説明

炭化珪素結晶の製造方法

【課題】台座から分離された、欠陥の少ないSiC結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素からなる台座の主面上に昇華法により炭化珪素結晶を形成する工程S1と、炭化珪素結晶を台座とを一体で取り出し、台座のうち炭化珪素結晶と接する部分が残存するように台座の一部をワイヤーソーを用いた切断などにより除去する工程S2と、台座の残部と炭化珪素結晶を加熱装置の内部空間に収容し、酸素含有雰囲気で加熱することにより台座の炭素を酸化してより炭化珪素結晶から台座を除去する工程S3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造に用いられる半導体基板として炭化珪素(SiC)結晶の利用が進められつつある。SiCは、より一般的に用いられているシリコン(Si)に比べて大きなバンドギャップを有する。そのため、SiCを用いた半導体装置は、耐圧が高く、オン抵抗が低く、また高温環境下での特性の低下が小さい、といった利点を有することから、注目を集めている。
【0003】
このようなSiC結晶の成長方法の一つとして、気相成長法の昇華法が挙げられる。たとえば、特許文献1には、昇華法によって、グラファイト製の台座の表面上にSiCブールを形成し、これをスライス、研磨し、さらに溶融KOHを用いてエッチングすることによって、SiCウエハを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−515749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、通常、1つのインゴット形状のSiC結晶を1本のワイヤーを用いてスライスすることによって複数の基板を作製する。このため、SiC結晶と台座とが一体化した状態のまま、SiC結晶をスライスする場合、ワイヤーはSiC結晶のみならず、台座にも接触する傾向にある。
【0006】
しかし、SiC結晶とグラファイト製の台座とは、硬度、脆弱性などの物性が大きく異なる。このため、SiC結晶のスライス、研磨などの加工処理を行なう際に、ワイヤーなどの加工部材が物性の異なる両者に接触することによって、当該加工部材に余分な負荷がかかることになる。この場合、この負荷に起因して、ワイヤーの切断などの加工部材の破損が引き起こされるという問題がある。また、加工部材の破損に伴い、設備の破損が生じる場合もある。さらには、この破損に伴い、SiC結晶が損傷し、結果的にSiC結晶に欠陥が生じるという問題がある。
【0007】
したがって、基板の生産性を向上し、また、設備への負荷を低減するためには、台座から分離されたSiC結晶を準備した後、当該SiC結晶に加工処理を行うことが必要となる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、台座から分離された、欠陥の少ないSiC結晶の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、台座の表面上に成長されたSiC結晶と台座とを分離する方法として、物理的にSiC結晶および台座に力を加えてSiC結晶から台座を剥離する検討を行った。しかし、この場合には、SiC結晶にクラックが発生し、あるいは割れが生じ、結果的にSiC結晶に欠陥が発生する可能性が高いことが分かった。
【0010】
そこで、本発明者らは、物理的にSiC結晶または台座に力を加えて両者を剥離する方法の代わりとなる方法について考察し、当該方法として、化学的に台座の除去する方法を用いることに着目した。そして、化学的にSiC結晶から台座を除去する方法について鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、炭素からなる台座の主面上にSiC結晶を形成する工程と、炭素を酸化して、SiC結晶から台座を除去する工程と、を備える、SiC結晶の製造方法である。
【0012】
本製造方法によれば、台座を構成する炭素を酸化して、SiC結晶と一体化している台座をガス化させることによって、SiC結晶から台座を除去する。このため、SiC結晶または台座に、両者を剥離するための物理的な力を加える必要がないため、台座の除去に伴う欠陥の発生を抑制することができる。したがって、欠陥の少ない高品質なSiC結晶を製造することができる。
【0013】
上記製造方法において、形成する工程の前に、台座の主面にSiC単結晶からなる種基板を配置する工程を備えることが好ましい。
【0014】
これにより、種基板の表面上に単結晶構造を有するSiC結晶を容易に製造することができる。
