説明

炎検出器

【課題】炎からの放射エネルギーの変動の影響を受けない最適な背景放射の検出波長を設定して正確な火災判断を可能とする。
【解決手段】炎固有の赤外線波長付近の放射エネルギーを、大気中の気体分子による吸収を受けない波長帯域である第1大気窓(4.4μm乃至5.1μm)を通して検出する中心波長4.5μmの火災検出素子1と、炎固有の赤外線波長を外れた背景放射の放射エネルギーを、第1大気窓とは異なる第2大気窓(1.9μm乃至2.5μm)を通して検出する中心波長2.3μmの非火災検出素子2と、火災検出素子1による火災検出信号と非火災検出素子2による非火災検出信号から火災を判断する火災判断部10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火炎から放射される赤外線の放射エネルギーを検出して火災を判断する屋外設置用の炎検出器に関する。

【背景技術】
【0002】
従来、火炎から放射される赤外線エネルギーを検出して火災を判断する炎検出器にあっては、火炎から放射される赤外線エネルギーの炎固有波長と、その近傍の赤外線エネルギーが十分に減衰した背景放射レベルとなる背景放射波長を検出して火災を判断する2波長方式が知られている(特許文献1)。
【0003】
例えば、火災を検出するための波長帯を炎固有のCO共鳴放射による波長4.3μmを中心とした波長帯域に設定すると共に、炎以外の背景放射を検出する波長として火炎からの放射エネルギーが十分に減衰する例えば3.5μmを中心波長とした波長帯域に設定し、2つの検出素子による炎固有波長の火災検出信号と背景放射の検出信号との比または差が所定の閾値以上となった場合に火災と判断している。
【0004】
更に多波長方式の火災検知方法として、火災時に放射される放射温度に応じた複数の波長帯域の赤外線として高温側から2.8μm〜3.2μm、4.2μm〜4.6μm、4.6μm〜5.5μm、8.0μm〜10.0μmの4波長帯を設定して各々の赤外線強度を検知し、複数の検知出力の比から赤外線源の温度を検出し、最終的に発熱面積を算出して火災状況を判定している(特許文献2)。
【特許文献1】特開昭50−2497号公報
【特許文献2】特開平5−159174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の多波長方式の炎検出器にあっては、背景放射検出波長を炎検出波長4.3μmの近傍の例えば3.5μmに設定しているが、背景放射検出信号も火炎の放射エネルギーの変化に追従してしまい、例えば、火災からの放射エネルギーが大きくなるとCO共鳴放射帯のエネルギーの検出信号だけでなく、背景放射検出信号も大きくなってしまうため、炎検出信号と背景放射検出信号との比から火災を判断する際のS/N比が劣化し、正確な火災判断が出来ない恐れがある。
【0006】
この問題を解消するためには、炎検出波長4.3μmに対し背景放射の検出波長を十分に離せば、炎からの放射エネルギーの変動による影響が低減し、S/N比を改善することが期待できる。しかし、炎固有波長に対し背景放射の検出波長を十分に離すといっても、どのような波長が最適かは不明であり、特に屋外に設置する際には波長によっては予測しえない別の問題が発生する恐れもある。
【0007】
一方、火災時に放射される放射温度に応じた4つの波長帯の赤外線を検知する方法にあっては、2波長方式では火災と判断してしまうガスレンジやガスストーブ等の炎を非火災と判断でき、誤報を確実に防止できる。
【0008】
しかしながら、4波長帯域の赤外線検知出力から赤外線源の温度を算出し、最終的には赤外線源の発熱面積を演算処理により求めて火災状況を判断しており、マイクロプロセッサを使用した場合にも演算処理の負担が大きく、また4波長分の赤外線検出素子とバンドパスフィルタを必要とするため、複雑で高価なものになる問題がある。
【0009】
本発明は、炎の影響が少ない最適な背景放射の検出波長を設定して正確な火災判断を可能とする屋外設置を主な用途とする炎検出器を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため本発明は次のように構成する。本発明は、炎固有の赤外線波長付近の放射エネルギーを、大気中の気体分子による吸収を受けない波長帯域である第1大気窓を通して検出する火災検出素子と、炎固有の赤外線波長を外れた背景放射の放射エネルギーを、第1大気窓とは異なる第2大気窓を通して検出する非火災検出素子と、火災検出素子による火災検出信号と非火災検出素子による非火災検出信号とに基づいて火災を判断する火災判断部と、を備えた炎検出器に於いて、第1大気窓の波長帯域は概ね4.4μm乃至5.1μmであり、火災検出素子による炎検出中心波長をCO共鳴放射帯である概ね4.5μmに設定し、第2大気窓の波長帯域は概ね1.9μm乃至2.5μmであり、非火災検出素子による非火災検出中心波長を概ね2.3μmに設定したことを特徴する。
