説明

炊飯器

【課題】多様な炊飯コースに応じて、被炊飯物の食味をより一層良好にすること、あるいは炊飯時間を短縮することができる炊飯器を提供する。
【解決手段】本発明の炊飯器は、鍋を加熱する鍋加熱装置と、鍋内に過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給部と、鍋の温度を検知する鍋温度検知部と、複数の炊飯コースの中から特定の炊飯コースを選択可能な炊飯コース選択部と、炊飯コース選択部にて選択された炊飯コース及び鍋温度検知部の検知温度に基づいて加熱装置の加熱動作を制御し炊飯工程を行う炊飯制御部とを備え、過熱蒸気供給部は2以上の異なる温度の過熱蒸気を生成可能に構成され、炊飯制御部は炊飯コース選択部にて選択された炊飯コースに対応する温度の過熱蒸気を過熱蒸気供給部に生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過熱蒸気を用いる炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
炊飯器においては、ご飯の食味の良さが求められるとともに、炊飯工程に要する時間、すなわち炊飯時間の短縮が求められている。
【0003】
ここで、「炊飯工程」とは、予熱工程(吸水工程ともいう)と、昇温工程と、沸騰維持工程と、蒸らし工程の主として4つの工程で構成されるものである。予熱工程は、米の糊化開始温度(約60度)よりも低温の水に米をひたして、予め米に吸水させる工程である。昇温工程は、鍋内の水を沸騰状態(約100℃)まで温度上昇させる工程である。沸騰維持工程は、鍋内の水の沸騰状態を維持して、米のデンプンを糊化させ、糊化度を50%〜80%程度まで引き上げる工程である。蒸らし工程は、予熱を利用して余分な水分を蒸発させ、米の糊化度を100%近くまで引き上げる工程である。
【0004】
ご飯の食味は、甘味成分であるグルコース(ブドウ糖)が多いほど良好であるとされている。グルコースは、米に含まれる酵素によりデンプン(アミロース/アミロペクチン)が加水分解されることで生成される。予熱工程の時間を長くして米に十分に吸水させるほど、より多くのグルコースを生成することができる。従来、炊飯時間を短くするのに、前記予熱工程の時間を短くすることが行われている。この場合、グルコースの生成が減ることになるので、ご飯の食味は悪くなる。
【0005】
また、ご飯の食味は、米の糊化度が高いほど、良好であるとされている。このため、前記蒸らし工程が行われている。この蒸らし工程では、鍋内の水がほぼ無くなった状態であるため、鍋内のご飯が焦げやすくなっている。また、鍋内のご飯の上面は、当該ご飯の上方の空間を介して加熱されるのに対し、ご飯の他面は鍋を介して加熱される。このため、ご飯の上面だけ乾燥するなど、炊きムラが生じやすい。このため、誘導加熱コイルのみによって鍋を加熱する炊飯器においては、ご飯が焦げ付かないように且つ炊きムラが生じないように、低火力で長時間加熱する必要がある。この蒸らし工程の時間を短縮すると、当然ながら、食味は悪くなる。
【0006】
すなわち、炊飯時間を短縮することとご飯の食味を良くすることとは、トレードオフの関係にある。この課題を改善する炊飯器が、例えば、特許文献1(特開2003−144308号公報)に開示されている。特許文献1には、鍋の開口部から鍋内に100℃を超える過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給部を備えた炊飯器が開示されている。特許文献1の炊飯器によれば、鍋の開口部から鍋内に過熱蒸気を供給することによって、ご飯の上面だけ乾燥することを防ぐとともに、ご飯の焦げ付きを抑えてより多くの熱量をご飯に与えることができる。これにより、蒸らし工程に要する時間を長くすることなく、ご飯の食味を良好にすることができる。あるいは、ご飯の食味を低下させることなく、蒸らし工程に要する時間を短くすることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−144308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、炊飯器にて炊飯される被炊飯物は、白米のみならず、玄米や発芽玄米、雑穀米など多様化している。