説明

炭粉含有コーティング剤とその用途

【課題】 様々な有害ガスに対する十分な吸着除去効果を発揮し、このような吸着除去効果の即効性および持続性に優れる炭粉含有コーティング剤とこれを用いたコーティング物を提供する。
【解決手段】 本発明にかかる炭粉含有コーティング剤は、炭粉とバインダーを含むスラリーからなるコーティング剤であって、前記炭粉が特定の活性化木炭の粉に活性炭の粉を配合してなることを特徴とし、本発明にかかる炭粉含有コーティング物は、前記コーティング剤を被処理物に含浸してなり、被処理物に対する前記コーティング剤の含浸量が炭粉の純分基準で被処理物に対し1〜50重量%であることを特徴とするか、前記コーティング剤を被処理物の表面に被覆してなり、被処理物に対する前記コーティング剤の被覆量が炭粉の純分基準で被処理物に対し1〜50g/mであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルエンなどの有機溶剤系の有害ガスを除去するなどの目的で用いられる、炭粉含有コーティング剤および炭粉コーティング物に関する。詳しくは、特に、トルエン、キシレン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどの揮発性有機化合物(VOC)の吸着機能や分解機能に優れる炭粉含有コーティング剤および炭粉コーティング物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木炭および活性炭は、一般住宅や工場などの各種環境下において、有害なガス成分や悪臭の吸着除去に広く利用されている。また、近年、木炭や活性炭を担持させた紙や布、あるいは、木炭や活性炭を含有する樹脂で成形されたシートなどが開発され、前記した木炭や活性炭の機能を有効に発揮できる素材として、各種製品に利用されている。
木炭を用いた技術として、シート状の綿材の少なくとも表面やシート状の布材または紙材の少なくとも裏面に、炭を微粉砕した炭パウダーを含む添加材が付着された炭添加綿、炭添加繊維が知られている(特許文献1参照)。前記付着の方法としては、噴霧や浸漬が挙げられている。このような構成により、炭パウダーが発揮する炭固有の消臭作用、抗菌作用、保温作用、吸着作用などを綿や繊維に付与するようにしている。具体的実施形態の1つとして、炭パウダーを活性炭パウダーと混ぜたものを利用すると、活性炭の吸着作用により、ホルムアルデヒドの発生などを防止できるとされている(特許文献1の段落0050)。
【0003】
活性炭を用いた技術として、室内、自動車内などの限られた空間にタバコ、壁剤、シート剤などから発生するアンモニア、アルデヒド、硫化水素、酢酸、有機溶剤臭などの多数の悪臭物質が混在する場合に、それらの悪臭を同時に取り除くための消臭ポリエステル繊維構造物が提案されている(特許文献2参照)。この消臭ポリエステル繊維構造物には、消臭成分の1つに活性炭が用いられており、具体的には、活性炭、無機酸化物および有機窒素系化合物がバインダーを介して固着されており、活性炭、無機酸化物、有機窒素系化合物が相乗的に作用して、それぞれを単独で用いる場合により、際立って増大した消臭効果を奏するとされている。
【特許文献1】特開平11−229219号公報
【特許文献2】特開平10−292268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が、特許文献1や特許文献2に記載の技術を参考に、木炭の粉や活性炭の粉を単独で用い、これらの炭粉とバインダーを含有するコーティング剤を作成して、繊維にコーティングしてみたところ、吸着除去性能の即効性や持続性が低いものしか得られなかった。また、特許文献1に記載の技術を参考に、木炭の粉と活性炭の粉を併用し、これらの炭粉とバインダーを含有するコーティング剤を作成して、繊維にコーティングしてみたところ、ホルムアルデヒドなどの吸着能が木炭単独使用の場合より優れるものとなったが、吸着除去性能の即効性や持続性に関しては、やはり、低いものしか得られなかった。