【0015】
上記製造方法は、種基板を配置する工程において、炭素からなる固定部を用いて、台座の主面に対して種基板を固定することが好ましい。
【0016】
これにより、種基板と台座とを簡便に固定させることができる。また、固定部は炭素からなるため、台座を除去する工程において、台座と同様にガス化させて除去することができる。
【0017】
上記製造方法は、除去する工程において、台座を500℃以上1800℃未満で加熱することが好ましい。
【0018】
これにより、炭素を効率的に酸化することができるため、SiC結晶の製造タクトを短縮することができる。
【0019】
上記製造方法は、除去する工程において、酸素を1体積%以上含有する雰囲気に台座を配置することが好ましい。
【0020】
これにより、炭素を効率的に酸化することができるため、SiC結晶の製造タクトを短縮することができる。
【0021】
上記製造方法において、SiC結晶を形成する工程と台座を除去する工程との間に、台座の一部を除去する工程をさらに備えることが好ましい。
【0022】
これにより、台座の体積を小さくする、または台座の表面積を大きくすることができるため、台座を構成する炭素を酸化するための時間を短縮することができる。したがって、SiC結晶の製造タクトを短縮することができる。
【0023】
上記製造方法において、台座を除去する工程は、台座を加熱装置の内部空間に収容する工程と、加熱装置の内部空間を加熱することによって、収容された台座を加熱する工程とを有し、収容する工程において、台座と加熱装置の内壁とが接触しないように、台座を加熱装置内に配置することが好ましい。
【0024】
これにより、台座を除去する工程において、台座の表面の全てが加熱装置内において露出している状態となるため、台座と加熱装置内の酸素との接触効率が向上する。したがって、台座を酸化するための時間を短縮することができ、もって、SiC結晶の製造タクトを短縮することができる。
【0025】
上記製造方法において、SiC結晶の台座と接触する面の最大幅Wと、接触する面に直交するSiC結晶の成長方向の最大長さHとの比H/Wが、2/5以下であることが好ましい。
【0026】
SiC結晶が上記比を満たす形状を有する場合に、SiC結晶を台座とを物理的に剥離すると、SiC結晶に欠陥が発生する確率が増大する傾向にあることを本発明者らは知見している。このため、上記形状を有するSiC結晶においては本発明による効果をより高く発揮することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明のSiC結晶の製造方法によれば、台座から分離された、欠陥の少ないSiC結晶を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態1におけるSiC結晶の製造方法の概略的なフロー図である。
【図2】実施の形態1におけるSiC結晶の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。
【図3】実施の形態1における昇華法の一例を示す概略的な断面図である。
【図4】実施の形態1におけるSiC結晶の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図5】実施の形態1におけるSiC結晶の製造方法の第3工程を概略的に示す断面図である。
【図6】実施の形態1における炭素の酸化法の一例を示す概略的な断面図である。
【図7】実施の形態1におけるSiC結晶の形状の一例を説明するための概略的な断面図である。
【図8】実施の形態2におけるSiC結晶の製造方法の概略的なフロー図である。
【図9】実施の形態2におけるSiC結晶の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。
【図10】実施の形態2におけるSiC結晶の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図11】実施の形態2におけるSiC結晶の製造方法の第3工程を概略的に示す断面図である。
【図12】実施の形態2におけるSiC結晶の製造方法の第4工程を概略的に示す断面図である。
【図13】実施の形態2におけるSiC結晶の形状の一例を説明するための概略的な断面図である。
【図14】実施の形態2におけるSiC結晶の製造方法の第1工程の他の例を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。また、本明細書中においては、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。
