災害被害想定装置、災害被害想定方法および災害被害想定プログラム
【課題】災害発生後の被害想定を迅速かつ高精度に行なうこと。
【解決手段】災害直後被害想定部15aは、直後災害情報と、地震災害履歴情報とに基づいて、対象地域全域における地震動強度分布を推定し、推定された地震動強度分布と、対象地域全域において確定された停電情報と、被害率関数と、設定ネットワーク構造とに基づいて、地震災害が発生した直後の支持物の被害発生率の想定を行なう。そして、被害想定更新部15bは、地震災害が発生した後に、更新された更新地震災害情報と、巡視終了地域において確定された支持物の被害情報とに基づいて、被害率関数を更新することで、未巡視地域において、設定ネットワーク構造における支持物における被害発生率の想定を、更新して行なう。そして、地震被害想定マップ作成部15cは、災害直後被害想定部15aや被害想定更新部15bによって想定された地震被害想定マップを作成し、モニタにて表示する。
【解決手段】災害直後被害想定部15aは、直後災害情報と、地震災害履歴情報とに基づいて、対象地域全域における地震動強度分布を推定し、推定された地震動強度分布と、対象地域全域において確定された停電情報と、被害率関数と、設定ネットワーク構造とに基づいて、地震災害が発生した直後の支持物の被害発生率の想定を行なう。そして、被害想定更新部15bは、地震災害が発生した後に、更新された更新地震災害情報と、巡視終了地域において確定された支持物の被害情報とに基づいて、被害率関数を更新することで、未巡視地域において、設定ネットワーク構造における支持物における被害発生率の想定を、更新して行なう。そして、地震被害想定マップ作成部15cは、災害直後被害想定部15aや被害想定更新部15bによって想定された地震被害想定マップを作成し、モニタにて表示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、災害被害想定装置、災害被害想定方法および災害被害想定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地震などの広域的災害によって発生する停電、建物被害、道路被害、火災といった甚大な被害に対応した復旧作業を効率よく行なうために、災害発生後の被害想定を高精度に行なうことが要求されている。特に、電力の安定供給は、産業あるいは生活の基盤であることから、効率のよい復旧作業を支援するために、電力流通設備における高精度な被害想定を実現することが要求されている。
【0003】
このようなことから、例えば、非特許文献1、非特許文献2および特許文献1では、地震による被害を逐次更新的(リアルタイム)に想定するために、地震動の逐次更新情報、衛星写真(航空写真)情報、およびその両方を画像処理により活用することで、電力流通設備などの構造物の被害想定精度を向上させる技術が開示されている。
【0004】
【非特許文献1】能島暢呂,松岡昌志,杉戸真太,江崎賢一:地震動情報と人工衛星SAR画像情報の統合処理による建物全壊率の定量的推定手法の開発、土木学会論文集A, Vol.62 No.4 pp.808-821, 2006年10月
【非特許文献2】国土交通省総合技術開発プロジェクト,災害情報を活用した迅速な防災・減災対策に関する技術開発及び推進方策の検討,総合報告書,国土交通省,平成18年12月
【特許文献1】特開2003−287573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した従来の技術は、地震動だけの情報を用いて被害想定を行なう場合には、広範囲に分布する設備の被害想定における想定精度に限界があるので、これを補完するために、衛星写真(航空写真)の情報を用いるものである。しかし、衛星写真の情報を用いて被害想定を行なう場合には、災害発生後の高精度な被害想定を迅速に行なえないという問題点があった。
【0006】
すなわち、現状では、災害直後に被災地域の衛星写真を入手することは困難であることから、災害発生数時間が経過した時点でしか、衛星写真情報と地震動情報とを用いた高精度な被害想定を行なうことはできない。従って、現状では、災害直後に衛星写真情報と地震動情報とを用いた被害想定を行ない、これに基づいて、復旧作業における初動指示や巡視指示を行なうことができなかった。
【0007】
なお、ここでは、地震災害発生時において、災害発生後の高精度な被害想定を迅速に行なえないという問題点があったことを述べたが、地震に限らず、例えば、台風による災害発生時においても、同様の問題点があった。
【0008】
そこで、この発明は、上述した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、災害発生後において即時に入手可能な情報を用いることにより、災害発生後の被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる災害被害想定装置、災害被害想定方法および災害被害想定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1に係る発明は、所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する災害被害想定装置であって、前記所定の地域において、過去に発生した前記災害の履歴情報である災害履歴情報を、当該所定の地域内に予め設定したメッシュごとに記憶する災害履歴情報記憶手段と、前記所定の地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、前記災害の情報である災害情報に基づいて、前記メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を記憶する被害率関数記憶手段と、前記災害の発生を親ノードなしのノードとし、前記災害によって発生する前記支持物の被害と前記所定の構造物の被害とを含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を記憶する設定ネットワーク構造記憶手段と、前記災害が発生した直後に取得した災害情報である直後災害情報と、前記災害情報記憶手段が記憶する前記メッシュごとの前記災害履歴情報とに基づいて、前記所定の地域全域における災害情報を推定し、推定された前記所定の地域全域における災害情報と、前記直後災害情報とともに取得した前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害直後確定被害情報と、前記被害率関数記憶手段が記憶する前記被害率関数と、前記設定ネットワーク構造記憶手段が記憶する前記設定ネットワーク構造とに基づいて、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、前記災害が発生した直後の前記所定の構造物における被害発生率の想定を行なう災害直後被害想定手段と、前記災害が発生した後に更新された災害情報である更新災害情報と、前記災害が発生した後に前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報とに基づいて、前記被害率関数記憶手段が記憶する前記被害率関数を更新することで、前記所定の地域の一部以外において、前記設定ネットワーク構造記憶手段が記憶する前記設定ネットワーク構造における前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なう被害想定更新手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、上記の発明において、前記被害想定更新手段は、前記災害が発生した後に前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害後確定被害情報が取得された場合は、前記設定ネットワーク構造記憶手段が記憶する前記設定ネットワーク構造に当該災害後確定被害情報に対応する被害事象を追加するとともに、前記所定の地域の一部以外において、追加された設定ネットワーク構造に基づいた前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なうことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、上記の発明において、前記災害直後被害想定手段によって想定された前記所定の構造物の被害発生率想定結果を前記所定の地域の地図とともに表示した被害想定地図を作成して所定の表示部に表示する被害想定地図作成表示手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に係る発明は、上記の発明において、前記被害想定地図作成表示手段は、前記被害想定更新手段によって想定された前記所定の地域の一部以外における前記所定の構造物の被害発生率想定更新結果を、前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報と前記災害後確定被害情報とともに、表示した前記被害想定地図を作成して前記所定の表示部に表示する被害想定地図作成表示手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に係る発明は、上記の発明において、前記災害は、地震災害であり、前記災害情報は、地震動強度分布からなる地震動情報であり、前記災害直後確定被害情報は、停電情報であり、前記所定の構造物は、前記支持物であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に係る発明は、上記の発明において、前記災害は、地震災害であり、前記災害情報は、地震動強度分布からなる地震動情報であり、前記災害直後確定被害情報は、停電情報であり、前記所定の構造物は、前記支持物に隣接する建物であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項7に係る発明は、上記の発明において、前記災害は、台風災害であり、前記災害情報は、風速情報などからなる気象情報であり、前記災害直後確定被害情報は、停電情報であり、前記所定の構造物は、前記支持物もしくは前記支持物に隣接する建物であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項8に係る発明は、所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する災害被害想定方法であって、前記所定の地域において、過去に発生した前記災害の履歴情報である災害履歴情報を、当該所定の地域内に予め設定したメッシュごとに第一の記憶部に記憶する災害履歴情報記憶ステップと、前記所定の地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、前記災害の情報である災害情報に基づいて、前記メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を第二の記憶部に記憶する被害率関数記憶ステップと、前記災害の発生を親ノードなしのノードとし、前記災害によって発生する前記支持物の被害と前記所定の構造物の被害とを含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を第三の記憶部に記憶する設定ネットワーク構造記憶ステップと、前記災害が発生した直後に取得した災害情報である直後災害情報と、前記第一の記憶部が記憶する前記メッシュごとの前記災害履歴情報とに基づいて、前記所定の地域全域における災害情報を推定し、推定された前記所定の地域全域における災害情報と、前記直後災害情報とともに取得した前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害直後確定被害情報と、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数と、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造とに基づいて、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、前記災害が発生した直後の前記所定の構造物における被害発生率の想定を行なう災害直後被害想定ステップと、前記災害が発生した後に更新された災害情報である更新災害情報と、前記災害が発生した後に前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報とに基づいて、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数を更新することで、前記所定の地域の一部以外において、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造における前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なう被害想定更新ステップと、を含んだことを特徴とする。
【0017】
また、請求項9に係る発明は、所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する災害被害想定方法をコンピュータに実行させる災害被害想定プログラムであって、前記所定の地域において、過去に発生した前記災害の履歴情報である災害履歴情報を、当該所定の地域内に予め設定したメッシュごとに第一の記憶部に記憶する災害履歴情報記憶手順と、前記所定の地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、前記災害の情報である災害情報に基づいて、前記メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を第二の記憶部に記憶する被害率関数記憶手順と、前記災害の発生を親ノードなしのノードとし、前記災害によって発生する前記支持物の被害と前記所定の構造物の被害とを含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を第三の記憶部に記憶する設定ネットワーク構造記憶手順と、前記災害が発生した直後に取得した災害情報である直後災害情報と、前記第一の記憶部が記憶する前記メッシュごとの前記災害履歴情報とに基づいて、前記所定の地域全域における災害情報を推定し、推定された前記所定の地域全域における災害情報と、前記直後災害情報とともに取得した前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害直後確定被害情報と、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数と、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造とに基づいて、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、前記災害が発生した直後の前記所定の構造物における被害発生率の想定を行なう災害直後被害想定手順と、前記災害が発生した後に更新された災害情報である更新災害情報と、前記災害が発生した後に前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報とに基づいて、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数を更新することで、前記所定の地域の一部以外において、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造における前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なう被害想定更新手順と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1、8、または9の発明によれば、災害発生直後において即時に入手可能な情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた被害想定対象の構造物における被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、当該構造物における被害発生率を更新して想定することができるので、災害発生後の被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。
【0019】
また、請求項2の発明によれば、例えば、災害発生後にネットワークを介して取得した地域全域の道路や建物などの構造物の被害情報をベイジアンネットワークに組み込むことで、被害想定対象の構造物における被害発生率をベイズ推定により想定することができるので、災害発生後の被害想定をより高精度に行なうことが可能になる。
【0020】
また、請求項3の発明によれば、災害発生直後における復旧作業の初動時において、迅速かつ高精度な被害想定に基づいて、復旧作業に関わる人員を配置するに適切な地域を特定することができる。
【0021】
また、請求項4の発明によれば、災害発生後に更新されたより高精度な被害想定に基づいて、復旧作業に関わる人員を適切な地域に分散して配置することができる。
【0022】
また、請求項5の発明によれば、地震災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物における被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新して想定することができるので、地震災害発生後の支持物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。
【0023】