次に、本発明者は、特開2000−226207号公報に記載の活性化木炭に着目した。特開2000−226207号公報の記載によれば、この活性化木炭は、次のような性能を有しているとされている。すなわち、吸着能が高く、吸放湿性や脱臭性に優れており、特に、様々な有害成分に対して十分な吸着除去性能を発揮できる(段落0029など)。活性化木炭の吸着能は、木炭や活性炭と比べて、吸着物質と接触したときの立ち上がり速度が大きい(すなわち、即効性が高い)(段落0006、0014、0029など)。また、吸着物質を放出、分解する作用があるため、活性化木炭の微細孔に吸着物質が詰まって吸着能が低下することが防げ、長期間にわたって安定した吸着能を発揮できる(すなわち、持続性が高い)(段落0014、段落0027など)。
【0005】
実際に、上記活性化木炭の粉とバインダーを含むスラリーからなるコーティング剤を作成して、繊維にコーティングしてみたところ、確かに、様々な有害成分に対して十分な吸着除去性能を発揮するものであり、通常の木炭(以下、本明細書において、単に「木炭」というときは「通常の木炭」を意味する。)や活性炭の単独使用または併用の場合と比較して、吸着除去性能の即効性や持続性の高いものが得られたが、未だに吸着除去性能の即効性が充分に高いとまでは言えないものであった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、様々な有害ガスに対して十分な吸着除去性能を発揮するものであり、かつ、このような吸着除去効果の即効性が充分に高く、しかも、長期間にわたって安定した吸着除去能を発揮することのできる、炭粉含有コーティング剤とその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するべく、上記活性化木炭が有する吸着除去性能の即効性をさらに向上させることはできないか、種々の実験・考察を行って鋭意検討した結果、炭粉として前記活性化木炭とともに、吸着除去性能の即効性および持続性が低いとされていた活性炭の粉を併用するようにすれば、意外にも、吸着除去性能の即効性が顕著に高まり、しかも、様々な有害ガスに対する吸着除去性能やその持続性が低下してしまうこともないということを見出し、それを確認して、本発明を完成した。
すなわち、本発明にかかる炭粉含有コーティング剤は、炭粉とバインダーを含むスラリーからなるコーティング剤であって、前記炭粉が下記工程を経ることにより得られる活性化木炭の粉に活性炭の粉を配合してなることを特徴とする。
【0007】
木材チップを450〜550℃で熱処理して炭化させる低温炭化工程と、前記低温炭化工程に引き続いて、前記木材チップの炭化物を800〜900℃、3〜60分で熱処理して、さらに炭化させる高温炭化工程と、前記高温炭化工程の終了時点で、前記炭化物に水を接触させる活性化工程。
そして、本発明にかかる炭粉コーティング物は、上記本発明のコーティング剤を被処理物に含浸してなるコーティング物であって、被処理物に対する前記コーティング剤の含浸量が、炭粉の純分基準で被処理物に対し1〜50重量%であるか、上記本発明のコーティング剤を被処理物の表面に被覆してなるコーティング物であって、被処理物に対する前記コーティング剤の被覆量が、炭粉の純分基準で被処理物に対し1〜50g/mであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、様々な有害ガスに対して十分な吸着除去性能を発揮させることができ、かつ、このような吸着除去性能の即効性が充分に高く、しかも、長期間にわたって安定して発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明にかかるコーティング剤について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
<炭粉>
炭粉は、活性化木炭の粉に活性炭の粉を配合してなるものである。
炭粉は、最大粒径が100μm以下のものを用いることが好ましい。また、平均粒径が30μm以下のものを用いることが好ましい。このような微粉末状の炭粉は、吸着除去性能に極めて優れるものとなる点で好ましく、所望の吸着除去性能を発揮させるために必要となる炭粉の絶対量が少なくて済むという点でも好ましい。最大粒径が10μm以下であることがより好ましい。また、平均粒径が0.05〜3μmであることがより好ましい。
【0010】
なお、本発明において、炭粉の最大粒径や平均粒径は、後述の実施例において採用する方法によって測定される値である。
〔活性化木炭〕
