説明

災害発生時における工事現場通信システム

【課題】災害発生時における工事現場通信システムにおいて、容易に導入することができ、災害が発生したときに、工事現場に対し災害情報を確実に伝達し、かつ迅速に通信することができるようにする。
【解決手段】監視センタ14と特定の設備管理装置20とが蓄積交換網24で接続され、特定の設備管理装置20と一般の設備管理装置22とが無線接続網26で接続されている。工事現場28には、無線接続網26に接続し、監視センタ14と、特定及び一般の設備管理装置20,22とに対し通信を行う通信装置30が設けられている。蓄積交換網24と無線接続網26は蓄積交換方式による通信路であるため、災害が発生した場合、監視センタ14は、災害情報に基づく災害待機指令を、確実にかつ迅速に通信装置30に通信することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害発生時に、工事現場に対して通信が行われる工事現場通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工事現場は、建築及び土木などの建設工事が行われる場所であり、この場所において例えばビルなどの建造物が建設される。工事現場には、建築物を建設するために必要な仮設材、資材及び建設機器などの機材が置かれ、これらの機材を用いて作業員が建築物を作り上げる。
【0003】
建造物が建設途中である場合、その建造物には、完成後に持つべき防災性能がまだ備わっていない。また、上述した工事現場の機材には、災害対策が十分に施されていない。このような環境にある工事現場において、災害が発生した場合、作業員の安全性を確保することが困難である。通常の建物においては、災害発生時に、その建物自らが有する防災性能のほかに、災害情報を通信する通信システムを用いて人の安全性を確保する例がある。
【0004】
下記特許文献1には、建物内のエレベータと、エレベータを遠隔から監視して保守する保守センタとが公衆電話網により接続され、さらに保守センタと、各所に設けられた地震感知器とが公衆電話網により接続された通信システムが記載されている。この通信システムにおいては、地震発生時に、各地震感知器の情報が電話回線網を介して保守センタに送られ、その情報に基づいてエレベータの運転を制限する指令が保守センタから公衆電話網を介してエレベータに送られる。送られた指令により、エレベータが最寄りの階に自動停止するので、乗客の安全性が確保されることが示されている。
【0005】
一般的に、地震波による建物の揺れの程度は、その建物の地域特性、例えば地盤の性質、地下水位などにより影響を受ける。また、地震波には、媒質(波を伝える物質)の体積変化が移動して伝わるP波(縦波)、および媒質の形の変形(ねじれ)によって伝わるS波(横波)がある。地震発生時には、この地震波のP波とS波とは同時に発生するが、例えば地殻を伝わる場合にはP波の移動速度はS波の移動速度よりも略1.7倍速い。このP波がある地点に到達したことによる初期微動から、S波が到達したことによる主要動までの時間の長さは、初期微動継続時間(或いはS−P時間)と言われる。理論上は震源までの距離が遠くなれば、初期微動継続時間は長くなる。地震波のうちP波が地表付近を伝播する速度は、6〜7km/秒程度であり、S波が地殻中を伝播する速度は、3.5〜4km/秒程度である。従って、例えば12km離れた距離間においては、P波では2秒程度の時間差が発生し、S波では3秒程度の時間差が発生することになる。
【0006】
【特許文献1】特開2002−46953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の通信システムにおいては、回線交換方式による公衆電話網を介して通信が行われる。公衆電話網は、例えばPSTN(Public Switched Telephone Network:公衆交換電話網)であり、電気通信事業者が提供するサービスを利用する形態をとるのが一般的である。回線交換方式は、通常、送信元から送信先までの通信経路を予め確保してから通信を開始するので、データ通信を行う場合、データ通信開始までに数秒から数十秒かかる。つまり、迅速に情報を通信することができない。また、公衆電話網は、災害が発生した場合、電気通信事業者による通信規制、または公衆電話網のケーブル等の断線などによる通信回線の遮断により、確実に通信を行うことができないおそれがある。
【0008】
また、上記特許文献1の通信システムを工事現場に導入する場合、新規に公衆電話網を利用するために電気通信事業者に対して手続を行わなければならない。また、新規の公衆電話網の回線を敷設するのであれば、開設までに時間がかかってしまう。さらに、通常の建物内において改修工事などが行われる工事現場においては、その建物内に新規の公衆電話網の回線を敷設することが容易ではない。