【0011】
本発明の炎検出器は、更に、火災検出素子による火災検出信号と非火災検出素子による非火災検出信号とに基づいて火災を判断する火災判断部を備え、火災判断部は、火災検出信号が所定の火災断定レベル以上で非火災検出信号が所定の非火災判断レベル未満の場合は火災と判断し、火災検出信号が所定の火災断定レベル以上で非火災検出信号が所定の非火災判断レベル以上の場合は非火災と判断する。
【0012】
本発明の炎検出器は、更に、人体を含む低温物体から放射される波長帯域の放射エネルギーを検出する低温物体検出素子を設け、火災判断部は、低温物体検出素子の検出信号が所定の非火災判断レベル以上の場合は、火災検出信号と非火災検出信号とによる火災判断を抑止する。
【0013】
低温物体検出素子による検出中心波長は、第1大気窓の波長帯域である概ね5μm乃至12μmに属する概ね5μmに設定する。

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、屋外設置される炎検出器として、大気を通して火災からの赤外線を受光するため、本願発明者にあっては、大気の透過特性と火炎以外の背景放射の2点を検証考察し、大気の状態による影響が少なく、且つ火災と火災以外のエネルギー放射を効率良く区別できる2波長方式の炎検知器が実現できる。
【0015】
まず、火災による炎検出波長を、大気中の気体分子による吸収を受けない波長帯域である第1大気窓の中に設定し、同時に、炎固有波長(CO共鳴吸収による波長)から十分に離れた非火災検出波長(背景放射の検出波長)を、第1大気窓とは異なる第2大気窓に入るように設定することで、大気の状態による影響を低減し、同時に、非火災検出波長(背景放射の検出波長)を炎検出波長に対し十分に離したことで、炎からの放射エネルギーによる変動を低減して安定化し、火災検出時のS/N比を高めることができる。
【0016】
即ち、火災検出素子については、概ね4.4μm乃至5μmの波長帯域となる第1大気窓に含まれる炎検出中心波長としてCO共鳴吸収の波長帯にある概ね4.5μmを設定し、非火災検出素子については、概ね2.0μm乃至2.5μmの波長帯域となる第2大気窓に含まれる非火災検出中心波長として概ね2.3μmに設定しており、炎検出中心波長4.5μmに対し従来の2波長方式では予測できない十分に離れた非火災検出の中心波長(背景放射の検出中心波長)として2.3μmを設定することで、炎からの放射エネルギーによる影響がなく且つ大気の状態に影響されない火災検知ができる。
【0017】
また非火災検出の中心波長2.3μmを設定している概ね2.0μm乃至2.5μmの波長帯域となる第2大気窓には、非火災放射源として自動車のヘッドライトに使用しているハロゲンランプの放射エネルギーの波長帯域が存在しており、このため非火災検出信号が所定の非火災判断レベルを超えている場合には、火災検出信号が火災断定レベル以上であっても火災と判断せず、自動車のヘッドライト等からの光を受けた際の火災の誤検出を確実に防止できる。
【0018】
更に、火災検出素子と非火災検出素子による2波長方式に、人体を含む低温物体から放射される波長帯域に入る固有波長5.0μm付近の赤外線エネルギーを検出する低温物体検出素子を加えて3波長方式とすることで、人体等の低温物体からの放射エネルギーを受光した際の火災の誤検出を確実に防止できる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明による炎検出器の実施形態を示した回路ブロック図である。図1において、本発明の炎検出器は、火災検出素子1、非火災検出素子2、低温物体検出素子3を備えており、いわゆる3波長方式を例にとっている。
【0020】
火災検出素子1は、炎から発せられるCO共鳴吸収の波長帯に入る中心波長λ1=4.5μmの放射エネルギーを検出して火災検出信号を出力する。非火災検出素子2は、火災検出素子1の検出波長帯域とは異なる中心波長λ2=2.3μmの放射エネルギーを検出して非火災検出信号を出力する。更に、低温物体検出素子3は人体を含む低温物体の波長帯域に入る中心波長λ3=5.0μmの放射エネルギーを検出し、低温物体信号を出力する。