活性化木炭とは、木炭の原料、炭化処理条件などを適切に設定することによって、物理的および化学的に活性化した木炭であり、前記したガス吸着性などの機能が格段に向上する。活性化木炭の製造方法は、木材チップを450〜550℃で熱処理して炭化させる低温炭化工程と、低温炭化工程に引き続いて、木材チップの炭化物を800〜900℃で、好ましくは3〜60分、さらに好ましくは5〜15分熱処理して、さらに炭化させる高温炭化工程と、高温炭化工程の終了時点で、炭化物に水を接触させる活性化工程とを含む。
【0011】
前記木材チップとは、木材の細片すなわちチップである。木材チップの原木としては、主に、杉材、ヒマラヤ杉材、赤松材などの針葉樹材が用いられ、特に赤松材が好ましい。木材製品として利用し難く安価な細い木材や廃材を利用することができる。パルプ製造やボード建材の原料として大量に工業生産されている木材チップ製品を用いることもできる。
木材チップの形状および寸法は特に限定されないが、木材チップの差し渡し径を測ったときに、その最大径が10〜60mmのものが好ましい。大き過ぎる木材チップは充分な炭化を行い難く、小さ過ぎる木材チップは取扱い難く、製造歩留りも悪い。
【0012】
前記低温炭化工程では、基本的には、通常の木炭製造装置および製造処理条件を採用すればよい。熱処理の温度を450〜550℃に設定する。熱処理時間は、木材チップの全体が充分に炭化される程度で良く、木材チップあるいは製造装置の条件によっても異なるが、通常は100〜120時間をかけて処理される。
熱処理雰囲気は、空気の流入を遮断した状態で行う。モミ殻やオガクズで木材チップを覆った状態で処理することができる。
前記高温炭化工程では、基本的には、通常の木炭製造装置および製造処理条件を採用し、熱処理の温度を800〜900℃、熱処理時間を好ましくは3〜60分、さらに好ましくは5〜15分に設定する。高温炭化工程では、前工程で低温炭化された木材チップ炭化物の表面に近い一部分のみを高温炭化し、木材チップ炭化物の中心部分には低温炭化部分を残しておく。
【0013】
処理時間によって、得られる活性化木炭に含まれる高温炭化部分と低温炭化部分との比率が調整される。処理時間が短すぎたり長すぎたりすると、高温炭化部分と低温炭化部分とのそれぞれの特性が充分に発揮できない。前記低温炭化工程と同じ装置で、熱処理温度を上昇させることで、低温炭化された木材チップ炭化物をそのまま高温炭化させることが好ましい。熱処理雰囲気は、酸素を供給した状態にする。
高温炭化工程で熱処理を行った炭化物に水を接触させると、炭化物は急速に冷却されて消火する。その際に、水の化学的および物理的な作用によって、炭化物に複雑な形状の微細孔が形成されたり、炭化物の表面が改質されて吸着能などが向上したりする活性化が行われる。
【0014】
なお、水は液体状態であってもよいが、通常は水蒸気状態で炭化物に接触することになる。活性化工程の具体的処理装置や処理条件は、既知の活性炭製造技術において行われている水との接触処理と同様でよい。但し、活性化木炭を得るための活性化工程における炭化物への水の接触は、活性炭製造技術において行なわれるいわゆる水蒸気賦活とは異なる。すなわち、活性炭製造における水蒸気賦活では、一次炭といわれる原料炭素に水蒸気を通じ、1000℃付近で反応させることにより、一次炭中に残存または吸着されていた不純物や一部の炭素がガス化して除去され、内部表面積が大きくなっているものであって、上述の活性化木炭製造における炭化物への水の作用(炭化物の急速な冷却による水の化学的および物理的な作用)とは明らかに異なる。
【0015】
活性化木炭は、内部に多数の微細孔を有する多孔質構造であり、この微細孔による物理的な吸着作用を有するとともに、微細孔の表面が化学的あるいは物理的に活性化されていて高い吸着能を発揮する。備長炭との比較において具体的に以下に説明する。
電子スピン共鳴法により、活性化木炭と備長炭を分析したところ、活性化木炭では1重項のシグナルが検出され、備長炭ではシグナルは検出されなかった。そして、前記活性化木炭において検出されたシグナルのg値は、2.00であり、自由電子に近い値であった。このことから、前記シグナルは、水素と結合していない炭素のダングリングボンドに由来する不対電子が原因であると推測される。他方、X線回折により、活性化木炭と備長炭を分析したところ、活性化木炭は非晶質に特有の幅の広いピークのみが得られ、備長炭は非晶質に特有のピークに加えて結晶質による鋭いピークも得られたことから、活性化木炭は非晶質からなり、備長炭は非晶質と結晶質からなることが分かった。