このため、炊飯器は、一般に、それらの被炊飯物に適した炊飯シーケンスで炊飯することができるように、白米コースや玄米コース、白米(柔らかめ)コースなどの複数の炊飯コースの中から特定の炊飯コースを選択可能に構成されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1の炊飯器を用いて鍋内に過熱蒸気を供給しながら玄米を炊飯したところ、炊飯されたご飯は、青臭く、硬くポロポロした食感があり、甘味が少なく、水っぽいものであった。また、特許文献1の炊飯器を用いて鍋内に過熱蒸気を供給しながら発芽玄米を炊飯したところ、炊飯されたご飯は、少し青臭く、ベタ付きがあり、水っぽく、柔らかいものであった。すなわち、特許文献1の炊飯器では、多様な炊飯コースに応じてそれらの食味を良好にすることができない。また、当然ながら、炊飯時間を短縮することもできない。
【0010】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、多様な炊飯コースに応じて、被炊飯物の食味をより一層良好にすること、あるいは炊飯時間を短縮することができる炊飯器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明によれば、炊飯器本体の内部に収納される鍋と、
前記鍋を加熱する鍋加熱装置と、
前記鍋内に過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給部と、
前記鍋の温度を検知する鍋温度検知部と、
複数の炊飯コースの中から特定の炊飯コースを選択可能な炊飯コース選択部と、
前記炊飯コース選択部にて選択された炊飯コース及び前記鍋温度検知部の検知温度に基づいて前記加熱装置の加熱動作を制御し、炊飯工程を行う炊飯制御部と、
を備え、
前記過熱蒸気供給部は、2以上の異なる温度の過熱蒸気を生成可能に構成され、
前記炊飯制御部は、前記炊飯コース選択部にて選択された炊飯コースに対応する温度の過熱蒸気を前記過熱蒸気供給部に生成させる、
炊飯器を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる炊飯器によれば、前記炊飯コース選択部にて選択された炊飯コースに対応する温度の過熱蒸気を過熱蒸気供給部に生成させるようにしているので、炊飯コースに応じて最適な温度の過熱蒸気を鍋内に供給することができる。これにより、炊飯時間を長くすることなく被炊飯物の食味を一層良好にすること、あるいは被炊飯物の食味を低下させることなく炊飯時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる炊飯器の模式断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかる炊飯器の蓋本体の一部を切り欠いた状態を模式的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の発明者らは、前記従来技術の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0015】
特許文献1のような従来の炊飯器が備える過熱蒸気供給部は、特定の温度の過熱蒸気を鍋内に供給するように構成されている。これは、ご飯の焦げ付き及び乾燥を防止するという観点では、特定の温度の過熱蒸気を鍋内に供給できれば十分であるからである。
【0016】
これに対して、本発明の発明者らは、白米コースや玄米コース、白米(柔らかめ)コースなどの炊飯コースによって最適な過熱蒸気の温度が存在することを知見した。例えば、炊飯コースが白米コースである場合、過熱蒸気の温度を200℃に設定することで、食味の向上及び炊飯時間の短縮を実現でき、さらに香りの向上も実現できることを知見した。
【0017】
具体的には、200℃の過熱蒸気を鍋内に供給することで、ご飯の中まで熱が通るとともにご飯の表面がコーティングされ、冷めても水分が蒸発せず、硬くなりにくいことを知見した。また、200℃の過熱蒸気を鍋内に供給することで、130℃の過熱蒸気を鍋内に供給する場合と比べて、香りが良いとされるピラジンが20%増加し、香りが悪いとされるヘキサナールが35%減少することを知見した。また、200℃の過熱蒸気を鍋内に供給することで、蒸らし工程においてもグルコースの生成を促進できることを知見した。すなわち、グルコースは、米のデンプンが加水分解してオリゴ糖(グルコースが2〜10結合した糖の総称)となり、当該オリゴ糖が加水分解することで生成されるものである。