説明

炊飯器

【課題】安定した保湿性能及びガス吸着性能が得られるため、長時間保温しても炊き立てご飯の味を維持できる炊飯器を提供する。
【解決手段】炊飯器本体と、この炊飯器本体に収容される鍋と、この鍋を加熱する加熱手段と、炊飯器本体の上部の開口部を覆う蓋とを具え、前記蓋は、鍋の内部に向く内側面に、吸放湿性及びエチレンガス吸着性を有し、無機多孔質原料を20〜98重量%含有する無機多孔質成形体を装着したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯後の保温の際、炊きたて時のご飯の風味を維持できる保温式の炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
炊きたてのご飯は水分を適量に含むことから、ふっくらとした舌ざわりがあり、大変美味である。しかしその後72〜74℃程度の温度で保温すると、時間経過とともに、ご飯の表面から水分が放出して乾燥するため、パサパサな状態に固くなって、味が低下する。特に保温中に炊飯器の蓋を頻繁に開けると、鍋内部に充満していた水蒸気が外部へ放出することから、保温中のご飯の乾燥が更に進行するという問題がある。
【0003】
一方、ご飯を炊きあげた直後から72〜74℃程度の温度で保温すると、ご飯に含まれる成分が変化してエチレンガスが生成され、不快な臭気(以下「保温臭」とする)を発散することから、味覚が損なわれてしまうという問題がある。
【0004】
そこで、これらの保温機能を備えた炊飯器が有する二つの課題に対し、蓋体内面に調湿材と脱臭剤とを配設することにより、保温時のご飯の乾燥を防止するとともに発生した保温臭を除去する提案がされている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平7−16148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、調湿材と脱臭剤とが、蓋体内面に並べて配置されることから、調湿材に近い側のご飯は水蒸気の調整は上手く行われるが、保温臭が残り、反対に脱臭剤に近い側のご飯の保温臭は、殆ど完全に吸収されるが、乾燥して味を落とすなど、調湿効果と脱臭効果にムラを生じることから、全体として炊きたての風味を維持することができないという問題があった。
【0007】
更には、調湿材と脱臭剤とは、その効果が別々に低下するものであるため、例えば片方の耐用時間の経過が見逃されたまま使用されることが多くあり、常に正常機能を維持するためには、個々にその性能の低下をチェックする必要があるなどメンテナンスに手間がかかるという問題があった。
【0008】
本発明は、鍋の内部に向く内側面に、吸放湿性及びエチレンガス吸着性を有する無機多孔質成形体を装着することを基本とし、安定した保湿性能及びガス吸着性能が得られるため、長時間保温しても炊き立てご飯の味を維持できる炊飯器の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、請求項1に係る発明では、炊飯器本体と、この炊飯器本体に収容される鍋と、この鍋を加熱する加熱手段と、炊飯器本体の上部の開口部を覆う蓋とを具え、前記蓋は、鍋の内部に向く内側面に、吸放湿性及びエチレンガス吸着性を有する無機多孔質成形体を装着したことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明では、無機多孔質成形体は、無機多孔質原料を20〜98重量%含有し、この無機多孔質原料は、平均細孔半径が10〜80Å、かつ最大吸湿率が10%以上であり、請求項3に係る発明において、前記無機多孔質成形体は、最大吸湿率が10%以上であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明では、前記無機多孔質成形体は、前記無機多孔質原料に融剤を加えるとともに700〜1100℃で焼成して得られた焼成成形体であることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明では、前記無機多孔質成形体は、酸化チタンを含有し、請求項6に係る発明において、無機多孔質成形体は、マイナスイオンを発生する鉱物を含有し、さらに請求項7に係る発明では、無機多孔質成形体は、表面が通気性コーティング層で被覆されていることを特徴とする。