【0030】
<実施の形態1>
以下、本発明の一例として、昇華法を用いて多結晶構造を有するSiC結晶を製造する方法について説明する。
【0031】
(SiC結晶を形成する工程)
図1および図2を参照して、まず、台座10の主面10a(図2中、下面)上に、SiC結晶を形成する(ステップS1)。本工程において、SiC結晶は、以下のように形成することができる。
【0032】
図3を参照して、まず、坩堝30内に原料31が収められ、坩堝30の内部へ台座10の主面10aが面するように、台座10が取り付けられる。なお、図4に示すように、台座10が坩堝30の蓋として機能してもよい。
【0033】
台座10は、炭素からなり、特に、グラファイトからなることが好ましい。坩堝30は、その耐久性から、好ましくは黒鉛製坩堝である。原料31は、SiC2ガス、Si2Cガスなどの原料ガスを発生させるものであれば特に制限されず、また、原料ガスを台座10の主面10aに到達可能であれば、その形状および配置も特に制限されない。たとえば、取扱いの容易性、および原料の準備の容易性から、SiC粉末を用いることが好ましい。SiC粉末は、たとえば、SiC多結晶を粉砕することによって得ることができる。また、窒素およびリンなどの不純物がドーピングされたSiC結晶を成長させる場合には、原料31に不純物を混合させればよい。
【0034】
次に、昇華法により、台座10の主面10a上に、SiC結晶11が成長させられる。具体的には、坩堝30内の縦方向(図3中上下方向)に温度勾配をかけて、原料31が収められる領域を原料31が昇華する温度環境下とし、台座10の主面10aが位置する領域をSiCが結晶化する温度環境下とする。これにより、図中矢印で示すように原料31が昇華し、台座10の主面10a上には昇華物が堆積するため、結果的に、SiC結晶11を主面10a上に成長させることができる。
【0035】
この昇華法における坩堝30内の温度は、たとえば、2100℃以上2500℃以下とされる。坩堝30内の圧力は、好ましくは、1.3kPa以上大気圧以下とされ、より好ましくは、成長速度を高めるために13kPa以下とされる。また、昇華法において、好ましくは坩堝30内に不活性ガスを導入する。たとえば、坩堝30の上部に開口部を設けることによって、当該開口部から坩堝30の内部に不活性ガスを導入することができる。不活性ガスとしては、たとえば、アルゴン、ヘリウムおよび窒素からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0036】
そして、上記昇華法によって主面10a上にSiC結晶11が形成された台座10を坩堝30から取り外す。なお、坩堝30内の温度を低下させることによって、昇華法による結晶成長を停止することができ、もって、所望の大きさのSiC結晶11を形成することができる。好ましくは、台座10のの主面10aの平面形状は直径100mmの円を包含している。これにより、この主面10a上に成長したSiC結晶11から、直径100mmの円を包含する平面形状を有する基板を容易に得ることができる。
【0037】
(台座の一部を除去する工程)
次に、図1および図4を参照して、台座10の一部を除去する(ステップS2)。本工程において、台座10の一部は、以下のように除去することができる。
【0038】
台座10の主面10a以外の面を構成する部分、図4を参照すれば、台座10の図中上部を、ワイヤーソーなどを用いて切断する。なお、図4において点線で示す領域は、本工程により除去される台座10の領域を示す。また、他の工具、たとえば、ダイシングブレードを用いて台座10の一部を除去してもよい。本工程による利点は以下の通りである。
【0039】
すなわち、台座10は、後述する工程(ステップS3)において、酸化されることによって化学的に除去されるが、本工程を行なうことにより、化学的に除去する台座10の体積を予め低減させることができる。このため、台座10を化学的に除去するために必要な処理時間を短縮することができる。
【0040】
台座10において除去される一部は図4の点線で示す領域に限られず、たとえば、台座10の図4中横方向に突出する部分を除去してもよい。また、台座10の表面積が大きくなるように、台座10の一部を除去してもよい。台座10の表面積が大きくなることにより、後述する工程(ステップS3)において、酸素と台座10との接触効率が向上するため、酸化効率が向上し、結果的に、台座10を化学的に除去するために必要な処理時間を短縮することができる。
【0041】