従来の炊飯器では、デンプンからグルコースまでの加水分解を全て予熱工程にて行うようにしている。これに対して、蒸らし工程では既に水がご飯に吸水された状態であるため、200℃の過熱蒸気を鍋内に供給することで、ご飯を直接加熱することができ、オリゴ糖をグルコースに加水分解することが可能となる。すなわち、予熱工程において米のデンプンをオリゴ糖に加水分解し、蒸らし工程においてオリゴ糖をグルコースに加水分解することが可能になる。これにより、グルコースの生成量を低減させることなく、予熱工程に要する時間を短縮して炊飯時間を短縮することができる。例えば、過熱蒸気を鍋内に供給しない場合の炊飯時間が56分であるとき、200℃の過熱蒸気を鍋内に供給することで炊飯時間を44分まで短縮することができる。
【0018】
なお、200℃の過熱蒸気ではなく、例えば200℃の誘導加熱コイルによりご飯を加熱した場合には、前記効果を得ることはできないことを確認している。また、過熱蒸気の温度を150℃に設定した場合、炊飯されたご飯は、少し青臭く、甘味が少なく、硬めのものであった。また、150℃の過熱蒸気を鍋内に供給する時間を長くしても、200℃の過熱蒸気を鍋内に供給したときのご飯よりも食味の良いご飯を炊飯することはできなかった。すなわち、本発明の発明者らは、前記効果を得る上で、加熱源として過熱蒸気を用いること及び当該過熱蒸気の温度が重要であることを知見した。
【0019】
また、本発明の発明者らは、例えば炊飯コースが発芽玄米である場合、過熱蒸気の温度を150℃に設定することで、炊飯時間を長くすることなく、米の中心まで柔らかく炊飯することができ、かつ、香りが悪いとされる発芽玄米特有の香りを減らすことができることを知見した。なお、過熱蒸気の温度を200℃に設定した場合、炊飯されたご飯は、発芽玄米特有の香りが強く、硬いものであった。すなわち、過熱蒸気の温度が高いほど、食味の向上及び炊飯時間の短縮を実現できるのではない。
【0020】
また、本発明の発明者らは、例えば炊飯コースが炊き込みコースを炊飯する場合、過熱蒸気の温度を130℃に設定することで、炊飯時間を長くすることなく、具材の香りが低減されず、粒のバランス及び膨らみが良く、全体的に柔らかいご飯を炊飯できることを知見した。なお、過熱蒸気の温度を200℃に設定した場合、炊飯されたご飯は、醤油が焦げたような香りがし、粒がしっかりした硬めのものであった。また、過熱蒸気の温度を150℃に設定した場合、炊飯されたご飯は、具材の香りが少なく、粒のバランスが悪く、粒の中が硬めのものであった。
【0021】
本発明の発明者らは、これらの知見に基づき、以下の本発明に想到した。
【0022】
本発明の第1態様によれば、炊飯器本体の内部に収納される鍋と、
前記鍋を加熱する鍋加熱装置と、
前記鍋内に過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給部と、
前記鍋の温度を検知する鍋温度検知部と、
複数の炊飯コースの中から特定の炊飯コースを選択可能な炊飯コース選択部と、
前記炊飯コース選択部にて選択された炊飯コース及び前記鍋温度検知部の検知温度に基づいて前記加熱装置の加熱動作を制御し、炊飯工程を行う炊飯制御部と、
を備え、
前記過熱蒸気供給部は、2以上の異なる温度の過熱蒸気を生成可能に構成され、
前記炊飯制御部は、前記炊飯コース選択部にて選択された炊飯コースに対応する温度の過熱蒸気を前記過熱蒸気供給部に生成させる、
炊飯器を提供する。
【0023】
本発明の第2態様によれば、前記炊飯制御部は、前記炊飯コース選択部にて選択された炊飯コースに対応する時間、前記過熱蒸気供給部に前記過熱蒸気を生成させる、第1態様に記載の炊飯器を提供する。
【0024】
本発明の第3態様によれば、前記炊飯制御部は、前記炊飯コース選択部にて選択された炊飯コースに対応する前記過熱蒸気の温度を炊飯量に応じて調整する、第1又は2態様に記載の炊飯器を提供する。
【0025】
本発明の第4態様によれば、前記炊飯制御部は、前記過熱蒸気供給部が前記鍋内に前記過熱蒸気を供給する時間を炊飯量に応じて調整する、第1〜3態様のいずれか1つに記載の炊飯器を提供する。
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態によって、本発明が限定されるものではない。
【0027】
《実施形態》