【0013】
請求項8に係る発明においては、高温加熱時には鍋内部で発生する蒸気を排出するために開口し、蒸らし時乃至保温時には鍋内部の蒸気の漏れを阻止するために閉止できる自動開閉口を設け、請求項9に係る発明では、無機多孔湿成形体の放湿量確保のため、吸湿量が不足する無機多孔質成形体に対し水を送る給水手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明においては、蓋内側面に装着した無機多孔質成形体は、吸放湿性に優れるため、炊飯時に発生する水蒸気を無機多孔質成形体が吸収し、保温時にこれを徐々に放出して鍋内部の湿度を一定に保つことから、長時間保温されるご飯の乾燥を防止して、炊きたての風合いを失うことなく、美味しさを維持することができる。また無機多孔質成形体は、保温時に発生するエチレンガスなどを吸着できるため、保温されたご飯特有の保温臭が抑制されることから、炊きたてと同じ感覚の美味しさを保つことができる。しかも無機多孔質成形体は、未使用時に、一度吸着したガスを適度に放散することから、ガス吸着機能を半永久的に発揮できる。
【0015】
また無機多孔質成形体は、その全表面において吸放湿性及びガス吸着性を発揮することから、鍋内部の全体に亘って、炊飯の湿度を適度に維持できるとともに、充分なガス吸着量が得られる。しかも無機多孔質成形体は、基本的には吸放湿性、ガス吸着性が劣化することなく維持されることから、メンテナンスフリーであるため、高齢者などにおいても簡単に使用できる。
【0016】
請求項2に係る発明のように、平均細孔半径が20〜80Å、かつ最大吸湿率が10%以上の無機多孔質原料を20〜98重量%含有する無機多孔質成形体を用いると、吸収された水蒸気が毛細管凝縮することから充分に大きな吸湿量が得られるとともに、一度吸着されたエチレンガスを、未使用時に適度に放散できるためガス飽和しない。平均細孔半径が20Å未満であると、無機多孔質成形体に吸着された吸着ガスが、放散しにくく、飽和に達してしまうし、又水蒸気の放散もしにくく問題である。又80Åを超えると、毛細管凝縮せず、吸湿量が少なく、又ガス吸着能力も低い。
【0017】
請求項3に係る発明のように、最大吸湿率が10%以上の無機多孔質成形体を用いると、例えば3日間程度の長時間に亘り、ご飯を適度に保湿できる。特に、吸湿性を十分確保するには、最大吸湿率が15%以上の方が、望ましい。
【0018】
請求項4に係る発明のように、前記無機多孔質原料に融剤を加えるとともに700〜1100℃で焼成して得られた焼成成形体を用いると、高強度の成形体が得られるため、耐久性に優れるとともに、原料成分の溶出がないことから、安全で安定した性能が得られる。
【0019】
請求項5に係る発明のように、酸化チタンを含有する無機多孔質成形体を用いると、光の照射により光触媒効果を発揮することから、カビ、細菌を滅菌して高い衛生状態を維持できるとともに、吸着したエチレンガスを内部で分解するため、放散させることなくガス吸着効果を維持できる。永続的に使用が出来る。
【0020】
請求項6に係る発明のように、無機多孔質成形体にマイナスイオンを発生する鉱物を含有させると、鍋内部に放出されるマイナスイオンの働きで、エチレンガスをはじめとする不快なにおいを分解・消臭できる。又微生物の発生を抑えることが出来る。
【0021】
請求項7に係る発明のように、無機多孔質成形体の表面を通気性コーティング層で被覆すると、炊飯時に米から発生するご飯の煮汁(おねば)の付着がなくなることから、吸放湿性及びエチレンガス吸着性の低下を防止できる。しかも、汚染物質の付着を抑制できるともに、たとえ付着しても直ぐに洗浄できることから良好な衛生状態を維持できる。