【0016】
木炭が非晶質であると、炭素の結合に欠陥が多くなり、その結果、自由電子様の不対電子が存在することになって、他の物質との反応性が生じる。活性化木炭は、非晶質部分が多いため、備長炭などよりも優れた吸着能を発揮するものと推測される。
なお、X線光電子分光法により分析したところ、活性化木炭の原子組成は、炭素89.1%、酸素10.9%であり、官能基としてヒドロキシル基(−OH)、カルボキシル基あるいはエステル基(−COOR:RはHあるいはアルキル基)を有することが推測された。また、活性化木炭を水中に分散させて、ラジカル発生の有無を調べた結果、ラジカルが生じなかったことから、活性化木炭中の不対電子は、吸着能の向上に寄与するものの、水と反応してラジカルを生じるほどの反応性まではもたないことが分かる。これらの実験事実から、吸着性を発揮する原因となる活性化木炭表面の官能基は、過酸化物ラジカルなどのように反応性の高い遊離基ではなく、不対電子をもつ炭素原子(有機ラジカル)や炭素に結合し、かつ、不対電子をもつヒドロキシル基、酸素原子などであると推測される。
【0017】
前記製造方法から判るように、活性化木炭は、原料となる木材チップ以外の添加剤や活性化処理剤を使用する必要がない。
活性化木炭は、吸着能に優れ、吸放湿性、脱臭性、防黴性、遠赤外線放射性、導電性、電磁波吸収性、イオン調整機能などに優れている。活性化木炭の吸着能は、吸着物質と接触したときの立ち上がり速度が大きい。また、吸着物質を放出、分解する作用があるため、活性化木炭の微細孔に吸着物質が詰まって吸着能が低下することが防げ、長期間にわたって安定した吸着能を発揮できる。活性化木炭には、低温炭化工程で炭化された低温炭化部分と、高温炭化工程でさらに炭化された高温炭化部分とが混在している。通常は、中心側に低温炭化部分、外周側に高温炭化部分が存在する。
【0018】
低温炭化部分は、酢酸やアンモニアなどの比較的高分子量の化合物に対する吸着性が優れている。高温炭化部分は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、エチレンなどの比較的低分子量の化合物に対する吸着性に優れている。活性化木炭は、低温炭化部分と高温炭化部分の機能や役目を相乗的に発揮させることができる。
〔活性炭〕
活性炭は、気体または溶液中の溶質などに対して強い吸着能を示す炭素質の物質であって、木炭などを賦活することにより得られるものである。賦活方法としては、例えば、水蒸気賦活、薬品賦活その他の方法が挙げられる。
【0019】
特に針葉樹由来の木炭を原料とする活性炭は、比表面積が大きく、VOC吸着特性に優れる炭含有繊維を得ることができるため、好ましい。
水蒸気賦活は、例えば、1000〜1200℃において木炭などの原料に水蒸気を通じて行う。
薬品賦活は、例えば、木炭などの原料を乾燥後粉砕し、塩化亜鉛、リン酸、亜硫酸、アルカリなどの溶液に浸し、次いで、焼成、炭化して行う。不純物は水洗、除去しても良い。
その他の方法としては、例えば、木炭などの原料を、空気、二酸化炭素、塩素ガス中で加熱し、原料の一部を酸化する方法、炭を減圧下に強熱する方法、赤熱した炭を水、硝酸中に浸す方法などが挙げられる。
【0020】
<バインダー>
本発明に適用できるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、メラミン系バインダー、シリコーン系バインダー、アクリル系バインダー、ポリエステル系バインダー、ポリウレタン系バインダーなどが挙げられ、シリコーン系バインダー、アクリル系バインダーを適用すると優れたガス吸着除去能が得られるため好ましいが、特に、シリコーン系バインダーとして、RTVシリコーンゴムが好ましく用いられる。
RTVシリコーンゴムは、ガス透過性の大きな高分子として知られており、具体的には、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、SBRゴム、NBRゴムなどの一般の有機ゴムやポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、セルロース系高分子などのポリマーに比べて、極めてガス透過性が大きい。本発明は、炭粉とバインダーからなるコーティング剤であり、バインダーの皮膜によって炭粉表面の微細孔がある程度覆われてしまい、炭粉が本来有するガス吸着除去能を低下させてしまうのはやむを得ないところであり、このガス吸着除去能の低下を少しでも抑制する為には、RTVシリコーンゴムの如きガス透過性に優れた材料を用いることが好ましいのである。
