は、災害発生階600の上方に設定される救出階(避難階)より手前にエレベータかご001を停止可能な位置に設定され、災害発生階600がエレベータかご001の現在位置よりも上方にある場合のエレベータかご001の非常停止判定位置701,702は、災害発生階600の下方に設定される救出階(避難階)より手前にエレベータかご001を停止可能な位置に設定される。これにより,エレベータかごが非常停止判定位置を越えて巻上機ブレーキにより非常停止した場合でも,ブレーキを開放させてエレベータかごを救出階に移動させることができるため,救出階から乗客を安全に避難させることができる。
【0034】
なお、災害発生階600が複数ある場合をも考慮する必要がある。災害発生階600が複数ある場合を考慮して非常停止判定位置701,702の設定を行う場合には、その時のエレベータかご001の位置から見て最も近い災害発生階を基準として、非常停止判定位置701,702を設定することもできる。
【0035】
非常停止判定位置701,702は、救出階を定めて乗客の安全を確保できる限り、任意の方式で設定することができる。例えば、設定が容易であることから、災害発生階との高低差が1階床より大きい一定値となるように非常停止判定位置を設定することもできるし(1階床分は救出階として確保)、大きな災害が発生した場合ほど乗客の安全性を高めるため、災害発生階の数が多くなるほど、災害発生階との高低差が大きくなるように非常停止判定位置を設定することもできる。
【0036】
非常停止判定位置設定手段においては、災害が時間の経過とともに拡大した場合にも、乗客の安全を確保するため、所定時間毎に繰り返し非常停止判定位置を再設定し、先に設定された非常停止判定位置を更新する。例えば,災害発生階の領域が拡大している場合には,それに応じて非常停止判定位置が再設定されることになる。
【0037】
図1の例においては、下側の非常停止判定位置701が、災害発生階600とエレベータかご001の現在位置の間の適正な位置に設定されている。安全コントローラ102では、かご位置センサ200の検出情報とガバナエンコーダ304の検出情報から、エレベータかご001の絶対位置を逐次算出し、エレベータかご001の絶対位置が設定された非常停止判定位置701を超えて、災害発生階600に近づいた場合には、主電源を遮断させると同時に巻上機ブレーキ401及びロープブレーキ402を作動させて、エレベータかご001を非常停止させる。このような仕組みにより、万一、運転制御コントローラ101や巻上機004に異常が発生して、エレベータかご001が災害発生階600に向かって走行を続けた場合でも、エレベータかご001を災害発生階600に至る前の安全な位置に非常停止させることができる。なお、通常の状況(災害が発生していない状況)では、下側の非常停止判定位置701が、最下階とピット底の間に固定して設定されている。本来のファイナルリミット(非常停止判定位置に相当)の目的は昇降路の終端にエレベータかごを走行させないように制限させないためであるが、本実施例ではこのファイナルリミットの概念を拡張させて、災害時のかご運行区間に合わせてファイナルリミットの位置も変更させる点に特徴がある。
【0038】
図1の例では、下側の非常停止判定位置701のもう一段下に、第2の非常停止判定位置703を設けている。これは、エレベータかご001が第1の非常停止判定位置701を超えて第2の非常停止判定位置703に達し、さらには第2の非常停止判定位置703を超えた場合には、安全コントローラがこれを検出して非常止め(電動非常止め)又はレールブレーキ403を作動させるためである。例えば、災害発生によってパニックになった人々がエレベータかごに多数乗り込んだ場合、重量のアンバランスが主ロープと巻上機シーブの摩擦限界(トラクション限界)を超えてしまい、主ロープ003が滑り出す可能性がある。特許文献1に記載された従来の災害対応型エレベータシステムでは、主ロープ003の滑り出しに対応してエレベータかご001を非常停止させることができないが、本例の災害対応型エレベータシステムによれば、電動非常止め又はレールブレーキ403を作動させることにより、エレベータかご001を確実に非常停止させることができる。また同様の理由から、本例の災害対応型エレベータシステムによれば、最悪ケースとして万一主ロープ003が切れた場合でも、災害発生階600に至る前にエレベータかご001を非常停止させることができる。この結果、エレベータかご001内の乗客の安全を確保できる。