【0022】
請求項8に係る発明のように、高温加熱時には開口し、蒸らし時乃至保温時には閉止する自動開閉口を設けると、加熱時には水蒸気の必要量を吸湿でき、蒸らし時乃至保温時には無機多孔質成形体から放出する水蒸気によって、内部を適度な湿度に維持する。
【0023】
請求項9に係る発明のように、吸湿量が不足する無機多孔質成形体に対し水を送る給水手段を設けると、長時間に亘り保温する場合でも、適度な放湿量が確保されるため、ご飯の乾燥を防止して炊きたての美味しさをそのまま維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の一形態を、図示例とともに説明する。図1に示すように、炊飯器1は、上部が開口した容器状をなすとともに、テーブル、カウンターなどの上に安定して載置される炊飯器本体2と、この炊飯器本体2に収容される鍋3と、炊飯器本体2上部の開口部を覆う蓋5と、この蓋5の内側面に装着される無機多孔質成形体6と、加熱手段4とを有する。
【0025】
前記鍋3は、お米を入れて炊飯するとともに、炊き上がったご飯をそのまま保温するものであり、前記炊飯器本体2内部に、着脱可能に挿入される。
【0026】
前記蓋5は、本形態では外蓋5Sと内蓋5Uとを含み構成される。外蓋5Sは、炊飯器本体2に滑らかに連続する形状をなし、その中心部に貫通孔16を有する。そしてこの外蓋5Sは、炊飯器本体2の上縁部の受部11に軸着されることにより、炊飯器本体2の上部に起倒自在に取り付けられる。さらに炊飯器本体2の前記受部11に向き合う上縁部に設けた鍵状部12が、外蓋5Sの縁部と係合することによって、外蓋5Sが炊飯器本体2上部にロックされる。
【0027】
前記内蓋5Uは、略円盤状をなし前記鍋3の上縁部と略同じ直径で形成され、下面から垂下して形成された小径短輪状の内片23Uと、これと同心で大径短輪状の外片23Sとを有する。また内蓋5Uの外周縁部には、リング状のパッキン13が装着されるとともに、係合部14によって前記外蓋5Sの下面に着脱可能に取り付けられる。そして前記の如く、外蓋5Sが炊飯器本体2にロックされる時、内蓋5Uは前記パッキン13を介して鍋3の上縁部に密着することから、鍋3内部が密封される。
【0028】
前記内蓋5Uは、その中心部に前記内片23Uの内側に連続した通孔15が形成され、しかもこの通孔15は、前記外蓋5Sの貫通孔16と向き合って配置される。図2に示すように、前記貫通孔16は、中央に例えば2〜6mm程度の小孔17を有する上鍔18U、下鍔18Dで、上下端部が遮られ、かつ上鍔18U、下鍔18D間に前記小孔17よりも大径の球19が挿入されている。しかして、高温加熱時には、図2に示すように、鍋内部で発生する水蒸気圧によって球19が押し上げられることから、通孔15及び貫通孔16をとおる水蒸気の排出経路20が形成され、蒸らし時乃至保温時には水蒸気圧が低下するため球19が下鍔18Dの鍋内部の小孔17を閉じることから、水蒸気の漏れを防止する自動開閉口7が構成される。このような自動開閉口7を設けると、鍋3内部を適度な湿度に維持することができる点で好ましい。
【0029】
前記加熱手段4は、鍋3を加熱する誘導加熱コイルが用いられ、本形態では、炊飯器本体2の底部、側面部に各々設けられた底部加熱手段4T、側面部加熱手段4Sとを含み構成されたものを例示している。これに加えて、外蓋5Sに蓋部加熱手段(図示せず)を設けて、上方から鍋3を加熱することも良い。これらの加熱手段4は、スイッチ、温度センサ(図示せず)からの信号を受けて動作するマイコンを含む制御手段21によってコントロールされる。
【0030】
図3に示すように、前記無機多孔質成形体6は、中央部に丸孔22が形成されたドーナツ形状をなし、その直径が、前記内蓋5Uよりも少し小さく形成される。そして内蓋5Uの下面に添い、かつ内片23Uと外片23Sとの間に嵌合して取付けられる。このように、本形態の無機多孔質成形体6は、内片23U、外片23Sの間に嵌合して取り付けられることから、端部の割れ欠けを防止できるとともに、頻繁に開閉動作する内蓋5Uに安定して取付しうる点で好ましい。