図1又は図2を用いて、本発明の実施形態にかかる炊飯器の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる炊飯器の模式断面図である。図2は、本発明の実施形態にかかる炊飯器の蓋本体の一部を切り欠いた状態を模式的に示す上面図である。
【0028】
図1に示すように、本実施形態にかかる炊飯器は、内部に鍋収納部1aが形成された略有底筒状の炊飯器本体1と、鍋収納部1aに収納され、米と水が入れられる鍋2とを備えている。炊飯器本体1の上部には、炊飯器本体1の上部開口部を開閉可能に蓋本体3が取り付けられている。蓋本体3の内側(鍋2の開口部を覆う側)には、鍋2の上部開口部を密閉可能な略円盤状の内蓋4が着脱可能に取り付けられている。
【0029】
炊飯器本体1の鍋収納部1aは、上枠1bとコイルベース1cとで構成されている。上枠1bは、収納された鍋2の側壁に対して所定の隙間が空くように配置される筒状部分1baと、筒状部分1baの上部から外方に突出し炊飯器本体1の上部開口部の内周部に嵌合するフランジ部1bbとを備えている。また、フランジ部1bbには、水タンク5を収納する水タンク収納部1bcが形成されている。水タンク5は、蒸気を生成するための水を入れる有底筒状の容器である。水タンク収納部1bcの外周面には、水タンク5を加熱(誘導加熱)する水タンク加熱コイル6が取り付けられている。水タンク加熱コイル6が水タンク5を加熱することにより、水タンク5内の水が沸騰して、約100℃の蒸気が生成される。また、水タンク収納部1bcの側部には開口が設けられている。当該開口部分には、水タンク5の温度を測定するための水タンク温度センサ7が、水タンク収納部1bcに収納された水タンク5の側部に当接可能に配置されている。
【0030】
コイルベース1cは、鍋2の下部の形状に対応して有底筒状に形成され、その上部が上枠1bの筒状部分1baの下端部に取り付けられている。コイルベース1cの外周面には、鍋2を加熱(誘導加熱)する鍋加熱装置の一例である鍋底加熱ユニット8が取り付けられている。鍋底加熱ユニット8は、底内加熱コイル8aと底外加熱コイル8bとで構成されている。底内加熱コイル8aは、コイルベース1cを介して鍋2の底部の中央部周囲に対向するように配置されている。底外加熱コイル8bは、コイルベース1を介して鍋2の底部のコーナー部に対向するように配置されている。
【0031】
コイルベース1cの底部の中央部分には開口が設けられている。当該開口部分には、鍋2の温度を測定するための鍋温度検知部の一例である鍋温度センサ9が、鍋収納部1aに収納された鍋2の底部に当接可能に配置されている。鍋2の温度は鍋2内の被炊飯物の温度と略同じであるので、鍋温度センサ9が鍋2の温度を検知することで、鍋2内の被炊飯物の温度を知ることができる。
【0032】
蓋本体3は、ヒンジ軸3Aを備えている。ヒンジ軸3Aは、蓋本体3の開閉軸であり、炊飯器本体1の上枠1bに両端部を回動自在に固定されている。蓋本体3には、その中央部付近を蓋本体3の厚み方向に貫通するように貫通穴3cが設けられ、当該貫通穴3cに蒸気筒10が着脱可能に取り付けられている。蒸気筒10の天壁及び底壁には、鍋2内の余分な蒸気を炊飯器の外部に排出できるように、蒸気逃がし孔10a,10bが設けられている。蓋本体3の内蓋4側の貫通穴3cの周囲には、環状のパッキン11が取り付けられている。パッキン11は、内蓋4が蓋本体3に取り付けられたときに、内蓋4に設けられた蒸気逃がし孔4aの周囲に密着するように設けられている。
【0033】
また、蓋本体3には、内蓋4の温度を検知する内蓋温度検知部の一例である内蓋温度センサ12が取り付けられている。蓋本体3の底壁3bの内面(蓋本体内側)には、内蓋4を誘導加熱する内蓋加熱装置の一例である内蓋加熱コイル13が取り付けられている。
【0034】
内蓋4は、誘導加熱が可能なステンレスなどの金属で構成されている。内蓋4の外周部の鍋2側の面には、環状のパッキン14が取り付けられている。パッキン14は、蓋本体3が閉状態にあるときに鍋2のフランジ部に密着するように設けられている。
【0035】
また、蓋本体3の内部には、鍋2内に100℃を超える過熱蒸気を供給するための過熱蒸気供給部15が取り付けられている。過熱蒸気供給部15は、水タンク5で発生した約100℃の蒸気を過熱して、2以上の異なる温度の過熱蒸気を生成可能に構成されている。過熱蒸気供給部15には、蒸気導入管16と過熱蒸気排出管17とが接続されている。また、過熱蒸気供給部15には、過熱蒸気供給部15で生成された過熱蒸気の温度を検知する過熱蒸気温度検知部の一例である過熱蒸気温度センサ18が当接している。