また、請求項6の発明によれば、地震災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物に被害をもたらす可能性のある建物の被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、地震災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新し、さらに更新された支持物の被害発生率に基づいて建物被害を更新して想定することができるので、地震災害発生後の建物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。
【0024】
また、請求項7の発明によれば、台風災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物における被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新して想定することができるので、台風災害発生後の支持物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。あるいは、台風災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物に被害をもたらす可能性のある建物の被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、台風災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新し、さらに更新された支持物の被害発生率に基づいて建物被害を更新して想定することができるので、台風災害発生後の建物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る災害被害想定装置、災害被害想定方法および災害被害想定プログラムの好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、地震災害の発生時において、被害想定を行なう、地震災害被害想定装置について説明する。
【実施例】
【0026】
本実施例における地震災害被害想定装置は、被害想定の対象地域において発生した地震災害による支持物の被害を想定することを概要とし、地震災害発生後の被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になることに主たる特徴がある。以下、地震災害被害想定装置の構成を説明するための図である図1などを用いて、この主たる特徴について説明する。
【0027】
図1に示すように、本実施例における地震災害想定装置10は、入力部11と、出力部12と、入出力制御I/F部13と、記憶部14と、処理部15とから構成される。
【0028】
入力部11は、各種の情報を入力し、特に本発明に密接に関連するものとしては、地震動強度分布からなる「地震動情報」や、災害直後確定被害情報としての「停電情報」や、地震発生後に更新される「地震動情報」や、巡視に基づく支持物被害情報などを、例えば、インターネットやイントラネットなどのネットワークを介して受け付けて入力し、また、後述する記憶部14に記憶される種々の情報も、地震災害想定装置10の管理者から受け付けて入力する。
【0029】
出力部12は、各種の情報を出力し、モニタやスピーカを備えて構成され、特に本発明に密接に関連するものとしては、後述する地震被害想定マップ作成部15cが作成する地震被害想定マップを、巡視によって確定された支持物被害情報や、対象地域全域において確定された建物被害などの災害後確定被害情報とともに、モニタの画面に表示したりする。
【0030】
入出力制御I/F部13は、入力部11および出力部12と、記憶部14および処理部15との間におけるデータ転送を制御する。
【0031】
記憶部14は、処理部15による各種処理に用いるデータと、処理部15による各種処理結果を記憶し、特に本発明に密接に関連するものとしては、図1に示すように、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aと、被害率関数記憶部14bと、設定ネットワーク構造記憶部14cとを備える。
【0032】
対象地域マップ・地震履歴記憶部14aは、図2に示すように、被害想定の対象地域のマップと、当該対象地域において、過去に発生した地震災害の履歴情報である地震災害履歴情報を、対象地域内に予め設定したメッシュごとに記憶する。ここで、図2は、対象地域マップ・地震履歴記憶部を説明するための図である。
【0033】
例えば、図2の(A)に示すように、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aは、被害想定の対象地域のマップ(図中の点線で囲まれた領域参照)とともに、対象地域内に予め設定した、例えば「500m×500m」の区画に分けられたメッシュの位置を記憶する。ここで、図には示さないが、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aは、対象地域における支持物の配置情報や、建物の配置情報や、道路、水道管、ガス管といったライフラインの配置情報なども記憶している。なお、本実施例において支持物とは、具体的には、電力を供給するための架渉線、共架線、各種配電機器を接続する配電柱のことを示す。
【0034】
また、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aは、図2の(B)や(C)に示すように、過去に発生した地震災害における地震動強度分布を、メッシュごとに記憶する。ここで、図2の(B)や(C)においては、メッシュ上の濃淡が地震動強度の大小を表している。なお、地震動強度としては、例えば、地震の揺れの強さを表すのに用いる加速度の単位であるガル(Gal)が用いられる。なお、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aは、過去に発生した地震災害ごとの震源位置も記憶してもよい。
【0035】
図1に戻って、被害率関数記憶部14bは、対象地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、地震災害情報に基づいて、メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を記憶する。以下、図3〜図5を用いて、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数について説明する。図3は、被害率関数を説明するための図であり、図4は、被害率関数における地域係数を説明するための図であり、図5および図6は、被害率関数における性能値を説明するための図である。
【0036】
ここで、過去の地震災害発生における経験的確率分布によれば、同じ地震動強度であったとしても、実際に被害の発生した支持物の性能値(z)は広く分布しており、支持物の被害発生の有無は、性能値(z)のみで判定できるものではなく、支持物が設置される地盤条件、飛来物や樹木・建物倒壊など周辺施設被害による影響も考慮する必要がある。このようなことから、地震動による支持物の折損や傾斜といった被害が発生する被害確率(p)と、支持物の「破壊基準曲げモーメント/最大発生曲げモーメント」で定義される性能値(z)との関係は、不確実な要因も確率的に考慮できるように、図3の(A)に示す曲線で記述することができる被害率関数(p(z))でモデル化することが望ましい。
【0037】
そこで、本発明においては、地盤条件を考慮した被害確率(pi(z))を図3の(B)に示す数式で定義する。図3の(B)において、「pi(z)」は、地盤条件を反映した地域特性「i」に設置され、性能値「z」である支持物の被害確率であり、「Fi(z)」は、性能値「z」をパラメータとする基準ハザード関数であり、「ri」は、地域特性「i」の地域係数である。ここで、「Fi(z)」は、図3の(C)に示すように、確率分布関数を、性能値「z」によって積分することで得られる分布関数である。
【0038】
また、地域係数(ri)は、普通土質や軟弱土質といった地盤条件に、都市部や山間部などといった地域の特性を加えることで、力学的なモデルでは説明できない被害の有無のばらつきを考慮して既往の被害事例から経験的に設定するものであり、例えば、図4に示すように、液状化の可能性ありなしの地盤条件ごとに、地震動強度の範囲に応じて、支持物折損の被害モードおよび支持物傾斜の被害モードそれぞれに対して、経験値に基づいて設定される。
【0039】
すなわち、図4に示すように、液状化可能性指数(PL)が「15」より大きく、液状化が発生する可能性大の地域において、地震動強度(200〜249gal)の地震が発生した場合は、支持物折損の被害モードにおいては、「r13」と設定され、支持物傾斜の被害モードにおいては、「r14」と設定される。また、液状化可能性指数(PL)が「5」より大きく「15」以下である、液状化が発生する可能性が中程度の地域において、地震動強度(200〜249gal)の地震が発生した場合は、支持物折損の被害モードにおいては、「r23」と設定され、支持物傾斜の被害モードにおいては、「r24」と設定される。また、液状化が発生する可能性がない非液状化の地域において、地震動強度(200〜249gal)の地震が発生した場合は、支持物折損の被害モードにおいては、「r33」と設定され、支持物傾斜の被害モードにおいては、「r34」と設定される。なお、上記の「r13」は、例えば、「0.00008」といった数値で表される。また、図4では、地震動強度を4つの範囲に分類し、4つに分類された地震動強度の範囲ごとに3つに分類された液状化が発生する可能性の程度に応じた地域係数を設定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、地震動強度の範囲や、液状化が発生する可能性の程度は、任意の範囲および任意の程度に分類されてよく、地域係数は、これら任意に設定された分類に応じて、設定されるものである。
【0040】
また、性能値(z)は、図5の(A)に示すように、地動最大加速度から「静的な水平地震力(支持物の頂部集中加重に換算した荷重(kgf)」として求めた配電柱(支持物)単体の破壊に対する安全率である「Z0」に「k1〜k4」からなる係数を掛け合わせたものである。ここで、図5の(B)に示すように、「k1」は、架渉線、共架線、各種機器の影響を考慮する係数であり、これら架渉線、共架線、各種機器の質量および地際からの高さにより算出されるものである(図5の(B)に示す数式参照)。また、図5の(B)に示すように、「k2」は、配電柱の固有周期の最大加速度に対する応答倍率であり、「k3」は、連成効果に対する補正係数であり、「k4」は、隣接柱の影響を考慮する補正係数である。
【0041】
また、支持物の安全率である「Z0」は、例えば、「電気技術基準調査委員会,配電規定(低圧及び高圧)JEAC 7001-1992,社団法人 日本電気協会」に基づいて算出される。すなわち、支持物の安全率である「Z0」は、図6の(A)に示すように、支持物に根かせがない場合と、支持物に根かせがある場合とで、それぞれの数式に従って算出される。図6の(A)に示す数式において、「D0」は、支持物の地際の直径(単位:m)であり、「t」は、支持物の根入れ深さ(単位:m)であり、「H」は、集中加重点の地表上の高さ(単位:m)であり、「P」は、支持物の頂部集中加重に換算した荷重(単位:kgf)である。
【0042】
ここで、「t0」は、支持物に根かせがない場合の、地表面から支持物の回転中心までの深さであり、図6の(B)に示す数式で算出される。また、「t0’」は、支持物に根かせがある場合の、地表面から支持物の回転中心までの深さであり、地表面から根かせ中心までの深さ(単位:m)を「tc」とした場合、図6の(C)に示す数式で算出される。なお、図6の(C)に示す数式で用いられる、「n」は、根かせ面積(A)と支持物基礎部の面積(A1)から求められる比であり、根かせ面積(A)と支持物基礎部の面積(A1)とを算出する数式も、図6の(C)に併せて示している。また、図6の(A)に示す数式において用いられる「Q」および「J」は、図6の(D)に示す数式で算出される。
【0043】
さらに、図6の(A)に示す数式において、「K」は、力学実験から定められた地盤条件を表す定数であり、土質係数であり、普通土質[A]の場合は、4.0×106(kgf/m4)、普通土質[B]の場合は、3.0×106(kgf/m4)、軟弱土質[C]の場合は、2.0×106(kgf/m4)、軟弱土質[D]の場合は、0.8×106(kgf/m4)と与えられる。また、図6の(A)に示す数式において、「P」は、図6の(E)に示す数式で算出される。なお、図6の(E)に示す数式において、「E」は、地動最大加速度であり、「H」は、支持物の地上高(単位:m)であり、「W1」は、変圧器の重量(単位:kg)であり、「W2」は、支持物地上部の重量(単位:kg)であり、「w」は、架渉線の重量(単位:kg/m)であり、「l1」は、変圧器取り付け部の地上高(単位:m)であり、「l2」は、支持物地上部の重心地上高(単位:m)であり、「h」は、架渉線の地上高(単位:m)であり、「s」は、両側の径間の和を2で割ったもの(単位:m)である。
【0044】
このように、図3〜6を用いて説明した数式に基づいて、地盤条件を反映した地域特性「i」に設置され、性能値「z」である支持物の被害確率「pi(z)」が定義され、図1に示す被害率関数記憶部14bは、「pi(z)」を記憶する。
【0045】
図1に戻って、設定ネットワーク構造記憶部14cは、地震災害(地震動)の発生を親ノードなしのノードとし、地震災害によって発生する支持物の被害を含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を記憶する。例えば、設定ネットワーク構造記憶部14cは、図7の(A)に示すような、設定ネットワーク構造を記憶する。ここで、図7は、設定ネットワーク構造記憶部を説明するための図である。
【0046】
設定ネットワーク構造記憶部14cは、図7の(A)に示すように、液状化などの地盤条件を考慮した上での「地震動」の発生を親ノードとし、地震動によって発生する「支持物被害」と、「支持物被害」によって生起される「停電」との因果関係をネットワークとして記憶する。その際、「地震動」による「支持物被害」の因果関係における条件付確率関数を「L2」として、「支持物被害」による「停電」の因果関係における条件付確率関数を「L3」として記憶する。そして、「支持物被害」を、対象地域に設定されたメッシュごとに想定すると記憶する。
【0047】
また、設定ネットワーク構造記憶部14cは、図7の(B)に示すように、図7の(A)に示す設定ネットワーク構造に加えて、「建物被害」による「支持物被害」の因果関係における条件付確率関数を「L1」とする設定ネットワーク構造も記憶する。ここで、図7の(B)に示す設定ネットワーク構造は、入力部11から対象地域全域における建物被害の情報が災害後確定被害情報として入力された場合に、後述する被害想定更新部15bによる処理に用いられる。
【0048】
また、設定ネットワーク構造記憶部14cは、図7の(C)に示すように、図7の(B)に示す設定ネットワーク構造に加えて、「道路被害」による「支持物被害」の因果関係における条件付確率関数を「L4」とし、「火災」による「支持物被害」の因果関係における条件付確率関数を「L5」とし、「その他インフラ被害」による「支持物被害」の因果関係における条件付確率関数を「L6」とする設定ネットワーク構造も記憶する。ここで、図7の(C)に示す設定ネットワーク構造は、入力部11から対象地域全域における建物被害、道路被害、火災、その他インフラ被害の情報が災害後確定被害情報として入力された場合に、後述する被害想定更新部15bによる処理に用いられる。
【0049】
なお、図には示さないが、建物被害、道路被害、火災、その他インフラ被害などの情報は、それぞれ災害後確定被害情報として入力された場合に、順次、「被害事象」として図7の(A)に示す設定ネットワーク構造に追加されるものであり、設定ネットワーク構造記憶部14cは、すべてのパターンの設定ネットワーク構造を記憶するものである。
【0050】
処理部15は、記憶部14が記憶するデータに基づいて各種処理を実行し、特に本発明に密接に関連するものとしては、図1に示すように、災害直後被害想定部15aと、被害想定更新部15bと、地震被害想定マップ作成部15cとを備える。
【0051】
災害直後被害想定部15aは、地震災害が発生した直後に取得した直後災害情報(地震動強度分布)と、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aが記憶するメッシュごとの地震災害履歴情報(地震動強度分布)とに基づいて、対象地域全域における地震動強度分布を推定する。例えば、災害直後被害想定部15aは、気象庁情報として直後災害情報が入力部11から入力された場合、図2の(B)や(C)などの対象地域マップ・地震履歴記憶部14aが記憶する地震災害履歴情報を参照して、距離減衰式を用いて、対象地域全域における地震動強度分布をメッシュごとに推定する。あるいは、災害直後被害想定部15aは、気象庁情報として直後災害情報が入力部11から入力された場合、図2の(B)や(C)などの対象地域マップ・地震履歴記憶部14aが記憶する地震災害履歴情報を参照して、直後災害情報と近似しているデータに基づいて、地震動強度分布をメッシュごとに推定する。
【0052】
このようにして、災害直後被害想定部15aは、図8の(A)に示すように、対象地域全域における地震動強度分布をメッシュごとに推定する。ここで、図8は、災害直後被害想定部を説明するための図である。
【0053】
そして、災害直後被害想定部15aは、推定された対象地域全域における地震動強度分布と、直後災害情報とともに取得した対象地域全域において確定された停電情報と、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数と、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する設定ネットワーク構造とに基づいて、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、地震災害が発生した直後の支持物の被害発生率の想定を行なう。