【0031】
無機多孔質成形体6は、無機多孔質原料を含み、焼成或いは非焼成により前記した一定の形状に成形される。無機多孔質原料は、細孔を無数に有し、その細孔内に水蒸気或いは、エチレンガスが吸着されることから、無機多孔質成形体6に、湿気を吸収保持し吸収保持した水分を放出する可逆的な吸放湿機能、及びエチレンガス吸着性が生まれる。なお吸湿作用と放湿作用の切り替えは、環境の湿度条件によって発現する。湿度60%RH以上で、無機多孔質成型体の空隙部に凝縮水が存在し、絶えず、噴水のように空隙から水蒸気が出たり入ったりして、水蒸気の水のクラスターが、小さい状態で保たれており、マイナスイオン効果もある。無機多孔質成型体は、単に、エチレンガスだけではなく、アンモニアなどの塩基性ガス、硫化水素などの酸性ガスなど、多様な悪臭ガスを吸着する為、悪臭の発生を防ぐことが出来る。特に、アンモニア、ホルムアルデヒドなどの水溶性のガスは、空隙内の凝縮水に溶け込み、大量に吸着される。エチレンガスは、腐るときに発生し、腐敗を促進するガスと言われており、エチレンガスを吸着することにより、腐敗を抑えることが出来る為、米の腐敗を防ぎ、みずみずしい状態に保つことが出来る為、おいしいお米が長時間保存できる。
【0032】
このような無機多孔質成形体6を、蓋内側面に装着することにより、炊飯時には多量に発生する水蒸気が無機多孔質成形体吸収され、炊き上がりの蒸らし時及び保温時には、吸収された水蒸気を徐々に放出して鍋内部が好適な湿度に維持される。そのため、長時間保温したとしてもご飯の乾燥が防止されることから、炊きたての風合いを失うことなく、美味しさを維持することができる。
【0033】
しかも無機多孔質成形体6は、保温中にご飯から発生するエチレンガスを細孔内に吸着できるため、保温したご飯特有の保温臭が抑制される。そのため前記乾燥防止効果と相俟って炊きたて同様の美味しさが維持される。また無機多孔質成形体6は、未使用時には、細孔内に吸着したガスを適度に放散することから、ガス吸着機能がリフレッシュして効果が持続するため、繰り返し使用できる。10Å以上の平均最高半径であれば、放散が可能であるが、特に、20Å以上であれば、ガスを放散しやすく、ガスの放散が容易となる。空隙内で、反応して固定なされるガスもあるが、その場合は、光触媒で分解される。10Å未満の空隙は、放散させる為に、100℃以上の大きなエネルギーが必要となり、問題である。
【0034】
更に、無機多孔質成形体6は、その表面全体において吸放湿性及びガス吸着性を有するため、鍋内部で保温されるご飯全体の湿度がムラなく適度に維持されるとともに、充分なガス吸着量が得られる。しかも無機多孔質成形体6は、前記の如く吸放湿性、ガス吸着性が劣化しないことから、メンテナンスフリーであり、高齢者などにおいても簡単に取扱いできる。更には、最大吸湿率が10%以上の無機多孔質成形体6を用いると、例えば2日間程度、長時間ご飯を保温しても、表面などが乾燥することなく炊き立ての風合いを維持できる。
【0035】
無機多孔質成形体6に用いる無機多孔質原料としては、最大吸湿率が10%以上のものが有効である。特に最大吸湿率15%以上の無機多孔質原料が、更に有効であり、珪質頁岩、アロフェン、イモゴライト、セピオライト、活性白土、大谷石、などがあり、さらには複数種類のものを組み合わせて使用することもよい。この中で、珪質頁岩、セピオライトは、耐熱性が、900℃以上あり、1100℃の焼成まで、空隙がふさがりにくく、有効である。空隙を、多く確保するには、1000℃以下で焼成することが、望ましい。
【0036】