【0021】
RTVシリコーンゴムには一液型と二液型があり、硬化タイプとしては縮合型、付加型に分類できる。RTVは室温硬化(Room Temperature Vulcanizing)の略であり、架橋反応により硬化し、シリコーン皮膜を形成する。RTVシリコーンゴム組成物としては各種のものが知られており、代表的なものとしては、分子鎖末端に水酸基を持つオルガノポリシロキサンに、メチルトリメトキシシランなどの架橋剤と、有機チタン化合物やチタンキレート化合物などの触媒を添加した組成物が挙げられる。
特開平5−202338には、(A)一分子中にけい素原子に結合するアルケニル基を少なくとも2個有し、25℃における粘度が300センチストークス以上のオルガノポリシロキサン、(B)一分子中にけい素原子に結合した水素原子を3個以上含むオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)硬化触媒を含む配合物を乳化剤の存在下、水にエマルジョン化して調製されたシリコーン水性エマルジョンよりなる組成物が開示されている。このような水系エマルジョンタイプのRTVシリコーンゴムは、有機溶媒を使用しないので作業時の安全性に優れ、環境への影響が少ないことから、本用途のバインダーとして適している。
【0022】
シリコーン皮膜は各種被処理物への接着性が良好である上、反発弾性、ストレッチバック性などに優れ、例えば、ニットに処理するとフィット感を高め、また、織物に処理すると張りのある風合いが得られるという特徴を有している。そのため、RTVシリコーンゴムを本発明のバインダーとして使用すると、炭粉を被処理物によく接着し被処理物の伸びに追従するとともにごわごわしないソフトな風合いを得ることができるため、衣料としての用途にも好適である。
<コーティング剤>
本発明のコーティング剤は、上記炭粉と上記バインダーを含むスラリーからなるが、ここで、炭粉とバインダーとの含有比率は重量基準で5:1〜1:5であることが好ましい。炭粉の量がこの範囲より少なくなると、炭の表面がバインダーに埋没してしまい、ガス吸着除去効果が発揮されにくくなる。また、炭紛の量がこの範囲を超えると、被処理物に対する接着性が不充分となり、炭粉が被処理物から脱落し易くなる。より好ましくは、3:1〜1:3であり、さらに好ましくは、2:1〜1:2である。
【0023】
一方、本発明のコーティング剤における炭紛は、上記活性化木炭の粉に活性炭の粉を配合してなるものである。前に述べたとおり、本発明で使用する活性化木炭は吸着物質を放出、分解する作用があるため、活性化木炭の微細孔に吸着物質が詰まって吸着能が低下することが防げ、長期間にわたって安定した吸着除去性能を持続できる。そして、活性炭は、従来常識によれば、吸着除去性能の持続性、即効性に欠けるとされているけれども、活性化木炭と組み合わせて使用した場合には、活性化木炭の有する吸着除去性能やその持続性を維持しながら、吸着除去性能の即効性を更に向上させることができるという性質を有することが、今回、本発明者によって明らかとなった。このことから、吸着除去性能の即効性を重視する場合には活性炭の配合量を多くし、吸着除去性能の持続性を重視する場合には活性炭の配合量を少なくすると良い。ただし、前記活性炭の配合割合が、活性化木炭100重量部に対して、10〜900重量部であることが好ましい。活性炭の粉の配合割合が、活性化木炭の粉100重量部に対して900重量部を超える割合であると、吸着と放出、分解の継続性(持続性)に欠けるおそれがあり、また、10重量部未満の割合であると、吸着除去性能の即効性が充分に発揮できなくなるおそれがある。
【0024】
本発明のコーティング剤には、本発明の効果を害しない範囲で、必要に応じて、造膜助剤、増粘剤、分散剤、レベリング剤、消泡剤などの従来公知の添加剤を添加することができる。
<コーティング剤の用途>
