説明

炎感知器

【課題】正面方向の放射光が凹部に反射して起こる受光素子の信号レベルの増加を無くすることができ、以って、視野角の半値角において、感知器の視野角特性が受光素子の本来の視野角特性よりも狭くならない炎感知器を得ること。
【解決手段】椀状部の内側に凹部を有し、該凹部に開口部が形成された本体と、該本体内に設けられ、該開口部を介して火災による炎から発生する赤外線を検出する素子を備えてなる炎感知器において、前記凹部を、中央に形成された前記開口部の周囲に形成された底壁と、該底壁と前記椀状部を連結する側壁により構成し、該底壁と側壁のなす角度を90°以下とし、かつ、該底壁の長さを側壁の長さ以上としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炎感知器に関する。
【背景技術】
【0002】
炎感知器の従来例としては、例えば特開平10−320666号公報(特許文献1)に記載のものがある。同公報の炎感知器は、カバーの頂部から本体内の受光素子に向けて凹部としての傾斜部が形成され、また、開口部を形成する傾斜部の下側縁部には、開口部を裏面から覆うように保護フィルタが設けられている。この凹部により、保護フィルタの破損が防止される。また、凹部は、受光素子の視野を制限するように配置されており、これにより、感知器の視野を構成し、誤動作の要因となる監視視野外からの赤外線等の放射光を遮断している。
【特許文献1】特開平10−320666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記公報記載の炎感知器は、凹部を傾斜部により構成しているため、正面の特定方向からの放射光が傾斜面に当たると、その反射光が受光素子に入射する場合があり、その場合には正面の特定方向の放射光による受光素子の信号レベルの増加が起こってしまう。また、傾斜面と頂部の連結部分である傾斜面の上側端部、またそれと逆方向の下側端部は、カバー成型上、ありとあらゆる角度が存在するアール面となる。そのため、正面の所定方向からの放射光がアール面に当たると、その反射光が受光素子に入射し、正面の所定方向の放射光による受光素子の信号レベルの増加が起こる。つまり、上記公報記載の炎感知器は、放射光の傾斜面及び傾斜面両端部での反射の影響により、感知器の視野角特性は、受光素子の本来の視野角特性に対して正面方向の感度が高くなってしまい、視野角の半値角において、結果的に感知器の視野角特性が受光素子の本来の視野角特性よりも狭くなってしまうという問題があった。
【0004】
したがって、この発明では、正面方向の放射光が凹部に反射して起こる受光素子の信号レベルの増加を無くすることができ、以って、視野角の半値角において、感知器の視野角特性が受光素子の本来の視野角特性よりも狭くならない炎感知器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の請求項1に係る炎感知器は、椀状部の内側に凹部を有し、該凹部に開口部が形成された本体と、該本体内に設けられ、該開口部を介して火災による炎から発生する赤外線を検出する素子を備えてなる炎感知器において、前記凹部を、中央に形成された前記開口部の周囲に形成された底壁と、該底壁と前記椀状部を連結する側壁により構成し、該底壁と側壁のなす角度を90°以下とし、かつ、該底壁の長さを側壁の長さ以上としたことを特徴とする。
【0006】
また、この発明の請求項2に係る炎感知器は、前記素子の視野を、前記開口部を形成する底壁の縁部で制限したことを特徴とする。
【0007】
また、この発明の請求項3に係る炎感知器は、前記椀状部に連結される側壁の表側端部を前記素子の視野限界線の外側に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る炎感知器は、凹部を構成する底壁と側壁のなす角度を90°以下とし、かつ、該底壁の長さを側壁の長さ以上としたので、正面方向からの放射光が側壁で反射しても、その反射光は底壁に到達するので、受光素子に入射することが防止され、正面方向の放射光による受光素子の信号レベルの増加を無くすることができ、以って、視野角の半値角において、感知器の視野角特性が受光素子の本来の視野角特性よりも狭くならない。