【0009】
本発明の目的は、容易に工事現場に導入することができ、災害が発生したときに、工事現場に対し災害情報を確実に伝達し、かつ迅速に通信することができる災害発生時における工事現場通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の災害発生時における工事現場通信システムは、建物内の設備の状態を管理する設備管理装置と、前記設備管理装置と蓄積交換方式の通信路で接続され、各建物内の設備を遠隔から監視する監視センタと、工事現場に設けられ、前記監視センタと前記設備管理装置とに対し通信を行う通信装置と、を有し、前記通信装置と前記設備管理装置とが無線による蓄積交換方式の通信路で接続され、前記監視センタが災害に関する情報を取得する災害情報取得手段を有し、災害が発生した場合、前記監視センタは、前記災害情報取得手段により取得された災害情報に基づいて災害待機指令を、前記設備管理装置を経由して前記通信装置に向けて発信することを特徴とする。
【0011】
また、前記設備管理装置は、地域ごとに特定された建物内に設けられた特定の設備管理装置と、その地域内の建物に設けられた一般の設備管理装置と、を含み、前記特定の設備管理装置と前記監視センタとが蓄積交換方式の通信路で接続され、前記特定の設備管理装置と、その特定の設備管理装置が属する地域の前記一般の設備管理装置と、その地域の前記通信装置とが無線による蓄積交換方式の通信路で接続され、災害が発生した場合、前記監視センタが前記特定の設備管理装置を経由して前記通信装置に向けて災害待機指令を発信することができる。
【0012】
また、前記特定の設備管理装置は、前記監視センタの機能を有し、各地域の前記特定の設備管理装置は互いに無線による蓄積交換方式の通信路で接続され、災害発生時に前記監視センタが機能しない場合、前記特定の設備管理装置が各地域の監視センタになり、前記特定の設備管理装置がこれの属する地域の前記通信装置に向けて災害待機指令を発信することができる。
【0013】
また、前記通信装置に接続され、工事現場の所定の場所を撮影する撮影手段を有し、前記通信装置は、前記撮影手段が撮影した画像情報を前記監視センタに向けて発信することができる。
【0014】
また、前記災害情報取得手段は、地震発生に関する情報を取得し、地震が発生した場合、前記監視センタが前記災害情報取得手段により取得された地震情報に基づいて地震待機指令を前記通信装置に向けて発信することができる。
【0015】
また、前記設備管理装置を有する建物には、地震を感知する地震感知器が設置され、前記災害情報取得手段は、前記地震感知器が感知した地震情報を取得することができる。
【0016】
また、前記監視センタは、地震情報に基づいて各地域における地震波の到達時間を算出する到達時間算出手段を有し、前記到達時間算出手段により算出された到達時間を含む地震待機指令を、前記監視センタが前記通信装置に向けて発信することができる。
【0017】
また、前記到達時間算出手段は、地震情報のうち、地震波のP波の情報に基づいて各地域における地震波の到達時刻を算出することができる。
【0018】
また、前記監視センタは、地震情報のうち、地震の強さの情報に基づいて各地域における建物の揺れの程度を予測する予測手段を有し、前記予測手段による予測値が所定値以上の場合、前記監視センタが地震待機指令を前記通信装置に向けて発信することができる。
【発明の効果】
【0019】
上記構成により、災害発生時における工事現場通信システムは、災害情報を取得した監視センタが、設備管理装置を経由して工事現場の通信装置に対して遠隔から災害待機指令を発信することが可能となる。監視センタ、設備管理装置及び通信装置は、蓄積交換方式による通信路を介して接続されているので、通信開始までの時間が短縮され、災害発生時における迅速な情報通信が可能となる。また、蓄積交換方式による通信路を利用することにより、災害が発生しても電気通信事業者による通信規制の影響を受けずに、確実に通信を行うことができる。また、無線による蓄積交換方式の通信路を利用することにより、災害が発生しても断線による通信回路の遮断の影響を受けずに、確実に通信を行うことができる。さらに、無線による蓄積交換方式の通信路を利用することにより、その通信路に接続する通信装置を設置するだけで、容易に工事現場に通信システムを導入することができる。
【0020】
以上のように、本発明の災害発生時における工事現場通信システムによれば、容易に工事現場に導入することができ、災害が発生したときに、工事現場に対し災害情報を確実に伝達し、かつ迅速に通信することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明に係る災害発生時における工事現場通信システムの実施形態について、図面に従って説明する。図1は、本実施形態に係る災害発生時における工事現場通信システム10の通信ネットワーク12の概略構成を示す図である。