【0054】
例えば、災害直後被害想定部15aは、図8の(B)に示すように、対象地域全域において確定された停電確定情報が、入力部11を介して入力されると、この情報から、支持物被害をベイジアンネットワークにおける確率伝播法により逆推定を行って、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、支持物被害発生率の想定を行なう。
【0055】
地震動が発生した場合、図7の(A)に示す設定ネットワークにおける条件付確率表は、図9に示すものとなる。ここで、図9は、災害直後被害想定部において用いられる条件付確率表を説明するための図である。なお、図9においては、「地震動」における確率変数を「X1」、「支持物被害」における確率変数を「X2」、「停電」における確率変数を「X3」、事象が発生することを「T」、事象が発生しない非発生を「F」として表記する。
【0056】
図9に示すように、地震動が発生した場合、地震発生の確率「P(X1)=T」は「1」となり、「P(X1)=F」は「0」となる。その上で、図8の(A)に示すように、メッシュごとに推定された対象地域全域における地震動強度分布を入力とし、災害直後被害想定部15aは、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数を用いて、メッシュごとの地域特性に基づいた支持物被害確率「A」を算出する。そうすると、地震動が発生した場合、支持物被害が発生する確率「P(X2)=T」は「A」となり、支持物被害が発生しない確率「P(X2)=F」は「1−A」となる。なお、地震動が発生しない場合、支持物被害が発生する確率「P(X2)=T」は「0」となり、支持物被害が発生しない確率「P(X2)=F」は「1」となる。また、「支持物被害」が発生した場合(X2=T)、停電が発生しない確率(P(X3=F))は、「0」であり、停電が発生する確率(P(X3=T))は、「1」となる。そして、対象とするメッシュにおけるフィーダに属する総支持物数を「C」とすると、「支持物被害」が発生しない場合(X2=F)、停電が発生しない確率(P(X3=F))は、「(1−A)の(C−1)乗」となり、停電が発生する確率(P(X3=T))は、「1から(1−A)の(C−1)乗を差し引いた値」となる。
【0057】
そして、図8の(B)に示すように、対象地域全域において確定された停電確定情報が、入力部11を介して入力されると、メッシュごとの停電の発生状況(TまたはF)が確定され、この情報に基づいて、災害直後被害想定部15aは、条件付確率関数「L3」を用いた逆推定により、具体的には、確率伝搬法により、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、支持物被害発生率の想定を行なう。
【0058】
ここで、以下では、災害直後被害想定部15aが行なうベイジアンネットワークによる推定方法を、図10および図11を用いて説明する。図10および図11は、災害直後被害想定部において用いられるベイジアンネットワークによる推定方法を説明するための図である。
【0059】
ベイジアンネットワークにより問題をモデル化することで、不確実性を含む対象(本実施例では、支持物被害の状況)を計算機上に確率変数の集合と、その間の条件付確率として表現し、その上で計算操作が可能となる。この時、説明変数、目的変数の区別なく、任意の変数がとりうる各状態がどのくらいの確率であるかという確率分布を評価できるのがベイジアンネットワークの特徴である。ここで、ベイジアンネットワークの同時確率分布は、図10の(A)に示す数式で表現することができる。
【0060】
続いて、確率推論の基礎について説明する。確率推論においては、各ノードに割りあてられた条件付確率分布群によってモデルを定義する。すなわち、条件付確率表を定義する(例えば、図9を参照)。条件付確率表を一般的に記述すると、親ノードがある状態pa(Xi)=y(yは親ノード群の各種で構成したj通りのベクトルパターン)のもとでのk通りの離散状態(1、・・・、k)をもつ変数Xiの条件付き確率分布は、図10の(B)に示すように表記される。ただし、これらの和は、「1」となる。計算上は、イベントごとに、条件付確率表を書き換えて、因果基本テーブルとする。
【0061】
そして、ベイジアンネットワークによる確率的推論方法は、親ノードも観測値ももたないノードに事前確率分布を与え(地震動を入力とする既存推定モデルにより与え)、観測された変数の値「e」をノードにセットし、推定対象の変数「X」の事後確率分布P(X/e)を得るものである(本実施例では、図9に示す変数「X2」が推定対象となる)。すなわち、変数「Xe」の状態として「e」という値が観測されると、変数「Xe」については、図10の(C)の第一列に示すように、与えられる。これは、図9に示す、地震発生の確率「P(X1)=T」は「1」となり、「P(X1)=F」は「0」となることに対応する。この「Xe」を固定しておき、他の変数についての各状態それぞれについての確率値を求める。
【0062】
ここで、図10の(C)に示すように、変数「X1〜X3」の3つの事象の因果関係からなるモデルを例に考えると、P(X2=1)(例えば、支持物被害が発生する条件付確率)は、同じく図10の(C)に示すように、列挙法による周辺化関数を用いて表すことができる。なお、図10の(C)には、これを一般化した周辺化関数も併せて示している。
【0063】
そして、図11の(A)に示す数式が、図10の(C)に示すP(X2=1)を近似的に求めるために、観測された情報からの確率伝搬(変数間の局所計算)によって各変数の確率分布を更新していく確率伝搬法の定式である。なお、図11の(A)に示す「λ」および「π」は、図10の(C)に示すモデルにおいて示した事象間の条件付確率関数である。また、図11の(A)に示す数式における「α」、「P(X2|e)」、「P(X2|e+)」、「P(e―|X2)」は、それぞれ、図11の(B)〜(E)により定義されるものである。
【0064】
このようにして、災害直後被害想定部15aは、図8の(B)に示す対象地域全域において確定された停電確定情報から、支持物被害を、図11の(A)に示すようなベイジアンネットワークにおける確率伝播法により逆推定を行って、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、支持物被害発生率の想定を行なう。
【0065】
図1に戻ると、地震被害想定マップ作成部15cは、災害直後被害想定部15aが想定した支持物の被害発生率想定結果を、例えば、図8の(C)に示すように、メッシュごとに、被害発生率の大きさに応じた濃淡で表したものを、対象地域の地図とともに表示した地震被害想定マップを作成し、さらに、出力部12のモニタにて表示する。ここで、地震被害想定マップとともに、別途、レイヤ形式で、道路マップや、水道管やガス管などのライフライン情報を、モニタにて重ねて表示してもよい。
【0066】
被害想定更新部15bは、地震災害が発生した後に、例えば、独立行政法人防災科学技術研究所が運営する強震ネットワーク(K−net)から更新された更新地震災害情報と、地震災害が発生した後に、派遣された復旧作業者による巡視により対象地域の一部(巡視終了地域)において確定された支持物の被害情報とに基づいて、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数を更新することで、巡視終了地域以外の未巡視地域において、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する設定ネットワーク構造における支持物における被害発生率の想定を、メッシュごとに、更新して行なう。以下、被害想定更新部15bについて、図12および13を用いて説明する。図12および13は、被害想定更新部を説明するための図である。
【0067】
例えば、被害想定更新部15bは、図12の(A)に示すように、派遣された復旧作業者による巡視により巡視終了地域において確定された支持物の被害情報(巡視情報)が取得され、この情報が、入力部11を介して入力されたとする。ここで、図12の(A)において、丸印は、実際に折損などが確認された被害支持物の場所であるとする。また、図には示さないが、災害直後被害想定部15aが、入力部11を介して入力された更新地震災害情報に基づいて、図8の(A)に示す対象地域全域における地震動強度分布を更新して推定したものとする。この状況において、被害想定更新部15bは、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数を更新することで、未巡視地域において、支持物の被害発生率の想定を、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、更新して行なう。
【0068】
本実施例では、支持物などの施設被害をベルニーイ試行列によりモデル化しており、以下の3つの前提条件が設定される。1つ目は、設備の被害で可能な結果は、「被害あり」もしくは、「被害なし」の2種類であることであり、2つ目は、対象とする被害が発生する確率は、同じ属性(性能値)をもつ設備は、各設備を通じて一定であるとするものであり、3つ目は、同じ属性をもつ個々の設備被害は,確率統計的に独立であるとするものである。ここで、上記した3つの前提条件に基づいた被害想定更新部15bによる被害率関数の更新方法を、図13を用いて説明する。
【0069】
図13の(A)および(B)は、図13の(C)、(D)および(E)で用いられる変数の名称を説明するものである。
【0070】
地震直後に得られる地震動強度情報と、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数(図3の(B)参照)に基づいて被害確率「pi(z)」の即時推定が行われ、被害確率の推定値のばらつきの指標となる平均値および標準偏差(図13の(B)に示すμおよびσを参照)が与えられると仮定する。このとき、被害確率「pi(z)」の共役事前分布としてベータ分布を仮定する。この時、ベイズの更新過程を用いると,支持物被害個所の確定情報を反映させた後の被害確率の平均値および標準偏差(図13の(B)に示すμ’およびσ’を参照)は、それぞれ、図13の(C)および(D)で示す数式で表される。
ただし、巡視を行い、被害の有無を確定した地域特性iを持つ性能値zの総設備数と、巡視した範囲内での被害設備数とは、図13の(E)で示す数式で表される。
【0071】
なお、図13の(C)で示す式により、計算された地域特性「i」で性能値「z」の事後被害確率の平均値を更新された被害確率として未巡視地域に適用するものとする。また、即時推定による被害確率の事前分布は、「Mi0(z)’あたりのni0(z)’ 箇所の被害が確認された」という情報を得たことと等価であると解釈される。また、図13の(C)で示す式は、2項分布の標本平均と事前分布であるベータ分布との平均(事前平均)の加重平均であることを意味している。
【0072】
図1に戻ると、地震被害想定マップ作成部15cは、被害想定更新部15bによって想定された未巡視地域における支持物の被害発生率想定更新結果を、例えば、図12の(B)に示すように、巡視終了地域において確定された支持物の被害情報とともに表示した地震被害想定マップを作成し、さらに、出力部12のモニタにて表示する。ここで、地震被害想定マップとともに、別途、レイヤ形式で、道路マップや、水道管やガス管などのライフライン情報を、モニタにて重ねて表示してもよい。
【0073】
さらに、被害想定更新部15bは、地震災害が発生した後に対象地域全域において確定された被害情報である災害後確定被害情報(例えば、建物被害)が取得された場合は、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する図7の(A)に示す設定ネットワーク構造に「建物被害」が追加された図7の(B)に示す設定ネットワーク構造に基づいた支持物における被害発生率の想定を、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、更新して行なう。すなわち、図12の(C)において四角印で表される対象地域全域において確定された建物被害が、入力部11を介して入力されると、被害想定更新部15bは、この情報に基づいて、図7の(B)に示す条件付確率関数「L1」を用いた逆推定により、支持物における被害発生率の想定を、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、更新して行なう。そして、図1に戻ると、地震被害想定マップ作成部15cは、被害想定更新部15bによって想定された未巡視地域における支持物の被害発生率想定更新結果を、例えば、図12の(C)に示すような地震被害想定マップを作成し、さらに、出力部12のモニタにて表示する。
【0074】
次に、図14を用いて、本実施例における地震災害被害想定装置10の処理について説明する。図14は、本実施例における地震災害被害想定装置の処理を説明するための図である。
【0075】
図14に示すように、本実施例における地震災害被害想定装置10は、入力部11を介して、地震発生直後における地震動情報、停電情報が入力されると(ステップS1401肯定)、災害直後被害想定部15aは、対象地域全域における地震動強度分布を推定するとともに、メッシュごとに(あるいは、メッシュ内の支持物ごとに)、地震災害が発生した直後の支持物被害想定を行なう(ステップS1402)。なお、この際、地震被害想定マップ作成部15cは、災害直後被害想定部15aが想定した支持物の被害発生率想定結果を、例えば、図8の(C)に示すような地震被害想定マップを作成し、さらに、出力部12のモニタにて所定の表示部に表示する。
【0076】
そして、被害想定更新部15bは、入力部11を介して、地震発生後における巡視情報(巡視終了地域における被害支持物情報)、地震動情報、または停電情報が更新されて入力されると(ステップS1403肯定)、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数を更新することで、巡視終了地域以外の未巡視地域において、支持物被害想定を、メッシュごとに(あるいは、メッシュ内の支持物ごとに)、更新して行なう(ステップS1404、地震災害後逐次更新推定)。なお、ここで、被害想定更新部15bは、地震災害が発生した後に対象地域全域において確定された被害情報である災害後確定被害情報(例えば、建物被害)が取得された場合も、地震災害後逐次更新推定によって、支持物被害想定を、メッシュごとに(あるいは、メッシュ内の支持物ごとに)、更新して行なう。また、この際、地震被害想定マップ作成部15cは、被害想定更新部15bによって想定された未巡視地域における支持物の被害発生率想定更新結果を、例えば、図12の(B)に示すように、巡視終了地域において確定された支持物の被害情報とともに表示した地震被害想定マップを作成し、さらに、出力部12のモニタにて所定の表示部に表示する。
【0077】
ここで、被害想定更新部15bは、すべての対象地域の被害が確定されない場合(ステップS1405否定)、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する設定ネットワーク構造のおける条件付確率関数(例えば、図7の(A)に示すL2など)を更新し(ステップS1406)、ステップS1403に戻って、更新情報が入力されるまで処理を待機する。
【0078】
これに反して、被害想定更新部15bは、すべての対象地域の被害が確定された場合(ステップS1405肯定)、支持物の被害率、被害箇所を示す被害状況マップを確定し(ステップS1407)、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する設定ネットワーク構造のおける条件付確率関数(例えば、図7の(A)に示すL2など)を更新し(ステップS1408)、処理を終了する。
【0079】
上述してきたように、本実施例では、災害直後被害想定部15aは、地震災害が発生した直後に取得した直後災害情報と、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aが記憶するメッシュごとの地震災害履歴情報とに基づいて、対象地域全域における地震動強度分布を推定し、推定された対象地域全域における地震動強度分布と、直後災害情報とともに取得した対象地域全域において確定された停電情報と、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数と、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する設定ネットワーク構造とに基づいて、メッシュごとに、地震災害が発生した直後の支持物の被害発生率の想定を行なう。そして、被害想定更新部15bは、地震災害が発生した後に、更新された更新地震災害情報と、地震災害が発生した後に、巡視終了地域において確定された支持物の被害情報とに基づいて、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数を更新することで、巡視終了地域以外の未巡視地域において、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する設定ネットワーク構造における支持物における被害発生率の想定を、メッシュごとに、更新して行なう。また、被害想定更新部15bは、地震災害が発生した後に対象地域全域において確定された被害情報である災害後確定被害情報(例えば、建物被害)が取得された場合は、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する「建物被害」が追加された設定ネットワーク構造に基づいた支持物における被害発生率の想定を、メッシュごとに、更新して行なう。そして、地震被害想定マップ作成部15cは、災害直後被害想定部15aや被害想定更新部15bによって想定された支持物の被害発生率想定結果を、例えば、図12の(B)に示すように、巡視終了地域において確定された支持物の被害情報とともに表示した地震被害想定マップを作成し、さらに、出力部12のモニタにて表示する。