【0009】
また、請求項2に係る炎感知器は、素子の視野を、開口部を形成する底壁の縁部で制限したことにより、素子の視野外に側壁が設けられることになるので、正面方向からの放射光が側壁の表側端部のアール面で反射しても、その反射光は底壁に到達するので、受光素子に入射することが防止され、正面方向の放射光による受光素子の信号レベルの増加をより無くすることができる。
【0010】
また、請求項3に係る炎感知器は、素子の視野限界線の内側に、椀状部に連結される側壁の表側端部を設けないようにし、つまり、素子の視野限界線の内側に感知器を構成する部材が配置されないようにしたので、正面方向からの放射光が側壁の表側端部のアール面で反射しても、その反射光は受光素子の一部にも入射しなくなり、正面方向の放射光による受光素子の信号レベルの増加をさらに無くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1はこの発明を利用した炎感知器の構成を示す断面図であり、図2はこの発明を利用した炎感知器の構成を示す正面図であり、図3は図1の要部拡大図であり、図4は図3の左側凹部拡大図である。
【0012】
図において、炎感知器1は、表カバー3と表カバー3の内面から立設された隔壁3a上を覆う裏カバー2とからなるケース4を備えており、図示しない取り付けベースに結合されて天井面等に取り付けられる。
【0013】
表カバー3は、椀状部31の内側に凹部32を有するように形成されている。この凹部32は、中央部に形成された開口部6の周囲に形成された底壁33と、底壁33と椀状部31を連結する側壁34によって構成されている。また、底壁33の裏面には、開口部6を覆うように保護フィルタとしての例えばサファイアガラス7が固定されている。
【0014】
表カバー3とその隔壁3a上を覆う裏カバー2により形成された収容部3b内には、プリント基板5が収納されている。このプリント基板5には、それぞれ受光素子8b、9bが内蔵される素子筐体8、9が搭載されている。素子筐体8、9は、受光素子8b、9bの素子面が底壁33と平行となるように、プリント基板5に搭載されている。また、素子筐体8は、ホルダ13内に収容され、例えば焦電体のような素子である受光素子8b、9bが、表カバー3の開口部6との相対位置に位置する如く、プリント基板5に搭載されている。この素子筐体8、9の最前面には、バンドパスフィルタ8a、9aが設けられている。例えば、バンドパスフィルタ8aは、炎から放射されるCO2共鳴放射の波長帯の赤外線である概ね4.4〜4.5μm付近の赤外線線スペクトルのみを通過させ、また、バンドパスフィルタ9aは、炎から放射されるCO2共鳴放射の波長帯近傍の赤外線である概ね5.0μm付近の赤外線線スペクトルのみを通過させる。
【0015】
凹部32について詳細に説明すると、図3に示すように、凹部32は、底壁33と側壁34のなす角度が90°に、また、底壁33の長さが側壁34の2倍の長さに設定されている。また、開口部6を形成する底壁33の縁部33aは、受光素子8b、9bそれぞれの縁部33a側の視野を、視野境界線V1、V1’に示す如く制限するように配置されている。そのため、側壁34は、受光素子8b、9bの視野外、つまり、視野境界線V1、V1’の外側に位置する如く配置されている。なお、この視野境界線V1、V1’は、受光素子8b、9bの全面に所定方向の放射光が入射する視野の境界線である。また、表カバー3の成型上、底壁33の縁部33a及び側壁34の表側端部34aは、ありとあらゆる角度が存在するアール面となる。
【0016】
このような構成の凹部32によって、この炎感知器1は、従来と比較して、正面方向の放射光が凹部32で反射した場合に、受光素子8b、9bに入射しなくなっているが、そのことを、まず、図4を用いて説明する。なお、この場合は、図3における左側凹部32を用いて、凹部32における反射光が、受光素子9bに入射しないことを説明するが、受光素子8bも同様である。
【0017】