【0022】
災害発生時における工事現場通信システム10は、広域の建物群の設備を遠隔から監視する監視センタ14と、この監視センタ14に各建物の設備情報が集約されるよう構築された通信ネットワーク12とを有する。
【0023】
通信ネットワーク12は、広域の建物群を複数の地域36に分割して構築されている。各地域36にある建物は、通信ネットワーク12に接続された建物であり、地域36ごとに特定された特定建物16と、この特定建物16以外の建物である一般建物18の二種に区別される。本実施形態においては、地域36は、例えば地域A36aと地域B36bとの2つに分割され、各地域36にある建物は、特定建物16と、一般建物18の二種に区別される。特定建物16は、災害発生時、その特定建物16が属する地域36内の拠点となる建物である。そのため、その地域36の建物の中でも耐震性能、耐風性能、または災害時における耐火性能の高い建物が望ましい。なお、広域が示す範囲は、通信ネットワーク12に接続される建物を複数含む範囲であり、日本全国を示す場合であっても、ある地方、例えば関東地方を示す場合であっても、ある都市、例えば東京都を示す場合であってもよい。また、地域36の範囲は、後述する無線接続網26により問題なく通信できる範囲であり、その地域36における建物の密度などにより決定する。
【0024】
監視センタ14と各特定建物16とは、蓄積交換方式による通信路である蓄積交換網24により接続される。また、特定建物16と、この特定建物16が属する地域36内の各一般建物18とは、蓄積交換方式による無線接続網26により接続される。このような構成により、監視センタ14と地域36ごとの特定建物16との間において通信が行われ、各特定建物16とそれらの属する地域36内の一般建物18との間において通信が行われる。つまり、監視センタ14、特定建物16、そして一般建物18というような階層状の通信ネットワーク12が構築され、通信が行われる。
【0025】
また、通信ネットワーク12は、工事現場28も複数の地域36に分けて構築される。工事現場28は、建設工事が行われる場所であり、建設工事は、新築工事、解体工事および改修工事などを含む。工事現場28と、この工事現場28が属する地域36内の特定及び一般建物16,18とは、無線接続網26に接続される。この構成により、工事現場28との特定及び一般建物16,18との間において通信が行われ、また、これらの建物16,18を経由して、工事現場28と監視センタ14との間においても通信が行われる。
【0026】
通信ネットワーク12に用いられる蓄積交換方式は、IPパケット交換方式とも言われ、通信データがパケットと呼ばれる単位に分割されて通信される。蓄積交換方式は、一定時間回線を独占することがないので回線を効率的に使用することができる。回線交換方式による通信路においては、データ通信を行う場合、データ通信開始までに数秒から数十秒かかる。これに対し、蓄積交換方式による通信路においては、略1秒未満でデータ通信を開始して通信することができる。また、回線交換方式による通信路は、大規模な災害が発生した場合、電気通信事業者によって通信規制が行われてしまうおそれがある。これに対し、蓄積交換方式による通信路は、回線を占有しないため、通常、そのような通信規制は行われない。よって、通信ネットワーク12が蓄積交換方式による通信路を利用することにより、災害発生時における工事現場通信システム10は、災害発生時においても、確実に情報を伝達し、迅速に通信を行うことができる。
【0027】
次に、災害発生時における工事現場通信システム10の構成について、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る災害発生時における工事現場通信システム10の概略構成を示す図である。一例として、図1に示される地域A36aを挙げ、災害発生時に、監視センタが地域A36aの工事現場28に対して通信を行うシステムについて説明する。なお、本発明は、災害発生時に限らず、通常時の工事現場における通信システムにも適用することもできる。なお、災害は、例えば地震、台風による強風、火災などを含む。
【0028】
災害発生時における工事現場通信システム10の通信ネットワーク12には、監視センタ14と、工事現場28に設けられる通信装置30と、建物内の設備34の状態を管理する設備管理装置とが接続されている。設備管理装置は、特定建物16に設置された特定の設備管理装置20と、一般建物18に設置された一般の設備管理装置22の二種に区別される。なお、建物内の設備34は、厳密に建物内部の空間に設けられた設備に限らず、その建物に関連する設備を含む。設備34は、例えば、エレベータ等の搬送設備、空調設備、給排水衛生設備あるいは照明設備などである。