【0039】
次に、図2の制御ブロックを参照して、安全コントローラ102で行われる制御処理の内容を説明する。
【0040】
各階に複数設置された災害検出装置501a〜501hにより、ビル各階での災害発生の情報が収集されて、ビル内に設置された災害対応コントローラ500に集められる。災害対応コントローラ500では、災害の発生階、種類、危険度合いなどが特定されて、その情報が安全コントローラ102内に設けられた第1の非常停止判定位置設定手段A12及び第2の非常停止判定位置設定手段A13に入力される。位置センサ200では、昇降路006内の絶対位置(各階の乗り場敷居位置など)が検出され、ガバナエンコーダ304では、エレベータかご001の移動量が検出される。これらの各検出信号は安全コントローラ102内に設けられたエレベータかご位置演算手段A07に入力され、絶対位置データに移動量データを加算することによって昇降路006上でのエレベータかご001の位置が算出される。
【0041】
第1の非常停止判定位置設定手段A12では、ビルの災害発生階600とその時点におけるエレベータかご001位置との間の適正な位置に、第1の非常停止判定位置701,702を設定する。具体的には,1)ビルの災害発生階とエレベータのかご位置と間で,ビルの災害発生階の近傍(1〜数階床離した位置)に救出階を定め,2)この救出階よりもさらに手前の位置に非常停止位置を定めて,3)非常停止時にこの非常停止位置より手前に停止できるような非常停止判定位置を定める。ここで,救出階と災害発生階との距離は1〜数階床,救出階と非常停止位置との距離は1階床以内であり,非常停止判定位置は,データベースに記憶されたエレベータかごの定格速度,巻上機ブレーキのブレーキ制動時の平均減速度を用いて設定される。具体的には,かご速度(避難運転時の速度)に対して巻上機ブレーキのブレーキ制動時の平均減速度からかごの停止距離を算出して,この停止距離を非常停止位置に加算することによって要件を満たす非常停止判定位置を算出することができる。この処理はソフトウェアで実施されるため、実際には第1の非常停止判定位置701,702のデータの数値が設定される。なお、第1の非常停止判定位置701,702の設定には、ビル仕様・エレベータ仕様データ記憶手段A08に記憶された少なくともビルの階床データ、階床ピッチデータ、エレベータの速度データ(避難運転時の速度データ)、巻上機ブレーキの減速度データのいずれかが使用される。これにより、第1の非常停止判定位置設定手段A12では、巻上機ブレーキ401の減速度を考慮した上で、上記に述べた方法に基づいて非常停止判定位置701を定める。このようにして定められた非常停止判定位置701によってエレベータかご001の行き過ぎを判定するため、ブレーキによる停止距離(減速中の走行距離)も含めて予め設定された非常停止位置にエレベータかご001を停止させることができる。
【0042】
第2の非常停止判定位置設定手段A13でも、第1の非常停止判定位置設定手段A12と同様の入力情報から同様の処理が実施される。両者の異なる点は、第1の非常停止判定位置設定手段A12が、巻上機ブレーキ401による非常停止を対象としているように対して、第2の非常停止判定位置設定手段A13では、非常止め403による非常停止を対象としている点にある。従って、第2の非常停止判定位置設定手段A13では、第1の非常停止判定位置701よりも下方に第2の非常停止判定位置703を設定する。具体的には、先に述べた非常停止判定位置701を基準とし、かつ非常止め403の減速度(巻上機ブレーキの減速度よりも大)を考慮して、第2の非常停止判定位置703が設定される。また、巻上機ブレーキ401と非常止め403が同時に働くことを避けるため、第2の非常停止判定位置703は、第1の非常停止判定位置701よりも下方に設定する方がより望ましい。
【0043】