【0080】
このようなことから、地震災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物における被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新して想定することができるので、地震災害発生後の支持物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。また、例えば、地震災害発生後にネットワークと介して取得した地域全域の建物などの被害情報をベイジアンネットワークに組み込むことで、被害想定対象の構造物における被害発生率をベイズ推定により想定することができるので、災害発生後の被害想定をより高精度に行なうことが可能になる。また、地震災害発生直後における復旧作業の初動時において、迅速かつ高精度な被害想定に基づいて、復旧作業に関わる人員を配置するに適切な地域を特定することができる。また、地震災害発生後に更新されたより高精度な被害想定に基づいて、復旧作業に関わる人員を適切な地域に分散して配置することができる。
【0081】
なお、本実施例では、支持物被害をベイジアンネットワークによって想定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、支持物被害の原因となる建物被害を想定する場合であってもよい。例えば、他の実施例を説明するための図である図15に示すような、ベイジアンネットワークを定義して設定した設定ネットワーク構造を用いることが考えられる。例えば、図15の(A)に示すような設定ネットワーク構造において、地震発生後に、停電情報と、巡視地域において確定された支持物被害情報および未巡視地域において想定された支持物被害想定情報とに基づいて、条件付確率関数(L1)を用いた逆推定によって建物被害を想定することができる。また、図15の(A)に示すような設定ネットワーク構造において、地震発生後に、停電情報と、巡視地域において確定された対象地域下全域における支持物被害情報とに基づいて、条件付確率関数(L1)を用いた逆推定によって建物被害を想定することができる。
【0082】
このようなことから、地震災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物に被害をもたらす可能性のある建物の被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、地震災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新し、さらに更新された支持物の被害発生率に基づいて建物被害を更新して想定することができるので、地震災害発生後の建物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。
【0083】
また、図15の(B)に示すように、地震発生前後における電力需要の脱落量である負荷脱落量は、建物被害を原因とする事象として因果関係が定義され、この因果関係が条件付確率(L7)によって表されるとする。負荷脱落量は、停電情報とともに、電力会社において災害発生直後に取得可能な情報であるので、地震発生後に、停電情報と、巡視地域において確定された支持物被害情報と、さらに負荷脱落量とに基づいて、条件付確率関数(L1、L7)を用いた逆推定によって建物被害を想定することができる。
【0084】
また、本実施例では、災害として地震災害が発生した際に、構造物の被害想定を行なう場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、災害として台風災害が発生した際に、構造物の被害想定を行なう場合であってもよい。なお、この場合は、風力と地域係数に基づいた被害率関数を用いることが必要となる。これにより、台風災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物における被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新して想定することができるので、台風災害発生後の支持物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。あるいは、台風災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物に被害をもたらす可能性のある建物の被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、台風災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新し、さらに更新された支持物の被害発生率に基づいて建物被害を更新して想定することができるので、台風災害発生後の建物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。
【0085】
また、本実施例において説明した各処理のうち、自動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を手動的におこなうこともでき、あるいは、手動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的におこなうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0086】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる(例えば、災害直後被害想定部15aと被害想定更新部15bとを統合するなど)。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0087】
なお、本実施例で説明した災害被害想定方法は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明に係る災害被害想定装置、災害被害想定方法および災害被害想定プログラムは、所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する場合に有用であり、特に、災害発生後の被害想定を迅速かつ高精度に行なうことに適する。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本実施例における地震災害想定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】対象地域マップ・地震履歴記憶部を説明するための図である。
【図3】被害率関数を説明するための図である。
【図4】被害率関数における地域係数を説明するための図である。
【図5】被害率関数における性能値を説明するための図である。
【図6】被害率関数における性能値を説明するための図である。
【図7】設定ネットワーク構造記憶部を説明するための図である。
【図8】災害直後被害想定部を説明するための図である。
【図9】災害直後被害想定部において用いられる条件付確率表を説明するための図である。
【図10】災害直後被害想定部において用いられるベイジアンネットワークによる推定方法を説明するための図である。
【図11】災害直後被害想定部において用いられるベイジアンネットワークによる推定方法を説明するための図である。
【図12】被害想定更新部を説明するための図である。
【図13】被害想定更新部を説明するための図である。
【図14】本実施例における地震災害想定装置の処理を説明するための図である。
【図15】他の実施例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0090】
10 地震災害想定装置
11 入力部
12 出力部
13 入出力制御I/F部
14 記憶部
14a 対象地域マップ・地震履歴記憶部
14b 被害率関数記憶部
14c 設定ネットワーク構造記憶部
15 処理部
15a 災害直後被害想定部
15b 被害想定更新部
15c 地震被害想定マップ作成部
【技術分野】
【0001】
この発明は、災害被害想定装置、災害被害想定方法および災害被害想定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地震などの広域的災害によって発生する停電、建物被害、道路被害、火災といった甚大な被害に対応した復旧作業を効率よく行なうために、災害発生後の被害想定を高精度に行なうことが要求されている。特に、電力の安定供給は、産業あるいは生活の基盤であることから、効率のよい復旧作業を支援するために、電力流通設備における高精度な被害想定を実現することが要求されている。
【0003】
このようなことから、例えば、非特許文献1、非特許文献2および特許文献1では、地震による被害を逐次更新的(リアルタイム)に想定するために、地震動の逐次更新情報、衛星写真(航空写真)情報、およびその両方を画像処理により活用することで、電力流通設備などの構造物の被害想定精度を向上させる技術が開示されている。
【0004】
【非特許文献1】能島暢呂,松岡昌志,杉戸真太,江崎賢一:地震動情報と人工衛星SAR画像情報の統合処理による建物全壊率の定量的推定手法の開発、土木学会論文集A, Vol.62 No.4 pp.808-821, 2006年10月
【非特許文献2】国土交通省総合技術開発プロジェクト,災害情報を活用した迅速な防災・減災対策に関する技術開発及び推進方策の検討,総合報告書,国土交通省,平成18年12月
【特許文献1】特開2003−287573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した従来の技術は、地震動だけの情報を用いて被害想定を行なう場合には、広範囲に分布する設備の被害想定における想定精度に限界があるので、これを補完するために、衛星写真(航空写真)の情報を用いるものである。しかし、衛星写真の情報を用いて被害想定を行なう場合には、災害発生後の高精度な被害想定を迅速に行なえないという問題点があった。
【0006】
すなわち、現状では、災害直後に被災地域の衛星写真を入手することは困難であることから、災害発生数時間が経過した時点でしか、衛星写真情報と地震動情報とを用いた高精度な被害想定を行なうことはできない。従って、現状では、災害直後に衛星写真情報と地震動情報とを用いた被害想定を行ない、これに基づいて、復旧作業における初動指示や巡視指示を行なうことができなかった。
【0007】
なお、ここでは、地震災害発生時において、災害発生後の高精度な被害想定を迅速に行なえないという問題点があったことを述べたが、地震に限らず、例えば、台風による災害発生時においても、同様の問題点があった。
【0008】
そこで、この発明は、上述した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、災害発生後において即時に入手可能な情報を用いることにより、災害発生後の被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる災害被害想定装置、災害被害想定方法および災害被害想定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1に係る発明は、所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する災害被害想定装置であって、前記所定の地域において、過去に発生した前記災害の履歴情報である災害履歴情報を、当該所定の地域内に予め設定したメッシュごとに記憶する災害履歴情報記憶手段と、前記所定の地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、前記災害の情報である災害情報に基づいて、前記メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を記憶する被害率関数記憶手段と、前記災害の発生を親ノードなしのノードとし、前記災害によって発生する前記支持物の被害と前記所定の構造物の被害とを含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を記憶する設定ネットワーク構造記憶手段と、前記災害が発生した直後に取得した災害情報である直後災害情報と、前記災害情報記憶手段が記憶する前記メッシュごとの前記災害履歴情報とに基づいて、前記所定の地域全域における災害情報を推定し、推定された前記所定の地域全域における災害情報と、前記直後災害情報とともに取得した前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害直後確定被害情報と、前記被害率関数記憶手段が記憶する前記被害率関数と、前記設定ネットワーク構造記憶手段が記憶する前記設定ネットワーク構造とに基づいて、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、前記災害が発生した直後の前記所定の構造物における被害発生率の想定を行なう災害直後被害想定手段と、前記災害が発生した後に更新された災害情報である更新災害情報と、前記災害が発生した後に前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報とに基づいて、前記被害率関数記憶手段が記憶する前記被害率関数を更新することで、前記所定の地域の一部以外において、前記設定ネットワーク構造記憶手段が記憶する前記設定ネットワーク構造における前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なう被害想定更新手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、上記の発明において、前記被害想定更新手段は、前記災害が発生した後に前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害後確定被害情報が取得された場合は、前記設定ネットワーク構造記憶手段が記憶する前記設定ネットワーク構造に当該災害後確定被害情報に対応する被害事象を追加するとともに、前記所定の地域の一部以外において、追加された設定ネットワーク構造に基づいた前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なうことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、上記の発明において、前記災害直後被害想定手段によって想定された前記所定の構造物の被害発生率想定結果を前記所定の地域の地図とともに表示した被害想定地図を作成して所定の表示部に表示する被害想定地図作成表示手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に係る発明は、上記の発明において、前記被害想定地図作成表示手段は、前記被害想定更新手段によって想定された前記所定の地域の一部以外における前記所定の構造物の被害発生率想定更新結果を、前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報と前記災害後確定被害情報とともに、表示した前記被害想定地図を作成して前記所定の表示部に表示する被害想定地図作成表示手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に係る発明は、上記の発明において、前記災害は、地震災害であり、前記災害情報は、地震動強度分布からなる地震動情報であり、前記災害直後確定被害情報は、停電情報であり、前記所定の構造物は、前記支持物であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に係る発明は、上記の発明において、前記災害は、地震災害であり、前記災害情報は、地震動強度分布からなる地震動情報であり、前記災害直後確定被害情報は、停電情報であり、前記所定の構造物は、前記支持物に隣接する建物であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項7に係る発明は、上記の発明において、前記災害は、台風災害であり、前記災害情報は、風速情報などからなる気象情報であり、前記災害直後確定被害情報は、停電情報であり、前記所定の構造物は、前記支持物もしくは前記支持物に隣接する建物であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項8に係る発明は、所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する災害被害想定方法であって、前記所定の地域において、過去に発生した前記災害の履歴情報である災害履歴情報を、当該所定の地域内に予め設定したメッシュごとに第一の記憶部に記憶する災害履歴情報記憶ステップと、前記所定の地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、前記災害の情報である災害情報に基づいて、前記メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を第二の記憶部に記憶する被害率関数記憶ステップと、前記災害の発生を親ノードなしのノードとし、前記災害によって発生する前記支持物の被害と前記所定の構造物の被害とを含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を第三の記憶部に記憶する設定ネットワーク構造記憶ステップと、前記災害が発生した直後に取得した災害情報である直後災害情報と、前記第一の記憶部が記憶する前記メッシュごとの前記災害履歴情報とに基づいて、前記所定の地域全域における災害情報を推定し、推定された前記所定の地域全域における災害情報と、前記直後災害情報とともに取得した前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害直後確定被害情報と、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数と、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造とに基づいて、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、前記災害が発生した直後の前記所定の構造物における被害発生率の想定を行なう災害直後被害想定ステップと、前記災害が発生した後に更新された災害情報である更新災害情報と、前記災害が発生した後に前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報とに基づいて、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数を更新することで、前記所定の地域の一部以外において、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造における前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なう被害想定更新ステップと、を含んだことを特徴とする。