【0029】
監視センタ14と、特定及び一般の設備管理装置20,22とは、データを送受信する送受信手段38をそれぞれ有する。データは、設備の状態、異常及び故障などを示す設備情報と、後述する災害に関する情報とを含む。特定の設備管理装置20の送受信手段38は、蓄積交換網24に対応するルータ40と、無線接続網26に対応する無線ルータ42とを有する。一般の設備管理装置22の送受信手段38は、無線接続網26に対応する無線ルータ42を有する。各送受信手段38間は、蓄積交換方式による通信路により接続される。すなわち、監視センタ14の送受信手段38と、特定の設備管理装置20のルータ40とが蓄積交換網24により接続され、特定の設備管理装置20の無線ルータ42と、一般の設備管理装置22の無線ルータ42とが無線接続網26により接続される。また、通信装置30は、無線接続網26に対応する無線ルータ42を有し、この無線ルータ42と、特定及び一般の設備管理装置20,22の無線ルータ42とが無線接続網26により接続される。これにより、監視センタ14と、特定及び一般の設備管理装置20,22と、通信装置30とは、データを互いに送受信することができる。
【0030】
特定及び一般建物16,18には、地震を感知する地震感知器32が配置されている。地震感知器32は、感知した信号を、その地震感知器32が配置された建物の特定又は一般の設備管理装置20,22に出力する。一般建物16に配置された地震感知器32が地震を感知した場合、それを示す信号が一般の設備管理装置22に伝達される。そして、この一般の設備管理装置22が、地震発生に関する情報(以降、地震情報と記す)を、無線接続網26を介して特定の設備管理装置20に送信する。送信された特定の設備管理装置20は、その地震情報を、蓄積交換網24を介して監視センタ14に送信する。一方、特定建物16に配置された地震感知器32が地震を感知した場合、それを示す信号が特定の設備管理装置20に伝達され、この特定の設備管理装置20が、地震情報を、蓄積交換網24を介して監視センタ14に送信する。地震情報とは、想定される震源地の情報、地震波(P波及びS波)の到達時刻、地震の強さ等の情報をいう。
【0031】
監視センタ14は、災害に関する情報を取得する災害情報取得手段52と、その取得した情報に基づいて災害待機指令の発信を判断する判断手段46とを有する。災害に関する情報は、例えば地震情報であり、災害情報取得手段52は、地震感知器32から特定及び一般の設備管理装置20,22を関して伝達される地震情報を取得する。災害情報取得手段52が取得する災害に関する情報は、地震感知器32からの地震情報に限らず、他の情報提供機関(図示せず)からの地震、火災及び台風などの気象に関する情報であってもよい。災害待機指令は、工事現場28の作業員の安全性を確保するために通信装置30に向けて発信される指令であり、作業員に対して作業中止、待機または避難などを勧告する。災害が地震の場合、監視センタ14が、地震の強さ、または地震波の到達時間などの地震情報を含む災害待機指令(以下、地震待機指令と記す)を通信装置30に向けて発信する。その地震待機指令により、工事現場28において、事前に地震に対して備えることができ、作業員の安全性を確保することができる。
【0032】
判断手段46は、地震情報に基づいて各地域36における地震波の到達時間を算出する到達時間算出手段48と、地震情報のうち地震の強さに基づいて各地域36における建物の揺れの程度を予測する予測手段50とを有する。
【0033】
到達時間算出手段48は、地震情報のうち、地震波のP波の情報に基づいて各地域36における地震波の到達時間を算出する。地震波には、上述したように伝播速度が異なる2種の波、S波とP波がある。この2種の波の速度差を利用して地震波の到達時間を算出することができる。以下、図を用いて詳述する。図3は、地域X36xに到達した地震波(P波及びS波)が地域Y36y及び地域Z36zに到達するまでの時間差についての原理を示す図である。ここでは、地域X36x、地域Y36y及び地域Z36zが、地震波の伝達する方向に直線的に並ぶと仮定したモデルにより説明する。
【0034】
まず、地域X36xに到達する地震波の時刻について説明する。地震波が地域X36x内の建物に到達し、建物内に配置された地震感知器32が地震波のうちP波を感知する時刻をTpxとすると、S波を感知する時刻Tsxは、Tpx+αとなる。この時間αは、初期微動継続時間(或いはS−P時間)であり、理論上は震源までの距離が遠くなれば、この初期微動継続時間は長くなる。従って、この時間αを計測することで、震源地までの距離をある程度推定することができる。
【0035】