【0036】
蒸気導入管16は、蓋本体3が閉状態にあるときに水タンク5内と連通し、水タンク5内で発生した蒸気を過熱蒸気供給部15へ導くように設けられている。蒸気導入管16の水タンク5側の端部には、環状のパッキン19が取り付けられている。パッキン19は、蓋本体3が閉状態にあるときに水タンク5のフランジ部に密着するように設けられている。
【0037】
過熱蒸気排出管17は、蓋本体3が閉状態にあるときに内蓋4に設けられた過熱蒸気供給孔4bを通じて鍋2内と連通し、過熱蒸気供給部15で生成された過熱蒸気を鍋2内へ導くように設けられている。過熱蒸気排出管17の鍋2側の端部には、環状のパッキン20が取り付けられている。パッキン20は、蓋本体3が閉状態にあるときに内蓋4の過熱蒸気供給孔4bの周囲に密着するように設けられている。
【0038】
また、蓋本体3には、炊飯コース、炊飯時間などの各種情報を表示する液晶ディスプレイなどの表示部21と、白米コースや玄米コース、白米(柔らかめ)コースなどの複数の炊飯コースの中から特定の炊飯コースを選択可能な炊飯コース選択部の一例である操作部22とが設けられている。操作部22は、炊飯コースの選択の他、炊飯の開始、取り消し、予約などの実行を指示できるように、炊飯開始ボタンなどの複数のボタンで構成されている。使用者は、表示部21の表示内容を参照しつつ、操作部22にて特定の炊飯コースを選択し、炊飯開始を指示することができる。
【0039】
炊飯器本体1の内部には、炊飯制御部23が搭載されている。炊飯制御部23は、米を炊飯するための炊飯シーケンスを複数記憶する記憶部を備えている。ここで、「炊飯シーケンス」とは、予熱、昇温、沸騰維持、蒸らしの主として4つの工程からなり、各工程を順に行うにあたって、各工程において通電時間、加熱温度、加熱時間、加熱出力等が予め決められている炊飯の手順をいう。各炊飯シーケンスは、複数の炊飯コースのいずれかにそれぞれ対応している。炊飯制御部23は、操作部22にて選択された炊飯コース及び各温度センサ7,9,及び12の検知温度に基づいて、各部及び各装置の駆動を制御し、炊飯工程を実行する。また、炊飯制御部23は、操作部22にて選択された炊飯コース及び過熱蒸気温度センサ18の検知温度に基づいて、操作部22にて選択された炊飯コースに対応する温度の過熱蒸気を過熱蒸気供給部15に生成させる。下記表1は、各炊飯コースにおける過熱蒸気の温度及び供給時間の設定例を示している。
【0040】
【表1】

【0041】
次に、前記のように構成された本実施形態にかかる炊飯器の動作について説明する。
【0042】
まず、使用者により、鍋2内に米と水が入れられた鍋2が鍋収納部1aにセットされるとともに、水が入れられた水タンク5が水タンク収納部1bcにセットされる。その後、使用者により、操作部22にて炊飯コースが選択された後、炊飯開始が指示されると、炊飯制御部23の制御により炊飯工程が開始される。炊飯工程が開始されると、まず、予熱工程が開始される。
【0043】
予熱工程は、以降の工程において、米の中心部まで十分に糊化できるように、糊化温度よりも低温の水に米を浸して、予め米に吸水させる工程である。この予熱工程において、炊飯制御部23は、鍋2内の水の温度を米の糊化が始まる温度(約60℃)近くまで昇温させた後、当該昇温後の温度を維持するように、鍋温度センサ9の検知温度に基づいて鍋底加熱ユニット8の鍋加熱動作を制御する。これにより、米の吸水が促進される。また、この予熱工程において炊飯制御部23は、水タンク加熱コイル6を駆動させて水タンク5内の水を予熱する。予熱工程の開始から前記選択された炊飯コースに応じて予め設定された時間経過すると、昇温工程に移行する。
【0044】
昇温工程は、鍋2を強火で一気に加熱して、鍋2内の水を沸騰状態(約100℃)にする工程である。この昇温工程において、炊飯制御部23は、鍋2を急速に加熱して鍋2内の水を沸騰状態にするように、鍋底加熱ユニット8を制御する。昇温工程の実施により、鍋温度センサ9の検知温度が約100℃になると、沸騰維持工程に移行する。この昇温工程にかかる時間は、炊飯量(鍋2に入れられた被炊飯物の量)等により異なる。このため、昇温工程にかかる時間から、炊飯量を自動的に判定することができる。例えば、鍋温度センサ9の検知温度が80℃となったときから内蓋温度センサ12の検知温度が80℃になるまでの時間差を調べることにより、炊飯量を自動的に判定することができる。