本発明のコーティング剤が処理される被処理物としては、ポリエステル繊維、アクリロニトリル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維などの合成繊維、レーヨン、ベンベルグなどの再生繊維や絹、木綿、麻、羊毛などの天然繊維、あるいは、それらの混用繊維からなる織物、編物、不織布、人工皮革などが挙げられる他、紙、木材、フィルム、シート、プラスチックなども挙げられる。より具体的には、本発明のコーティング剤は、例えば、エアコン、換気扇などに用いられるフィルターにコーティングして、ガス吸着除去性を付与することができるし、また、VOC吸着除去性能に優れている点を生かして、VOC規制の厳しい建築用途、自動車用途に利用することもできる。
【0025】
本発明のコーティング剤は、前記の如き被処理物に含浸させることができるが、ここで、被処理物に対する前記コーティング剤の含浸量は、例えば、炭粉の純分基準で被処理物に対し1〜50重量%であることが好ましい。含浸量が1重量%より少ないと充分なガス吸着除去効果が得られなくなるおそれがあり、50重量%を超えると風合いが硬くなるおそれがあるため好ましくない。
さらに、本発明のコーティング剤は、前記の如き被処理物の表面を被覆することができるが、ここで、被処理物に対するコーティング剤の被覆量は、例えば、炭粉の純分基準で被処理物に対し1〜50g/mである。被覆量が1g/mよりも少ないと充分なガス吸着除去効果が得られなくなるおそれがあり、50g/mを超えると風合いが硬くなるおそれがあるため好ましくない。
【0026】
前記含浸および表面被覆は、例えば、パッドドライ法、浸漬法、捺染法などによって行うことができる。また、例えば、ロールコーターやフローコーターなどのコーティング法、スプレー法、はけ塗りなどによって、含浸させずに表面被覆のみを行ってもよい。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と、「リットル」を単に「L」と記すことがある。また、「重量%」を「%」と記すことがある。
実施例および比較例における、測定方法および評価方法を以下に示す。
<最大粒径>
炭粉の最大粒径はマイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製)により測定した。
<平均粒径>
炭粉の最大粒径はレーザー回折・散乱式粒度測定装置「SKレーザーマイクロンサイザー」(セイシン企業社製)により測定した。
【0028】
<ガス吸着除去性能とその持続性>
ガス吸着除去性能とその持続性の試験に供する処理布は、ポリエステル100%加工糸織物布(目付け:140g/m)を後述する実施例および比較例で得た各コーティング剤に浸漬したのち、マングルで絞り(絞り率95.3%)、100℃で3分間乾燥することにより得た。
(ガス吸着除去性能)
得られた処理布1gを1L容三角フラスコに入れた後、さらに下記の対象ガスを下記割合で導入して密閉し、20℃にて、30分、1時間、2時間および24時間放置後に、北川式ガス検知管を使用して残留ガス濃度を測定した。
【0029】
対象ガス:トルエン 初期濃度1800ppm
ホルムアルデヒド 初期濃度 25ppm
吸着除去率=(初期濃度−残留ガス濃度)÷初期濃度×100
(持続性)
得られた処理布1gを1L容三角フラスコに入れた後、さらに上記した対象ガスを上記の割合で導入して密閉し、20℃にて、10時間放置したのち、処理布を試験環境から取り出して14時間放置した。この操作を2回繰り返した。試験前後の重量変化から処理布に残留する対象ガスの割合を求めた。
<摩擦堅牢度>
摩擦堅牢度は、上記処理布を用いて、JIS L−0849に規定された繊維製品の摩擦に対する染色堅牢度の試験に準じて測定した。
<風合いおよび加工布の品位>
風合いについては、各処理布を相対的にソフトな感触であるか、または、硬い感触であるかを指触感にて判定した。
【0030】
加工布の品位については、各処理布を相対的に生地表面のイラツキ具合を目視により判定した。
〔実施例1〕
活性化木炭の粉(商品名「CT−21」、日の丸カーボテクノ社製、最大粒径1.0μm、平均粒径0.2μm)のスラリー(活性化木炭の粉の含有量20%)25%、活性炭の粉(最大粒径1.0μm、平均粒径0.6μm)のスラリー(活性炭の粉の含有量20%)25%、RTVシリコーンゴム(商品名「KT−7014」、高松油脂社製、不揮発分40%)25%、水25%を配合することにより不揮発分20%のコーティング剤A1を得た。前記コーティング剤A1における炭粉とバインダーの含有比率は1:1であり、活性炭の粉は、活性化木炭の粉100部に対して100部の割合で配合されている。