ここで、台座10の全てとSiC結晶11とを分離すべく、台座10のSiC結晶11と接する部分を、物理的に、たとえばワイヤーソーを用いて除去しようとすると、ワイヤーソーは台座10のみならず、SiC結晶11の一部をも切削する場合がある。この場合、ワイヤーソーは、硬度、脆弱性などの物性が大きく異なる台座10とSiC結晶11とを切削することになるため、ワイヤーソーに大きな負荷がかかることになる。この負荷に伴ってワイヤーソーの切断が発生すると、この切断に起因してSiC結晶11に損傷が発生する虞がある。
【0042】
したがって、本工程において、台座10のうちSiC結晶11と接する部分が残存するように、台座10の除去領域を決定する必要がある。理論的には、SiC結晶11との界面から、炭素1原子層分の厚みの台座10を残存させることが好ましく、さらに、製造工程の安定化の観点からは、SiC結晶11との界面から、少なくとも、垂直方向に100μm以上の厚みの台座10が残存するように、台座10の一部を除去することが好ましい。なお、本工程は必須ではなく、本工程を行なわずに、後述する工程(ステップS3)を行ってもよい。
【0043】
(SiC結晶から台座を除去する工程)
次に、図1および図5を参照して、台座10を構成する炭素を酸化して、SiC結晶11から台座10を除去する(ステップS3)。本工程において、台座10は、以下のように除去することができる。
【0044】
図6を参照して、まず、加熱装置60の内部空間61に、SiC結晶11が形成された台座10を収容する。加熱装置60の内部空間61は密閉されている必要はなく、外部と通気可能であってもよい。次に、加熱装置60の内部に設けられた加熱部62によって内部空間61を加熱する。加熱部62の構成は特に限定されず、たとえば、電熱線、セラミックヒータまたは石英加熱管などを用いることができる。なお、加熱部62が配置される位置、数は、図6に示す形態に限られない。
【0045】
これにより、内部空間61に配置された台座10が加熱される。また、加熱装置60の内部空間61には、酸素原子(O)を含むガスが存在している。このため、本工程において、台座10を構成する固体の炭素が内部空間61内の酸素原子によって酸化されて、一酸化炭素ガス(CO)、二酸化炭素ガス(CO2)などの酸化炭素ガスに変換される。これにより、固体の台座10がSiC結晶11から除去されて、最終的に、図5に示す、台座10の全てが除去されて、台座10に接触していた面11aが露出したSiC結晶11を得ることができる。
【0046】
また、本工程において、台座10のみならず、SiC結晶11も同様に加熱されることになる。具体的には、内部空間61が加熱されることによって、SiC結晶11の全体が均一に加熱されることになる。このため、SiC結晶11のアニール効果をも期待することができる。
【0047】
酸素原子を含むガスは、好ましくは空気である。この場合、簡便に内部空間61に空気を充填することができる。また、内部空間61に酸素ガスを1体積%以上含有する雰囲気とすることが好ましい。これにより、台座10の酸化を促進することができる。なかでも、酸素ガスを1体積%以上含有する不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。これにより、台座10の酸化を促進することができるとともに、他の意図しない反応を抑制することができるため、炭素をさらに効率的に酸化することができる。不活性ガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどを選択することができる。なお、炭素の酸化を促進するという観点からは、内部空間61における酸素ガスの体積は高いことが好ましいが、80体積%より大きくすると、引火物の存在などによる安全性の問題、台座の炭素の急激な燃焼によって設定温度以上に非加熱体の温度が上昇するなどのおそれがある。このため、内部空間61の酸素ガスの含有割合は、80体積%以下であることが好ましい。
【0048】
また、本工程において、台座10を500℃以上で加熱することが好ましい。これにより、台座10の酸化を促進することができ、炭素を効率的に酸化することができる。したがって、結果的に、SiC結晶11の製造タクトを短縮することができる。また、台座10を1800℃未満で加熱することが好ましい。これにより、SiC結晶11に対するエッチングなどの影響を抑制することができる。より好ましくは、加熱温度は、800℃以上1200℃以下である。
【0049】
また、本工程において、図6に示すように、台座10と加熱装置60の内壁60aとが接触しないように、台座10を加熱装置60内に配置することが好ましい。これにより、台座10の露出する表面の全てが加熱装置60内において露出している状態となるため、台座10と内部空間61における酸素原子または酸素ガスとの接触効率が向上する。したがって、台座10を酸化するための時間を短縮することができ、もって、SiC結晶11の製造タクトを短縮することができる。