第1及び第2の非常停止判定位置701,703の設定処理は、周期的又は災害発生状態の変化に応じて、繰り返し実行される。非常停止判定の設定実施判定手段A10がこれを判定する。具体的には、災害対応コントローラ500からの災害情報データと、タイマー手段A06の時間データから、非常停止判定の設定実施判定手段A10は所定の周期毎もしくは災害状態に変化があった場合に非常停止判定位置701,703の更新を実施する。非常停止判定位置701,703の更新を一定周期毎に実施する場合は、その周期は災害の進行状況(数秒オーダで変化)とエレベータかご001の移動速度(数秒オーダで変化)とを考慮して、1秒程度の周期で更新することが望ましい。更新と判定された場合は、その信号が第1の非常停止判定位置設定手段A12と第2の非常停止判定位置設定手段A13のそれぞれに入力されて、非常停止判定位置の設定処理が実行される。
【0044】
第1及び第2の非常停止判定位置設定手段A12,A13で設定された非常停止判定位置データは、安全コントローラ102の非常停止判定位置記憶手段A11に入力されて記憶される。このデータは安全に関わる非常に重要なデータのため、メモリチェックなどの診断が実施されて高信頼な状態でデータの記憶保持がなされる。
【0045】
第1の非常停止判定位置判定手段A14では、第1の非常停止判定位置設定手段A12で設定された第1の非常停止判定位置701,702と、エレベータかご位置演算手段A07で算出されたエレベータかご001の現在位置データを比較する。エレベータかご001の現在位置が、第1の非常停止判定位置701,702を超えた場合は、巻上機ブレーキ401を制動するための信号が出力される。この信号によって主電源及び巻上機ブレーキ401の電源が遮断されて、巻上機004が停止し、エレベータかご001が非常停止する。巻上機ブレーキ401以外に第2のブレーキとしてロープブレーキ402やレールブレーキ(非常止め)403が用いられる場合には、それぞれを作動させる信号がそれぞれに出力される。
【0046】
第2の非常停止判定位置判定手段A15では、第2の非常停止判定位置設定手段A13で設定された第2の非常停止判定位置703と、エレベータかご位置演算手段A07で算出されたエレベータかご001の現在位置データを比較する。エレベータかご001の現在位置が、第2の非常停止判定位置703を超えた場合は、非常止め403を制動するための信号が出力される。この信号によって非常止め403が作動してレール404を把持し、エレベータかご001が非常停止する。
【0047】
非常停止判定位置の設定値初期化手段A09では、運転制御コントローラ101からの情報、災害発生データ、時刻データなどから避難運転実施の合理性をチェックして、避難運転が適正でないと判定された場合は、第1及び第2の非常停止判定位置設定手段A12、A13で設定されている非常停止判定位置データを初期値(昇降路の終端部の非常停止判定位置)に戻す処理を実施する。災害発生を誤認識して、非常停止判定位置を誤って設定した場合には利用者に不便な運転を強いることになるため、誤りを運転制御コントローラなどの情報から判定して、速やかに初期値に戻すようにする。
【0048】
以下、図3を参照して、上述の実施形態に係る災害対応型エレベータシステムの効果を説明する。図3(a)は従来の機械式リミットスイッチを用いた安全システムを示し、図3(b)は従来の安全システムの問題点を示し、図3(c)は上述の実施形態に係る安全システムを示している。なお、図3(a)〜(c)においては、比較を容易にするため、対応する部分に、上述の実施形態に係る安全システムの説明に使用した符号を統一的に付している。
【0049】
従来は、図3(a)に示すように、昇降路600の上下終端部に、機械式のファイナルリミットスイッチF01,F06が設置されていた。エレベータかご001には、カムF03が取り付けられており、エレベータかご001が最下階又は最上階を超えて行き過ぎると、カムF02が機械式のファイナルリミットスイッチF01又はF06を動作させて非常停止判定位置に達したことが検知されるので、リレーを介して直ちにエレベータが非常停止させられる。この安全システムを用いて災害時の避難運転を実施した場合、システムが正常な状態にある限り、図3(a)のように、エレベータかご001は、災害発生階600を避けて運行され、ビル内の人々の避難に寄与できる。
【0050】