【0021】
火災検出素子1の出力側には増幅器4が設けられ、火災検出信号を増幅して出力する。非火災検出素子2及び低温物体検出素子3の出力側にも増幅器5,6が設けられ、それぞれ非火災検出信号及び低温物体出信号を増幅して出力する。
【0022】
増幅器4,5,6の出力はMPU7のAD入力端子に接続されている。また増幅器4の出力はコンパレータ8に入力されている。コンパレータ8は増幅器4から出力される火災検出信号を所定の閾値と比較し、閾値以上となったときにMPU7に対し割込信号を出力して、火災判断部10に火災判断処理を実行させる。電源9は例えば電池電源であり、検出器内の各回路部に電源を供給している。
【0023】
図1の炎検出器の火災検出動作は次のようになる。コンパレータ8で増幅器4からの火災検出信号が所定の閾値以上となって割込信号が出力されると、MPU7の火災判断部10の処理が開始される。火災判断部10は、増幅器4からの火災検出信号をAD変換によりサンプリングすると同時に、増幅器5及び増幅器6からの非火災検出信号と低温物体検出信号についてもAD変換によりサンプリングし、火災検出信号が所定の火災断定レベル以上であり且つ非火災検出信号と低温物体検出信号の両方が所定の非火災検出レベル未満であれば火災と判断し、火災信号E1を出力する。
【0024】
また火災検出信号が火災断定レベル以上であっても、同時に非火災検出信号と低温物体検出信号のいずれか一方または両方が非火災判定レベル以上であれば、この場合は非火災と判断し、火災信号E1の出力は行わない。
【0025】
一方、本発明において、図1の火災検出素子1の中心波長λ1=4.5μm、非火災検出素子2の中心波長λ2=2.3μm、及び低温物体検出素子3の中心波長λ3=5.0μmを選択する根拠について説明する。図2は本発明による炎検出器の設置環境、例えば炎検出器を屋外に設置した場合に存在すると想定される赤外線放射源の分光測定結果を示している。
【0026】
図2の分光特性のグラフにあっては、火災特性Aとしてホワイトガソリンの燃焼による特性、火災特性BとしてNペプタンの燃焼による特性を示し、また火災以外の屋外に一般的に存在する赤外線放射源となる背景放射について、ハロゲンランプC、ナトリウム灯D及び太陽光Eの分光特性を示している。
【0027】
この分光特性のグラフから、火災特性A,Bの相対強度が大きい波長帯は4.2μm〜4.6μm帯である。一方、火災以外の赤外線放射源となる背景放射の相対強度が大きい波長帯は、例えばハロゲンランプC、ナトリウム灯D及び太陽光Eの相対強度が高いのは1.5μm〜2.5μm帯にあることが分かる。
【0028】
このため、火災を検出する火災検出素子1については4.2μm〜4.7μmの波長帯を使用し、一方、非火災検出素子2については1.5μm〜2.5μmの波長帯を使用することで、火災と火災以外の背景放射となる赤外線放射源とを明確に区別し、火災判断のS/N比を高めることができる。
【0029】
本発明にあっては、図2に示したような火災以外の赤外線放射に加え、屋外に炎検出器を設置した際には大気を通して火災からの赤外線を受光することから、大気の透過特性を考慮する必要がある。
【0030】
図3は大気の波長透過特性グラフの説明図である。光が大気中を伝播するとき、そこに存在する気体物質によって吸収を受ける。この光の吸収は、2μm〜14μmの赤外線領域ではHO(水)、CO(二酸化炭素)、O(オゾン)という3原子分子の振動モードによる吸収が大きく、HO分子では2.7μmと6.3μmの波長近傍で吸収が起こり、CO分子では4.3μmの波長近傍で吸収が起こり、更にO分子では9.6μmの波長近傍で吸収が起きることが知られている。なお、O分子は上空約25000メートルに集中して存在しており、本発明の炎検出器を設置する地上付近では無視できる。
【0031】
このような図3の大気の透過特性を見ると、赤外線領域2〜14μmにおいて、赤外線の放射エネルギーについて高い透過率を持つ波長帯域として定義される大気窓として大気窓11,12,13,14の4つが存在する。
【0032】
ここで各大気窓の帯域は次の通りである。
(1)大気窓11は、1.9μm〜2.5μm
(2)大気窓12は、3.1μm〜4.1μm
(3)大気窓13は、4.4μm〜5.1μm
(4)大気窓14は、8.0μm〜14.0μm
このような大気窓の存在に対し、大気を通して火災による赤外線を監視する本発明の炎検出器にあっては、大気の吸収の影響を受けない大気窓の波長帯を使用する必要がある。