【0045】
沸騰維持工程は、鍋2内の水の沸騰状態を維持して、米の澱粉を糊化させ、糊化度を50%〜80%程度まで引き上げる工程である。この沸騰維持工程において、炊飯制御部23は、鍋2内の水の沸騰状態を維持するように鍋底加熱ユニット8及び内蓋加熱コイル13を制御する。より具体的には、炊飯制御部23は、鍋底加熱ユニット8及び内蓋加熱コイル13の駆動(ON)、駆動停止(OFF)を一定時間間隔で繰り返すデューティー制御を行い、鍋2を間欠加熱する。
【0046】
沸騰維持工程においては、連続的に水を沸騰させるため、約100℃の蒸気が大量に発生する。この蒸気は、内蓋4の蒸気逃がし孔4a及び蒸気筒10の蒸気逃がし孔10a,10bを通過して炊飯器の外部に放出される。これにより、鍋2内のほとんどの水がなくなると、鍋2の底面の温度が水の沸点以上に上昇する。鍋温度センサ9が鍋2の底面の温度が沸点以上(例えば130℃)に到達したことを検知すると、蒸らし工程に移行する。
【0047】
蒸らし工程は、予熱を利用して余分な水分を蒸発させ、米の糊化度を100%近くまで引き上げる工程である。この蒸らし工程において、炊飯制御部23は、鍋2の温度が一定温度以下に下がる毎に、鍋2を加熱するように鍋底加熱ユニット8及び内蓋加熱コイル13を制御する。より具体的には、炊飯制御部23は、沸騰維持工程と同様に、鍋底加熱ユニット8及び内蓋加熱コイル13の駆動(ON)、駆動停止(OFF)を一定時間間隔で繰り返すデューティー制御を行い、鍋2を間欠加熱する。また、炊飯制御部23は、水タンク加熱コイル6を駆動して、水タンク5内の水を沸騰させ、蒸気を発生させる。さらに、炊飯制御部23は、過熱蒸気供給部15を駆動して、蒸気導入管16を通じて過熱蒸気供給部15に導入された蒸気を過熱し、過熱蒸気温度センサ18の検知温度に基づいて、選択部22にて選択された炊飯コースに対応する温度の過熱蒸気を生成させる。例えば、炊飯コースが白米である場合には、炊飯制御部23は、200℃の過熱蒸気を過熱蒸気供給部15に生成させる。また、例えば、炊飯コースが発芽玄米である場合には、炊飯制御部23は、150℃の過熱蒸気を過熱蒸気供給部15に生成させる。過熱蒸気供給部15にて生成された過熱蒸気は、過熱蒸気排出管17及び内蓋4の過熱蒸気供給孔4bを通じて鍋2内に供給される。蒸らし工程の開始から、炊飯量に応じて予め設定された時間経過すると、蒸らし工程を終了(すなわち、炊飯工程を終了)する。
【0048】
本実施形態にかかる炊飯器によれば、操作部22にて選択された炊飯コースに対応する温度の過熱蒸気を過熱蒸気供給部15に生成させるようにしているので、炊飯コースに応じて最適な温度の過熱蒸気を鍋2内に供給することができる。これにより、被炊飯物の食味をより一層良好にするとともに炊飯時間を短縮することができる。例えば、炊飯コースが白米である場合には、前述したように、200℃の過熱蒸気を鍋2内に供給することで、食味の向上及び炊飯時間の短縮を実現でき、さらに香りの向上も実現することができる。また、炊飯コースが発芽玄米である場合には、過熱蒸気の温度を150℃に設定することで、炊飯時間を長くすることなく、米の中心まで柔らかく炊飯することができ、かつ、香りが悪いとされる発芽玄米特有の香りを減らすことができる。また、炊飯コースが炊き込みコースである場合には、過熱蒸気の温度を130℃に設定することで、炊飯時間を長くすることなく、具材の香りが低減されず、粒のバランス及び膨らみが良く、全体的に柔らかいご飯を炊飯できる。
【0049】
なお、過熱蒸気の供給時間は、操作部22にて選択された炊飯コースに応じて変えることが好ましい。例えば、炊飯コースが炊き込みコースである場合、130℃の過熱蒸気の供給時間を白米コースと同じ4分にすると、当該過熱蒸気が具材の香りを鍋内から炊飯器の外部へ押し出してしまい、具材の香りが低減することになる。また、炊飯コースが白米コースである場合、200℃の過熱蒸気の供給時間を4分より長くすると、ご飯に供給される熱量が多すぎてご飯の表面が乾燥し、食味が低減することになる。従って、炊飯制御部23は、操作部22にて選択された炊飯コースに対応する時間、過熱蒸気供給部15に過熱蒸気を生成させることが好ましい。これにより、炊飯コースに応じた最適な時間、過熱蒸気を鍋2内に供給することができ、食味の向上及び炊飯時間の短縮を実現することができる。