しかしながら、図3(b)のように、運転制御コントローラ101、巻上機004、主ロープ003などのシステムに異常が発生して、エレベータかご001が異常走行した場合には、ファイナルリミットスイッチF01,F06が一定の位置に固定されているため、エレベータかご001が災害発生階600に走行することを阻止できない。
【0051】
これに対して、上述の実施形態に係る安全システムによれば、図3(c)のように、機械式のファイナルリミットスイッチを備えず、災害発生階600とエレベータかご001の現在位置に基づいて、非常停止判定位置701,702を可変に設定するので、運転制御コントローラ101、巻上機004、主ロープ003などのシステムに異常が発生した場合でも、エレベータかご001を災害発生階600に達する前の安全な位置に非常停止させることができる。その結果、災害時のエレベータの避難運転でも乗客の安全性を十分に確保することが可能となる。
【0052】
次に、安全コントローラ102で行われる非常停止判定位置設定処理の手順を、図4のフローチャートを用いて説明する。
【0053】
まず、災害対応コントローラ500の情報から、安全コントローラ102が災害発生階600のデータを取得する(ST01)。次に、かご位置センサ200及びガバナエンコーダ304の検出データから、安全コントローラ102がエレベータかご001の現在位置を算出する(ST02)。次に、エレベータかご001の現在位置と災害発生階600の位置を比較して(ST03)、エレベータかご001の現在位置が災害発生階600よりも上の階にある場合は、災害発生階600よりも上の階(災害発生階の近傍階)に最終段の救出階を設定する(ST04)。ここで、最終段の救出階とは、安全システムによりエレベータかご001を非常停止させて、かご内の乗客を救出する(脱出させる)ための階をいう。次に、この救出階よりも上の位置でかつ救出階より手前の位置に非常止め制動で停止できるように非常止めの減速度とかごの速度(避難時の運行速度)から、第2の非常停止判定位置703を設定する(ST05)。さらに、第2の非常停止判定位置703よりも上の位置に、第1の非常停止判定位置701を設定する(ST06)。最後に、第1の非常停止判定位置701よりも上の階に、運転可能階705を設定する(ST07)。この結果、災害発生階600から上方向に向かって、救出階、第2の非常停止判定位置703、第1の非常停止判定位置701、避難用の運転可能階705と順に並ぶように設定できる。従って、災害の影響などにより運転制御コントローラ101、巻上機004、主ロープ003などのシステムに異常が生じた場合でも、災害発生階600の手前のいずれかの非常停止判定位置でかごを非常停止させることができると共に、非常停止後においてエレベータかご001を救出回まで移動させることができて、かご内の乗客を救出階から安全に救出することが可能となる。なお、上述の実施形態においては、停止可能階の設定を安全コントローラ102により行ったが、運転制御コントローラ101で設定することもできる。
【0054】
エレベータかご001の現在位置が災害発生階600よりも上の階にない場合は、エレベータかご001の現在位置が災害発生階600よりも下の階にあるか否かを判定する(ST08)。下の階にも無い場合は、エレベータかご001が災害発生階600の領域中にあると判定して、エレベータを停止させる(ST09)。これはエレベータを避難運転には用いないことを意味している。エレベータかご001の現在位置が災害発生階600よりも下の階にある場合は、災害発生階600よりも下の位置でかつ安全な距離が確保できる階を、最終段の救出階に設定する(ST10)。そして、救出階よりも下方向でブレーキ制動の減速度で救出階よりも手前にエレベータかご001を非常停止させるような第1の非常停止判定位置701を設定する(ST11)。最後に、第1の非常停止判定位置701よりも下の階に、避難運転での運転可能階を設定する(ST12)。
【0055】
次に、図5を参照して、図4のフローチャートに従って設定される非常停止判定位置の例を説明する。図5(a)はエレベータかご001が災害発生階600よりも上側にある場合を示しており、図5(b)はエレベータかご001が災害発生階600よりも下側にある場合を示している。