【0050】
以上詳述したように、本実施の形態1において、多結晶構造からなる、台座と分離されたSiC結晶を製造することができる。昇華法によって形成されたSiC結晶には、台座が一体化されているが、本実施の形態1によれば、台座を酸化してガス化させることによって化学的に除去することができるため、SiC結晶または台座に両者を剥離するための物理的な力を加える必要がない。このため、物理的な力を加えることに起因するSiC結晶における欠陥の発生を抑制することができる。したがって、欠陥の少ない高品質なSiC結晶を製造することができる。
【0051】
なかでも、SiC結晶の台座と接触する面の最大幅Wと、接触する面に直交するSiC結晶の成長方向の最大長さHとの比H/Wが、2/5以下であることが好ましい。具体的には、図7を参照して、SiC結晶11の台座10と接触する面11aの最大幅Wと、当該面11aに直行するSiC結晶11の成長方向(図7中上方向)の最大長さHとの比H/Wが2/5以下であることが好ましい。なお、面11aの最大幅Wは、台座10の主面10aの幅(図中横方向)に一致する。本発明者らは、SiC結晶が上記比を満たす形状を有する場合にSiC結晶と台座とを物理的に剥離すると、SiC結晶11に欠陥が発生する確率が増大する傾向にあることを知見している。このため、上記形状を有するSiC結晶においては上述の効果をより高く発揮することができる。
【0052】
また、本実施の形態1により得られるSiC結晶はインゴットであり、たとえば、ワイヤーソーなどでスライスされることによって、半導体装置用のSiC基板として用いることができる。このSiC結晶は台座と分離されているため、ワイヤーソーの切断などの設備の破損を抑制することができ、もって、SiC基板の製造コスト、歩留まりを向上させることができる。
【0053】
また、本実施の形態1で得られるSiC結晶によれば、台座に接触していた面(図5中の面11a参照。)を露出させることができる。この面は、台座の主面上に形成された平面であり、その基準面としての精度は高い。
【0054】
すなわち、台座とSiC結晶とを物理的に切断することによってSiC結晶の成長開始点に近い面を露出させた場合、その切断の精度次第で当該面の平坦性は変化することになる。したがって、当該面をスライス時の基準面とする場合に、基準面のずれによるスライス処理のずれが生じ、インゴットの利用に過剰なロスが生じる場合がある。これに対し、本実施の形態1で得られるSiC結晶によれば、台座に接触していた面を基準面とすることができるため、台座の主面の平坦性を確保しておくことにより、基準面の平坦性をも容易に確保することができる。したがって、精度の高いスライスが可能となり、インゴットの利用におけるロスを抑制することができる。
【0055】
また、本実施の形態1によれば、酸素原子が存在する条件下において、台座のみならずSiC結晶も加熱されるため、得られるSiC結晶の表面には酸化膜が形成される。本発明者が種々の検討を行ったところ、10Å程度の厚みの酸化膜が表面に比較的均一に形成される傾向にあることが知見されている。このように均一な酸化膜が表面に形成されていることにより、成長面の極性を簡便に予測することができ、これにより、成長面が所望の成長面となっているかどうかなど、工程管理の面での良否判定が容易になることが期待される。
【0056】
なお、Si結晶の融点はSiC結晶と比較して非常に低い。このため、炭素を酸化するための温度条件下において、Si結晶が化学的に変化する虞が高い。したがって、本発明は、Si結晶の製造に利用することは困難であると考えられる。
【0057】
<実施の形態2>
以下、本発明の一例として、昇華法を用いて単結晶構造を有するSiC結晶を製造する方法について説明する。
【0058】
(種基板を配置する工程)
図8および図9を参照して、まず、台座10の主面10a(図9中、下面)上に種基板91を配置する(ステップS81)。本実施の形態2において、種基板91は、図9に示すように、固定部92によって台座10の主面10a側に接着することができる。
【0059】
種基板91は単結晶構造を有するSiC結晶(以下、「SiC単結晶」ともいう。)からなり、その結晶構造は六方晶系であることが好ましく、なかでも、4H−SiCまたは6H−SiCであることがより好ましい。種基板91は、その表面上にSiC結晶11が成長することになる面である面91a(図中、下面)と、台座10に取り付けられることになる面である裏面(図中、上面)とを有する。種基板91の厚さ(図中、縦方向の寸法)は、たとえば0.5mm以上10mm以下である。また、種基板91の平面形状は、直径100mmの円を包含していることが好ましい。