【0031】
〔実施例2〕
活性化木炭の粉(商品名「CT−21」、日の丸カーボテクノ社製、最大粒径1.0μm、平均粒径0.2μm)のスラリー(活性化木炭の粉の含有量20%)12.5%、活性炭の粉(最大粒径1.0μm、平均粒径0.6μm)のスラリー(活性炭の粉の含有量20%)12.5%、RTVシリコーンゴム(商品名「KT−7014」、高松油脂社製、不揮発分40%)50%、水25%を配合することにより不揮発分25%のコーティング剤A2を得た。前記コーティング剤A2における炭粉とバインダーの含有比率は1:4であり、活性炭の粉は、活性化木炭の粉100部に対して100部の割合で配合されている。
【0032】
〔実施例3〕
活性化木炭の粉(商品名「CT−21」、日の丸カーボテクノ社製、最大粒径1.0μm、平均粒径0.2μm)のスラリー(活性化木炭の粉の含有量20%)25%、活性炭の粉(最大粒径1.0μm、平均粒径0.6μm)のスラリー(活性炭の粉の含有量20%)25%、シリコーン樹脂(商品名「BY22−826EX」、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、不揮発分45%)22.2%、水27.8%を配合することにより不揮発分20%のコーティング剤A3を得た。前記コーティング剤A3における炭粉とバインダーの含有比率は1:1であり、活性炭の粉は、活性化木炭の粉100部に対して100部の割合で配合されている。
【0033】
〔実施例4〕
活性化木炭の粉(商品名「CT−21」、日の丸カーボテクノ社製、最大粒径1.0μm、平均粒径0.2μm)のスラリー(活性化木炭の粉の含有量20%)25%、活性炭の粉(最大粒径1.0μm、平均粒径0.6μm)のスラリー(活性炭の粉の含有量20%)25%、アクリル樹脂(商品名「ボンコートR−3360」、大日本インキ化学工業社製、不揮発分45%)22.0%、水27.8%を配合することにより不揮発分20%のコーティング剤A4を得た。前記コーティング剤A4における炭粉とバインダーの含有比率は1:1であり、活性炭の粉は、活性化木炭の粉100部に対して100部の割合で配合されている。
【0034】
〔比較例1〕
実施例1において、活性化木炭の粉のスラリー(活性化木炭の粉の含有量20%)25%、活性炭の粉のスラリー(活性炭の粉の含有量20%)25%に代えて、活性化木炭の粉のスラリー(活性化木炭の粉の含有量20%)50%のみを用いたこと以外は、同様にして、コーティング剤B1を得た。
〔比較例2〕
実施例1において、活性化木炭の粉のスラリー(活性化木炭の粉の含有量20%)25%、活性炭の粉のスラリー(活性炭の粉の含有量20%)25%に代えて、活性炭の粉のスラリー(活性炭の粉の含有量20%)50%のみを用いたこと以外は、同様にして、コーティング剤B2を得た。
【0035】
〔比較例3〕
実施例1において、活性化木炭の粉のスラリー(活性化木炭の粉の含有量20%)25%、活性炭の粉のスラリー(活性炭の粉の含有量20%)25%に代えて、木炭の粉(紀州備長炭微粉末、商品名「紀州UGW−03」、日の丸カーボテクノ社製、最大粒径5.0μm、平均粒径2.8μm)のスラリー(木炭の粉の含有量20%)25%、活性炭の粉のスラリー(活性炭の粉の含有量20%)25%を用いたこと以外は、同様にして、コーティング剤B3を得た。前記コーティング剤B3における炭粉とバインダーの含有比率は1:1であり、活性炭の粉は、木炭の粉100部に対して100部の割合で配合されている。
【0036】
〔結果〕
各実施例、比較例のコーティング剤について、上述の方法により、ガス吸着除去性能を測定し、結果を表1に示した。また、参考として、摩擦堅牢度、風合いおよび加工布の品位についても上述の方法により測定、評価し、結果を表1に併せて示した。
さらに、各実施例、比較例のコーティング剤について、トルエンの吸着除去性能を示すグラフを図1に、ホルムアルデヒドの吸着除去性能を示すグラフを図2に、それぞれ示した。図中、実施例を実線で示し、比較例を破線で示している。
【0037】
【表1】

【0038】