【0033】
一方、本発明の炎検出器の屋外設置場所としては例えばプラント設備などが想定され、プラント設備などにおける工場大気中に存在する可能性のある気体分子による吸収波長を考慮する必要がある。この工場大気中に存在する可能性のある気体分子とその吸収波長は次表のようになる。
【0034】
【表1】

【0035】
このような工場大気中に存在する気体分子を考慮すると、3.0μm〜4.0μmの大気窓12及び7.5μm〜14.0μmの大気窓14には、前記表1のような吸収波長を持つ気体分子が大気窓12,14の中に数多く存在しており、したがって本発明の炎検出器に使用する波長帯域として大気窓12と大気窓14は避ける必要がある。その結果、本発明の炎検出器に使用する大気窓としては、1.9μm〜2.5μmの大気窓11と、4.4μm〜5.1μmの大気窓13の2つを使用することが最適である。
【0036】
図4は図2に示したハロゲンランプについて、特にその相対強度が高くなる帯域について、大気の透過特性との相関関係を示した説明図である。図4(A)は大気の透過率であり、図4(B)がハロゲンランプの分光特性のグラフである。ここで図4(A)の大気の透過特性をf(x)、図4(B)のハロゲンランプの分光特性をg(x)とすると、両者の積として与えられる大気の透過窓を通したハロゲンランプの分光特性であるF(x)は図4(C)の特性となる。
【0037】
この図4(C)の大気窓を通したハロゲンランプの分光特性は、2.0μm〜2.4μmにおいて極めて優れた選択透過性を示している。したがって、非火災検出素子2で使用する大気窓11の帯域としては、大気を通したハロゲンランプの相対強度の優れた選択性を加えて1.9μm〜2.5μmとすることが最適である。
【0038】
このように、火災検出素子1につき4.4μm〜5.1μmの大気窓13と非火災検出素子2について、1.9μm〜2.5μmの大気窓11が設定できたならば、それぞれの大気窓について検出素子における中心波長λ1,λ2を設定する。
【0039】
火災検出素子1については、検出窓13に入る中心波長λ1として、炎固有のCO共鳴吸収の波長帯である4.2μm〜4.7μmの中に含まれるλ1=4.5μmを設定する。この中心波長λ1=4.5μmを持つバンドパスフィルタ特性により、炎からの赤外線の放射エネルギーを検出し、炎に対し極めて選択性の高い十分な相対強度を持った火災検出信号を得ることができる。
【0040】
一方、非火災検出素子2の中心波長λ2としては、図3の大気の透過率における1.9μm〜2.5μmの大気窓11において、最も透過率の高い波長である2.3μmを中心波長λ2に設定する。
【0041】
この非火災検出素子2につき中心波長λ2=2.3μmを設定することで、大気窓11を通った光をバンドパスフィルタ特性により受光して非火災検出信号に変換し、この非火災検出信号には、図2に示した火災以外の赤外線放射源であるハロゲンランプ、ナトリウム灯などのランプ、更には太陽光の相対強度の高い部分が含まれており、非火災検出素子2からの非火災検出信号を火災判断に用いることで火災と非火災を確実に区別し、ランプの光や太陽光を受けた際に誤って火災信号を出力することを確実に防止できる。
【0042】
更に、火災検出素子1の中心波長λ=4.5μmを設定した大気窓13に属する波長5.0μmを低温物体検出素子3の中心波長λ3に設定することで、人体を含む低温物体からの赤外線エネルギーを大気窓を通して検出することで、人体等からの赤外線による火災の誤判断を確実に防止できるようにしている。
【0043】
次に本発明にあっては、火災検出素子1の中心波長λ1=4.5μmを設定した4.4μm〜5.1μmの大気窓13に対し、非火災検出素子2の波長帯域を、十分離れた別の2.0μm〜2.5μmの大気窓11に中心波長λ2=2.3μmとして設定したことで、従来の非火災検出素子として例えば4.0μmに設定していたような場合に比べ、火災による炎からの赤外線の放射エネルギーを非火災検出素子2で受けた場合の影響を大幅に低減することができる。
【0044】
図5は、非火災検出素子2の中心波長λ2を、従来の多波長検出方式の炎検出器において、背景放射検出として選択されているλ2=4.0μmに設定した場合と、本発明のように中心波長λ2=2.3μmに設定した場合の、ライターの燃焼に対する検出電圧の時間変化を示している。このライター燃焼における検出電圧出力は、4.0μmの場合には約0.5ボルト幅で変化しているが、本発明の炎検出器でλ2=2.3μmとした場合には約0.25ボルト幅の変化に収まっており、CO共鳴放射帯のエネルギーを発する燃焼に対しては、日火災検出素子2の出力が十分に低減していることがわかる。