【0056】
まず、エレベータかご001が災害発生階600よりも上側にある場合は、図5(a)に示すように、エレベータかご001よりも下方で災害発生階600よりも上の位置に、最終段の救出階B07を設定する。そして、この最終段の救出階B07よりも上の位置に第2の非常停止判定位置703を設定し、さらにその上の位置に第1の非常停止判定位置701を設定する。
【0057】
このように、エレベータかご001の現在位置と災害発生階600の間に、第1,第2の非常停止判定位置701,703を設けることにより、運転制御コントローラ101の異常、主ロープ003の滑り、主ロープ003の破断などの異常に対しても、エレベータかご001が災害発生階600に到達する以前にエレベータを非常停止させることができる。その結果、災害時の避難運転をより安全に実施することが可能となる。さらに、非常停止判定位置701,703と災害発生階600との間に救出階B07を設けるように非常停止判定位置701,703を設定することにより、エレベータかご001を非常停止させた場合でも、乗客をエレベータかご001から安全に救出することができる。ここで非常停止位置から救出階B07へのかごの移動は、例えば巻上機ブレーキの短時間の開放(巻上機ブレーキで非常停止させた場合)によって実施できる。巻上機ブレーキの開放によってかご内の荷重と釣合いおもりとのバランス関係でかごが上昇または下降して、上昇した場合には救出階B07より上のより安全な階、下降した場合でも救出階B07にかごを移動させることができ、その階で乗客を安全に救出することができる。
【0058】
なお、災害が発生する前における第1の非常停止判定位置701は、最下階B09よりも下方の位置B10に設定されている。また上方向の非常停止判定位置702は、災害発生の前後に関わりなく、一定の位置に設定される。
【0059】
エレベータかご001が災害発生階600よりも下側にある場合は、図5(b)に示すように、エレベータかご001よりも上方で、災害発生階600よりも下の位置に最終段の救出階C04を設定する。そしてこの最終段の救出階よりも下の位置に第2の非常停止判定位置703を設定する。このように、本実施形態に係る安全装置は、エレベータかご001の現在位置と災害発生階600の位置に応じて、両者の間に避難運転対応の非常停止判定位置701,703を設けることが特徴であり、その結果、避難運転時の異常に対する保護が強化され、より安全な避難運転が可能になる。
【0060】
なお、災害が発生する前における第1の非常停止判定位置701は、最上階C02よりも上方の位置C01に設定されている。また下方向の非常停止判定位置702は、災害発生の前後に関わりなく、一定の位置に設定される。
【0061】
次に、図6を参照して、昇降路内各部の温度状態に応じて非常停止判定位置を可変調整する方法を説明する。
【0062】
図6(a)は災害が発生していない通常時の状態を示している。この状態においては、エレベータかご001の現在位置に関わりなく、安全コントローラ102により昇降路006の終端部に非常停止判定位置701、702が設定されている。また、昇降路006内の上部、中間部、下部及びエレベータかご001のそれぞれには、通信線によって安全コントローラ102と接続された温度センサD03, D06, D07, D04が備えられている。
【0063】
図6(b)は、火災発生時の状態を示している。火災が発生すると、火災発生階600で温度が上昇する。この火災発生階600の温度は、温度センサD07によって検出され、その検出信号が安全コントローラ102に取り込まれる。安全コントローラ102は、エレベータかご001内の乗客の安全性を確保するため、非常停止判定位置701を点線D08の位置から実線D09の位置に設定変更する。
【0064】
図6(c)は、火災が続いて、昇降路006内の温度上昇範囲が広がった状態を示している。火災が続くと、火災発生階600の上階の温度が上昇する。火災発生階600及びその上階の温度は、温度センサD07, D06によって検出され、その検出信号が安全コントローラ102に取り込まれる。安全コントローラ102は、エレベータかご001内の乗客の安全性を確保すると共に、熱によるエレベータ機器の異常発生リスクを避けるため、非常停止判定位置701を点線D09の位置から実線D11の位置に変更する。