【0060】
また、種基板91の面91aの面方位の{0001}面からのオフ角度(傾き)、すなわち(0001)面または(000−1)面からのオフ角度は、15°以下が好ましく、5°以下がより好ましい。これにより、炭化珪素のエピタキシャル成長における欠陥の発生を抑えることができる。あるいは、面91aの{0001}面からのオフ角度は80°以上であってもよい。これにより、たとえば{11−20}面または{1−100}面などのチャネル移動度の高い面を有するSiC基板を切り出すのに適したSiC結晶11を成長させることができる。あるいは、面91aの{0001}面からのオフ角度は50°以上60°以下であってもよい。これにより、たとえば{03−38}面などのチャネル移動度の高い面を有するSiC基板を切り出すのに適したSiC結晶11を成長させることができる。
【0061】
固定部92は炭素(C)からなる。固定部92は、たとえば、加熱されることによって硬化し、かつその組成が炭素となる接着剤を、台座10の主面10aまたは種基板91の裏面に塗布し、台座10の主面10aと種基板91の裏面とを圧着した後、当該接着剤を加熱して硬化させることによって形成することができる。接着剤を硬化するための加熱の温度は、好ましくは1000℃以上であり、より好ましくは2000℃以上である。またこの加熱は、不活性ガス中で行われることが好ましい。
【0062】
固定部92は、なかでも、加熱されることによって難黒鉛化炭素となる樹脂と、ダイヤモンド微粒子と、溶媒とを含む接着剤が加熱されることによって形成されることが好ましい。難黒鉛化炭素とは、不活性ガス中で加熱された場合に黒鉛構造が発達することが抑制されるような不規則な構造を有する炭素である。加熱されることによって難黒鉛化炭素となる樹脂としては、たとえば、ノボラック樹脂、フェノール樹脂、またはフルフリルアルコール樹脂がある。
【0063】
ダイヤモンド微粒子の量は、炭素原子のモル数を基準として、樹脂の量よりも少なくされることが好ましい。ダイヤモンド微粒子の粒径は、たとえば0.1〜10μmである。溶媒としては、上記の樹脂および炭水化物を溶解・分散させることができるものが適宜選択される。またこの溶媒は、単一の種類の液体からなるものに限られず、複数の種類の液体の混合液であってもよい。たとえば、炭水化物を溶解させるアルコールと、樹脂を溶解させるセロソルブアセテートとを含む溶媒が用いられてもよい。
【0064】
上記接着剤を用いて固定部92を形成した場合、接着剤の硬化時に、ダイヤモンド微粒子から黒鉛微粒子への変化による体積増大によって、樹脂から難黒鉛化炭素への変化による体積減少を相殺することができる。よって、接着剤が硬化されることで形成された固定部92中において、この体積減少に起因して細孔が発生することを抑制することができる。これにより、細孔の存在による固定部92の熱伝導率の低下を抑制することができるので、固定部92によって固定された種基板91の温度をより均一にすることができる。よって、後述するSiC結晶を形成する工程において、種基板91上に高品質のSiC結晶を成長させることができる。
【0065】
また、接着剤が固定部92へと変化する際に、ダイヤモンド微粒子、またはこのダイヤモンド微粒子が変化することで形成された黒鉛微粒子が存在する。この微粒子は、接着剤中の樹脂が高温加熱されることで形成される難黒鉛化炭素を均一に分布させる機能を有し、これにより固定部92の充填率を高めることができる。これにより、固定部92の熱伝導率を高めることができる。
【0066】
また、接着剤は、ダイヤモンド微粒子に加えて黒鉛微粒子を当初から含んでもよい。これにより、硬化時に黒鉛に変化することでその体積が増大するダイヤモンド微粒子の量と、最初から黒鉛であることから体積が変わらない黒鉛微粒子の量との比を調整することができる。この調整により、接着剤の硬化時における微粒子の体積増大の程度を調整することができるため、所望の厚みの固定部92を容易に形成することができる。
【0067】
好ましくは接着剤は炭水化物を含む。炭水化物としては、糖類またはその誘導体を用いることができる。この糖類は、グルコースのような単糖類であっても、セルロースのような多糖類であってもよい。また、接着剤の成分は、上述した成分以外の成分を含んでもよい。たとえば、界面活性剤および安定剤などの添加材が含まれてもよい。
【0068】
(SiC結晶を形成する工程)