真正面、やや左側正面、やや右側正面方向の放射光l1、l2、l3が凹部32に入射した場合を考える。まず、従来の凹部としての傾斜面32’を有する感知器では、放射光l1、l2、l3が傾斜面32’に入射すると、その反射光l1’、l2’、l3’のうち、少なくとも反射光l2’が開口部6’を介して、受光素子に入射してしまう。つぎに、凹部32を有するこの発明の炎感知器1は、放射光l1、l2、l3が凹部32に入射するが、放射光l1、l2は底壁33に入射し、その反射光l1’’、l2’’は凹部32の外部に誘導される。また、放射光l3は側壁34で反射するが、その反射光l3’’は底壁33に到達し、つぎに凹部32の外部に誘導されるので、受光素子9bに入射しなくなっている。
【0018】
なお、底壁33と側壁34のなす角度を90°としたが、底壁33と側壁34のなす角度が90°以下であるならば、放射光l3が側壁34で反射しても、その反射光l3’’は、より側壁34側に誘導されるようになるため、上記と同様に、反射光l3’’は受光素子9bに入射しない。
【0019】
また、底壁33の長さを側壁34の2倍の長さとしたが、底壁33の長さを側壁34の長さ以上にすれば、受光素子9bに入射しえる放射光l3の入射角θ(図3参照)は45°以下となり、感知器1の真正面に対して角度45°以下となる正面方向からの放射光による反射光を遮蔽することができる。
【0020】
つぎに、図3において、炎感知器1は、受光素子8b、9bの視野を制限する底壁33の縁部33aによって、入射角θが小さい斜め方向の放射光による反射光も、底壁33に到達することとなり、その反射光が受光素子8b、9bの全面に入射することが防止されている。
【0021】
また、側壁34の表側端部34aは、ありとあらゆる角度が存在するアール面であるので、所定方向からの放射光がアール面に当たると、その反射光が受光素子8b、9bに入射し得るが、上記の側壁34と底壁33の縁部33aの配置によって、正面方向を含む所定方向からの放射光が側壁34の表側端部34aのアール面で反射しても、底壁33に到達することとなり、その反射光が受光素子8b、9bの全面に入射することが防止されている。
【0022】
さらに、図3においては、受光素子8b、9bの一部に所定方向の放射光が入射する視野限界の境界線である視野限界線V2、V2’の外側に、椀状部31に連結される側壁34の表側端部34aを配置している。つまり、側壁34の表側端部34aを視野境界線V1、V1’と視野限界線V2、V2’の間に配置した場合は、側壁34で反射した反射光が受光素子8b、9bの一部に入射しえるが、視野限界線V2、V2’の外側に配置することによって、あらゆる方向の放射光が側壁34及び側壁34の表側端部34aのアール面で反射しても、反射光は受光素子8b、9bの一部にも入射することが完全に防止されている。
【0023】
このように構成したので、炎感知器1は、正面方向の放射光が凹部32に照射されると、上記したように、受光素子8b、9bに入射し得る、底壁33の縁部33a、側壁34の表側端部34a及び側壁34における反射光のうち、縁部33aにおける反射光のみがわずかに入射する可能性があるだけであり、よって正面方向からの放射光が凹部32に反射して起こる、受光素子8b、9bの信号レベルの増加をほとんど無くしている。なお、このような多波長式炎感知器の場合、受光素子8b、9bには、その配置の関係で、それぞれの遠方側(図3において、受光素子8bは左側、受光素子9bは右側)に位置する底壁33の縁部33a、側壁34の表側端部34aにおける、正面方向の放射光による反射光が入射する可能性があるが、それ以外の部位における反射光をなくしているため、従来よりも格段に、受光素子8b、9bの信号レベルの増加が低減されている。
【0024】
以上のような構成によって、炎感知器1は、火災による炎から発生する放射光が、開口部6を覆うサファイアガラス7を介して、収容部3b内に入射し、また、バンドパスフィルタ8a、9aで設定した帯域の波長の赤外線線スペクトルのみに基づいた信号レベルが受光素子8b、9bに生じる。そして、受光素子8bの信号レベルと受光素子9bの信号レベルとの比率を演算する等の所定のアルゴリズムを用いて、炎の発生を感知することで、精度よく炎を検知することができるようになっている。
【0025】