【0065】
このように、本例の安全システムは、昇降路006内等に配置した温度センサD03,D06,D07の検出データに基づいて、昇降路006内又はビル内の温度変化若しくは温度分布を検出し、これに応じてエレベータかご001を非常停止させる非常停止判定位置を可変に設定するので、エレベータを構成する各機器の過熱に起因する異常発生リスクを抑制することができ、エレベータの避難運転をより安全に実施できる。なお、図6の例では温度センサを用いた場合の例を示したが、温度センサの代わりに火災の煙を検知する煙検知センサ、冠水を検出する冠水検出センサを備えた場合にも、同様の効果を奏することができる。また、温度センサ、煙検知センサ、冠水検出センサの検出信号の時間変化、複数個のセンサの検出信号の組み合わせから、その変化、組み合わせに応じて、エレベータかごの行き過ぎを制限する非常停止判定位置を可変にすれば、ビル内の広汎な危険状況に対処することが可能になり、より安全性の高い非難運転を実施できる。
【0066】
以下に、図7及び図8を用いて、本発明に係る災害対応型エレベータシステムの第2実施形態を説明する。第2実施形態に係る災害対応型エレベータシステムは、設定された非常停止判定位置に基づいてエレベータかご001の非常停止を実行するのではなく、エレベータかご001の速度に応じて非常停止を実行することを特徴とする。
【0067】
即ち、第2実施形態に係る災害対応型エレベータシステムは、図7に示すように、昇降路006上の各位置に対して、それを超えるとエレベータを非常停止させる過速度判定値を設定し、エレベータかご001の各位置における検出速度がその判定値を超えたとき、エレベータを非常停止させるものである。図7において、エレベータかご位置及び速度演算手段A50は、かご位置センサ200とガバナエンコーダ304の検出信号から、エレベータかご001の位置と速度を算出する。ここで、かご速度はかご移動量の時間微分により算出できる。第1の非常停止の判定速度及び位置設定手段A53では、図8に示すようなかご位置に応じたかご過速度判定値を設定する。このかご位置に応じたかご過速度判定値は、災害発生階の位置に応じて可変に設定する。具体的には、災害発生階600にエレベータかご001が到達しないように、巻上機ブレーキ401の減速度で災害発生階よりも手前にかごを停止させるように、かご位置毎に定めたかご過速度判定値のパターンを設定する。設定時点のかご位置と災害発生階600の位置と間の位置に、エレベータかご001を巻上機ブレーキ401の減速度で非常停止させるように、かご過速度判定値を設定する。第1の非常停止判定手段A55では、エレベータかご001の検出位置、検出速度と当該かご位置の過速度判定値からエレベータの速度異常を判定して、速度異常の場合には主電源を遮断させると同時に巻上機ブレーキ401を制動させる。
【0068】
第2の非常停止の判定速度及び位置設定手段A54も、第1の非常停止の判定速度及び位置設定手段A53と同じ考えで、かご位置に応じたかご過速度判定値を設定する。第1の非常停止の判定速度及び位置設定手段A53と異なるのは、非常止め403を制動手段としている点にある。同様に第2の非常停止判定手段A56でも、エレベータかごの検出位置、検出速度と当該かご位置の過速度判定値からエレベータの速度異常を判定して、速度異常の場合には非常止め403を作動させる。
【0069】
その他、非常停止の判定速度及び位置記憶手段A52は、第1及び第2の非常停止判定速度及び位置設定手段A53,A54と、これらの設定手段が設定したかご位置毎に定めたかご過速度判定値のデータを記憶する。また、非常停止の判定速度及び位置設定値初期化手段A51では、災害が発生していないのに誤ってご過速度判定値を変更した場合にそれを判断して初期値に戻す処理を実施する。
【0070】
このように、災害の発生階に応じてかご位置に対するかご過速度の判定値を定めることにより、システムに異常が生じてかごがオーバスピードの状態になってもそれを安全コントローラが早い段階で検出できて、災害発生階に達する前にエレベータを非常停止させることができる。従って、かご内の乗客の安全を確保できる。
【0071】