このような最大吸湿率が10%以上の無機多孔質調湿材を成形原料の全体に対して20〜98重量%配合すると、前記の如く、ご飯を好適な状態で長時間保温しうる最大吸湿率10%以上無機多孔質成形体6を得ることができる。20重量%未満では、目的とする調湿機能などが十分に得られない。逆に98重量%を超えると、強度が不足することからクラックを生じ易くなり、成形時に形状維持が困難になる。但し、無機多孔質原料に、粘土分を含むものがあり、その場合は、無機多孔質原料のみで成型が可能であり、100%無機多孔質原料のみで成形板を作りことが出来る。多く配合することにより、優れた性能を得ることが出来、バインダーなどの工夫により、配合量を多くすることが出来る。
【0037】
無機多孔質調湿材は、平均細孔径が10〜80Åの範囲のものが好適であり、毛細管凝縮しうる適当な空隙が形成される。このような大きさの細孔にあっては、湿度が60%RH以上の環境で凝縮水を形成することから吸放湿性に優れるとともに、エチレンガスを良く吸着できる上、吸着したガスを適度に放散しうるため飽和しない点で好ましい。10Å未満では、空隙が過小なことから、毛細管凝縮できないとともに吸着したエチレンガスを放散出来ないために飽和してしまう。20Å以上で、より放散しやすい為、より好ましい。逆に80Åを超えると、湿度が60%RH以上の環境でも凝縮水が形成できないことから、吸放湿性及びエチレンガスの吸着性が低下する。
【0038】
無機多孔質成形体6に、酸化チタンを含有させることが好ましい。酸化チタンは、紫外線を受け活性酸素を発生し、その強い酸化分解作用で汚れ、細菌、悪臭等を二酸化炭素、水に分解し、除菌、抗菌、空気・水の浄化、防汚、脱臭作用等、光触媒としての機能を発揮する。炊飯器においては、除菌、抗菌機能により、衛生状態が向上でき、かつ脱臭作用によって、長時間保温時に炊きたての風合いが維持される。蓋を取り外して、日光に当てると、吸着ガスの分解が早く、蓋又は無機多孔質成型体を取り外すことが出来る構造にしておくと永続的に使用が可能となる。
【0039】
また無機多孔質成形体6に、モナズ石に代表されるマイナスイオンを発生する鉱物を微量含有させることが好ましい。保温中の炊飯器内において発生するマイナスイオンによって、不快なにおいが分解、消臭されるとともに、殺菌作用を発揮して衛生状態が維持される。
【0040】
無機多孔質成形体6の表面は、通気性コーティング層で覆われている。この通気性コーティング層は、アルキルシリケート、金属アルコラート、イソプロピルアルコールなどを含み特殊処理して得られた無機系コーティング材、アクリル樹脂に通気性を付与した通気性アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂を用いた有機性コーティング材などを用いることができる。このような無機系コーティング材を用いると、硬度が高いとともに、耐久性に優れる点で好ましい。通気性コーティング層は、通気性が確保できる薄膜層とし、無機多孔質成型体の吸放質性、ガス吸着性を確保する必要がある。通気性コーティング層によって被覆された無機多孔質成形体6は、その表面に、炊飯時に米から発生するご飯の煮汁(おねば)の付着が抑制されることから、吸放湿性、及びエチレンガス吸着性を維持できる。更には、例え汚れた付着したとしても、簡単に洗浄できることから高い衛生状態を維持しうる点で好ましい。
【0041】
無機多孔質成形体6は、炊飯時及び炊飯後に充分に吸湿した湿気を放湿することにより、保温時も、炊飯器内部が、多湿状態となり、ご飯が乾燥することはない。上蓋の開閉が多すぎて、ご飯が乾くような場合は、内蓋5U裏面に配置された給水タンクTから無機多孔質成形体に補水することによって、湿潤状態を維持できる。このように、給水タンクTからなる給水手段8を設けると、長時間保温した場合でも、必要な一定量の放湿が確保できるため、ご飯の乾燥が防止でき、炊きたての美味しさを長く維持することができる。
【0042】