次に、図8および図10を参照して、種基板91の面91a上にSiC結晶11を形成する(ステップS82)。本工程では、実施の形態1のステップS1で詳述した昇華法と同様の昇華法によってSiC結晶が形成されるため、その説明は繰り返さない。
【0069】
本実施の形態2において、種基板91の面91a上に単結晶構造を有するSiC結晶11を容易に形成することができる。好ましくは、種基板91の面91aの平面形状は直径100mmの円を包含している。これにより、この種基板91上に成長したSiC結晶11から、直径100mmの円を包含する平面形状を有するSiC単結晶からなる基板を容易に得ることができる。
【0070】
なお、本実施の形態2において、種基板91としてSiCから形成されたものを例示したが、他の材料から形成されたものが用いられてもよい。この材料としては、たとえば、GaN、ZnSe、ZnS、CdS、CdTe、AlN、またはBNを用いることができる。
【0071】
(台座の一部を除去する工程)
次に、図8および図11を参照して、台座10の一部を除去する(ステップS83)。本工程は、実施の形態1のステップS2と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0072】
(SiC結晶から台座を除去する工程)
次に、図8および図12を参照して、台座10を構成する炭素を酸化して、SiC結晶11から台座10を除去する(ステップS84)。本工程は、実施の形態1のステップS3と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0073】
ここで、固定部92は炭素からなるため、本工程において固定部92は台座10と同様に酸化されたガス化することにより、種基板91の表面上から除去される。したがって、本工程後には、図12に示すように、SiC結晶11および種基板91のみが残ることになる。
【0074】
以上詳述したように、本実施の形態2において、単結晶構造からなるSiC結晶を製造することができる。昇華法によって形成されたSiC単結晶には、台座が一体化されているが、本実施の形態2によれば、台座を酸化してガス化させることによって化学的に除去することができるため、SiC単結晶または台座に両者を剥離するための物理的な力を加える必要がない。このため、物理的な力を加えることに起因するSiC単結晶における欠陥の発生を抑制することができる。したがって、欠陥の少ない高品質なSiC単結晶を製造することができる。
【0075】
なかでも、SiC結晶の台座と接触する面の最大幅Wと、接触する面に直交するSiC単結晶の成長方向の最大長さHとの比H/Wが、2/5以下であることが好ましいことは、実施の形態1と同様である。具体的には、図13を参照して、SiC結晶11の台座10と接触する面11aの最大幅Wと、当該面11aに直行するSiC結晶11の成長方向(図13中上方向)の最大長さHとの比H/Wが2/5以下であることが好ましい。
【0076】
また、本実施の形態2では、接着剤を硬化してなる固定部92を例示したが、固定部92は他の構成を有していてもよい。たとえば、図14を参照し、固定部140は、台座10に設けられた溝部10bと種基板91の表面91aとを挟み込むことによって種基板91と台座10とを固定するジグであってもよい。この場合であっても、上述のステップS84において、台座10と同様に炭素からなる固定部92を除去することができる。また、この場合、台座10と種基板91とを簡便に固定することができる。
【0077】
以上、実施の形態1および2では、昇華法を用いてSiC結晶を製造する方法について説明したが、SiC結晶を台座上に成長させる方法は、昇華法に限られない。たとえば、高速CVD法などの気相成長法、溶融成長法などの液相成長法を用いて、台座上にSiC結晶を製造させた後、台座を酸化除去してもよい。
【実施例】
【0078】
本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例により本発明が限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
まず、高純度のSiC粉末を、グラファイトからなる坩堝内に表面が平坦となるように充填した。また、ノボラック樹脂を硬化させることによって、グラファイト製の台座の主面に固定部を介して種基板を固定した。種基板としては、主面形状が円形状であり、直径が25〜100mm(1〜4インチ)、その厚みが0.4〜2mmである様々なサイズの4H−SiC単結晶を用いた。なお、種基板の台座と対向する面と反対側の主面の面方位は、(0001)面からのオフ角度が8°のものにした。
【0080】