【0045】
図6は、非火災検出素子2の中心波長λ2を2.3μmと4.0μmに設定した場合のハロゲンランプからの光を検出した場合の時間変化であり、本発明によるλ2=2.3μmの場合には約2.0ボルト幅で変化しているが、これに対し従来のλ2=4.0μmの場合には約0.4ボルト幅で変化しており、本発明がλ2=2.3μmとしたことで、ハロゲンランプに対し極めて高い選択性を持った非火災検出信号を得ることができる。
【0046】
図7は、ろうそく燃焼について非火災検出素子の中心波長λ2を2.3μmと4.0μmに設定した場合の検出電圧の時間変化であり、従来の4.0μmの場合には約0.5ボルト幅で変化しているが、本発明の2.3μmの場合には0.2ボルト幅の変化となり、非火災検出信号に対するろうそくの炎による変動を十分に抑え込んでいる。
【0047】
更に図8は、アルコール燃焼における非火災検出素子2の中心波長λ2を2.3μmとした場合と4.0μmとした場合の検出電圧出力であり、従来の4.0μmの場合にはアルコール燃焼の炎検出による非火災検出信号は時間の経過に対し大きく変動しているが、本発明の2.3μmについてはほとんど変動せず、ほぼ一定に保たれていることが分かる。
【0048】
この結果、非火災検出素子2の中心波長λ2を、2.0μm〜2.5μmの大気窓11の中の最も透過率のよいλ2=2.3μmに設定し、且つハロゲンランプについて極めて高い選択性を持つ大気窓11の中に設定したことで、非火災検出素子2の出力は、アルコール燃焼やろうそくの炎など、CO共鳴放射帯のエネルギーを発する燃焼に対しては、従来の背景放射検出素子よりも出力は小さく、且つ火災以外の赤外線の放射エネルギーを、火災に対し高いS/N比を持って十分に区別して検出することができ、その結果、火災と火災以外の赤外線を効率よく区別し、迅速且つ正確な火災判断と火災以外の赤外線による誤検出のない炎検出器を実現することができる。
【0049】
図9は本発明による炎検出器の他の実施形態を示した回路ブロック図であり、消費電流を低減するようにしたことを特徴とする。
【0050】
図9において、火災検出素子1は電源9より常時電源供給を受けて動作しているが、非火災検出素子2と低温物体検出素子3についてはスイッチ15を介して電源9に接続されており、定常監視状態にあっては、スイッチ15はオフしており、したがって非火災検出素子2と低温物体検出素子3に対する電源供給は停止されており、これによって電源9からの消費電流を低減している。
【0051】
コンパレータ8において、増幅器4を介して得られた火災検出素子1からの火災検出信号が所定の閾値を超えると、コンパレータ8の出力がMPU7に割込信号として入力され、この割込信号の入力を受けてMPU7はスイッチ制御信号E2を出力し、スイッチ15をオンし、このとき非火災検出素子2と低温物体検出素子3に電源が供給され、非火災検出信号及び人体検出信号が出力されることになる。なお、MPU7におけるスイッチ15の制御以外の処理即ち火災判断部10の火災判断処理は、図1の実施形態と同じである。
【0052】
なお上記の実施形態にあっては、火災検出素子1、非火災検出素子2及び低温物体検出素子3による中心波長λ1,λ2,λ3の3波長方式による炎検出器を例にとるものであったが、本発明の炎検出器としては基本的には、中心波長λ1=4.5μmの火災検出素子1と、中心波長λ2=2.3μmの非火災検出素子2を用いた2波長方式として実現することも可能である。この2波長方式は、本発明の炎検出器を例えば人が近付かないエリアに設置するような場合に有効である。
【0053】
また上記の実施形態にあっては、火災検出素子1の中心波長λ1=4.5μm、非火災検出素子2の中心波長λ2=2.3μm、低温物体検出素子3の中心波長λ3=5.0μmを設定した場合を例に取るものであったが、中心波長はこの値に限定されず、火災検出素子1については、大気窓13の4.4μm〜5.1μmとCO共鳴吸収波長帯域4.3μm〜4.7μmとが重なり合う波長帯域4.5μm〜4.7μmの範囲に検出中心波長λ1を設定すればよい。
【0054】
また低温物体検出素子3の検出中心波長λ3は、大気窓13の中の火災帯域を外れた4.7μm〜5.0μmの範囲に設定すればよい。更に非火災検出素子2についても、大気窓11の波長帯域2.0μm〜2.5μmの範囲に検出中心波長λ2を設定すれば良い。
【0055】