【0017】
また、請求項9に係る発明は、所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する災害被害想定方法をコンピュータに実行させる災害被害想定プログラムであって、前記所定の地域において、過去に発生した前記災害の履歴情報である災害履歴情報を、当該所定の地域内に予め設定したメッシュごとに第一の記憶部に記憶する災害履歴情報記憶手順と、前記所定の地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、前記災害の情報である災害情報に基づいて、前記メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を第二の記憶部に記憶する被害率関数記憶手順と、前記災害の発生を親ノードなしのノードとし、前記災害によって発生する前記支持物の被害と前記所定の構造物の被害とを含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を第三の記憶部に記憶する設定ネットワーク構造記憶手順と、前記災害が発生した直後に取得した災害情報である直後災害情報と、前記第一の記憶部が記憶する前記メッシュごとの前記災害履歴情報とに基づいて、前記所定の地域全域における災害情報を推定し、推定された前記所定の地域全域における災害情報と、前記直後災害情報とともに取得した前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害直後確定被害情報と、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数と、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造とに基づいて、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、前記災害が発生した直後の前記所定の構造物における被害発生率の想定を行なう災害直後被害想定手順と、前記災害が発生した後に更新された災害情報である更新災害情報と、前記災害が発生した後に前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報とに基づいて、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数を更新することで、前記所定の地域の一部以外において、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造における前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なう被害想定更新手順と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1、8、または9の発明によれば、災害発生直後において即時に入手可能な情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた被害想定対象の構造物における被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、当該構造物における被害発生率を更新して想定することができるので、災害発生後の被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。
【0019】
また、請求項2の発明によれば、例えば、災害発生後にネットワークを介して取得した地域全域の道路や建物などの構造物の被害情報をベイジアンネットワークに組み込むことで、被害想定対象の構造物における被害発生率をベイズ推定により想定することができるので、災害発生後の被害想定をより高精度に行なうことが可能になる。
【0020】
また、請求項3の発明によれば、災害発生直後における復旧作業の初動時において、迅速かつ高精度な被害想定に基づいて、復旧作業に関わる人員を配置するに適切な地域を特定することができる。
【0021】
また、請求項4の発明によれば、災害発生後に更新されたより高精度な被害想定に基づいて、復旧作業に関わる人員を適切な地域に分散して配置することができる。
【0022】
また、請求項5の発明によれば、地震災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物における被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新して想定することができるので、地震災害発生後の支持物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。
【0023】
また、請求項6の発明によれば、地震災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物に被害をもたらす可能性のある建物の被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、地震災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新し、さらに更新された支持物の被害発生率に基づいて建物被害を更新して想定することができるので、地震災害発生後の建物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。
【0024】
また、請求項7の発明によれば、台風災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物における被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新して想定することができるので、台風災害発生後の支持物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。あるいは、台風災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物に被害をもたらす可能性のある建物の被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、台風災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新し、さらに更新された支持物の被害発生率に基づいて建物被害を更新して想定することができるので、台風災害発生後の建物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る災害被害想定装置、災害被害想定方法および災害被害想定プログラムの好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、地震災害の発生時において、被害想定を行なう、地震災害被害想定装置について説明する。
【実施例】
【0026】
本実施例における地震災害被害想定装置は、被害想定の対象地域において発生した地震災害による支持物の被害を想定することを概要とし、地震災害発生後の被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になることに主たる特徴がある。以下、地震災害被害想定装置の構成を説明するための図である図1などを用いて、この主たる特徴について説明する。
【0027】
図1に示すように、本実施例における地震災害想定装置10は、入力部11と、出力部12と、入出力制御I/F部13と、記憶部14と、処理部15とから構成される。
【0028】
入力部11は、各種の情報を入力し、特に本発明に密接に関連するものとしては、地震動強度分布からなる「地震動情報」や、災害直後確定被害情報としての「停電情報」や、地震発生後に更新される「地震動情報」や、巡視に基づく支持物被害情報などを、例えば、インターネットやイントラネットなどのネットワークを介して受け付けて入力し、また、後述する記憶部14に記憶される種々の情報も、地震災害想定装置10の管理者から受け付けて入力する。
【0029】
出力部12は、各種の情報を出力し、モニタやスピーカを備えて構成され、特に本発明に密接に関連するものとしては、後述する地震被害想定マップ作成部15cが作成する地震被害想定マップを、巡視によって確定された支持物被害情報や、対象地域全域において確定された建物被害などの災害後確定被害情報とともに、モニタの画面に表示したりする。
【0030】
入出力制御I/F部13は、入力部11および出力部12と、記憶部14および処理部15との間におけるデータ転送を制御する。
【0031】
記憶部14は、処理部15による各種処理に用いるデータと、処理部15による各種処理結果を記憶し、特に本発明に密接に関連するものとしては、図1に示すように、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aと、被害率関数記憶部14bと、設定ネットワーク構造記憶部14cとを備える。
【0032】
対象地域マップ・地震履歴記憶部14aは、図2に示すように、被害想定の対象地域のマップと、当該対象地域において、過去に発生した地震災害の履歴情報である地震災害履歴情報を、対象地域内に予め設定したメッシュごとに記憶する。ここで、図2は、対象地域マップ・地震履歴記憶部を説明するための図である。
【0033】
例えば、図2の(A)に示すように、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aは、被害想定の対象地域のマップ(図中の点線で囲まれた領域参照)とともに、対象地域内に予め設定した、例えば「500m×500m」の区画に分けられたメッシュの位置を記憶する。ここで、図には示さないが、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aは、対象地域における支持物の配置情報や、建物の配置情報や、道路、水道管、ガス管といったライフラインの配置情報なども記憶している。なお、本実施例において支持物とは、具体的には、電力を供給するための架渉線、共架線、各種配電機器を接続する配電柱のことを示す。
【0034】
また、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aは、図2の(B)や(C)に示すように、過去に発生した地震災害における地震動強度分布を、メッシュごとに記憶する。ここで、図2の(B)や(C)においては、メッシュ上の濃淡が地震動強度の大小を表している。なお、地震動強度としては、例えば、地震の揺れの強さを表すのに用いる加速度の単位であるガル(Gal)が用いられる。なお、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aは、過去に発生した地震災害ごとの震源位置も記憶してもよい。
【0035】
図1に戻って、被害率関数記憶部14bは、対象地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、地震災害情報に基づいて、メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を記憶する。以下、図3〜図5を用いて、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数について説明する。図3は、被害率関数を説明するための図であり、図4は、被害率関数における地域係数を説明するための図であり、図5および図6は、被害率関数における性能値を説明するための図である。
【0036】
ここで、過去の地震災害発生における経験的確率分布によれば、同じ地震動強度であったとしても、実際に被害の発生した支持物の性能値(z)は広く分布しており、支持物の被害発生の有無は、性能値(z)のみで判定できるものではなく、支持物が設置される地盤条件、飛来物や樹木・建物倒壊など周辺施設被害による影響も考慮する必要がある。このようなことから、地震動による支持物の折損や傾斜といった被害が発生する被害確率(p)と、支持物の「破壊基準曲げモーメント/最大発生曲げモーメント」で定義される性能値(z)との関係は、不確実な要因も確率的に考慮できるように、図3の(A)に示す曲線で記述することができる被害率関数(p(z))でモデル化することが望ましい。
【0037】
そこで、本発明においては、地盤条件を考慮した被害確率(pi(z))を図3の(B)に示す数式で定義する。図3の(B)において、「pi(z)」は、地盤条件を反映した地域特性「i」に設置され、性能値「z」である支持物の被害確率であり、「Fi(z)」は、性能値「z」をパラメータとする基準ハザード関数であり、「ri」は、地域特性「i」の地域係数である。ここで、「Fi(z)」は、図3の(C)に示すように、確率分布関数を、性能値「z」によって積分することで得られる分布関数である。
【0038】
また、地域係数(ri)は、普通土質や軟弱土質といった地盤条件に、都市部や山間部などといった地域の特性を加えることで、力学的なモデルでは説明できない被害の有無のばらつきを考慮して既往の被害事例から経験的に設定するものであり、例えば、図4に示すように、液状化の可能性ありなしの地盤条件ごとに、地震動強度の範囲に応じて、支持物折損の被害モードおよび支持物傾斜の被害モードそれぞれに対して、経験値に基づいて設定される。
【0039】
すなわち、図4に示すように、液状化可能性指数(PL)が「15」より大きく、液状化が発生する可能性大の地域において、地震動強度(200〜249gal)の地震が発生した場合は、支持物折損の被害モードにおいては、「r13」と設定され、支持物傾斜の被害モードにおいては、「r14」と設定される。また、液状化可能性指数(PL)が「5」より大きく「15」以下である、液状化が発生する可能性が中程度の地域において、地震動強度(200〜249gal)の地震が発生した場合は、支持物折損の被害モードにおいては、「r23」と設定され、支持物傾斜の被害モードにおいては、「r24」と設定される。また、液状化が発生する可能性がない非液状化の地域において、地震動強度(200〜249gal)の地震が発生した場合は、支持物折損の被害モードにおいては、「r33」と設定され、支持物傾斜の被害モードにおいては、「r34」と設定される。なお、上記の「r13」は、例えば、「0.00008」といった数値で表される。また、図4では、地震動強度を4つの範囲に分類し、4つに分類された地震動強度の範囲ごとに3つに分類された液状化が発生する可能性の程度に応じた地域係数を設定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、地震動強度の範囲や、液状化が発生する可能性の程度は、任意の範囲および任意の程度に分類されてよく、地域係数は、これら任意に設定された分類に応じて、設定されるものである。
【0040】
また、性能値(z)は、図5の(A)に示すように、地動最大加速度から「静的な水平地震力(支持物の頂部集中加重に換算した荷重(kgf)」として求めた配電柱(支持物)単体の破壊に対する安全率である「Z0」に「k1〜k4」からなる係数を掛け合わせたものである。ここで、図5の(B)に示すように、「k1」は、架渉線、共架線、各種機器の影響を考慮する係数であり、これら架渉線、共架線、各種機器の質量および地際からの高さにより算出されるものである(図5の(B)に示す数式参照)。また、図5の(B)に示すように、「k2」は、配電柱の固有周期の最大加速度に対する応答倍率であり、「k3」は、連成効果に対する補正係数であり、「k4」は、隣接柱の影響を考慮する補正係数である。
【0041】
また、支持物の安全率である「Z0」は、例えば、「電気技術基準調査委員会,配電規定(低圧及び高圧)JEAC 7001-1992,社団法人 日本電気協会」に基づいて算出される。すなわち、支持物の安全率である「Z0」は、図6の(A)に示すように、支持物に根かせがない場合と、支持物に根かせがある場合とで、それぞれの数式に従って算出される。図6の(A)に示す数式において、「D0」は、支持物の地際の直径(単位:m)であり、「t」は、支持物の根入れ深さ(単位:m)であり、「H」は、集中加重点の地表上の高さ(単位:m)であり、「P」は、支持物の頂部集中加重に換算した荷重(単位:kgf)である。
【0042】