無機多孔質成形体6を成形するに際して、バインダーとして、可塑性を有する粘土などを配合し、プレス成型時生強度を確保し、焼成後の安定した製品を得ることが出来る。強度が不足する場合は、無機多孔質原料に融剤を加配するとともに、700〜1100℃の高温で焼成すると、硬くて高強度の成形体が得られる。高温になると強度は出るが、空隙を、溶融により、空隙が少なくなる為、1000℃以下で焼成することが望ましい。融剤としては、ガラス粉、アルカリ塩などが使用できる。特に、限定はしないが、焼成後、無機多孔質成形体から、溶出成分が出ない融剤が好ましい。磨耗、割れ、欠けなどがなく耐久性に優れ、原料成分が溶出しない無機多孔質成形体により、安全で安定した調湿性能及びガス吸着性能が得られる。
【0043】
以下焼成による製造方法を、工程順に詳説する。
[配合工程]
成形原料は、前記無機多孔質調湿原料、可塑剤、融剤及び着色剤などが配合される。特に、融剤は、必要としないが、強度が不足するときは、配合する場合がある。これらを配合した成形原料に、水を加えて、ボールミルにて湿式粉砕し、均一に配合粉砕を行う。加水粉砕調合された原料をフィルタープレスにより、押し出し成型原料としても良いし、スプレー造粒・乾燥により、顆粒粉を作り、原料としても良い。原料は、水分量を調整しておき、成型しやすい水分量にしておく必要がある。
特に、製法を特定するものではない。
【0044】
前記融剤としては、例えばガラス粉、亜鉛華などが用いられ、成形原料の溶融点を降下させて粒子間の結合を強くし、より強い成型体を作ることが出来る。
【0045】
無機多孔質原料をプレス後、乾燥し、焼成を行い無機多孔質成形体、6を得ることが出来る。顆粒粉原料を用いた半湿式プレス成型方法でも良いし、フィルタープレスした原料を用いて、真空土練機にて、押し出しした後、プレスしても良い。焼成温度は、700〜1100℃であることが好ましい。より好ましくは、800〜1000℃の範囲が望ましい。700℃未満では、強度が不足し、溶出成分も溶出する。又1100℃を超えると、空隙が、溶融により塞がってしまい吸湿能力、ガス吸着能力が、大幅に低下する。好ましくは、800℃以上、出来れば、850℃以上が、強度、溶出成分の溶出を防止する意味で、より好ましい。又溶出しやすい成分を保有している融剤の使用が削減でき、溶出成分の無い無機成形体を得るにも、850℃以上が好ましい。
【0046】
無機多孔質原料で、非晶質の白土、アロフェン、イモゴライトなどは、800℃以下で空隙が塞がりやすく、珪質頁岩、セピオライトのような一部結晶化している無機多孔質原料が、耐熱温度が、1000℃程度有り、好ましい。特に、珪質頁岩は、日本の北海道に豊富に産出する原料であり、アンモニア、ホルマリンなどの塩基性ガスを大量に吸着し、又酸性ガス、有機系ガスなど多様なガスを吸着する為、好ましい。又天然原料であり、バラつきは有るが、最大吸湿率が、10%以上あるのが大半であり、良好なものになると15%以上の性能を有し、最大のものは、25〜30%のものもあり、最も好ましい原料である。珪質頁岩は、弱酸性であり、ガラス粉などを加えることにより、PHを中性域にすると、腐敗臭の酸性ガスをより吸着し、効果が大きい。
【0047】
無機多孔質原料を20〜98%、バインダー成分2〜80%を、重量比で配合し、湿式粉砕均一調合する。前記バインダーとしては、PVA(ポリビニルアルコール)等の有機結合剤、ベントナイト、粘土等の無機系可塑剤等が用いられ、適量加配することによって、成形して得られる素地に保形性を付与することができる。前記バインダーの配合量は、成型方法に適した配合量を適宜選択すれば良い。吸湿性及びガス吸着性を高くするには、無機多孔質原料を多く配合する必要がある。配合量が少ないと無機多孔質原料の厚さが厚くなり、上蓋が重くなり問題である。好ましくは、50%以上を配合すると、厚さが薄くて、性能に優れたまた無機多孔質成型体が出来、50%以上配合するのが、良好な上蓋となる。前記着色剤としては、吸放湿性を阻害することが少ない無機材料からなるものを使用することが好ましい。特に、着色剤は、外観上の問題であり、使用する必要は無い。
【0048】