【0050】
また、過熱蒸気の温度及び供給時間は、炊飯量に応じて調整することが好ましい。例えば炊飯量が少ない場合、過熱蒸気供給部15からご飯の上面までの距離が長くなる。この場、過熱蒸気がご飯の上面に到達したときの温度が低くなり、ご飯に与える熱量が減少することになる。その結果、熱量が不足し、ご飯の食味の低下を招くことになる。また、炊飯時間の短縮を実現することもできなくなる。従って、炊飯制御部23は、操作部22にて選択された炊飯コースに対応する過熱蒸気の温度を炊飯量に応じて調整することが好ましい。また、炊飯制御部23は、過熱蒸気供給部15が鍋2内に過熱蒸気を供給する時間を炊飯量に応じて調整することが好ましい。これにより、炊飯量に応じて、ご飯に与える熱量を最適にすることができ、食味の向上及び炊飯時間の短縮を実現することができる。
【0051】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記では、水タンク5を炊飯器本体1に設け、水タンク5内で発生した蒸気を過熱蒸気供給部15が過熱して過熱蒸気を生成するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、過熱蒸気供給部15は、鍋2内で発生した蒸気を導入し、当該蒸気を過熱することで過熱蒸気を生成するようにしてもよい。すなわち、炊飯器の構成は、特に限定されるものではなく、過熱蒸気供給部を有する炊飯器であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明にかかる炊飯器は、多様な炊飯コースに応じて、被炊飯物の食味をより一層良好にすること、あるいは炊飯時間を短縮することができるので、家庭用及び業務用炊飯器等として有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 炊飯器本体
1a 鍋収納部
2 鍋
3 蓋本体
3A ヒンジ軸
4 内蓋
5 水タンク
6 水タンク加熱コイル
7 水タンク温度センサ
8 鍋底加熱ユニット(鍋加熱装置)
9 鍋温度センサ(鍋温度検知部)
10 蒸気筒
11,14,19,20 パッキン
12 内蓋温度センサ(内蓋温度検知部)
13 内蓋加熱コイル(内蓋加熱装置)
15 過熱蒸気供給部
16 蒸気導入管
17 過熱蒸気排出管
18 過熱蒸気温度センサ(過熱蒸気温度検知部)
21 表示部
22 操作部
23 炊飯制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炊飯器本体の内部に収納される鍋と、
前記鍋を加熱する鍋加熱装置と、
前記鍋内に過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給部と、
前記鍋の温度を検知する鍋温度検知部と、
複数の炊飯コースの中から特定の炊飯コースを選択可能な炊飯コース選択部と、
前記炊飯コース選択部にて選択された炊飯コース及び前記鍋温度検知部の検知温度に基づいて前記加熱装置の加熱動作を制御し、炊飯工程を行う炊飯制御部と、
を備え、
前記過熱蒸気供給部は、2以上の異なる温度の過熱蒸気を生成可能に構成され、
前記炊飯制御部は、前記炊飯コース選択部にて選択された炊飯コースに対応する温度の過熱蒸気を前記過熱蒸気供給部に生成させる、
炊飯器。
【請求項2】
前記炊飯制御部は、前記炊飯コース選択部にて選択された炊飯コースに対応する時間、前記過熱蒸気供給部に前記過熱蒸気を生成させる、請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
前記炊飯制御部は、前記炊飯コース選択部にて選択された炊飯コースに対応する前記過熱蒸気の温度を炊飯量に応じて調整する、請求項1又は2に記載の炊飯器。
【請求項4】
前記炊飯制御部は、前記過熱蒸気供給部が前記鍋内に前記過熱蒸気を供給する時間を炊飯量に応じて調整する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の炊飯器。

【図1】
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【図2】
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