ここで、「t0」は、支持物に根かせがない場合の、地表面から支持物の回転中心までの深さであり、図6の(B)に示す数式で算出される。また、「t0’」は、支持物に根かせがある場合の、地表面から支持物の回転中心までの深さであり、地表面から根かせ中心までの深さ(単位:m)を「tc」とした場合、図6の(C)に示す数式で算出される。なお、図6の(C)に示す数式で用いられる、「n」は、根かせ面積(A)と支持物基礎部の面積(A1)から求められる比であり、根かせ面積(A)と支持物基礎部の面積(A1)とを算出する数式も、図6の(C)に併せて示している。また、図6の(A)に示す数式において用いられる「Q」および「J」は、図6の(D)に示す数式で算出される。
【0043】
さらに、図6の(A)に示す数式において、「K」は、力学実験から定められた地盤条件を表す定数であり、土質係数であり、普通土質[A]の場合は、4.0×106(kgf/m4)、普通土質[B]の場合は、3.0×106(kgf/m4)、軟弱土質[C]の場合は、2.0×106(kgf/m4)、軟弱土質[D]の場合は、0.8×106(kgf/m4)と与えられる。また、図6の(A)に示す数式において、「P」は、図6の(E)に示す数式で算出される。なお、図6の(E)に示す数式において、「E」は、地動最大加速度であり、「H」は、支持物の地上高(単位:m)であり、「W1」は、変圧器の重量(単位:kg)であり、「W2」は、支持物地上部の重量(単位:kg)であり、「w」は、架渉線の重量(単位:kg/m)であり、「l1」は、変圧器取り付け部の地上高(単位:m)であり、「l2」は、支持物地上部の重心地上高(単位:m)であり、「h」は、架渉線の地上高(単位:m)であり、「s」は、両側の径間の和を2で割ったもの(単位:m)である。
【0044】
このように、図3〜6を用いて説明した数式に基づいて、地盤条件を反映した地域特性「i」に設置され、性能値「z」である支持物の被害確率「pi(z)」が定義され、図1に示す被害率関数記憶部14bは、「pi(z)」を記憶する。
【0045】
図1に戻って、設定ネットワーク構造記憶部14cは、地震災害(地震動)の発生を親ノードなしのノードとし、地震災害によって発生する支持物の被害を含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を記憶する。例えば、設定ネットワーク構造記憶部14cは、図7の(A)に示すような、設定ネットワーク構造を記憶する。ここで、図7は、設定ネットワーク構造記憶部を説明するための図である。
【0046】
設定ネットワーク構造記憶部14cは、図7の(A)に示すように、液状化などの地盤条件を考慮した上での「地震動」の発生を親ノードとし、地震動によって発生する「支持物被害」と、「支持物被害」によって生起される「停電」との因果関係をネットワークとして記憶する。その際、「地震動」による「支持物被害」の因果関係における条件付確率関数を「L2」として、「支持物被害」による「停電」の因果関係における条件付確率関数を「L3」として記憶する。そして、「支持物被害」を、対象地域に設定されたメッシュごとに想定すると記憶する。
【0047】
また、設定ネットワーク構造記憶部14cは、図7の(B)に示すように、図7の(A)に示す設定ネットワーク構造に加えて、「建物被害」による「支持物被害」の因果関係における条件付確率関数を「L1」とする設定ネットワーク構造も記憶する。ここで、図7の(B)に示す設定ネットワーク構造は、入力部11から対象地域全域における建物被害の情報が災害後確定被害情報として入力された場合に、後述する被害想定更新部15bによる処理に用いられる。
【0048】
また、設定ネットワーク構造記憶部14cは、図7の(C)に示すように、図7の(B)に示す設定ネットワーク構造に加えて、「道路被害」による「支持物被害」の因果関係における条件付確率関数を「L4」とし、「火災」による「支持物被害」の因果関係における条件付確率関数を「L5」とし、「その他インフラ被害」による「支持物被害」の因果関係における条件付確率関数を「L6」とする設定ネットワーク構造も記憶する。ここで、図7の(C)に示す設定ネットワーク構造は、入力部11から対象地域全域における建物被害、道路被害、火災、その他インフラ被害の情報が災害後確定被害情報として入力された場合に、後述する被害想定更新部15bによる処理に用いられる。
【0049】
なお、図には示さないが、建物被害、道路被害、火災、その他インフラ被害などの情報は、それぞれ災害後確定被害情報として入力された場合に、順次、「被害事象」として図7の(A)に示す設定ネットワーク構造に追加されるものであり、設定ネットワーク構造記憶部14cは、すべてのパターンの設定ネットワーク構造を記憶するものである。
【0050】
処理部15は、記憶部14が記憶するデータに基づいて各種処理を実行し、特に本発明に密接に関連するものとしては、図1に示すように、災害直後被害想定部15aと、被害想定更新部15bと、地震被害想定マップ作成部15cとを備える。
【0051】
災害直後被害想定部15aは、地震災害が発生した直後に取得した直後災害情報(地震動強度分布)と、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aが記憶するメッシュごとの地震災害履歴情報(地震動強度分布)とに基づいて、対象地域全域における地震動強度分布を推定する。例えば、災害直後被害想定部15aは、気象庁情報として直後災害情報が入力部11から入力された場合、図2の(B)や(C)などの対象地域マップ・地震履歴記憶部14aが記憶する地震災害履歴情報を参照して、距離減衰式を用いて、対象地域全域における地震動強度分布をメッシュごとに推定する。あるいは、災害直後被害想定部15aは、気象庁情報として直後災害情報が入力部11から入力された場合、図2の(B)や(C)などの対象地域マップ・地震履歴記憶部14aが記憶する地震災害履歴情報を参照して、直後災害情報と近似しているデータに基づいて、地震動強度分布をメッシュごとに推定する。
【0052】
このようにして、災害直後被害想定部15aは、図8の(A)に示すように、対象地域全域における地震動強度分布をメッシュごとに推定する。ここで、図8は、災害直後被害想定部を説明するための図である。
【0053】
そして、災害直後被害想定部15aは、推定された対象地域全域における地震動強度分布と、直後災害情報とともに取得した対象地域全域において確定された停電情報と、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数と、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する設定ネットワーク構造とに基づいて、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、地震災害が発生した直後の支持物の被害発生率の想定を行なう。
【0054】
例えば、災害直後被害想定部15aは、図8の(B)に示すように、対象地域全域において確定された停電確定情報が、入力部11を介して入力されると、この情報から、支持物被害をベイジアンネットワークにおける確率伝播法により逆推定を行って、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、支持物被害発生率の想定を行なう。
【0055】
地震動が発生した場合、図7の(A)に示す設定ネットワークにおける条件付確率表は、図9に示すものとなる。ここで、図9は、災害直後被害想定部において用いられる条件付確率表を説明するための図である。なお、図9においては、「地震動」における確率変数を「X1」、「支持物被害」における確率変数を「X2」、「停電」における確率変数を「X3」、事象が発生することを「T」、事象が発生しない非発生を「F」として表記する。
【0056】
図9に示すように、地震動が発生した場合、地震発生の確率「P(X1)=T」は「1」となり、「P(X1)=F」は「0」となる。その上で、図8の(A)に示すように、メッシュごとに推定された対象地域全域における地震動強度分布を入力とし、災害直後被害想定部15aは、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数を用いて、メッシュごとの地域特性に基づいた支持物被害確率「A」を算出する。そうすると、地震動が発生した場合、支持物被害が発生する確率「P(X2)=T」は「A」となり、支持物被害が発生しない確率「P(X2)=F」は「1−A」となる。なお、地震動が発生しない場合、支持物被害が発生する確率「P(X2)=T」は「0」となり、支持物被害が発生しない確率「P(X2)=F」は「1」となる。また、「支持物被害」が発生した場合(X2=T)、停電が発生しない確率(P(X3=F))は、「0」であり、停電が発生する確率(P(X3=T))は、「1」となる。そして、対象とするメッシュにおけるフィーダに属する総支持物数を「C」とすると、「支持物被害」が発生しない場合(X2=F)、停電が発生しない確率(P(X3=F))は、「(1−A)の(C−1)乗」となり、停電が発生する確率(P(X3=T))は、「1から(1−A)の(C−1)乗を差し引いた値」となる。
【0057】
そして、図8の(B)に示すように、対象地域全域において確定された停電確定情報が、入力部11を介して入力されると、メッシュごとの停電の発生状況(TまたはF)が確定され、この情報に基づいて、災害直後被害想定部15aは、条件付確率関数「L3」を用いた逆推定により、具体的には、確率伝搬法により、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、支持物被害発生率の想定を行なう。
【0058】
ここで、以下では、災害直後被害想定部15aが行なうベイジアンネットワークによる推定方法を、図10および図11を用いて説明する。図10および図11は、災害直後被害想定部において用いられるベイジアンネットワークによる推定方法を説明するための図である。
【0059】
ベイジアンネットワークにより問題をモデル化することで、不確実性を含む対象(本実施例では、支持物被害の状況)を計算機上に確率変数の集合と、その間の条件付確率として表現し、その上で計算操作が可能となる。この時、説明変数、目的変数の区別なく、任意の変数がとりうる各状態がどのくらいの確率であるかという確率分布を評価できるのがベイジアンネットワークの特徴である。ここで、ベイジアンネットワークの同時確率分布は、図10の(A)に示す数式で表現することができる。
【0060】
続いて、確率推論の基礎について説明する。確率推論においては、各ノードに割りあてられた条件付確率分布群によってモデルを定義する。すなわち、条件付確率表を定義する(例えば、図9を参照)。条件付確率表を一般的に記述すると、親ノードがある状態pa(Xi)=y(yは親ノード群の各種で構成したj通りのベクトルパターン)のもとでのk通りの離散状態(1、・・・、k)をもつ変数Xiの条件付き確率分布は、図10の(B)に示すように表記される。ただし、これらの和は、「1」となる。計算上は、イベントごとに、条件付確率表を書き換えて、因果基本テーブルとする。
【0061】
そして、ベイジアンネットワークによる確率的推論方法は、親ノードも観測値ももたないノードに事前確率分布を与え(地震動を入力とする既存推定モデルにより与え)、観測された変数の値「e」をノードにセットし、推定対象の変数「X」の事後確率分布P(X/e)を得るものである(本実施例では、図9に示す変数「X2」が推定対象となる)。すなわち、変数「Xe」の状態として「e」という値が観測されると、変数「Xe」については、図10の(C)の第一列に示すように、与えられる。これは、図9に示す、地震発生の確率「P(X1)=T」は「1」となり、「P(X1)=F」は「0」となることに対応する。この「Xe」を固定しておき、他の変数についての各状態それぞれについての確率値を求める。
【0062】
ここで、図10の(C)に示すように、変数「X1〜X3」の3つの事象の因果関係からなるモデルを例に考えると、P(X2=1)(例えば、支持物被害が発生する条件付確率)は、同じく図10の(C)に示すように、列挙法による周辺化関数を用いて表すことができる。なお、図10の(C)には、これを一般化した周辺化関数も併せて示している。
【0063】
そして、図11の(A)に示す数式が、図10の(C)に示すP(X2=1)を近似的に求めるために、観測された情報からの確率伝搬(変数間の局所計算)によって各変数の確率分布を更新していく確率伝搬法の定式である。なお、図11の(A)に示す「λ」および「π」は、図10の(C)に示すモデルにおいて示した事象間の条件付確率関数である。また、図11の(A)に示す数式における「α」、「P(X2|e)」、「P(X2|e+)」、「P(e―|X2)」は、それぞれ、図11の(B)〜(E)により定義されるものである。
【0064】
このようにして、災害直後被害想定部15aは、図8の(B)に示す対象地域全域において確定された停電確定情報から、支持物被害を、図11の(A)に示すようなベイジアンネットワークにおける確率伝播法により逆推定を行って、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、支持物被害発生率の想定を行なう。
【0065】
図1に戻ると、地震被害想定マップ作成部15cは、災害直後被害想定部15aが想定した支持物の被害発生率想定結果を、例えば、図8の(C)に示すように、メッシュごとに、被害発生率の大きさに応じた濃淡で表したものを、対象地域の地図とともに表示した地震被害想定マップを作成し、さらに、出力部12のモニタにて表示する。ここで、地震被害想定マップとともに、別途、レイヤ形式で、道路マップや、水道管やガス管などのライフライン情報を、モニタにて重ねて表示してもよい。
【0066】
被害想定更新部15bは、地震災害が発生した後に、例えば、独立行政法人防災科学技術研究所が運営する強震ネットワーク(K−net)から更新された更新地震災害情報と、地震災害が発生した後に、派遣された復旧作業者による巡視により対象地域の一部(巡視終了地域)において確定された支持物の被害情報とに基づいて、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数を更新することで、巡視終了地域以外の未巡視地域において、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する設定ネットワーク構造における支持物における被害発生率の想定を、メッシュごとに、更新して行なう。以下、被害想定更新部15bについて、図12および13を用いて説明する。図12および13は、被害想定更新部を説明するための図である。
【0067】
例えば、被害想定更新部15bは、図12の(A)に示すように、派遣された復旧作業者による巡視により巡視終了地域において確定された支持物の被害情報(巡視情報)が取得され、この情報が、入力部11を介して入力されたとする。ここで、図12の(A)において、丸印は、実際に折損などが確認された被害支持物の場所であるとする。また、図には示さないが、災害直後被害想定部15aが、入力部11を介して入力された更新地震災害情報に基づいて、図8の(A)に示す対象地域全域における地震動強度分布を更新して推定したものとする。この状況において、被害想定更新部15bは、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数を更新することで、未巡視地域において、支持物の被害発生率の想定を、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、更新して行なう。
【0068】
本実施例では、支持物などの施設被害をベルニーイ試行列によりモデル化しており、以下の3つの前提条件が設定される。1つ目は、設備の被害で可能な結果は、「被害あり」もしくは、「被害なし」の2種類であることであり、2つ目は、対象とする被害が発生する確率は、同じ属性(性能値)をもつ設備は、各設備を通じて一定であるとするものであり、3つ目は、同じ属性をもつ個々の設備被害は,確率統計的に独立であるとするものである。ここで、上記した3つの前提条件に基づいた被害想定更新部15bによる被害率関数の更新方法を、図13を用いて説明する。
【0069】
図13の(A)および(B)は、図13の(C)、(D)および(E)で用いられる変数の名称を説明するものである。
【0070】
地震直後に得られる地震動強度情報と、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数(図3の(B)参照)に基づいて被害確率「pi(z)」の即時推定が行われ、被害確率の推定値のばらつきの指標となる平均値および標準偏差(図13の(B)に示すμおよびσを参照)が与えられると仮定する。このとき、被害確率「pi(z)」の共役事前分布としてベータ分布を仮定する。この時、ベイズの更新過程を用いると,支持物被害個所の確定情報を反映させた後の被害確率の平均値および標準偏差(図13の(B)に示すμ’およびσ’を参照)は、それぞれ、図13の(C)および(D)で示す数式で表される。
ただし、巡視を行い、被害の有無を確定した地域特性iを持つ性能値zの総設備数と、巡視した範囲内での被害設備数とは、図13の(E)で示す数式で表される。
【0071】
なお、図13の(C)で示す式により、計算された地域特性「i」で性能値「z」の事後被害確率の平均値を更新された被害確率として未巡視地域に適用するものとする。また、即時推定による被害確率の事前分布は、「Mi0(z)’あたりのni0(z)’ 箇所の被害が確認された」という情報を得たことと等価であると解釈される。また、図13の(C)で示す式は、2項分布の標本平均と事前分布であるベータ分布との平均(事前平均)の加重平均であることを意味している。
【0072】
図1に戻ると、地震被害想定マップ作成部15cは、被害想定更新部15bによって想定された未巡視地域における支持物の被害発生率想定更新結果を、例えば、図12の(B)に示すように、巡視終了地域において確定された支持物の被害情報とともに表示した地震被害想定マップを作成し、さらに、出力部12のモニタにて表示する。ここで、地震被害想定マップとともに、別途、レイヤ形式で、道路マップや、水道管やガス管などのライフライン情報を、モニタにて重ねて表示してもよい。