これらの成形原料は、通常、粉粒状、成形品あるいは液状の原料を用いることが出来る。成形方法により異なる。半湿プレスの場合が、分粒状で用いることが多く、真空土練機で押し出し成形する場合は、成形品を用いることが多く、流し込みの場合は、液状の原料を使用する場合が、多い。成形方法に特に拘るものではない。
[造粒工程]
半湿式プレス成形の場合は、湿式粉砕後に造粒して顆粒状の成形原料を調製すると、各原料成分が均等に配合されるとともに、金型への均一重点も出来、全体に一定のプレス圧を掛けることができる為、取扱いが容易で、成形作業に適している。造粒物の粒径は、平均粒径0.1〜1mmに設定する。更には、平均粒径0.2〜0.8mmとするのが好ましい。
【0049】
[成形工程]
タイルの成形工程と同様に、プレス成形、押出成形、注型成形などで成形する。そしてタイルと同じ成形装置を用い、同様の条件で処理する。但し成形方法によって好ましい含水率が異なるため、成形前に適した含水率に調整する必要がある。なお成形原料は、成形型に充填して、乾燥させるだけでも、保形性のある成形物を得ることができる。
【0050】
<半湿式プレス成形>
成形型に充填した状態で加圧する乾式プレス成形を用いる際は、成形原料を造粒することによって、品質安定性、生産性を向上できる。造粒物の含水率は13〜30重量%とすることが好ましい。またプレス圧力は、980〜2450N/cmに設定することが好ましい。980N/cm未満では、無機多孔質成形体6の強度が不足し、逆に2450N/cmを超えると、焼成しても充分な空孔が形成されなくなり、焼成工程で発泡圧力によって爆裂する恐れがある。
【0051】
<押出成形>
無機多孔質成形体6の形状を矩形状、棒状などとする場合は、所定形状の口金から成形原料を高圧で押し出すことによって、連続した成形物を得ることのできる押出成形を用いることも可能である。押出成形では、成形原料を湿式混合粉砕後、脱水フィルタープレス成形してケーキ板を製造し、このケーキ板を粉砕し加水し用いるのが好ましい。押出成形した成形物を適宜長さに切断して、無機多孔質成形体6を得ることができる。高い成形性を得るためには、成形原料の含水率を25〜40重量%程度とした湿式押出成形が好ましい。この場合に押出圧力は98〜590N/cmの範囲に設定する。98N/cm未満では、押出し成形品の保形性が不足しがちである。逆に590N/cmを超えると、焼成しても充分な空孔が形成されなくなり、焼成工程で発泡圧力によって爆裂する恐れがある。
【0052】
[焼成工程]
成形工程で得られた成形物を、燃焼炉、電気炉などの焼成炉を用いて高温焼成する。焼成温度は、使用原料、無機多孔質成形体6の大きさ及び形状などによって異なるが、例えば700〜1100℃程度、好ましくは800〜1000℃である。焼成時間は、1〜6時間程度とする。このように成形物を高温で焼成することから、高強度の成形体が得られるため、無機多孔質成形体6は優れた耐久性が備わる。更には原料成分が溶出しないため、安全性が高くかつ性能が安定する。焼成後に焼成炉から取り出した焼成物に仕上げ処理を行って無機多孔質成形体6が得られる。
【実施例】
【0053】
無機多孔質成形体6の具体的実施例とその性能を評価した結果を示す。
<成形原料の配合>
表1に示す配合に基づき、成形原料を調製した。各配合は、重量%で表す。
<造粒物の調製>
前記配合にもとづく成形原料50kgをボールミルに入れ、24時間かけて湿式粉砕したあと、スプレー乾燥造粒を行い、平均粒径0.5mm、含水率20%の造粒物を得た。
<プレス成形>
造粒物を、成形型に充填し、圧力981N/cmで乾式プレス成形して、成形体素地を得た。成形体素地の形状は、ドーナツ円盤状とし、その寸法は、直径250mm、中央の孔径50mm、厚さ10mmである。成形体素地を、60℃で1時間以上かけて乾燥させた。
<焼成>
乾燥後の成形体素地を、ローラ−ハースキルンを用いて、最高温度950℃で2時間焼成し、無機多孔質成形体6を得た。
【0054】
<性能測定>