この実施形態における炎感知器1は、椀状部31の内側に凹部32を有し、該凹部32に開口部6が形成された本体としてのケース4と、該ケース4内に設けられ、該開口部6を介して火災による炎から発生する赤外線を検出する受光素子8b、9bを備えてなる炎感知器1において、凹部32を、中央に形成された開口部6の周囲に形成された底壁33と、該底壁33と椀状部31を連結する側壁34により構成し、該底壁33と側壁34のなす角度を90°以下とし、かつ、該底壁の長さを側壁の長さ以上とした。
【0026】
底壁33と側壁34のなす角度を90°以下とし、かつ、該底壁の長さを側壁の長さ以上としたので、正面方向からの放射光が側壁34で反射しても、その反射光は底壁33に到達するので、受光素子8b、9bに入射することが防止され、正面方向の放射光が側壁34に反射して起こる、受光素子8b、9bの信号レベルの増加を無くすることができ、以って、視野角の半値角において、感知器1の視野角特性が受光素子8b、9bの本来の視野角特性よりも狭くならない。
また、この炎感知器1は、受光素子8b、9bの視野境界線V1、V1’として示される如き視野を、開口部6を形成する底壁33の縁部33aで制限したことにより、受光素子8b、9bの視野外に側壁34が設けられることになるので、正面方向からの放射光が側壁34の表側端部34aのアール面で反射しても、その反射光は底壁33に到達するので、受光素子8b、9bに入射することが防止され、正面方向の放射光による受光素子8b、9bの信号レベルの増加をより無くすることができる。
【0027】
また、この炎感知器1は、椀状部31に連結される側壁34の表側端部34aを受光素子8b、9bの視野限界線V2、V2’の外側に設けた。
【0028】
これにより、受光素子8b、9bの視野限界線V2、V2’の内側に、椀状部31に連結される側壁34の表側端部34aを設けないようにして、つまり、受光素子8b、9bの視野限界線V2、V2’の内側に感知器1を構成する部材が配置されないようにしたので、正面方向からの放射光が側壁34の表側端部34aのアール面で反射しても、その反射光は、底壁33によって受光素子8a、9aの一部にも入射しなくなり、正面方向の放射光による受光素子8a、9aの信号レベルの増加をさらに無くすることができる。
【0029】
なお、この実施形態では、受光素子が2つの場合について説明したが、2つ以上の複数の受光素子を設ける場合や単一の受光素子を設ける場合であってもよく、炎を判別するためのアルゴリズムには各種の手法が採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の一実施形態を示す断面図。
【図2】この発明の一実施形態を示す正面図。
【図3】図1の要部拡大図。
【図4】図3の左側凹部拡大図であり、従来と比較して、正面方向の放射光が凹部で反射した場合に、受光素子に入射しないことを説明する図である。
【符号の説明】
【0031】
4 ケース(本体)
6 開口部
8b 受光素子(素子)
9b 受光素子(素子)
31 椀状部
32 凹部
33 底壁
34 側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椀状部の内側に凹部を有し、該凹部に開口部が形成された本体と、該本体内に設けられ、該開口部を介して火災による炎から発生する赤外線を検出する素子を備えてなる炎感知器において、
前記凹部を、中央に形成された前記開口部の周囲に形成された底壁と、該底壁と前記椀状部を連結する側壁により構成し、該底壁と側壁のなす角度を90°以下とし、かつ、該底壁の長さを側壁の長さ以上としたことを特徴とする炎感知器。
【請求項2】
前記素子の視野を、前記開口部を形成する底壁の縁部で制限したことを特徴とする請求項1記載の炎感知器。
【請求項3】
前記椀状部に連結される側壁の表側端部を前記素子の視野限界線の外側に設けたことを特徴とする請求項2記載の炎感知器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−79376(P2006−79376A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263102(P2004−263102)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】