【0073】
さらに、被害想定更新部15bは、地震災害が発生した後に対象地域全域において確定された被害情報である災害後確定被害情報(例えば、建物被害)が取得された場合は、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する図7の(A)に示す設定ネットワーク構造に「建物被害」が追加された図7の(B)に示す設定ネットワーク構造に基づいた支持物における被害発生率の想定を、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、更新して行なう。すなわち、図12の(C)において四角印で表される対象地域全域において確定された建物被害が、入力部11を介して入力されると、被害想定更新部15bは、この情報に基づいて、図7の(B)に示す条件付確率関数「L1」を用いた逆推定により、支持物における被害発生率の想定を、メッシュごとに、あるいは、メッシュ内の支持物ごとに、更新して行なう。そして、図1に戻ると、地震被害想定マップ作成部15cは、被害想定更新部15bによって想定された未巡視地域における支持物の被害発生率想定更新結果を、例えば、図12の(C)に示すような地震被害想定マップを作成し、さらに、出力部12のモニタにて表示する。
【0074】
次に、図14を用いて、本実施例における地震災害被害想定装置10の処理について説明する。図14は、本実施例における地震災害被害想定装置の処理を説明するための図である。
【0075】
図14に示すように、本実施例における地震災害被害想定装置10は、入力部11を介して、地震発生直後における地震動情報、停電情報が入力されると(ステップS1401肯定)、災害直後被害想定部15aは、対象地域全域における地震動強度分布を推定するとともに、メッシュごとに(あるいは、メッシュ内の支持物ごとに)、地震災害が発生した直後の支持物被害想定を行なう(ステップS1402)。なお、この際、地震被害想定マップ作成部15cは、災害直後被害想定部15aが想定した支持物の被害発生率想定結果を、例えば、図8の(C)に示すような地震被害想定マップを作成し、さらに、出力部12のモニタにて所定の表示部に表示する。
【0076】
そして、被害想定更新部15bは、入力部11を介して、地震発生後における巡視情報(巡視終了地域における被害支持物情報)、地震動情報、または停電情報が更新されて入力されると(ステップS1403肯定)、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数を更新することで、巡視終了地域以外の未巡視地域において、支持物被害想定を、メッシュごとに(あるいは、メッシュ内の支持物ごとに)、更新して行なう(ステップS1404、地震災害後逐次更新推定)。なお、ここで、被害想定更新部15bは、地震災害が発生した後に対象地域全域において確定された被害情報である災害後確定被害情報(例えば、建物被害)が取得された場合も、地震災害後逐次更新推定によって、支持物被害想定を、メッシュごとに(あるいは、メッシュ内の支持物ごとに)、更新して行なう。また、この際、地震被害想定マップ作成部15cは、被害想定更新部15bによって想定された未巡視地域における支持物の被害発生率想定更新結果を、例えば、図12の(B)に示すように、巡視終了地域において確定された支持物の被害情報とともに表示した地震被害想定マップを作成し、さらに、出力部12のモニタにて所定の表示部に表示する。
【0077】
ここで、被害想定更新部15bは、すべての対象地域の被害が確定されない場合(ステップS1405否定)、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する設定ネットワーク構造のおける条件付確率関数(例えば、図7の(A)に示すL2など)を更新し(ステップS1406)、ステップS1403に戻って、更新情報が入力されるまで処理を待機する。
【0078】
これに反して、被害想定更新部15bは、すべての対象地域の被害が確定された場合(ステップS1405肯定)、支持物の被害率、被害箇所を示す被害状況マップを確定し(ステップS1407)、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する設定ネットワーク構造のおける条件付確率関数(例えば、図7の(A)に示すL2など)を更新し(ステップS1408)、処理を終了する。
【0079】
上述してきたように、本実施例では、災害直後被害想定部15aは、地震災害が発生した直後に取得した直後災害情報と、対象地域マップ・地震履歴記憶部14aが記憶するメッシュごとの地震災害履歴情報とに基づいて、対象地域全域における地震動強度分布を推定し、推定された対象地域全域における地震動強度分布と、直後災害情報とともに取得した対象地域全域において確定された停電情報と、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数と、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する設定ネットワーク構造とに基づいて、メッシュごとに、地震災害が発生した直後の支持物の被害発生率の想定を行なう。そして、被害想定更新部15bは、地震災害が発生した後に、更新された更新地震災害情報と、地震災害が発生した後に、巡視終了地域において確定された支持物の被害情報とに基づいて、被害率関数記憶部14bが記憶する被害率関数を更新することで、巡視終了地域以外の未巡視地域において、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する設定ネットワーク構造における支持物における被害発生率の想定を、メッシュごとに、更新して行なう。また、被害想定更新部15bは、地震災害が発生した後に対象地域全域において確定された被害情報である災害後確定被害情報(例えば、建物被害)が取得された場合は、設定ネットワーク構造記憶部14cが記憶する「建物被害」が追加された設定ネットワーク構造に基づいた支持物における被害発生率の想定を、メッシュごとに、更新して行なう。そして、地震被害想定マップ作成部15cは、災害直後被害想定部15aや被害想定更新部15bによって想定された支持物の被害発生率想定結果を、例えば、図12の(B)に示すように、巡視終了地域において確定された支持物の被害情報とともに表示した地震被害想定マップを作成し、さらに、出力部12のモニタにて表示する。
【0080】
このようなことから、地震災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物における被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新して想定することができるので、地震災害発生後の支持物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。また、例えば、地震災害発生後にネットワークと介して取得した地域全域の建物などの被害情報をベイジアンネットワークに組み込むことで、被害想定対象の構造物における被害発生率をベイズ推定により想定することができるので、災害発生後の被害想定をより高精度に行なうことが可能になる。また、地震災害発生直後における復旧作業の初動時において、迅速かつ高精度な被害想定に基づいて、復旧作業に関わる人員を配置するに適切な地域を特定することができる。また、地震災害発生後に更新されたより高精度な被害想定に基づいて、復旧作業に関わる人員を適切な地域に分散して配置することができる。
【0081】
なお、本実施例では、支持物被害をベイジアンネットワークによって想定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、支持物被害の原因となる建物被害を想定する場合であってもよい。例えば、他の実施例を説明するための図である図15に示すような、ベイジアンネットワークを定義して設定した設定ネットワーク構造を用いることが考えられる。例えば、図15の(A)に示すような設定ネットワーク構造において、地震発生後に、停電情報と、巡視地域において確定された支持物被害情報および未巡視地域において想定された支持物被害想定情報とに基づいて、条件付確率関数(L1)を用いた逆推定によって建物被害を想定することができる。また、図15の(A)に示すような設定ネットワーク構造において、地震発生後に、停電情報と、巡視地域において確定された対象地域下全域における支持物被害情報とに基づいて、条件付確率関数(L1)を用いた逆推定によって建物被害を想定することができる。
【0082】
このようなことから、地震災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物に被害をもたらす可能性のある建物の被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、地震災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新し、さらに更新された支持物の被害発生率に基づいて建物被害を更新して想定することができるので、地震災害発生後の建物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。
【0083】
また、図15の(B)に示すように、地震発生前後における電力需要の脱落量である負荷脱落量は、建物被害を原因とする事象として因果関係が定義され、この因果関係が条件付確率(L7)によって表されるとする。負荷脱落量は、停電情報とともに、電力会社において災害発生直後に取得可能な情報であるので、地震発生後に、停電情報と、巡視地域において確定された支持物被害情報と、さらに負荷脱落量とに基づいて、条件付確率関数(L1、L7)を用いた逆推定によって建物被害を想定することができる。
【0084】
また、本実施例では、災害として地震災害が発生した際に、構造物の被害想定を行なう場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、災害として台風災害が発生した際に、構造物の被害想定を行なう場合であってもよい。なお、この場合は、風力と地域係数に基づいた被害率関数を用いることが必要となる。これにより、台風災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物における被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新して想定することができるので、台風災害発生後の支持物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。あるいは、台風災害発生直後において即時に入手可能な停電情報を用いてベイジアンネットワークに組み込まれた支持物に被害をもたらす可能性のある建物の被害発生率をベイズ推定により即時に想定するとともに、台風災害発生後に確定された一部地域の支持物被害情報を用いて更新された被害率関数により、未確認地域における支持物の被害発生率を更新し、さらに更新された支持物の被害発生率に基づいて建物被害を更新して想定することができるので、台風災害発生後の建物被害想定を迅速かつ高精度に行なうことが可能になる。
【0085】
また、本実施例において説明した各処理のうち、自動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を手動的におこなうこともでき、あるいは、手動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的におこなうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0086】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる(例えば、災害直後被害想定部15aと被害想定更新部15bとを統合するなど)。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0087】
なお、本実施例で説明した災害被害想定方法は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明に係る災害被害想定装置、災害被害想定方法および災害被害想定プログラムは、所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する場合に有用であり、特に、災害発生後の被害想定を迅速かつ高精度に行なうことに適する。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本実施例における地震災害想定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】対象地域マップ・地震履歴記憶部を説明するための図である。
【図3】被害率関数を説明するための図である。
【図4】被害率関数における地域係数を説明するための図である。
【図5】被害率関数における性能値を説明するための図である。
【図6】被害率関数における性能値を説明するための図である。
【図7】設定ネットワーク構造記憶部を説明するための図である。
【図8】災害直後被害想定部を説明するための図である。
【図9】災害直後被害想定部において用いられる条件付確率表を説明するための図である。
【図10】災害直後被害想定部において用いられるベイジアンネットワークによる推定方法を説明するための図である。
【図11】災害直後被害想定部において用いられるベイジアンネットワークによる推定方法を説明するための図である。
【図12】被害想定更新部を説明するための図である。
【図13】被害想定更新部を説明するための図である。
【図14】本実施例における地震災害想定装置の処理を説明するための図である。
【図15】他の実施例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0090】
10 地震災害想定装置
11 入力部
12 出力部
13 入出力制御I/F部
14 記憶部
14a 対象地域マップ・地震履歴記憶部
14b 被害率関数記憶部
14c 設定ネットワーク構造記憶部
15 処理部
15a 災害直後被害想定部
15b 被害想定更新部
15c 地震被害想定マップ作成部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する災害被害想定装置であって、
前記所定の地域において、過去に発生した前記災害の履歴情報である災害履歴情報を、当該所定の地域内に予め設定したメッシュごとに記憶する災害履歴情報記憶手段と、
前記所定の地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、前記災害の情報である災害情報に基づいて、前記メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を記憶する被害率関数記憶手段と、
前記災害の発生を親ノードなしのノードとし、前記災害によって発生する前記支持物の被害と前記所定の構造物の被害とを含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を記憶する設定ネットワーク構造記憶手段と、
前記災害が発生した直後に取得した災害情報である直後災害情報と、前記災害履歴情報記憶手段が記憶する前記メッシュごとの前記災害履歴情報とに基づいて、前記所定の地域全域における災害情報を推定し、推定された前記所定の地域全域における災害情報と、前記直後災害情報とともに取得した前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害直後確定被害情報と、前記被害率関数記憶手段が記憶する前記被害率関数と、前記設定ネットワーク構造記憶手段が記憶する前記設定ネットワーク構造とに基づいて、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、前記災害が発生した直後の前記所定の構造物における被害発生率の想定を行なう災害直後被害想定手段と、
前記災害が発生した後に更新された災害情報である更新災害情報と、前記災害が発生した後に前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報とに基づいて、前記被害率関数記憶手段が記憶する前記被害率関数を更新することで、前記所定の地域の一部以外において、前記設定ネットワーク構造記憶手段が記憶する前記設定ネットワーク構造における前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なう被害想定更新手段と、
を備えたことを特徴とする災害被害想定装置。
【請求項2】
前記被害想定更新手段は、前記災害が発生した後に前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害後確定被害情報が取得された場合は、前記設定ネットワーク構造記憶手段が記憶する前記設定ネットワーク構造に当該災害後確定被害情報に対応する被害事象を追加するとともに、前記所定の地域の一部以外において、追加された設定ネットワーク構造に基づいた前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なうことを特徴とする請求項1に記載の災害被害想定装置。
【請求項3】
前記災害直後被害想定手段によって想定された前記所定の構造物の被害発生率想定結果を前記所定の地域の地図とともに表示した被害想定地図を作成して所定の表示部に表示する被害想定地図作成表示手段をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の災害被害想定装置。
【請求項4】