次に、地域X36xに到達した地震波が地域Y36y及び地域Z36zに到達する時刻について説明する。地域X36x内の建物と、地域Y36y内の建物とは距離Xだけ離れており、地域X36x内の建物と、地域Z36z内の建物とは距離Yだけ離れている。P波が地域Y36y内の建物の位置に到達する時刻Tpaは、Tpx+β1で表され、P波が地域Z36z内の建物位置に到達する時刻Tpbは、Tpx+γ1で表される。時間β1及びγ1は、P波が地表付近を伝播する速度に距離X,Yを乗じた値となる。一方、S波が地域Y36y内の建物の位置に到達する時刻Tsaは、Tpx+α+β2で表され、S波が地域Z36z内の建物の位置に到達する時刻Tsbは、Tpx+α+γ2で表される。時間β2及びγ2は、S波が地表付近を伝播する速度に距離X,Yを乗じた値となる。上述したように、P波が地表付近を伝播する速度は、6〜7km/秒程度であり、S波が地殻中を伝播する速度は、3.5〜4km/秒程度である。以上により、地震波が、震源地に近い地域X36xに到達したことを地震感知器32により感知した後、その地震感知器32からの地震情報に基づいて、地域Y36y及び地域Z36zにおける地震波の到達時間を算出可能なことが明らかである。ただし、地震波は、実際には地表を平面的に伝播する。従って、上記原理を応用し、複数の地点からの地震情報に基づき、他の地域への到達時刻を算出する。
【0036】
判断手段46には、各地域36の位置、特定及び一般建物16,18の位置及び工事現場28の位置などの地図情報が予め記憶されている。判断手段46は、ある建物が地震情報を検出した場合、その建物から工事現場28までの距離を地図情報に基づいて算出する。到達時間算出手段48は、その距離と、地震情報を検出した建物にP波が到達した時刻とから、地震波のP波及びS波が工事現場28に到達する時間を算出する。この到達時間は、地震待機指令として、監視センタ14から工事現場28に伝達される。
【0037】
監視センタ14は、後述する撮影手段56により撮影された工事現場28の状況を表示する表示手段54を有する。表示手段54は、例えばモニタである。
【0038】
特定の設備管理装置20は、災害発生時に、災害情報に基づいて工事現場28に向けて災害待機指令を発信する機能を有する。すなわち、監視センタ14と同様に、災害情報取得手段52、判断手段46及び表示手段54を有する。また、特定の設備管理装置20の災害情報取得手段52が災害情報を取得するため、各地域36の特定の設備管理装置20は、互いに無線による蓄積交換方式の通信路で接続されている。これにより、災害発生時に監視センタ14が機能不全になったときでも、特定の設備管理装置20は、取得した災害情報に基づいて、その特定の設備管理装置20が属する地域36の通信装置30に向けて災害待機指令を発信することができる。
【0039】
工事現場28の通信装置30には、工事現場28内の状況を撮影する撮影手段56が接続されている。撮影手段56は、例えばビデオカメラであり、工事現場28内の作業場または機材置き場などの所定の場所に設けられている。撮影手段56が撮影した画像情報は、通信装置30を介して、特定の設備管理装置20と監視センタ14に送信される。特定の設備管理装置20と監視センタ14との表示手段54に表示される画像により、工事現場28の被災状況を把握することができ、機材等の盗難の防止に役立てることができる。
【0040】
次に災害発生時における工事現場通信システム10の動作について説明する。なお、一例として、地震が発生したときに、監視センタ14から地域A36a内の工事現場28に向けて発信される地震待機指令を挙げ、この地震待機指令の通信が行われる災害発生時における工事現場通信システム10の動作について説明する。
【0041】
地震が発生し、ある地域36の例えば一般建物18に配置された地震感知器32が地震を感知した場合、その一般建物18の一般の設備管理装置22から地震情報が、無線交換網26を介して特定の設備管理装置20に伝達される。そして、特定の設備管理装置20に伝達された地震情報が、蓄積交換網24を介して監視センタ14に伝達される。その地震情報は、他の建物または情報提供機関の地震情報とともに災害情報取得手段52により取得され集約される。集約された地震情報により、監視センタ14は、地域特性に応じた対応が可能になる。地震の場合、地域特性、例えば地盤及び地下水位などに応じて、揺れの程度が異なる。よって、ほぼ同様な地震動を受ける地域36の地震情報を集約し共有することより、正確な地震待機指令を発信することができる。
【0042】
判断手段46において、到達時間算出手段48が集約された地震情報に基づいて地域A36aにおける地震波の到達時間を算出し、予測手段50が地震情報のうち地震の強さに基づいて地域A36aにおける建物の揺れの程度を予測する。判断手段46は、予測手段50により予測された予測値が予め設定された所定値以上の場合、地域A36aにおける地震待機指令の発信を行うと判断する。一方、予測値が予め設定された所定値未満の場合、地震待機指令の発信を行わないと判断する。