また上記の実施形態における火災判断部10の処理としては、火災検出信号と火災断定レベルとの比較、非火災検出信号及び低温物体検出信号の非火災判断レベルとの比較で火災の有無を判断しているが、他の火災判断として、火災検出信号と非火災検出信号の比または差を求め、この比または差が所定の火災断定レベル以上であれば火災と判断し、未満であれば非火災と判断するようにしてもよい。
【0056】
更に、火災検出素子1、非火災検出素子2及び低温物体検出素子3は、それぞれに設定した中心波長λ1,λ2,λ3に対し所定の帯域幅を持つバンドパスフィルタを使用しており、バンドパスフィルタの中心波長に対する帯域幅は必要に応じて適宜に定めることができる。
【0057】
更に本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含む。

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明による炎検知器の実施形態を示した回路ブロック図
【図2】図1の検出素子の中心波長の設定を裏付ける炎及び炎以外の放射源の分光特性及び大気窓の説明図
【図3】大気の波長透過特性のグラフ図
【図4】大気の透過特性を通して見たハロゲンランプの波長スペクトラムの説明図
【図5】4.0μmの検出素子と2.3μmの検出素子によるライター燃焼時の電圧出力の計測結果の説明図
【図6】4.0μmの検出素子と2.3μmの検出素子によるハロゲンランプの電圧出力の計測結果の説明図
【図7】4.0μmの検出素子と2.3μmの検出素子によるろうそく燃焼時の電圧出力の計測結果の説明図
【図8】4.0μmの検出素子と2.3μmの検出素子によるアルコール燃焼時の電圧出力の計測結果の説明図
【図9】本発明による炎検知器の実施形態を示した回路ブロック図 1:火災検出素子2:非火災検出素子3:低温物体検出素子4,5,6:増幅器7:MPU8:コンパレータ9:電源10:火災判断部11,12,13,14:大気窓15:スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎固有の赤外線波長付近の放射エネルギーを、大気中の気体分子による吸収を受けない波長帯域である第1大気窓を通して検出する火災検出素子と、
炎固有の赤外線波長を外れた背景放射の放射エネルギーを、前記第1大気窓とは異なる第2大気窓を通して検出する非火災検出素子と、
前記火災検出素子による火災検出信号と前記非火災検出素子による非火災検出信号から火災を判断する火災判断部と、
を備えた炎検出器に於いて、
前記第1大気窓の波長帯域は概ね4.4μm乃至5.1μmであり、前記火災検出素子による炎検出中心波長をCO共鳴放射帯である概ね4.5μmに設定し、前記第2大気窓の波長帯域は概ね1.9μm乃至2.5μmであり、前記非火災検出素子による非火災検出中心波長を概ね2.3μmに設定したことを特徴とする炎検出器。

【請求項2】
請求項1記載の炎検出器に於いて、更に、火災検出素子による火災検出信号と非火災検出素子による非火災検出信号とに基づいて火災を判断する火災判断部を備え、
前記火災判断部は、前記火災検出信号が所定の火災断定レベル以上で前記非火災検出信号が所定の非火災判断レベル未満の場合は火災と判断し、前記火災検出信号が所定の火災断定レベル以上で前記非火災検出信号が所定の非火災判断レベル以上の場合は非火災と判断することを特徴とする炎検出器。

【請求項3】
請求項1記載の炎検出器に於いて、更に、人体を含む低温物体から放射される波長帯の放射エネルギーを検出する低温物体検出素子を設け、前記火災判断部は、前記低温物体検出素子の検出信号が所定の非火災判断レベル以上の場合は、前記火災検出信号と前記非火災検出信号とによる火災判断を抑止することを特徴とする炎検出器。

【請求項4】
請求項3記載の炎検出器に於いて、前記低温物体検出素子による検出中心波長を、前記第1大気窓の波長帯域である概ね5μm乃至12μmに属する概ね5μmに設定したことを特徴とする炎検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−331050(P2006−331050A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153393(P2005−153393)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000003403)ホーチキ株式会社 (792)
【Fターム(参考)】