前記被害想定地図作成表示手段は、前記被害想定更新手段によって想定された前記所定の地域の一部以外における前記所定の構造物の被害発生率想定更新結果を、前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報と前記災害後確定被害情報とともに、表示した前記被害想定地図を作成して前記所定の表示部に表示する被害想定地図作成表示手段をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の災害被害想定装置。
【請求項5】
前記災害は、地震災害であり、前記災害情報は、地震動強度分布からなる地震動情報であり、前記災害直後確定被害情報は、停電情報であり、前記所定の構造物は、前記支持物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の災害被害想定装置。
【請求項6】
前記災害は、地震災害であり、前記災害情報は、地震動強度分布からなる地震動情報であり、前記災害直後確定被害情報は、停電情報であり、前記所定の構造物は、前記支持物に隣接する建物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の災害被害想定装置。
【請求項7】
前記災害は、台風災害であり、前記災害情報は、風速情報などからなる気象情報であり、前記災害直後確定被害情報は、停電情報であり、前記所定の構造物は、前記支持物もしくは前記支持物に隣接する建物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の災害被害想定装置。
【請求項8】
所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する災害被害想定方法であって、
前記所定の地域において、過去に発生した前記災害の履歴情報である災害履歴情報を、当該所定の地域内に予め設定したメッシュごとに第一の記憶部に記憶する災害履歴情報記憶ステップと、
前記所定の地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、前記災害の情報である災害情報に基づいて、前記メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を第二の記憶部に記憶する被害率関数記憶ステップと、
前記災害の発生を親ノードなしのノードとし、前記災害によって発生する前記支持物の被害と前記所定の構造物の被害とを含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を第三の記憶部に記憶する設定ネットワーク構造記憶ステップと、
前記災害が発生した直後に取得した災害情報である直後災害情報と、前記第一の記憶部が記憶する前記メッシュごとの前記災害履歴情報とに基づいて、前記所定の地域全域における災害情報を推定し、推定された前記所定の地域全域における災害情報と、前記直後災害情報とともに取得した前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害直後確定被害情報と、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数と、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造とに基づいて、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、前記災害が発生した直後の前記所定の構造物における被害発生率の想定を行なう災害直後被害想定ステップと、
前記災害が発生した後に更新された災害情報である更新災害情報と、前記災害が発生した後に前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報とに基づいて、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数を更新することで、前記所定の地域の一部以外において、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造における前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なう被害想定更新ステップと、
を含んだことを特徴とする災害被害想定方法。
【請求項9】
所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する災害被害想定方法をコンピュータに実行させる災害被害想定プログラムであって、
前記所定の地域において、過去に発生した前記災害の履歴情報である災害履歴情報を、当該所定の地域内に予め設定したメッシュごとに第一の記憶部に記憶する災害履歴情報記憶手順と、
前記所定の地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、前記災害の情報である災害情報に基づいて、前記メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を第二の記憶部に記憶する被害率関数記憶手順と、
前記災害の発生を親ノードなしのノードとし、前記災害によって発生する前記支持物の被害と前記所定の構造物の被害とを含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を第三の記憶部に記憶する設定ネットワーク構造記憶手順と、
前記災害が発生した直後に取得した災害情報である直後災害情報と、前記第一の記憶部が記憶する前記メッシュごとの前記災害履歴情報とに基づいて、前記所定の地域全域における災害情報を推定し、推定された前記所定の地域全域における災害情報と、前記直後災害情報とともに取得した前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害直後確定被害情報と、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数と、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造とに基づいて、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、前記災害が発生した直後の前記所定の構造物における被害発生率の想定を行なう災害直後被害想定手順と、
前記災害が発生した後に更新された災害情報である更新災害情報と、前記災害が発生した後に前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報とに基づいて、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数を更新することで、前記所定の地域の一部以外において、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造における前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なう被害想定更新手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする災害被害想定プログラム。
【請求項1】
所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する災害被害想定装置であって、
前記所定の地域において、過去に発生した前記災害の履歴情報である災害履歴情報を、当該所定の地域内に予め設定したメッシュごとに記憶する災害履歴情報記憶手段と、
前記所定の地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、前記災害の情報である災害情報に基づいて、前記メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を記憶する被害率関数記憶手段と、
前記災害の発生を親ノードなしのノードとし、前記災害によって発生する前記支持物の被害と前記所定の構造物の被害とを含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を記憶する設定ネットワーク構造記憶手段と、
前記災害が発生した直後に取得した災害情報である直後災害情報と、前記災害履歴情報記憶手段が記憶する前記メッシュごとの前記災害履歴情報とに基づいて、前記所定の地域全域における災害情報を推定し、推定された前記所定の地域全域における災害情報と、前記直後災害情報とともに取得した前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害直後確定被害情報と、前記被害率関数記憶手段が記憶する前記被害率関数と、前記設定ネットワーク構造記憶手段が記憶する前記設定ネットワーク構造とに基づいて、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、前記災害が発生した直後の前記所定の構造物における被害発生率の想定を行なう災害直後被害想定手段と、
前記災害が発生した後に更新された災害情報である更新災害情報と、前記災害が発生した後に前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報とに基づいて、前記被害率関数記憶手段が記憶する前記被害率関数を更新することで、前記所定の地域の一部以外において、前記設定ネットワーク構造記憶手段が記憶する前記設定ネットワーク構造における前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なう被害想定更新手段と、
を備えたことを特徴とする災害被害想定装置。
【請求項2】
前記被害想定更新手段は、前記災害が発生した後に前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害後確定被害情報が取得された場合は、前記設定ネットワーク構造記憶手段が記憶する前記設定ネットワーク構造に当該災害後確定被害情報に対応する被害事象を追加するとともに、前記所定の地域の一部以外において、追加された設定ネットワーク構造に基づいた前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なうことを特徴とする請求項1に記載の災害被害想定装置。
【請求項3】
前記災害直後被害想定手段によって想定された前記所定の構造物の被害発生率想定結果を前記所定の地域の地図とともに表示した被害想定地図を作成して所定の表示部に表示する被害想定地図作成表示手段をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の災害被害想定装置。
【請求項4】
前記被害想定地図作成表示手段は、前記被害想定更新手段によって想定された前記所定の地域の一部以外における前記所定の構造物の被害発生率想定更新結果を、前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報と前記災害後確定被害情報とともに、表示した前記被害想定地図を作成して前記所定の表示部に表示する被害想定地図作成表示手段をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の災害被害想定装置。
【請求項5】
前記災害は、地震災害であり、前記災害情報は、地震動強度分布からなる地震動情報であり、前記災害直後確定被害情報は、停電情報であり、前記所定の構造物は、前記支持物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の災害被害想定装置。
【請求項6】
前記災害は、地震災害であり、前記災害情報は、地震動強度分布からなる地震動情報であり、前記災害直後確定被害情報は、停電情報であり、前記所定の構造物は、前記支持物に隣接する建物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の災害被害想定装置。
【請求項7】
前記災害は、台風災害であり、前記災害情報は、風速情報などからなる気象情報であり、前記災害直後確定被害情報は、停電情報であり、前記所定の構造物は、前記支持物もしくは前記支持物に隣接する建物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の災害被害想定装置。
【請求項8】
所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する災害被害想定方法であって、
前記所定の地域において、過去に発生した前記災害の履歴情報である災害履歴情報を、当該所定の地域内に予め設定したメッシュごとに第一の記憶部に記憶する災害履歴情報記憶ステップと、
前記所定の地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、前記災害の情報である災害情報に基づいて、前記メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を第二の記憶部に記憶する被害率関数記憶ステップと、
前記災害の発生を親ノードなしのノードとし、前記災害によって発生する前記支持物の被害と前記所定の構造物の被害とを含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を第三の記憶部に記憶する設定ネットワーク構造記憶ステップと、
前記災害が発生した直後に取得した災害情報である直後災害情報と、前記第一の記憶部が記憶する前記メッシュごとの前記災害履歴情報とに基づいて、前記所定の地域全域における災害情報を推定し、推定された前記所定の地域全域における災害情報と、前記直後災害情報とともに取得した前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害直後確定被害情報と、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数と、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造とに基づいて、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、前記災害が発生した直後の前記所定の構造物における被害発生率の想定を行なう災害直後被害想定ステップと、
前記災害が発生した後に更新された災害情報である更新災害情報と、前記災害が発生した後に前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報とに基づいて、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数を更新することで、前記所定の地域の一部以外において、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造における前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なう被害想定更新ステップと、
を含んだことを特徴とする災害被害想定方法。
【請求項9】
所定の地域において発生した災害による所定の構造物の被害を想定する災害被害想定方法をコンピュータに実行させる災害被害想定プログラムであって、
前記所定の地域において、過去に発生した前記災害の履歴情報である災害履歴情報を、当該所定の地域内に予め設定したメッシュごとに第一の記憶部に記憶する災害履歴情報記憶手順と、
前記所定の地域内に設置されている支持物の安全性を表す性能値と、当該支持物が設置されている地域の地盤条件などを考慮した地域特性を定量化した地域係数とから、前記災害の情報である災害情報に基づいて、前記メッシュごとの支持物の被害発生率を算出する被害率関数を第二の記憶部に記憶する被害率関数記憶手順と、
前記災害の発生を親ノードなしのノードとし、前記災害によって発生する前記支持物の被害と前記所定の構造物の被害とを含む複数の被害事象間の因果関係を条件付確率で表現するベイジアンネットワークによって定義して設定した設定ネットワーク構造を第三の記憶部に記憶する設定ネットワーク構造記憶手順と、
前記災害が発生した直後に取得した災害情報である直後災害情報と、前記第一の記憶部が記憶する前記メッシュごとの前記災害履歴情報とに基づいて、前記所定の地域全域における災害情報を推定し、推定された前記所定の地域全域における災害情報と、前記直後災害情報とともに取得した前記所定の地域全域において確定された被害情報である災害直後確定被害情報と、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数と、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造とに基づいて、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、前記災害が発生した直後の前記所定の構造物における被害発生率の想定を行なう災害直後被害想定手順と、
前記災害が発生した後に更新された災害情報である更新災害情報と、前記災害が発生した後に前記所定の地域の一部において確定された前記支持物の被害情報とに基づいて、前記第二の記憶部が記憶する前記被害率関数を更新することで、前記所定の地域の一部以外において、前記第三の記憶部が記憶する前記設定ネットワーク構造における前記所定の構造物における被害発生率の想定を、前記所定の地域に予め設定したメッシュごとに、更新して行なう被害想定更新手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする災害被害想定プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−92468(P2009−92468A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262092(P2007−262092)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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