表1において、活性化木炭の粉に活性炭の粉を配合した実施例1〜4のコーティング剤A1〜A4を、活性化木炭の粉のみを用いた比較例1のコーティング剤B1、活性炭の粉のみを用いた比較例2のコーティング剤B2と比較すると分かるように、活性化木炭に活性炭を配合することによって、活性化木炭単独の場合と同等程度のガス吸着除去性能とその持続性が得られ、また、活性化木炭単独の場合よりも吸着除去性能の立ち上がり時間が格段に短縮されている。具体的には、実施例1〜4のコーティング剤を用いた処理布が、一旦ガスを吸着した後も、ガス雰囲気から取り出すと、ガスが放出あるいは分解され、再び吸着除去能を発揮することができ、したがって、吸脱着を繰り返し行う能力が高い、ということが持続性試験から分かる。また、30分や1時間という短時間で優れた吸着除去性能を発揮していることも分かる(図1,2参照)。
【0039】
活性化木炭の粉と活性炭の粉を併用した実施例1〜4のコーティング剤A1〜A4を、木炭の粉と活性化木炭の粉を用いた比較例3のコーティング剤B3と比較すると分かるように、通常の木炭ではなく活性化木炭を用いることが、ガス吸着除去性能とその持続性および即効性の点で重要であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明にかかるコーティング剤は、様々な被処理物に対してガス吸着除去性を付与することができ、例えば、エアコン、換気扇などのフィルターなどのコーティングに好適に利用でき、また、VOC規制の厳しい建築用途、自動車用途において建材や自動車の内装材などのコーティングに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】各実施例、比較例におけるコーティング剤のトルエン吸着除去能とその時間的変化を示すグラフである。
【図2】各実施例、比較例におけるコーティング剤のホルムアルデヒド吸着除去能とその時間的変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭粉とバインダーを含むスラリーからなるコーティング剤であって、前記炭粉が下記工程を経ることにより得られる活性化木炭の粉に活性炭の粉を配合してなることを特徴とする、炭粉含有コーティング剤。
木材チップを450〜550℃で熱処理して炭化させる低温炭化工程と、
前記低温炭化工程に引き続いて、前記木材チップの炭化物を800〜900℃、3〜60分で熱処理して、さらに炭化させる高温炭化工程と、
前記高温炭化工程の終了時点で、前記炭化物に水を接触させる活性化工程。
【請求項2】
前記炭粉が最大粒径100μm以下および/または平均粒径30μm以下である、請求項1に記載の炭粉含有コーティング剤。
【請求項3】
前記バインダーがシリコーン系バインダーまたはアクリル系バインダーである、請求項1または2に記載の炭粉含有コーティング剤。
【請求項4】
前記バインダーがRTVシリコーンゴムである、請求項1から3までのいずれかに記載の炭粉含有コーティング剤。
【請求項5】
前記炭粉とバインダーの含有比率が重量基準で5:1〜1:5である、請求項1から4までのいずれかに記載の炭粉含有コーティング剤。
【請求項6】
前記活性炭の配合割合が、活性化木炭100重量部に対して、10〜900重量部である、請求項1から5までのいずれかに記載の炭粉含有コーティング剤。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれかに記載のコーティング剤を被処理物に含浸してなるコーティング物であって、被処理物に対する前記コーティング剤の含浸量が炭粉の純分基準で被処理物に対し1〜50重量%であることを特徴とする、炭粉コーティング物。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれかに記載のコーティング剤を被処理物の表面に被覆してなるコーティング物であって、被処理物に対する前記コーティング剤の被覆量が炭粉の純分基準で被処理物に対し1〜50g/mであることを特徴とする、炭粉コーティング物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−209327(P2009−209327A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56595(P2008−56595)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(597021369)日の丸カーボテクノ株式会社 (12)
【出願人】(000169651)高松油脂株式会社 (8)
【Fターム(参考)】