得られた5種類の無機多孔質成形体を個別の炊飯器に取り付けるとともに、各々7合のご飯を炊飯した後、48時間75℃にて保温した。更に従来例として、無機多孔質成形体を装着しない炊飯器を使用し、ご飯を炊いて同条件で保温した。そして保温した6種類のご飯を、15歳から70歳の男女各10人からなる評価者が試食し、味覚に関する官能評価を行なった。その結果実施例1〜5においては、保温後のご飯に味覚低下はなく、炊きたてと比べて遜色のない評価が得られ、しかも保温臭も全く感知されなかった。これに比べ、従来例の炊飯器で保温したご飯では、水分の飛散によって固くなり、風味が著しく損なわれる結果が得られ、また殆どの評価者が保温臭を感じた。その結果を、前記表1に示している。
【0055】
【表1】

【0056】
尚、叙上の説明は本発明の実施の形態を例示したものである。従って本発明の技術的範囲はこれに何ら限定されるものではなく、前記した実施の形態の他にも、各種の変形例が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施の形態を例示する縦断面図である。
【図2】その要部拡大図である。
【図3】無機多孔質成形体の斜視図である。
【図4】給水手段を例示する拡大断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 炊飯器
2 炊飯器本体
3 鍋
4 加熱手段
5 蓋
6 無機多孔質成形体
7 自動開閉口
8 給水手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炊飯器本体と、この炊飯器本体に収容される鍋と、この鍋を加熱する加熱手段と、炊飯器本体の上部の開口部を覆う蓋とを具え、
前記蓋は、鍋の内部に向く内側面に、吸放湿性及びエチレンガス吸着性を有する無機多孔質成形体を装着したことを特徴とする炊飯器。
【請求項2】
前記無機多孔質成形体は、無機多孔質原料を20〜98重量%含有し、
この無機多孔質原料は、平均細孔半径が10〜80Å、かつ最大吸湿率が10%以上であることを特徴とする請求項1記載の炊飯器。
【請求項3】
前記無機多孔質成形体は、最大吸湿率が10%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の炊飯器。
【請求項4】
前記無機多孔質成形体は、前記無機多孔質原料に融剤を加えるとともに700〜1100℃で焼成して得られた焼成成形体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炊飯器。
【請求項5】
前記無機多孔質成形体は、酸化チタンを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炊飯器。
【請求項6】
前記無機多孔質成形体は、マイナスイオンを発生する鉱物を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の炊飯器。
【請求項7】
前記無機多孔質成形体は、表面が通気性コーティング層で被覆されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の炊飯器。
【請求項8】
高温加熱時には鍋内部で発生する蒸気を排出するために開口し、蒸らし時乃至保温時には鍋内部の蒸気の漏れを阻止するために閉止できる自動開閉口を設けたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の炊飯器。
【請求項9】
無機多孔湿成形体の放湿量確保のため、吸湿量が不足する無機多孔質成形体に対し水を送る給水手段を設けたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の炊飯器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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