【0043】
監視センタ14は、地域A36a内にある工事現場28の通信装置30に向けて地震待機指令を発信する。発信された地震待機指令は、蓄積交換網24を介して特定の設備管理装置20に伝達される。そして、特定の設備管理装置20に伝達された地震情報が、無線交換網26を介して通信装置30に伝達される。通信装置30に伝達された地震待機指令は、作業員に報知される。報知の手段は、地震待機指令の内容を口頭にて知らせる方法、通信装置30に接続された拡声器などの報知器(図示せず)により音声または警報により知らせる方法を含む。地震待機指令により、事前に作業員は地震に対して備えることができるので、作業員の安全性が確保される。
【0044】
また、工事現場28に設けられた撮影手段56により撮影された画像情報が、通信装置30から特定の設備管理装置20を経由して監視センタ14に伝達される。監視センタ14に伝達された画像情報により、工事現場28の被災状況が把握される。また、その画像情報により、遠隔から機材などを監視することができるので、それらの盗難を防止することができる。また、工事現場28の被災状況から、監視センタ14は、必要に応じて工事現場28内にある設備の障害に対応可能なスキルを有する保守員を派遣し、その設備の早期復旧を図ることができる。
【0045】
本実施形態に係る災害発生時における工事現場通信システム10によれば、災害が発生した場合、蓄積交換方式による通信路を介して通信が行われるので、略1秒未満でデータ通信を開始して通信することができ、迅速に通信を行うことができる。また、災害が発生した場合、蓄積交換方式による通信路を介して通信が行われるので、電気通信事業者による通信規制または通信回線の遮断などの影響を受けずに、確実に通信を行うことができる。また、通信装置30と、特定及び一般の設備管理装置20,22との間において無線による蓄積交換方式の通信路を介して通信が行われるので、災害が発生しても断線による通信回路の遮断の影響を受けずに、確実に通信を行うことができる。よって、災害が発生した場合、工事現場28に対し災害情報を確実に伝達し、かつ迅速に通信することができる。
【0046】
また、本実施形態に係る災害発生時における工事現場通信システム10によれば、通信装置30を設置すれば無線接続網26を介して通信が行われるので、電気通信事業者に対し手続を行うことも、回線敷設工事をすることもなく、容易に導入することができる。
【0047】
上記実施形態では、特定及び一般の設備管理装置20,22が設備の状態を管理する機能と、データ通信する機能とを有する場合について説明したが、この構成に限定されるものではない。それらの機能を別々に有する装置が特定及び一般建物16,18内に設けられていてもよい。
【0048】
上記実施形態では、通信ネットワーク12が監視センタ14、特定建物16、そして一般建物18というような階層状に構築されている場合について説明したが、階層がさらに多くあってもよい。例えば、地域36内をさらに複数の区域に分割し、その区域ごとに特定及び一般建物16,18と工事現場28を設けてもよい。このような階層状の通信ネットワーク12によれば、監視センタ14の機能を、監視センタ14、地域36の特定の設備管理装置20または区域の特定の設備管理装置20のいずれかに持たせることができるので、災害により監視センタ14が機能不全になった場合でも、確実に災害待機指令が通信装置30に向けて発信される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施形態に係る災害発生時における工事現場通信システムの通信ネットワークの概略構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係る災害発生時における工事現場通信システムの概略構成を示す図である。
【図3】地域Xに到達した地震波(P波及びS波)が地域Y及び地域Zに到達するまでの時間差についての原理を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10 災害発生時における工事現場通信システム、12 通信ネットワーク、14 監視センタ 16 特定建物、18 一般建物、20 特定の設備管理装置、22 一般の設備管理装置、24 蓄積交換網、26 無線接続網、28 工事現場、30 通信装置、32 地震感知器、34 設備、36 地域、38 送受信手段、40 ルータ、42 無線ルータ、46 判断手段、48 到達時間算出手段、50 予測手段、52 災害情報取得手段、54 表示手段、56 撮影手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内の設備の状態を管理する設備管理装置と、