図8は、図7の制御ブロックに従って設定されたかご位置に対するかご過速度の判定値の特性を表している。図8の横軸G02はかごの速度を表しており、縦軸G01はビルの階床位置(又は昇降路の垂直上の位置)を表している。災害が発生していない通常時は、ピットにあるバッファG04に所定の速度以下で衝突するようなかご過速度の判定値の曲線G06が設定される。
【0072】
これに対して、ビルに災害が発生した場合には、災害発生階G07とかご位置G03の位置関係に基づいて、災害発生階G07とかご位置G03の間の位置にエレベータかごのリミット位置G10を設定して、巻上機ブレーキ401や非常止め403で確実にその位置までにエレベータを非常停止できるように、かご位置G03に対するかご過速度の判定値G12を設定する。リミット位置に確実に非常停止させる必要があるため、かご過速度の判定値G12は、速度ゼロまでの判定値で設定される。
【0073】
以下、かご位置G03に対するかご過速度の判定値G12の設定法を、より詳細に説明する。かご位置G03と災害発生階G07の位置関係からその間に救出階G08を設定し、救出階の手前にエレベータかごを必ずそこまでに停止させるリミット位置G10を設定する。このリミット位置に確実にかごを停止させるため、巻上機ブレーキ401又は非常止め403の減速度を考慮して、かご過速度の判定値G12をかご位置毎に設定する。避難運転を実施する運転可能階G09は、この判定値G12の位置よりもかご側の位置に定める。一例として、避難運転時の走行パターンは、曲線G11のようになる。
【0074】
このように、災害発生階G07の位置とかご位置G03に応じて、エレベータかごの速度異常に対する判定速度を安全コントローラ102が可変に設定すると、エレベータの避難運転の安全性がより高められる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、災害対応型のエレベータに利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
001…エレベータの乗りかご
002…釣合いおもり
003…主ロープ
004…巻上機
101…運転制御コントローラ
102…安全コントローラ
200…位置センサ
201a…検出体
304…ガバナエンコーダ
401…巻上機のブレーキ
402…ロープブレーキ
403…電動式の非常止め
500…災害対応コントローラ
501a…災害検出装置
600…災害発生階
701…第1の非常停止判定位置(下側)
702…第1の非常停止判定位置(上側)
703…第2の非常停止判定位置(下側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビル内の災害発生階を検出する災害発生階検出手段と、
昇降路上のエレベータかごの位置を検出するかご位置検出手段と、
前記災害発生階検出手段により検出された災害発生階及び前記かご位置検出手段により検出されたエレベータかごの位置に応じたエレベータかごの非常停止判定位置を設定する非常停止判定位置設定手段と、
前記かご位置検出手段により検出されたエレベータかごの位置が前記非常停止判定位置設定手段により設定された非常停止判定位置を超えたか否かの判定を行う非常停止判定手段と、
前記非常停止判定手段が、前記エレベータかごの位置は前記非常停止判定位置を超えて前記災害発生階に近づいたと判定した場合にエレベータかごを非常停止させる非常停止手段と、
を備えたことを特徴とする災害対応型エレベータシステム。
【請求項2】
前記非常停止判定位置設定手段は、前記災害発生階が前記エレベータかごの位置よりも下方にある場合は前記非常停止判定位置を前記災害発生階よりも上方に設定し、前記災害発生階が前記エレベータかごの位置よりも上方にある場合は前記非常停止判定位置を前記災害発生階よりも下方に設定することを特徴とする請求項1の災害対応型エレベータシステム。
【請求項3】
前記災害発生階が前記エレベータかごの位置よりも下方にある場合のエレベータかごの非常停止判定位置は、前記災害発生階の上方に設定される救出階に前記エレベータかごを停止可能な位置であり、前記災害発生階が前記エレベータかごの位置よりも上方にある場合のエレベータかごの非常停止判定位置は、前記災害発生階の下方に設定される救出階に前記エレベータかごを停止可能な位置であることを特徴とする請求項2に記載の災害対応型エレベータシステム。