次に、坩堝内にHeガスまたはArガスを導入して、坩堝内の内部の雰囲気の圧力を300〜700Torrまで減圧させた。また、同時に、高周波加熱コイルを用いて、坩堝内の雰囲気の温度が2000〜2300℃となるように、坩堝の内部の雰囲気を加熱した。そして、100Torr以下まで減圧し、結晶成長方向の最長の長さが2cm以上のSiC結晶を成長させ、その後、坩堝内の温度を室温まで冷却させた。
【0081】
次に、台座、固定部、種基板、およびSiC結晶からなる構造物を熱処理装置内に収め、当該熱処理装置内を1000℃/時間の速度で室温から1000℃に昇温した。なお、熱処理装置内の雰囲気は、空気が通気可能な条件下とした。そして、熱処理装置内を1000℃に維持し続け、収容される上記構造物の状態を目視で観察したところ、48時間経過後に台座および固定部が完全に除去されたことが確認された。そして、このSiC結晶をワイヤーソーを用いてスライスし、厚さ450mmのSiC基板を300枚作製したところ、ワイヤーの断線は観察されず、作製されたSiC基板の各々の品質も良好であった。
【0082】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、結晶成長方向の最長の長さが2cm以上のSiC結晶を成長させた。次に、台座、固定部、種基板、SiC結晶からなる構造物を上記ワイヤーソーを用いてスライスし、厚さ450mmのSiC基板を300枚作製したところ、ワイヤーが断線され、この断線に伴い、20枚のSiC基板に割れが発生した。
【0083】
(比較例2)
実施例1と同様の方法により、結晶成長方向の最長の長さが2cm以上のSiC結晶を成長させた。次に、台座、固定部、種基板、SiC結晶からなる構造物について、固定部と種基板とを分離すべく機械的な剥離を試みたが、剥離されたSiC種基板の表面には複数のクレーターのような剥がれが観察された。このため、剥離によって露出したSiC種基板の表層部分は、SiC基板として利用することができないことが分かった。
【0084】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
10 台座、10a 主面、10b 溝部、11 SiC結晶、30 坩堝、31 原料、60 加熱装置、60a 内壁、61 内部空間、62 加熱部、91 種基板、92,140 固定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素からなる台座の主面上に炭化珪素結晶を形成する工程と、
前記炭素を酸化して、前記炭化珪素結晶から前記台座を除去する工程と、を備える、炭化珪素結晶の製造方法。
【請求項2】
前記炭化珪素結晶を形成する工程の前に、前記台座の主面に炭化珪素単結晶からなる種基板を配置する工程を備える、請求項1に記載の炭化珪素結晶の製造方法。
【請求項3】
前記台座を配置する工程において、炭素からなる固定部を用いて、前記台座の主面に対して前記種基板を固定する、請求項2に記載の炭化珪素結晶の製造方法。
【請求項4】
前記台座を除去する工程において、前記台座を500℃以上1800℃未満で加熱する、請求項1から3のいずれかに記載の炭化珪素結晶の製造方法。
【請求項5】
前記台座を除去する工程において、酸素を1体積%以上含有する雰囲気に前記台座を配置する、請求項1から4のいずれかに記載の炭化珪素結晶の製造方法。
【請求項6】
前記炭化珪素結晶を形成する工程と前記台座を除去する工程との間に、前記台座の一部を除去する工程をさらに備える請求項1から5のいずれかに記載の炭化珪素結晶の製造方法。
【請求項7】
前記台座を除去する工程は、前記台座を加熱装置の内部空間に収容する工程と、前記加熱装置の内部空間を加熱することによって、収容された前記台座を加熱する工程とを有し、前記収容する工程において、前記台座と前記加熱装置の内壁とが接触しないように、前記台座を前記加熱装置内に配置する、請求項1から6のいずれかに記載の炭化珪素結晶の製造方法。
【請求項8】
前記炭化珪素結晶の前記台座と接触する面の最大幅Wと、前記接触する面に直交する前記炭化珪素結晶の成長方向の最大長さHとの比H/Wが、2/5以下である、請求項1から7のいずれかに記載の炭化珪素結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−67522(P2013−67522A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205456(P2011−205456)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】