前記設備管理装置と蓄積交換方式の通信路で接続され、各建物内の設備を遠隔から監視する監視センタと、
工事現場に設けられ、前記監視センタと前記設備管理装置とに対し通信を行う通信装置と、
を有し、
前記通信装置と前記設備管理装置とが無線による蓄積交換方式の通信路で接続され、
前記監視センタが災害に関する情報を取得する災害情報取得手段を有し、
災害が発生した場合、前記監視センタは、前記災害情報取得手段により取得された災害情報に基づいて災害待機指令を、前記設備管理装置を経由して前記通信装置に向けて発信する、
ことを特徴とする災害発生時における工事現場通信システム。
【請求項2】
請求項1記載の災害発生時における工事現場通信システムにおいて、
前記設備管理装置は、
地域ごとに特定された建物内に設けられた特定の設備管理装置と、
その地域内の建物に設けられた一般の設備管理装置と、
を含み、
前記特定の設備管理装置と前記監視センタとが蓄積交換方式の通信路で接続され、
前記特定の設備管理装置と、その特定の設備管理装置が属する地域の前記一般の設備管理装置と、その地域の前記通信装置とが無線による蓄積交換方式の通信路で接続され、
災害が発生した場合、前記監視センタが前記特定の設備管理装置を経由して前記通信装置に向けて災害待機指令を発信する、
ことを特徴とする災害発生時における工事現場通信システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の災害発生時における工事現場通信システムにおいて、
前記特定の設備管理装置は、前記監視センタの機能を有し、
各地域の前記特定の設備管理装置は互いに無線による蓄積交換方式の通信路で接続され、
災害発生時に前記監視センタが機能しない場合、前記特定の設備管理装置が各地域の監視センタになり、前記特定の設備管理装置がこれの属する地域の前記通信装置に向けて災害待機指令を発信する、
ことを特徴とする災害発生時における工事現場通信システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1に記載の災害発生時における工事現場通信システムにおいて、
前記通信装置に接続され、工事現場の所定の場所を撮影する撮影手段を有し、
前記通信装置は、前記撮影手段が撮影した画像情報を前記監視センタに向けて発信する、
ことを特徴とする災害発生時における工事現場通信システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1に記載の災害発生時における工事現場通信システムにおいて、
前記災害情報取得手段は、地震発生に関する情報を取得し、
地震が発生した場合、前記監視センタが前記災害情報取得手段により取得された地震情報に基づいて地震待機指令を前記通信装置に向けて発信する、
ことを特徴とする災害発生時における工事現場通信システム。
【請求項6】
請求項5記載の災害発生時における工事現場通信システムにおいて、
前記設備管理装置を有する建物には、地震を感知する地震感知器が設置され、
前記災害情報取得手段は、前記地震感知器が感知した地震情報を取得する、
ことを特徴とする災害発生時における工事現場通信システム。
【請求項7】
請求項5または6に記載の災害発生時における工事現場通信システムにおいて、
前記監視センタは、地震情報に基づいて各地域における地震波の到達時間を算出する到達時間算出手段を有し、
前記到達時間算出手段により算出された到達時間を含む地震待機指令を、前記監視センタが前記通信装置に向けて発信する、
ことを特徴とする災害発生時における工事現場通信システム。
【請求項8】
請求項7記載の災害発生時における工事現場通信システムにおいて、
前記到達時間算出手段は、地震情報のうち、地震波のP波の情報に基づいて各地域における地震波の到達時刻を算出する、
ことを特徴とする災害発生時における工事現場通信システム。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか1に記載の災害発生時における工事現場通信システムにおいて、
前記監視センタは、地震情報のうち、地震の強さの情報に基づいて各地域における建物の揺れの程度を予測する予測手段を有し、
前記予測手段による予測値が所定値以上の場合、前記監視センタが地震待機指令を前記通信装置に向けて発信する、
ことを特徴とする災害発生時における工事現場通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−242886(P2008−242886A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83474(P2007−83474)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】