【請求項4】
前記災害発生階検出手段により検出された災害発生階が複数ある場合には、前記かご位置検出手段により検出されたエレベータかごの位置から見て最も近い災害発生階を基準として前記非常停止判定位置を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の災害対応型エレベータシステム。
【請求項5】
前記災害発生階検出手段により検出された災害発生階と前記設定手段により設定された前記非常停止判定位置との高低差が、災害発生階の数に関わりなく一定であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の災害対応型エレベータシステム。
【請求項6】
前記災害発生階検出手段により検出された災害発生階と前記設定手段により設定された前記非常停止判定位置との高低差が、災害発生階の数が多くなるほど大きく設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の災害対応型エレベータシステム。
【請求項7】
前記非常停止判定位置設定手段は、所定時間毎に、前記非常停止判定位置の設定を繰り返して前記非常停止判定位置を更新することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の災害対応型エレベータシステム。
【請求項8】
前記非常停止手段として、巻上機ブレーキ及びエレベータかごをガイドレールに把持する電動式非常止めを備えると共に、前記非常停止判定位置設定手段は、前記災害発生階が前記エレベータかごの現在位置よりも下にある場合に、前記非常停止判定位置として、第1の非常停止判定位置と、該第1の非常停止判定位置よりも前記災害発生階に近い第2の非常停止判定位置とを設定し、前記非常停止判定手段が、前記エレベータかごの位置は前記第1の非常停止判定位置を超えて前記災害発生階に近づいたと判定した場合には、前記巻上機ブレーキを駆動してエレベータかごを非常停止させ、前記非常停止判定手段が、前記エレベータかごの位置は前記第2の非常停止判定位置を超えて前記災害発生階に近づいたと判定した場合には、前記電動式非常止めを駆動してエレベータかごを非常停止させることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の災害対応型エレベータシステム。
【請求項9】
ビル内の災害発生階を検出する災害発生階検出手段と、
昇降路上のエレベータかごの現在位置を検出するかご位置検出手段と、
エレベータかごの昇降速度を検出するエレベータ速度検出手段と、
ビル内の災害発生階及びエレベータかごの現在位置に応じたエレベータかごの非常停止判定速度が記憶された記憶手段と、
前記災害発生階検出手段により検出された災害発生階及び前記かご位置検出手段により検出されたエレベータかごの現在位置に応じたエレベータかごの非常停止判定速度を前記記憶手段から読み出して記憶する非常停止判定速度設定手段と、
前記エレベータ速度検出手段により検出されたエレベータかごの昇降速度が前記非常停止判定速度設定手段により設定された非常停止判定速度を超えたか否かの判定を行う非常停止判定手段と、
前記非常停止判定手段が、前記エレベータかごの昇降速度は前記非常停止判定速度を超えたと判定した場合にエレベータかごを非常停止させる非常停止手段と、
を備えたことを特徴とする災害対応型エレベータシステム。
【請求項10】
前記非常停止判定速度設定手段は、前記災害発生階と前記エレベータかごの位置との間の位置にエレベータかごを非常停止させるように前記非常停止判定速度を設定することを特徴とする請求項9に記載の災害対応型エレベータシステム。
【請求項11】
前記非常停止判定速度設定手段は、前記災害発生階と前記エレベータかごの現在位置との間の昇降路区間に対して、前記エレベータかごの位置に応じた前記非常停止判定速度を設定することを特徴とする請求項9に記載の災害対応型エレベータシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate